もしも、美綴綾子の迷言が、本当に伏線だったなら。 作:夜中 雨
———それは、少し前の出来事だった。
「お前が好きだ、綾子」
衛宮邸からほど近い武家屋敷。綾子の
最近お気に入りのオレンジの
「……そう。ありがとな、士郎。
でも、その
真っ直ぐに、綾子を見つめる士郎の瞳。そんな士郎の瞳を見て、綾子は知った。士郎はきっと、綾子の秘密に気づいてしまった、ということに。
だから綾子は首を振る。
士郎のそれを否定する。
「第一さ。
———両方ともが生きる道なんてのは、最初から
綾子は、士郎をまっすぐに見て、自分の胸に手を当てた。
「美綴綾子という存在は、ただ
今は必死で抑えているけど、それもいづれ限界がくる。
———そう遠くないうちに」
だから、
「だから
想いよ届けと、綾子は笑った。
「———
だからこそ、士郎と一緒にいたくない」
「よく
「でも……。それでも俺は、お前が好きだ」
綾子と士郎の、目と目が合った。
士郎の目には一切の揺らぎもなくて、それを見たから、綾子は心に決めたのだろう。
綾子は時間を稼ぐため、少しの
———やっぱり士郎と、一緒にいたい。
でも、士郎が士郎として生きる以上、
それでも、一緒にいたいというのなら———
「“師匠”として、これは。
ひとつ頷いて。それから綾子は、士郎に、ひとつ提案をした。
右の人差し指を一本立てて、ニヤリと笑って。
「なあ士郎、“
「……はっ?」
目の前の士郎のポカンとした顔。それがちょっと面白くって、笑ってしまった綾子は、左手で口を押さえながら、士郎に説明するのだった。
「“
———
例えば受験をして、合格発表を見に行くとするだろ。その時に『受かっていますように』って念じるんじゃなくて、『もし、私が行くべき学校であるならば、合格させてください。もし、私が行くべき学校でないならば、落として下さい』。
そうやって、“受験の合否という
それを“
「それで、この流れでなんで
士郎がため息をついた。
そんな反応が面白くて、綾子はまた、笑う。
「
『もしも
すると士郎は間髪入れずに、一切の迷いもなく、
「
そんなだから、そんな士郎だったから。この時綾子はその先に、足を踏み入れることが出来たのだろう。
「ちょっと
その、一番奥。後付けされた電灯の明かりを頼りに、こじんまりした一角に、士郎を案内した。
本棚と本棚とに挟まれていて、電灯の光は影になっている場所だった。その向こうは壁で塞がっていて、本棚は天井まであるし、窓もないので日の光も届かない。
「ここだぜ、士郎」
左手で士郎を引っ張りながら、綾子は、天井からぶら下がっているランプの
“カチッ”と落としてがして、電球がついて、綾子の手元をオレンジ色の光が照らす。
士郎が詰めてきたせいで左の肩が士郎に触れて、ランプが、二人の影を床に落とした。
綾子は、ちょうど目の高さにある棚から、一冊の
その表紙を士郎に見せる。士郎は、読み上げた。
「
「厳密には、“家系
「っていうか綾子。“
目だけを動かして綾子を見る士郎を、綾子は真っ直ぐに見返した。
「この“
———
綾子は、巻物を
巻物の終わり、一番最後に記された名前、
左手で巻物を裏から支え、右手の人差し指でその名を
「
良くも悪くも“
———つまり、“
“
士郎は、気づいてないようだった。
「
それがこれ、と。綾子は巻物の文字をなぞる。
———“
「“
“
当然ながらこの“空間”は、
そしてこれが、綿密になればなるほど、その空間内の相手の
要は、より強い結界を張れるようになる、ということだ。
こうやって、自分の周囲に結界を張って、実際に相手の体と接触するよりも前、向かい合っている段階で相手との繋がりを作ることを“
「
これを、士郎に
———いつかきっと、全てを思い出せるように」
綾子の視線が士郎とかぶる。
士郎も、綾子を見返していた。
「……この名は絶対、忘れない」
