誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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ネットとかで拾える情報でも不足している部分もあるから矛盾してたりしないか心配になりますね、ええ。


9.怠惰な指揮官 -Are you serious?-

頭が揺れ、耳鳴りがする上に視界が歪んでいる。背中に響いている鈍痛が収まらないまま彼は立ち上がる。非常事態であるというのに、負傷しているというのに脳内のどこかでは暢気に一か月ほど前のことを思い出していた。

その時の彼は保護下にある部隊で野外の演習訓練に参加することになったのだが、当時の彼は自暴自棄になっていたため我が身のことなど顧みなかった。ペイント弾が装填された銃を持ち、走り、撃つ。たまには白兵戦になり取っ組み合う。配置されたチームの中で遊撃に出ていた彼だったが、その訓練中に不慮の事故に遭ったのである。

訓練といえど相手は戦術人形、純粋に力のみでの戦いになった場合、軍配が上がるのは彼女達の方だ。そのことが頭から抜け落ちていた彼は体得していたはずの体術を使わずに勝負、そして負けたのである。それだけならまだよかった。問題は休憩を入れた後の別チームとの訓練であった。その訓練でも白兵戦でギリギリ負けた。しかしその勝負で熱くなっていた人形は、勢い余って彼を投げ飛ばしてしまったのである。具体的に言うのであれば、高さが五メートルはある高所からである。その投げた人形が気付いた時にはもう時にすでに遅く、彼は落下。幸いそこに訓練用にどけていた木箱などが置いてあったことがあって命の危機に至ることはなかったがその場では騒然となった。訓練は当然中止、状況整理が始まったのである。

周りが慌ただしく動き回る中、彼は怪我の治療を受けてはいたものの無頓着であった。訓練中に何があったのかの事実確認する指揮官達にも、自分を心配してくれている彼女達にも。訓練開始時から彼の異変に気づいていた一人の人形が彼に聞いた。「一体どうしたの」と。誰よりも気を使ってくれている彼女のいくつもの投げかけられた質問に彼は答えず、ずっと地面を見つめていた。やがて不満もイラつきも募ってきた彼女に彼はこう言ってしまった。「もう俺に関わらないでくれ」。

それを聞いた瞬間、彼女は彼の頬に平手を打った。そしてありのまま自分の思いをぶつけた。「ふざけないで、いつまでも立ち止まっているんじゃないわよ」。その言葉の意味を悟った彼も黙っておらず言い返した。「誰も頼んでいないのに近寄ってくるなよ」。そこからは口喧嘩だった。掴み合いや突き飛ばしもない、ただ言葉による罵り合い。周囲が二人の剣呑な雰囲気で各々進めていた作業を中断し彼らを見ていた。それもその筈、彼の方はともかく彼女はこれまであそこまでの感情を露にしたことがないのだから。ただ彼でも覚えているのは「人形のくせに、俺の事をわかったふりをするんじゃない」。そう言ってから彼女と彼の溝は決定的になったことだった。そう言われた彼女は一瞬呆然とした後、目に涙を浮かべて拳を握ると踵を返してどこかへ歩き去って行った。その小さな背中を見た彼も誰の呼びかけにも応じず反対方向に歩いていった。

あそこまで誰かと喧嘩をしたことなどないと彼も思う。そこまで、彼女のあの時の表情は印象的だった。

今になってもなぜ彼女と喧嘩してしまったのか分からない。あそこで崩れてしまいそうだった自分の歯車を直してくれたのは彼女であったというのに。

結果としては仲直りできたのだがその時の記憶がない。それは今、あの時感じていたほどの背中の痛みを感じているからか、足元が覚束ないほどの吐き気を過去と同じように感じているからか、それとも彼女が泣いていたあの時の顔を思い出して胸が痛いからなのかはわからない。

ただ、わかることは一つだけ。

 

「死ねるかよ、こんなところで……!」

 

帰った自分に「おかえり」と言ってくれる彼女の為に、生きて帰らなければならないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――<ERROR>―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

