神様転生した者だけど毎日が苦痛   作:八雲 紅

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作戦前の第56話

 

 

『案の定、アメリカとイスラエルの共同開発である軍用機体『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が暴走しました』

 

『やっぱり?ごめんね、企業の人間を連れて来ても良かったんだけど許可が降りなくて』

 

『いやいや、輝さんが居るだけで充分凄いですし安心します』

 

 

織斑先生から今回の作戦の内容を説明され、ブリーフィングルームを出た俺は整備ルームに移動した。

途中で輝さんに声を掛けて四天の整備を手伝ってもらうようお願いし、現在進行形で機体の整備中である。

 

 

『原因は?』

 

『何処ぞのテロリストが実験中のISを強奪しようとした拍子に暴走したみたいです。あ、あとアラクネってISが強奪されたみたいです』

 

『アメリカも大変だね』

 

 

整備をしながら、俺と輝さんはテレパシーで会話する。

内容はもちろん、今回の事件についてだ。

輝さんは一応は一般人という扱いなので今回の事件は知らされていない。

 

委員会からの命令?守秘義務?知らんな。そもそも俺は喋ってないからノーカンです、罰される理由がありません。

ていうか俺が黙ってても束さんが絶対にバラすだろう。

 

 

『まぁ十中八九、亡国機業(ファントム・タスク)の仕業だろうね』

 

『……えらく厨二な名前ですね。なんですそれ?』

 

『国際的なテロ組織だよ。かなり昔からある組織みたいで、戦争屋みたいな事をしてる。まぁ、詳しいことはまた後で話すよ』

 

 

流石というかなんというか。

輝さんに話してみれば直ぐにテロリストの正体に行き当たった。

やはり輝さんは頼りになる。

 

『輝さん。俺、思うんですよ』

 

『なんだい?』

 

『束さんが福音にハッキングすれば直ぐに解決するんじゃね?、と』

 

『…………』

 

俺がそう問いかけると輝さんが黙った。

いや、普通に考えれば出来そうだよね。束さんって天才だし製作者な訳だし出来ても不思議じゃない。むしろ何故みんな思い付かないのか不思議である。

 

 

『彼女は断るだろうね』

 

『……ですよねー』

 

 

知ってた。気分屋のあの人が素直にこっちのお願いを聞いてくれる訳がない。

 

 

『いや、その選択は僕達も困るんだよ。もし束がISにハッキング出来る事が世界に知られれば……各国は本気で束を探し出すだろう。いや、探し出すだけじゃ済まない。排除しにかかるかな』

 

『排除、ですか』

 

『ああ。束が世界中のISに干渉が出来るかは今現在ではグレーゾーンだ。もしそれが証明されてしまえば世界中が震撼するね。今はIS中心の世界だ、束がISを自由にハッキング出来るという事は心臓を掴まれているのと一緒だからね。そうなってしまえば間違いなく世界は荒れる。それこそ亡国機業みたいなテロリストや戦争屋が喜ぶくらいにね』

 

ラビアンローズと束さんの繋がりは織斑一家と家族を除けば一番深い。

もし束さんのハッキングが知られればラビアンローズも世界からとばっちりを受けるだろう。

 

輝さんの言葉で自分が軽率だった事を認識する。

さすがに世界が荒れるのは勘弁願いたい。

 

 

『まぁ、これは僕の都合なんだけどね。束の事は僕の口からは言えないから直接、本人に聞いてくれるかい?』

 

束さんがハッキングをしない理由か。

単純に面倒くさがってやらないだけかと思っていたが、違うようだ。

 

束さんを後で探してみよう。

 

 

「はい、これで最終調整は終わりだよ。しかし急な実験なんだって?大変だね」

 

「はい。急に頼んですみません輝さん。ありがとうございます」

 

「いいよいいよ。しっかり機体のデータとってきてねー」

 

 

整備と最終調整を終えた俺と輝さんは表向きの会話をする。

 

陽炎を換装した四天を待機状態である眼鏡に戻せばフレームが赤色になっていた。

やっぱり機体のカラーに影響されるんだろうか。

 

輝さんは整備ルームに居る他のメンバーに声を掛けた後に退出していった。

 

 

