神様転生した者だけど毎日が苦痛   作:八雲 紅

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小学生VS小学生


弾け飛んだ第42話

「もう一発いっとく?」

 

「いや、させねーよ」

 

シャルルのパイルバンカーはリボルバー式で連射が可能なため、もう一撃放とうとするシャルルを妨害するために『散雷』を向けてビームを放つ。

 

飛んでビームを避けながらもしっかりマシンガンで倒れたままのボーデヴィッヒに追い討ちをかけるシャルルさんマジ容赦無い。

 

 

「はい、一夏」

 

「おう、さんきゅ。……さて、これで一対二だぜ?」

 

シャルルが落ちていた雪片弐型を回収し、それを一夏に渡した。

一夏はそれを受け取ると不敵な笑みを浮かべてそう言ってきた。

 

 

殴りたい、あの笑顔。

 

 

一夏の問いには答えず、俺は無言で両脇に抱えた『散雷』の引き金を引いた。

黄色いビームの光が二人に迫るが、避けられる。

 

 

計画は失敗。

ボーデヴィッヒは恐らく戦闘不能。

 

こうなってしまってはしょうがない。

もう俺にはボーデヴィッヒの謎システム発動の不発を祈ることしかできない。

そして、一人でこの二人と戦うこと。

 

圧倒的に不利だが、やるしかない。

最低でも一夏だけは道連れにしてやる。

 

抱えていた『散雷』を放り投げ、右手に近接ブレードの『篝火』を、左手にビーム拳銃の『召雷(しょうらい)』を展開。

 

一夏も雪片弐型を正眼の形に構え、シャルルも両手にサブマシンガンを展開する。

 

 

 

 

そして今、まさに動き出そうとした時にそれは起きた。

 

 

「ーーっ!?」

 

唐突に頭痛とも貧血とも例えようのない不気味な感覚が脳に襲ってきた。

 

気分が、悪い。

自分の中に何かが無理やり流れ込んでくる感覚がする。

 

 

劣等感、絶望、嫉妬、怒り。

それらが混ざり合った憎悪の感情が俺の中に無理やり流し込まれる。

 

「ぐっ……が…ぁ…」

 

試合中というのも忘れて武器を離し、頭を抑える。

痛い、気持ち悪い。

 

そんな様子を見て一夏とシャルルが何事かと動きを止めた。

 

息が荒くなる。ドス黒い感情が波のように押し寄せる。

そして流れ込んでくる感情と霞みがかったどこかの光景。

これは、ひょっとしなくてもーーーー。

 

 

 

 

「うあああああああっ!!!!」

 

突如、戦闘不能と思われていたボーデヴィッヒがいきなり絶叫し、彼女の機体がスパークした。

 

 

「えっ!?」

 

「なんだ!?」

 

突然の事に驚き、一夏とシャルルが振り返る。

 

その視線の先では、ボーデヴィッヒの機体が変形していた。

黒い装甲は全て溶け、生物のように蠢き、ボーデヴィッヒを飲み込んでいく。

 

 

くそっ……始まったか。

 

痛む頭を抑えながらなんとか『篝火』を拾い、黒い物体へ向けて加速。

シャルルと一夏を押し退けて『篝火』を大上段に振りかぶり、蠢く黒い物体へ斬りかかる。

しかし俺の決死の一撃は届く事なく、黒い物体から放たれた電撃により弾き飛ばされた。

 

 

「うっ、ぐぅ……あぁ!」

 

飲み込まれまいともがいていたであろうボーデヴィッヒだが、彼女の全身は黒い何かに包み込まれた。

 

 

「鋼夜、だいじょうぶ!?」

 

電撃で弾き飛ばされた俺の元へシャルルが駆け寄る。

この異常事態を前に、試合どころでは無いと判断したのだろう。

シャルルの助けを借りて俺はなんとか起き上がる。

 

情けねえ。

しかも、まだ頭が変だ……。

 

