もしも、美綴綾子の迷言が、本当に伏線だったなら。 作:夜中 雨
「
そう言って三つ指をついたメーティスは、その理由を教えてくれた。
「
三つ指をついたまま、もう一度頭を下げる。
「
顔を上げたメーティスは、正座のまま、右手をセイバーに伸ばした。
「アルトリア、
頭の中が疑問でいっぱいらしいセイバーが、メーティスの右手を下から取ると、光が、流れてきた。
メーティスの胸のあたりから溢れ出した光は、周囲に粒子を漂わせながら彼女の右腕に移動した。まるで熱が伝わるように、メーティスの右手からセイバーの右手を伝って、セイバーの胸の中に潜っていった。胸から漏れ出していた光の粒も次第に弱くなり、その全てが胸の中に収まった頃、セイバーは右手を繋いだまま、左手で胸を、柔らかく押さえた。
「これは———」
「不思議に思ったことはありませんか?
選定の剣はどうして自分を選んだのだろう、
どうして自分は男装して王をやっていたのだろう、
どうして、あれだけの精鋭を集めた円卓の騎士たちがギリギリの戦いを
「ッ———それは……」
「あの時、ブリテンの王になるのは、
メーティスは右腕をふわっと上げて、セイバーの左手で包まれた彼女の胸の奥を指差した。
「理由は、ブリテンを救うため。何故なら、
「——うん? どういう事だ。ブリテンでメーティスを殺す儀式を、やったってのか?」
俺は首を捻った。メーティスはギリシア神話出身だ。それが何で、ケルト神話の色が濃いブリテンなんかで……
「と言うより、ブリテンという国そのものが、ひとつの儀式場だったのですよ。アマゾネスの子孫にあたるケルト民族を抹殺し、ブリテンごと滅ぼすことで、
メーティスは言う、ケルト民族はアマゾーン族の正統な
アイルランドでは、 七世紀にキリスト教の法改正があって、女性は武器を取ることを禁じられたが、 それまでは女性の兵士がいたのだった。
ケルト
「アルトリアの時代でなら、まだ残っていたはずなのですが……
覚えておりますか? “エポナ”という、神の名を」
メーティスはジッとセイバーの瞳を
「エポナ———ええ、覚えています。
ブリテンにおいて、騎士階級の者は皆、
セイバーの
「“エポナ”という
アーサー王物語は、その始まりから破綻していた。どうあってもブリテンは滅びるしかなく、どうあっても民たちは死ぬしかなかった。
“Fate/stay night”とは、そういう儀式だったのだ。
———それは、ブリテンという国を丸々ひとつ使って行われた大儀式。
アーサー王と彼女が築いた国を滅ぼすことで、女の世界から男の世界へと変革するもの。
アルトリアとは、“Artoria”と表記する。語源は月の女神
アーサー王は当時のケルト民族がアルテミスのことを“
その名を———そう、“アルテミス”。
メーティスの、“女”と“母性”と“夜”の側面につけられた名前、“アルテミス”の名を冠する王によって国が
そうする事によって、人々から完全に、メーティスの神格を削ぎ落とすことに成功した物語、それが、“アーサー王と円卓の騎士”の物語だった。
これより
「———そうです、アルトリア・ペンドラゴン。我が
メーティスはセイバーの胸に突きつけた指先に力を込めた。
すると、メーティスの指先とセイバーの体が感応し、共に光を放ち始める。
「
———ですが」
ですが、と。メーティスは一度言葉をためた。そして今度は、心から楽しそうに、俺とセイバーに笑顔を見せた。
「魔術師マーリンの手によって、結末がわずかに変わったのです。
———
それはつまり、
かくして儀式は完成し、
———そして
これにて、お
メーティスは
「アルトリア、選定の剣の台座には“
「……そう、ですか」
セイバーは、唾をひとつ飲み込んだ。
俺は横目で、セイバーの手に力がこもったのを、確認した。
そして、メーティスは身を乗り出して、セイバーの目を覗き込んだ。
「心より、
そして
「———ありがとう、ございました」
◇ ◇ ◇
———それは、奇跡のような
この世で、たった一度しか起こり
聖杯戦争という、特殊な状況だったこと。にもかかわらず、美綴綾子の手によって、大聖杯が三つに分割されていたこと。
それに何より、アルトリア・ペンドラゴンはセイバーのサーヴァントとして、死の
