もしも、美綴綾子の迷言が、本当に伏線だったなら。 作:夜中 雨
振り下ろす。
——振り払う。
———剣を躱し、斬りあげる。
事ここに至って、ヤツは俺を殺しにきている。
今までだってそうだ。何かにつけて俺にいちゃもんをつけてきた。その意味が、やっと解った。
剣と剣とを打ち合って、初めて分かった。
打ち合い、切り結んだ剣の先から、ヤツの経験と共に記憶まで流れてきたからだ。
……最初は、似た事を考える英霊だと思った。
次に、その人生に驚愕した。
そして最後に、やっと気付いた。
やっと判った。
これだけの
————この男が、
◇◇◇
「———“衛宮の師匠”か…………成る程、そういう事ね」
臓硯か士郎を警戒した理由として、“綾子の弟子だから”というのは極めてわかりやすい。
「つまり臓硯が怖がっていたのは士郎ではなくて——」
「そう、綾子だったってワケさ」
臓硯は綾子の計画が、自らの不利益になると知っていた。それも超ド級の……けれど戦えば負ける、絡め手も通じない、となれば焦りもするか……と思う。
…………うん、大体わかった。これで流れは、おおよそ掴んだ。
ココから私が動くのに、足りないものは殆どない。欲を言えば、綾子がどうしてそんな事をしようとしたのかも知りたいけど、慎二も知らないみたいだし、それは自分で掴むとする。
……ちょうど、サーヴァント達も帰って来たみたいだし。
「サクラ! ご無事ですか!?」
と、ライダーの声。
……驚いた、あの大人しそうなライダーがこんな大声を出すなんて。
「ライダー、そう焦らずとも良いでしょう。凛とアーチャーとの念話によって、桜の安全は確認されているのですから」
と、セイバー。
……うん、さすがはセイバー、と言うべきか。事ここに至っても最優の名に恥じぬ冷静っぷりだ。
「二人ともお帰り、 待ちわびたわよ。アーチャーは士郎と一悶着ある見たいだけど、桜のこと、先に始めちゃいましょうか」
私の言葉に、セイバーがだけが反応した。
◇◇◇
「ほぅ? 成る程、“前世の自分を降霊し、憑依させる事でその技術を修得する”……か。だが、オレとの打ち合いで得た
ヤツは俺を鼻で笑って——
「
…………もっとも、初めから期待などしていなかったがな」
———その二刀を振り下ろす。
ガードは、しない。
ガードは出来ない。
俺が持つのは日本刀だ。打ち合えば、折れるは必定。
……故に、ここで俺は受け流す。
———各流派に
———それはねぇ、衛宮。相手の剣を躱せるようになる為にあるモノだ。つまり———
“受け流しの型”でもって、型通りに受け流すのが第一段階。
次に、ほんの少しだけ
そうすると、受け流す時の衝撃が少しづつだが軽くなるのだ。
理由はわからない。けれど、思い出せる言葉ならある。
———それは間合いの問題なのよ。“受け流しの型”ってヤツは、キッチリと型どる事によって、相手の間合いを外すもんなんだから。いい? アンタの手の内にある剣は、ソレが出来るまでの補助に過ぎないのよ———
カシッ、と擦れ合う音がした。アーチャーの二刀は流れ、俺の刀は受け流すと同時、頭上にあった。
攻防一体。
受け流す動作はいずれ、剣の振り上げに吸収される。そして……
———頭上のソレを振り下ろす。
だが…………俺の刀は砕け散った。
「——————なっ——ッ!」
……速い。
ヤツの二刀は確かに流れた。にもかかわらず、その双剣は戻っていた。
戻って、俺の刀を砕いていた。そして……
「—————ハッ!」
気合い一閃、ヤツの二刀は再び迫る!
