二日目 昼
遠い夢を見ているようだった。記憶の水底に沈んでいったはずの、悲しい思い出。
小さな男の子は、生まれながらにしてあることを宿命づけられてきた。魔術師として生き、魔術師として死んでいくこと。彼がこれから先抱くであろう幸せすら捨てて。
彼は周りから祝福されて生まれてきた。否、この世界に産んでくれた母親を除いて。
『貴方なんて産まなければよかった』
呪いの言葉だった。彼の輝かしい道が途端に崩れた瞬間だった。
おおよそ彼に、魔術師としての才能があったかと言えばそうではない。どこまでも凡夫だった。花を美しいと思え、愛犬の死を尊ぶこともできる優しい子だった。
彼の母はいつも泣いていた。一人夜にすすり泣いていた。彼女の悲しみを癒してやれる者などおらず、彼女は次第に壊れていった。
時に、地獄はどこにあるのか。という問いをされたとして、多くの人は死後の世界だと語る。だが彼の答えは違った。
地獄など目の前にある。
その日は葬式だった。兄の、姉の、妹の、弟の。一度も会ったことのない
母は変わらず泣いていた。父は変わらず怒っていた。
彼が五歳を迎えるとき、悲劇は起こった。母はベッドの上で死んでいたのだ。彼のことを一度も愛さず、彼のことを一度も抱きしめないまま、彼女は毒を飲んで死んだ。
父は冷酷な人だった。
いつも彼を殴り、蹴り、体中が痣になるまで魔術の特訓を受けさせられていた。
床にこべりついている血反吐の跡。ここはきっと自分が来るよりもずっと前に誰かがいたのだ。
彼は十歳になった。
あの父の過酷な修行で生き残ったのだ。父は珍しく喜んでいた。
『これでようやく移植が出来る』
あの人はそう言った。
父とともに彼は地下室に向かっていた。だが、彼の手を誰かが掴む。
『お止めください! どうか──様だけは!』
──誰かは分からない。だけど、とても優しい人だった。
地獄は、まだ続いているのかもしれない。
朝陽は固いソファーの上で目を覚ます。時刻は午前十時。あの夜の出来事から六時間程度しか経っていない。
──まったく、妙な夢を見たものだ。
誰の記憶なのか検討もつかない。彼の身体は綺麗なもので痣などまるでない。
それに、地獄などどこにも無い。ただ少し痛んだ安っぽい部屋が広がっているだけだ。
この部屋は、アルテシアに貸し与えられたものだ。返せとは言われていないが、綺麗に使えとは言われた。どうやら彼女は綺麗好きらしい。
彼女からは本当に多くの情報を得た。
まず初めに、現在勝ち抜いている陣営は六つ。それぞれ名の有る騎士や戦士だという。特に注意すべきは無精ひげを生やした男らしい。
彼女たちも言っていた通り、表立って動けない。それぞれの陣営がどんな英霊を擁しているのかまでは、預かり知るところではない。この一騎を除いて。
そのサーヴァントの名は、円卓最強の騎士との呼び声が高いランスロットだった。
彼は馬を駆り、
次にこの右手の痣。これは
そして最後にサーヴァントが召喚された際に属するクラスの特徴を彼女は教えてくれた。
まずは朝陽のサーヴァントが属するランサー。読んで字のごとく、槍を使い活躍した英霊がこのクラスに召し上げられ、敏捷性に長けている者が多い。
次にセイバー。これも比較的分かりやすい、剣を使って活躍した英霊が当てはまる。扱いやすい能力と強力な宝具を有するため最優のサーヴァントと呼ばれ、召喚すれば限りなく勝利に前進する。
次にアーチャー。弓、銃、または物を投げつけた英雄であればこのクラスに属する。単独行動というスキルでマスターが離れているもしくは、マスターからの魔力供給が行われずとも、二日は現界出来る。
これが主要な三騎士。どれも強力な英霊が多く、聖杯戦争終盤まで勝ち残っているのは、三騎士であることが多い。実際に周回しているサーヴァントは三騎士がほとんどである。
続いて、ライダー。高い対魔力と、絶大な宝具を持つことが特徴とされるクラスであり、何かしらに騎乗した伝説、武功があればこのクラスに属す。剣、騎乗槍を持っていることから、騎乗する前はランサー、セイバーに間違えられるケースも多々ある。
そしてマスターの天敵とされるアサシン。暗殺の伝説があるならばこのクラスに属し、また気配遮断というクラススキルを保有する。直接的な戦闘は他クラスより劣っているとはいえ、気配遮断を駆使すれば、マスターをいともたやすく殺すことが可能だ。
