神様転生した者だけど毎日が苦痛   作:八雲 紅

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???「狭いとこが落ち着くのってなんだろうね、あれ」


修羅場疾走の第31話

俺は部屋の番号を確認する。

 

『1030号室』

 

うむ、間違ってない。

 

次は辺りを確認。

 

うむ、一年生の寮だ。

 

 

次に部屋の扉を開ける。

 

「わたしにしますか?わたしにしますか?それともわ・た・し?」

 

バァン!

 

俺は再び勢いよく扉を閉めてポケットからスマホを取り出す。

 

「織斑先生の番号は……」

 

「ちょ、待って!織斑先生はシャレにならないから!」

 

いつ挟んだのか、ドアの間に扇子を挟んでいたようで強引に部屋から出て来た生徒会長が慌てて俺からスマホをひったくる。

 

「返してください」

 

「いやよ」

 

短く答えると生徒会長は部屋へ入っていった。

 

このまま逃げてもいいのだがスマホという人質があるし、そもそも自室に帰れないので会長に続いて部屋へ入る。

 

「おかえりなさいませ♪ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」

 

結局やるのかよ、それ。

なんというか逆に清々しい。

 

 

「じゃあ風呂で会長を食べます」

 

 

「…………えっ?」

 

 

おい。

 

 

 

 

おい。

 

せっかく乗ったのになんでそこで意外そうな顔をするんですか。

俺がアホみたいじゃないか。

 

 

「……あ、ごめんなさい。ちょっと意外だったからおねーさんびっくりしちゃったわ」

 

バッ、と開いた扇子には達筆な文字で「驚愕!」と書かれていた。

 

「そんな格好されて何も感じない男なんて居ませんよ」

 

そう、会長の今の格好は裸エプロン。

四天のハイパーセンサー越しに見てますが何か?

 

「あ、これの下は水着だから」

 

そこ重要?

まぁ、そんな事だろうと思ってました。

 

「それより、これはなんですか?」

 

そう言って俺は来客用のテーブルの上を指差す。

そこには誰かの手作りの料理が置かれている。

寮の部屋には小さいがキッチンがある。そこで簡単な調理は可能だ。

 

「私が真心込めて作った手料理よ?ささ、座って座って」

 

と、会長は俺を無理矢理席に座らせると自身も俺の正面に座った。

あとスマホも返却された。

 

せめて着替えろよ。

 

「如月鋼夜くん」

 

と、いきなり会長にフルネームで呼ばれる。

 

「先日のクラス対抗戦では助かったわ。貴方の勇気ある行動で被害は最小限に留められました。全校生徒を代表してこの私、生徒会長の更識 楯無がお礼申し上げます」

 

そう言って会長は頭を下げる。

 

 

「……どういたしまして?」

 

いきなりの事で呆気に取られた俺はこんな返答しか出来なかった。

 

「と、いうことよ。この料理と格好はサービスよ」

 

再び扇子を開けばそこには「感謝」と達筆な文字で書かれていた。

文字変わってる、とかツッコんだら負けなのか。

 

……胡散くさい。

なんとなくだが、嫌な感じがする。

 

 

俺は目の前の料理を見る。

炊きたてなのか、湯気のたっている白飯に湯気のたっている味噌汁。

白身魚の塩焼きにそして肉じゃが。

 

新婚さんの料理か何か?

 

毒とか入ってないよな。

毒とは言わないがタバスコ入りとかありそう。会長とはいま会ったばかりだがそういうのをこの人は平気でしてきそうだ。

 

「だいじょぶだいじょぶ。変なものは入ってないわよ」

 

そう言って会長は肉じゃがをパクりと一口。

よく見れば食事の準備は二人分。あなたも食べるんですか。

 

 

 

 

「それでね、如月くん。おねーさんちょっと個人的な話があるんだよねー」

 

コンッ……コンッ。

 

会長が話し始めるのと部屋の扉がノックされるのは同時だった。

 

間隔の空いた、控えめで遠慮がちなノック。

 

 

ーーーーっ!?ちょっと待てこの気配はヤバい!

 

 

「あら?誰か来たみたいね、おねーさんが出ようかしら」

 

辞めろ!ただでさえその格好で出られたらややこしい事になるのに今出られたら本格的にヤバい!

 

扉の向こうから感じる気配。

間違いない、いま部屋の前に居るのは簪さんだ!

