神様転生した者だけど毎日が苦痛   作:八雲 紅

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今回でようやく主人公が復活します
もう遺影や水没なんて言わせない


復活覚醒の第61話

 

 

遠くから聞こえる波の音で、俺は気が付いた。

 

「ここは……?」

 

辺りを見回す。

満面の青空が広がり、足元の海と思われる水面には青空が反射して映っている。

 

夢、か。

 

現実離れしたこの空間を見て俺はそう判断した。

 

 

「ーー。ーー♪」

 

波の音に混ざって、誰かの歌声のようなものが聞こえた。

俺はズボンと靴が濡れるのも気にせずにその声の元へと向かった。

 

すぐに声の主は見つかった。

 

白い髪に白いワンピースを揺らしながら砂浜で歌を歌う少女がそこに居た。

 

少女は俺が近付くと歌を止め、くるりとこちらへ振り返る。

 

「……行かなきゃ」

 

唐突に少女は呟いた。

何のことか分からない……けど、自分は何処かへ行かなくてはいけない気がする。

 

「行くって何処へ?」

 

俺は不思議と少女にそう問いかけていた。

しかし少女は答えない。

 

ふと、少女の視線が俺の背後へと移る。俺も釣られて振り返る。

 

「…………」

 

振り返ると、そこにはISのような白い甲冑を身に纏った騎士が立っていた。

 

「力を欲しますか……?」

 

「え……」

 

甲冑の騎士にいきなりそう問いかけられ、戸惑う。

声からして相手は女性のようだ。

 

 

「力を欲しますか……?何のために……」

 

「難しいな」

 

答えはとっくに決まっているというのに、上手い言葉が見つからない。

 

暫くの間、波の音だけが辺りに響いた。

 

「……守るためかな」

 

「守る……?」

 

「ああ。友達とか家族とか仲間とか……俺の大切な人達を守るために」

 

騎士の女性は黙って俺の言葉に耳を傾ける。

 

「今の世の中って色々と戦わなきゃいけないだろ?単純な腕力もあるし、それ以外もある。中には受ける必要の無い不条理な暴力だってあるんだ。だから俺は……そういうのから大切な人を守りたい」

 

「そう……」

 

「でも」

 

「?」

 

頷く騎士の女性の言葉を遮って俺は言葉を続ける。

 

「誰かを守るなら、まずは俺が強くならなくちゃいけない。そうしないと、守るべきものを守れない。どこかで取り零してしまうことに気付いたんだ」

 

「…………」

 

自分でも饒舌だと思えるくらいにすらすらと言葉が並ぶ。

でも、これは全部、俺の本心。

今までのことを振り返って出した、俺の答え。

 

 

「だから、俺はまず自分を守る力が欲しい!」

 

「……そうですか」

 

騎士の女性は俺の答えに頷いた。

 

「だったら、行こう?」

 

先程から後ろで控えていた白い少女がそう言って手を差し伸べる。

 

そうだ、行かなくちゃいけない。

何処へ?それはこの少女が知っているはず。

 

俺は迷わずその少女の手を取る。

 

手を取った瞬間、世界に変化が訪れる。

全てが光に包まれ、輝きだす。

真っ白な光が自分の視界を覆う中、見送るかのように佇む騎士の女性が目に入る。

 

ーー似てるなぁ。

 

俺の目標。いつか守りたいと思う人に。

 

今更ながら、そう思った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

気がつけば俺は不思議な空間に俺はいた。

 

辺りを妖しく照らす満月。

闇を思わせる紫色の空。

視界一杯に広がる彼岸花の畑。

 

「…………」

 

思わず魅入ってしまいそうな幻想的な空間。

そこの真ん中に俺は立ち尽くしていた。

 

俺の今の服装は何故かIS学園のもので、四天の待機状態である眼鏡を持っていない。

 

 

なぜ俺はこんな場所に居るのか。

 

思い出そうと記憶を辿った瞬間、脳裏にあの光景フラッシュバックする。

 

暴走する福音

乱入してきたテロリスト

そして、海へと墜ちた自身

 

 

「……ははっ」

 

思わず乾いた笑いが出た。

俺がこんな気味の悪い場所に居る理由なんて一つしかない。

 

俺、死んだんだ。

 

 

さしずめここは地獄への入り口だろうか。

いや、もしかしたらまた神様でも出てくるのだろうか?

