誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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物語の概要はあらすじ参照


プロローグ -hello, new world-

燃え盛る炎の海と黒煙。ここではない戦場のどこかから聞こえる銃声。

それらの中で一人の少年は額から出血しながらも瓦礫の中にいる家族に手を伸ばす。

彼の家族である両親は自分たちのことは置いて逃げろと叫び続ける。嫌だと言いながら少年は両親を助けようと瓦礫をどけようと力を込める。だがまだ10代にもなっていない少年の腕力では重いコンクリートや鉄筋をどけることは適わない。それどころか、少年の手の皮膚をコンクリートが裂き、熱された鉄屑が火傷を負わせる。

それらの苦痛を感じつつも、少年は諦めたくなかった。戦争というものを知らない、多くの生命の死を知らない彼でも肉親を見捨てたくないから。

しかし現実とは、時間とは残酷なものである。

助けようとする少年にも容赦はせず、精神的な牙を剥いた。

音で崩れることを察した父が唯一自由だった右腕を使い、巻き添えを食らわせないようにありったけの力で少年を突き飛ばした。

間一髪、少年は崩れていく瓦礫たちの濁流に巻き込まれはしなかったが、命が助かるかわりに両親が押し潰されて帰らぬ人になってしまった瞬間を見てしまった。

最初はわからなかった。ガララララッと流れた瓦礫がズンッという音がした瞬間の肉と骨が潰れた音。

それらが自分に無力であることを知らしめるものであることを思い知った瞬間、少年の双眸から涙があふれ、彼は声を上げて泣いた。

墨汁を垂れ流したようなどす黒い夜空。そこで浮かぶ赤い月が彼を見下ろして嘲笑っているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい起きろよローガン。いつまで寝てるつもりだ」

 

頭を小突かれたことによる衝撃により彼の意識は浅い眠りから帰ってきた。

顔を上げればそこは廃墟となっている建物の一室。そこで青年は目を覚ました。

 

「おい相棒。まだ夢の中にいるのならママも真っ青なグーパンを顔面にプレゼントしてやるぞ」

「……嫌な夢を見ていただけだ。もう寝てねえからやる気満々の右手を下ろせケイド」

「それはなによりだし残念だ」

 

意識が覚めていき自分の状況を確認する。

腕時計を確認してみれば現在時刻は午前6時ほど。自分―――ローガン―――と相棒―――ケイド―――のいる位置から鳥の鳴き声も聞こえてくる。相棒と交代で2時間ほど仮眠をとってたところだった。

 

「ローガン。そろそろ周辺環境を偵察するドローンが戻ってくると思うんだが、オレの思い違いかね」

「そういやそうだ。もう5分ぐらい前に偵察スキャンを終えて戻ってくると思うんだが…」

 

そもそも自分たちがこんな人気が微塵もない場所にいるのには理由がある。

今から約18時間前、ローガンとケイドに所属している組織のリーダーから任務が言い渡された。それは先日の地震で基地から半径20kmの範囲で地形の再調査だった。『ただ単に見て回るのではなく、ドローンで建物の形を残しているものまで全てをデータとしてスキャンする』。それが彼らの任務だった。

左腕に取り付けてる端末を操作してみる。浮き上がってくる文字の羅列、ドローンのステータス。それらを見たところ…。

 

「どうやらなにかしらかによる損傷って感じか。こっからそんなに離れてないところで機能停止してるぞ」

「あ~、マジか。また博士のお小言を聞くことになるじゃんか」

「なにもせずにこのまま帰還した方が面倒なことになるのは明確だろ」

 

めんどくさがるケイドを窘めつつ、ローガンは立ち上がり愛銃を持ち上げた。

ローガンが愛銃として使っているのはM4アサルトライフルである。ただし、中距離スコープのACOGサイトとアングルフォアグリップ、フラッシュライトをアタッチメントとしてつけてる以外にも軽量化するためのハンドガードに取り換えた、ローガンカスタムのM4である。ケイドが使用しているサブマシンガンのMPXとは当然マガジンの共有はできないが、お互いにツーマンセルで動く以上、大群の敵に会敵した際にはやり過ごすか、逃げるかの選択肢を取るだけで発砲するのは最小限と決めているため、弾薬の危機に直面したことが一度もない。過去に単独行動せざるを得なかったローガンにはあったのだが。