メーティスは、アルトリアと共に死ぬ。だから逆に、メーティスという女神は、この聖杯戦争の間だけ、奇跡のようにかろうじて、存在することが許される。
その、ほんの
まさに、奇跡のような
◇ ◇ ◇
「———あの、メーティス神……少し、よろしいですか?」
話がひと段落したことで、士郎がご飯を作っている間、一息ついているメーティスに、アルトリアが話しかけた。
「“メーティス”、で
先ほどにもましてポワポワした感じの漂うメーティスは、アルトリアの呼び方を
アルトリアは少しの間目を
「では、メーティス。聴きたいことがあるのです」
「はい、何でしょう?」
「その……シロウのことなのですが」
「士郎が、どうかしたのですか?」
「シロウのことを、リンが『プログラムのよう』と言っていました。しかし私には、どうもそうは思えないのです」
「ああ」と、両手の指先を合わせるメーティス。その顔には納得が浮かんでいた。
「士郎と凛は、全く別のものを見ていますからね」
メーティスは、ちゃぶ台の上に置いてある盾に、人差し指をはわせる。
「同じ出来事でも、見え方が違う。別の角度から同じものを見ているようです。
あの二人の感性は、絶対に相入れません。絶対に、です。
理由は、いくつかありますが」
メーティスの人差し指がトン、っと盾の表面をたたく。盾は、空気に溶けて消えた。
「アルトリアは、自分の正しさを信じられますか?」
「それは…………それはいったい、いつの事を———」
「この時、反応が二通りに別れるのですよ。真面目に考えようとする人と、考える事をしない人です」
メーティスが右手の指を二本伸ばした。アルトリアからは、ピースサインに見えた。
「アルトリアは間違いなく前者ですね」
メーティスが人差し指をピクピク動かした。アルトリアは、その人差し指を意識に入れる。
「自分と感情とを切り離した上で、自身の行いを
ちゃぶ台の上を、つつーッと人差し指が走る。その指はアルトリアとメーティスの、真ん中で止まった。
「目の前で、
狂おしいほどの憎悪がある、どうしようもないほどの衝動もある。でも、それをぶつけて、誰かが戻ってくるでもない。
実際は、たまたま運が悪かっただけ。たまたま、最悪の形で運命が交わっただけ。そこには事実があるだけで、“
ちゃぶ台の真ん中を軽くたたく人差し指に代わって、今度は中指がリズムを刻む。
「でもねアルトリア、みんなが“そう”ではないのです」
トン、トン、と。ちゃぶ台から鳴っていた音が消えた。
「遠坂凛は、多分違う。
彼女の場合は、きっと、“その行いが正しいか否か”よりも“自分自身の好き嫌い”が軸にあります。ですから、正しさを信じることに、意味などないのですよ。遠坂凛、個人にとっては」
士郎なら凛のことを、『自分が楽しむことを知っている』と言うのでしょうね。と、微笑むメーティス。
「そういう意味で、士郎と桜は同じです。二人とも、自分を信用していない。もっと言うと、“自分の感覚と大勢の人の感覚とが、まるで違うことに気づいている”のです」
アルトリアが聴きたがっていたことですが。と、メーティスがうつむいた。
「自分がされて嬉しいことと他人がされて嬉しいことが、同じではない。自分だったら平気で我慢出来ることでも、周りの人たちは耐えられない。
自分の感覚でコミュニケーションを取ろうとすると、二人は必ず、周囲との不協和を引き起こすのです」
たとえ上辺だけだったとしても、周りとうまくやっていく為にはどうすれば良いのか。
士郎も桜も、自分の感覚を信じことをやめたのだ。とメーティスは説明する。
自分がどれだけ苦しくても、顔を上げて周りをみる。周りの人達の泣くのを見て、やっと、自分も泣いていいんだと理解する。
「自分の感覚を信じることが出来ない人は、どうやって生きたらいいのでしょう。何を基準に世界を見たらいいのでしょうか。
士郎と桜との違いはたった一つだけ、“何を基準に選んだか”です。
桜は、自分の周囲の人の反応。士郎は、一般的な
他人を助けるのは良い事だ。人を殺すのは悪い事だ。誰かの悪口を言ってはいけない。など、社会通念と呼ばれるものは
