すまないね、八雲サンタはしょうもない話をプレゼントすることしか出来ないんだ
桜の花が散って迎えた中学最後の春。
白騎士事件から何年か経って俺は中学三年生となった。
「はぁ……」
教室の自分の机に座り、校庭を眺めながらため息を吐く。
クラスの中は騒がしいが、俺の心は冷めていた。
「あぁ、鬱だ」
そうつぶやくと、俺は元凶であり、恩人でもある神様を思い浮かべた。
神様は言っていた。
俺は第二の人生を生きていけたら良かったのだ。何がどうしてこうなった。
善意なのだろうが、俺にはいい迷惑だ。
別にインフィニット・ストラトスという作品が嫌いな訳では無い。
が、この世界は少々厄介なのだ。
IS、正式名称「インフィニット・ストラトス」。宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。開発当初は注目されなかったが、「白騎士事件」によって従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能が世界中に知れ渡ることとなり、宇宙進出よりも飛行パワードスーツとして軍事転用が始まり、各国の抑止力の要がISに移っていった。
ISは核となるコアと腕や脚などの部分的な装甲であるISアーマーから形成されている。その攻撃力、防御力、機動力は非常に高い究極の機動兵器。特に防御機能は突出して優れており、シールドエネルギーによるバリアーや「絶対防御」などによってあらゆる攻撃に対処でき、操縦者が生命の危機にさらされることはほとんどない。ISには武器を量子化させて保存できる特殊なデータ領域があり、操縦者の意志で自由に保存してある武器を呼び出せる。ただし、全ての機体で量子変換容量によって装備には制限がかかっている。ハイパーセンサーの採用によって、コンピューターよりも早く思考と判断ができ、実行へと移せる。
ISは自己進化を設定されていて、戦闘経験を含む全ての経験を蓄積することで、IS自らが自身の形状や性能を大きく変化させる「形態移行」を行い、より進化した状態になる。第三形態までが確認されている。コアの深層には独自の意識があるとされていて、操縦時間に比例してIS自身が操縦者の特性を理解し、操縦者がよりISの性能を引き出せるようになる。
ISには謎が多く、全容は明らかにされていない。特に心臓部であるコアの情報は自己進化の設定以外は一切開示されておらず、完全なブラックボックスとなっている。原因は不明であるがISは女性にしか動かせず、それが原因でこの世界は女尊男卑の世の中になってしまった。
コアを製造できるのは開発者である篠ノ之束のみであるが、ある時期を最後に束はコアの製造をやめたため、ISの絶対数が467機となり、専用機を持つ者は特別扱いされることが多い。コアの数に限りがあるため新型機体を建造する場合は、既存のISを解体しコアを初期化しなくてはいけない。
復習ついでに携帯でISについてのウィキさんの項目を眺めながらため息を吐く。
そう、女尊男卑。
ISに乗れるのは女性だけ。そのせいで女性の権力が上がってしまい、ISとは無関係な一般の女性でさえ男性をこき使ったりする時代になった。
ひっそり生きるには辛すぎる世界になった。
ていうか女尊男卑とかアニメで見てないし聞いてないよ、マジビビったよ。
……しかも神様はこんな事も言っていた。
俺を原作に絶対関わらせると。
あの時は混乱していて分からなかったが、今なら分かる。
俺は多分ISを動かせるのだろう、と。
そうでない事を願いたい。間違いであってほしい。
「というか、原作に関わらせたいならなんで一夏や箒と幼馴染ないし同じ学校じゃないんだよ……」
むしろそうしてくれた方が早くから諦めが付いたし、色々動けたのだが。
原作に関われるかどうかが定かでない状態で第二の人生など楽しめる訳がない。
ちなみに俺個人としてはあまり関わりたくない。
感情移入という言葉があるが、この作品は自分が参加するより傍観者として見るからこそ楽しめる作品だと思う。
だって俺アニメしか見てないし。好きなヒロイン居ないし。ラブコメ興味無いし。ていうか主人公の一夏マジ爆発しろだし。
もしIS学園行ったらあのアニメであったラブコメを目の前で見せ付けられるんだろ?そんで巻き込まれるんでしょ?無理無理。
絶対に一回は死ぬし一夏に対しての嫉妬がヤバい事になる。いや嫉妬というより女の子の気持ちに気づかない怒りだな。
後ろから刺してのnice boat待ったなし。
機械のIS自体は好きなんだけどなぁ。
ラスボスの福音とかかっこよかったよね。
でもなー、関わるんだろうなー、神様の言った事だしなー。
俺が通っている学校は本編主人公の一夏が居る学校ではない。
というか、都市部ですらない。田舎である。
さすがに小中含めて全校生徒が一桁なんてド田舎ではないが。
「あぁ、鬱だ」
この言葉を言うのは何度目だろうか?もう口癖になりかけた。
「お前らー、席つけー」
そうこうしているうちに担任と思われる教師が教室に入り、HRが始まった。
「あー、いきなりだが今日は転校生を紹介する」
担任の言葉にクラスは騒然とする。
転校生ねぇ、こんな田舎に珍しい。
「入りなさい」
「失礼する」
……ん?なんだか聞き覚えがある声だな。
少し気になったので、前へ視線を向ける。
教卓の横に立っていたのはやや不機嫌そうな顔をした、艶やかな黒髪をポニーテールにし、主張が激しい身体をした一人の女子生徒。
そして……
「日笠 箒だ。よろしく頼む」
「ぶふぉあっ!」
俺は盛大に吹き出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
衝撃のHRが終わり、休み時間となった。
幸い、転校生が来た瞬間に教室のテンションが最高潮となり、騒ぎ出す生徒が居たため俺が吹き出したのは上手くバレなかった。
ちらり、と俺は隣の席を見やる。
隣の席は、転校生に話し掛けるクラスメイトでごった返しているが、その中心に居るのは黒髪ポニーテールの女子。
どう見てもファースト幼馴染の箒さんですありがとうございました。
IS開発者、
インフィニット・ストラトスという作品においてはかなり重要な人物であり、確かなんとか保護プログラムのせいで家族離れ離れになって各地を転々としていたと記憶しているが……なるほど、ついにこの田舎に白羽の矢が突き刺さったのか。
恐らく今の名前も偽名なのだろう。
……もっと他のチョイスは無かったのだろうか。
「どこから来たの?」
「…………」
「あれ?日笠さん?」
「…………」
なんで全部無言なんだろうあの人。
……あぁ、なんか友達居ないとかそんな設定あったような無かったような。
すぐ転校するから友達作りたくないのかね?
