生徒会とお話しした日から三日が経過した。
会長が忠告をしてくれた日でもある。
放課後になり、いよいよイベントが起きるという日だ。
今、俺は第三アリーナにいる。
「これで、どうかな!」
シャルルの雄叫びと共に繰り出されたのはシールドに内蔵された大口径の杭。
パイルバンカーと呼ばれる武装だ。
この武装は威力は大きいが隙が多い。故に奥の手と言ってもいい。
さすがは代表候補生。回避も間に合わない、奥の手にはうってつけの完璧なタイミングだ。
「『
それに対して俺は両肩部に存在するアンロックユニット、VPS製のシールド『天岩戸』の右を前面に展開する。
両者一歩も引かず。
己の得物の行く末を見つめる。
勝ったのは、『天岩戸』だった。
衝撃全てを相殺されたパイルバンカーは勢いを失うと煙を上げた。
「むぅ……
模擬戦を中断し、パイルバンカーを粒子に戻したシャルルが不満そうに呟いた。
「こればかりはラビアンローズの技術力ということで納得してくれ」
笑顔でシャルルに答えながら、俺は内心で輝さんに感謝した。
輝さん、マジでありがとう。
最近の放課後は俺とシャルルと一夏で過ごしている。
シャルルのためなのは言わずもがな。
今の実験はちょっとした好奇心で試したものだった。
パイルバンカーVSフェイズシフトがやってみたかった。
結果はフェイズシフトに軍配が上がった。マジで凄いな、フェイズシフト。
「実弾無効なんて、本当に僕と相性悪過ぎだよ」
「いや、あのまま続けてたら怪しかったな」
拗ねた様子でシャルルが呟くのでさりげなくフォローする。
それが四天の持ち味なのでどうしようもない。しかも換装したらビームも無効化する親切設計。
『まぁ、俺の零落白夜が通じるのには驚いたけどな』
観戦していた一夏が自慢気な顔で通信を回してきた。
一夏の零落白夜は刃にエネルギーを集めてそれで斬る、という原理なのでビームに近い。なので防げない。
『そうか。よし、じゃあ次はシャルルと一夏の切り札勝負でもしてくれ』
『えぇっ!?』
『一夏をいじめちゃダメだよ鋼夜。さ、今日はもう上がろう』
シャルルがそう締めくくり、今日の練習はお開きとなった。
見たかったんだがなぁ、一夏がボコボコにされるとこ。
シャルルの性別の問題で更衣室の使用には注意している。
俺と一夏が見張りとして入口に待機し、シャルルが着替え終わってから俺達が着替える。
面倒だが、問題に決着がつくまではこれを続けるしかない。
「そういえば、もうすぐ学年別トーナメントだね」
着替えが終了し、寮へ戻る道中にシャルルがそう口にした。
「ああ、そうだな」
「やるからには一夏にも鋼夜にも負けないよ!」
「おう!望むところだ!」
「そうだな」
横で二人が盛り上がっているが、タッグ戦になる未来を知っている俺からしたら微妙な心境だ。
いや、しかしよく考えたらタッグにしろシングルにしろ参加人数ってどうするんだ?
専用機持ちやクラス代表や国家代表候補生は必ず参加として他の一般生徒はどうなんだろう。参加できる人数に制限があるとか?
いや、確かアニメでタッグ相手が居ない人は抽選云々があったから全員強制参加なんだろうな。
それで箒がラウラと組まされてた訳だし。
しかしそうなると……
1クラスの人数は約30人。
各学年は4クラスある。
だから参加人数は約120人。
そしたらトーナメント表がヤバい事になるんだが。植物の根みたいなトーナメント表になるぞ。
タッグにしても約60組の参加。
スポーツの全国大会より多いとか、どういうことだよ。一日あっても一回戦すら全部終わらないだろ、これ。アリーナ全部使って制限時間を設けてやっと回るくらいか?