「ヒトは、経験もなく想像もできないものや、共感できないものを信じられるようには出来ていません。凛が士郎を“プログラム”と呼んだのは、きっと、士郎は“一度決めたことを曲げられない”から。それは、感情がないからではありませんよ、士郎の基準があくまでも、一般観念であるからでしょう。凛にはまるで、コンピュータ・プログラムのように、最後まで貫き通すと見えてしまう」
メーティスは急に真顔になった。
「もしも、ですけれど……もしも、アルトリアが士郎に———」
◇ ◇ ◇
「———それは、理想ですね」
「ええ、まさに。ですが、アルトリアと士郎だけが、その
とても、難しいのですよ」
俺がお盆を持って自室に戻った時、メーティスとセイバーは
「簡単なものだけどさ。作って来た、食べてみてくれ」
俺はお盆を床に置き、上に乗っているお皿をちゃぶ台に置いた。
おむすびだ。
それぞれの湯飲みをセットして、俺もまた、床に座った。
「二人とも、何の話をしたたんだ?」
「“理想”と“願い”の話です、シロウ」
俺を振り返ったセイバーは、どこかスッキリした顔をしていた。
「———そっか、良かった」
それなら俺も嬉しいと、二人に笑った。
おむすびの具はオカカだけだ。上手いこと具になりそうな食材がなかったので、常備してあるかつお節を使った。
それでも、「美味しい」と言って食べてくれていると、衛宮士郎としてはとても助かるのだ。
俺の味覚とみんなの味覚とのズレを確認して、どれくらい調整すれば良いかを再確認できるから、とても助かる。
「ねぇ、士郎。明日お出かけしませんか?」
メーティスは滑るように距離を詰めてきた。崩した正座で、俺の横までやって来た。
「“デート”をしましょう?」
「いくら何でも、それはマズいんじゃないか?」
俺は両手を見せて牽制した。
桜は捕まった。慎二と遠坂は焦っている。この状況で———
「大丈夫ですよ、
「メーティスは行きたいかもしれないけど———」
「だから士郎も行きましょう? ね、お
◇ ◇ ◇
メーティスという女は色の白い肌をしていた。そのせいで、大きな目が一層強調されている。何色とも言い切れない彼女の瞳は、見つめると引き込まれそうになるくせに、見つめられると重圧にのしかかられている気分になる。
アルトリア・ペンドラゴンは、メーティスの目の中にあらゆる感情を見たかと思うと、次の瞬間には、無機質な感情のこもらない目に見えて、彼女の瞳から逃げたくなる。
だが、今日この状況では、メーティスの瞳も一貫して、わかりやすく輝いていた。
そう、メーティスと士郎は出かけることになったのだった。
メーティスは“デート”だと言い張っているが、外出の趣旨としては美綴綾子の、次の儀式場を特定することだ。
「士郎。このあたり一帯の霊地を、案内してくださいな」
メーティスは昨日にも増して上機嫌に見えた。昨日の彼女は嬉しさを全身から発散し続けていたが、今日の彼女は楽しさが立ち昇るかのようだ。
「まずは、ここかな」
士郎が最初に案内したのは、遠坂凛の家だった。
広大な敷地の中に浮かび上がるレンガ造りの洋館。前庭から伸びるツルが侵食してきている。
「遠坂の家だ。冬木市でも例外なく、こういう霊地は誰かが握ってる。大規模な儀式をやりたいんなら、事前準備を邪魔されないように魔術師の工房になってない場所にするんじゃないか」
「では士郎、工房になってない場所への案内、お願いしますね」
士郎とメーティスの会話を一歩引いて聞いていたアルトリアは、ここに来るまでの二人のやり取りをおおよそ全て見聞きしていたが、メーティスの感情表現には脱帽するばかりだった。
メーティスは感情の一切を隠そうとしない。周りの状況に対する自分の心の反応の全てを、ストレートに示し続けてきた。子供のように真っ直ぐに、士郎に心を開示する。嬉しいなら「嬉しい」、楽しいなら「楽しい」と、全身で表現するメーティスに、アルトリアは気おくれしたのだ。
だからこそ、今もこうして後ろから、二人を見ながら、小さな歩幅でついていく。
何度めかの目的地、冬木市中央公園にたどり着いた時、メーティスは初めて、行き先を指定した。
「士郎。先ほど、通り過ぎた川にもう一度足を向けてくださいな」
“先ほど通り過ぎた川”とは、“
士郎のウンチクにもいちいち反応するメーティスの声を聞き流しながら、アルトリアは二人に続いて、大きな川にやって来た。