 

……ああ、もうどうでもいい。

 

思考を放棄して辺りを見回す。

見渡す限りの彼岸花。視界が真っ赤だ。

 

 

ーーそして、感じた。

この異様な空間に、誰かが入ってくるのを。

死してなおこの厄介な能力は健在らしい。

 

 

「誰だ」

 

姿の見えぬ浸入者に告げる。

風の無い異質な空間に俺の声が響いた。

 

相手は最初から俺が目当てだったのか、迷わずこちらへ向かっている。

 

 

そして、彼岸花を踏み倒す音と共にその人物は闇の中から姿を現した。

 

閉じられた瞳。長い銀色の髪。白と青のワンピース。変わった形の杖。肌は白く身体の線は細い。

まるで人形のような少女だった。

 

その姿が、自分のよく知っている彼女と重なる。

 

 

「ラウ……っ!?」

 

ラウラ、と呼びそうになる前に口をつぐむ。

妙な言い方だが、目の前の少女は確かにラウラと外見はそっくりだが気配や意識が違う。

 

こいつはラウラではない。

別人だ。

 

「お初お目にかかります如月鋼夜様。私はクロエ・クロニクルと申します」

 

目の前の少女は名乗りと共に一礼する。声を聞いて彼女がラウラでないことは確信した。

 

「束様の命令で貴方を助けに参りました」

 

「束さんが……?」

 

束さんに部下や助手が居るというのは初めて聞いた。

 

「はい」

 

目の前の、クロエと名乗った少女は俺の疑問に頷いて肯定する。

 

「ここは鋼夜様の心情風景。私がISを通して鋼夜様の意識をこの場所に呼んだのです」

 

この気持ち悪い風景が俺の心の中だと?

いや、それよりこいつは今なんて言った。俺の意識を呼んだ?

 

「現実の鋼夜様は海中に没し、その際に発動したISの絶対防御システムにより昏睡状態となっています」

 

「その状態で俺はよく死んでいないな」

 

「ISは元より宇宙での運用を考えて製作されたもの。宇宙空間で孤立した場合の事を想定して搭乗者を一時的に冬眠のような状態にする機能が絶対防御に搭載されています。今の昏睡状態はそういうことです」

 

クロエの説明を聞いて納得する。

要は延命装置ということだろう。

 

「ですが、この機能は完全ではありません。IS自体のエネルギーが切れてしまうと絶対防御が解除されてしまい、保護機能も解除されてしまいます」

 

「……わかった。アドバイスありがとう」

 

この謎空間はラウラの時と同じものだと推測する。ISの機能には謎が多いから正解かどうかは分からない。

 

しかしアドバイスはいいのだが、これからどうしろというのだ。

 

「ご安心を。鋼夜様を海底から引き上げる作業は終了しています。しばらくすればIS学園側から正式な救助が来るはずです」

 

俺の心を読んだかのように、クロエは俺の懸念していた事を言い当ててきた。

 

心を読んだ?……ああ、そういうことか。

 

「ISを通して人の意識に入る。普通の人間には出来ない事だ。……お前、何者だ?」

 

「…………」

 

「こんなことをしたのは何故だ。束さんの命令か?どうなんだ」

 

「……長く話すことは出来ません。なので、鋼夜様が求めている答えを簡潔に述べます」

 

しばらく沈黙していたがクロエはようやく口を開いた。

今すぐ求めている答え、か。

 

「話してみたかったのです。私と同じ、ニュータイプという存在である貴方と」

 

「……やっぱりな」

 

ラウラと同じ外見のクロエ・クロニクルという名の少女。

一目見た時から薄々感じてはいたが、やっと確信に至った。

 

やはりこいつはニュータイプだ。

ニュータイプだからこちらの意識に干渉することが出来たという訳か。

いや、強化人間の方が近いのかもしれない。

 

「貴方は不思議な人です。……色々と。束様が興味を持つのも分かります」

 

「それはどうも」

 

俺はそっけなく返事をする。

本当はクロエの出自から束さんのことからたくさん聞きたいが、恐らく答えてくれないだろう。

 

「……そろそろ時間ですね」

 

ふと、何もない空間を見上げながらクロエが呟いた。

そして、俺の方へ向き直る。相変わらずその瞳は閉じられたままだ。

 

「また、お会いしましょう」

 

クロエが持っていた杖を振ると、彼女の身体が光に包まれる。

そして、それと同時に俺の視界も真っ白に染まっていく。

 