 

「しゃあねーか。そんじゃ外のクソッタレワールドへレッツゴー」

「お前、それを他の奴らの前で言うなよ」

 

装填してるマガジンの弾薬の数の確認とカスタムM4の簡単な点検を済ませたローガンは白髪を隠すようにニット帽を被りなおした。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブラボーチーム。俺たちの近くにいるか?」

『いえ、我々は集合地点の近くです。なにかあったんですか?』

「こっちのドローンが不調を起こして機能停止した。確認と回収を行うのでそっちは予定の場所で待機しててくれ」

『了解です。なにかあれば駆けつけますのでいつでも言ってください』

「サンキュ。アルファ1アウト」

 

同じ任務にあたっていた別隊との通信を終了させ、ローガンはケイドの後に続く。

休憩に利用していた博物館だった建物から外に出た二人を待っていたのは眩い太陽と雲一つもない青空だった。

 

「こんな時の配給されてる朝飯がクッキーブロック一つと水一口。なんて職場だよ。ブラックだよ。国としてのシステムがちゃんとしていた昔だったら訴訟ものだよクソッタレ」

「昨日の昼頃に避難民がそれなりにきたものだから減っちまったんだろうな。日頃から小銃もって戦ってるこっちからすれば、仕方ないとはいえ文句を一つも言いたくはなるな」

 

そう愚痴りながら二人が向かっているドローンの反応は約400m先である。帰還がもう少しでできるため、可能な限り早く終えて報告の後に基地のシャワーを浴びてベッドで寝てしまいたかった二人ではあったが。

「…おいローガン。昨晩ここの土にオレたち以外の足跡なんかあったっけ?」

「いやなかったはずだ。暗かったからライトを足元に照らしながらここらへんを歩いたのはお前も覚えてるだろ」

「だよな。でも見てみろよこれ。この足跡、人間のじゃねえよな」

 

ケイドに促されて見てみれば、たしかに人間のではない。微かに残っているローガンとケイドのブーツの足跡以外にも、最近できたというのがわかる人ではない存在の跡がそこに残されていた。

 

「……あまり考えたくはないが、鉄血の奴らか」

 

鉄血工造。ローガン達が生まれるよりも数年前に人工知能の暴走を起こして人類に反旗を翻した兵器―――戦術人形―――を生み出している軍事企業である。

鉄血の戦術人形との交戦経験はあるとはいえ、ローガンとケイドはあくまで人間である。命の消失を恐れないで戦い続けることのできる鉄血の人形との戦闘には勝利したことはあるものの、奴らへの恐怖もあり犠牲も多かったため苦い記憶しかない。

 

「どうするよ?見なかったことにはできるわけだが…」

「…下手にモヤモヤとした気分を背負うよりも、確認した方がいいだろ」

「まあそうかもしれないな。あ、でもこの足跡の続いている先って…」

 

ケイドの台詞で、ローガンは足跡の続く先を目で追い、絶望した。

 

「……マジか」

 

そう、二人が回収に向かうドローンの反応の方向と丸被りなのである。

 

「抗いようのない現実をローガンをおそぉおおおおおおおおお!?」

「ケイド、こんな時でもふざけていられるお前の精神が正常かどうかを俺は疑うぞ。いや、この間爆薬で吹っ飛ばしたハイエンドモデル並にお前はおかしい」

「ヒデェ!?」

 

とはいえ、こんなところで油を売って時間を浪費するのは無駄の一言に尽きる。環境データをリアルタイムで送信しているとはいえ、こちらは物資が少ないためどうにかしてドローンを回収して痛手は避けたいところである。組織の研究部門やリーダーにどやされるのはローガンだって御免蒙るのだ。

だが彼は生存して帰還することを尊守している兵士である。勝てば官軍、命があれば儲けものというように、死なずに帰還できれば勝利だとローガンは考えている。

それでも場合によっては交戦することは避けられないな、と考えていた時だった。

タァンッ!ダダダダダダッ!という銃声が聞こえてきたのである。

方向は、足跡の続く先。

 

「おいブラボーの連中か!?」

「いや、あいつらは集合ポイントの筈だ!ドローンの位置とは大きく離れてる!」

 