次にキャスター。魔術、錬金術に秀でた者が召し上げられることが多く、過去の有名な作家たちも召喚することが可能だ。クラススキルの陣地作成と道具作成で自分に有利な状況、場所を創り出し、搦め手を多用するクラスでもある。
最後に、聖杯戦争において最も厄介になるクラス。それがバーサーカーだ。これと言った伝説がなくとも、英雄の道や人間の常軌を逸している者が、クラススキル狂化によって、理性と引き換えにサーヴァントとしての能力を底上げされ召喚される。故に人の話を聞かない者も多く、意思疎通が可能であったとしてもひとたび戦争が始まれば、敵を屠るまで止まらない狂戦士が属するクラスである。
思い返せば、あのスーツの男も、和服の男もサーヴァントだった。
あの二騎は一体どこのクラスに属するのか。
一人はセイバー、果たしてもう一人は。いや、例外はいつだって存在している。剣を使うキャスターや、正面から戦うアサシンだっているだろう。
特にこの聖杯戦争、あらゆる可能性を思議しなければならない。
今のところ、情報が少なすぎる。朝陽は身体を起こそうとしてソファーから無様に転げ落ちる。彼が想定していたより肉体が披露していたのだ。
「何やら大きな音がすると思ったら、なんだお主が寝ぼけてソファーから落ちたのか」
ランサーの声がする方向を向くと、逆さの世界で彼女は何の恥ずかしげもなく堂々と裸だった。
「なっ! あんた服はどうした!」
朝陽が猫のように飛び起きて必死に目を逸らし、彼女の裸体を視界に入らないようにするが、彼女は自らの素肌を隠すつもりなどこれっぽっちもないようだ。
「おっと、すまぬな。なに、生きた人間と暮らすのは久し振りでな、ついうっかりとしてしまった」
ほんのりと高揚した頬に濡れた髪。彼女がシャワー上がりなのは明白だが、服を着ないで男性の前に現れる女性がどこにいる。
ランサーは意地悪な笑みを浮かべながら、ぱちんと指を鳴らして服を着て、長い髪と身体を瞬時に乾かす。
「ふむ、急ぎ拵えたにしては上出来よな。お主、どう思う?」
朝陽はおそるおそる視線を彼女の方向へと戻すと、身体のラインがはっきりと分かるセーターとジーンズを履いていた。あの戦装束よりは目立つことはないが、それでも彼女の美貌ならばすれ違った男性の視線を独り占めしてしまうだろう。
「……ふ、服を作るのはすごいと思う」
彼は素直に感想を言った。
しかし、ランサーが求めているのはその感想ではない。
「たわけ! 誰が魔術のことを褒めろと言った! 似合っておるのか、そうではないのか申せ!」
朝陽は彼女が求めている感想の意図がようやく理解できた。女性が着た服を似合っていると言われたいのは二千年生きても同じなのだ。
「すっ、すまん。よく似合っているよ、ランサー」
彼が謝り彼女の服装を慌てて褒めると、心なしか彼女は満足気だった。
「そら、手を貸してやる。いい加減床から背中を剥がせ」
身体の感覚にだいぶ慣れていたが、それでも彼一人ではまだ立ち上がれることすら難しい。彼女の差し出された手を取って、朝陽は立ち上がる。
「まったく。女の扱い一つ知らんとは、呆れた奴め」
女性の扱いが上手くないのはきっと記憶がないからに違いない。そうだと信じている。
朝陽はソファーに座り直すと、ランサーは腕を組み話し始める。
「マスターとなったお主に教えておかねばならぬことがいくつかある。心して聞けよ」
真剣な表情をしたランサーの言葉に朝陽は固唾を飲んだ。
「まず、儂は元のマスターの契約を一方的に切った話はしたな?」
朝陽はこくりと頷く。
「儂はな、その行為の罰として聖杯から制裁を下された。かいつまんで説明すると宝具は二度までしか使えんようにされてしまってな」
宝具。あるいはその者の伝説を昇華したものであり、あるいはその者が生前や伝説の中で使っていた剣や槍と言った武具であり、あるいはその者自体でもある。
英霊にとっては己を己と定義するものであり、マスターにとっては聖杯戦争における切り札の一つなのだ。朝陽も宝具のことはアルテシアに説明を受けている。
その宝具が二度までしか使えないのは、この勝ち抜きの聖杯戦争において最も不利な条件だと言って差し支えないだろう。
「それって不味いんだろ!?」
せっかく座り直したソファーから朝陽は思わず立ち上がり、ランサーを問い詰める。
「そんなに息を荒げるな。儂のようなサーヴァントならばまず、白兵戦で打ち負ける事は有り得ん。宝具の有無を差し引いてもただのサーヴァントならば仕留めるのも容易い。そもそも、いざとなれば奥の手も用意しておる。だから安心しろ。ここで儂からの提案なんだが──」