「ここです、士郎」
メーティスは、海浜公園に設置されていた手すりに肘を預ける。両肘に体重を乗っけて川の中を覗きこんだ。
「まず間違いありません。美綴綾子はここで、次の儀式を行うでしょう」
「なんで判るんだ?」
「この川が、冬木市の中心だからです。『“この世全ての悪”を世界にばら撒く』と、美綴綾子が言ったのです。それは、ただ
それが、
アルトリアはメーティスの隣に立った。ちょうど士郎もメーティスを挟んで、アルトリアの反対側に位置したところだ。
「この川も霊地ですよ、士郎。かつて龍神がいた川。冬木市の中心を流れる川。
冬木市は、日本でも有数の霊地なのでしょう? ここ一帯は大規模な龍脈の流れる土地です。ここにあるのは“循環と流転”の象徴である“川”です。ここを汚染されることがどれほどの被害を
後手に回ると一瞬で持って行かれかねませんね。とメーティスがこぼすのをアルトリアが聞いて、質問した。
「メーティス、何か対処法はありますか?」
「……そうですね」
メーティスは、決して士郎を視界から外さないようにしている。川を覗くのをやめて、少し上向きに考えていた。
「切り札を
メーティスが後ろにいくらか
「士郎の胸に眠るものと、あなた達二人の絆と。
これだけあれば大丈夫です。
ふと、気になった。
ふと気になって、アルトリアは士郎を見上げた。
士郎は眉をゆるめ、目を大きく開けていた。
「俺もさ、あるには……あるんだ。“切り札”ってヤツ」
まるで、士郎の胸の隙間から、想いが流れてくるようだ。全身から力が抜けている。指先がダラっとたれている。そして何より、士郎の瞳は優しかった。
「俺はこれまで、遠坂や桜と一緒に、戦地におもむいてきた。いろいろな戦いを経験した。
———だから、俺にもあるにはあるんだ。“必殺の一撃”ってヤツ」
士郎が、顔を上げた。日がさし、士郎の顔を照らしていた。
「美綴には分からない。でも、スカサハには届くと思う。
勝てる保証なんてない。でも、届かせることはできると思う」
士郎の左手が、動く。
それはまるで、腰に刺した鞘を掴んでいるような形だ。
「俺がいつも投影してるあの剣は俺が打ったもので、アーチャーが言っていたように魔剣でもある。
その能力は、“
“
切れると確信したものを切ることは、剣の世界では当たり前の話だ。バスケットボーラーはシュートが入るかどうかが先に
ようは、切れると確信できるなら、どんな剣を持ってきたところで切ることが出来る。切れると確信出来ないなら、偶然切られてくれることを願うしかない。そして、そんな偶然は訪れない。
だから、“担い手が切れると確信できるものを切る魔剣”なんてものは、存在自体が無意味なのだ。
「
士郎が左手で握った架空の剣の鞘。その架空の剣の
「俺が一番得意な武術は、居合だ」
弓も、居合と感覚が似てるから得意な方ではあるが。と、士郎。
「真名開放、なんてサーヴァントみたいな事はできない。俺の切り札はただの居合術だ。愛剣“
逆境でしか使えないような技だけど、それが切り札。俺の全てだ」
士郎は
◇ ◇ ◇
「いいですね? 士郎」
「ああ、存分にやってくれ」
その夜、三人して士郎の部屋に立てこもり、メーティスの
士郎があぐらをかいて座る。その正面にメーティスが座る。士郎が目をつぶり、メーティスは士郎の胸を指さした。
「———では」
メーティスの指がゆっくりと士郎に迫っていく。指先が士郎の胸に触れる。そのまま、胸の中にめり込んだ。
「——————んっ———っ」
士郎がもらす声が、隣で座るアルトリアにも聞こえてきた。思わず右手に力が入る。ずっと握っていた士郎の左手が、ピクッとゆれた。
人差し指の第二関節までめり込んだ指を、メーティスは引き抜いていく。指先が士郎の胸から離れたとき、本来なら血が出るところが、代わりに光が噴き出した。
噴き出した光は粒子となって部屋の中に充満し、ゆっくりと回転しながら収束し、士郎とメーティスとの中間に、ひとつの物体を形作った。
それは静かに浮いている。
それは微かに発光している。
それは———
「聖剣の……
アルトリアは自分の右手が汗で濡れているのも、さっきまで掌から感じられる体温に緊張していたことも忘れて、右手を握り締めたまま、左手を、空中の
