もしも、美綴綾子の迷言が、本当に伏線だったなら。   作:夜中 雨

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《第八話、美綴 綾子》

 

 

 聞こえたそれは、慎二の声で……

 

 

「——————Time alter(固有時制御)double acce(二重加速)!」

 

 

 明らかに、魔力の篭った詠唱だった。

 

「—————うっ……そ……」

 

 驚いて目を見開いた、その先に。

 私の瞳が映したモノは、右隣に立つ慎二、彼の左指が、蟲をつまんでいた。私の、鼻先で。

 

 ソレは、一匹の蟲だった。

 小さな、豆の様な蟲だった。

 体の割に、大きな棘のある蟲だった。

 精子の様な、長い尾のある蟲だった。

 

「………………やっと捕まえた、ジイサン」

 

 いくらかの静寂、その(のち)に慎二は、声を漏らした。

 

「コレでやっと、僕もあのステージに立てるって訳だねぇ」

 

 全く、手こずらせやがって、と悪態をつきながら、慎二は汚物(むし)を広口瓶に詰め、コルクで栓をして、その上から紐で結びお札を貼って封をした。

 

 ———明らかに、“一人前の魔術師の手際”だ。

 目を細める私をチラリと見て、説明するからさ、とだけ口にする。木陰に投げ捨てていたであろうスーツケースを持ってくると、月明りの下、土の上でそれを開け、慎重に瓶を仕舞い込んだ。

 

「————ありがとう、慎二。助かったわ」

 

 しゃがみこみ、私に背を向ける慎二。その背中に語りかける。

 

「貴方が来てくれなかったら、今頃わた———」

「遠坂には腐るほど借りがあるんだから、生きててくれないと僕が困る」

 

 パチリと音がして、スーツケースが閉じられた。全ての工程を終えた慎二は、しゃがんだままでこちらを向いた。

 

「——————それでも、コレを借りだと思うならさ…………一つ、頼みたい事があるんだ」

「頼み事、ですって?」

「そう、僕から遠坂への、一世一代の頼み事だよ」

 

 またしても、ニヤッと笑う。

 そんな慎二を見ながら、驚いた、と口にする。まさかあの人畜無害な慎二が、こんな取り引きめいた真似をするなんて。

 

 数瞬、世界が闇に包まれる。

 月が雲に隠れたのか、明るかった周囲が、ほんの数瞬闇を持つ。

 

 そして、世界が光を取り戻した時の事。

 

 

 

 —————慎二は、遠坂 凛に土下座していた。

 

「お願いだ、遠坂。桜を、桜を助けて下さい。

 何でもするから、だから…………桜を助けて……」

「え? ちょ……慎二、だって桜は———」

「まだだ! まだなんだよ遠坂。ソコに閉じ込めたゴミなんてのはどうでもいいんだ。そうじゃなくて…………

 あの悪魔が、綾子のやつが、桜を地獄に突き落とそうとしてるんだ!」

「…………は?」

 

 困惑する。

 とりあえず慎二を立たせようと近づいて、その肩に手をかけたら、慎二のヤツは深々と頭を下げた。

 それはもう深々と。

 地面に、額を付けながら。

 

「ぜんぶはなす! 僕の知ってる事は全部話す! 遠坂の言う事は何でもやるから、だから桜を…………」

 

 なんて事を言い出した。

 何でもする、とか。

 全部話すから、とか。

 そんな事を延々と、まるで壊れた機械のように。

 

「全く、こっちもさっぱりだってのに……」

 

 右手を広げ、顔を覆う。

 ハァ、とひとつ吐息を吐いて、“遠坂 凛”を身に纏う。

 

「とりあえず、中に入らない? ここで話す事でもないでしょうしね」

「————ッ! それは、遠坂——」

 

 やっとこさ、顔を上げた慎二には、

 

「ええ、話くらいは聞いてあげるわ」

 

 特大の笑顔が見えてた筈だ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「————凄い」

 

 としか言いようがなかった。

 俺自身の語彙力不足ってのもあるが、たった今目にした光景が俺の予想を遥かに上回るものであった事も、複雑な感想が出てこなかった理由だろう。

 

「当然だ下郎。あれこそは、世の民草供の願いの結晶、(オレ)の蔵にすら無い一級品だぞ」

 