そう言ってランサーは人差し指を朝陽の眼前に立てた。
「宝具使用のタイミングの一度はお主に預け、もう一度は儂の判断で打つというのはどうだ?」
たしかに、戦いのことが何も分かっていない彼では、宝具をここぞというタイミングで有効的に発動できない可能性もある。
ならば一度をマスターとしての面目を保つために彼の意志で撃たせ、もう一度は歴戦の勇士である彼女に任せるのが無難だ。
「分かった、それでいこう」
朝陽も彼女の意見に賛成だった。そしてもう一つ彼に言わなければいけないことがある。
「うむ。それともう一つ儂は他のサーヴァントのように霊体化は出来ない」
霊体化。サーヴァントの肉体は魔力の塊エーテル体で構成されている。ひとたび霊体化すれば他者には見えず、正体の判断を遅らせることができ、無駄な魔力を使わずに済む。
もちろん、霊体化の言葉自体アルテシアから教えてもらった。
「だが安心しろ、朝陽。この
そういうことなら。と落ち着いた朝陽はソファーに座る。
「しかしな、ひとたび戦闘に入ればこの効果はたちまち失せてしまうのだ。昼の間は儂もこの姿でいる、お主が案ずることなど何もない」
ランサーも手首に巻いてあるブレスレットに視線を向ける。この小さなものにそれだけの効果があるとは思えないが、彼女の魔術は本物だ。その腕を疑う余地など有はしない。
「次にお主、服を脱げ」
「え?」
彼女は唐突に真面目な顔をして恥ずかしさの欠片もなくそう言った。朝陽は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして呆けていると、いまいち勘の鈍い朝陽に少々苛立ちながら、ランサーは問答無用に服を脱がせようとする。
「ええい、良いから服を脱げというに。上半身だけでよいぞ。女に見られるのが恥ずかしければ、後ろを向いておいてやるから早くしろ」
彼女は壁の方を向き、ため息をついて腰に手を置く。
朝陽はゆっくりと服を脱いだ。昨日からシャワーを浴びてないので体臭だけが気がかりだったが、もとより彼女は死霊や幻獣種と言った人ならざる物を相手にしているので、まったく気にしていないというのが本音だった。
「脱いだぞ……」
引き締まった身体。腹筋も適度に割れており、筋肉質な健康的な体つきをしている。
「うむ、では少し触る。我慢しろよ」
振り返ったランサーは有無も言わさず、朝陽の身体を触り、何かを確認しているようだった。彼は自分に触れている柔肌に胸を高鳴らせながら、彼女の様子を伺った。
「こっちを向け」
ランサーの指示に従い朝陽が顔を上げると両手を両頬に添えられ顔を固定される。目と目が合い、鼻先が触れ合ってしまうほど接近され、彼女の朱い瞳に吸い込まれそうになってしまう。すると彼女は一際驚いた顔をして、彼の顔をようやく離した。
「もう服を着ても良いぞ」
朝陽は理由こそ解らないが胸を撫で下ろし、ほっとして言われた通り服を着直す。
「お主について分かったことがある。座ったままでよい、心して聞けよ」
自分自身では分からない何かを明確に気付いた彼女の言葉に朝陽は記憶を探す手掛かりになればと神経を集中させた。
「まず、お主の身体には魔術師ならば誰もがある魔術刻印なるものが見当たらない」
──魔術刻印。
一口で説明するのは骨が折れるが、簡単に言えばその家代々引き継がれている魔術の結晶である。魔術回路をエンジンとし、魔力というガソリンを入れて、刻印という車を動かすとイメージしたほうが幾らか分かりやすい。
家を継ぐ者だけに刻まれる、魔術刻印は詠唱をせずとも魔力を流しただけで行使でき、本人がその魔術を覚えてなくとも発動が可能となる。
もちろん、中には刻印を受け継いでいない魔術師もいる。だがこの聖杯戦争と言う、いわば家名を上げるために行われている戦いに魔術刻印もしてない者が代表者として呼ばれるだろうか。
魔術刻印には便利な点が多く、戦闘ではその強みを如何なく発揮できるだろう。朝陽の場合、本当に何もないのだ。元から期待などされていないように。
「魔術刻印さえあれば、お主がどういう魔術師でどういう人生を歩んできたか大方掴めるのだがな。残念ながら、この線でお主の記憶を探すのは無理そうだ」
そうか。とうなだれる朝陽だったが、ランサーの話はまだ終わっていなかった。
