神様転生した者だけど毎日が苦痛   作:八雲 紅

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残念だったな少佐、トリックだよ



偽物退治の第43話

「はははっ」

 

イラついたから一夏を刀で殴った。

殴りたくなったから殴った。

善悪とか理性とかそんなのお構いなしに感情のまま殴ってやった。

ついカッとなってやった。

 

普段の自分では考えられない行動。

だが、後悔は無い。

むしろ、清々しいくらいの爽快感がある。

 

 

「はっ、あははははははは!」

 

 

そしたら笑えてきた。なんだか分からないが、笑いが出てきた。

 

だから笑った。

 

試合中だとかなんとか、そういうのも忘れて。

 

 

「あは、あははははっ……ふぅ」

 

笑いの波が引くと同時に俺は辺りを見回す。

 

一夏は気絶している。

シャルルは一夏を抱えたまま、ポカンとした顔でこちらを見ている。

黒い物体はご丁寧に中央で待ってくれている。

 

 

「……あっ。こ、鋼夜!」

 

ふと、我に返ったであろうシャルルが声を上げた。

見るからに困惑しているのが分かる。

 

 

「一夏をよろしく」

 

「待って、まさか本当に一人で」

 

「よ ろ し く !」

 

 

シャルルの言葉を途中で遮り、俺は単身で黒い物体へ向かっていく。

 

元凶の一夏は黙らせた。

ならば後は残ったこの邪魔な黒い物体を片付ける。

気分のいい、今のうちに。

 

迫る俺を敵と認識したのか、黒い物体は腰を引き、居合の構えを取った。

 

「耳障りなノイズばかりで、うるさいんだよぉ!」

 

そして繰り出される一閃。

俺は『天岩戸』を展開し、雪片擬きを防ぐ。

衝撃で機体がブレるが、倒れないようになんとかサブのスラスターで制御する。

 

初撃が防がれたのに構わず相手は勢いそのままに上段に構え、振り下ろす。

 

「実体剣じゃあ、こいつは攻略出来ねぇよ!」

 

袈裟斬りも『天岩戸』で受け止める。

無理矢理押し込もうとする相手に対してスラスターを全開にして対抗。

そしてガラ空きになっている相手の胴体部分目掛けて『召雷』でビームを撃ち込む。

 

ビームが数発被弾するが、俺の機体に蹴りを放つ。

俺が体勢を崩し、立ち直るまでの僅かな隙に距離を取ると刀を正眼の形に構えた。

 

こいつは突然変異しているが、元はボーデヴィッヒのISだ。

元の損傷やダメージを考えると、こいつもエネルギーは残っていないはず。

 

 

「そういえばお前にも言いたい事があったんだわ」

 

『召雷』でビームを放つとそいつはビームを避けながらも素早い動きで接近し袈裟斬りを放つ。

 

まともに受け止めずに『篝火』を斜めから下にさげることで振り下ろされる刃を受け流す。

 

すかさず相手が切り替えすより早く懐へ入る。

 

 

「一夏に気を付けろ、って言ったのに聞かなかったよな」

 

 

この間合いでは日本刀は扱えない。

相手が距離を取ろうと行動するが、俺はそれより早く『天岩戸』を全面に展開した。

目の前には謎の物体。ISの胸部に当る部分がある。

そこにアームで押し出された『天岩戸』が迫り、相手はそれをまともに食らってぐらつく。

盾で殴ってやったのだ。

 

 

「タッグなのに全然こっちを援護しないしよ」

 

すかさず左手に構えた『召雷』を撃ち込む。

数発の被弾を確認したが、数発を刀による防御で軌道を逸らされた。

 

 

「本気出さずに一夏ばっかりに固執してよ」

 

『召雷』を相手に向かって投げ捨て、サブマシンガンの『柳花(りゅうか)』を代わりに展開し、滑るように移動しながら乱射する。

 

相手は投げつけた『召雷』を刀で弾き飛ばし、銃弾も弾く。

伊達に織斑先生をコピーしていないようだ。

 

 