双眼鏡を仕舞い込んで自分が人間でないことで得ている脚力を存分に活かし、建物の屋根をパルクールのように伝っていく。タタタッと軽い足音を立てながら次へ、次へと。

 

「~♪」

『ちょっと待ってよ、早いよ~』

『そうね。こっちはそっちとは違って地上の人間達に気を配らないとなんだから走るペースを落としてもらえないかしら?』

「あら、ついてこれてるのは『9』だけかしら?」

「それでもギリギリだよ。もうちょっとテンションを落ち着けることはできないの?」

 

鼻歌混じりにハミングを挟み、いつもよりもハイペースで走っている彼女とチームメイト達は様々な感情を抱いていた。大雑把にいえば諦念、呆れ、期待である。

 

『急いでくれ!彼との通信が繋がらない!』

「わかってるわよ、そこまで急かさなくてもちゃんと間に合わせるわ」

 

子供の頃とは違い男性らしく声変りをした『坊や』の声を無線機で聞きながらも走り幅跳びをする要領で爆発現場の方へ向かう。

サブマシンガンの戦術人形は他のタイプの人形よりも敏捷値が高いというデータがあるというが、現在の彼女の脚力は数値的なものだけでなく、データや数字では表せないなにかでブーストされている。それは同じサブマシンガンの人形である『9』と呼ばれる茶髪の少女が証明している。

やがて同じ隊の者達を置いてけぼりにして到着した少女は、到達した廃墟の屋根の陰から見える範囲で現場を確認。事前に受け取っていたマンションの三階の一室が爆破されたようで、ホワイトハウス周辺のアメリカ軍の兵士が集まってきている。なにかを言ってはいるがさすがに全てまでは聞き取れないが―――。

 

「……あら、どうやら死体はまだ見つかってないようね。兵士達は詳細が分かってないようよ」

『……そうか』

 

だがそれだけではわからない。今回表舞台に立っている特務の隊員が爆破によってどうなっているかの判断ができない。

少女は目を閉じ現実世界においての感覚を断ち切り、クモの巣のようでそれよりも複雑になっている世界に自分から伸ばした線を繋げる。そしてそこから仮想の自分を走らせて探した。各兵士のヘルメットに内蔵されているカメラ、無線、ステータス。カメラにはそれらしい人物は映っていない。無線は爆破が起こったことによる報告などしかない。ステータスは問題ない、誰も殺されたり気絶させられている様子はない。入手できる情報を探ったがこれといった異変はない。

 

「でも死体が見つかってないだけで、どうなのかはわからないわね。G11、そろそろ見える位置についた?」

『ついたけど……なにもないかな……』

『隊員の方からの無線の応答は未だにない……本当に痕跡はないのか?』

「焦らないの。『G11』、そのまま何かないか探して頂戴。『416』、『9』とそちらは無理のない程度に現場付近を探索」

 

指示を受け取った全員が了承し、行動に当たってる間も少女は再び電脳世界に接続開始。先程拾った情報のルートを総当たりで確かめてみる。すると思わぬ拾い物をする。

 

「……み~つけた♪」

 

それは誰にも聞こえない呟きだった。獲物を見つけた肉食動物のような目になり、口角もニタリと笑う形になる。しかし今はまだその時ではない。メインディッシュは後から味わいながらゆっくりと食べるものだ。

その情報は確かに収穫であり、今回の作戦では意味がある物だ。その情報を彼に引き渡すのもいいが、それではあまり意味がない。腕を上げたかどうかを近くで確かめるのもいいだろう。

 

『『45』、聞こえる?』

 

チームメイトからの通信が入り、自分のいる世界が現実に引き戻される。

 

「ええ、聞こえてるわよ。なに、416?」

『マンションの裏手の方で調査を始めた兵士がつい先ほど凹んだような廃車があるとか言ってたわよ』

「凹んでる廃車?」

『うん。なんだか爆発した一室の窓に面しているマンションの裏手の方にあるんだけど、なんだか不自然な感じなんだって』

『それとこっちに来てくれるかしら、ちょっと気になるのがあるのよ』

「……わかったわ、とりあえず私もそっちに向かうから」

 