「そう落ち込むな、なにも分からずじまいだったわけではない。お主のその眼のことだ」
彼女は、朝陽の複数の色が混じったような瞳をしている双眼を指差す。
「俺の眼……?」
ランサーは腕を組み直し、彼の問いに答えるため話し始める。
「お主のその両目。魔眼の類のものであった」
──魔眼。
これも付け加えて説明しておこう。魔眼とは、外界の情報を得るための器官である眼を、外界に働きかけることができるように作り替えられたものである。
魔眼というのは、半ば独立した魔術刻印に近いものであり、独りでに魔力を生み出し行使できるという特徴を持つ。極めて珍しい器官である。その効力は様々で、ある者は見た者を歪めたり、ある者はモノの死が見えたりと、多種多様である。
魔眼は強力であるが故にときに本人の制御下に収まらない場合もある。術者から
「良いか、その眼のことは誰にも話すでないぞ。儂とお主だけの秘密だ」
「アルテシアにもか?」
ランサーは念を押してもう一度言う。
「ああそうだ。その眼はお主にとっての武器だ。手の内を晒すなどたとえ仲間であっても容易にしてはならぬ。分かったな?」
彼女の言葉に朝陽はゆっくりと首を縦に振る。
「そうと決まれば、まずお主にルーンを教えてやらねばな──」
ぐう。となんとも気の抜けた音が部屋中に響いた。音の正体は朝陽の空腹を訴える腹からだった。
「真面目な話をしているところすまん。昨日から何も食べてなくて……」
朝陽は申し訳なさそうにそう言うと、ランサーは力が抜けたように微笑む。
「そうだな。まずは腹ごしらいをせばな。東洋のことわざにも、腹が減っては戦は出来ぬという言葉があるぐらいだからな。よし、昼食とするか」
朝陽たちはこの街の市場に来ていた。行き交う人も多く、この市場を中心にしてこの街は成り立っていると言っても過言は無い。
この度の聖杯戦争の舞台、島国エデン。聖杯戦争のためだけに作られた国、そして街。この国は完全に魔術師協会通称時計塔と大聖杯の管理下にあり、住民たちも事情を知っている本物の人間か、役職を与えられ全うするホムンクルスか、精巧に作られた人形である。
気温は常に二十度前後に設定されており、快適に過ごせるようになっている。雨の日も雪の日も、彼らの指先一つで決まる。
今日が晴れていてもいきなり雪が降り出したり、豪雨に見舞われるといったことが起こるのだ。
聖杯戦争の舞台はこの国全体なのだが、この街が中心地であるためここに陣を構える陣営も多い。もちろん、朝陽もその一人である。
朝陽は昼食を摂る前に夕食の買い物も済ませようと、市場の至る所に目線を配る。
「安いよ、安いよ! 獲れたての魚だよ! 買った買った!」
大きな声で新鮮な魚をたたき売りしている店や、
「この服は、最上級の絹で出来ておりまして。とても肌触りが良く」
一人の客に熱心に服の素材の良さを解いている者もいれば、
「お兄ちゃん待って」
「早くしろよ、置いて行くぞ」
兄弟が市場の人混みを避けて朝日の横を走り抜ける。この街はたしかに生きている。だが、疑問があった。
聖杯戦争の舞台にするのならば、わざわざ人を住まわせる意味などないだろうと。時計塔の魔術師連中が視たがっているのはあくまでも『根源』のはずだ。一体どんな真意があるのだろうか。
「おい朝陽、あの果実なんてどうだ。儂はあれが食べたい」
隣で歩ていたランサーが、果物を売っている露店を指差す。
ランサーの言う通り、一際綺麗でとても美味しそうだ。金ならば上着のポケットに少々入っている、無駄遣いは出来ないが、あの果物の味を知りたい。
朝陽も彼女の意見に賛成して、果物を買うことにした。彼らは店に近づき、果物を手に取ろうとした瞬間。別の誰かの手が朝陽と重なる。
「あっ!」
朝陽が驚いて手を離すと、黒髪の男の方も慌てて手を離す。
「申し訳ありません。とても美味しそうな果実だったのでつい」
先に男の方が頭を下げてきた。
「俺の方こそすまなかった。気にしないでくれ」
男の格好は実に奇妙なものだった。白い手袋に執事服とまるでどこかの女王か貴族に雇われているかのようだった。
朝陽はこの果物を譲るべきか、譲らぬべきか迷っていた。ランサーがどうしても食べたいと言っていたこともあり、引き下がろうにも引き下がれない。
すると、ランサーが口を開いた。
「その果実、貴方に差し上げます。元はと言えば私の我が儘で食べたいと言っただけですから」
──私? 儂じゃなくて?