「お前のカノン砲なら俺にライフル撃ってる時のシャルルを狙えたよな?なんで撃たなかったの?援護してくれなかったの?だからこんな事になってるんだよ?分かる?この罪の重さ」

 

弾切れするまで撃ち尽くした『柳花』を投げつけ、今度は『篝火』を展開。

すると、弾丸の雨が止んだのを好機と見たのか黒いISが突っ込んできた。

 

 

「……それ、篠ノ之流だろ」

 

繰り出される斬撃を防ぎ、受け流しながら俺は確信した。

中学の頃に何度か箒と打ち合ったり、型を見たりした事がある。だから分かった。

こいつの動きはそれに似ている。

 

束さんと仲のいい織斑先生が箒の道場に通っていたとしてもおかしくない。

 

当然だが、俺の問いに黒い物体は何も答えない。ただ淡々と、俺を倒すために剣を振るっている。

 

 

「…………」

 

その剣を無言で捌いていく。

炎のように爆発するような怒りの波は鎮み、代わりに氷のように冷えた静かな怒りが湧き上がる。

 

確かにこれは織斑先生に、篠ノ之流の技だ。

しかしいくら相手が織斑先生をコピーしてもそれはコピーでしか無い。

しかもAIなら尚更。

 

目の前のそれは必死に織斑先生の真似をする人形だ。

形はそうだが、剣へ込める覇気が無い。思いが無い。

力任せ。いや、それこそ本当に力に振り回されている。

 

篠ノ之流に触れたから、そして俺も剣士の端くれだから分かる。

こいつは、非常に滑稽だ。

 

 

一夏が怒るのも分かる気がする。

 

では、一夏を殴った事を後悔しているか?と言われれば、それとこれとは別問題。

殴った事は後悔も反省もしていない。むしろ良くやったと思いたい。

 

 

「そろそろケリをつける」

 

数回切り結んだ後に急速後退。

こちらの動きを読んだのかは知らないが、向こうも後退する。

 

『篝火』を両手で握り、構え直す。

刀を握る手を右の腰の辺りまで下げ、刃を後ろに向け身体で刀身を隠す形になる。

 

脇構え、という名前の構えだ。

かの剣豪、佐々木小次郎が使ってたとか使ってないとか。

 

剣道では構えの性質上からまったく使われないが、ISを用いた戦いならば話は別だ。

移動中の構えに便利なので格闘戦になったら俺はよく使う。

 

 

そして動く。

俺は瞬時加速を使えない。なので真っ直ぐ突っ込んでいく形となる。

 

迎え撃つ相手は居合の構えを取る。

範囲に入れば、必殺の一閃をお見舞いされるだろう。

だから範囲に入る前に『天岩戸』を前面に展開する。

 

しかし異変が起きた。

白く輝いていた『天岩戸』の色が灰色へと変わっていったのだ。

フェイズシフトダウンーー簡単に言うと電池切れ。

物理攻撃を防ぐ無敵の盾は、このタイミングでただの鉄塊へと変わってしまった。

 

「しまっーー!」

 

急いで減速しようとスラスターを操るが、急には止まれない。

この状況で突っ込めばダウンした『天岩戸』は破壊され、続く袈裟斬りで俺の機体は切り裂かれて敗北するだろう。

 

 

そして範囲内へ入り、繰り出される必殺の一閃。

『天岩戸』と雪片擬きがぶつかり合う。

ーーーーが。

 

 

「なんてな」

 

俺は即座にアンロックユニットの『天岩戸』をパージして飛び上がる。

黒い物体の繰り出した一閃は『天岩戸』を斬り飛ばす。

しかし当然だが、そこに俺は居ない。

 

 

落下に合わせながら大上段に振りかぶった『篝火』を盛大に空振りをした黒い物体目掛けて振り下ろし、肩から股まで真っ二つに叩き斬った。

 

 

どうやら勝負は付いたようだ。

黒い物体はスパークしながらどろりと溶けるように変形していき、元のシュヴァルツェア・レーゲンに戻った。

 