妖しい月が、紫色の闇が、咲き乱れる彼岸花がどんどん白に飲み込まれていき俺の意識も白に飲み込まれた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……!……!」

 

ぼんやりとした意識の中で、誰かの声が聞こえる。

その声は、必死に誰かを呼んでいる。

 

「……くん!」

 

ああ、聞き覚えのある声だ。

彼女がこんな大きな声を出すなんて意外だ。

 

「鋼夜くん!」

 

ようやく、呼ばれているのが自分だと分かった。

それが合図だったかのように、俺の意識が徐々に覚醒していく。

 

「…………」

 

ゆっくりと目を開き、真っ先に視界に映ったのは水色と赤。

それが簪さんの髪の色と瞳の色だと気付くのに時間はかからなかった。

 

「かんざし……さん?」

 

「鋼夜くん!良かった!」

 

ふっと視界から水色と赤が消え、身体に重みがかかる。

抱きつかれた……のか?

 

「あっ、ごめん……」

 

我に返ったのか、簪さんは俺から離れる。その頬は紅潮している。

 

「ここは……?」

 

身を起こし、周囲を見渡す。

どうやら自分が今まで寝ていたのは小さな岩の島の上らしい。

周りには……海しかない。

 

「鋼夜くんが福音と戦ってた海……だと思う。織斑先生から救助の命令が出たから、私が来たの。そしたらこの場所に鋼夜くんが倒れてたから……」

 

「そうか……」

 

恐らく、クロエが俺をここに置いたんだろう。

 

と、そこまで考えて俺は気付いた。

 

「福音……そうだ!福音はどうなった!?」

 

「えっ!?」

 

俺の声に驚いたのか、簪さんはビクッと身体を震わせる。

 

「福音なら、専用機持ちの人達が撃退に……」

 

「くそっ」

 

俺は簪さんの言葉を最後まで聞かずにISを展開……しようとして眼鏡が無いのに気付いた。

 

「あ、ISならここにあるよ」

 

おどおどしながら簪さんは陽炎の待機状態である赤いフレームの眼鏡を渡してくれた。

 

俺はそれを受け取り、即座に陽炎を展開した。

 

 

「鋼夜くん!?」

 

「福音の場所は」

 

「待って、その状態で行くの!?」

 

陽炎を展開し、福音の場所を聞いて飛び立とうとしたところに簪さんが割り込み引き止めてくる。

 

改めて陽炎の状態を確認する。

赤と橙の装甲はところどころ破損しており、エネルギーも残り僅かしか残っていない。

 

「予備のエネルギータンクを持ってきたから、まずは補給を受けて」

 

「……ごめん」

 

「謝るのはいい。でも、補給が終わったら私と一緒に宿に戻ること」

 

簪さんはそう言いながら機体の拡張領域に入れていたエネルギータンクを取り出し、陽炎に接続していく。

 

そこで俺は改めて簪さんの纏っている機体に気付いた。

 

「それ……弐式……」

 

簪さんが今纏っているIS。

既存のISである打鉄の装甲を削ってフォルムを鋭くしたような外見の機体。打鉄の高速パッケージ『早鉄(はやがね)』を装備して少し外見が何時ものものとは違うが、それは間違いなく簪さんが製作していた専用機の『打鉄弐式』だった。

 

「もう……遅いよ」

 

「完成してなかったんじゃ……」

 

「普通に動かすだけなら問題無い。それに弐式は打鉄のパッケージをそのまま使える。……急いで動かせるように調整したんだよ」

 

彼女はやっと気付いたのか、と呆れ半分の笑みと共にそう説明してくれた。

 

「……はい、これでいいよ」

 

接続を解き、空になったタンクを片付けて彼女は作業終了を教えてくれた。

エネルギーを確認するとエネルギーは半分より少し上まで回復していた。

充分だ。

 

 

「待って」

 

いきなり簪さんに腕を掴まれた。

 

「行かない約束」

 

「…………」

 

どうやら簪さんには俺が福音の元へ行こうとしているのがバレているらしい。

 

『織斑先生、こちら更識です。如月くんを発見しました』

 

簪さんは逃がさないとばかりに、織斑先生への回線を開いた。

 

『ご苦労だった、更識。そのまま如月を連れて帰ってこい』

 

オープンチャネルの回線から織斑先生の映像が映り、声が聞こえてきた。

 

