もしも、美綴綾子の迷言が、本当に伏線だったなら。 作:夜中 雨
思うところがあって題名を変更しました。
内容は前と同じです。
『私は、王になるべきではなかったのです。私ではブリテンを救えなかった。ならば聖杯によって、私よりもふさわしい人物が王になれば……』
セイバーは
だか、ブリテン王国が一度滅ぼされる運命にあったというのなら、話は全く変わってくる。
“Fate/stay night”という儀式の被害を最小限に抑えることができたのか、その後のウェールズの発展に十分なものを残すことができたのか。
それはきっと、未来の政治家が決めること。未来の国民が決めることだ。だってまだ、ブリテンは続いているのだから。“ブリテンという名前の国”はなくなっても、かつてブリテンの国民だった人たちの子孫が、まだこの世界に生き続けているのだ。なら、セイバーに必要なのは“それ”だけだ。自分がどういう王として噂されていたのか、かつての自分はどういう王として
だから、
だからきっとセイバーは、何も、間違ってはいなかったのだ、と。
◇ ◇ ◇
「では。シロウ、メーティス、しばらく留守にします」
「ああ、遠坂たちによろしくな」
遠坂・慎二チームとの連絡係をかって出たアルトリアは、この日、衛宮邸を後にした。
メーティスのこと、
「行ってきます、シロウ」
アルトリア・ペンドラゴンは走り出す。この事件の、収束の気配を感じながら。この聖杯戦争の結末も、美綴陣営との決着も、聖杯そのものがどうなっているのかすら分からないまま、収束していく気配を感じて。
“衛宮士郎という人間はどういう人か”というのが、ここに来て少し分からなくなった、とアルトリアは思う。
士郎とアーチャーが
「シロウは、サクラのことをどう思っているのですか?」
アルトリアはその夜、士郎の部屋に訪れていた。本当は凛との連絡係を名乗り出ようと思ったのだが、その前に、気になったことを士郎に聴いた。士郎はなぜか、それに
「憧れた人、かな」
そう言って士郎はまた、いつものように笑うのだ。お互いに向かい合って座っているこの状況で、アルトリアが見逃すなんてあり得なかった。
「俺が憧れている人間は、三人いるんだ」と、士郎が言った。
「一人目は、俺の
二人目は、眩しいくらい鮮烈に生きる人。遠坂凛。
そして、三人目が桜なんだ」
アルトリアは、正座しながら聞いている自分の体を緊張させた。
多分、ここがそうだと直感した。士郎がこれから話すこと、それこそが、士郎にとっての一番奥。士郎の、いちばん柔らかい場所。
「桜はさ、俺にとって、唯一安心できる人だった。
取り
ほら、人と人とのコミュニケーションってのは、共感で成り立ってるところが大きいだろ? と、士郎はちょっと首をかしげた。
「俺はさ、誰かと共感しあえたことが無かったんだ。俺が感じた事をそのまま話すと、周りの人達は口をそろえて言うんだよな、『そう感じるのはおかしい』と。
遠坂なんかは特にそうだった。『私は厳しく行くわよ』って言って、俺が暴走しそうになった時とか、普通とは違う価値観を元に動いた時なんかに、よく
それはとてもありがたい事だと、士郎は言う。遠坂が俺なんかの為に時間と熱意を使ってくれるのは、この上なくありがたい事だ、と。
「シロウ」
アルトリアは、
「シロウは、どうしてそう、自分を
アルトリアは、士郎の手を握っていた。
士郎は握りられていない方の手で首筋を触る。困ったように笑っている。
「自分を
俺は自分の事を、“幸福な人間”だと思ってる。世界で一番、とまではいなくても、それなり以上には幸福だと」
士郎はアルトリアの手を握りかえし、目と目を合わせた。
「人生っていうのは、お金のようなものだと思う。降って湧いた、あぶく銭のようなもの。
『これは俺のお金なんだから』と、自分のために使う人。『元々は自分のものじゃなかったから』と、誰かのために使う人。
俺はどっちでもいいと思う。ただ俺は、それを自分のために使ってるんだ」
「ん? シロウは『正義の味方になりたい』と言っているのですから、“誰かのために使う”のではないのですか?」
アルトリアの質問から少しだけ
「たとえば、誰かを助けるとするだろ。そうすれば、その人は
「しかしシロウは、報酬を求めないではないですか」
「そりゃあ、貰うものは全部最初に貰ってるんだ。
「シロウは、報酬として何を?」
「俺は、今ここに生きてるだろ? だから、報酬はとっくに貰ってるんだよ、セイバー」
———燃え盛る炎と、一面の焼け野原———
「確かに、あの場所“は”地獄だった。だけど、それだけでもなかったんだよ」
燃え盛る炎の中、士郎が一人で歩いていると、さまざまな人を見た。
その場の空気に当てられて泣きじゃくる赤ん坊を、ゆっくりと、座り込みながらあやすお母さん。
道端で死んでいる大人たち。
衛宮士郎の原初の記憶。
