嘆く暇はなかった。
あのあとリツカ達は必死で〇〇を探したがその消息は一切掴めなかった。彼の携帯、聖杯は魔力の痕跡こそあったがリソースはほとんどない器のような状態だったらしく、その痕跡を辿ることはできない。
同時にもう一つ事態が大きく動いた。
あの巨大な人型兵器、ゲッターエンペラーが突如として消えたのだ。
あれほどのものが急に消える。レーダーでの観測にも映らず突如として。地球への重力変動による環境の変化もあるはずなのに、何故か最初から何もなかったかのように消え失せたのだ。
あまりに突然すぎる二つの事態。決して無関係ではないはずだが、それらの事態を解決しようにも情報が足りない以上動くほかない。
「グッ・・・!マシュ!」
「先輩!下がってください」
激しい金属音を辺りに響かせながらマシュはリツカを守るように盾を構える。
しかしそれもつかの間、そこから更に打撃を受けたことにより完全に体制を整えていなかったマシュは後ろのリツカとともに吹き飛ばされる。
「ぐああッ!」
「先輩!?」
そのまま石畳にぶつかる寸前、リツカは空中でマシュを抱えるとそのまま守るような体勢で衝撃に備えた。
人間1人と大楯という質量が重なったことでリツカは血反吐を吐き出す。
「先輩!大丈夫ですか?先輩!」
「ふー・・・!ふー・・・!だ、大丈、夫。まだ動ける。」
そう言って咳き込みながら2人は改めて民家の中から吹き飛ばした対象を見る。
「あ、あれは・・・。やっぱりあのワイバーンの・・・」
それはすこし前に遡るーーー。
広い草原を2人歩く。
当然表情は影が差しておりどこか元気がない。
「〇〇さんは・・・」
「先輩・・・?」
「〇〇さんは、なんて言うかな?この世界に来てしまった原因が、俺のせいかもしれないって言った時」
「先輩、それは決して先輩のせいではありません。あの特異点が崩壊していく中では私たちはどうしようもなかった」
『そうだよ、それにあの聖杯のかけらがそもそも原因と決まったわけじゃないし』
呟いたリツカに2人は言う。
それでも彼の内心は穏やかではない。もし本当にこれが事実であったなら、自分はどんな顔をして彼に伝えればいいのか。
そう考え始めた時、少し遠くの場所に大きな街が見え始めた。街は大きな外壁で囲まれているが、肝心の外壁は何故かボロボロだ。
特異点を起こしている何かが原因だろうか?徐々に近づくその光景に集中すると、前方から何か大きな荷物を抱えた馬車のようなものがこちらに歩いてきていた。
「あ、あれは現地の方ですかね?もしかしたら何か情報が手に入るかもしれません。話しかけて見ましょう」
そう言って駆け足にその馬車に近づいたマシュは馬車をはっきり見た途端、唐突に足を止めその場に立ち止まった。
「・・・?マシュ?」
その動きの変化を不思議に思ったリツカは急いでマシュの元に近づいた。
「マシュ、どうしたの?急に足を・・・」
『・・・これは』
彼らが見た馬車。それ自体は特に変わった様子のない普通のものだ。当然それを操っている馬も人も変わった様子はない。
異様だったのはその積荷だ。男の引く馬車、そこには何と大量の生き物の死骸が乗せられていたのだ。
ただの死骸ではない。
明らかに現世では確認できない様な生き物の死骸の山である。
「と、とりあえず。あの人は町から来たみたいだし。ドクター、あの人の反応って普通の人間だよね?」
『うん、そこは間違いないよ。それにしてもその積荷、すごい魔力汚染だ。この時代では考えられない神秘がその積荷から確認できるよ・・・」
立ち止まり呆然としているとこちらに気づいた馬車がだんだん近づいてきた。馬車を操っていた男はリツカとマシュを視界に収めると珍しいものでも見たかのような顔をする。
「なんだぁあんたら。外国からの旅行者か?ここらじゃ見ない顔立ちだが・・・・」
「あ、はい。初めまして。私たち世界を旅してまして・・・。貴方はあの町の住民ですか?」
「あぁ。俺は普段野菜を売ってすごしてんだが、しかしまた大変な時期にきちまったなあんたら。」
「大変な時期?」
「後ろのこれだよ。」
そう言って男は積荷の中身を見せる。
改めて近くで見ればわかる。元は爬虫類に近い生き物だったのだろうがその名残は今や鱗や甲羅しかない。
