神様転生した者だけど毎日が苦痛   作:八雲 紅

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展開が色々おかしいかもしれない
非力な私を許してくれ……


トーナメント後の第45話

「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した……」

 

 

織斑先生から解放された俺は部屋へ戻った。

あまりにも疲れた俺はさっさとシャワーを浴びて着替えるとベッドへ飛び込んだ。

 

そのまま眠りに入れれば良かったのだが、ふと先程の事を思い出していた。

否、思い出してしまった。

 

 

一夏を殴った後に高笑いしたこと。

マジギレしながら暴走したラウラに向かって行ったこと。

 

 

冷静になった状態でそれらを思い出した俺は、恥ずかしさのあまり悶えた。暴れた。叫んだ。落ち込んだ。

 

 

学園の生徒だけでなく各国の主要人物が居る中でのあの行動である。

黒歴史確定。死にたい。

 

 

「はぁ……」

 

 

 

部屋へ戻ってきたのほほんさんのボール人形投げが炸裂するまで俺はずっと塞ぎ込んでいた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…………」

 

「こうやん、元気出しなよ~」

 

 

俺は今、のほほんさんと一緒に食堂へ向かっている。

のほほんさんは普通に接してくれているが、明らかにすれ違う子達の態度が変だ。

 

あの時の俺はどう見ても、一夏を殴ったと思ったらいきなり高笑いしだした人、だ。

 

そんな人間に対して当然の反応だろう。

よそよそしくなるのが普通だ。

 

 

「はぁ……」

 

「だめだよ、ため息なんてしたら幸せが逃げちゃうよ?」

 

「……忘れちまったよ、幸せなんて言葉」

 

 

幸せってなんだっけ。

俺に幸せなんて来るんだろうか。

 

必死に励まそうとしているのほほんさんの気持ちがありがたいけど辛い。

 

 

そんな会話をしていると食堂に到着。

鯖の味噌煮定食を注文してテーブル席を二人で確保する。

 

 

「あ、かんちゃーん」

 

「本音と……鋼夜くん……」

 

ちょうど良く、夕食をトレーに乗せて席を探していた簪さんをのほほんさんが発見。

彼女も一緒に食べるように誘い、それを承諾。

正面にのほほんさん、簪さんが座る形になった。

 

 

「鋼夜くん……大変だったね」

 

「ああ……うん」

 

 

簪さんに同情された。

今は同情なんてするな、と言い返す気力も無い。

 

 

「でも……」

 

と、簪さんは前置きして、いきなり真面目な顔になる。

 

 

「彼に裁きを下したことを、私は大いに褒めたい」

 

そして無駄にきりりとした顔で彼女はそう言った。

……そういえば簪さんも、一夏に思うところがありましたね。

 

 

「……ありがとう」

 

簪さんから微妙にズレている励ましを貰った。

 

「まぁ深くは聞かないよ。こうやんも色々と苦労してると思うからね~」

 

のほほんさんもそう言ってくれる。

二人の優しさが嬉しい。

 

 

「でも~、喧嘩はダメだよ?」

 

「分かってるよ」

 

 

のほほんさんに言われるまでも無い。

ほとんどが自分の勝手や自業自得というのさ分かっている。

分かっているからこそ、余計に質が悪いのだ。

 

そして再びため息をつく。

 

それを見かねた簪さんが話題を変えるため、思い出したように「重大な告知があるらしい」と言ったので三人でテレビに注目する。

 

テレビには洋画劇場でが写っているが画面に帯が入り、文字が流れ出した。

 

「……『トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため、全ての一回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末で確認の上、それに従って下さい』、か」

 

流れてくる文字を読み上げていく。

それはトーナメントの中止を知らせるものだった。

うん、知ってた。

 

 

「あちゃ~、やっぱり中止になっちゃったね」

 

「……流石に、あの後にやるのはね」

 

二人も内容を見ると「やっぱりか」といった表情になった。

 

 

「優勝……チャンス……消え……」

 

「交際……無効……」

 

「かゆ……うま……」

 

「……うわああああああんっ!」

 

 

しかし周りの女子はそうでは無いらしく、告知が終わるとそんなことを呟きながら、食堂中の雰囲気が落胆していった。

そして大多数の人間が食堂から走り去っていった。

 

トーナメントが中止→優勝なんて無い→景品無効→絶望

 

