誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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ほんの少しのシリアスをギャグに織り交ぜる……詐欺じゃないですよ?


13.休息とは一体 -Run, run, run!-

ふと、わりと近くから響いていた演習射撃の銃声が止んだことに気付いたローガンは、手に持った書類から視線を上げる。窓の向こうには秋に差し掛かろうとしている青空とこの間と比較して涼しい風が部屋に入ってくる。青空から視線を下げればそこには演習レーンで一通りの行程を終えた人形達が見える。スクリーンに表示されている成績を見て喜んでたり肩を落としてたりしている彼女達を見て口元を綻ばせると、持っている書類に意識を戻す。

 内容はこうある。

『グリフィン南アメリカ支部管理地区内にて新設された商業区あり。これの調査として以下の者を派遣する。『ローガン・ブラック』、『STAR-15』。尚、調査に当たる費用にあたって当日は本人達が負担し、後日指揮官に調査報告書と一緒に提出せよ。―――ハリー・クロスハート』

 

「……実質、これ『業務命令』と書いて『有給休暇』というやつじゃねえのかこれ」

「うん……そーだねー……」

 

ぽつりと呟いたローガンの台詞に、間延びして眠そうな声を発するSOPIIの声が聞こえる。

場所はAR小隊に割り当てられた執務室。先日ようやくローガンにも事務処理の作業としての部屋が割り当てられたのだが、よりにもよってなのか、ようやくなのかAR小隊の部屋との同室になったのである。執務用の机をそれぞれ向い合せてくっつけられており、無駄のない形に整えられている。扉から入ったら手前から奥までを順に言うと、左側はSOPII、M4、AR15。右側はRO、M16、そしてローガンであった。つまり窓のある奥側に座っている彼の向かい側は、今は不在のAR15の机なのである。

現在、SOPIIを除いたAR小隊の人形達はいない。先程読み上げた書類がこちらの方に渡ってくる前に、演習訓練に行ってくるから留守番しててくれ、と半分夢の世界に旅立とうとしている一人を置いて外出したのだった。

 

「あいつと少し打ち合わせておきたいんだけどな……」

「あ……ふぅ……大変だねぇ、ローガンも……」

「おーう、とりあえずお前は目を覚ませ。ほれ、酸っぱいレモンのグミがあるぞ」

「それもう食べ飽きたからいらなーい……」

「ったく……」

 

溜息を吐いたローガンは書類を相方の机に置き、部屋の隅に設置されているコーヒーポットを起動。ブラックコーヒーを自分専用の真空カップに入れて啜りながら部屋全体を眺める。

ここにきて最初に目に入ったのは、けたたましく鳴ったクラッカーの紙屑とくっつけられた机の上に載っている料理の数々。そして壁全体に飾り付けられている煌びやかな装飾と『いらっしゃい、ローガン』の文字が書かれた歓迎会のポスターだった。前日に通達されたものの、当日の夜まで足を運ばないようにと厳重注意されていたためなにかと思ったのだが、AR小隊の全員の姿が何かしらかの荷物を抱えたM4以外全く見られなかったことからこういうことだったのかと納得した。

その日は夜遅くまで全員で食べたり飲んだりして騒ぎ、翌日全員で合わせていたオフの日で片付けを行った。終わった後は全員で食事を取ったり二日酔いになったM16の看病してたりと楽しい時間を過ごした。

現在はそれからまだ四日しか経っていない。そうだというのに、それぞれの机には性格を明確に表すだけの差が生まれていた。

まずはAR小隊隊長のM4。見た限りだと綺麗に片付いているし必要なものをちゃんとわかりやすい位置に置いてあるし、如何にも女子らしい可愛らしいデザインのグッズが置いてある。ただしこの間作業中に零してしまった飲み物のシミが筆記用具の入れ物にできてしまっており、しっかりしていつつもどこか抜けていることを表している。

