もしも、美綴綾子の迷言が、本当に伏線だったなら。   作:夜中 雨

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《第十話、最果ての男》

 

 

 振り下ろす。

 

 ——振り払う。

 

 ———剣を躱し、斬りあげる。

 

 事ここに至って、ヤツは俺を殺しにきている。

 今までだってそうだ。何かにつけて俺にいちゃもんをつけてきた。その意味が、やっと解った。

 剣と剣とを打ち合って、初めて分かった。

 打ち合い、切り結んだ剣の先から、ヤツの経験と共に記憶まで流れてきたからだ。

 

 ……最初は、似た事を考える英霊だと思った。

 次に、その人生に驚愕した。

 そして最後に、やっと気付いた。

 やっと判った。

 

 これだけの人生(もの)を見せつけられて、初めてオレは———

 

 

 ————この男が、(自分)末路(答え)と知ったのだ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「———“衛宮の師匠”か…………成る程、そういう事ね」

 

 臓硯か士郎を警戒した理由として、“綾子の弟子だから”というのは極めてわかりやすい。

「つまり臓硯が怖がっていたのは士郎ではなくて——」

「そう、綾子だったってワケさ」

 

 

 臓硯は綾子の計画が、自らの不利益になると知っていた。それも超ド級の……けれど戦えば負ける、絡め手も通じない、となれば焦りもするか……と思う。

 …………うん、大体わかった。これで流れは、おおよそ掴んだ。

 ココから私が動くのに、足りないものは殆どない。欲を言えば、綾子がどうしてそんな事をしようとしたのかも知りたいけど、慎二も知らないみたいだし、それは自分で掴むとする。

 

 ……ちょうど、サーヴァント達も帰って来たみたいだし。

 

 

「サクラ! ご無事ですか!?」

 と、ライダーの声。

 ……驚いた、あの大人しそうなライダーがこんな大声を出すなんて。

 

「ライダー、そう焦らずとも良いでしょう。凛とアーチャーとの念話によって、桜の安全は確認されているのですから」

 と、セイバー。

 ……うん、さすがはセイバー、と言うべきか。事ここに至っても最優の名に恥じぬ冷静っぷりだ。

 

「二人ともお帰り、 待ちわびたわよ。アーチャーは士郎と一悶着ある見たいだけど、桜のこと、先に始めちゃいましょうか」

 

 私の言葉に、セイバーがだけが反応した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ほぅ? 成る程、“前世の自分を降霊し、憑依させる事でその技術を修得する”……か。だが、オレとの打ち合いで得た技術(それ)も、まったくもって活かせていない」

 

 ヤツは俺を鼻で笑って——

悉く(ことごとく)が期待外れだ、衛宮士郎。

 …………もっとも、初めから期待などしていなかったがな」

 ———その二刀を振り下ろす。

 

 ガードは、しない。

 ガードは出来ない。

 俺が持つのは日本刀だ。打ち合えば、折れるは必定。

 ……故に、ここで俺は受け流す。

 

 ———各流派に各々(おのおの)存在する“受け流しの型”。使用される状況にある程度の違いはあるものの、その全てはある一つの目的の為に存在している。

 

 

 ———それはねぇ、衛宮。相手の剣を躱せるようになる為にあるモノだ。つまり———

 

 

 “受け流しの型”でもって、型通りに受け流すのが第一段階。

 次に、ほんの少しだけ()()動き出す。

 そうすると、受け流す時の衝撃が少しづつだが軽くなるのだ。

 理由はわからない。けれど、思い出せる言葉ならある。

 

 ———それは間合いの問題なのよ。“受け流しの型”ってヤツは、キッチリと型どる事によって、相手の間合いを外すもんなんだから。いい? アンタの手の内にある剣は、ソレが出来るまでの補助に過ぎないのよ———

 

 カシッ、と擦れ合う音がした。アーチャーの二刀は流れ、俺の刀は受け流すと同時、頭上にあった。

 攻防一体。

 受け流す動作はいずれ、剣の振り上げに吸収される。そして……

 

 ———頭上のソレを振り下ろす。

 だが…………俺の刀は砕け散った。

 

「——————なっ——ッ!」

 

 ……速い。

 ヤツの二刀は確かに流れた。にもかかわらず、その双剣は戻っていた。

 戻って、俺の刀を砕いていた。そして……

 

「—————ハッ!」

 

 気合い一閃、ヤツの二刀は再び迫る! 

