扶桑の兄妹外伝~ブレイブウィッチーズ 佐世保の英雄の弟妹~   作:u-ya

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かなり久々な更新で、申し訳ありません。

勝手でどうでもいい個人的な妄想ですが、ロスマン先生とサーシャさんは歳下が好みで、ニパくんは面食いで、伯爵はレズ寄りのバイで、孝美お姉ちゃんに対しては「もしかしたらショタコンではないか?」と思っています←

では、第3話です。


第3話「陸軍の三毛猫と海軍のブルドッグ」

ペテルブルグ到着するなり揉め事を起こした扶桑皇国陸軍所属の陸戦ウィザード――雁淵輝曹長は、元ペテルブルグ警察ボロヴァヤ署内の地下留置所で世話になっている。

住民が避難し、人口が激減したペテルブルグには、当警察署のように使われなくなった建物が多い。そのいくつかを軍が借り受けて使っている。

 

「…………」

 

輝は、壁に設置された長椅子ほど長さしかないベッドに寝転がり、染みとひび割れだらけの天井をボンヤリと眺めていた。

 

(ったく……気分悪い……)

 

輝は心の中で悪態をつくと、制服のポケットへ手を突っ込み、タバコとライターを探した。が、ポケットから出てきたのは一本の短いほずれ糸だけだった。

頭に疑問符を浮かべてほづれ糸をじっと見据える輝は、すべての持ち物を憲兵に没収されていることを思い出す。

 

「おい!誰かいるんだろ?俺のタバコとライター持ってきてくれ!」

 

鉄格子の外にいるであろう監視の兵に向かって叫んだが、1階へ通ずる階段脇に常駐している兵は振り向きもしない。

 

「チッ……」

 

舌打ちと共に視線を天井へ戻す。小汚ない留置所へ押し込まれ、憂さ晴らしの一服も出来ない。さらに備え付けのベッドの寝心地の悪さが、輝のムカッ腹を刺激していた。

しばらくして、房へと近付く足音が聞こえてきた。自分を不敏に思った監視兵がタバコを持ってきたのかと思い、輝はムクリと身体を起こした。

鉄格子の向こうを見てみると、予想通り監視兵が立っていたが、手に握られているのはタバコやライターではなく鍵束だった。

隣には、粗末な留置所には似つかわしくない美少女が佇んでいる。着ている制服と襟についた星からオラーシャ軍所属だと分かる。

 

「出なさい」

 

房の鍵が開けられる。監視兵に促されたので、輝はキョトンとしながらも房から出た。

 

「……あのっ――」

 

「到着早々、破廉恥な兵士を相手に騒ぎを起こす。こんなところも似ているわね」

 

「えっ?」

 

輝の言葉を遮るように呟く少女。何のことを言ってるのか分からない輝は、思わず聞き返した。

 

「何でもありません、ついてきて下さい」

 

「あ、はい」

 

オラーシャ少女は、そそくさと留置所から出ようとする。その歩みの所在は早足ながら優美なもので、彼女の育ちの良さを物語っていた。

輝は少々戸惑いながらも、監視兵から返却された荷物を抱えながら彼女の後に続いた。

警察署の外に出ると、既に日が傾き始めていた。数時間ぶりに吸い込むオラーシャの空気、いつもよりもずっと美味しく思えた。

 

「申し遅れました」

 

脇道に停めてあったリベリオン製のジープの前まで来ると、少女は足を止めて輝に向き直った。

 

「私はアレクサンドラ・イワーノブナ・ポクルイーシキン、皆はサーシャと呼びます。オラーシャ帝国陸軍の大尉で、第502統合戦闘航空団においては戦闘隊長を務めています」

 

軽い自己紹介を終えると、サーシャは敬礼代わりに優美な所作で一礼する。

 

(すごく綺麗で、気品に溢れてる。オラーシャ貴族のお嬢様かな?)