銃声だけでなく、爆発音まで聞こえてくる。手榴弾やグレネードランチャーまで使っていることも考えられた。

 

「とにかく急ぐぞ!万が一民間人が戦っているんじゃ、野放しにはできねえ!」

「ったく仕方ねーな!」

 

毒づくケイドが自慢の脚力を駆使し走っていく。ローガンも走って戦闘区域に向かった。

二人が同時に走り始めたのにケイドがとても速く走れるのは理由がある。ローガンとコンビを組む前に、ケイドは味方が撤退するまでの時間稼ぎの戦闘で負傷し両足を失ったのである。だが鉄血とは別の軍事企業が新開発した義足により、彼は人間を凌駕する脚力を手に入れたのだった。無論、それに対しての求められた見返りは大きかったのだが。

五体満足の軍人としても足が早い方であるローガンでもその速度には驚かされたものである。

リハビリだけでなく色々と苦労した末にここまでやれるようになるとは頑張ったものだとローガンが感慨に耽っていると、先行していたケイドから無線が入る。

 

『おいアルファ1。現場に到着したんだが……』

「どうした2。……手遅れだったか?」

 

現時点で考えられる最悪の展開を想像したローガンだったのだが。

 

『いやそうじゃねえ。とにかく今は戦闘現場が見えるだけの位置にいる。こっちは西から接近するからそっちは東から挟み込む形で頼む』

「了解した」

 

ケイドの驚いたような報告を聞きながらローガンは走りながら心中で首を傾げた。

 

「……妙だな」

 

先程まで聞こえていた銃声などの戦闘音が途絶えたのである。

付近に到着し周囲を見てみると、どうやら内部に大きな池をつくってある公園のようだった。そこで左腕の端末でケイドの位置を簡易的に把握し、大きく回り込むような形で走る。そして東側の壁に背をつけて確認してみたところローガンも驚いた。

まず、鉄血の戦術人形が全て倒されているところである。それぞれ異なったタイプで編成されていた隊だったらしく、様々な死骸が転がっている。

それだけならローガン達でも戦術次第で戦えなくはない。だが正面からの戦闘によるものだったりした場合は別である。

無論、スモークなどを使って鉄血達の視界を潰しての奇襲するといったようなゲリラ戦法も考えれなくもない。それでもこの小隊以上中隊未満の部隊を相手取るには二人では分が悪すぎる。

そう、ローガンが一番驚いたのはその二人である。

一人はこちらからも確認できるが黒髪で右目に眼帯をしている少女である。ここからでは距離があるためはっきりとはわからないが、整った顔立ちをしているのはわかった。

もう一人はこちらに背を向けているため顔は見えない。背中まで届く明るい桃髪の一部をサイドテールにしている。

そのような少女たちがなぜここに、とローガンは考えたが彼女たちの近くに見覚えのあるドローンが転がっているのが見えた。

倒されている鉄血、謎の二人の少女、そして自分たちのドローン。

 

「……ケイド、そっちからはどうかはわからないが、彼女達の足元に俺たちのドローンが転がっている」

『あー、マジか。たしかにこっちからは見えないな』

「彼女たちが何者かはわからないが、鉄血よりは理性がありそうだ。お前の交渉術が役立つときが来たんじゃないか」

『話術って言ってくれ。それよかローガン。お前の方からならオレからは見えない黒髪の子の顔が見えるだろ』

「……見えるけどなんだ」

『美人か?』

「なにいってんだおめえ」

『重要なことだろうが!こんなブラックジョブのやりごたえなんざなにもねーんだからこういうところでやる気を出すんだよ!』

「お前の私室から『萌え~ヒャッホォー!』とか夜中でも聞こえてくることもあるんだし、ここだけでも自重しろよオタク」

『O☆TA☆KUの何が悪い!好きな趣味嗜好があって何が悪い!毎日非力な人たちの為にオレだって働いているんだ!そんなオレが本やオールドネットで見つかるかわいこちゃんを見て滾って何が悪いっていうんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

「……まあ美人であることは確認できる」

『うっしゃあ!ピンク髪の子もかわいいしキタコレ!モチベマジ上がるわ!!』

「……別にいいが、下手をかますなよ」

『任せておけって!』

 