 草葉の陰に……隠れる事もなく堂々と屹立(きつりつ)する金髪の男。

 高低差もあり、若干以上に離れているとは言え、こうも堂々としているのは如何なものか。

 

「って言うか、お前は誰なんだよ?」

 

 金の瞳が、一瞬、こちらを射抜いた。

 と同時に、その頭上の空間が揺らぎ、黄金の波紋を描く。

 

「………………この(オレ)を目にして尚、相貌を見知らぬと言うのなら、その首今すぐ切り飛ばす(ところ)だが……今の(オレ)は機嫌が良い。『ここで貴様を殺してくれるな』と嘆願されてもいる…………故に、寛大な心で一度だけ見逃してやる。

 

 ———失せろ、贋作者(フェイカー)

 

 尊大な男の言葉と共に、何かが一つ飛んできた。

 

「っ———————!!」

 

 ——銀色の剣だ。

 そうと理解した瞬間(とき)には既に、俺の身体は動いてくれた。

 

 横に跳ぶ。

 勢いそのままに受け身に移行し、半回転後腕の力で身体を跳ね上げさらに跳躍、坂道を、木々の間を、転がるように駆け下りた。

 

「—————」

 

 耳をすますが聴こえない。

 気配も感じず、追撃もない。

 ヤツの口にしたあの言葉、「見逃す」のソレは本当だったのか、男が追って来る事はなかったのだった。

 

「なんだったんだ? 今の……」

 

 俺だってそれなりには鍛えてるんだ、攻撃意思が丸出しの、これ見よがしに波打たせている金色の穴からの射撃なんてモノ、そう易々とは当たらない。けど……

 

「あの穴から覗いたモノ、俺に向かって飛んできたモノ…………」

 

 それは尋常じゃない魔力の篭った、“宝具”と呼ばれる代物だった。

 

「魔術師か? にしては思考回路がおかしいしな……」

 

 一度遠坂たちに相談するか、と思う。

 しかし、事はそれだけではすまなかった。

 

 そう……木々の下、道無き道を下っていると、突然に、魔力が膨れ上がったのだ。

 

 其処は、俺の目指す場所。

 駆け下りようと思っていた場所。

 

 セイバーたちの、いる場所だ。

 

 ……全く、次から次へと。

 

「訳が分からない。置いてけぼりにされた気分だ!」

 

 叫ばずにはいられなかった。

 一段と速度を上げて、衛宮士郎は駆け抜ける。

 

「兎に角、事態は把握しておかないとな……」

 

 独り言のように呟いて、衛宮士郎は急行する。

 トップスピードを維持したまま、木々を避け、藪を飛び越え、段差を飛び降りる。

 そして終に、視界が開けたその先に、セイバーたちの姿があった。

 

 冬木海浜公園。

 本来なら、花壇の花は咲き乱れ、足元には色とりどりのレンガがあって、潮風が気持ちいい、そんな場所。

 けれど今は、無残だった。

 足元のレンガは吹き飛び、街灯は無残にひしゃげ、クレーターが空いている。

 極め付けは一直線に海へと伸びる、一筋の破壊痕。

 その出発点に、三人の英霊が立っていた。

 

「セイバ──!!」

 

 俺が駆け寄ると、あいも変わらずアーチャーの奴が不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「随分と遅い到着だな、衛宮士郎。そして何も解っていない。独断専行の挙げ句に同盟相手を危険に晒すか……これは、縁を切らなければ何をされるかわかったモノではないな」

「何が言いたいんだよアーチャー。言いたい事があるならサッサと言った——」

御二方(おふたかた)、内輪揉めは程々に……目の前には危機が迫っているのですから、目を背けてもいい事はありませんよ」

 

 俺たちの(言葉の)殴り合いにそそくさと割り込んできたのは、紫色の髪の美女、つまりライダーだ。彼女はバイザーに隠れて見えない瞳で一点をずっと見つめている。ここから少しばかり遠く、地上から四メートルくらい高い場所。俺たちに注意している間すら、目を離さない徹底ぶりだ。

 それはつまり、それだけのモノが有るという事。

 よくよく考えてみれば、俺は爆発的に高まった魔力を感じてこの場に急行した訳だが…………たった今、一瞬とはいえその存在を忘れていた。

 俺が遠坂のように“うっかりの呪い”にかかっていると考えるのは現実的ではない。加えて、いくつかの戦場を潜り抜けたお陰か、気を抜いてはいけない場面というのは把握しているつもりだ。それは目の前のアーチャー(こいつ)も同じだろう。

 にもかかわらずこうなったという事は、そうなるだけの“力”が働いた、という事か? 