わかったよ~という陽気な声を聞く前に屋根から飛び出しマンションの裏手に回り込むとお馴染みの顔の二人が物陰から覗き込んでいるのが見えた。たしかに彼女達の視線の先には車体のボンネットが大きく凹んでいる廃車がある。フロントガラスも割れており辺りに欠片が散乱している。

 

「……たしかにあるわね」

「廃車なんてどこにでもある物だからあまり変わり映えしないとは思うんだけどね。でも私が気になるのはこっち」

 

416と呼ばれる銀髪の少女が灰色の髪の少女に一つのワッペンを渡す。ファッションとしてお洒落な服につけることがあるが、戦場では所属する隊を表す。『45』と呼ばれる少女が見てみると今まで見たことのない模様が刻まれていた。黒い縁取りに囲まれた藍色の布地に前足と頭などの上半身が黒い影から出てきている蒼い狼が描かれている。所々焼けてしまっているため分かりにくいが、横から見たその狼の模様の下にグリフィンの隊で事を示すマークが刻まれている。

 

「へえ……なかなか面白いのを見つけたじゃない」

「このへんのアメリカ軍の物でも鉄血の物でもない、全く見たことのないものよね」

「焼けた状態のこれがここにあるってことは間違いないわね」

 

これがマンションの裏手の方にあったということは、特務に割り当てられた隊員は生きてはいる筈だ。そうなると裏手の方に他に何か、と45が視線を巡らせると道路のアスファルトにわかりにくいが血痕が見つかったのである。

 

「『坊や』、報告よ。負傷はしているようだけどお探しの隊員は生きてはいるわ」

『そうか……!』

「ただ、現場付近に残ってる血痕からすると重傷ほどじゃなくても治療は必要よ。出血量も少なくはないわ」

『わかった、とりあえずこちらからは回収のヘリを向かわせる。そちらは―――!』

「悪いけど、ここからはあなたの指示に従うつもりはないわよ?」

 

自分が『坊や』と呼ぶ男性にそう口を挟む。途端に嬉しそうであった彼の声色は一気に沈んだものになった。

 

『……どういう意味だ?』

「そのままの意味よ。作戦の方は私達が引き継ぐけど隊員の方は私達で好きに処断させてもらうわよ?」

『ふざけるな!まだ生きているというのに殺すつもりなのか君らは!』

「ふざけるなはこっちの台詞よ。急な作戦の立案と実行に、情報の管理が甘かったからVIPの位置情報も漏れたんじゃないかしら?それに『坊や』、あなたを私は『指揮官』として認めてないわよ。私が『指揮官』として認めていたのはあなたの父親、あの人だけなんだから」

『な、に……!』

 

そう言う彼女の瞳は鋭い。声色も氷を連想させる冷たい色へとなっていく。

 

「それにあなた、大事そうに言ってるけど今回の隊員のことを軽んじているんじゃないかしら?もし唯一無二であれば、VIPの事情を無視してでももう一人パートナーをつけるべきよ。なんで一人でやらせたの?」

『それは……!』

「まあいいわ。それとさっきは好きに処断するとか言ったけど、あなたのお友達、『ローガン』は私達がもらうからね」

『なっ、何を言ってるんだ!?それに彼の情報をどこで……!』

「これに関しては仕方ないわね。彼とは昔色々とあったから。特徴と経歴を少し教えてもらったらピンと来たのよ。……私達全員ね」

 

45が横の方を見ると、満面の笑みを浮かべる9とポーカーフェイスで感情を悟らせないようにしているものの、血痕のあとをずっと見つめている416がいる。遠方から見ているG11も満更でもないはずだ。

 

「あなたが十分に配慮しなかったせいで今回ので死にかけた筈よ。急な依頼だからどうしたものかとも思ったけど案の定。作戦内容もガバガバなのも仕方ないわ。そんな体たらくじゃあなたのもとにいる人形達も可哀想ね」

『……っ!』

「ぐうの音もないわよね。とにかく、私達『404小隊』があとは片をつけるわ。最初に言われた報酬も不要よ、ローガンがもらえるのだからね」

『ま、待て―――!』

 