そこでは、誰もが“今”を必死に生きていた。自分も、隣の誰かも、もうすぐ死ぬのは分かってるのに。死の瞬間が一分後か十分後か、それだけの違いでしかないのに、『それでも生きたい』と、全身で叫んでいたんだ、と。
「その光景が、とても綺麗だと思った。あの場所が綺麗だと思ったんだじゃない。あの場所でも、あんな場所でも輝いている人の心が、とても、綺麗だと思ったんだ。
———その果てに、切嗣がいた」
繋がっている手と手を通して、士郎の心が染み渡ってくるようだった。
交錯する目線と目線、重ね合った二人の
「俺が『正義の味方になりたい』と言い続けているのは、あの光景があるからなんだ。
世の中には、
——— 果たして、私は誰を救いたくて、その戦場に
この手で切り落とし、この手で殺した人をこそ、救いたかった筈なのにな———
こと、ここに
「では、シロウは……シロウの言う“正義の味方”とは……もしかして」
「“正義”、ではなく“正義の味方”。
俺はあくまで、『味方をしたい』んだ。“頑張っている人たち”の味方を。
結局、アイツですら、ただの一度も『正義をなしたい』だなんて事は、言わなかったんだよな」
「シロウは、いつだって“救いたい誰か”のために、戦場に
心持ち、手を握る力を強くする。そうすると、士郎が笑った。心からの笑みではなかったけれど……
「だから、そんな俺だからこそ、間桐桜に憧れた。
俺は、誰かを恨んだことがない。ブチ切れたこともない。俺のそういうところが特に、『
それはきっと、
当然だろう。とアルトリアは思う。
“士郎が味方をしたい人たち”はきっと、士郎以外には見えないのだ。“士郎が味方をしたい人たち”は、加害者と被害者のことなのだから。
士郎はきっと、加害者も被害者も助けたいのだ。だけど、加害者には加害者の味方がいて、被害者には被害者の味方がいる。そういった、加害者や被害者の味方たちはお互いに、反目しあっているのだから、混じり合うことはない。
お互いに、敵陣営が幸福になることを許さない。
——— これが私からの教訓だ、衛宮士郎。衛宮士郎という人間は、大切な人を救おうとすればする程に、周囲に災厄を撒き散らす———
だからこそ、加害者と被害者とを救おうとすれば、加害者や被害者の味方たちが、勝手に戦火を大きくしていく。
——— それからは、数を基準に人を救うようになった。己の心が信用できないと悟ったからだ———
「桜は、俺と似た感性を持っている。我慢するのが得意なところとか。『傷付けるくらいなら、自分はいない方が良い』って思うところとか。
俺も、自分がいなくなる方が状況が良くなるなら、真っ先に自分を捨て駒に出来るし……
でも、桜は、どこまで行っても普通の女の子なんだよ。
下心や打算、好奇心の方が信用できるところとか、無償の愛ってヤツを『理解できなくて怖い』って思えるところとか、さ」
いやだ。と、アルトリアは思った。
士郎の、今の笑みを見るのが嫌だと。
やっと、今しかた、士郎の笑顔が僅かに変化してきたところだったのに。
困ったように、士郎が笑う。
仕方ないな、と士郎が笑う。
諦めたように、士郎が笑う。
「俺には、そんな事思えないから。俺は、そういった場所を、全部素通りしているから。
———そんな俺が、空っぽに見えるらしい」
人間が覚悟を決める時、そこには、不安や痛みが必ず
「俺は、最近までそれがわからなかった。俺にとって覚悟ってのは、一番最初に決めるものだったからな。
何かを始める時、何かが変わった時、未来の状況を予測して、最初に自分の行動を
アルトリアの左手が、士郎の手を握っていない方の手が、暖かく感じられた。手の
二人は、ずいぶん近づいていた。
「いざと言う時、俺は迷わず行動に移す。移せることを知っている。その瞬間、たとえ苦しかったとしても、刃を振り抜く自分自身を、ありありと想像できるから。その為にこそ、俺は覚悟を口にする。
だからかな……俺の覚悟は、軽く見えるみたいなんだよ」
『そんな簡単にやるって言えるわけないだろう』、『どうせ出来もしない事を
士郎の覚悟のほどを知らない人たちからすると、適当な事を言っているようにしか聞こえない。
実際に、士郎が行動に移す時、どれほどのモノを飲み込んだのか、想像できる人はそういない。
人は、常に自分を基準にして考える生き物だ。だから、“もしも、自分がその状況になった時、そんな風に出来るか”と考えた時、自分なら絶対にできないと思ってしまったら、『そんな事出来るヤツなんかこの世に存在しない』という結論まで、ノンストップで進んでしまう。
もし、そんな事が出来るヤツがいたのなら、そんなヤツは普通じゃない、どっかしらが狂っている。
今まで生きてきた人生の中で、そんなヤツいなかったもの、そんなヤツは何かが壊れてるか、あるいは、気づかないだけで、壊れる寸前なんじゃないかな?