次にSOPIIだが、彼女の机には散らかった書類や筆記具に交じって何かしらかの部品が混ざっている。この間その中の一つの水晶のような輝きを放つその球体は何かと聞いたところ、ダイナゲートの目玉だと満面の笑顔で返答された際は思わず立ち眩みをしてしまった。子供のように無邪気であるが鉄血に対しての残虐性を秘めた性格であることがわかるのではないだろうか。

AR15の場合だと、シンプルイズベストという言葉が当てはまる。M4のように書類はここ、筆記具や書類作成の機器はそっちというように几帳面に整理整頓がされている。そして机の片隅には写真立てがあり、このグリフィン基地全員で撮ったのと、先日まではAR小隊のみだったのが、ローガンも含めた全員で先日の歓迎会で撮った写真に更新された。それで彼女が真面目で仲間思いの人柄であることが窺える。

そしてM16だが、こちらは若干隣のローガンの机の方にも若干侵犯している。要は、書類などよりも趣味として置いている物が多いのである。彼女の好きな酒であるジャックダニエルがローガンの机の上にも置かれており、彼女曰く、『私は好きなものが近くにないとやる気になかなかなれない』と。まあそういう人間もいる為そこまで攻めることもないが、せめてもう少しスペースのことを譲歩して欲しいなとローガンは少なくとも思う。だが彼女は書類の整理に手間取っている自分や他の小隊メンバーの相談に乗ったりしてくれてたりするので決して仕事をしていないわけではない。それらからすると、頼れる姐御というものだろう。

最後にROは、こちらは必要最低限の物しかないように見える。だがローガンがこの間コーヒーを淹れる際に少し離席した際に見えたのだが、動物の写真やイラストがプリントされているグッズを目にしたのである。それを彼に見られたことに気付いたROはすぐさま机の中に隠し、『……見ました?』とこちらが彼女の下着を見てしまったような台詞を放ってきたのである。嘘をつくわけにもいかないので見たと言ったのだが、顔を紅潮させこちらが痛くない程度にポカポカと叩いてきたのが頭によぎり、思い出し笑いをしてしまう。ともかく、彼女は周囲に気付かれないように自分の好きなものを隠しているが仕事は真面目にこなしている。向かい側にいるSOPIIが時折寝かかっている時も注意していることも考えると、真面目な委員長気質ではあるもののM4のように可愛い物好きだ。

 

「こうして見てみると、やっぱり個性があるよなぁ……」

 

しみじみと思いながら自分の席に戻り、もう一度コーヒーを口にする。こう言っては彼女達に失礼ではあるが、やはり戦術人形にも個性というものはあり、またトンプソンやスプリングフィールドと以前に話し合った趣味などもあるのだということがわかる。

午前中のうちにこちらに回ってきていた書類を片づけてしまったため、午後は新しい仕事が来ない限り完全にフリーである。もし半月前の負傷がなければこれから演習場の方に向かうなりしてもいいがそこまで動いて良いとドクターから言われていない。ドクターストップを振り切ろうものなら、AR15とハリーから説教を食らわされるのは既に経験済みである。そこまで動かずにその場で静止した状態でなら射撃訓練場でホログラムを撃ってもいいのだが、生憎昨日から一週間のシステムメンテナンスが入ってしまっている。

少し考えていて思い出したことがあったため、自分の机の中から一冊のカタログを取り出す。表紙にはグリフィンの紋章がプリントされており『To gun mania in the world』という英語も書かれている。簡単に言えば銃のカタログである。

先日ハリーと相談していたのだが、やはり『シャドー隊』の基本行動は隠密ということで双方納得ではあるが、もう少し強襲などの作戦行動に動員するのはまだ無理があるということで話は進んだ。最大の理由としては、まだコールサインが『シャドー2』となる人形がまだ決まらず調整がうまくいかないというのがあった。それぞれの人形はもう配置も固まっており、今更動かすというのは難しい。それにローガンだけでなくAR小隊や404小隊のように確定的で作戦によってのほとんど引き抜きがないような人形でないと、チームごとにある連携などの特色を本格的に与えることが出来ないのだった。一度隠密作戦行動を共にしたROはAR小隊であるため、よっぽどの有事でないと動員できない。調整が長引くことに二人で悩んだ結果、それまでは基本隠密行動、作戦によっては別部隊の強襲作戦の援護とバックアップということになった。