何かを言われる前に無線を遮断。彼から、『プロフェット』とも呼ばれる男『ハリー・クロスハート』との回線を断ち逆探知による追跡を完全に封じた。

 

「……いいの?あんなこと言っちゃって」

「別にいいんじゃないかしら。正直な話、私はあいつのこと嫌いだし。表面は優しいそうな面をしているのに内側は中身のないスッカスカなんだから」

「うぅわ、416ってば手厳しい~」

『……でも安全な家がなくなっちゃった』

「家なんて必要ないでしょ。あそこにはもう私達は戻らない。重要なのは―――」

 

息を大きく吸って、吐く。体の中に溜まっていた、捨てきれなかったものを完全に投棄するように。

 

「―――ここからよ。『404小隊』、行くわよ」

 

隊長『UMP45』の号令に、『UMP9』『HK416』『G11』は従った。目的は一人の隊員の奪取とここ、ワシントンD.Cに潜む鉄血の排除。

『Task Force 404 Not Found』。それが人形達の間では都市伝説と呼ばれる彼女達の隊の名前であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――<ERROR>―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血痕を追い続けていると次第に地下駐車場に入った。G11を除いた三人でそこに侵入し探索を始める。中は明かりも何もないためフラッシュライトを点けての探索となった。

 

「さてさて、狼さんこっちだ~ってね」

 

9がご機嫌そうにそう言いながら進んでいく。三人で視覚を無くすように各自百二十度の視界を警戒するフォーメーションで固まって移動する。

地下駐車場には決められたスペースに車が駐車されている。中には使えるものがあるかもしれないが、それは詳しく調べてみないと分からないだろう。

 

「そういえば9、あなたの家族は何人なの?気に入った人がいれば全員にそう言ってる気がするんだけど」

「ん~と、404全員と指揮官にローガン、あとは……あれ?」

「あれって何?忘れたの?」

「そうじゃなくってさ、思えばそこまで私はそこまで家族だって思った人はいないんじゃないかなって思ったの」

「そんなことあるはずないでしょ。大体今日からみんな家族だとか言ってたじゃない」

 

そこで9曰く、彼女は家族だと思った人間や人形は家族とは思うが自分達がその気に入った人の方に溶け込むのではなく、その人物をこちら側に引き込むという意味で家族だと思っているのだという。実際のところ404小隊という小隊が存在することを確認できるのは人間のみで、人形の方は彼女達がそのメンタルモデルを破壊するかそれとも書き換えを行うかしている為、彼女達の存在を知る物は限られている。そのため、ローガンなど覚えていられる人間は『家族』として9に認定されるのである。

 

「とはいっても、ボスは違うかな~。どちらかというと『友達』だよ」

「もう一方は何?」

「『知り合い』」

「……なんとも辛口ね」

「二人とも、話をするのはいいけど集中して頂戴。鉄血を潰す前にローガンを見つけなくちゃ」

 

416と9の会話に耳を傾けてはいたものの、参加しなかった45が注意する。再び作戦行動に意識を戻した二人に後方を任せ、部隊内の無線の電源を入れた。

 

「G11、出入り口の方は何の変化もなし?」

『なにもないよ。むしろ暇になって眠たく……ふぁあ』

「そこで寝ないでね、今回の私はいつも以上にマジよ。もし寝たら……わかってるわね?」

『ふぁ~い……45がこわいぃ……』

 

半ば脅しに近いよう台詞を聞いたG11は眠そうにしながらも45からの指示に従うようにそう返した。

足元の血痕を辿って時間がそれなりに経っている。ここまでで血痕自体は点々と残されておりそれを追っていくのはそう難しくはない。問題なのはアメリカ軍である。先程の爆発により慌ただしく動き始めており消火活動なども始めたため表の道を簡単に移動できなかったのだった。だがそれでもやり過ごし、必要になれば気絶に留めて進んでいってここに辿り着いた。しかしそれもここで終わる。

 

「血痕が消えてる……」

 