「衛宮切嗣は、第四次聖杯戦争の
刀身を覆う方はせまく、鍔元にいくに従って広くなっている造形の、
アルトリアの手が触れると、その鞘は実体となって、彼女の手の中に収まった。
「———ではお二人に、切り札を授けましょう」
◇ ◇ ◇
ランサーがガヤガヤと引っ掻き回した夕食も終わり、残すは就寝のみとなった時、俺がふと疑問に思ったことを聴いた。
「なあ、なんで聖杯戦争は六十年周期だったんだろうな」
食後の余韻にひたりながら、お茶を飲みながら、なんとなく思ったことが口をついて出たのだった。
「聖杯に魔力を溜めるため、とうかがいましたが?」
バゼットさんが聖堂教会から入手した情報を明かしてくれた。その情報は、俺も、遠坂に聞いて知っていた。
バゼットさんと向き合うようにして、その先の疑問を提出する。
「でも今回の聖杯戦争は、前回から十年しかたっていない。つまり、サーヴァントを七騎召喚しても、なお魔力が余り続けてたって事になる。聖杯にくべられるモノがサーヴァントの魂で、聖杯が願いを叶えるシステムが“脱落したサーヴァントたちが座に帰るためにこじ開けられる空間の穴”であるのなら、余剰分の魔力を用意しておく必要はないはずなんだよな」
興味がわいたのか、セイバーとランサーの会話が止まり、二人が俺を見る。突然に注目されて、舞台に立たさせた気分になった。
「だいたい、聖杯戦争の開催周期を六十年に固定する必要はないと思わないか? “聖杯に必要な魔力が溜まった時点で聖杯戦争を開始する”と設定しておけば、第二次聖杯戦争や第三次聖杯戦争はほとんどタイムラグなしで始められた筈なんだよな。だって、サーヴァントの召喚分の魔力を溜めるだけでいいんだから」
サーヴァントの召喚分の魔力を溜めるのに六十年かかるじゃないか、という質問はナンセンスだ。だって、円蔵山の大空洞で俺たちは感じているんだから、サーヴァントを七騎召喚してなお、莫大な魔力をたたえる大聖杯を。
今回の聖杯戦争の開催が、それ以前より五十年も短くなった理由を遠坂は、『第四次聖杯戦争では、誰の願いも叶えなかったから』と言っていた。これは、サーヴァントの召喚だけでは、六十年かけて蓄えた魔力を消費しきれなかったことを裏付けている。
ということは、だ。魔力が溜まってすぐに、次の聖杯戦争を始めておけば、もっとたくさんの回数をやれたはずなんだ。
「けれど、実際はそうならなかった。明らかに“聖杯に必要分の魔力が溜まること”よりも“六十年周期で開催すること”に重きを置いていた。今回がイレギュラーだっていうのなら、なぜ十年も待ったのか。二・三年で始めてもよかったはずなのに」
俺は、思った以上に注目された。
軽い疑問だったはずだけど、思いのほかみんなの興味を引いたようだった。
「つってもま、儀式ってのは場所とタイミングだ。どっちかでもズレたら上手くいかない以上、六十年ってのにもなんかしら意味があるんだろうよ」
ランサーが頬杖をついて返答する。既に興味を失っていた。
「じゃあ、他にも何かの目的があったのか?」
「しらねーよ。こういうのは、考えたからといって解るもんじゃねえ。頭の片隅い置いときゃいいんだよ。分かるんなら、いつか分かる」
ランサーはテレビをつける。トッ、と華麗にステップを決めて、たった一歩でテレビ前を陣取った。
「しかし、気になるのも事実です」
ランサーを目の端で追っていたバゼットさんは俺に向き合った。
「聖杯戦争の儀式に他の意味があるのなら、それはやはり、根源に
「遠坂に聞いたよ。御三家の奴らも、そのために大聖杯を用意したこと。だって言うなら、聖杯戦争が聖杯に魔力が溜まってすぐに始まらないのは、根源に
「今さっき、ランサーも言っていたでしょう。『儀式ってのは場所とタイミングだ。どっちかでもズレたら上手くいかない』と。案外、聖杯戦争が起きるのは、魔法使いになれるタイミングだけなのかもしれませんね」
なるほど。と、俺はうなずいた。
「ああでも、美綴が聖杯を解体したから、魔法使いうんぬんは考えるだけ無駄かもな……」
俺は、食後のお茶を飲み干した。
次回、Fate/stay night[Destiney Movement ]
———第二十話、