 

 俺の視線が、ライダーのそれをなぞって動く。予想が正しければ、その先にあるモノこそが…………

 

 

 

「———久しぶりじゃない? ねぇ、衛宮。元気そうで安心したよ」

 

 ニカッと、まるで猫のような笑顔を見せる、美綴綾子がそこにいた。

 

 

 

 

 衛宮士郎にとって美綴綾子という女性は、“仲のいい一般人”といったところだろうか。

 私立穂群原学園の三年生、俺がかつて所属していた弓道部の現部長。そして何より、魔術やら神秘やらとは全く無縁な、平和に暮らす大人びた少女。

 よく同級生に「お母さん」やら「お婆ちゃん」やら言われるたびに「あたしはそんな歳じゃない!」と言い返し、後でこっそりヘコんでる。そんな、何処にでもいる女の子なんだ。

 

 だからだろうか、俺は“美綴”と“魔術師”という二つの単語を、ずっと繋げられないでいた。

 いや…………繋げたくなかったんだろう。

 

 

 その美綴が今、制服姿で木の上に立っている。

 

「美綴、おまえ——」

 

 木っていうのは見て判るように、先端にいく程に枝が細くなっているものだ。当然、木の天辺も先端だ、その枝はとても細いはずなんだ。それなのに、当然のようにその上に立つ事が出来る、その事実に妙に納得する自分がいた。

 

(えにし)の流れを見るに、そっちの金髪のがあんたのサーヴァントでしょ。衛宮、また随分と面白いのを引き当てたわね」

 

 顎に指を当ててフムフムと頷く美綴。その姿は、あまりにもいつも通りだった。それは、魔術だとかサーヴァントだとかの話をするのが彼女にとっては日常だという事。

 

 そう、ここまでのものを見せつけられて、やっと俺は———

 

「美綴……お前、無事だったんだな」

「うん? 無事も無事、ピンピンしてるじゃない…………にしても、やっぱり()()なのねぇ。もうちょっと、気概ある男だと思ってたけど……」

 

 衛宮も、この程度が限界か。と腕を組んだ美綴は、仕方ないか。と呟いて、俺たちの前に降り立った。

 当然、サーヴァントたちは警戒する。今も各々の武器を構えて攻撃しようと踏み込むが……

 

「—————!」

 それは誰の驚きだったか、サーヴァントたちが一瞬、硬直した。

 否、()()()()()()()のだ。

 

 アーチャーが舌打ちをして、一歩二歩と引き下がる。セイバーとライダーも動かない。その事実に、俺も言葉を失った。

 程度の差はあれ、三体のサーヴァントは攻撃しようとしていた筈だ。アーチャーなんかは特にだが、すでにモーションに入っていた。白黒の双剣を呼び出して、振りかぶっていた訳だ。それを()()()()()()()()()()()()

 その(かん)、美綴がやった事はひとつだけだ。唯、瞳をサーヴァントに向けただけ。

 

「他に、飛び入り参加は?」

 

 美綴は何事も無かったように言葉をつなげる。一般人では見切れないほど高速で動くサーヴァントを抑え込む、あり得ないほどの現象が、何事も、無かったように。

 

「……では改めて—————時計塔(ビックベン)が一角、冠位(グランド)の称を(いただ)く者、“例外の黄色(エクストラ・イエロー)”美綴綾子———」

 

 フワリ、と(たお)やかに礼をして、彼女の瞳が俺を射抜いた。

 交わった視線を越えて、美綴の瞳が琥珀に輝く。

 瞳の色なんて、普段は意識することもないけれど、闇夜に浮かぶ琥珀の瞳はゆらりゆらりとゆらめいていて……何故か、俺の心を不安にさせた。

 

「——ねぇ、衛宮。今日はさ———」

 

 

 頭が上がり、全貌(ぜんぼう)が見える。

 彼女の笑みはどこか妖艶で……

 

「———人類を、滅ぼしに来たんだぜ」

 

 …………ちょっとだけ、カッコよかった。

 

 

 

「————フゥゥ」

 誰からともなく、息を吐いた。

 呑まれていたと言うべきか、一気に主導権を握られた気がする。

 

「———『人類を滅ぼす』ときたか。これは、あまり穏やかではないな」

 