「やっほー、こうくん。あっくん見なかった?」

 

「本当、素晴らしいタイミングで来ましたね」

 

出て行く輝さんを見送り、振り返れば束さんが。

俺だから平気だが、心臓に悪い。

 

「ちょうど紅椿の調整が終わったからね。で、あっくんは?」

 

「たった今、出て行きましたよ」

 

「そっか、ありがと」

 

「待ってください」

 

くるりと背を向けようとする束さんを引き止める。束さんは「なにかな?」と言いながら振り向いた。

 

俺は辺りを見回して近くに人が居ない事を確認。

そして束さんに近付き、小声で話す。

 

 

「福音を止めることって出来ます?」

 

「ほえ?」

 

「超天才の束さんならハッキングとか出来たりしますよね?」

 

「あー、うん。できるよ」

 

 

思い切って束さんに福音の停止を話してみれば、あっさり頷く。

 

 

「でも、やだ」

 

 

そしてあっさり断った。

予想していたこととはいえ、こうもストレートに言われると反応に困る。

 

一度断ったならもうダメだろう。

この人を説得することは俺には出来ない。

 

 

「暴走したISをわざわざ止めるのも勿体無いし、ちょうど箒ちゃんの紅椿が出来たし稼働テストも兼ねて実験台になってもらうよ」

 

「……それが本音ですか」

 

 

なんか凄いぶっちゃけを聞いた気がする。

ぶっちゃけってレベルではない。この発言だけで世界が傾きかけない。

 

改めて周りを見回す。誰も居ない。よし。

 

 

「ううん、これはむしろおまけかな」

 

「おまけ……?」

 

「おーっと、これ以上はこうくんには秘密だぜ!」

 

 

束さんの含みのある言い方が気になるが、追求しようとしたところで束さんが俺の唇に人差し指を当てて無理やり黙らせた。

 

 

「あはは、その顔はやっぱり納得してない?」

 

「……当然です」

 

束さんの指を離し、自分でも分かるくらいの不満顔で答える。

それでも束さんはいつものニコニコ笑顔のままだ。

 

 

「そうだね、この作戦が終わったら教えてあげるよ」

 

「さらっと死亡フラグを建てるのは辞めて下さい」

 

「こうくんに会わせたい子もいるんだよ」

 

「束さん、怒りますよ」

 

「こうくんが怒った!コワイ!」

 

 

真顔で返せば束さんは舌を出しながら謝ってきた。

いわゆるてへぺろ☆である。

いや、それは貴女の妹の……どうでもいいや。

 

 

「はぁ、もう福音はいいです。でも最後に一ついいですか?」

 

「束さんのスリーサイズが気になるのかな?」

 

 

「どうして今になって箒にISを渡したんですか?しかも最新型を」

 

 

束さんの冗談を完全スルーし、単刀直入に訊く。

 

 

「わざわざ第四世代のISを渡せば後ろ盾の無い箒が世界間のいざこざに巻き込まれるのは目に見えています」

 

束さんの妹ってだけでも危ないのに、そこに束さん特製の第四世代機ときた。

それに、前にも思ったが第四世代機という存在はISの開発に力を入れている国の努力を一瞬で無意味に変えたようなものだ。

 

各国や今回の事件の原因であるテロリストが動かない訳が無い。

 

 

「こうくん、知ってるかい?明日は箒ちゃんの誕生日なんだよ!少し早い誕生日プレゼントってことさ。…………まぁ、真面目な話をすると箒ちゃんのためかな」

 

束さんはなおも誤魔化そうとするが引き下がる気配の無い俺を見て観念したように首を振ると真面目なトーンで語り出した。

 

「確かに学園にはちーちゃんやいっくん、それにこうくんが居る。たとえ国が箒ちゃんに何かしようとして来ても束さんならなんとか出来る。それでも、箒ちゃんを完全に守り切ることは難しい」

 

「そのための最新型のISですか」

 

「そうだよ。ISが、しかも最新型があれば例え暴漢に襲われようがミサイルが降ろうが大丈夫だからね!」

 

俺がそう結論づけると束さんは笑って肯定する。

 

束さんの言葉を聞いて俺は納得した。大事な妹を守る盾にするから最新型で信用のおける物にしたいということは筋が通っている。

 