と、いったところだろう。

食堂に残ったのは当事者である俺と一夏や、噂を知らなかったであろう数人の女子くらいである。

 

 

「……ねえ、鋼夜くん」

 

落ち込んだ雰囲気を断ち切るように簪さんが話し掛けてきた。

 

「優勝したら鋼夜くんと付き合える、って噂は本当だったの?」

 

どうやら簪さんも噂を知っていたようだ。

 

「そんな訳ないだろ、女子が勝手に言ってるだけだ。そもそも俺は鈴に聞くまで自分が巻き込まれているのを知らなかったんだからな」

 

それに対して俺は嘆息しながら答える。

 

「そうなんだ……」

 

「そもそも当事者が知らない時点で色々察してくれ」

 

そう言って俺は未だに食堂での一連の出来事が分からずに疑問符を浮かべている一夏を指差した。

それを見て彼女は納得したようだ。

 

 

 

それにしても妙な話である。

 

『トーナメントで優勝したら一夏と付き合える』

 

これを一夏本人が『優勝した奴と付き合ってやるよ!』と言ったんならまだしも、これを言ったのは一夏では無いしそもそも誤解である。

 

まぁ、それは抜きにしよう。

 

一番おかしいのは『一夏がその噂を理解してないのに一夏と付き合える』と思っていることである。

 

しかも一夏が噂を知らないのを彼女達は知った上で。

そして一夏に噂のことを秘密にしていた。

 

教室で一夏に必死に噂を誤魔化すクラスメイトを俺は見た。

 

噂を知らないのにいきなり「優勝したぞ!付き合え!」と言われて「はい!喜んで!」という展開になると思っているのだろうか。

 

「え?」という困惑の返事が返ってくるに決まっている。

一夏じゃなくても言う。俺でも言う。誰だってそう言う。

 

 

正しくは『優勝したら一夏に告白できる』では無いだろうか。

周りの女子の状況から考えて、誰かに抜け駆けをさせないために。

 

……なるほどねぇ。

専用機持ちを侍らせている一夏にとって、関わりをあまり持てない一般生徒は大きく差がある。

 

それを埋める一発大逆転のチャンス。

それが無くなったのなら、あの落ち込みようも理解出来る。

 

 

「…………」

 

一夏メインで考えてたら、なんだか悲しくなってきた。

 

もう過ぎた事だし忘れよう。

 

 

「悲しい顔しないでよ、こうやん」

 

のほほんさんにそう言われる。

顔に出ていたようだ。

 

「大丈夫だ」

 

本当、大丈夫だから。

 

 

 

 

夕食を食べ終え、食堂から出ようとした時に山田先生が大浴場を使えることを知らせに来た。

 

「織斑くんとデュノアくんは先に行ってますと思うので……喧嘩はダメですよ?」

 

山田先生に去り際、そう言われた。

確かにあの光景を見たあとならそう見られても仕方ない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

着替えを取りに部屋へ戻って大浴場へ行くと入り口で山田先生が待っていた。

 

「織斑くんとデュノアくんは先に入ってますよ。ゆっくりしていって下さいね」

 

「ありがとうございます」

 

山田先生にお礼を述べ、俺は脱衣場へと入る。

 

山田先生にはああ言ったが、正直に言うと困っている。

一夏に会いたくないのもそうだし、シャルルについての事もある。

あいつ女だし、どうしようか。

 

 

「あっ」

 

「鋼夜か……」

 

 

脱衣場には既に一夏とシャルルが居た。

一気に辺りの雰囲気が気まずくなる。

 

 

「……とりあえず、どうする?」

 

しばら沈黙が続いたが、俺はそれを断ち切る。

黙っていても始まらない。最低でも風呂はどうするか決めなくてはならない。

 

「お、お風呂のことだよね?僕は脱衣場で待ってるから二人で入って来なよ」

 

「それなら素直に好意に甘えるよ。ありがとうな、シャルル」

 

シャルルの提案を一夏はそのまま了解した。

 

シャルルも色んな意味で気を使ってくれたんだろう。

それに一夏とは少し話し合わなければならない。

 

「すまないな、シャルル」

 

俺もシャルルにお礼を述べ、着替えを持って移動し、着替える準備を始める。

もちろん、シャルルからは見えない位置に移動する。

 

 

 

服を脱ぎ、腰にタオルを巻いて待機状態の四天(眼鏡)をかけた俺は何故か入り口で待ち構えていた無言の一夏と共に大浴場へ向かった。

 