 やはりというべきか、口火を切ったのはアーチャーだった。他の二人は役割に徹してるというか、こう言う場面で多くを語る性格ではない。その点アーチャーはまず口から入る事が多い。英雄としての経験がそうさせるのか、あるいは生来の性分か、まずは言葉でもって相手を揺さぶり、隙を作ろうとするヤツだ。

 

「それで? 私たちは一体どこから信じればいいのかね?」

 

 ……だから友達いないんだよ。俺は勝手に決めつけた。

 

「別に、信じてもらいに来たわけじゃないぜ。アーチャー、コレはさ———」

 

 そこに、一陣の風が吹く。

 

「———戦線布告なのよ」

 

 その風は、俺たちから美綴へ向かって吹いていて、アーチャーの外套を揺らしたソレが美綴の身体へと吹き荒ぶ。彼女の髪はやってくる風によってうなじも(あら)わに舞い踊り、猫にも似た琥珀の目が僅かながらに細くなる。

 

「聖杯は、私が貰うぜ」

「……成る程な。君は、聖杯戦争の参加者というわけか」

「まさか? 私があんな悪趣味なイベントに参加する筈ないでしょ。私の目標は聖杯によって叶えるんじゃなくて、聖杯戦争を使って叶えるんだ。

 つまり、聖杯戦争そのものを利用して人類を滅ぼすってわけ」

 だから、私はマスターじゃない。美綴はその両手の甲をこちらに向けて、令呪のなしをアピールする。

「———ならば貴様は、ここで死ね!」

 

 再度、アーチャーが一歩踏み込んだ。二色の双剣を両手に束ね、横薙ぎを二重に、地面と平行に二本並んだ、双剣による二重斬撃。

 それを、俺は……

 

 

「…………同調(トレース)開始(オン)

 

 鋼の薙刀を地面に突き刺し、それを両手で把握して、長い長いその柄でもって、二本の剣を受け止めた。

 ドン、と手に衝撃がくる。強化魔術をかけていても、やはり宝具には勝てないらしい。あの一瞬で、柄の半ばまで断ち切られた。

 

 ……この武器はもう使えない。ささくれ立った長柄モノなんて使った日には、手に刺さって隙になる。そんなモノでサーヴァントと戦うなんて、命が百あっても足らないだろう。

 

「……なんの真似だ、衛宮士郎」

「それはこっちのセリフだ、アーチャー。お前、美綴を殺そうとしただろ」

「そこの女は脅威だ。加えて、世界を滅ぼすと口にした。ならば、世界の為にも、女をここで殺しておくべきだ」

「なんでそうなるんだ! まだ何もやってないのに、殺すなんて間違ってる!」

「“より多くの人間を救う”というのが正義の味方だろう。

 ……全ての人間は救えない。ならば、全体を救う為に少量の人間は見殺しにするしかない…………この女は今『人類を滅ぼす』と言ったのだ。故に! まだ行動を起こしていない今こそが、人類を救うチャンスなのだと何故解らない!」

 

 膝を曲げ、しゃがむ。

 ———瞬間。薙刀の柄が切られた。二歩後退。弾き飛んだ石突き側は完全に無視して、(きっさき)側を再度補強・強化してから、正眼に構えて上半身を防御した。

 

「“疑わしきは罰せず”、推定無罪の法則を忘れたのかよ! 美綴のどこに、犯罪の証拠があるってんだ!」

「証拠ではない、脅威であると言っているのだ、戯け! そこの女は、サーヴァントをすら殺し得る、一度(ひとたび)動けば、手に追えなくなるのだぞ!」

 

 アーチャーは左前の半身(はんみ)構え、黒の陽剣・干将をこっちに真っ直ぐ伸ばして構え、白の陰険・莫耶は顔の前で寝かせて構える。

 そして——

「その女は、秩序を乱し得る意識を持つ。紛う事なき———悪だ」

 

 沈黙、膠着。

 下手に動けば殺される。それが痛いほど良く判る。この構えを本の僅かでも崩せば、一瞬で。

 

 ヤツの言葉は、正しい。美綴はこの状況で冗談なんか言わない奴だし、サーヴァントを押し留めた不思議な能力も持ってるし……きっと、「人類を滅ぼす」って宣言は事実だと思う。

