一方、多数のお誘いを断った如月鋼夜はシャルロット・デュノアと共にラビアンローズへ訪れていた。
会社に入ってすぐにシィちゃんとカっちゃんの二人による愛の殺人タックルをお見舞いされるというハプニングはあったが。
「凄いね」
「何が?」
「シスちゃんとカチュアちゃんだっけ?あの二人の子は鋼夜に凄く懐いてたよね」
「まあな。兄貴分として、みっともない姿は見せられないから」
その様子を見ていたシャルロットに話を聞かれながら、エレベーターに乗り込み最上階へ向かう。
到着までの間、ふと彼女の格好を見て思った事を聞いてみた。
随分とお洒落だ。化粧もしているように見える。
「えらく気合いが入ってる格好だが、何処かへ行くのか?」
「うん。この後、一夏と一緒に買い物に行くんだ」
「……そうか」
彼女の素直な返答。
これから臨海学校で使う水着でも一緒に選んでもらう魂胆なのだろう。
しかし、とある事実を知っている俺は驚くと共にそっけない返事をすることしかできなかった。
「鋼夜も何処か行くんでしょ?ラウラから聞いたよ?」
と、今度はシャルロットから質問が飛んできた。
それについての答えは用意してある。
「中学の頃の友達が遊びに来るんだよ」
「あー、それなら学園の友達は呼べないよね」
シャルロットは皆まで聞かずに理解してくれたようだ。
さすがにこれは学園の友達を呼べない。色々な理由で。
一夏ならともかく、女子は呼べないし、絶対に気まずくなるだろう。
そう話しているとエレベーターが目的の階に着いたようで、自動ドアが開いた。
「すまん、ちょっとトイレ行ってくる」
「わかった。そこで待ってるね」
シャルロットにそう告げて俺はトイレへ駆け込む。
そして携帯を取り出して箒の番号へ連絡した。
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「やあやあ二人とも、せっかくのお休みに呼び出して申し訳ないね。まぁまずはそこに座って」
シャルロットと共に社長室へ向かうと、笑顔の輝さんが出迎えた。
輝さんに促され、二人で応接用のソファに座る。
「二人を呼び出したのは他でもない。この間の結果についてさ」
シャルロットの表情が変わった。
この間、というのはデュノア夫人を捕まえた時の件だろう。
具体的にはデュノア社はどうなるのか、シャルロットの身柄はどうなるのか、ということになるだろう。
「ははっ、そんな顔をしなくても大丈夫さ。正式にデュノア社が我が社の傘下に入るのが決まった。これはデュノア社やフランス政府やらの諸々の関係者から許可は貰っている。デュノア社はラビアンローズのフランス支社という名目で活動を存続、結果を出すという条件で政府からの援助も取り付けた。混乱を避けるためにラビアンローズとデュノア社の名前はそのまんまだけどね」
その他、経営やらの様々な情報や結果が輝さんの口から飛び出す。
結果を言えば、ラビアンローズは勢力拡大。
デュノア社は名前がややこしくなったものの、存在は残った。
まぁ、デュノア社……フランス支社の方には監視としてアプロディアさんや数名の人間が動くらしいが。
「向こうのトップはしばらくはそのまま。それでシャルロットさんの身柄や所属は日本に居る間は我が社が預かるということになったのでよろしく」
「はい、よろしくお願いします」
シャルロットの返事が室内に響く。
どうやら経営陣も一部を除けばそのままらしい。
しかし……まさかシャルロットが同僚か。人生、何が起こるか分からないものだ。
「シャルロットさんのラファールについては臨海学校の時にフランスから新開発された装備が送られてくる。鋼夜くんの装備と一緒に当日送るからよろしくね」
「はい」
「はい」
「難しい話は以上。お疲れ様」
輝さんは笑顔で話を締めくくった。
シャルロットはいくつか質問をした後に礼をして部屋を出て行った。
そして俺は何時ものように部屋へ残っている。
「輝さーん。『四天』の強化パックって完成してます?」
「バッチリ完成してるよ。楽しみにしててね」
俺がそう質問すれば輝さんは冷蔵庫から冷えたお茶を取り出しながら答えた。
「しかし……よくフランス政府がデュノア社の件を頷きましたね」
輝さんが取り出したお茶をグラスに注ぎながらそう切り出す。