「バーカ、忘れて貰わないとこっちが困るんだ。
それじゃ“
そうして綾子は、士郎から自分の記憶を抜きとった。
でも、話はこれで終わりじゃない。
だって綾子には見えていたから。“
だから綾子は、出来るだけ士郎が思い出しやすくなるように、フィールドを
それが、“表の理由”。
———という事は、“裏の理由”もあるということ。
それこそが“パンドラ計画”。たった
◇ ◇ ◇
「……パンドラ計画?」
俺は素手だ、
……まあ今の美綴なら、内容を教えてくれるという確信もあったから、聴き返したりなんかしたんだが。
「そう、パンドラ計画」
美綴は左手で髪に触りながら、周囲をサラッと
「ギリシア神話に出てくる
「……それは、災厄を振りまくって事か?」
「そう、私は聖杯を使って“この世全ての悪”を世界にばら撒く。アンタが私に負けたなら、その瞬間に世界が終わる」
俺の疑問に律儀に答える美綴だったが、その返答に、俺は唇をひき結んだ。
「何と言うか……それはダメだ、美綴。俺は———正義の味方を目指す者として、その計画とやらは……どうしても、認められない」
目に、力を込める。
「俺は、正義の味方になりたいんだ」
「——知ってるよ、だから
笑う美綴、睨む俺。
「……なら俺は、あんたを止める。美綴に、そんな事はさせられない」
俺の頭じゃ、動機はちっとも解らないけど、それでも……
「お前には、笑っててほしいからな」
「…………そうか、それを聞けて良かったよ。衛宮、コレで私は————」
トッ、と軽い音をたてて美綴は、一歩前に身をさらす。
「———心置きなく世界を壊せる」
戦局は、その瞬間に
アーチャーが双剣を手に斬り込んで……しかし、スカサハがゲイボルグで突き、弾き飛ばす。そのまま地面に刺さったもう
二騎が押し留め、出来た隙にアーチャーが後退、矢を射る。狙いは美綴、でも———
「…………やはりか」
その矢は全て、ただ
琥珀色のひと睨みで。
……何が起きた!? あり得ないぞ!
目の前の赤い男は弓兵のクラスに割り当てられるだけあって、
弓道における命中、つまり“
アーチャーの奴はその領域に達している。つまり奴が射かけた瞬間には、美綴に
にもかかわらず、矢は
それは本来あり得ぬ事。矢を躱すなら、アーチャーが放つより先に動き出さないと間に合わない筈なのに……
あり得ない事。
それを可能にする為に美綴がやった事、多分それは……
「へぇー。やるじゃん、衛宮。たった二回で当たりを付けてくるなんてさ」
美綴の瞳はより一層、この暗闇の中、とてもとても輝いていた。
「——そうよ、私の目は特別製でさ、“モノの
———
今の美綴は活き活きしている。今まで俺が見てきた“弓道部部長の美綴綾子”とは雰囲気が違っている。
「なあ、美綴……」
きっとコレが素なんだと思う。
「……ひとつだけ、聴いてもいいか?」
気がついた時、俺はアーチャーをも追い越して、先頭に立っていた。
「———当然。待ってたんだから」
「……判った、それじゃあ質問だ。
—————美綴……お前、今愉しいか?」
「もちろん、最高の気分よ」
答えを聞いて俺は頷く。
…………よし、心は決まった。
「戦線布告、受けるよ。要は負けなきゃいいんだろ? だったら俺が、美綴を止めてみせる」
「———わかった、それじゃあ、次会ったら殺し合いだぜ、衛宮。準備くらいはしておけよな」
言って、美綴は
———そうだ、信号だけは守っておきなよ———
なんて、関係ない事を口にして……
◇◇◇
「貴様には戦略的思考というモノがないのかね! 貴様のせいで、我々がどれ程の被害を
「……何が言いたいんだよ、アーチャー」
「周りの人間は、交渉担当者より甘い事を言ってはならない。担当者よりも厳しい条件を提示し続けなければならないのだ。 ……判るか、衛宮士郎。そんなことをすれば、『アイツがああ言っているのだからそっちの条件でもいいのだろう?』と、必ず不利な条件を迫られるのだぞ。貴様のやった事はな、ただの邪魔だ」