いやいや、間違えているのは一人称だけではない。話し方も口調もまるで別人だ。隣にいるのは一体誰なのだ。
「良いのですか!?」
執事服の男は心の底から喜んでいるのか、ぱぁっと表情を明るくした。
「ええ。貴方もそれで良いわよね?」
ランサーのあまりの豹変ぶりに言葉を失っている朝陽だったが、ようやく我を取り戻して何度も頷く。
「あっ、ああ。大丈夫だ」
引きつった笑顔になったが、うまく誤魔化せているだろうか。
「ありがとうございます!」
男はもう一度頭を下げて礼を言った。
朝陽はランサーに袖を引かれ、今までの進行方向とは逆の方向に歩き出した。
「待って下さい!」
男に大きな声で呼び止められ、二人は思わず歩みを止める。
「ぜひお礼をさせてください。ご昼食がまだ済んでいないのでしたら、この近くの店で奢らせていただけませんか?」
だが、男の提案をランサーは朝陽と腕を組んでこう断った。
「いいえ、お気持ちだけで結構です。ごめんなさい、私、彼とデートの途中なの。それじゃあご縁があればまた会いましょう」
ランサーは淑女よろしくの慎ましい笑顔を浮かべて、朝陽と腕を組んで人混みの中に消える。
男の視線が消え、十分に離れたところで彼女はようやく腕を組むのを止める。
「なんだったんだよ、さっきの」
朝陽は当然の質問をした。まだ何も思い出せない彼からすれば、契約したサーヴァントが突然まったく知らない女性の人格に変わってしまったと錯覚してしまう。
「朝陽、儂からの忠告だ。顔の良い男と女は容易く信じるな。先ほどの男、なにか裏があると見て間違いない」
ランサーが歩きながら腕を組み、訝しげな表情をしてあの男の影を嫌うように言った。
「それってあんたも入るのか?」
朝陽は雑踏の中で立ち止まり、ランサーに真面目な顔をして問う。
ランサーが振り返ると、長い髪がふわりとなびく。彼の冗談とも受け取れる質問に対して、ほんの少しだけ呆れたように表情を緩ませる。
「馬鹿者め。儂は顔が良いだけでなく、性格も良いのだ。そういう者はいくら信じても構わんぞ」
彼女は前を向き、再び朝日を連れるようにして歩き出した。
× ×
執事服の男は、紙袋を片手にしたまま、海岸線に隣接したこの島国随一の高級ホテルの前に来ていた。フロントのホムンクルスたちを一瞥し、このホテルの最上階にある最高級スイートルームに向かうために、VIP専用エレベーターに乗り込む。
ここのスイートルームは最上階すべてがスイートルームなのだ。一泊百万はくだらず、連日宿泊となるとかなりの莫大な金額がそれだけで動く。
エレベーターの目的の階へ到着を知らせる音が鳴り、スイートルームに足を踏み入れる。そこには彼の帰りを待つ無数の使用人たちが廊下の壁際にずらりと並んでいた。
「お帰りなさいませ、執事長」
顔の整ったホムンクルスのメイドが近寄り、彼の持っている紙袋を受け取り、頭を下げて後ろに下がっていく。
「それで、我が王に変わりないか?」
彼は決して立ち止まらず外出用のジャケットを脱ぎ、メイドに預け、室内用のジャケットに袖を通す。彼の質問に他のメイドが答える。
「はい。お変わりありません。只今お部屋にて午後の読書の時間をなさっています」
男は更に一見、汚れていないように思える手袋と靴まで履き替え、主人が待つ大きな扉の前で歩を止める。
「報告ご苦労。下がって良いぞ。みないつもの業務に戻ってくれ」
彼の鶴の一声により、使用人たちはそれぞれの持ち場に戻る。そしてネクタイの緩みを正し、一回、二回とノックをした。
「エドガーです。只今戻りました」
エドガーと名乗る男は、ドアの向こうの主人の言葉を待った。
「お入りなさい」
優しい女性の声がエドガーに入室の許可を出し、彼はドアノブを握りドアを引いて部屋に入る。
見渡す限り豪華絢爛の装いをしているのだが、その中でも目を惹くのは天蓋付きのベッドだった。カーテンで主人の姿は閉ざされており、影だけが右に左に動き続けている。おそらく服を脱いでいる最中だ。
「申し訳ありません、お召し代えの最中でしたか」
エドガーは頭を下げ、今一度出直そうかと考えを巡らせていたところ、着替えている彼女が引き留める。
「いえ、良いのよ。
メイド二人に着替えさせていた彼女はようやくカーテンの袖から、すらりとした手足と美しく整った姿と顔を出す。
長く整えられた髪。目元を強調した化粧。雪のような白い肌そして肌と同じく真っ白なワンピースドレスが気品を着ているかのようだった。
「こちらにいらっしゃい。紅茶を楽しみながらゆっくりとその話を聞かせてもらうわ」
彼女は宝石などが散りばめられた豪華な椅子に座ると、メイドに紅茶を淹れるように指示を出す。エドガーは彼女の隣に立ち、街での些事を報告する。