 

 

「広いなー」

 

「ああ」

 

大浴場へ入った一夏の第一声。

中は広い。そして、サウナや泡の出る湯船や檜風呂、さらにはサウナや打たせ滝や全方位シャワーなど、銭湯並みの設備が充実していた。

 

 

俺は身体をお湯で簡単に流してから一番大きい湯船に入る。

 

いい湯だ。やはり温泉はいい。

こんな状況で無ければ、鼻歌とか出ていたかもしれない。

 

 

少し遅れて一夏も入って来た。

一夏は俺の隣へ来ると腰を下ろし、肩まで浴槽に浸かる。

 

お互いに何かを話すでもなく、しばらく沈黙が訪れる。

 

 

「鋼夜」

 

その沈黙が破られる。

顔を横に向ければ一夏が何かを決心した顔でこちらを見ていた。

 

「皆から聞いたよ。お前がラウラを止めたんだってな」

 

やはりと言うかなんというか、一夏はさっきのトーナメントの事について話出した。

 

「俺さ、あの時はどうかしてたと思う。白式のエネルギーは少なかったし、下手したら二人を攻撃しようとしてた。鋼夜が無理矢理止めてくれなきゃヤバいことになってたかもしれねぇ」

 

一夏は落ち着いた調子で語る。

あの時のような怒りは感じない。

 

「箒やセシリアや鈴に言われたよ。『もっと自分の身を安じろ!』ってな。……意地張ってないで三人で戦えば良かったんだ」

 

一夏は淡々と語る。

だが、急に声のトーンを落とし、顔を俯けた。

 

「でもよ……納得出来ないんだ」

 

そう言うと一夏は俯けていた顔を上げる。

 

「あの時、鋼夜が俺を止めた。鋼夜があの偽物を倒した。状況を見たらそれが正しいことだって分かる。分かるけどよ……どうしても、納得出来ないんだ。千冬ねぇは俺の家族で、姉で、母親で、師匠で、恩人で……とにかく言葉で言い表せないほど大切な人なんだ。だからあの千冬ねぇの偽物が出た時は、怒った。俺が絶対倒してやるんだ、って」

 

小さな感情の爆発。

大切な人を侮辱された怒りが伝わってくる。

一夏は長い独白を終え、深呼吸をすると

 

「子供みたいな事言ってるのは分かってる。そんな自分が嫌になる。でも……これだけは譲れなかったんだ」

 

言いたい事をひとしきり喋ってスッキリしたのか、一夏の表情が少し良くなった。

 

「だから……」

 

「おっと、謝るのは少し待て」

 

俺は一夏の言葉を遮る。

自己完結してもらっては困る。

 

「その様子だと、俺がお前を気絶させた時のことは聞いてないみたいだな」

 

俺の確認に一夏は「あ、ああ」と頷いた。

 

「俺さ、お前殴った後に笑ったんだよね」

 

「……え?」

 

俺の言葉を聞いて一夏は思わず素の返事をしていた。

 

「相方は突然変異するわ頭痛いわでイライラするわお前がうるさかったからで、八つ当たりでつい殴った。実は何も考えてなくてさ、そしたらその後に笑いが込み上げて来て、なんか面白くて、つい笑っちまった」

 

呆気にとられた表情の一夏は、ただ黙って話を聞いていた。

困惑しているのが伝わる。

 

「だから謝ろうと思ってたけど、一夏がそう思ってたなら謝るの辞めた。……だから、一夏も謝らなくていいぞ。おあいこだ」

 

「……分かった、俺も謝らねぇよ」

 

 

「お前がシスコンだとは思わなかった」

 

「俺こそ、お前の気が狂ったと思ったぜ」

 

 

そう言ってお互いにニヤリと笑う。

分かり易い宣戦布告。

 

 

「でも、このまま引き下がるのはお互いすっきりしないだろ?」

 

「ああ、そうだな」

 

「ここは男らしく、真剣勝負で決着をつけよう。ちょうど向こうにサウナがある、我慢対決といこうか」

 

「ああ、いいぜ!」

 

 

 

そして二人でサウナに入って我慢対決をすることになるが、途中でシャルルが四天に向けてのプライベートチャネルで連絡してきた事により勝負は次の大浴場解放まで延期となった。




男って単純!
一夏はシスコン!
そういうことにしといて

シャルの入浴?無いよ
鋼夜居るからどう考えても無理です

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