衛宮士郎という男は、感情と行動とを切り離す事が出来るらしい事を、アルトリアは知っていた。
覚悟を行動に移す事が
士郎にとっての原初の記憶は、“一面の焼け野原”だ。ならば、士郎にとっての“辛い”の基準もまた、“一面の焼け野原”になるのだろう。
“一面の焼け野原”の中を歩いている時の感覚、それよりもマシなら、士郎はそれを飲み込んでしまえる。飲み込めることを知っている。
だから士郎は、先に覚悟を決めることが出来る。決めた覚悟を行動に移せると、確信できてしまえるのだから。
◇ ◇ ◇
遠坂邸についたアルトリアは、呼び鈴を鳴らし、アーチャーに出迎えられて中に入った。部屋の中では、凛と慎二が猫足のついたアンティークチェアに腰掛けながら、ローテーブルに資料を広げて会議をしていた。
アルトリアは、座っている凛と慎二に、ここ三日足らずの間に起きた出来事を語った。メーティスのことと、
「ふーん、成る程ね。良く分かったわ、セイバー。ありがとね」
「いえ、こちらこそ、連絡が遅くなってしまって」
話し終わると、凛はなんとも奇妙な表情になった。笑みがこぼれそうな、泣き出しそうな、そして怒気が混ざったような、そんな表情に。
「あーあ、あんなに歩き
凛は両手で自分の頬を叩いた。
バシッといい音がなり、ゆっくりと目を
「なんにせよ、そういう事なら動くっきゃないわね。
戻るわよ、みんな。どうやら、聴かなきゃいけない事も増えたみたいだし、作戦会議といこうじゃないの!」
◇ ◇ ◇
「皆さま、初めまして。リビアとアナトリアとの大地母神、“知恵”のメーティスです。
衛宮邸に帰ってすぐ、士郎が入れたお茶が行き渡ったところで、メーティスが自己紹介した。
居間の真ん中に陣取っている座敷机を八人で囲んで、メーティスのことを周知する。
「じゃあまずは、あなたの宝具を教えてちょうだい。
これから反撃をかますんですもの、ちゃんと知っておきたいわ」
遠坂凛は、膝の上に乗せていた真っ赤なコートを、背中に回して後ろに置いた。
対面にいるメーティスは、心持ち真面目な顔をした。
「一つ目の宝具は“
二つ目は、“エポナ”という
メーティスは二度、三度、深呼吸をした。それから、もう一度口を
「そして最後が、“
「……、効果は?」
「ギリシアの女神たちに分散した“かつての権能”を、
凛が動かなくなった。目を伏せるようにして、
誰も、慎二ですら動かないまま
「それじゃあ、メシにしよう」
すかさず、士郎の声が割って入った。空気が
「みんな、何か食べたいもの、あるか?」
◇ ◇ ◇
「マヌケか貴様は。イカの特性を考えろ、味の具合を
「わかってるよ、アーチャー。だから今———」
「手が止まってるぞ
こうして、士郎とアーチャーとが、共に台所に立つ姿を自分が見るのは初めてかもしれない、とアルトリアは思った。これまでのアルトリアは、台所のことを気にも止めていなかったから。
士郎もアーチャーも、アルトリアに背中を向けて
食材は士郎からアーチャーへ引き継がれ、アーチャーの手を
アルトリアはまるで、高等魔術を見ているような気分になっていた。
そんなアルトリアの耳が、
気になって追いかけてみると、長い廊下の途中、ちょうど中庭に出られる場所で凛が立ち止まっていた。日の光を浴びながら、赤いセーターを日に当てながら、中庭をぼんやりと眺めている。
歩いて追いついたアルトリアは、そんな凛に後ろから声をかけた。
「ありがとうございます、リン」
凛は目線だけでこっちをみた。
「良いのよセイバー。私と士郎との関係は、いつもあんな感じだから」
それから凛は、そこにある
「なんと言うか、“手のかかる弟”って感じなのよね、士郎は。
バカな事をバカのままやり切ってしまう。
穏やかな冬の日差しに照らされて、凛の顔が白くみえた。
「私は、苦労したことがない、線を引いてしまうのよ。“自分に出来る事”と“自分には出来ない事”の