「街自体に怪しげな仕掛けなどはしてありませんでしたが、索敵用の悪霊に人形などが至る所を徘徊していおりました。恐らくながら、キャスター陣営の仕業と見て間違いないありません。次に、おかしなマスターを一名見つけました」
最後のエドガーの言葉に、彼女の紅茶が入ったカップに伸ばした手がぴたりと止まった。
「おかしなマスター?」
止まった手を動かしてカップを掴んだ彼女が改めてそう訊くと、エドガーは──。
「左様でございます。マスターにも関わらずサーヴァントすら連れておらず、紅い瞳が目を惹く女と街を歩いておりました」
端的にエドガーが報告すると、彼女はどこか可笑しそうにくすくすと笑い始める。
「いかがなされましたか?」
エドガーの困惑した表情をしり目に、彼女は紅茶の匂いを
「気にしないで。ただ貴方が妙にその女のことを詳しく話すから、どれほどの美しさか考えてみただけよ」
エドガーは眼を見開き驚いた表情をして頭を下げる。よりにもよってこの人の前で誰かを美しいと称してしまったことは、何よりも不敬に他ならないのだ。
「いいえ、貴方様がこの世で一番美しいお方であります。貴方様の前で誰かを引き合いに出すなど、
厳罰を受ける覚悟を決めて息を飲むエドガーに、彼女はこう言い渡した。
「では罰として私を崇め奉りなさい。元より私がこの世界で一番美しいことは、私が一番良く知っているわ。でも私はまだまだ美しさに磨きをかけるつもりよ。それには他人の賛辞の言葉が必要なのよ」
彼女は艶やかな髪をなびかせて、自信満々な表情をしながら宣言した。自分こそ世の女性の頂点に立つと。たしかに彼女は健康的な肌の艶と張りと引き締まった身体に程よく膨らんだ胸をしておりまるで彫刻のような美しさをしている。
ここで、女性の美しさを敢えて定義するならば、黄金比はもちろんのこと現在で言うところの、美の定義を照らし合わせていこう。
まず、顔がいかに整っているか。一つに美男と美女の定義において、顔が平均的であることがあるという。目が離れすぎず、口が大きすぎず、鼻が低すぎず高すぎず、また潰れていないこと。
そして次に声である。一説によると人間は個人に好意を抱くとき、まず先にその人の声から発展するというものだ。どんなに顔が整っていても、発せられる声が美しくなければ一般的な価値というものは下がってしまうだろう。
特に気をつけるべきは、体型である。肥満体型では本来持っている美しさの半分の魅力すら出せてないだろう。この彼女は日々の食事にも注力しており、太らないサーヴァントの身体であっても、生前の努力を弛まない姿勢は貫き通している。
あとは性格という見えないものだが、必ずしも美しさに直結しているとは限らない。
個人の心の底の妖しさにこそ、美しさを最大限引き出せる、スパイスとなるのだ。そう、彼女はすべてにおいて一番なのだ。
「冗談はさておき。エド、貴方の方はマスターだとバレていないんでしょうね?」
彼女は横目でエドガーを嗜めるようにそう言った。
「ええ。もちろんですとも、我が王よ」
彼は左手の手袋を取ると、盾のような紋章──否、令呪がたしかに彼の手の甲に刻まれていたのだ。
彼女を召喚したのはつい先日、四日前のことだった。この聖杯戦争は特殊なルールなのだが、その中でも特異なのは召喚の際の聖遺物がなくとも、英霊が召喚できるという点だろう。聖遺物を用意しない召喚は本来ならばマスターの精神性などによって似通ったサーヴァントが呼び出されるのだが、今回は大聖杯にあえて負荷をかけてる目的のため、完全にランダムとなっている。
その結果、エドガー・セバスチャンが召喚したのは、アサシンのサーヴァントだった。
『私はファラオ、クレオパトラ。アサシンのクラスを冠するサーヴァントよ。さぁマスター、この世で最も美しく偉大な王である私に
神とも思えるほど美しさと偉大さを持つ彼女に、エドガーは何も言わず跪く。
このお方こそ、彼が待ち望んでいた永遠に忠を尽くすべき主人。不本意ながら仕えている貴族のために聖杯戦争に参加したが、参加しただけの価値はここに有った。
『私はエドガー・セバスチャンと申します、我が王よ。これより貴方様に全てを捧げ、その御身体朽ち果てるまで
セバスチャン家は代々魔術師貴族に仕える使用人を排出する一族である。魔術師というよりも、魔術使いであり、主人の剣となり盾となる存在だった。が、彼は父親の命令により、先述の通り元々仕えていた貴族の代わりにこの戦いに参加したのだ。
彼にとってまさに、運命の出会いだった。
朝陽とは違った信頼関係。主と従者という形ではあるが、切れぬ絆が二人を繋いでいるのだ。
× ×
朝陽は昼食を摂るために、噴水が中央にそびえる公園の近くにある喫茶店に来ていた。朝陽は一番安いランチセットに、ランサーはサンドイッチにコーヒーを注文し、横の椅子に紙袋を置いてテラス席にて気持ちの良い日差しを浴びながら早速ランチを頂くことにした。