はぁ……と溜息を吐いたローガンは相方の暴走が起きないことを祈るばかりである。

そして十秒後、ケイドが銃を下げ、両手を降参の形で遮蔽物から出て少女たちの方に歩み寄るのが見えた。

彼女たちの視線がそちらに向けられたのを確認したローガンは、壁から身を離しカスタムM4を構えた状態で歩き始めた。足音を立てないように注意しながら一歩一歩前進する。

近づくたびにケイドの馬鹿らしい台詞も聞こえてくるが、それなりの付き合いから獲得した脳内フィルターでローガンは彼の台詞をカットする。そして少女たちの挙動にも注意した。

 

「へぇ、なかなか悪い気はしないことを言ってくれるね」

 

黒髪の少女がその言葉の通りの表情を浮かべているようなのが、足音を立てないように集中力を全開で出しているローガンでもわかる。そして桃髪の少女まであと1m強となったところで。

 

「両手を上げて動くな」

 

銃口を向けてはっきりとホールドアップの体勢を取るようにローガンは声を発した。

一瞬ビクッと体を震わせた少女は、一間おいてゆっくりと両手を上げた。

 

「……なかなかやるね。全然気配に気づかなかったよ」

 

首だけを瞬時に振り返った黒髪少女がそう言う。その片目には純粋な驚きと称賛が見えた。

その台詞に口元を僅かに綻ばせたローガンだったが、すぐに表情を引き締めた。

 

「お前さんたちが何者かは俺たちは知らない。ただ用があるのは足元のポンコツのみなんでね。極力撃ちたくはない」

「ああなるほど。この落し物はあんたたちのだったのか。目的はなにか教えてくれよ、誰にもばらさないから」

「悪いね。それはオレも喋れないよ」

 

ケイドも拳銃のP226を抜き、黒髪少女に向ける。ローガンと違い、笑みを浮かべてはいるものの目は兵士としてのそれになっていた。

 

「でも少なくとも悪いようにはしないよ。ただオレたちの安全を守るために使うだけであってね」

(おいおい、もう目的を言ってしまってるようなもんじゃねえかよ)

 

(二次元の)女好きのケイドが口を滑らせたことにローガンは嘆息した。

基地の周辺環境を把握し、考えられる鉄血の侵攻ルートに対策を施す必要がある箇所をデータとして基地に送信する。それがローガン達の目的だったのである。

相棒の新たな短所が発見されたことに胸中で嘆いていると。

 

「何をしているのですか」

 

一滴だけで乾いた土地に深くまで染み込む清涼な水を想起させるような声がローガンの耳を叩いた。

 

「今の時代、得体の知らない敵と出会ったのなら迷わず戦うべきではないのですか?素性も知らない敵に投降を求めても何も得られないことは考えられませんか」

「……少なくとも今回ばかりは無駄じゃない。俺達が欲しいのは転がってるドローンだ。逆にお前たちを撃ったとしても弾薬を消費するだけで何も得をすることはないしな。それに……」

「それに?」

 

一旦台詞を区切ったローガンに少女はなぞる。まるで解き方を知ったばかりで解答まであと一歩だが届かない、知的好奇心満載な学者のように。

そこまで言ったところで構えていた銃を下ろした。

 

「敵にならずに済みそうな奴に出会えたんだ。それなら撃つことは俺にはできないよ」

 

ここまで接近したことにより彼女たちを服装と、対話からある程度測れた。

まず服装だが、ローガンとケイドのような戦闘服ではなく年頃の女の子が着るようなパーカーやYシャツなどだった。戦場には場違いに思えるが、それを打ち消すように肩からストラップで下げているライフルが存在を主張している。ここまでで彼女たちがただの民間人ではなく、鉄血と渡り合える実力をもっている何者かであることがわかる。

次にコミュニケーション。ローガンはケイドの交渉術もとい、話術の台詞は聞いてはいなかったが彼女たちは胡散臭く感じた筈なのに彼に銃を向けなかった。武器が見える位置にありながら両手をあげているのにだ。これだけで人間によっぽどのことがない限り敵意を抱くことがないのが推測できる。

純粋に敵意を向けて戦う必要がないのであれば、穏便に話し合いで解決できるだろう。

そう考えていたローガンの目の前の少女が振り返ったことによって彼女の顔立ちがわかるようになる。

快活な印象を受ける黒髪少女とは違い、こちらは儚げなそれだった。両目はサファイアを連想させる綺麗なブルー。傷一つもない顔や身なりから可憐な花を見ているかのようだった。