 

しばらくはサーシャの所作に見とれていた輝だが、ハッと我に還った返礼する。

 

「扶桑皇国陸軍東欧方面軍西オラーシャ駐留軍戦車第2師団所属、雁淵輝曹長であります!」

 

ビシッと右手を眉の位置まで上げて敬礼する輝だが、慌てたためか声が裏返ってしまっている。

 

「ふふ……」

 

輝の挙動が可笑しかったのか、初対面からずっと表情が硬かったサーシャは小さく笑みを零す。

笑われてしまい、恥ずかしくなった輝は気まずそうに後頭部を掻いた。

 

「あ、ごめんなさい……あら?」

 

非礼を詫びたサーシャは何かに気が付き、輝をじっと見つめる。

 

「なんでしょうか?」

 

「防寒具を身につけていないようですね?」

 

4月のオラーシャは比較的温かいが、それでも気温は扶桑の冬と同じくらい低い。しかし、輝が着用しているのは扶桑陸軍の制服のみでコートは疎か、手袋すらしていない。

 

「実は昨日、他の荷物と一緒に基地へ発送してしまいまして……」

 

「オラーシャの寒さをご存知のはずでは?」

 

罰が悪そうに頬を掻く輝に、サーシャは眉を寄せて言う。

 

「到着してすぐ基地に入れると思ったものですから……うぅ!」

 

オラーシャの気候を改めて意識した途端、輝の身体が寒さで震え出した。

バルトランドやスオムス等の北欧出身者ならいざ知らず、扶桑出身の輝にとって春のオラーシャは十分寒い。

 

「まったく……」

 

呆れたように息を吐いたサーシャは、ジープの中から白色のマフラーを取り出し、輝の首に巻いてやる。

 

「え?」

 

サーシャの唐突な行動に、輝は軽く頬を染めながら目を瞬かせる。

 

「基地に戻るまで、これを使ってください」

 

「で、でも……」

 

遠慮がちな態度を取る輝に対し、サーシャはビシッと語気を強めて言い聞かせた。

 

「その格好では着任早々風邪を引いてしまいます。言うことを聞いてください」

 

「……分かりました」

 

頷く輝にサーシャは満足気に微笑み返し、ジープへ搭乗する。

 

(暖かい……)

 

貸し出されたマフラーにそっと手で触れた輝は、心の中で呟いた。マフラーから薫り立つ女性特有の甘い香りにドキドキしながらも、与えられた温もりに感謝していた。

抑揚の無い口調と無表情さから、輝はサーシャのことを冷たい人だと誤解していた。しかし、実際のところ彼女は仕事に厳しいだけで根は優しいお姉さんなのだ。

 

――風邪を引いてしまうわ。はい、お姉ちゃんのマフラーを使って。

 

(…………何で、思い出すんだよ)

 

一瞬ではあるが、過去の記憶が脳裏にフラッシュバックし、輝は不快感から眉を顰めた。

つらい記憶というわけではない。むしろ大切な思い出であるはずの記憶だが、今の輝にとっては思い出したくないものだった。

 

「どうしました?」

 

サーシャに呼ばれ、輝はハッと我に還る。

 

「基地へ向かいます。乗ってください」

 

サーシャに促され、輝は慌ててジープに乗り込んだ。

 

「では、出発します」

 

エンジンを始動したジープが、街の中心に屹立する基地へ向かって走り出した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

十数分後、第502統合戦闘航空団――

 

輝はサーシャに連れられ、502部隊の基地として運用されているペトロ・パウロ要塞に到着した。彼女の案内の元、すぐに部隊司令執務室へ通される。基地司令を兼任している502の隊長と、ストライカーユニット回収中隊の指揮官に着任の挨拶をするためだ。

 

「隊長、雁淵曹長をお連れ致しました」

 

執務室前で足を止めたサーシャが、コンコンと小気味良いノックをドア越しに響かせた。

 

「入れ」

 

執務室から入室を促す声が返ってきた。少々低めの済んだ女性の声だった。

 

「失礼します」

 

「……失礼します」

 

サーシャの後に続いて潜ったドアの先では、それぞれカールスラント軍とスオムス軍の制服を着た二人の女性が向かい合うようにして立っていた。

502部隊及び当基地司令のグンドュラ・ラル少佐と、回収中隊隊長のアウロラ・E・ユーティライネン大尉だ。

 

(グンドュラ・ラルに、アウロラ・E・ユーティライネン。本物だ……)

 

二人の大物と直に対面した輝はゴクリと固唾を呑む。かの501部隊Wエース――エーリカ・ハルトマン中尉、ゲルトルート・バルクホルン大尉に次ぐ撃墜数を誇るカールスラント空軍のウルトラエースに、本大戦初期より第一線で戦い続けてきたスオムス陸軍の英雄。