そうして思案していったところ、遠距離からの援護射撃をするチームに加わることも考えてグリフィン本部の方からカタログを取り寄せたのである。遠距離からの狙撃となるとハニーバジャーでは心許ない。あれはアサルトライフルとサブマシンガンとの中間に位置するPDWであり前線で戦う為の銃である。加えて内蔵サイレンサーにより射撃距離も若干減衰してるなどの特徴もあるので狙撃には向いていない。そのため、別で銃を取り寄せることになったのである。

ローガンの狙撃訓練においての成績は最大成績がSである内のAランクであることもあり、スナイパーライフルなどの人形達から色々と意見をもらったりもしたが、結局は精度に拘ったものが多かった。だがその中でも、NTWからのアドバイスが他にないことを話してくれた。それは―――

 

「マークスマンライフル、か……」

DMRとも言われているそれは、狙撃銃として使われているライフルからアサルトライフルとしても使用も可能とするために設計されたライフルである。このために設計された銃の例としては、ロシアで生み出されたSVDことドラグノフがそうだ。スナイパーライフルこと狙撃銃は撃った後に薬莢を排出するためにコッキング動作というものがいうのがある。一発撃てばコッキングを行った場合、第二射目までの連射はできないのである。そのかわりマークスマンライフルはその動作が必要ないためすばやく追い討ちをかけることが出来る。さらに威力はやや落ちるものの、有効射程距離を継承しているため狙撃に使用することもできるのである。

 

「う~ん……どうしたもんかな……」

 

とはいっても、グリフィンから購入できるカタログを見てみる限りだとやはり数が多い。それにローガンに充てられたPCで調べてみて特徴などを知っても実際に持ってみないと意味がない。となると、購入する前に本部の方に向かう必要があるのだろうか?

むむむ……と悩んでいると、ドアがノックされる。放ったらかしのSOPIIは起き上がる素振りがないため仕方ない。ローガンはカタログを机の上に置くと扉の方に向かって『入っていいぞ』と言ってやる。扉が開き、そこにいたのは医療用の人形だった。見た目は鉄血と同じような第一世代の人形で気持ち程度にナース服を着させてある。

 

「すいません、ローガンさん。ドクターがこれから診察を行いたいとの伝言を仰せつかりましたので報告します」

「あれ?明日じゃなかったっけ?」

「くそドクター自身のご都合でございます」

「ああそういう……でもその悪口はどうなんだよ」

「知りません。とっとと老い耄れの元に行きやがってください」

「……医療スタッフがこれでいいのか、グリフィン」

 

用が済んだとばかりにそそくさと扉から消えたナースがいた場所を見ていたが遠い目になっている場合ではないだろう。ローガンの怪我の診察をしているドクターは腕は確かではある。のだが、よぼよぼという形容詞がこれほど似合う老人と出会ったローガンとしては自分よりもドクター自身の身が壊れてしまいそうでおっかない。

 

「……仕方ねえか」

 

必要最低限の荷物を持って部屋から出たローガンは、部屋の扉の外側に張り出されているホワイトボートで自分の欄のところに『外出中』と書いて外に出る。

指令書については戻ってからでいいか、と思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……どうしてこうなった。

 

「これは私とローガンへの指示よ!あなたは基地に残って仕事をしなさいよ!」

「別にそれにどうこう言うつもりはないよあなたたちにぃ!ただちょ~っとこれを私に預けさせてくれないかなぁ!?」

「嫌に決まってるでしょ!お得意の情報操作で指示を歪めるとしか思えないわ!」

「あっははは、嫌だなーそう決めつけられるのは!私はそんなことはしないよ!これ持ってお話してくるだけだからぁ!」

 