フラッシュライトに照らされている地面で点々としていた血痕は消えており、その先にはもう何もない。辺りに照らしてみても目的としている青年はいなかった。

血痕がここで途切れている、しかもここは出入り口が一つしかない地下駐車場……と考え付いたときは45は気付いた。

「トラップ!」

 

叫んだ45の言葉に反応した二人との間に何かが投げられる。カンッと音を立てて一回バウンドしたそれは9が隊の中で一番よく知る物だった。

 

「フラッシュバン!!」

 

そう聞こえ始めた瞬間には45も416も行動が早かった。すぐに身を翻し炸裂する閃光から目を守る。しかし目は守れても耳、聴覚までは防御しきれなかった。

耳鳴りを起こし聴覚モジュールの機能が一時不能になった45だったが、すぐに状況確認を隠れた物陰から行う。9と416は離れてはいるが無事だ。自分もそうだが、彼女達はフラッシュバンが投げられてきたと思われる方向を警戒している。しかし一向に銃撃は来ず、聴覚が回復して周囲の物音が聞こえるようになってきた。

怖気づいたのかと思った瞬間だった。

 

『出入り口で動き。スモークグレネードが投げられたよ』

 

はっと見てみると、スモークの一部がこちらにも流れている。

 

「さっきのフラッシュは囮だね……!」

「警戒しなさい。まだなにかあるかもしれないわよ」

 

二人がそちらに走っていく中で45はついていきながら考えていた。本当に?と。

たしかにフラッシュを投げて内部にいる自分達を攪乱させて拍子抜けさせている間に自分は出入り口にスモークを展開して逃げる。生存を重視している悪くない戦法だと思う。だがこれで終わりなのだろうか。

 

「G11、出入り口に変化は!?」

『ううん、ない。スモークがずっと舞っているだけで特にこれと言って……』

 

未だに出入り口側に動きがない……私達がこちら側に引き付けられた。そうか、これは―――!

45が気付いた瞬間、二つ目のフラッシュバンが投げ込まれる。出入り口に寄ったことで最後尾になった45の背後から。

バンッ!と再び閃光が炸裂し、聴覚はダウン、完全に視界が白く塗りつぶされる。だが45は最後尾でギリギリ反応できたため被害を受けず、先程まで自分達がいた方向へと振り返る。そこで走っていた彼は一瞬驚いた表情を浮かべたが45との格闘戦に応じた。短い間に繰り出される無数の拳と蹴りの応酬を時折受けながらも多くを流した彼は45の腕を掴み脇の下から投げ飛ばすように動いた。しかし45も負けてはいない。

投げ飛ばされずに右足を先に着地させてから左足をつけるような、車輪のように一回転して着地した彼女はすかさず猫のようにしなやかに動き、彼の首を絞め始める。苦悶の声を漏らした彼だったが、すぐさま立て直して引きはがして投げ飛ばす。この背負い投げには抵抗できなかったが、すぐに受け身を取って衝撃を緩和し距離を取ったことで銃を構えようとした。しかし視線を上げた時にはもう時すでに遅く、彼はもう拳銃を抜いてこちらに向けていた。

 

「……惜しかったな、45」

「……そうね、ここは私の負けね」

 

一対一の勝負による敗北であったが、素直に称賛する彼の台詞に彼女は笑顔になった。だがこれは彼女一人だけの勝負ではない。

 

「でも今回は私一人ではないわよ?」

「……まあたしかに。その点では俺の負けだな」

 

自分の背後から9と416に銃を突き付けられていることを感じ取った彼は拳銃を床に置き、両手を上げて降参のポーズを取った。それだけで十分だった。

 

「わ~い、久しぶり~!」

 

9は彼が怪我人であることを忘れているのか飛びつき猫のように頬ずりしており、

 

「あの戦術を一人でやるなんてね。その体でやってのけるなんてあなた人間やめてるんじゃない?」

 

416は自分が何もできなかったことに若干憤りがあるようだが探し相手が無事なことに安堵しており、

 

『終わったの?じゃあそっちにいっていいよね?久々に撫でてもらいながら寝させて欲しいな……』

 

