『かわいくなっちゃってまぁ』
にへら、と顔が崩れる。想い人にいわれて嬉しくない訳がない。入学初日からここまで幸せで良いのだろうか?
もしかしたら某ジブリキャラの真似をしただけなのかもしれない、が。
そんな冗談で茶化せるほど、変わったということかもしれない。私も、一夏も。
小さい頃と較べ、うん、男前になってた。中身はアレだが、まだ許容範囲内だ。
漱石先生に倣い満月の夜に告白したが、結果、酷く愚駄愚駄に終わったあの頃を思い出せばそのくらい……駄目だ顔のにやけが止まらない。
この時、当のICKはどちらかと言えば、『スモークちーちく食べたい』などと感じながら英国淑女と男版ジャンヌを見ており、箒のにへら顔ダブルピースを見てはいなかった。見ていればSUN値直送モノである。間違えたSAN値だ。RXにでもなるのか。
(知り合いになったときもそうだ、男女男男女女男女男女と、からかわれていたところをアイツは助けてくれた)
恋する乙女のフィルターは恐ろしいもので、色々と事実が脚色されていても違和感を感じないのだ。殆ど病気である。
まぁ、病気は治療すれば完治するものである。例え今の彼女にとって荒療治であろうとも。
「食べちゃうぞ(バターたっぷり塗り付けて)」
「早く席まで戻らないと『クラウザーさん』するぞ」
呆けていた私に一夏から『いただきます』発言。なんだ、何があったというのだ。
夫に求められれば受け入れるのは妻(私)の勤めであるが、流石に人目があるようなところでするのは恥ずかしい。
その時モッピーに電流走る、カイジやアカギ的な意味合いではなく恋愛的な方面で、多分。
(そうだ、先ず恋愛のステップは焦らすのが肝要。少女マンガの如く、さりげなく感情のすれ違いを演出し、つかず離れずの恋と愛の遍歴を紡ぐのだ。ありがとう秋〇枝先生)
色々とチョイスがズレてはいるが、煩悩丸出しの顔を晒すよりは健全な考えである。ただ考えが纏まってないのに、テンパって相手が引かなければ、であるが。
(言ってしまった言ってしまった。逢引、逢瀬、Date。誘ってしまった)
ふしだらな女と思われなかっただろうか。誰にでもふらふら着いていく貞淑さのかけらもない淫売扱いされないだろうか。
そう淑女に殺されそうな思案にくれる箒であるが、既に想い人に『駄目だこいつ俺が何とかしないと』と考えさせており、その思案は周期遅れのそれであることを彼女は知らない。
何故か織斑先生が生暖かい笑顔でこちらを見ている。やはり、可愛い弟をたぶらかすような不埒者に鉄槌を降そうとでもいうのだろうか。脂汗が一筋流れる。
(いやしかし此処は退けぬ、何時の日か織斑先生と茶の間で『彼が毎晩大乱闘で困っちゃうんです』と軽口を叩く夢を実現させるまでは)
この彼女、一応弁護するなら普段はここまでの変態淑女ではない。ただ好きな人の前では斜め前の行動、もしくは後ろ斜めに立体移動してしまうのだ。猟兵もかくやというくらい。
気がつけば、クラス代表選出の話が出ていた。
(クラス代表、なるべきか。いや、専用機持ちもいるようだし今回は見送るか)
ふと、一夏を見る。幾つか質問をしていた。
そういえば昔から知らないことをそのままにはしない奴ではあった。妙なところでマメなのだ。
(そのせいか毎年手紙やら贈り物があった。政府からは何も言われなかったが、何かしたのだろうな)
不意に込み上げた赤心に戸惑いつつ、彼の性格を思い出す。
何事においても、相手が居れば常に全力で剛速球を投げてくる奴だ。しかもツーシームで。
久しぶりに彼に挑みたい。例え錆びていても、磨けばすぐに光る奴だ、私も手伝おう。
そうだ、せっかくだから放課後に剣道場に連れて行こう。少し前に剣道から離れたと言っていたが、多分一夏のことだ、ブランクなぞすぐに感じなくなるだろう。
小学の時、僅かの期間で 私に勝つようになった、あの織斑一夏ならば。
そう考えながら、彼女は挙手する。他に同じ考えをした者が二人いたことを知らずに。
オレは悪くぬぇ!悪いのは携帯近くにあった以下略が(ry