「おいお主、それだけで足りるのか?」
たしかに、朝陽の食事は、二つのバターロールにベーコンエッグと世の成人男性の一度の摂取量の半分も満たせていないだろう。
「何を頼んでいいかわからなくてな。好きだったもの一つ思い出せない」
彼の脳裏を掠める誰かとともにした食事の風景。一切れのパンに冷めたスープ。必死になっていつの記憶なのか探ろうとするが、ずきりと頭が痛む。
「ッ!」
頭を押さえて頭痛が収まるのをただ待つ。何か思い出しそうだったが、あと一歩届かない。歯がゆさを感じながらも、ランサーとの会話を続ける。
「そういうあんたも、それだけで足りるのか?」
「ふむ、本来ならサーヴァントにはこういった食事の類いは必要ない」
彼女はそう言いながらサンドイッチを上品に千切り、口に運ぶ。
彼女の言う通り、サーヴァントには食事は必要ない。ますたーから送られる魔力があれば現界できるのだ。ときにサーヴァントにとって食事はマスターとの信頼関係を深める為や、生前の習慣、趣味として摂るケースが多いが、今回はどうも違うらしい。
「だが、余程儂らを戦い続けさせたいのか、これらの食べ物すべてに魔力を回復する魔術が施しているのだ。故に、食えば食うほど魔力が回復するのだ。お主から儂に供給されている魔力も十分とは言えない。つまりだな、お主はもっと食わねばならぬ。そら、このハンバーガーとやらはどうだ? とても美味そうだぞ?」
ランサーは良かれと思ってか、朝陽の了解も得ずにウェイトレスを呼び止め、彼の制止も聞かず注文する。
「それにな、食事時にまで辛気臭い顔はするな。お主の気持ちは分からんでもない。儂も二千年は生きている身でな、過去の子細などほとんど覚えてはおらぬ。それよりも大事なのは今だ。お主は過去に生きているわけでなかろう? 好きだったものを一つ思い出せぬのなら、好きだと言えるものを二つ作れば良いのだ。よいな?」
彼女の言う通りだった。過去はたしかに大切だ。だが、朝陽は過去に生きているわけではない。一番大事なのは現在なのだ。それを疎かにするならば、本末転倒もいいところだ。
自然と、朝陽の響くような頭痛は治まっていた。
しかし、これで食べられるかどうか彼自身でも分からない。大量の食べ物を胃に入れること自体を身体が拒んでいるようだった。
「それじゃあ、食べるか。何事も飯を食ってからだよな」
朝陽はひとり微笑むと、無理矢理にでもバターロールにかぶりつく。
様子を見つめていたランサーも春の日差しのように笑みを浮かべて、サンドイッチを食べ続ける。
「だけど今度から金を使う時、俺に聞いてくれよ。有り金は少ないんだ」
朝陽が意外と値が張るハンバーガーを無断で頼むというランサーの暴挙とも言える行動を咎めると、彼女は珍しくむきになって言葉を返す。
「なっ! お主も女々しい奴だな! 過ぎたことは気にするなと言っているだろう!」
「それとこれとは別だろ!」
彼らがテラス席にああでもないこうでもないと不毛な口喧嘩をしている二人に声をかけてきた意外な人物がいた。レンガ造りの町並みから浮いた、大きな紙袋を抱いている時代錯誤の和服の男。
「おっ、昨日闘った姉ちゃんじゃあねぇか。こんなところで、ますたーと楽しくお食事かい?」
ランサーと朝陽は勢いよく和服の男の方を向くと、彼女の方は睨みつけ、殺気を押し殺さず男に向けながら警戒した。
「おおっと、昼間の戦闘はご法度だぜ? それに俺もますたー殿も買い物の帰りなんだ」
和服の男がそう言うと、彼の後ろから黒髪の女性がふらりと現れる。
刀の切っ先のように凛とした目をしている彼女が、この男のマスターなのか。たしかに、彼女の右手には十字の令呪がある。
「どうしたの、セイバー……ああなるほど」
日本語を話す彼女はランサーの顔と身構える朝陽の右手を見て、一人で納得していた。
「あんたも、マスター……なのか?」
朝陽が固唾を飲み込み、黒髪の彼女を見つめながら問いかける。偶然居合わせたウェイトレスは剣呑な雰囲気を察して静かに持ってきたハンバーガーを置いて立ち去ってしまった。きっと修羅場だと勘違いしたに違いない。
「……否定はしない。そういう貴方はどうなの? 連れている女性はサーヴァントに見えないけど?」
彼女は朝陽の顔を目を細めて何かを調べるように見つめながらそう言うと、和服のセイバーが口を挟む。
「いんや、俺と戦ったのはこの姉ちゃんで間違いないぜ? どういうわけだが、今の姉ちゃんからはサーヴァントの気配は感じねぇが」
セイバーの言葉で、じっと朝陽のことを視界に留めていた彼女はランサーのブレスレットに視線を向ける。
「ああなるほど。そういうことね」
彼女は
「自己紹介がまだだったわね。私の名前は