診察を終えて戻ると自分の部屋の机付近でなにかが、いや明らかに事件が起こっていた。置いてある指令書の上に片手をそれぞれ乗せている少女二人が睨み合っている。……いやそれも正しくないだろう。最早龍と虎の睨み合いだ。

部屋の主である彼女達が怯えているか慄いているかのどちらかの反応が含まれている。部隊長は怖がりながらもどうしようとオロオロしており、鉄血相手では狂犬と化す少女ですら部屋の隅でガタガタと震えている。部隊内では頼れる存在である姉も『おっかねぇ……』と漏らすほど自分の机からも何歩か引いており、電子戦のエキスパートもカタカタと震えながら机の陰から様子を窺っている。

それぞれ違ってはいるが、ローガンも冷や汗を流すほどの雰囲気に咄嗟に回れ右して部屋から出ようとした。が、ドアノブに手をかけようとしたところで左肩をガッと掴まれる。

 

「おい待て元凶。一体何がどうなってんのか説明しろ」

「イヤァボクニモサッパリデス」

「明らかに原因となった火種はお前だろォが!嘘ついてないでとっとと消火作業に取り掛かれよ!」

「嘘は言ってない!俺だってなんでこうなったのか意味わかんねえよ!」

「あぁん!?お前何もわかってないのか!?私はおもしろそうだったから見てたがこれは予想外だ!つうか早くなんとかしろよ、ジャックダニエルが圧で割れちまうだろ!!」

「知るかつうか元はあんたが俺の方にも置いてるのが悪いんだろうがっていうか今おもしろそうとか言ったよなだったらあんたが取り掛かれよバカァ!!」

「よぉーしいいだろう、お前にグーパンだ!」

「待ってください二人とも!そこでまた別の喧嘩が起こったら本当に収拾がつかなくなります!」

 

M4からの必死な仲介でなんとか平静を取り戻す。そして未だに言い合いを続けている二人に目を向けた。

 

「というかどこからこの指示のことを知ったのよ!?」

「ふっふーん!戦うことだけが全てじゃない私はここのシステムもお手の物!あなたにはできないでしょうけどね!」

「だったら指揮官に報告しないといけないかしら!?演習から抜け出してこんな悪いことをしている猫が紛れているって!」

「あんな演習なんて、9一人でも十分よ!」

 

ちなみに、ここグリフィンの演習訓練は最近ローガンが考案したシチュエーションとランダム配置で行われている。内容は様々だがAR小隊で一番経験を積んで実力を兼ね揃えているM16も一人ではやや苦戦するほどのものである。とはいっても無茶なことをやらされるのではなく、あくまで基礎の応用に応用を重ねたものを二人でやるのである。そんな訓練を彼女とツーマンセルで組んでいる9は今も少し涙目になりながら「一人じゃ無理じゃないかなー!?」と叫んでたり。

『ふむ、そうか。あれじゃ簡単か』と現実逃避を図る男の頭を叩き、M16が状況説明を行い所々の補足をローガンが行った結果、以下のように纏まった。

演習訓練を終えた四人はまず自身の銃器などの整理を終えてシャワーを浴びた。そしてロッカールームからAR小隊の執務室に戻ったところ、ローガンがいないことに気付いたが、外出の字を見て納得しそれぞれで事務処理の前に一息を入れることとなった。AR15が自分の机の上を見てみたところ、一枚の書類が置かれていた。それを読んだ彼女は顔を赤くしたところで、どこかからか情報を嗅ぎ付けた404小隊の45が部屋に突貫してきたのである。

 

「……そんで現在に至るってことか」

「ああ、なんてこった……。ローガンも別に悪気があってやったことじゃないってんのに……」

 

部屋の隅で集合し、状況が掴めたことでローガンは遠い目になり、M16は頭を抱え始める。そう、誰も悪くはないのだ。ローガンだって業務的に知らせようと思って書類をAR15の机に置いただけであり、彼女はそれを普通にそれを読んだだけ。ただ、45が乱入してきただけで結局は二人には非はないのである。