アルトリアには、今の凛がとても、とても、
「アイツらのやり方は
アイツらにあるのは、ただ理想の結果だけ。“自分がしたいからそうする”んじゃなくて、こうなって欲しいという結果から逆算して、最も可能性の高い手段を選び取るの。『それで確実に成功するかどうか』を考えるんじゃなくて、『成功の可能性が一番高いのはどれか』を考えるのよ。つまり、アイツらはそもそも、“自分には出来ない事”を、ずっとやり続けてきた。
たった一度でも、ある手段を選ぶと決めたなら、それを最後までやり通す。
まるで、そうイップットされているロボットのように」
凛が笑った。その笑みを見て、アルトリアは『シロウのようだ』と頭によぎった。
「でもね、セイバー。私、時々こう思うことがあるの。あんな風に、自分の能力で線引きなんかせずに、ただ物事に打ち込むことが出来るなら、それはなんて純粋なんだろう、って」
「リンは、サクラを選ばなかったシロウに、腹を立てていたのではなかったのですか?」
「前にセイバーも聞いてたでしょう? 士郎がどうやって冬木に帰ってきたのか。私たちに眠らされた後、どう行動してたのか」
凛は、座ったまま上半身だけで振り向いて、アルトリアを見上げた。
「士郎と桜とは、もう終わってるみたいなのよ。
———ああ、『終わってる』って言うのは、“関係が”ってことじゃなくて、“覚悟を決めることが”ってことね。士郎と桜との
だから、何の迷いもなく、士郎は冬木市まで戻ってきた」
凛は、あの時の士郎の話を聞いて初めて、その事に思い
「それまでは、まるで気づかなかったわ。だってあの二人、感情も
凛は不満を表すように、口をへの字に曲げて見せた。口元は不満を表してこそいるけれど、凛の表情は穏やかで。それをみたアルトリアは、一瞬、胸に詰まるものがあった。
「リンはこれまでも、そしてこれからもずっと、シロウと共に歩んでいくのですね」
アルトリアにしては万感の思いを込めた言葉の
「そんな事ないわ。士郎とはいつか別れるわよ、私」
「なぜです。これほどまでに、二人の関係は強固ではないですか」
「耐えられないから、かな。
士郎はピンチの時、自分が信頼している人間を後回しにする傾向があるのよ。私や桜をどう思っているのか本当のところは判らない。でも、私たちと見知らぬ人とが同じように危機にいる時、士郎は見知らぬ人を先に助けるわ」
———たぶん、自分自身を助ける事に罪悪感を感じるのね。と凛は言う。
士郎に感情がないわけじゃないのだと。
「“大火災”での罪悪感から、『自分が幸せになるのは、世界で一番最後でいい』なんて考えるようなヤツだから。『もしも、“幸せという名の座席”に限りがあるのなら、代わりに、
そんなヤツが普通の感情を持っているから、不幸に突っ込んで行くような性格になるのよ」
凛は笑った。アルトリアが士郎に似ていると思った笑みだ。どこか困ったような、どこか諦めたような。
「結局、アイツは普通の男の子なのよね。過去の経験から、不幸に突っ込んで行くようになっただけで。
『人間はみんな幸せになりたがるのが普通だ』なんて考えているうちは、絶対に思い
士郎の異常のことを、精神がおかしいんだって考えているうちは、絶対に思い
士郎は普通の男の子なのよ。普通の男の子だからこそ、自分で自分が許せないの」
「リンは、ずっと?」
「ええ、士郎を
でも、限界を感じているのかもね、私。
ずっと、士郎が自分を許せるようにしたいと思い続けてきたけど。それってつまり、士郎自身に“世界中の人々が幸せになっている姿”を見せつけて、安心させてあげないといけないわけで……。そうなって初めて、士郎は自身の幸せを考えることが出来るようになる」
凛は
アルトリアは凛を見下ろして、彼女の笑顔のわけを知った。
凛はアルトリアを、眩しそうに見上げていた。
◇ ◇ ◇
「これが、日本料理の真髄だ」と、ドヤ顔でアナゴを提供するアーチャー。