東部方面や北部方面に配属されている軍人で、二人を知らない者などまずいないだろう。

 

「おお、きたか」

 

ラルが二人の方へ目を向けると、アウロラも同じように視線を移してきた。

どちらも女性にしてはかなり長身の持ち主で、制服の上からでも身体の起伏が分かるくらいスタイルが良い。同じ美女でも、少女から女性に成長する途中といった趣のサーシャとは異なり、年長者の落ち着きとアダルトな雰囲気を身に付けている。

大人の女という形容が相応しい上官達を、輝は妙に意識してしまう。すぐさま頭から邪念を追い払い、姿勢を正して着任の挨拶をする。

 

「只今到着致しました!扶桑皇国陸軍東欧方面軍西オラーシャ駐留軍戦車第2師団所属、雁淵輝曹長であります!」

 

「ん……休め」

 

緊張した面持ちで腹から声を出す輝とは対照的に、涼しい表情で淡々と応じるラル。彼女は司令用デスクの向こうにある椅子に尻を置き、改めて輝に視線を移した。

 

「私が、第502統合戦闘航空団司令のグンドュラ・ラル少佐だ!」

 

ラルな自身の自己紹介を済ませると、デスクの隣に立っているアウロラを右手で指した。

 

「彼女がストライカーユニット回収中隊の指揮官で、ここペテルブルグ基地における君の直属の上官、アウロラ・E・ユーティライネン大尉だ」

 

「そういうわけだ、よろしく頼む」

 

澄まし顔のラルとは違い、サバサバとした笑顔のアウロラは、軽く手を挙げて挨拶する。

 

「予定より随分と遅かったようだが?」

 

「あ、いえ……」

 

遅刻について触れられた輝は、罰が悪そうに彼女から目を逸らす。

 

「おっと済まん、叱責するつもりはなかった。しかし、駐留兵を殴り倒すとは……可愛い顔をして中々ヤンチャじゃないか」

 

「…………」

 

からかい混じりな発言を取りながらも表情を変えないラル。対して輝は不快感から眉を顰める。

少女のような外見にコンプレックスを抱いてる彼にとって、『可愛い顔』とは、輝にとって侮辱の言葉しかないのだ。

そんな少年の心境を知ってか知らずか。ラルは口元を僅かに弛めた柔らかい表情を作ると、お冠な輝を宥めた。

 

「そう恐い顔をするな。これからは、この基地で寝食を共にする仲間だろう?仲良くしよう」

 

「…………了解です」

 

輝は半歩遅れて返事をする。少々不貞腐れ気味な彼の声色にサーシャは呆れ目を、アウロラは悪戯な笑みを向けていた。

 

「既に知っていることだろうが、君を准尉に昇進させた上でユーティライネン大尉の指揮する中隊へ配属させることが決まっている。主な任務は、ネウロイとの戦闘等で墜落した502の航空ウィッチ及びストライカーユニットの回収で――」

 

「質問があります」

 

輝はラルの説明を遮り、小さく手を挙げて質問の許可を求める。

 

「何だ?」

 

と、訊くラル。ポーカーフェイスを維持しているように見える彼女だが、話を中断された際に片眉を不快そうにヒクヒクと動かすという僅かながらの変化が表情に現れていた。

 

「……自分は、こちらに厄介払いされたのでしょうか?」

 

「いや、私が君の上官に頼み込んだ」

 

原隊から左遷されたと思っている輝の考えを、ラルは即座に否定した。

扶桑陸軍の矢口中将や茂木貴子中佐が、どういうつもりで輝にペテルブルグへの転属を命じたのか。それは502の面々には預かり知らぬことだが、少なくともラルは輝が自分の部隊に必要だと感じている。

だからこそ、オラーシャ西部に展開している扶桑陸軍と交渉して輝を502直属の補助部隊へ異動させたのだ。

 

「先日の戦闘で、スオムス陸軍の陸戦ウィッチが一人負傷したんだよ」

 

アウロラが、ラルの説明を継いだ。

 

「急ぎ装甲歩兵の補充要員が必要になって、ラル少佐が君をペテルブルグに呼び寄せた」

 

「航空歩兵も経験している君ならば、敵地のど真ん中に墜落したウィッチの気持ちを他の装甲歩兵よりも理解してくれはずだ……と思ってな」

 

話のバトンがアウロラからラルに戻り、輝を502に呼んだ理由を説明する。

 