シャルロットは居ないので聞きたい放題だ。
「デュノア社を切り離すのはフランスにとってみれば苦肉の策。それが多少の貸しで片付きつつ以前よりマシな状況まで持って来れるんだ、絶対に乗ると思っていた」
まぁ、デュノア社の諸悪の根源を除けて政府にも責任が及ぶシャルロットの件を解消出来て更にイグニッション・プランに再び参加出来るチャンスとなれば多少のリスクを払ってでも話に乗るだろう。
「でも、それだけではないでしょう?」
「……よく気付いたね」
俺が食い下がるのを見て輝さんは目を伏せると共に認めた。
「大方、俺の存在が関係しているでしょう?今はそうでもないですが近いうちに『フランスに支社があるなら如月鋼夜はフランス所属だ!』とか言い出しますよ」
それくらい、男性操縦者には価値がある。
もし俺がラビアンローズに所属していなければ、こう上手く話は進まなかっただろう。
「そして、シャルロットさんは一夏くんと親しい関係だ。もしかしたら結婚したりするかもしれない。そうなれば、なんの後ろ盾も無い彼をフランスは取り込みにかかるだろう。…………結果だけみればフランスは、今回の大博打に勝ったのさ」
状況を良くしつつ、更にでっかいチャンスが舞い降りた……それが今回のフランスだ。
「……はぁ」
「どうしたんだい?」
いきなりため息をつく俺が気になったのか、輝さんが訊いてくる。
「いや……一夏に『シャルロットはハニトラだぞ』って言えば俺にとっては都合がいいんですよ」
箒を応援している俺からすれば、現時点で強敵のシャルロットが消えるのは最高な訳でして。
「でも……これから同僚として働く相手にそんなこと出来ないじゃないですか」
顔を合わせるたびに間違いなく気まずくなる。
「……そうだね」
「もう、どっちでもいいのかもしれない」
一夏を落とすのは箒だろうがシャルロットだろうが、誰でもいい気がしてきた。
「あ、そうだ。最近の学園はどうだい?」
「最近の学園ですか……」
話題を変えて流れも変えようとしたのだろう。
輝さんが唐突にそう切り出すが、言った後で『しまった』という顔をした。
いいでしょう、話してあげますよ、最近のこと。
「トーナメントの後に色んな人に声を掛けられるようになりましたよ。主に外国人に」
「あぁ……やっぱり?」
「はい。ほとんどスルーしましたがね」
先輩なんて会長くらいしか知らなかったが、あの一件以降色んな先輩に声を掛けられた。
そのほとんどが下心ありありだったり自分の意思ではなく誰かの命令だったりするものがほとんどだったが。
三年の専用機持ちであるダリル・ケイシー先輩はこちらに挨拶したら興味無くしたのか、さっさと何処かへ行ったし。……まぁ、これはマシな方。
二年のフォルテ・サファイア先輩は女尊男卑の典型的な人だった。
こちらをあからさまに見下してくるのは、申し訳ないが入学当初のセシリアを思い出した。
先輩と勝負になった時は『暁』の使用も考えとこう。
まともな人とか、セシリアと同じイギリス代表候補生のサラ・ウェルキン先輩とあと数人くらいしか居なかった。
「まさか手のひら返しをリアルで見ることになろうとは……」
しかもその様子が分かっちゃうニュータイプ機能のおまけ付き。
「ごめん」
「大丈夫です、もう慣れました」
俺はそろそろ約束の時間であるということを輝さんに伝え、社長室を後にした。
久しぶりに二人に会える。
俺の気分は少し弾んでいた。
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「やっほー、こうくん。久しぶり」
「なんで居るんですか束さん」
社長室を出てエレベーターに乗った直後、俺の目の前にはエプロンドレスに機械のうさ耳といったいつもの格好をした束さんが立っていた。
「酷いなぁ。せっかく忙しい中の僅かな時間を見つけてはるばる会いに来たのにそんな態度なんて、束さん悲しいよぉ」
いきなり泣き真似までする始末。
そしてよく見ればエレベーターも止まっている。
「何かあるんですか?」
「あるよ、超あるよ。とりあえず着いて来て」
閉まっていたはずのエレベーターの扉が開いた。
束さんは泣き真似を辞めて笑顔に戻ると俺の手を引いて走り出した。