そして中から現れた、恐らく気を失っているであろうボーデヴィッヒを抱きかかえる。

 

「……ふぅ、スッキリした」

 

 

全てが終わり、安堵した直後に突然目の前が真っ暗になった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

不思議な夢を見ていた。

 

 

人の手によって少女が生まれる光景。

戦うために作られ、鍛えられる少女の光景。

とある事故により落ちこぼれと呼ばれる少女の光景

尊敬する恩師のために色々と頑張る少女の光景。

 

これは誰かの記憶なのだろう。

ーー俺は、この少女を知っている。

 

 

 

「……なんだ、ここ」

 

気付けば周りが暗い宇宙空間のような場所に俺は浮かんでいる。

 

しかし今見た夢のようなものは、恐らくボーデヴィッヒのもの、彼女の記憶だろう。

何故、俺が他人の記憶を?

 

 

 

「……なぜ、ここにいる」

 

聞き覚えのある声がしたので思考を止め、振り返ると全裸のボーデヴィッヒが居た。

全裸と言っても大事な部分は透けたり変な光が入ったりで見えない。

身体の輪郭と顔だけがはっきり見えるだけだ。

自分の姿を確認すると自分も同じだった。

 

「ここはどこだ?」

 

「……私にも分からない」

 

どうやらボーデヴィッヒにも分からないらしい。

確かアニメで一夏もここに来てたけど、この空間が何かは分かって無いんだよな。

 

 

「っ……見たのか?」

 

OOの謎裸空間と同じなのか、と考えているとボーデヴィッヒからそう質問された。

 

「え?」

 

「妙な言い方かもしれないが……私の中にお前が入ってくる感覚がしたんだ」

 

思わず聞き返すと彼女は顔を赤くしながらそう告げた。

何時もの高圧的な態度はどこへ行ったのか。

 

 

「……見たといえば見た」

 

「そうか……ははっ、見たのか」

 

恐らくは夢のことだろう。

正直に答えると彼女は乾いた笑いを上げると俯いた。

 

「笑いたければ笑うがいい」

 

「いや、笑わねーよ?」

 

むしろどこに笑うポイントがあったのか。

俺がそう返せばボーデヴィッヒは意外そうな顔をする。

 

「確かにやり方はアレだったがお前が織斑先生を尊敬して、先生のためを思っているのは分かった」

 

「だが、その結果がこれだ。私は織斑一夏に負けた。機体が暴走して、そのせいで教官の顔に泥を塗った。……お前にも、迷惑をかけた」

 

「まさか……」

 

俺の呟きに反応し、ボーデヴィッヒは頷く。

 

「ああ。全部聞こえていたし、感じていた。お前の怒りや織斑一夏の怒りもな。……私を止めてくれた事は感謝する」

 

……VTシステムが暴走していた時、意識だけはあったのか。

それはそれで厄介だな。

 

「まぁ、あれは不可抗力だろ。機体に変なもの積まれてたんだ、お前は悪くない。気にするな」

 

これも全部、ドイツの奴らのせいなんだ。

ていうか自国で内密に使うならまだしも、何故IS学園に留学する予定の代表候補生の機体に積んだままなのか。

フランスといいドイツといい、この世界の大人はアホとしか思えない。

 

「今回のことで教官には見捨てられただろう」

 

俺が気にするなと言っても彼女の表情は晴れない。

あの放課後の会話での一言はかなり効いたらしいな。

 

 

「私は、どうすればいいんだろうな」

 

その暗い表情のまま、さらに言葉を紡ぐ。

 

「どうもしないだろ」

 

俺がそう答えればボーデヴィッヒは疑問に満ちた表情で首をかしげた。

 

「それは自分で決めることだ。今回の件はお前に非は無い。学園に残るのもドイツに帰るのも自由だ」

 

「……自分で、か」

 

俺はボーデヴィッヒの呟きに頷いて続ける。

 

「でも、せっかく織斑先生を追いかけて日本に来たんだろ?目的も達成していないのにドイツに帰るのはちょっと勿体無いと思うぞ」

 

「…………」

 