呆けそうになったローガンだったが、かぶりを振って自分を仕切り直させた。

 

「……甘いですね。兵士としましては失格ではないのですか?」

「……かもしれないな」

 

にこりともしないその台詞にローガンが苦笑いを浮かべる。その瞬間だった。

一瞬少女が消えたかと思えばローガンの懐に飛び込んできていたのである。繰り出される打撃と長い脚を活かした蹴りのラッシュ。一般兵士であれば初撃でやられたのかもしれないが、ローガンは違う。銃を用いた戦いではわからないが、少なくともこの近接格闘ではローガンに分があった。顔面にめがけて飛んでくる拳を首を動かすことで素振りにさせ、蹴りをカスタムM4で受け流すことで一つ一つの攻撃をうまく躱していった。

ラッシュを幾らか凌いでいると、少女の手が閃き、ローガンのカスタムM4のハンドガードの根本を片手で掴みつつ彼を突き飛ばしたのである。掴まれたことに反応しきれず体勢を崩したローガンだったが、即座に片足で踏ん張ってから愛銃を離さないようにしながら自由になっている左手でナイフを抜こうとした。それを阻止すべく少女の右手が掴み、さらに左足でローガンの鳩尾を蹴った。

 

「ガッ……!」

 

この細足のどこからここまでの力が湧いてくるのか。たまらずカスタムM4のグリップから手を離してしまい距離を少々空けられてしまったが、受けたダメージは少ないため悶絶するほどではなかった。手持無沙汰になった右手でホルスターに収納している拳銃を抜く。抜いたP226のセーフティを解除しつつ、左手でナイフを抜き二つの武器を前面に構えた。

ローガンが照準をつけたのと少女が彼から奪ったカスタムM4をいつでも撃てるようにするのはほぼ同時だった。

 

「……やるな」

「そちらこそ。ですがあなたの仲間は論外ですね」

 

純粋な称賛をローガンは少女に贈ったのだが、返された台詞に付いてきたケイドへの評価に「おん?」と声が出た。だがそれもその筈、彼女の後ろの方で黒髪の子に組み伏せられていたのだった。

 

「私が女の見た目してるから手を抜いたのか?ん?」

「あででででででで!?いやぁ、そんなつもりはないんだけどね。つうか可愛い子に組み伏せられているわけだけどもなにこれご褒美なんですがががががががががががが!?」

「あんのバカ野郎……!」

 

もちろんケイドも経験を積んでいる兵士である。しかしローガンからすれば、それは情けを一切することが必要ない鉄血や手段を択ばないテロリストなどに限られてしまう。架空かリアルを問わず女好きの男、それがケイドという人間なのだ。

だがそんなコントのような光景が繰り広げられているわけだが、引っかかる部分があった。

黒髪の少女は自分を「女の見た目」と言っていた。彼女が人間であれば「私が女だから」と言う筈である。鉄血の戦術人形は人類とは異なる種でありながらも、見た目はローガン達と同じようなものであるといえる。それなのに彼女の言い方から察するに。

 

「なあ、お前ら―――」

 

ローガンが言いかけた瞬間、また爆発音や銃声が響いてきた。それもそこまで遠くはない。

そこで彼の無線に通信が入る。

 

『アルファチーム!こちらブラボー2!』

 

同じ区域にいるブラボーチームからの無線にローガンは構えていたハンドガンとナイフをしまった。視界の隅で桃髪の少女も自分から奪った愛銃を下ろしているのが見えた。

 

「こちらアルファ1。どうしたブラボー2」

『集合ポイントに移動して待機していたところ、鉄血からの襲撃を受けた!現在応戦しているがブラボー1や迎えの隊員たちが負傷してしまって撃退ができそうにない!ただちに応援を!』

「了解した。ただちに急行するから持ちこたえろ!」

『感謝する!基地からも援軍を要請したがすぐには来られないだろう、頼んだぞ!』

 

ブラボーチームの片割れと何人かはわからないが基地に戻るのに来てくれることになっている隊員がやられている以上、ここにとどまり続ける理由はもうない。

ローガンとブラボー2との無線をケイドも聞いていたため、抑えられている状態から起き上がった。

 