俺の手に刀は無い。柄を残して、砕け散ってしまったからだ。
投影するには時間が足りない。
…………武器はない。だが……
俺はもう一度、“受け流しの型”を
———“受け流しの型”ってヤツは、キッチリと型どる事によって、相手の間合いを外すもんなんだから———
手を振り上げる動作、
「——フッ———!」
振り上げた手をそのままに、掌底でもって打撃を入れた。
……だが硬い。
身体強化をかけた腕でも、まともにダメージが通らなかった。
「……無駄だ。貴様程度の肉体をいくら強化したところで、人間とサーヴァントの、そしてオレとお前との、この差を埋めるにはまるで足らん」
棒立ちで喋るアーチャー。
それは余裕の表れか、それとも……
「その程度の実力で正義の味方に成るだのと、よくもまあ口にできたものだ。
…………見たのだろう? 衛宮士郎。オレの記憶と経験を……ならば分かる筈だ、お前がこの先どれほどの地獄を歩むのか。そしてその果てに、どれほど醜悪な化け物に成り果てるのかを」
「…………ああ、確かに見た。お前の信じるもの、お前の信じたもの…………そして、その果てに何を失ったのかも……」
「そう、オレはお前の理想だ。お前の夢は、初めから
———それは、救われるはずのない人間だった。
どれだけ多く見積もっても、百に満たない命だった。
彼らを救おうとした男はいた。だが、男では救えぬ筈の人々だった。男の実力では、到底届かぬ筈の者たちだった。
だが、彼らは男に救われた。そして次第に、男は“英雄”と呼ばれ始めた———
———英雄。
人を超えた者たちに与えられた称号。
では、英雄たる資格とは何か。
英雄とそれ以外とを隔てる要素。つまり、英雄の定義とは何か。
———それはきっと、難しい話じゃないんだと思う。
多分、“運命を変えられるか否か”なんじゃないかな。要はアレだ、
———それで…………誰も泣かずに済むのなら———
方法・力の
———契約しよう、我が死後を預ける。その報酬を、ここに貰い受けたい———
それは、定まった筈の運命を変更すると言うこと。英雄という称号は、本来なら助けられない者を助けた
規模は小さくとも、どんな手段を用いたとしても、変えられない筈の災厄を打破したのなら————
そして、その奇跡の代償として、世界は“
「守護者というのは唯の掃除屋だ。その時点において人類を滅ぼし得るモノを、善悪を問わず殲滅する殺戮者…………そんなものに、お前はいずれ成り果てる」
……もう、何度目かもわからないアーチャーの剣。横薙ぎ一閃に迫る一刀を俺は
もちろん、「躱せなかった」と言い訳もできる。不意を突かれたとか、会話の
俺は心で負けたんだ。精神の戦いで敗北したから、
俺は敗北した。命懸けの戦闘では、勝者が敗者の生殺与奪を自由にできるのが常道だ。そしてアーチャーは俺を殺したい。過去の自分を消し去りたい。
……だから、その先は火を見るより明らかだろう。アーチャーは俺を殺す。その手を止める事はない。
—————————、
—————もし、
——もしもその後も、俺が生きている未来があるならば、其れは———
「———アーチャー!」
何度も俺を助けてくれた、“清らかな
◇◇◇
「——セイバーか、まさかこのタイミングで現れるとは……オレもつくづく間が悪い」
「当然です。サーヴァントとはマスターを護るものですから」
それで……? っと、見えない剣を構えるセイバー。
「何故、私のマスターを殺そうというのです」
「…………それが望みだからだよ、セイバー。オレはこの瞬間を待ち続けた、この男を殺す事だけを希望にした…………元より聖杯に興味はない………………そんなオレが召喚に応じた理由、抱いた望み、ソレは———」
「……何故、彼なのですか? そもそも、この聖杯戦争に彼が参戦している事など知りようが———」
「ある。…………ああ、良く知っているとも。この男がどう言った訳でこの儀式に参加し、それを契機に……どんな怪物に成り果てるのかも」
アーチャーが笑った。でも……
けれどアーチャーのその笑みは、今までとは随分と違っていて……例えば——
「当然だろう? 全く……オレはなセイバー、聖杯戦争での己の行いを後悔しなかった時間など…………一瞬たりともありはしないと言うのにな」
「アーチャー……その言い方、それではまるで…………」
「——そうだ、オレの
———そこの出来損ないの、汚れきった成れの果てだよ。セイバー———
◇◇◇
———それはひとりの人間が、己の存在そのものを憎悪するまでの物語だった。
「全ての人間を救うと言うのは、都合のいい
……ヤツは言った。
「オレの足跡を見たお前なら、ソレが判るはずだろう? ……そう、お前の未来は確定している。そのまま先へ進むと言うなら、それはオレに成ると言う事だ。お前の望む理想の先に、ココ以外への道はない」
「オレはお前の理想の姿だ。ソレが嫌なら自害しろ。そうすればオレも消える」
「判ったか、セイバー。だから、それが理由だよ…………別に、何かが変わると信じている訳じゃない。ただの憂さ晴らしで、下らない自己満足だ」
「…………アーチャー。つまり、貴方は——」
「これで話は終りだ、セイバー。そこをどいてくれ、でなければその男を殺せない」
アーチャーの殺気にセイバーが反応する———そう、その肩を、とっさに俺は抑えていたんだ。
「——いいんだ、セイバー。今までだって大活躍だったじゃないか。こんなにも頑張っているんだから、これ以上あの男の
彼女の肩をたたきながら、俺はセイバーの前に出る。
「これ以上、義務感なんかで俺を護る事なんてないんだ。セイバーはここで見ててくれ。決着は俺がつける、言い訳なんか出来ないように一対一でぶっ飛ばす。だから———」
———そこまで頑張る事はないんだ。セイバーは、女の子なんだから———
次回、Fate/stay night[Destiney Movement ]
———第十一話、士郎vs士郎