無線越しに気だるげでありながらもルンルン気分であることを窺わせる声色のG11はこちらに合流するために移動を始めた。

 

「にしてもよくここがわかったな……」

「あなたが血を流しながらここに来たからよ。目が良ければ追跡することは可能だったわ」

「そういうことか……やっちまったかなぁ」

 

45も銃のセーフティを掛け彼の元に歩み寄る。近くに来てみればわかるが、前に出会った七年前よりだいぶ大人びた容姿になっている。顔も整っている方なので男らしくなっていると思えるが、それを額に貼られている絆創膏や頬のすり傷が減点している。それでも、45にはどうでもよかった。

 

「久しぶりね、ローガンっ♪」

「……ああ、元気にしてたか。45」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直なところ、今でも体は楽ではない。

爆風を受けて窓から外に放り出されたローガンは背中を打ちつけ、額から血を流すほかにも数ヶ所に火傷を負っていた。それに九死に一生を得たものの落下による衝撃で気分も何もかもが悪かった為歩くのもままならなかった。それでも足を引きずり人気のないところまで来ると緊急時の為の応急キットを取り出し簡易的な処置を行った。切り傷などには消毒してから絆創膏を貼り、火傷には軟膏を塗る。打撲による痛みはどうにもならない為、最終的な処置として効き目の長い鎮痛剤を打ちしばらく体を休めていたのである。そこで足音が聞こえたため身を隠して様子を窺ってたところ、知ってる顔ぶれが来てたので腕試しを兼ねて404小隊に挑んだのだった。

 

「それにしても、後々のことは考えなかったの?惜しむことなさそうにスモークとフラッシュを使ったけど」

 

416がさらにローガンの傷を治す為、自分が持っていた治療キットを展開し彼の背中に出ている痣などに適切な処置を行っていく。普段であれば人間に使うとしかできないそれは存在すら忘れられている状態だったのだが未だに彼女が持っていたのはほとんど奇跡である。

再会してからは爆発現場からも離れている裏路地の方に皆で移動している。ローガンの治療が終わるまでは45は彼の傍に、9とG11は周囲に誰もよらないように

 

「後の事なんざ後々にしかわからないだろ。そんなことを考えて今死んだらしょうもないじゃんか」

「使える物はそこで全て使ってでも生き残るということね?でもそれでも死んでしまうことこそしょうもなくない?」

「それでもだよ。その時はその時で仕方ないとは思うけど俺はできる限りの抵抗をするさ。頭数で勝てないなら策で、策で勝てないなら意表を突くための心理で、心理で勝てないなら技と力で。前に言っただろ?」

「呆れた。あなたやっぱり早死にするわよ」

「よく言われるよ」

 

いつもはポーカーフェイスを崩さない416もローガンの言うことに苦笑している。彼も治療による痛みで少々表情を歪めてはいたが笑っていた。

やがて治療が終わり、傷だらけだった上半身に着ていた上着とベストを着用したローガンは自分の戦闘服で無くなっている物に気付いた。

 

「あっちゃあ、ワッペンが無くなっちまってら……」

「そのワッペンってこれでしょ?」

 

45が得意げに先程拾った暗色のワッペンをひらひらとローガンの目の前でチラつかせる。最近になってようやく見慣れてきた自分の部隊章がなぜ45に持ってかれてるのか疑問に思ったが、すぐにさっきの爆破によるものだと察した。

 

「ああ、それだよ……んで、なんだよその顔」

 

返してもらおうと思ったローガンだったが、意味ありげな顔になっている45に気付いた為、受け取るように手を出すようなことはしなかった。すぐになにかあると悟った彼に彼女はニッコリと笑い本題を切り出した。

 

「ねえ、ローガン。404小隊に、私達と一緒に来て」

「……理由は?」

「ん~?色々とあるけど、一番の理由としては今のグリフィンが気に入らないからってのかな」

 

こてん、と首を傾げた彼女に可愛げがあるとは思うが口にしている台詞がそれを打ち消す。表情も悪気もない子供のような無邪気な笑顔のままである。

 

