いや原作知識なんて無意味じゃねーか! 【永久凍結】 作:光車
(三人称視点)
事件から二日が経った。
今の時間はまだ朝どころか夜に近い。
まだ日も上がっていないのだから。
エシェルはそんな時間に起きた事などなかったが、どうやら王都といえどこの時間帯は静かなようである。
エシェルは、そんな中一人で
「ふう。………見落としはない、ね。痕跡は魔法痕含め全て消した。奈落の方にも無いし……。よし。帰ろっか」
理由は簡単である。
先日の戦闘痕全てを消すためである。
流石に魔力量的な問題で大地は修復できないが。
しかし、証拠は全て消滅させている。
なので、絶対に見つかる事はない。
その後、エシェルは座標魔法でオスカーの近くに転移した。
そしてその少し前、オスカーは、工房に向かっていた。
オスカーはオルクス工房で仕事をしていたが、そこに入れてくれたのはそこの棟梁、カーグ・オルクスである。
「……おやじさんには、きちんと別れの挨拶をしておきたっかな」
そう言うように、彼は今会えなければ手紙を書く予定だった。
だが。
「来たか、オスカー」
来ることがわかっていたかのような物言い。
それにオスカーは少なからず衝撃を受けながら、
「どうして……」
そう、呟いた。
「お前が、何も言わずに出て行くわけがねぇからな」
オスカーにとっては父親代わり、カーグにとっては息子のようなもの。
その絆は本物の親子とも遜色のないものだからか。
父親だから、息子の事などお見通しだという事だろう。
「行くのか?」
「うん。ディラン達を治す方法を手に入れなきゃいけないから」
「戻ってくるのか?」
「分からない。少なくとも、長い旅にはなると思う。
「そうか……」
僅かな沈黙が走る。
カーグはオスカーが着けているそれぞれの服を一通り見て、
「すげぇじゃねぇか」
ありきたりでも、紛れもない称賛を送った。
「まぁ、ね」
少し照れたオスカーは、嬉しさを隠しきれないというように頷く。
カーグは少し瞑目し、オスカーの前に歩み出た。
(三人称視点終了、エシェル視点)
これ以上ないほど嬉しそうに破顔するカーグさんと覚悟を決めた顔のオー兄を見て、私は思わず微笑を浮かべる。
二人は一体何を話していたのか、それは知らない。
けど、二人にとってとてもいい事だったのは間違いなかった。
それはこの先どんな影響をもたらすかなど、分からない。
けど、その後のオー兄の足取りはとても軽くて。
私は、オー兄より一足先にこの王都を出た。
王都を出た所で合流して、カーグさんと何を話していたのか聞いてみたり。
ミー姉の事とか、色々聞いた。
そして。
「おはよう、オーくん。いい朝だね」
「その割には、退屈そうに見えるけど?」
ミー姉と合流した。
「待ってるのは、やっぱり性に合わないよ。私は突撃派だしさ」
「だったら突撃すればよかったんじゃ?」
「確かにね。今更だろ?むしろ、いつ湧いて出るだろうと旅の準備をしながら警戒してたのに、肩透かしを食らった気分だ」
「湧いて出るって、二人ともひどい!」
ぷんすかと怒るミー姉。
そして、三人であの後の話をする。
思いの外盛り上がってしまったけれど、もうその話のネタは尽いて。
沈黙が場を支配し始めた所でオー兄が口を開く。
「君には、家族が世話になった。ディランやケティも保護してもらった。……感謝してるよ。受けた恩は莫大だ。君が望むなら組織に入ることも——」
「大切なのは、オーくんが望むかどうか、だよ」
オー兄の言葉を遮り、そういうミー姉。
なら私は。
「じゃあ私は入るよ」
「エシェル?」
「私も恩を感じているから、そんな所もない訳じゃない。けど………。それでもエヒトは一発ぶっ放さないと気が済まない。だから………ね?」
「そっか」
一言。
そして、ミー姉は言う。
「恩なんてどうでもいい。君の道は、君が決めるんだよ。自分の意思で。私と違う道を選びたいなら、それでいいんだよ。それでも、私は絶対に君の家族を見放したりしない。家族を理由に私に従おうなんて、間違っても思わないで」
「ミレディ……」
……やっぱり、すごい。
私には前世の知識が、記憶がある。
それだけの、この少女より多い積み重ねがあるはず。
なのに、これだけの覚悟を抱けるか、と聞かれたら……。
無理、と答えるだろうから。
どれだけ欲しくても、どれだけ手に入れたくても、本当の意味で強引に手に入れようとはしない。
ある意味それが上手い、とも言えるだろうけれど。
それでも、私は尊敬する。
「けれど、叶うなら……」
ミー姉、いや、『ミレディ・ライセン』の目の中には、今は『オスカー・オルクス』しか写っていない。
「これが、最後の勧誘だよ。………。
稀代の練成師オスカー・オルクス。自由の意思の下に生きられる世界を、見てみたくはない?唯一の思想を否定し、絶対の価値観に否を唱え理不尽を理不尽と叫べる……そんな世界を見てみたくはない?私と一緒に……」
——世界を変えてみない?
オー兄の、そして私の息が止まる。
私は、オー兄のようになにかを言われた訳じゃない。
直接勧誘されたわけでもない。
それでも、それでも——
「君は………誰だい?」
そう、オー兄が聞く。
きっとわかってる、その上で聞いてしまうもの。
その答えは。
「私は——〝解放者〟ミレディ・ライセン。神の意思に抗う者」
………。
最早言葉はない。
私は魅せられた。魅せられてしまった。
この生き様に。
その道がどれだけ苦しかろうと、辛かろうと、例えその命を投げ捨てる事になろうとも——。
きっと彼女はその歩みを止めないと、そう確信めいたものがあった。
だから。
「たとえ、地獄の底だろうと付き合うよ」
……。
…………?
………………んん?
「ぷっは!」
「え、いや、地獄の底とかはちょっと……流石に重いっていうかぁ。オーくんがミレディちゃんに参っちゃってるのは分かるけど、ヤンデレは趣味じゃないんで〜。ごめんねっ、オーくん!」
「流石にそれはない、オー兄!」
私の笑いを堪える声が何故か響く。
そして、静寂が満ち。
オー兄のメガネが光った!
オー兄が顔を真っ赤にした!
オー兄は小刻みに震えている!
そして、
オー兄が黒傘を抜いた!
「ミレディイイイイイッ!エシェルゥゥゥゥゥゥッ!てめぇらぶっ殺してやるぅうううううっ」
「「きゃぁああああっ〜〜、オーくん/オー兄がキレたぁ〜〜」」
オー兄が追いかけてきた!
私たちはそんな締まらない始まりと共に。
未知なる未来へと、足を一歩踏み出したのだった。
私たちは、追いかけられながらも、幸せそうに笑っていた。
ひとまず一章は終了です。
一日六話書くの初めてでした。
疲れた。
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