しかし平然と世界と渡り合えると公言する束さんは凄い。

束さんなら世界を相手取ることくらいするだろう、冗談抜きで。

 

「今回の作戦だって、ちーちゃんやいっくん、それにこうくんが居るから。大丈夫と思ったから紅椿の使用を提案したんだよ」

 

そう言って束さんは得意げな顔になり胸を張る。それは実際、豊満なバストであった。

 

束さんは「だーかーらー」と続けながら顔を近づけ満面の笑みで告げた。

 

「箒ちゃんをよろしくね」

 

「……これは責任重大ですね」

 

「ま、そういうことで。じゃあねー」

 

俺が顔を引きつらせて返事をすればその反応に満足したのか、束さんは手を振りながら整備ルームから出て行った。

 

 

「……いい感じにはぐらかされたか」

 

束さんが去った後、俺はため息をつきながら呟いた。

肝心の束さんの目的については聞けず仕舞いだ。

しかし紅椿を渡した理由など、収穫はあった。決して無駄ではなかった。

 

しかし、まぁ、福音を紅椿のテストに使うというのは同じなんだな。

こっちはテロリストのせいで暴走したという事実があるし束さんも「ちょうど紅椿が出来た」と言っていたから直前まで知らなかったんだろう。

 

流石に束さんとテロリストが繋がっているのは無いよな?

束さん側にメリットが無いし既に輝さんという同志が居るから絶対に断るだろう。

 

本人も言っていたが紅椿の使用は俺達が居たから、あと機体データのために提案した、って言ってたしわざわざ箒を危険に晒すことを好ましくは思わないハズだ。

 

 

……やめだやめ、考えるのは後だ。

まずは目の前の問題を片付けることに集中しよう。

 

 

 

頭を振って思考を追い出した俺は眼鏡を操作して空中にディスプレイを表示させる。

表示されている内容は、福音迎撃の作戦内容だ。

 

メンバーは一夏、箒、セシリア、俺、そして指揮官としてラウラが参加する。

 

 

まず第一次攻撃隊として一夏の白式を乗っけた箒の紅椿が福音に奇襲をかける。

ここで白式の零落白夜が決まり、福音に大ダメージを与える。もし一撃で堕ちれば万々歳。

 

そして第二次攻撃隊として俺の陽炎とセシリアのストライク・ガンナー、そしてラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが戦線に加わる。

俺とセシリアでラウラの機体を吊り下げて移動。

到着次第、俺が前衛として、セシリアとラウラが後衛として、一夏達の援護に入る。

 

 

作戦成功条件は福音の停止及び撃破、搭乗者の救出。

最悪、日本に到着することが無い限界まで福音のエネルギーを削る。

 

この二つだ。

 

一夏と箒の二人だけでは二つ目の条件は難しかっただろう。

それに軍人として部隊を率いているラウラが指揮として参加している。

それだけで心強い。

 

もし原作通り密漁船が来てもセシリアかラウラを派遣すれば大丈夫だ。

 

ラウラとセシリアの参加は本当に大きな利点を生み出してくれた。

 

 

「おっと、慢心はいけないな」

 

内心で楽勝モードになりつつあった自分に気付き、深呼吸と共に気持ちを落ち着ける。

原作で箒が慢心して酷い事になってたんだ、俺が慢心してどうする。

勝てるものも勝てなくなる。

 

 

ディスプレイを閉じ、時間を確認する。作戦開始まであと三十分か。

 

腹が減っては何も出来ぬ。

軽く何か食べておこう。ゼリーみたいなのを。

 

その後はセシリアとラウラでテスト飛行を行おう。

ラウラを運ぶのは割とマジで重要な任務だし、連携も話し合わなければならない。

 

まったく、やることが多すぎる。

 

「あぁ、鬱だ」

 

口癖となったその言葉をポツリと呟き、俺は整備ルームから出て行く事にした。

 





束さんは根っこの部分が変わらない限りダメみたいですね
ここの束さんは原作よりはかなりマシになっております

輝「敵の正体が分かったよ!」
鋼夜「凄ェ!さすが輝ァ!」

次回、福音戦

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