わざわざ人差し指を突き出してコッチに向けてくる。言い方がいちいち高圧的だ。
だいたい、奴の言っている事を理解するのとそれを納得する事は別だし、納得するのと「受け入れたい」と思うかどうかもまた別だ。
「……言ったろ、『俺は正義の味方になる』って」
「“戦略”というものを理解できない愚か者が、か?」
「……うるさい」
アーチャーの言葉は、きっと正しい。
それはきっと、駆け引きの常道だ。交渉担当者以外の人間が、担当者よりもきつい条件で交渉しろと口々にこぼせば、それは相手への牽制になる。『今の担当の条件を飲まなければ、より過激な者が交渉しにくるのだぞ』と。
……そうだ、アーチャーは正しい。
拳を作り、力を込める。
アーチャーの奴を
「それでも俺は、美綴を殺したくない」
「——ハッ、マヌケか貴様は。確かにあの女はお前の友人かもしれん。だがな、それが世界を滅ぼすと言うなら話は別だ。彼女を殺し世界を守る、それが正義の味方だろう」
————そうだ、アーチャーは正しい。
より多くを救う為に少数の誰かを斬り殺すという考えは、驚くほどに合理的だ。
「それとも何か? これから殺人を犯そうという人間を、みすみす見逃すとでも言うつもりか?」
「違う! ……でも、殺さずに取り押さえる事も出来る筈だ」
半眼になって見下してくるアーチャーに俺ができる反撃は、睨む事だけだった。
「それができるのは彼我の力量に
「———ッ!!」
————そうだ、アーチャーは正しい。
間違っているのは俺の方だ。
言葉では反撃出来なくて、何かないかと周りを見るも…………誰もいない。
「…………そうか、アイツら帰ったのか」
俺の言葉につられたのか、アーチャーも辺りを見回していた。
「当然だろう、貴様のお遊戯に付き合っている時間はない。それに我々は、もっと大切な戦いの最中だったのだからな」
「……そうかよ、じゃあもう勝手にしろ!」
———それは最後の強がりだったのだろう。何も出来なくて、何も言い返せなくて……だからそれだけ言い残し、帰るために踵を返して———
「……ああ、勝手にするとも。ちょうどお前を、目障りだと思ったところだ」
——殺気。
————反転。
とっさに投影した一振りは、奴の一刀に粉砕された。
「何するんだ!」
「…………」
奴はカチャっと音を立てて、右の短刀を握り直すと、
「製作者は貴様か……
なんて事をこぼしやがる。
「『折れず曲がらず、良く切れる』というのが、日本刀の題目だろう…………なのに貴様のそれときたら——」
フッ、と鼻を鳴らし
「折れやすく曲がりやすく、おまけに切れにくい刀ときた。
「……だったら、何だってんだ」
「その程度の剣製で、よくオレの前にたてたものだ。貴様では、何も成せないというのにな」
「———!」
疾走する二刀、迎え撃つ折れた刀。
…………一撃、二撃。
俺はなんとか二撃持たせた、折れた刀を囮に
横薙ぎ一閃、狙いは側頭。
奴の二刀に粉砕される。その隙に……
「————
投影し、待機させている剣弾三つを撃ち放つ。それを奴は、順番に三つ砕きやがった。だが、これで……
「———間合いを計り距離を取った……か。だがそれでどうなる、武器の性能差は歴然だ。その
そんな事知るか。装備の性能差を己の力量で覆してきた奴を、俺は知ってる。だからコイツのいうことは的外れだ。だいたい……
「————お前」
そこで気づいた。
「———話を逸らそうとしてるんじゃないのか?」
コイツ……
「——どうして、俺を殺そうとする」
————どうして、俺の刀の能力を見抜けたんだろうか。
「何が理由だ、アーチャー」
——どうやって、製作者が俺だと気づいたんだろうか。
「理由などとうに知れたこと。貴様が、目障りだからだ」
「——お前……『目障りだから』で、誰かを殺そうとするってのか!?」