(蕩けている)とでも表現すればいいだろうか。その死骸の殆どがグズグズに溶けてしまっているのだ。
腐ってしまったわけではない。そうであるのならこの死骸の量、悪臭が周りに起きてとても彼らは近づけなかっただろう。その死骸はまるで、生きたままスライムになったかのように蕩けていたのだ。完全に蕩けてしまったわけではなく、強固であろう甲羅や鱗の一部がそのままの形で残り隙間から蕩けた内臓が流れている。
異様な死骸だった。
「信じられねぇかもしれないが、数日前に処刑されたジャンヌダルクが地獄の化け物、後ろのこいつらなんだが。を連れて町に襲撃してきたんだ。風の噂によると、あの処刑に携わったピエール神父やその関係者も全員燃やし尽くされたそうだ。」
「ジャンヌダルク、ですか?」
「知ってんのか?まぁ軍も抵抗したんだが槍も弓も奴らには通じず酷い有様だったらしく、そんな奴らが俺たちの町にもやってきたんだ。軍すらどうにも出来ない奴らを俺たちがどうにかできるわけない。はずだったんだが・・・・」
「でもこれは・・・」
「それがなぁ、俺たちの町で暴れて出そうとしたこいつらは、なぜかこんな風に蕩けちまったんだ。急に前触れもなく地面に落ちていってな。被害が少なかったのはいいんだがお陰で掃除が大変で・・・」
そう言って彼は顔をしかめると馬を動かして離れていく。
それにつられて2人はもう一度荷台に目を向ける。蕩けた、それもなんの前触れもなく。
幻想の 生き物とはいえそんなことがあり得るのだろうか。
「自重で潰れた?いや・・・」
生き物というものはそれぞれ必要であるゆえにその形をしている。鳥は空を飛ぶゆえに空気抵抗の少ない形かつ骨を軽くし、人間は二足歩行により走るのが遅くなったゆえに頭脳を発達させ逃げるのではなく戦う形へと進化したのだ。
たしかにこの生き物たちは普通なら生きることができなくても、魔力の多い過去で生き残れるような形になっているはずなのだ。
なので自重で潰れたというのは間違っている。
仮にそれで潰れたのだとしても、このように蕩けることはないのだが。
「まてよ・・・・」
「先輩?」
「ドクター、そこの計器って放射線量なんかも調べられる?量だけでいいんだけど・・・」
『放射線量?いきなりどうしたんだい?』
「いや、〇〇さんはこの世界と他の世界を繋げたと言っていたよね?だとしたらあの作品の設定上なんか変化があると思って」
『変化ってーーーーーうん?どうしたの?・・・・ええ!?バカな!そんなわけがない!ならなぜ彼らは平気なんだ?』
急にロマンが大声をあげたのを聞き2人は怪訝そうな顔をする。そして再びホログラムに移った彼は、焦るように2人の顔をみた。
「ドクター?どうしました?」
『どうもこうも、今君達が立っているフランスの放射線量がその時代では考えられないくらい膨れ上がっているんだ!こんなのありえない。チェルノなんて目じゃないぞこの数値は!』
「やっぱりか。ということは〇〇さんの作戦は・・・。ドクター、心配しないで。この放射線は多分人体には無害だから」
しかし反対にリツカは冷静だった。その周りと違う様子にロマンが疑問符
をあげる。
『リツカくんはこのことについてしっているのかい?』
「うーん、予想というか。間違ってたら恥ずかしいからまだ言えないかな。でもさっきの人が体調に変化がないところを見るに、大丈夫だとは思う」
『でも・・・マシュの影響があるとはいえ一度精密検査を行わないと君がどうなっているかーーー』
放射線は日本人にとって恐怖の対象だ。戦時中に投下された二つの爆弾の効果は現代においても多く語られており、だんだん内蔵の機能を損なわせやがては生きた屍のように変わっていく。
だがなぜ彼は一切慌てた様子がないのだろう。そう考えロマンが尋ね
地響きがなった。
「うわっ⁈」
「きゃっ!」
否、地響きではない。
それは音だ。生きているもの、命あるものが思わず怯んでしまうような巨大な轟音。その音とともに先ほどまで歩いていた森から鳥たちが群れをなして逃げ去っている。
思わず尻餅をついた二人は顔を見合わせ、やがては轟音が起こった方角に目を向ける。
「あ、あれって・・・・」