 

 俺の手に刀は無い。柄を残して、砕け散ってしまったからだ。

 投影するには時間が足りない。

 

 …………武器はない。だが……

 

 

 俺はもう一度、“受け流しの型”を敢行(かんこう)する。

 

 ———“受け流しの型”ってヤツは、キッチリと型どる事によって、相手の間合いを外すもんなんだから———

 

 手を振り上げる動作、それ(振り上げ)に必要な体捌き。胸が落ち、腰が倒れる。そして———

 身体(からだ)は既に、迫る二刀を躱しているのだ。

 

「——フッ———!」

 振り上げた手をそのままに、掌底でもって打撃を入れた。

 ……だが硬い。

 身体強化をかけた腕でも、まともにダメージが通らなかった。

 

 

「……無駄だ。貴様程度の肉体をいくら強化したところで、人間とサーヴァントの、そしてオレとお前との、この差を埋めるにはまるで足らん」

 

 棒立ちで喋るアーチャー。

 それは余裕の表れか、それとも……

 

「その程度の実力で正義の味方に成るだのと、よくもまあ口にできたものだ。

 …………見たのだろう? 衛宮士郎。オレの記憶と経験を……ならば分かる筈だ、お前がこの先どれほどの地獄を歩むのか。そしてその果てに、どれほど醜悪な化け物に成り果てるのかを」

「…………ああ、確かに見た。お前の信じるもの、お前の信じたもの…………そして、その果てに何を失ったのかも……」

「そう、オレはお前の理想だ。お前の夢は、初めから(いだ)いてはいけなかったと理解できた筈だが?」

 

 

 ———それは、救われるはずのない人間だった。

 どれだけ多く見積もっても、百に満たない命だった。

 彼らを救おうとした男はいた。だが、男では救えぬ筈の人々だった。男の実力では、到底届かぬ筈の者たちだった。

 

 だが、彼らは男に救われた。そして次第に、男は“英雄”と呼ばれ始めた———

 

 

 ———英雄。

 人を超えた者たちに与えられた称号。

 では、英雄たる資格とは何か。

 英雄とそれ以外とを隔てる要素。つまり、英雄の定義とは何か。

 

 ———それはきっと、難しい話じゃないんだと思う。

 多分、“運命を変えられるか否か”なんじゃないかな。要はアレだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そこが境目なんだと思う。

 

 

 

 ———それで…………誰も泣かずに済むのなら———

 

 

 方法・力の(みなもと)は、大した問題じゃないんだ。重要なのは、ソイツが運命を書き換える事が出来たか否か。

 

 ———契約しよう、我が死後を預ける。その報酬を、ここに貰い受けたい———

 

 それは、定まった筈の運命を変更すると言うこと。英雄という称号は、本来なら助けられない者を助けた(あかし)だ。

 規模は小さくとも、どんな手段を用いたとしても、変えられない筈の災厄を打破したのなら————

 

 そして、その奇跡の代償として、世界は“守護者(エミヤ)”を手に入れた。

 

「守護者というのは唯の掃除屋だ。その時点において人類を滅ぼし得るモノを、善悪を問わず殲滅する殺戮者…………そんなものに、お前はいずれ成り果てる」

 

 

 ……もう、何度目かもわからないアーチャーの剣。横薙ぎ一閃に迫る一刀を俺は()()()()()()