 

「なんだよ……あれ……」

 

完全に姿を変えた、ボーデヴィッヒだったものを見て一夏が呟いた。

 

そこに現れたのは全身が黒い装甲で覆われたISのような『何か』。

各部の装甲はどことなく日本製のISである『打鉄』に似ている。

そして右手には一振りの日本刀。

 

 

「『雪片』……!」

 

一夏が刀の名前らしき単語を呟く。

確かに、この黒い物体が持っている刀は一夏の『雪片弐型』と酷似している。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 

一夏が黒い物体に向かっていくが数回打ち合いが続くが一夏の方が弾き飛ばされた。

 

「ちくしょう!ふざけやがって!」

 

それでも一夏は立ち上がり、何かに取り憑かれたように黒い物体へ向かっていく。

 

何故だ、一夏が黒い物体に向かっていくたびに頭が痛い。変になる。

止めろ、辞めろ、ヤめろ。

 

 

 

「駄目だよ一夏!」

 

見兼ねたシャルルが向かっていく前に後ろから一夏を押さえる。

 

「それじゃあ機体が保たないよ、とにかく落ち着いて!」

 

「離せシャルル!あいつ、あいつ!」

 

それでもなお、一夏は動きを止めない。

黒い物体はというと一夏を弾き飛ばした後は微動だにしていない。

 

 

「どうしたんだよ一夏!なんで向かっていくの!?」

 

「あれは、千冬姉のデータだ!それは千冬姉のものだ、千冬姉だけのものなんだよ!それを……くそっ!」

 

横で一夏が何やら叫んでいる。

正直、意味が分からない。

うるさい。頭が痛い。口を閉じろ。

 

「それだけじゃねぇよ。あんな、わけわかんねえ力に振り回されてるラウラも気にいらねぇ。ISとラウラ、どっちも一発ぶっ叩いてやらねえと気がすまねえ」

 

 

一夏が何か言っている。

 

 

誰のせいでこうなったと思っていやがる。

お前が大人しくやられないからだろうが。

 

いや、お前はいつもそうだ。

俺は望んでもいないのにこんな場所に連れて来られた。

お前は俺の思い通りに動かない。

そしていつも余計な事をする。

俺の努力は空回り。

尻拭いはいつも俺。

 

 

理不尽?勝手?我儘?逆恨み?自業自得?

そんなことは分かっている、分かり切っている。

 

でも、このやり場の無い怒りはなんだ?どうすればいい?

 

これは流石に、我慢の限界なのよね。

 

 

……ああ、頭が、痛い。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……あちゃー、失敗かぁ」

 

ドイツの子の機体が変形していくのを見ながら僕は呟く。

まさかあんな形で『四天』を攻略されるなんてね、予想外。

一夏くんも唯一の武装の刀を投げるって……それくらい彼女を信用してたのかな?

 

まぁ、鋼夜くんはともかくドイツの子は凄い舐めてかかってたけど。

 

 

ふとドイツのお偉いさん方を見てみると、すごいすごい。皆が顔面蒼白。

各国に弱みを握らせちゃったね、可哀想に。

僕も有効活用させてもらおうかな。

 

 

『非常事態発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す!』

 

ふと、放送が入る。

この声は織斑千冬か。

まったく、イベントが豊富だね。この学校。

 

 

「社長、急いで避難を」

 

「分かったよ」

 

連れて来た護衛の二人に促され、VIP用の観客席を後にする。

もっと見たかったんだけどなぁ。

 

「それにしても、凄い感情の波だなぁ」

 

様々な感情が入り混じった波を感じながら呟く。

自分のアイデンティティを否定されて出来損ないと言われてどん底に落ちたけど恩師に救われ頑張るけど恩師の大切な存在に嫉妬してしまう。

そんな感じ。

ドイツの子のだろうか。

 

こんなにもストレートに流れ込んでくるのは彼女が強化人間に近い類いの存在だからだろう。

 