『待ってください』

 

このまま大人しく帰る訳にはいかない。俺も通信を開き、織斑先生に待ったをかける。

 

『俺を福音との戦いに行かせてください』

 

『ダメだ、帰ってこい』

 

返ってきたのは否定の言葉。

だが、諦める訳にはいかない。

 

『俺は一度、福音の説得……暴走を止めるのに成功しています。それに、俺を墜としたのは福音ではなく福音を再び狙って乱入してきたテロリストです』

 

『っ……それは本当か?』

 

 

一瞬、息を呑む声が聞こえた後に織斑先生の確かめるような、困惑した声が聞こえる。

海域封鎖をしていた学園側からしてみればテロリストの乱入は失態どころの騒ぎではない。

 

 

『恐らく密漁船もグルです』

 

『……奴らは既に海上自衛隊及び警察に引き渡した。これは不味いことをしたかもしれんな』

 

映像の中の織斑先生はため息をつくと額に手を当て悩むポーズをとる。

もしかしたら警察組織にもグルが居るかもしれない、ということは容易に想像出来るからだ。

 

『詳しくは帰投してから話します。織斑先生、俺に出撃の許可をお願いします』

 

『…………』

 

織斑先生は眉をひそめると無言となり考え込む素振りを見せる。

 

「鋼夜くん……」

 

俺と織斑先生の話を聞いていただけだった簪さんが心配した表情で俺の名前を呼んだ。

 

「ごめん簪さん。どうしても行かなきゃいけないんだ」

 

行って欲しくない、傷付いて欲しくない。

彼女のそんな思いを分かりながら、俺はそう答えた。

 

 

福音に罪は無い。

あいつはただ、大切な人を守ろうとしてるだけなんだ。

 

それを理解できるのも、話をするのも、聞いてやれるのも、俺しか居ない。

 

 

『……如月、お前には』

 

『織斑先生、大変です!』

 

織斑先生が口を開いたその瞬間、画面外から山田先生の声が響いた。

向こうのマイクが音量を拾うくらい大きな声を出すほど慌てているのが分かる。

 

『織斑くんが、織斑くんが!白式を起動させて何処かに飛び立っていきました!』

 

『……はぁ』

 

画面外から聞こえてくる会話。

それを聞いて俺は一夏が無事に復活した事に安堵した。

 

「嘘……あの怪我で……?」

 

隣で簪さんが驚き混じりに呟く。

確かに、怪我人がすぐ起き上がってISを起動させて飛び立っていくなど正気の沙汰では……これ俺にも当てはまる。

 

『……予定変更だ。如月、更識。お前達は勝手に飛び出した織斑(バカ)を連れて帰ってくることを命じる。恐らくあいつは専用機持ちを助けるために福音の所へ向かっている。……そうだな、織斑が帰ってこない理由を取り除くのもこの場合は止む無しだな』

 

織斑先生から命令が下る。

それは俺達にも福音との戦いに参加してもらうことと一緒だった。

 

『分かりました』

 

『はい』

 

『……頼んだぞ』

 

最後に、織斑先生の感情の込もった願いを聞いて俺達は通信を終えた。

 

俺は簪さんの方へ向き直る。

 

「簪さん」

 

「言わないで」

 

俺が言おうとする前に、彼女は遮った。

 

「こうなることも予想してたから、武装は積んで来てる。……私も、一緒に戦わせて」

 

「……ありがとう」

 

簪さんの決意を感じ取った俺は、彼女を旅館へ帰すことを辞めて一緒に行くことに決めた。

 

「福音の位置情報をそっちに送るね」

 

「頼む」

 

しばらくすると、簪さんの打鉄からマップデータが送られてきた。

それを陽炎に読み込ませ、ハイパーセンサーに表示する。

その際に機体各部の最終チェックをする。よし、異常なし。

 

 

「じゃあ、行こうか」

 

「うん……!」

 

互いに頷きあい、俺はその場から飛び立つ。簪さんも俺に続く。

 

 

その胸に一抹の焦りと不安を感じながら、俺は福音の元へと急ぐ。

 

 





クロエの情報が少なすぎるので好き勝手に編集しましたが構いませんね!

おまけ設定と見せ掛けて実はニュータイプ及び強化人間はこの物語において結構重要な要素です

早く福音編を終わらせて夏休みに入りたいですね
夏休み編はかなりはっちゃける予定です、お楽しみに

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