「今の指揮官の座にいるあの子、頑張っているようで頑張ってないんだよ。仕事はしてはいるけど、『それ以上の事』をしようとしないの」

「『それ以上の事』?にしてもその口ぶりからすると昔から知っているような感じだな」

「うん、子供の頃からね」

 

昔のことを45は語った。

ハリーが指揮官につく前はとある平凡な家庭の息子だった。母は病気ですでに他界、父親はとあるPMCの指揮官であった。今と変わらない傭兵のように活動している404小隊の危機を救ってからは自分の支部に受け入れ、彼女達の生還も重点に置きつつ、迅速かつ冷静な指揮を行っていたという。そんな彼に、彼女達も信頼を寄せていった。

だが彼女達にもできないことというのもある。作戦中に鉄血による電撃作戦で主力部隊が全部隊出払っているタイミングで奇襲され彼は息絶えてしまった。その彼の跡を継ぐようにハリーは指揮官になった。先代の息子である彼に初めは彼女達も少しは期待していた。だが事務仕事をしていても、作戦の指揮をしていても結果がある程度出せても、次で『それ以上』の結果を出そうとしなかったのである。本人に聞いても素知らぬ顔であったという。

 

「今でも思うけど、ふざけるなって思ったわ。自分の他にできることがあることがわかっているのにやろうとしない、やる気を見せないことに」

「……だから、戻ったのか」

「ええ、また皆で404小隊として。あなたと出会ったのもそれぐらいの時期よ」

 

こうして時が経ってから再開するとローガンでも思い出す。

当時は偵察任務の分隊の隊員として作戦行動に当たっていたのだが、奇襲により部隊は散り散りになり、ローガンも弾薬をすべて使い切った状態で作戦行動を遂行していた。廃ホテルを通過して警戒しながら歩いていた45は同じく単独行動していた彼に接触。その時は45にとってお互いに関わらない方がいいと思ったのだが、そうも言っていられなくなった。

 

「あの時は世にも珍しい戦車がうろついてたなぁ-」

「中にいたのは新しいおもちゃを見つけた子供のような鉄血の乗組員だったけどね。運転も手探りで何とか覚えただけのアマチュアだったわ」

「そんで、流れで奴をお前と一緒に片付けた。それで終わりかと思いきや……」

「今度は私を除いた404全員が捕虜にされていて処分されそうになってた。そうよね、416?」

「やめて頂戴。あなたと同じように私も荒れてたんだから」

 

そこからは416も知っている話だ。膝をついて並ばされてあとは背後から撃たれそうになるところにスモークが投げ入れられ、二人が救出に来たのである。ローガンもそこに仲間達がいるかもしれないと思い、45と共同戦線を組んだのだが全ては無駄に終わったのである。彼女の仲間は助かったが、彼のはそうはならなかった。

それから五人は別れた。ローガンはその時所属していた部隊に、45は仲間達と共に。

 

「俺が何かしてやれたか?その時に。45、お前達が俺をスカウトするなんざそうそうないどころか一切なかっただろ」 

「まあそうね。私達の存在は公の舞台に、明るみにされない。でもあの頃はともかく、今のあなたは影に潜む狼どころかゴーストそのものよ。そんなあなたと私達、違いはそんなに多くあるかしら?」

 

違いはそんなにない。人間かそうではないかではなく、ローガンの『シャドー隊』はグリフィン所属の隠密特殊部隊ということになっている。しかし彼も知っている通り、グリフィンというのは戦術人形を主流に依頼を遂行するPMCである。そんな彼らが自分を表舞台に立たせることはあるだろうか。いや、ないだろう。まだ自分はシャドー1として今回で二度目の任務になるが、交戦する騒ぎを直接引き起こすのは禁止されてはいないが、基本控えるように言われている。それは人間であるローガンに対しての配慮なのかもしれないが、場合によっては派手に銃を撃つことになっても仕方のないこともある。

 

「あなたにも鉄血と正面から戦えるだけの力がある。それは私達も知っている。だけど彼らはそれを認めない。戦える力があっても拘束されて表舞台に立てないことが共通している、それがまず一つの理由」