 

俺の修羅場センサーが激しく非常警報を鳴らしている。

いま会長が出てしまえば修羅場どころか完全に俺がとばっちりの冷戦が始まってしまう。

 

会長はどうかは知らないが、簪さんは会長の事をよく思っていないのは確か。

 

修羅場はなんとしても阻止しなければ!

 

 

 

「出ないで下さい!」

 

俺は会長の手を取りクローゼットまで連行すると扉を開いて会長を中に押し込む。

このクローゼットは共用なので頑張れば人が隠れられるくらいには大きい。

 

さぁ、あとは俺が何食わぬ顔で対応を……

 

「えいっ」

 

後ろから会長に引っ張られ、俺もクローゼットの中に引きずり込まれた。

そして会長は素早くクローゼットの扉を閉める。

 

「な、なにするんですか!?」

 

「いやぁ、つい。それより大声出すとバレるわよ?」

 

共用で大きいクローゼットとはいえ二人で入れば窮屈だ。

…………会長の顔が近い。女の子特有のいい匂いがする。裸エプロンだから会長の身体の感触ががががが。

 

「こういうのって、ドキドキするわね」

 

無心だ無心。明鏡止水だ俺。悟れ、悟りのハイパーモードだ。反応したらいけない。ほら見ろ会長のにやけた顔を。楽しんでるぞこの人。反応してはいけない。

 

くそっ!今思えば何故シャワールームじゃなくてクローゼットにした。完全に失敗だ。

 

 

 

「…………」

 

何度か扉をノックされたが留守と判断したのか、簪さんは去って行った。

部屋が防音製で助かった。

 

 

去って行ったと判断すれば俺は急いでクローゼットから飛び出す。

 

「なにするんですか本当……」

 

「てへ☆」

 

てへ☆じゃねーよ。可愛いじゃないかこんちくしょう。

まったく反省する気ゼロだこの人。

 

「で、そろそろ着替えていいかしら?」

 

「……どうぞ」

 

制服片手に会長がそう言うがもうツッコむ気力も起きない。

マイペース過ぎるよ、この人。

 

「覗かないでね」と言い残して会長はシャワールームに引っ込んだが数分で出て来た。

覗く暇ないじゃん。

 

 

 

 

「味はどう?」

 

「美味しいです」

 

そして奇妙な食卓。

軽い世間話をしながら会長が作ったという肉じゃがを食べる。

味は普通に美味しい。

 

知ってるか?俺と会長は初対面なんだぜ?いや、本当に奇妙だ。

 

 

「会長」

 

「なにかしら?」

 

食事の手を止めて会長を見る。

会長も箸を置いて俺の言葉を待つ。

 

俺は前から気になっている事を聞くことにした。

 

 

「会長のISは会長自身が製作したって本当ですか?」

 

「そうね。システムや設計は確かに私が考えたわ」

 

俺がそう聞くと会長は得意気な顔で語ってくれた。

 

「でも70%は既に出来ていた機体を改修して作り直したって言った方が正しいわね。さすがに私でも篠ノ之束みたいに一からISを作る事は出来ないし、それに何人もの人が手伝ってくれたから完成したの。私一人じゃ無理だったわ」

 

「いや、充分凄いと思いますよ。尊敬します」

 

「ふふっ、ありがとう。でもいきなりどうしたのかしら?」

 

「会長って、妹さんが居ますよね?四組の簪さん」

 

俺が会長の疑問に答えるために逆に質問を投げかければ会長の表情が一瞬だが変わった。

 

「えぇ、そうよ。簪ちゃんは私の大切な妹よ」

 

何ともないように答えているが、会長の雰囲気が変わった。

先程のおちゃらけた空気と打って変わり、ピリピリと緊迫した状況になる。

 

内心で地雷を踏んだか、と後悔するが黙る訳にもいかず、全部話す事にする。

 

「簪さんが一人で自分のISを製作しているのは知っていますか?簪さんから理由を聞いたら、その中に会長のお話が出て来たんです。それに俺はこれから彼女にはお世話になる予定ですから、お礼に彼女のIS製作を手伝いたいと思っていたので」

 

俺もISに関わる事が多い立場ですし、簪さんの気持ちは分からなくもないですから。と付け加える。

 

「そういうことなのね。そっかそっかー」

 