「それだけの理由で扶桑陸軍の自分を?補充要員なら、スオムス陸軍に要請した方が良かったんじゃ?」

 

「それが難しいからです」

 

今まで黙っていたサーシャが口を開いた。さらにアウロラが彼女の言葉を継いだ。

 

「ラル少佐が私達スオムスの陸戦ウィッチを強引に引き抜かれてな。そのことで、うちの師団長のラガス少将から睨まれていたんだ」

 

「さらにウィッチの一人が負傷してしまい、少将は大変御立腹でな」

 

ラルは「やれやれ」と肩を竦める。

 

「……は、はぁ」

 

話を聞かされた輝は言葉を濁しつつ、「なるほど」と思っていた。

つまりはアウロラ達の上官であるラガス少将の機嫌を損ねてしまったために、わざわざ遠くにあるペトロザヴォーツクの扶桑陸軍基地に配属されていた輝を呼び寄せなくてはならなくなった、というわけだ。

それにしても以前から東部戦線全体に広まり、輝も耳にしていたグンドュラ・ラルの貪欲ぶりに関する噂は事実だったらしい。

 

「まぁ何はともあれ、よろしく頼む」

 

ラルは改めて輝を歓迎し、さらに言葉を続けた。

 

「明日からは息吐く間も無く忙しくなる、今日は早めに休め。下がってよし」

 

そう結んで、ラルは話を終えた。輝は「はっ!」と敬礼して退室すると、アウロラの案内で割り当てられた個室へと向かった。

ドアの越しに響いてくる二人分の足音。それはアウロラと輝の二人が執務室から前から遠ざかるのと反比例して段々と小さくなり、やがて聞こえなくなった。

程なくして、二名の装甲歩兵と入れ替わる形で1人の少女が入ってくる。

肩まで伸ばした美しい銀髪を靡かせる彼女は小柄な体格をしていて、ラルやアウロラはもちろん、サーシャや輝よりもさらに背が低い。しかし、その見た目に反して年齢は502部隊内で最年長。雰囲気もラルやアウロラとは違った趣で大人っぽい。

 

「今、廊下で見掛けました。彼ですか?」

 

艶のある唇を動かし、銀髪の少女――エディータ・ロスマン曹長は言葉を紡いだ。

 

「ああ、大戦初期に活躍した元航空ウィザード。そして現在は陸戦のウィザードという面白い経歴の持ち主だ」

 

ロスマンの問いに応じたラルは、フッと口元を綻ばせる。

 

「ともあれ、人員不足は解消されましたね。それにしても扶桑の陸軍からとは……」

 

「所属など問題ではない。使えるかどうか、重要なのはそれだけだ」

 

「隊長らしいお考えですね」

 

と、ロスマンも相好を崩した。しかし、ラルの才能を見る目は確かだ。輝は必ずや期待に答えてくれるだろ。

 

「くれぐれも宮藤大尉の時のような真似はしないで下さいね」

 

航空ウィザードとして扶桑皇国海軍に属している友人を脳裏に浮かべつつ、ロスマンは隊長殿を諌める。この時、彼女の笑みは苦笑混じりのものへと変化していた。

 

「宮藤大尉?私が彼に何をしたと?」

 

一方、ラルは惚けたような物言いで応じた。部屋の隅では、そんな彼女に対してサーシャが呆れたように溜め息を漏らしていた。

 

「お忘れですか?例の件でミーナ中佐や遣欧艦隊の赤坂中将からは睨まれているんですから、ああいったことは謹んで下さい」

 

険しい表情のサーシャが語気を強めて注意すると、ラルは「ああ、そのことか」とおどけて返した。

 

「サーシャは厳しいな。私は他部隊の異性と少しばかりスキンシップをしていただけなんだが?」

 

「変な噂が立ったりしては困ります」

 

「総司令部のには、そういった噂話等を予算削減の口実にする将官もいるかもしれませんし」

 

サーシャの後にロスマンが付け加える。本大戦以前より、対ネウロイにおけるウィッチやウィザードの有用性は連合各国で認められている。個々の能力が多様化し、通常の部隊では対象が難しい状況に極めて有効、ということから統合戦闘航空団やその下の統合戦線飛行隊も各戦線で設立が進んでいる。