改めて考えると恐ろしいな。
「あれ?なんか人だかりが出来てるよ?」
あれこれ考えていると寮へ着いたようだ。
シャルルが言った通り、寮の入口のフロアにある情報掲示板の前に人だかりが出来ていた。
「あ!男子三人を発見!」
人だかりの一人が俺達の姿を確認して声を上げた。
それに反応して人だかりの全員がこちらへ振り返ると、一斉に押し寄せてきた。
あー……ついにきたか、このイベント。
「三人とも!これを見て!」
最前列に居た子が掲示板の通知を引っぺがし、それを俺達三人に見せる。
「えーっとなになに……『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』ーー」
「ああ!そこまででいいから!」
一夏が紙の内容を読み上げていたが、途中で紙を引っ込められた。
そして周りの子全員の手が一斉にこちらに伸びてくる。
「私と組もう、織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
「私と組みましょう、如月君!」
全員目をギラつかせながらこちらの答えを待っている。
その姿はまるで獲物を追う肉食獣のようだ。
「え、えっと……」
と、困り顔のシャルルが助けを求めてこっちを見るのを感じた俺は一夏をこっそりと肘で小突く。
それで一夏もシャルルの様子に気付いたようだ。
「悪い、俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」
周りの女子に聞こえるようにはっきりと宣言する。
一夏は俺の予想通りシャルルと組んだ。はい、計画通り。
「じゃあ如月君でいいや、組も!」
「お願い如月君!」
と、今度は俺に集中して手が伸びる。
「少し考えさせてくれ」
とりあえず俺はそう答えておいた。
既に組みたい相手は決まっている。
それに最初から俺に頼んできた子はともかく、一夏とシャルルが無理と分かった途端に俺で妥協する奴なんかと組みたくない。こちらから願い下げだ。
「分かったよ」
「まぁ、いきなりだし仕方ないか」
とりあえず俺達の言葉に全員納得したようで、ぞろぞろと解散していった。
「ありがとう一夏、鋼夜。助かったよ」
去っていったのを確認したデュノアはほっと胸を撫で下ろし、一夏と俺に感謝した。
「気にするなよ。事情を知ってるのは俺達だけだし、サポートするのは当然だろ?」
「一夏に同じく」
「そんなことないよ。……二人は優しいんだね」
そう言うとシャルルはニッコリと微笑んだ。まるで天使の笑顔だ。
……ん、廊下の向こう。
こちらに迫る二つの気配を確認。
厄介事になる前に退避退避。
「そう言えば鋼夜は誰と……あれ?いない?」
「一夏っ!私と組みなさい!」
「一夏さんっ!わたくしのペアになってくださいまし!」
気配を消して俺はその場を離れた。
入れ替わるように鈴とセシリアが一夏の方へ向かった。
背後で一夏が何か叫んでいたが俺は無視した。
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一旦部屋に戻って着替えた後に俺は食堂へ向かった。
食堂へ来るまでに何人もの女子にタッグの申し出を頼まれたが丁重にお断りしながらここまで来た。
ざるそばを注文した俺は容器を持ってとある人物を探す。
「お、いたいた」
「む……貴様か」
目的の人物……カウンター席に居るラウラ・ボーデヴィッヒの隣に俺は座った。
努力の甲斐あって、ボーデヴィッヒとはこうして普通に話せるくらいの仲にはなった。
「なんの用だ」
「学年別トーナメントについては聞いたか?」
ハンバーグをつつくボーデヴィッヒにそう聞けば彼女は「いいや」と答えた。
「ルールが変わってな、二人組で参加しないといけないようになったんだとよ。これが証拠だ」
ここに来るまでに入手した通知の紙をボーデヴィッヒに渡した。
彼女はそれを受け取る。
「……ほう」
それに目を通したボーデヴィッヒは目を細めた。俺が何を言いたいのかが分かったのだろう。
俺は目的を正直に言う事にする。
「単刀直入に言おう。俺のタッグパートナーになって欲しい」
頭を下げてお願いする。
一応こちらが頼んでいる立場なので最低限の礼は尽くす。
「……ふん、いいだろう」
「感謝する」
まさかまさかの許可が出た。
顔を上げた俺は感謝の言葉を述べて礼をする。
「パートナーなぞ必要ないが、教官からの命令なら仕方ないな。それと、貴様の態度に免じて話に乗ってやろう。ただし私の足を引っ張る真似はするなよ」
かなり上から目線だが、実際に実力はあるので仕方ない。
俺もそこは評価している。
ボーデヴィッヒはふん、と凄んだ後に目を閉じて何やら思案する素振りを見せる。
そしてゆっくりと目を開くが、その瞳には憎悪の感情がこもっていた。
「……織斑一夏は私の獲物だ。私が、必ず、墜とす。それを邪魔するなら貴様も墜とすぞ」
「了解ですよ、少佐殿」
俺がそう答えれば彼女はもう一度目を閉じる。再び目を開いた時には憎悪は引っ込んでいた。
トーナメントまでも、トーナメント当日も、何も起こらなければいいんだが。
何も起こりませんように。
ひっそりと、そう祈りながら俺はざるそばをすすった。
短い(小並感)
フェイズシフトってレールガン耐えるんだからパイルバンカーも耐えるよね?
内部が多少イカレるけど耐えれるよ……ね?
遊戯王の新しいパック出たけど見送り
DDシリーズは気になるけどほとんどが再録ですし
アカメの方をやっちまいました
興味ある方はどうぞ(ステマ)