 

「でもローガン、なんで二人が争っているのか分からないの?」

「行きたいのなら俺じゃなくてあいつらで行けよって思うぐらいだ……」

「え、わからないんですか?」

「……おん?違うのか?」

『…………………………………………………………………………………』

 

はてはて?とクエスチョンマークを頭の上に咲かせるローガンに少女たちは顔を見合わせる。複数人によるアイコンタクトが成立したのか、彼女達は一斉に溜息を吐いた。

なにがなにやらさっぱりの大馬鹿野郎はそこから二人の様子を窺うべくそーっと机の陰から覗き込む。体はまだ回復していないというのに、気分だけは作戦行動しているかのようだった。

 

「とにかくこのままじゃ埒が明かないわよ?だったらローガンに聞いてみるというのはどうかしら?」

 

大分言い争ったことにより肩で息をしている虎である45がいつものような余裕の笑顔を浮かべながらそのような提案をした瞬間、当人は『げっ!?』と声を漏らしそうになる。

 

「……いいわよそれで。ローガンならどう答えるのかを私は知っているけど、明確な根拠はないわ。だったら本人に聞くのがベストよね」

 

白い肌に汗を滲ませている龍の少女、AR15がそう口にする前からローガンはそろ~っと扉の方に向かっていたがそれを許さない存在が他にいる。

 

「取り押さえろぉおおおおおおおおおおお!!」

「おわぁあああああああああああああああ!?」

 

ドタタタタンッ!とこちらが怪我人なのもお構いなしに四人の人形達に地面に組み伏せられ、終いには四肢を固定した状態で立ち上がらせられる。実体はない磔にされた途端、窓際にいる二人はグルンッ!!と首を動かし目を光らせながらこちらにゆっくりと迫ってくる。……いい笑顔で。

 

「ね~ローガン♪怒らないから答えて欲しいな?」

「はっ、はい!?」

 

怪我をしてから最初にこちらの方に顔を出したあの時の最後にあったあのことが頭によぎり、今日まで自分の方から少し距離を置くようにしていたがそれもおかまいなしに彼女はこちらにスキンシップなどを取ってきていた。もし今回がこのようなことがなければいつもどおりこちらは少しおどおどしたようにしていたかもしれないのだが―――。

 

「ローガンは今回の新設された商業区、誰と行きたい?」

「え~っと、それはですね……い、行きたいとかでなく命令っていうか『仕事』ですので……」

「じゃあ『仕事』じゃなかったら……?」

「ジョブでなかったらですか!?」

「いいんだよ?私は本当に怒らないから、ね?行きたい誰かの名前を言ってくれればいいんだよ?別に私って言って欲しいわけじゃないんだけどね?」

「45さん顔が怖いッス!言ってることと顔に書いてあることが真逆すぎてバンビーさん漏れそうッス!」

「あっははははは♪ローガンったら、ジョークも面白いね~」

「ジョークのジョの字もないッス!!」

 

―――頭によぎらないほど、普段は使わない敬語になってしまうほど、獲物となった草食動物の気分となる。

 

「……正直に、何も隠さずに言ってねローガン」

 

45とは対照的に、静かであるがどこ熱を感じさせるようにAR15が笑顔を浮かべながらこちらに語り掛けてくる。今の身近で三本指に入るほど仲が良いと言える彼女であるが、これまでで迫力を感じさせるような怒った顔はあっても笑顔の方は見たことない。……あ、左脚を押さえてるSOPIIがまた震えだして涙目になってる。

 