「……まあたしかにそうだし納得できるな」

 

実際そうだ。ローガンもただ単に相手が友軍だから、情報が不足していて味方かどうかの判別が出来ていないから。それらの理由で拘束されてしまうのなら致し方ないとは思う。だが彼も『できるだけ派手に戦うな』と理由もなしに言われるのは少々不満に思うこともある。ローガンも自分が人間であることも踏まえて敵を可能な限り隠密に、騒ぎを起こすことなく倒してきている。権限を与えるだのなんだの言われているのに、これでは本当にそうなのかどうかもわからない。

 

「二つ目はさっき言ったことにも少し絡むけど、あなた自身の実力よ」

「俺の?」

「ええ。さっきの駐車場では手持ちにある装備を瞬時に良い方向で扱えている。私はそこまで戦闘に特化してないけど、格闘戦も難なくこなして見せた。それにあなた、ここに一人で来たのよね?あの子はやっていることはロクでなしだけど、見る目は確かだわ。情報収集能力は私が教えたものだけど、人形や人の持つスキルを見極める才能は元から備わっていたの。そんなあの子があなたを一人で送り出したということは、実力は信頼されているのね」

「おいおい、あいつの人柄を擁護するつもりはないけど、プライベートでも絡んでいる俺達に信頼関係がないみたいな言い方じゃないかそれ」

「単に私の主観を言っているだけよ。そこまでのことは知らないわ」

 

ごもっともである。彼女であればローガンとハリーの友人としての仲を知ることが出来るかもしれないが、ここではそのことを引っ張っても仕方ないだろう。

 

「それとこれは私にとって一番大切な理由だけど――――――」

 

そこでお互いに壁に背中を預けて向かい合って話していた状態から45の方からずいっと顔を寄せてくる。途端に左目に傷はあるものの整った顔立ちと硝煙が立ち上る戦場には似つかわしくない少女らしい香りがくるため、ローガンの心臓は跳ねた。そこで小さな唇が紡いだ言葉は―――

 

「―――私があなたに興味があるからよ」

「……俺に?」

「だって鉄血と単独でも互角以上に戦える人間になんてそうそうお目にかからないもの。今の兵士たちはツーマンセル以上で戦うのが鉄板じゃない。それなのに恐れずにここまで一人で来たのだから、私はあなたを知りたいのよ」

「……なんか最後の理由だけが拍子抜けなんだが」

「そう言わないでよ、ローガン。これからワシントンD.Cに潜んでる鉄血を叩くんだから」

 

ワシントンD.Cに潜む鉄血、そう聞いたローガンの目に炎がともったのを45は見逃さなかった。

 

「さっき私が言ったことに対する返答は保留としておいてあげる。今はまず、奴らを早く叩こうと思うんだけど―――」

 

クルリと回ってローガンから距離を離し、前倒しに腰を持って行き両手を後ろ手に組んだ少女は金色の瞳を輝かせた。

 

「―――どうする?」

 

ローガンの返答は、言うまでもなかった。




ドルフロ内で欠かせない存在である彼女達を登場させたはいいんですが、やってやった感よりも矛盾とかに対する恐れが大きすぎてそれどころじゃないですね(汗)
45、9、416、11は原作ドルフロの私の基地にいますが、9の建造が遅れたのでレベルがそんなに上がってないんですよねぇ。ちょうど同時期に40も来たので育成が追い付かず……ナンテコッタ。45は第二部隊の隊長、416は第一部隊の火力担当、11は第二部隊の火力源。9も今後主力部隊の一つとして運用するつもりなので育成してますけど、404ってやっぱり優秀だなって思います。
うちのエースはAR15ですが遂にレベル100に到達。あと現時点でしてやれることといえば専用の高速弾とかの装備のレベルをあげるぐらい。早く来てくれないかな、メンタルアップグレート。その間に他のAR小隊のレベルも上限に達してしまいそうです、ははは……(乾いた声)
とりあえず今回はこの辺で。次回も読了してくださると私としても感謝以外の言葉はありません。
ではでは―――
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