「当然だとも。私は美綴綾子を始末したい、お前はそれを阻止したい……そら、貴様が生きていたのでは我々の勝利が遠退いてしまう」
それに、と鼻を鳴らすアーチャーは、俺に向かって言い放った。
「世界を滅ぼそうとするあの女は、明確な悪だ。正義の味方を目指す者が、何故悪に味方する?」
「ッ…………それは……」
……唇を噛む。
そうだ、正義の味方になりたいと言いながら、俺は
「正義とは、民衆の総意がしめすもの。
「“一人でも多くの人間を救う”、それが正義の味方だろう……この世全ての人々と、美綴綾子という一個人、切り捨てる陣営など始めから決まっている……」
「——それが受け入れられないのであれば、今すぐにでも此処で死ね!」
「………………」
「ここで死ね、衛宮士郎。すべての人間を救う事は出来ない。全体を救う為には少量の人間は見殺しするしかない……お前も戦場を駆け抜けたことがあるのだったな。ならば覚えもあるだろう…………このあたりでやめておけ。正義の味方など、目指すべきモノではない」
◇◇◇
「———これでゆっくり、お話し出来るんじゃないかしら。間桐くん?」
「…………ああ、なんでも聞いてくれ。桜が無事なら、それで良いんだ」
衛宮邸、居間、コタツの中に対面で。
窓と障子は全部締め切り、桜は隅に横たえた。
「そうね……じゃあ先ずは、どうして魔術を使えるのか、そこから教えてもらおうかしら。確か、貴方の代で魔術回路がなくなったから桜を養子に欲しがったんでしょう?」
「……確かに、僕に魔術回路は
「『その当時は』って事は、つまり今は
すると慎二は、指を組んで口を隠した。
「……貰ったんだよ、綾子にさ。いや…………正確には、魔術刻印を貰ったんだ」
慎二の話を要約すると、つまりはこう言うことらしい。
血が絶えたと言っても、間桐には魔術回路の跡がある。となると、その“跡”を力強くでこじ開けてしまえば良い…………とは言うものの、ただ莫大な魔力を通せばいいというわけでもない。そんな事をすれば慎二の肉体の方が耐えきれなくなる。
だから、綾子は裏ワザを使った。
前回の聖杯戦争終了後、冬木に慎二が帰って来てすぐ。桜が受けた陵辱を目の当たりにしたその日の夜に、慎二は綾子とあったのだと言う。
———桜を、助けたいかい? ———
———助けて……くれるのか? ———
———まさか。でも、助けさせてやる事は出来るぜ。慎二が、望むならね———
そう言って綾子は、一枚の“皮膚”を慎二に渡した。
其れは、人間の皮膚だった。
————食べろ、慎二———
———でも、これって……———
———
———こんなの……食べてどうなるんだよ———
———皮膚自体に意味はないのよ。だって、必要なのは刻まれている刻印の方だからね———
魔術刻印。
魔術師たちが己の子孫に受け継がせる、先祖代々の成果の結晶。
———アンタにはまだ、“マキリの跡”がある。それをこじ開けるのに魔術刻印ほど適したものはないじゃない。幸い、間桐の魔術特性は束縛と吸収なんだし。吸収にいたっては“喰らう”ことで最も強力に発現する。これには性的なモノも含まれるから、桜は今も陵辱されているんだけどね。
……ともかく、今回は前者を使うわ。つまりは
「僕が皮を食べたとき、綾子のヤツがなんかやってさ。痛みに呻いて気絶した後目覚めて見れば———」
「…………そう、そう言う事だったんだ」
———“その皮”を食べたのは最近だと言う。いくら臓硯が老いたといっても、慎二の魔術回路が開通すればさすがに気づく。だから聖杯戦争が始まって、綾子が場を引っ掻き回すまで待っていた……らしい。
……考えろ、遠坂凛。
綾子の引き起こしたこの訳の分からない状況を、見事に整理する道筋を。
その為に必要なピースの数を……
必ず、この状況には裏がある。裏があると直感している。だったら————