「ローガンは、私と出掛けたいと思う?」

「え……ああ、仕事抜きであっても、感謝していることもあるし一度はって考えてはいる」

「……それも聞けて良かったと思うけど、今はそうじゃないの。そういうのも抜きにして今回はどうなの?」

「あれ、今の返答ダメなの!?わりとちゃんと答えたつもりなんだけども!でもいつも自分の席の向かい側にいる奴と行くのってお前はいいの!?」

「私はいいわよ?それにチームメイトと仲を深めるのもたまには必要なこととは思うから。それにローガンも『たまには外にゆったりと出てみたいな』とか言ってたわよね?」

「いい!?なんで誰にも聞かれてないと思ってたのに知られてんの!?つうか誰だよんな情報を流した奴!!」

「とにかく早く答えて頂戴?そうじゃないとこの間スプリングフィールドからもらったみたいだけど、コーヒーの元を全部湿らせちゃうわよ?」

「それシャレにならないからやめて!?あの人からもらえたコーヒー豆をいつでもすぐに飲めるようにこの間ようやく擂り潰したんだから勘弁してくれよ!!俺の机の上のジャックダニエルならいいから!!」

「おいちょっと待て!たしかにそこに置いてしまっているがお前にくれてやったわけじゃないぞ!!」

「いらないわよそんなの」

『そんなのって言いやがった!!』

 

SOPIIに釣られた様に好きな酒を『そんなの』呼ばわりされてM16も少し涙目になる。だが泣きたいのはローガンの方だ。

何せ部屋に戻ったら自分があずかり知らぬところで修羅場が発生しており、原因を探ってみれば二時間ぐらい前に渡された書類の内容と来た。ただ自分は『たまにはいいか』と考え、同行することになるAR15にも教える為にも置いただけ。ただそれだけだというのに、最近グリフィンに馴染み始めた404小隊の隊長の45が絡んできた。個人的に思うことはあるものの、彼女も年頃の少女としてモジュールが設定されており今後の為にもと考えるとわからなくはない。しかしそれはAR15も同じで、彼女にもローガンは感謝などの念を抱いていることは嘘偽りはない。

それらを差し引いても何だこれは。どうしてこんなことになっている、なんで彼女達は心底では真逆の感情を燻らせながら笑顔でこちらに詰め寄る?

 

「え~と、俺抜きで二人で行くという選択肢は……」

『あるわけないじゃない!』

「ですよね~…」

 

雰囲気でわかっていたことではあるが、実際に言われるまで下手な期待を持つよりもいっその事ぶった切ってもらった方がいい。

誰か何とかしてくれと胸中で叫ぶがそれが誰かに届くなど当然ない。むしろ自分が益々弱気になってしまうだけでマイナスになるだけだ。

まったく、なぜこう二人から攻められることに喜びを覚えることなどあるはずないのにこうも追いつめられているのだろうか。二人とも戦術人形ということもあるだろうが、どちらとも美人といっても誰も否定しない程の美形だというのに何故そこまで俺なんかに拘る?俺がお前にしてやれたことなんてあったかAR15。45にはハリーとの仲違いを直すように手伝うようにしたが、俺がお前さんにしてやれたことなんてあったか?逆になんでお前は俺に付き纏うんだ45。AR15ほど共にした時間はないが、お前とは仲は悪くはないどころか良いとは思うし信頼もしている。ああちくしょう、仲間として見ているのになぜその相手からこうも尋問まがいのことをされるのだろうか。俺の体を拘束している奴らを除いて三人で……三人で?……あ。

 

「……なあ、解決策になるかどうかはわからないけど、言っていいか?」

「ええ」

「うん、言ってみて」

 

ずずずいっと顔を寄せてくる二人に思いついたことをそのまま口にする。それを聞いた途端、二人はきょとんとした顔になり、隣にいる自分ではない相手と目線を合わせると火花を散らし始めた。

……こりゃあやっぱり、交渉するしかない。否、何が何でも許可させるしかないだろう。これは、自分を餌にし本部の方へと出張した彼への正当でささやかな報復である。

拘束が緩んだことで携帯端末を手にとりとある番号にかける。数回のコール音のあとに出た相手にローガンは言い放った。

 

「なあ、さっきもらった指示書のだけど、当日三人で行ってきちゃダメか?」

 