 もちろん、「躱せなかった」と言い訳もできる。不意を突かれたとか、会話の最中(さいちゅう)に切りかかられた、とか…………でも、きっとそうじゃない。

 俺は心で負けたんだ。精神の戦いで敗北したから、身体(からだ)がついていかなくなった。結局は、俺の心が弱かったと言う、それだけの話。

 

 俺は敗北した。命懸けの戦闘では、勝者が敗者の生殺与奪を自由にできるのが常道だ。そしてアーチャーは俺を殺したい。過去の自分を消し去りたい。

 ……だから、その先は火を見るより明らかだろう。アーチャーは俺を殺す。その手を止める事はない。

 

 

 

 —————————、

 

 —————もし、

 

 ——もしもその後も、俺が生きている未来があるならば、其れは———

 

 

「———アーチャー!」

 

 何度も俺を助けてくれた、“清らかな(あお)”がそこにはあった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「——セイバーか、まさかこのタイミングで現れるとは……オレもつくづく間が悪い」

「当然です。サーヴァントとはマスターを護るものですから」

 それで……? っと、見えない剣を構えるセイバー。

 

「何故、私のマスターを殺そうというのです」

「…………それが望みだからだよ、セイバー。オレはこの瞬間を待ち続けた、この男を殺す事だけを希望にした…………元より聖杯に興味はない………………そんなオレが召喚に応じた理由、抱いた望み、ソレは———」

 

「……何故、彼なのですか? そもそも、この聖杯戦争に彼が参戦している事など知りようが———」

「ある。…………ああ、良く知っているとも。この男がどう言った訳でこの儀式に参加し、それを契機に……どんな怪物に成り果てるのかも」

 

 アーチャーが笑った。でも……

 

 けれどアーチャーのその笑みは、今までとは随分と違っていて……例えば——

 

「当然だろう? 全く……オレはなセイバー、聖杯戦争での己の行いを後悔しなかった時間など…………一瞬たりともありはしないと言うのにな」

「アーチャー……その言い方、それではまるで…………」

 

「——そうだ、オレの真名(しんめい)はエミヤ。衛宮士郎」

 

 

 ———そこの出来損ないの、汚れきった成れの果てだよ。セイバー———

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ———それはひとりの人間が、己の存在そのものを憎悪するまでの物語だった。

 

 

「全ての人間を救うと言うのは、都合のいい空想(おとぎ話)だ」

 

 

 ……ヤツは言った。

 

「オレの足跡を見たお前なら、ソレが判るはずだろう? ……そう、お前の未来は確定している。そのまま先へ進むと言うなら、それはオレに成ると言う事だ。お前の望む理想の先に、ココ以外への道はない」

 

「オレはお前の理想の姿だ。ソレが嫌なら自害しろ。そうすればオレも消える」

 

「判ったか、セイバー。だから、それが理由だよ…………別に、何かが変わると信じている訳じゃない。ただの憂さ晴らしで、下らない自己満足だ」

「…………アーチャー。つまり、貴方は——」

「これで話は終りだ、セイバー。そこをどいてくれ、でなければその男を殺せない」

 

 アーチャーの殺気にセイバーが反応する———そう、その肩を、とっさに俺は抑えていたんだ。

「——いいんだ、セイバー。今までだって大活躍だったじゃないか。こんなにも頑張っているんだから、これ以上あの男の戯言(ざれごと)に付き合う必要なんかない」

 

 彼女の肩をたたきながら、俺はセイバーの前に出る。

 

「これ以上、義務感なんかで俺を護る事なんてないんだ。セイバーはここで見ててくれ。決着は俺がつける、言い訳なんか出来ないように一対一でぶっ飛ばす。だから———」

 

 

 ———そこまで頑張る事はないんだ。セイバーは、女の子なんだから———







次回、Fate/stay night[Destiney Movement ]


———第十一話、士郎vs士郎
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