と、継は嬉しそうににやりと口角を上げる。
朝陽が初めて出会う正当なマスター。彼が呆然としている間にも、女同士のプライドのぶつかり合いが水面下で行われていたのだった。
× ×
二日目の夜の戦闘が始まる前に、ある男のことを語っておかなければならない。
ラインハルト・ブラックウェル。彼はブラックウェルを代表する魔術師の一人だった。時計塔では名の知れた魔術師一家であり、優秀な研究者や人形師を多く輩出してきた。彼もまた、優秀な人材の一人だった。
しかし、彼は純真な少年時代で二度と立ち直れない大きな挫折を経験する。
到底魔術師としても人形師としても、決して手の届かない人物の存在が彼の自尊心を大きく傷つけた。
彼は正道から急激に歪んでいった。身寄りのない少女の一部分を人形に改造するなど、非人道的な研究を成功するまで繰り返した。果ては処女の女性を生贄とし、人形にこの世ならざる者の魂を入れようと画策していた。
だが、彼はブラックウェル家の息子としてだけ評価されていた。誰も彼の実験も彼自身のことも正当に評価しなかった。
そしてラインハルトは、この聖杯戦争に参加することを決めた。ブラックウェル家の息子としてではなく、ラインハルトとして認められるために。
右手の甲に携えた左右非対称の羽根のような令呪を携え、前途洋々にサーヴァントを召喚した。
『素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師アルスバーグ──。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
──
繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する。
──我がブラックウェルの血を持って告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いは此処に。我は
彼の呼び声に応えたのは、なんと現在は朝陽のサーヴァントとなっているランサーだった。
『クラスランサー。お主の声に応え参上した。問おう、お主が儂のマスターか?』
そしてラインハルトは高揚したまま、彼女の癪に障ることを言ってしまい半殺しにされた。
ルーン魔術で契約を切られたと同時に手始めに
彼の世話をしていた奴隷たちは慌てふためきながら、彼を救護しようとしたが、彼の高すぎるプライドがそれを許さなかった。
ラインハルトは、無謀にも再度サーヴァントの召喚を試みたのだ。
結果、彼は見事にキャスターのサーヴァントを召喚したのだった。恐ろしいほどの執念。同じ轍を踏まないように祈りながら男性の英霊を召喚し、うつ伏せにという屈辱的な格好をしながらマスターという座に食らいついてみせたのだ。
『問おう、貴方が私のマスター……なのか?』
魔術師というよりもキャスターは騎士と呼ぶ方が正しかった。
その後すぐにラインハルトはキャスターに助けられ、一日目の夜に戦線離脱とはならなかった。
× ×
そして二日目の夜。朝陽にとっての聖杯戦争が始まる。
街は昨夜のように静まり返り、昼間の活気が嘘のようだったが、見には見えない魔術師たちの使い魔が跋扈しているに違いない。
開戦の知らせはとうに来た。戦う術を持たない朝陽にとって戦場に立つだけでも危険極まりない行為だが、サーヴァントだけをしかも女性だけを戦場に赴かせ、自分だけ安全なところに避難しているのは、彼の性分に合わない。
これから共に戦うのだ、彼女のことをもっと知りたい。
朝陽の前を歩く彼女が立ち止り、彼の方を振り向く。
「お主にこれを渡しておく」
彼女はポケットから何やら文字が刻まれた石を朝陽に手渡した。
「これは?」
「これは儂がルーンを刻んだ石だ。これに魔力を通し、敵に投げつけるだけで効力を発揮するものだ。無くすでないぞ?」
彼女の特製ルーン石を五つほど朝陽は受け取った途端に、前方から途方もない魔力の塊が現れ、五感にひりつく緊張感を訴えてくる。
「敵だ。儂から余計に離れるなよ」
月の光と僅かばかりの街灯に照らされ闇夜から現れたのは、朝焼けのような金色の髪に白銀の鎧とそして傷一つない剣を片手にしたサーヴァントと思われる男だった。
「ほう、騎士とな。やれやれ剣を持つ奴が多すぎてどれがどのクラスか分からんな。して敢えて訊こう、お主は何者だ?」
ランサーの服装が私服姿からあの戦装束に変わり、手に真紅の槍を持つ。
「我がクラスはキャスター。急ごしらえでな、少々本来のクラスと違えている。だが手加減は無用だぞ、朱い瞳のランサー」
彼女たちの視線がぶつかり合い凄まじい火花を散らす。朝陽は回路を通してランサーの魔力の高ぶりを感じながら、第二夜開戦の一撃が交わされるのを見守った。