隠し扉をくぐり、消火栓内の秘密通路を通ったり排気口に潜入したりしながら、俺達はは束さんがよく使う地下の部屋へ到着した。
ここに来るのは束さんに初めて拉致られて以来だ。
会社の中を色々改造し過ぎとツッコミたいがもう諦める。
「こうくんと二人きりになるなんて久しぶりだよね」
「そうですね」
「私が初めてこうくんと会った時だよね」
どうやら束さんも俺と同じことを思っていたそうで、笑顔で話しはじめた。
「ねえねえ。初めて会った時から、ずっと思っていたことを聞いていい?」
と、思えば今度は質問だ。
まったく、何を考えているか分からない。
「答えられる範囲なら」
束さんは断ってもしつこく迫ってくるタイプだ。
ならば、素直に答えよう。
「ん。それじゃあね、聞きたいんだけどーーーーこうくんって、何者?」
無邪気な笑顔と共に告げられた言葉。
背筋が一気に冷えていくのを感じる。冷や汗が流れる。
「別に、改めて名前とか出身地とか聞いてる訳じゃないよ?」
追い詰めるような物言い。
そして理解した。
束さんは俺の存在を疑っている。
「自分で言うのもアレなんだけどねー、束さんって興味の無いものは本当にどうでもいい人なんだよねー」
答えられない俺を置いて、束さんは勝手に話し始めた。
俺は黙ってそれを聞くしかなかった。
「そんな中、紆余曲折を経て束さんはあっくんと出会ったのです。そして束さんは驚いたね、まさか
「……え?」
輝さんが、束さんと同じ?
「だから、興味が出たんだよ。この束さんを有象無象扱いするあっくんと、あっくんが唯一興味を持ったこうくんにね」
「…………」
束さんが話す内容は衝撃の事実ばかりだった。
束さんが、なぜ輝さんや俺に興味を持ったのかを理解した。
と同時に、輝さんの事が心にずしりとのしかかった。
「……ありゃりゃ。その様子だと、こうくんは何もわからなかったっぽい?」
束さんは俺の目の前で手をひらひらさせながら心配そうな表情のまま尋ねた。
「はぁー、まぁいっか。答えなくていいよ。束さんの頭脳でも正解は分からないし、はっきりとした答えが出たらまた聞くから」
心配する表情から残念そうな表情へ。
残念そうな表情から一変し、再び元の笑顔へ戻る。
それよりも、聞きたいことがある。
「束さん。輝さんが束さんと同じって、どういうことですか」
束さんが人を人扱いしないのは知っている。
だが、輝さんが……?
少なくとも、その話は嘘としか思えない。
「あっくんはね、人を見てないよ。人を通り越して、ずっと遠くばかりを見てるよ。こうくんと話すとき以外はね」
この束さんと話すときですら、目を見てくれないんだよ?
と、頬をふくらませて続けた。
そのことが、自分の中で引っかかった。
……いや、この引っかかりの正体は分かっている。
そして、輝さんの事も。
それは恐らく、自分でも感じていたこと。
目を背けていたこと。
「でも」
と、束さんがいきなり俺に近づく。
顔を掴まれる。目の前に束さんの綺麗な顔が見える。
束さんは真剣な表情でじっ、と俺を見つめる。
数秒だったかもしれない。数分経ったかもしれない。
しばらく見つめあった後、束さんは満足したような笑顔になり手を離した。
「こうくんは、ちゃんと束さんを見てくれるんだね」
そう言うと束さんは「臨海学校でまた会おう!」と言い残して走り去っていった。
こちらが止める暇もなく、あっと言う間だった。
彼女が去った後、俺は地面にへたりこんだ。
俺の正体や輝さんの事がバレることの緊張もあったが、俺は子供のような
「……とりあえず、出るか」
脱出に少し手間取ったが、なんとか無事にラビアンローズから出られた。
大博打に完全勝利したフランスUC
シャルのポジションを有効利用しない手は無いでしょう
でなければ原作のフランスもデュノア社もシャルを放っておくわけが無い
ダリルとフォルテはどこの代表候補なんだよ
それくらい紹介してよ、原作さん
英語圏の国なんてたくさんあるよ
束さんはラスボスかわいい
束さんはラスボスかわいい
原作の束さんなら普通に感づくと思う
まず二人目の時点で確実にロックオンされるし
ラビアンローズは既に束さんの手により魔改造済みです
クーちゃん出そうと思ったら出せなかった
もう鋼夜の胃はボロボロ