リツカたちが目を向けた先。そこは先ほどまで向かっていた町の方角だ。しかし先ほどとは明らかに違う点がある。
それは土煙。
まるで巨大な何かが降ってきたかのように、町の中心部から凄まじい土煙が上がっているのだ。
それだけではない。先ほどの轟音に比べれば小さいが、明らかに破壊音のような音も連続で響いている。
「な、なんだ?!ドクター、町からなんかすごい煙と音が!」
『ーーーこ、これは・・・サーヴァントを上回る超特大の生命反応?!しまった!あのロボットの捜索で確認していなかった!』
「ドクタアアアアッ!!」
『ヒエっ?!ご、ごめん!でも幸いなことにそれはまだ町の中だ。今なら十分逃げられる』
「・・・・!マシュ、急ごう!」
『ええ?!』
「え、あれ、え?!先輩⁈」
次の瞬間マシュの手を取りリツカは走り出した。あまりの切り返しの早さにロマンは衝撃を受ける。
『ち、ちょっとリツカくん?!話は聞いてたのかい⁈サーヴァント以上の生命反応だよ?!そんなものがいる町に飛び込んでどうするんだ!』
「さっきのおじさんによるとまだ町にはひとがいるそうじゃないか!それにあの破壊音・・・反応の主は暴れてるんだろ!少しでも町の人を逃さないと!」
『・・・!リツカくん、今の君達では・・・』
「・・・・・わかってる。無茶はしないよ。それに俺にはマシュもついてるし」
「お任せください!必ず先輩を守ってみせます。だからドクター、お願いします!」
「「俺(私)達に行かせてくれ(ください)!」」
そう言うと二人はモニターに映るロマンの瞳を覗く。そしてしばらく考え込んだロマンはやがて決心したように顔を上げた。
『ぐむむ・・・!なら約束してくれ!自分の命を最優先にすると!』
「ドクター、ごめん。もう少し無理させてくれ」
そして場面は元に戻る。
リツカの前にいる怪物、それはおよそ人の感性から大きく外れた造形の何かだった。
遠目で見たら巨大なドラゴンのように見える。
しかし近くとその違いが出てくる。そのドラゴンは先ほど見たワイバーン、それらの死体を無理やりつなぎ合わせることでドラゴンの形を形成しているのだ。
所々に突き出た手足は虫のように痙攣を起こしている。虫の複眼のようになった目玉をこちらへと向ける。食事の邪魔をされたせいかこちらに向けて凄まじい殺気が背筋を凍らせた。
「マシュ・・・」
「くぅぅ・・・!すいません先輩、肩を・・・」
リツカはマシュの謝罪を聞きつつも視線は目の前の怪物から晒すことはなかった。
その町に住んでいた人々の避難はすでに終わっている。しかし目の前の怪物は巨大な見た目をしていながら俊敏な動きをしており、さらに体から突き出た元のワイバーンの手足を巧みに操り自身よりずっと小さいであろう二人を追い詰めていった。
(せめて、もう一人くらいサーヴァントがいれば・・・)
「・・・先輩。どうかもう先に行ってください。此処は私が」
「⁈ッそんなことできるわけないだろマシュ。生き残るなら必ず全員でだ。」
「しかし!先輩は、先輩だけは絶対にいきのこらないと!そうでなければ私たちの時代は、世界は!」
「いいか、マシュ」
ボロボロのマシュの瞳を見据えリツカは教えるように言う。
マシュの瞳は死の恐怖と覚悟。そして俺だけは生かして見せるという決意を覗かせていた。
だがダメだ。
そんな事、俺はゆるさない。
「いいか、マシュ。死の覚悟なんてそんなものを抱えるな。」
「よく死ぬ覚悟も出来てないなんて、戦場で戦う人たちは言うけど、そんな物にはなんの価値もない。」
「絶対に生きる。そして勝つ。俺たちは、そんな決意を抱いて戦うべきだ。」
「そうじゃなきゃ・・・」
リツカは足元にあった木の棒を掴み正面に構える。
その様子を見た化け物は、リツカ目掛けて触手を伸ばした。
「明日の日なんて取り戻せない!」
振りかぶる。このまま行けばリツカはまた建物へと突っ込むことになるだろう。しかし今度は決してすぐには動けない。だが、それでもリツカの瞳には生存を、必ず二人で生き残るという覚悟が垣間見えた。
作戦なんかない。今彼を動かしているのはがむしゃらなまでに生きたいという願いだった。
そんな彼だからこそ、その男は味方した。
ドリルアーム!!