だが、連合軍や各国軍の上層部には未だにウィッチ無用論や統合戦線航空団の運用に異義を唱える保守派はもちろん、ブリタニア空軍のトレヴァー・マロニー大将のように利権絡みで航空歩兵を敵視する者も少なくない。

そう言った輩に付け入る隙を与えないよう気を配るのも、統合戦線航空団司令の役目である。

 

「雁淵准尉に関しては心配ない。私はサーシャと違ってショタコンではないからな」

 

「なっ、何を言い出すんですか!?」

 

妙な言い掛かりをつけられたサーシャは、途端に顔を真っ赤にして狼狽えた。

 

「ショタコンじゃないにしろ歳下好きには代わりないのだろう?それにしても、出会って早々にマフラーを進呈して点数稼ぎとはな」

 

どうやらサーシャのマフラーを首に巻いた輝を見て、彼女が好感度アップのためにプレゼントした、と思っているようだ。

無論、ラルは本気でそう思っている訳ではなく冗談半分に言ってからかっているだけなのだが、生真面目な性格が災いしてサーシャは本気と受け取ってしまったらしい。

 

「あれは!彼が防寒具を持っていなかったので貸しただけです!変なこと言わないで下さいっ!!」

 

「ふふっ♪サーシャさん、奥手に見えて以外と積極的なのね?」

 

「ロスマンさんまで!?もう止めて下さいっ!御二人共正座!正座ですっ!!」

 

熟れたトマトのように顔を真っ赤にしたサーシャは思わず声を張り上げる。

戦闘隊長の新たな一面を発見した二名のカールスラントウィッチは、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

同時刻、502基地ハンガー――

 

第502統合戦線航空団基地ハンガー。その正面に輝が立ち尽くしていた。アウロラに個室へと案内され、簡単な説明も受けた彼は特にすることもなく暇を持て余していた。

基地内を適当にぶらついた後。何気無しにハンガーまでやって来た輝は壁に背を預けると、制服の煙草を取り出して口に咥える。

次いで別のポケットからもライターを取り出す。カチッカチッと音を立てて火を点ける。煙草をライターの火に近付け、息を吸う。馴れた手つきで吸い込んだ息と共に煙をフゥと吐き出す。

 

「やっと、一服出来たな……」

 

輝は満足気な表情で小さく呟くと、滑走路とそこから続く空を呆然と眺める。

 

「あっ……」

 

ふとサーシャに貸して貰ったマフラーを首に巻いたままだったことに気付く。

輝は早歩きでハンガーに入ると、中に設置されていた整備兵用の灰皿に煙草を押し付ける。マフラーを手に取り、鼻を近付けてみると僅かに臭った。

 

「……洗濯して返そう」

 

輝はポツリと独り言ちる。直後、誰かが発した大声が彼の耳朶を打った。

 

「孝美っ!?」

 

声はハンガー内を反響していたが、それとほぼ同時に聞こえてきた足音で声の主が自分の後ろにいることが分かり、背後へ振り返る。フライトジャケットを羽織り、首にマフラーを巻いたウィッチが輝の元へ駆け寄ってくるのが見えた。

 

「孝美じゃんか!なんだよ、もう来たのか!」

 

ウィッチは嬉しそうに声を弾ませる。顔立ちからして輝と同じ扶桑人。頬の絆創膏と癖のあるオカッパのような短い黒髪が印象的なその少女は、男でありながら少女と見間違う容姿をしている輝とは対照的に、まるで利かん坊タイプのヤンチャな少年のようにも見える。

 

「ラル隊長は、お前が来るのはまだまだ先だって……あれ?」

 

パァッと太陽のように輝いていた少女の表情が、途中から訝しげなものへと変化する。かと思えば、輝の服装をジロジロと観察し始めた。

 

「孝美、少し縮んだか?それに何で陸軍の制服なんて着て……」

 

再度輝と目を合わせた瞬間、人違いに気付いたらしい少女は言葉を止める。しばしの沈黙の後、彼女はぶっきらぼうな口調で輝に問いかけた。

 

「……誰だ、てめえ?」

 

「そりゃ、こっちの台詞だ」

 

これが扶桑皇国陸軍の雁淵輝准尉と海軍の管野直枝少尉。似た者同士な二人の出会いであった。




ブレイブウィッチーズアニメ2話で、直ちゃんがひかりちゃんと孝美お姉ちゃんを間違えていたシーンを観て上記の二人の出会い方を思い付きました。


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