まぁ、俺の知った事ではない。
何も起きない事を祈り、今日の授業を寝て過ごした。
……勉強?するわけないじゃん、だいたい分かるのに。
「あぁ、鬱だ」
そして退屈だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
篠ノ之箒が転校してきて数日経った。
最初こそはみんな興味津々で話し掛けていたが、彼女の素っ気ない態度により次第に彼女の周りに人はいなくなった。むしろ避けられ始めている。
「…………」
ぼっち弁当だよ。なんか俺も貰い泣きしそうだよ。
さすがに見ていられないので、隣の席である俺から時々話を振る事もあるが彼女の態度はあまり変わらない。
ここで篠ノ之箒が転校してきたのは、神様の気遣いなんだろう。
そして「ちゃんと原作には関わるからね」という確定申告でもあるのだろう。
あれ?つまり逃げ場無し?
諦めなきゃならないの?
いや、まだだ、まだ活路が……!
無理だった。
さらに数日経ったが流石にぼっち弁当を何度も見るのは辛い。もうやめてあげて。
もしかして俺がアクション起こさないとこの子ずっとぼっちなの?こっちの良心ガリガリ削るの?俺の良心のライフはもうゼロよ!
いいぜ神様!そっちがその気ならば俺も腹をくくろう。
サヨナラ、退屈。
こんにちは、刺激。
かかってこいよ、原作!
「よし、解散!」
「「「「ありがとうございました!」」」」
「お前、今日も残るの?」
「ああ」
「俺は疲れた。またなー」
放課後。
所属している剣道部の練習が終わり、仲間は帰ってゆく。
剣道は前世でもやっていたから、というのが所属した理由だ。
みんな中学最後の夏の大会に向けて必死に練習している。
一応、部活の主将を務めている俺も例に漏れず、部活が終わった後でも居残り練習をしている。
二人で。
「…………」
「…………」
片方は俺。
そしてもう一人はいま噂の篠ノ之箒さん。彼女は女子剣道部に所属している。
お互い、一心不乱に竹刀を素振りしている。
こういう機会は何度もあったが未だに会話は無い。
さて、少し柄でもない事をしてみようか。
彼女の今の現状、さすがにこれは見ていて辛い。かつての自分を思い出してしまいそうで泣ける。
それに俺は彼女の未来を知っている。
そう、ヒロイン(笑)になってしまう彼女の運命を!モッピーと呼ばれてしまう運命を!
……どうせなら、おもしろおかしく運命を変えてもいいんじゃないか?
俺が原作に関わりたくない理由の大部分はラブコメ騒動だ。
もし彼女が上手く一夏とくっ付いたなら、俺は一夏に嫉妬する事もないし、俺がラブコメ騒動に巻き込まれる事は無い。
俺は平和に学園生活を満喫できる。
彼女は一夏と結ばれる。
win-winじゃないか!
俺は素振りを止め、少し離れたところで練習を続ける彼女に呼び掛けた。
「ねぇ、
彼女の本来の名前で。
「!?」
彼女は見事に反応した。
竹刀を止め、ひどく驚いた表情でこちらを見つめている。
「お、合ってた?」
確信犯なのではあるが、一応それらしい反応をしておく。
「なぜ、知っている?」
「昔道場やってた?親戚があの辺住んでて何回か行ったことあるんだよね。んで、もしかしてと思ってね」
キッ、と睨んでくるが怯まずに受け答えする。
ちなみに親戚云々は嘘である。
「……そうか」
理由を聞いて納得したのか、とりあえず睨むのは止めてくれた。
「ていうか、ドヤ顔で「篠ノ之流剣術~」って言って型を普通にやってたよね。普通に分かる人が見れば分かると思う」
「……見てたのか?」
「たまたま」
俺の言葉を聞いた篠ノ之さんは頭を抱えた。
「まぁ、その、深くは聞かないでおくよ」
篠ノ之なんて苗字はそうあるものじゃない。彼女の身の上を察したフリをして、アハハと取り繕った笑顔を向ける。
「そうしてくれると私も助かる。それと、この事はあまり口外しないでくれ」
「あぁ、分かってる。今日はこれで上がらせて貰うよ。戸締まり頼んだ」
そう言って俺は武道場を後にした。
「掴みは上々、さてどうするか」
これで箒は俺を無視する事は出来なくなった筈だ(願望)
完全俺プロデュースによる「モッピー脱却計画」が今、始まる!
きっかけは俺の悪戯心。動機は退屈凌ぎ。後悔も反省もしない。
多分、きっと、めいびぃ。
編集したら主人公が早くもアホになった
はよIS学園にぶち込みたい