「い、今のは・・・」
リツカの眼前まで迫っていた無数の触手。だが気がつけばそれらの凶器は目の前から姿を消していた。
今彼らの目の前にあるもの、それは爆発でも起こったかのような噴煙とそこから突き出た謎の塔だった。 煙が深くてよくは見えないが突き出たその塔は金属特有の光沢を輝かせており、機械音のような音を辺りに響かせている。
(いや、違う・・・!)
否、ようなではない。
その謎の塔は実際に機械なのだろう。なぜなら塔と思わしきそれから聞こえる音は、その塔が高速回転することによってなっているのだから。回転は徐々におさまって行き、最終的に見せたその姿はーーー
「ど、ドリル?」
「リツカくん!」
ふと、自分のそばにだれか立っていることに気がついた。
一瞬の思考停止、だがその聞き覚えのある声によって思考は再び稼働する。
そうだ。この声、そして見上げた先にあるその顔。
「〇〇、さん」
「ごめん、急に何も言わずにどっかいってしまっ・・て・・・?」
姿を確認すると同時にリツカはその男に縋り付いた。
最初はどこにいってたか、あのドリルはあなたが?などいろいろ聞こうと思った。しかしそれらを押しのけ彼の口から出た言葉はーーー
「ごめんなさい・・・!」
謝罪だった。
「〇〇さん、あなたが、あなたが此処にいるのは、俺がしっかり聖杯を確保してなかったからなんです・・・!」
「あなたをこの世界に呼び出したのは、俺なんです!俺のせいで、俺のせいであなたは・・・!」
「・・・・」
そう、リツカは後悔していた。自分のせいでただ普通の人を戦場に引き連れてしまったことを。本来ちがう世界の人間である彼をまきこんでしまったことを。
此処は自分たちの世界だ。そうである以上人理は自分達の力で取り戻す必要があった。だからこそロマンの推測を聞いてリツカは、自分が〇〇を地獄に落としてしまったと感じたのだ。
〇〇の服を強く掴みリツカは続ける。
「俺のせいであなたはひとりぼっちになってしまった、俺のせいであなたは戦場なんて所に行くことになってしまった・・・!」
「・・・・」
「俺の・・・!?」
しかしそんなリツカの言葉を、〇〇は瞳を合わせることで閉じさせた。〇〇の瞳に浮かんでいたもの、それはーーー
「リツカくん・・・・
ありがとう」
感謝であった。
「・・・え?」
「リツカくん、おれこの世界でずっと感じていたんだ。此処にいる意味はあるのかって。何かを成す資格があるのかって」
「だって俺はこの世界の人間じゃない。この世界で育った命じゃない。完全なよそ者だ。そんな存在が、この世界に生きる人たちに関わってはいけない。」
「そう、思ってた・・・」
あの日を思い出す。聖杯の光が目の前を照らした、自分が死んだ日。事故によってただ死んで行くはずだった時。
「聞こえたんだ。君の声が」
そして同時に思い出す。車の中で潰され、血に濡れる瞳に映った光、聖杯とはまた違う暖かな光、その光から聞こえた声をーーーーー
(どうか・・・力を貸してください!)
「君が俺を見つけてくれた。ただ死ぬだけだった自分をすくい上げてくれた。必要だと願ってくれた。」
「この世界にいてもいいんだと思わせてくれた・・・。」
「だから俺は・・・この世界に来れてよかった!!」
「〇〇さん・・・」
見上げた〇〇の目線の先、土煙の舞い上がる先には、超巨大なドリルに貫かれた化け物がのたうち回っていた。
「いや、違う・・・」
「え?」
「今の俺は、〇〇という名前じゃない。
サーヴァント フォーリナー、召喚に応じて参上した。
真名をケン・イシカワという。しがない漫画家だが、恩人の君の力となることを約束しよう。」