「あっ」
彼が手を挙げたのにつられて、つい挙手をしていました。それが恥ずかしく、彼の視線から目を背けたまま。
(はしたない娘と思われたでしょうか。まさかクラス代表のそれとは知らないで)
後悔先に立たず、来週の月曜に選抜試験が行われる次第になりHRは終わりました。
「お互いにベストを尽くそう」
気付けば放課後、周りはもう一人の男性操縦者が剣道場に行くのを見物に行ったようで、居たのは彼と私、他に数名と限られた人数のみ。
(本来ならば、彼にも色々聞きたいことはある筈、気を遣われましたか)
「ええ、簡単に負ける積もりはありませんので。そちらも手加減なきよう」
「うん、一夏じゃないけど勝つから、絶対に」
そういうと彼は端整な風貌をわざと崩した。それでも絵になるのは神様なりの皮肉だろうか。
(その想いを誰に向けるのでしょうか。わかっていても歯痒いだけ、ですが)
恋慕は儘ならないもの。特にそれがはじめてのなら尚更。だからこそ到底納得出来るものではなく。
「一つ、よろしいでしょうか」
「何?」
言葉に詰まる。好いた女性の為ですか、と出しかかった言葉を飲み込む。出したが最後、聞きたくない事実を聞いてしまいそうで、堪えられなくなりそうで。
「どうしたの?」
彼の顔色も徐々に青みがかかっていた。夕日が落ちていくように少しずつ。
彼の恋路を邪魔する気はない。そもそも自分の気持ちは横恋慕みたいなものだ、なのに。
(なんでもないと、軽く応える事も出来ないのでしょうか。この、セシリア・オルコットが)
あれは刷り込みだ、一過性の麻疹みたいなものだ。そう言い聞かせても止まらない鼓動を恨みながら、声音を吐き出す。
「少し、お聞きしたいことがありまして」
数年前の自分が見たらなんと謂うだろうか、今の自分の姿を、ただ一人の男子に対し話しをするだけで震えてしまう自らを。そう自問自答する。
かつて二人のお嬢様とお付きがおりました。
お嬢様と周りから囁かれる彼女には親しい存在がいませんでした。いえ、出来なかったともいいましょうか。彼女自身に大きな問題は特に、少々子供にしては矜持が高いことを除いては概ね令嬢として不足はありませんでした。
学友とも、令嬢の家格に合わせたお付き合いをしており、英国貴族として恥ずかしくないようマナーについても気を遣いました。一桁に満たない齢でといわれますが、一個人ならともかく家督を継ぐ責任は古来より重きもの。何より彼女は生来の責任感の強さがありました。
オルコット家のジンクスといえますか、直系に男子が出ない。それらもあったかもしれません。現に父は婿養子でした。
彼女にもいずれ伴侶ともいうべき存在が訪れる。信頼のおける外戚がいない家にとっては慎重に為らざる得ないことでもありました。
ある日、オルコット家に一人の男の子がやってきました。歴史的に見て、百年戦争して第三国で代理で喧嘩してその国に喧嘩売られて負けそうになったらヘルプミーしてくる国の子供でした。よくいう大人の事情があるとか。
両親が話すには仕事上の相棒の息子、ただし嫡男ではないと。妾妾妾の子と。言われた時は何が何やらといえましたが。
男親同士は竹馬の友といってましたが、嫁の間はなんともいえない空気があったそうな。
ともかくそんな二家の子供二人、最初の出会いは形容しがたいものでした。
『御機嫌よう、お嬢様。とりあえず、その……嗚呼煩い縦ロール』
『享楽主義の快楽中毒(エロテロリスト)。そちらの事で』
大層仲はよかったそうな。
すいません、次回に続きます。