「大丈夫かな、鋼夜くん」

 

鋼夜くん、成り立てだし。

壊れちゃったら大変だなぁ。

せっかく見つけた仲間なのに。

 

「……ん?」

 

ふと、ドイツの子とは違う感情の波を感じる。

波というかこれは……ふふっ、そういうことか。

 

「頑張ってね、鋼夜くん」

 

彼の無事を祈ろう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ほら!鎮圧部隊が来るから!僕たちが出る必要は無いんだよ!」

 

「だから、無理に危ない場所へ飛び込む必要はない、か?」

 

「そうだよ!鋼夜だって動けないみたいだしーー」

 

「違うんだシャルル。全然違う。俺が『やらなきゃいけない』んじゃないんだよ。これは『俺がやりたいからやる』んだ。他の誰かがどうだとか、知るか。大体、ここで引いちまったらそれはもう俺じゃねえよ。織斑一夏じゃない。……シャルルは鋼夜を連れて下がってくれ」

 

「勝手に役立たず扱いするな」

 

言い争っている一夏とシャルルの二人の間に鋼夜が割って入る。

『篝火』と、黒い物体に向かっていく際に先程拾い損ねたビーム拳銃の『召雷』を左手に持っている。

 

「時間稼ぎは俺がやる。シャルル、一夏を連れて下がってくれ」

 

「鋼夜!聞いただろ、あれは俺がやるんだ!」

 

吠える一夏の言葉を聞いた鋼夜の顔が歪む。

 

「うるさい黙れ、大人しく従え」

 

「嫌だね!」

 

しかし一夏は鋼夜の言葉を無視して再びじたばたと暴れる。

それをシャルルが必死で押さえる。

 

 

「離せ!邪魔するなら二人ともーー」

 

 

「頭に響くんだよ、この馬鹿があああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

一夏が何かを言い終える前に鋼夜は感情のままに『篝火』を振り上げ、そして感情のままに『篝火』を振り下ろし、刀の峰を一夏の頭に叩きつけた。

 

突然の強襲。まさかの不意打ち。

一夏は何が起こったのかを理解する間も無く崩れ落ちる。

 

 

「…………えっ?」

 

 

隣のシャルルが、放送席の教師が、避難途中の人々が、凍りついた。

 

 

 

「ふふっ、ふふ、ふふふふっ」

 

その中で、肩を震わせながら本気で笑いをこらえる人物が一人。

如月鋼夜である。

 

 

「あっはっはっは!やった!やった!ついやっちまった!あはははははははは!マジかよ、あはははははははははは!」

 

しかし堪えきれなかったのか、今度はダムが決壊したように笑い出す。

 

 

 

今までの理不尽。

学園での騒動。

複雑な人間関係。

変わってしまった自身。

毒電波のように流れ込んでくる負の感情。

 

これらが同時に襲い掛かってきた鋼夜は思った。

なぜこんなに自分は苦労しているのか、苦痛を受けているのかと。

 

そして彼は脳がまともに働かないので理性や正常な価値観や論理観を捨てて本能に従って単純に考えた結果、ある結論に至った。

 

 

「これ全部アイツ(一夏)のせいじゃね?」と。

 

 

そう、つまり彼はーー

 

 

 

ハジけたのだ。




?「恨み晴らすからなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

鋼夜が遂に爆発
理不尽ってレベルじゃねーぞ

鋼夜の謎の頭痛の理由
一夏に反応して黒い物体の中のラウラも反応する→VTシステムは憎しみや怒りで動いてるからそういう感情しか出ない→鋼夜が巻き添え食らう
そんな自己解釈です

全てはVTシステムってやつのせいなんだ

度重なるストレス+訳わからん俺理論+ドイツ製毒電波
だから仕方ないね

毒電波をカミーユって言うのは止めたげてよぉ!

次回、マジギレ鋼夜対VTシステム

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