「だったら慎二。それじゃあ、『綾子が桜を地獄に〜』ってのは?」
慎二は落ち着いている。慌てても仕方ない事をわかっているのだろう。普段から、自分のことを天才だと言い張るだけの事はある。
「綾子が突然、世界を滅ぼすなんて言いやがった。その儀式の材料として……桜が、必要だからなんだとか……」
…………びっくりした。
まさかこいつが、コレを理由にあげるなんて……
「うん? いきなりで訳が分からないのは判る。でも———」
「そっちじゃないわよ、慎二」
「——へ?」
そう、私が驚いたのはソコじゃない。
こいつは……慎二は桜が世界を滅ぼす材料になる事に絶望すると知っている。その事に驚いたのだ。だって其れは——
「よく見ているのね、間桐くん?」
「なっ…………なんだよ遠坂、気持ち悪いな」
慎二が“うげっ”という顔をする。
私は少し笑ってしまった。
「でもま、その儀式に桜が必要なんだとしたら、守り通せばこっちの勝ちよね?」
「それが出来たら苦労はしないよ!」
声を荒げる慎二。
ま、無理もないか……
正面切って守り通せるとは、コイツも思っちゃいない……か。
「にしても、どうやったのよ? 間桐臓硯なんて、そう簡単には
「そこはホラ、僕は綾子の計画を途中まで知ってるからさ。それに便乗させて貰ったんだよ」
慎二は言う。
計画では、元々臓硯には退場してもらうつもりだったと。臓硯は、自分が弱いと知っている。だから最後まで待ちに徹する。綾子的にはそれが嫌だったらしい。
バーサーカーのマスターを捕獲して、そのサーヴァントを押し付ける。臓硯に拒否権はないも同然だ。拒否したら———桜を殺し、ついでに間桐邸を、地下の蟲蔵を破壊するようバーサーカーに命じると、令呪でもって命じると、綾子に脅されたというのなら。
———バックアップとして必要なんだ。だからこの女、イリヤスフィールは貰っていくぜ、臓硯。その代わり、ソコのバーサーカーはくれてやるから、好きに使いなよ———
バーサーカーは大食らいだ。
それが彼の大英雄、ヘラクレスだと言うのだから、魔力の消費量は桁が違ってくるだろう。
「だから、臓硯は焦る。その時の奴にはバーサーカーを自害させるか、さっさと誰かにぶつけるかくらいしか選択肢は無かった筈なんだ。そうなるように、綾子のヤツは準備してたから……」
バーサーカーを手に入れた臓硯は、士郎を狙っていたらしい。バーサーカーをセイバーに当てて、桜から士郎を引き離そうとしていたそうな。
「だから、その前に一手打ったんだ。学校で衛宮を焚き付けて、間桐の屋敷に特攻させた」
それを知った臓硯は大喜びで計画を変更、士郎だけでなく私や桜のサーヴァントまで足止め出来るこのタイミングを逃すまいと、桜を攫いにウチを攻撃しに来た……と。
「臓硯の奴は焦ってたんだ。綾子のヤツ、桜が欲しい事、全然隠してなかったしね」
「そう……つまり、突然に舞い込んできた戦力を、使わない手は無かったって事ね」
そうして、罠と解っている状況で、その中心に飛び込まなければならない程に、追い詰められていた……と、言うことか。
「……でも、どうして士郎なのよ?」
コイツの話を総合すると、どうも臓硯は士郎を異常に意識している。バーサーカーを士郎に当てがうつもりだったと言う話を抜きにしてもだ。結局臓硯は私を桜から引き離すよりも、士郎を桜から引き離す事に重きを置いた。それは結果が示している。でも……
「どうして士郎だったのよ? 私でもライダーでもなくて?」
「……なんだよ遠坂。そんな事も分からないの?」
急に慎二はいつもの笑みを浮かべた。
……あの、ムカつく笑顔だ。
「そんなの簡単じゃないか! 何も難しくなんてないさ。……それはつまり、美綴綾子って女が——」
————衛宮の師匠だからだよ————
次回、Fate/stay night[Destiney Movement ]
———第十話、最果ての男