「前に食べたものと全然違います」と、目を輝かせるセイバー。
「ほう? なかなかやるじゃねーか」と、目を細めるランサー。
「美味しいですよ、士郎」と、ありがたいことを言ってくれるメーティス。
そこに、マスターの面々も加えて、この日の昼食は
俺、衛宮士郎はといえば、調理の主導権をアーチャーに握られたことにショックを受けながら皿洗いに
「ありがとな、セイバー」
「いいえ、シロウ。私が手伝いたかったのです」
俺が差し出すお皿を受け取って
「もうすぐ、聖杯戦争も終わりそうだよな」
「はい。それもありますが、私とシロウが出会ったのが、ほんの十日ほど前だなんて思えなくて。
ずっと前から、もっと一緒にいるような……そんな気が、してきたものですから」
水で流して泡を切った皿を、左手にいるセイバーに渡す。セイバーが皿を受け取って
こうして、セイバーを見ることは度々あった。だがその度に俺は『衛宮士郎はセイバーのマスターには相応しくなかった』と、思うのだ。なまじ戦場を経験している分、俺には純粋さが欠けている。
セイバーとくつわを並べるなら、もっと純粋な人の方がいいと思う。セイバーに対しては、少し強引にでも距離を詰めようとする人の方が、きっと良い結果を引き寄せてくれるのだと。
俺は、セイバーに対して距離を詰めるようなことは出来なかった。俺とセイバーは同じものを掲げた者同士、“それ”がどういう意味かが分かってしまう。すでに最も大切なものを持っているセイバーに対して、それを捨てるように要求することが、俺にはついぞ出来なかった。
「ありがとうセイバー。俺の進むべき道が、少し分かった気がするよ」
◇ ◇ ◇
「毎度毎度、えらく
立ち上がった遠坂が、握り拳を震わせている。
「全くだ。だがこちらとしてはやりやすい。
アーチャーは後ろで、腕を組んでたたずんでいる。
「私たちはすでに二度、彼女に負けているのです。ランサー、今度こそあの女を、スカサハを倒しますよ」
「まあそう何度も、無様を
武装を展開したランサー陣営は、静かに戦意を高めている。
「………………」
一人座ったままの慎二は、口をつぐんでいる。
そして、
「
「シロウ、メーティス。
「もちろんだセイバー。今回は、
俺は不思議な感覚に見舞われていた。
これから何かが始まるような。あるいは、これで何かが終わるような。
◇ ◇ ◇
「“宿命”と“運命”との違い、桜は分かる?」
魔術によって空中に固定されている間桐桜に、右隣から声がかかった。
「結論を言ってしえば、“何のために生まれて来たのか”が“宿命”で、その答えになるのが“運命”ね」
眼下には
桜は今、
「“何のために生まれて来たのか”がハッキリしている奴も、たまにいる。
“この伝統を守るため”に生まれて来た。
“親から引き継いだこの知識を子に
それから、“この国を護るために生まれて来た”、とかね」
右隣には、美綴綾子。巫女装束で、彼女も
「でもそういうのさ、大抵の奴らにはないじゃん。
忘れてるってのが、本当のところなんだろうけど」
綾子は左手で桜に触れていて、右手で懐中時計を
綾子は、その懐中時計を使って、桜の魔力と周囲の空間とを結合させていた。
「かと言って、ずっと宿命の無いまま、なんて事はないワケよ。だって誰にだって、“自分の人生が変わった瞬間”ってのがあるものだから」
懐中時計をパチリと閉じた綾子は、「よし、挑発完了っと」と呟いて、それからやっと、桜の姿を視界に入れた。
桜は、捕まった当時のままの服装、黒のカーディガンに桜色のスカート。両腕を、腰の後ろで束ねるように固定されている。
「桜、“運命”ってのは、“
———
美綴綾子は、右手で何もない空間を掴み、
「
アンタはそこで、ベソかきながら見てるといい。衛宮に自分が、殺される瞬間をさ」
次回、Fate/stay night [Destiney Movement ]
———第二十一話、“