俺の言葉にうんうんと頷きながら、納得した表情を見せる会長。

 

 

「……簪ちゃんに近付くな、って言えなくなっちゃったわね」

 

扇子を広げて口元を隠しながら会長は小さくそう呟いた。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「なんでもないわ」

 

扇子を閉じ、笑顔で会長はそう答える。

すみません、その呟きは思いっきり聞こえました。

 

 

「さあさあ、冷めないうちに食べちゃいましょう」

 

誤魔化すかのように会長に急かされ、奇妙な食卓は続いたのだった。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末さまでした」

 

合掌。

ちょこちょこ会長と話しながらの食卓も終わりを迎えた。

会長の手料理は美味しかった。

 

皿を片付け、食器を洗う。

皿洗いは俺がする、と言ったのだが会長が自分がするから、と言うので皿洗いを任せた。

 

 

「如月くんって好きな子とかいるのー?」

 

「居ても恋愛なんて出来ません」

 

「なんかゴメン」

 

「いえ」

 

などなど、冗談を交えながらの世間話が続いた。

 

 

 

「なかなか楽しい時間だったわ。なにかあったらすぐ言いなさい、生徒会長であるおねーさんがカッコ良く助けてあげるわ」

 

それほど量も無かったので皿洗いもすぐに終わり、会長ももう帰るようだ。

部屋の前で会長を見送れば彼女は俺にウインクし、頼もしい言葉を言ってくれた。

 

「色々と、ありがとうございます」

 

「じゃあね、おやすみ。あ、本音ちゃんは後で帰って来ると思うから」

 

 

やっぱりのほほんさんと打ち合わせ済みだったか。そういえばのほほんさんって生徒会役員だったな。

 

会長が曲がり角を曲がって見えなくなるまで見送り、俺は辺りを見回してから部屋へ戻った。

最後まで警戒は怠らない。この光景を簪さんに見られてもアウトだから。

 

 

 

「はぁ……」

 

扉を閉めると身体にドッと疲れが一気に押し寄せてきた。

 

着替えを取り出し、シャワーを浴びようと脱衣場へ向かう。

服を脱ぎ、シャワールームへ入り蛇口をひねる。

シャワーからちょうど良い温度のお湯が出て自分の体を濡らしていく。

 

疲れた……肉体的にも精神的にも。

 

生徒会長が常識人かと思ったらただのシスコンだった。

いやまぁ、常識人という希望は最初の裸エプロンで粉々に散った訳だが。

 

会長から感じた嫌な気配は外れていなかった。

会長が俺に会いに来た理由は恐らくお礼もあっただろうが、一番は妹の簪さんについてだろう。

「妹に近寄るな」的な。

 

地下室連行からのゴルフクラブかな?下手したらあり得たかもしれなかった。

……なんでシスコンで真っ先に出るのが桜ノ宮なんだ。シスコンっていうよりシスヤンだよあれ。

俺の精神はもうヤバいのか。

 

 

しかし簪さんが部屋に来るとは思わなかった。あれは全力で回避して正解だった。

もし二人が鉢合わせていたらと考えると……やっぱり考えたくない。

 

なんでこうピンポイントで二人は喧嘩しててピンポイントでイベントが被っちゃうのかなぁ?

こういう修羅場は一夏の担当だろうが。なんで何もしてない俺に厄介事が来るんだよ死ね。

イケメン死ね、慈悲はない。

 

それに家族関係だから俺が口出せる事じゃないし。

 

まぁ、会長は話が分かる人みたいだし最終的に俺が何もしない事を理解してくれたようだから良かった。

 

前向きに考えれば生徒会とのコネが出来た。訓練相手が出来た。それでいいじゃないか。

そう思おう。

 

考え事も程々に、俺は髪と身体を洗ってシャワーを終える。

髪をドライヤーで乾かし、その後に帰ってきたのほほんさんと会話して一日を終えた。

 

 

あ、週末にラビアンローズに寄ろう。

 




一夏だったら会長の裸エプロンに反応しなかった
一夏だったら会長の呟きが聞こえなかった
一夏だったら修羅場だった
つまり一夏はホモ(暴論)

会長ってギャグもシリアスもこなせる万能キャラですよね
修羅場にしても良かったけど、そうすると完全に鋼夜の学園生活が終了してしまいそうになるのでこうなりました
つまらない?申し訳ありません

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