ボーデヴィッヒは黙り込んだ。

しばしの間、沈黙が流れるがボーデヴィッヒが急に顔を赤くして俺の方へ振り返る。

 

「目的?……ま、まさか貴様、私の……見たのか!?」

 

どうやら俺の含みのある言い方に勘付いたようだ。

 

「それについては謝ろう。しっかし一途だねぇ。『教官に褒めてもらう』ためって」

 

「う、うぅ……」

 

『目的』とやらを口に出すと彼女は更に顔を赤くし、ついには手で顔を隠した。

何時もの毅然とした態度はどこへやら。

 

 

彼女の記憶の中で感じた思い。

 

 

ーーーー教官のお陰で自分は頑張れました。

ーーーードイツの代表候補生まで登り詰めました。

ーーーーだから、どうか、頑張った私を見て下さい。

 

 

彼女はただ一言、褒めて欲しかっただけなんだと感じた。

その思いが捻れに捻れてこんな事になったんだろう。

 

……ボーデヴィッヒも織斑先生も、素直じゃないよな。

 

 

「別に笑うつもりは無いさ。勝手に覗いといて言うのもアレだけどさ、凄いと思うよ。俺なら途中で折れてた」

 

見たままの、正直な感想を言う。

俺なら絶対折れてた、断言する。

 

「う……うむ。いざ言われてみると戸惑うな……」

 

ボーデヴィッヒは気恥ずかしそうに顔を逸らした。

 

「すまないな、織斑先生じゃなくて」

 

「いや、いいんだ」

 

ボーデヴィッヒが何か言葉を繋げようとした瞬間、俺の身体が透けていった。

それに伴って意識も薄くなっていく。

 

そして感じる第三者の意識。

これは……あいつか。

 

「如月!」

 

「時間切れみたいだ」

 

消えていく俺の姿を見たボーデヴィッヒが声を上げる。

 

「これにて前菜は終了、メインディッシュがお待ちです。……言いたい事や聞きたいことは次のやつに言ってくれ」

 

だんだんと意識が遠退いていく。

ぼやけていく視界の中で、ボーデヴィッヒが何か言った。

最後の力を振り絞って、笑顔で手を上げて応える。

 

そして俺の意識はまた沈んでいった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……ん?」

 

視点がクリアなものに切り替わる。

気付けば現実世界に戻っていた。

 

ふと、自らの腕を確認する。

そこには抱きかかえられたISスーツ姿のボーデヴィッヒが眠っている。

 

「ありがとう、か」

 

俺はボーデヴィッヒを見ながらそう呟く。

まさかこいつからそんな言葉を貰うとは思わなかった。

 

 

そして俺はピットから次々と現れるラファール装備の先生方を見ながら、今後をどうするか考える事にした。

 




バトル難しい
いや、なんかもう、難しい

それと前々話くらいにシャルの中の人ネタいれたのに誰も反応しなかった、悲しい

VTシステム弱くね?とお思いの方がいると思いますが

原作で不完全状態の一夏が倒した→ボーデヴィッヒが元だし動かしてるのはAI→剣道未経験のボーデヴィッヒが無理矢理動かされているから?

と解釈しました
ドイツにカラテはあれどケンドーは無い、いいね?

例えるならプロサッカー選手に野球やらせる感じ
まぁうちの主人公も一応、剣士の端くれ()ですし

ディストーションタックルならぬVPSタックルで相手を完封するという展開も思い付いたがさすがにどうなのかと思って辞めた

謎の裸空間はとりあえず一夏に丸投げ
ちょうど気絶してますし
それに鋼夜に強さの理由とか聞かれても彼の場合だと「…………」って無言になるから

代わりに鋼夜には原作ではスルー気味のラウラの心情について触れてもらいました
見る限り、ラウラって千冬に褒めてもらったり自分を見て欲しいって感じですし
頑張った成果を褒めてもらおうと思ってるのに「選ばれた人間気取り」とか言われたらそりゃ闇堕ちしますわ

まぁ、お互いに問題ありありだから仕方ないですけど

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