 セイバーとライダーも、明らかに美綴を警戒している。美綴が変に動かないように、武器を構えて見張ってる。

 そう、場違いなのは俺だけだった。明らかに“取るべき行動”に反している。

 

 ———正義の味方になりたいならば、俺は美綴の敵になるべきだったのに……

 

 自然、薙刀を持つ手に力が入る。柄が半分になったけれど、投影はまだ壊れていない。無論、こんなヒビだらけの幻想では、英雄の宝具に勝てはしないが。

 それでも。

 それでも、諦めたくはなかったのだ。

 俺が今()め付けている、目の前の赤い男のように。

 

 

 

 膠着した状態というのは、それが最も安定しているからそうなるんだ。囲碁で言うなら“セキ”の状態。先に動いた方が不利になる……宝具強度の関係で、間違っても勝ち目は無いんだけど。

 

 何が言いたいかっていうと、膠着状態を崩す一番簡単な方法は外部から介入だって事だ。この場合、美綴に動く気が無いのなら、それは———

 

 

———日々の鍛錬の成果だろか。俺が意識する事なく、体が勝手に飛び退いていた。

 

 殺気を感じて飛び退いた先は、偶然にもセイバーの隣だった。美綴から見て左斜め前、アーチャーの右手に着地した俺は、当然の事ながら、さっきまで居た場所を確認して、そこに突き刺さっ———

「……嘘だろ」

 

 突き立てられた三本の槍。それは、透き通るような(あか)だった。

 

 ———ゲイボルグ、因果逆転の呪いの槍。でもコレは、ランサーの持っていたものじゃない。それをコピーした贋作でもない。むしろ、こっちの方が本物だった。

 

 ザッ、と地面の擦れる音。

 美綴の隣に着地した人物を見て、みんながみんな驚いていた。

 サーヴァントの三人はクラスの重複にも似た現象に。つまり、既にランサーのサーヴァントを確認しているのに、目の前に現れたのが槍を携えた者だったから。

 でも、俺の理由は別だった。降り立った彼女が、俺の知り合いだったから……

 

「そうか……須賀(すが)さんは、美綴の仲間だったんだな」

 

 黒と赤紫の布を一枚ずつ重ねたような、身体に張り付く薄い服。ストレートの赤い髪。突き立った槍の内、一本を手にこちらを睥睨(へいげい)するその顔は、確かに彼女そのものだった。

 

「いつも言っているだろう、儂の名はスガではないと。士郎、私の名は———スカサハだ」

 

 その言葉に反応したのは、意外な事にセイバーだった。セイバーは俺をチラッと横目で見てから、言葉を発した。

 

「———スカサハ。ケルト神話、クーリーの牛争い(トィン・ボー・クルーニャ)の物語の一節に登場する、影の国の(あるじ)、アルスターの女王。()の“光の御子”の師として名高い無双の戦士。ですが……」

 

 セイバーは須賀さん(スカサハ)の素性をひとつひとつ確認する。見えない剣を両手に構え、その切っ先を彼女に向けて。

 盗み見たセイバーの顔はまるで、あり得ないモノを見たような……

 

「ですが貴女は、英霊の座にいない筈ではないですか! 

 そも、サーヴァントになり得ない筈の貴女が、なぜ!?」

「ほう、知っていたか。加えて、戦の機微をわきまえている……かつては、さぞかし良い戦士であったろう。

 いや、今も……か。苛烈でありながら涼やかでもある、均整の取れた二面性は戦士として二重マル——」

「話を逸らさないで頂きたい!」

「……自らを、場に合わせる技には疎いようだな。上に立つには今ひとつだ。良い輝きを持ってはいるがな、指導者には恵まれなかったか」

 長ずれば、儂を殺し得る輝きであるのに…… と、ため息をついたスカサハは一転、セイバーから視線を切った。

 

「さあ、此方(こちら)の準備は整ったぞ。綾子よ、其方(そちら)も上々であろうな」

「当然でしょ。聖杯の器は手に入れたし、バーサーカーは蟲にくれてやった。あっちも決着してるようだから素体の浄化も終わったときた。

 だからここに、全ての準備は整ったってワケ」

 

 美綴は、スカサハから一歩前に出て、俺たちに戦線布告した。

 

 

「———さあ、“パンドラ計画”を始めようぜ!」

 

 ———人類滅亡計画を———

 






次回、Fate/stay night[Destiney Movement ]

———第九話、パンドラ計画
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