「ローガン!」

「急ぐぞ、あいつらでも長くはもたないと考えた方がいい!」

 

地面に転がっているドローンを回収し、機能が完全に停止しているのを確認してからコンパクトな形に畳みバックパックに収納した。

そしてこちらを見ている少女にローガンは向き直った。

 

「悪いが仲間がピンチなんでね、その銃を返してくれないか」

「……返してもいいけど条件があります」

「条件?」

 

その台詞にローガンだけでなくケイドも眉を顰めた。

 

「実は私たち、帰還するまでの弾薬や物資が足りないのです。とくにさきほどの戦闘では弾薬を多く使ってしまったので、次に会敵すれば勝てるとは思えないぐらいにしか残っていないのです」

「……だからオレ達に同行し手伝ってやるから、その見返りに帰還するのに十分な補給をさせてくれ……てことか?」

「そういうことです」

 

ふむ、とローガンは考える。ブラボー達の状況は切迫してるものと考えた方がいいだろう。その分、駆けつけ次第できるかぎり早めに殲滅にあたった方がいい。それならローガンとケイドであれば戦って生き残れるのも怪しいと言えるぐらい転がっている鉄血の数に勝利できた彼女たちの力を借りるのも良いのかもしれない。

だが時間は待ってくれない。こうして長く考えている間にブラボー達も危ないのだから。

 

「……わかった。お前たちの手も貸してくれ」

 

そうローガンが言ったところで、少女は頷き持っていたライフルを手渡した。受け取ったところで手をローガンに差し伸べる。

 

「私はグリフィン所属の戦術人形、AR小隊のコルトAR15です。今回だけだと思いますがよろしくお願いします」

 

グリフィン……やはりそうか、とローガンは思いながら握手に応じた。

 

「民生保護部隊グランド所属、ローガン・ブラック。こちらこそ、よろしく頼む」

 

 

 

 

それは、戦場で戦い続ける二人の兵士と人形の邂逅であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




はじめまして……と初回なので言うべきでしょうね。
以前は全く別の作品の二次創作を投稿していたのですが、この後書きを打ち込んでる時点でもう八年ぐらいに前になるようで。あの頃は銃とは縁のない、ファンタジーの世界観の創作物を考えてました。いやあ、時間の流れは早いですな。
ハーメルンではちょっと前までは読む専門で気になった作品を読み漁っていました。購入した小説だとか漫画で好きになった原作だけでは満足できずネットの海へ。星の数ほどの作品がここにもありますね。
さて、今回私が投稿させてもらったのは海外から日本へと上陸した、スマホやタブレットに適用されているアプリケーションゲームの少女前線ことドールズフロントライン(以下ドルフロ)です。約八年前に創作したのは剣や魔法が飛び交うものだったのに、銃なんて……。とは最初だけ思っていたのですが、書き始めたら思ったよりスムーズに形になっていきましたよ、ハイ。恐らくこの間までやっていたFPSやTPSのゲームによる影響でしょうなぁ。物にもよりますが、キャンペーンモードという一人でやるモードでは自分が主人公として戦っていくため、段々と引き込まれていき一種の映画を見ているような気分になります。主人公の親や親友が目の前で悪役に撃ち殺されてしまったり、憎たらしかった仲間が心変わりして主人公を庇って重傷を負ったりと展開は様々。アメリカ映画とかで見られるストーリーではありますが、私はそういうのが好きな傾向にあります。
ともかく、ドルフロという原作ゲームでは指揮官という立ち位置で物語を見ていくことになります。ですが私が主人公として考えたのは、司令官のように戦場を俯瞰し指示を出す人物ではなく、兵士としての役割を担う戦術人形たちと肩を並べることになる野郎という感じでした。もちろん、指揮官としての主人公も考えたことがないわけではありませんが、理解と時間を共にして苦難に立ち向かう。そうする可能な限り近い場所というのが戦友にあたる立ち位置なのでしょう。したがって、最前線で銃器と技術を駆使して戦う人間の兵士としての主人公が完成しました。
長くなりましたが、次回も鋭意創作中ではあります。不定期のペースでの投稿になると思いますが、最後まで付き合ってくだされば私としましては幸いです。
それでは―――

『あいつ、ギャグの方に持っていきやすいなぁ……』
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