話は思ったよりすんなりと進み、許可が下りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――<ERROR>―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着ていく服が決まらなーい!」

 

出かけるのは三日後となったのはいいが、問題となったのは当日の服装だった。

なにせ根なし草の404小隊として帰るべき場所を持たずに戦場を放浪していた身だ。今は違っても戦闘において不必要なものは取捨選択で捨ててきていたので戦闘服として持っているいつもの黒と黄色を基本としたもの以外は持っていないと言っても間違っていなかった。最近はマーケットで流されているものでいいのがあったら購入してたりするが、それでも豊富とはいえない。だがこれらでも彼に見られたこともない筈であるため新鮮さはあるのかもしれない。それでも何事にも心配事というのはある。広い視野でもって戦場を俯瞰して突破口を見つけ成功させるために選択肢をできるだけ多くの用意する。今回は突破口というよりも目指したいことははっきりしている。選択肢も悩む必要もなくわかっているというのにそれに対する不安が大きいのである。

 

「んあ~……大丈夫だよ。何を着ても45姉ならローガンも『似合ってる』と言うに決まってるって」

「そんな確証は私にないのよ~……。ああもう、なんで今までこういうことに興味を持とうと思わなかったのかしら。色々と心配でたまらないわよ……」

「でも45姉、楽しそうな顔しているよ?少なくとも鉄血と戦っているような顔じゃないね」

 

昼間の演習訓練による疲労が最高潮に達したのか、ルームメイトであり寝間着姿でベッドに体を沈めている9が目を擦りながらそう言ってくる。45が鏡で見てみると、そこには9とは色違いの寝間着を着て立っている自分がいるのだが、その表情はどこか柔らかく思春期の女の子そのものを表すような笑顔であった。

 

「あれ……なんでだろ。感情モジュールの誤作動なのかな」

「きっとそうじゃないよ。45姉は心底から楽しみにしているよね?」

「え、ええそうね」

「ローガンが前に言ってたんだけど、『不安や心配事を抱えていたとしても人間は笑える時は笑うし、楽しみにしていることがあったらスキップするなり行動にも出る。それなら顔に出てくるのも全くおかしくはない。人間も人形もそこらへんは全く変わらないと思う』ってさ!」

 

そんなことを言ってたのか……と45は9が口にしたローガンの台詞を頭の中で反芻させる。

 

「まだローガン自身も確証が持ててはいないようだったけど、私は間違っていないと思うなぁ。45姉はどう?」

「……そうね。私の知る限りの人形製造の技術面を踏まえて考えたとしても、少なくとも的外れではないと思うわ」

「だったらそうなんだよ。45姉はローガンと一緒に過ごす時間を楽しみにしていて、今の過程も楽しんでいるんだよ」

「そう、なのかしら?」

「絶対そうだよ!」

 

満面の笑みでそう言ってくれる妹に彼女にも自然と笑みが生まれる。

いつも、この子は自分の後について来てくれた。404小隊として頃も、前の指揮官の元にいて彼が死んだ後の頃も。そしてまたこうして戻ってきて、ずっと416やG11よりも寄ってきてくれた。昔は使えるものであるならなんでも利用しており、それは同小隊の面子も同じだった。でも今は仲間としても、家族としても、本当の妹のように思えるこの子を命を賭しても守り通したいと本心から思える。

そんな妹が自分の為にここまで言ってくれたのだ。だったら何も疑うことはない。

 

「でも着ていく服があまりないと言うのはたしかに悩むところだね。私が持ってるのと合わせても選択肢は十行けばいいほうかな?」

「サイズの問題もあるしね。どうしようかしら……」

「ねえ、前日は45姉はオフなんでしょ?私もそうだからちょっと一緒にマーケットとかに行こうよ」

「いいの?私にそこまで時間を割いてくれなくてもいいのよ?」

「家族なんだからこれぐらい当たり前だよ!それに私と45姉の感性は少し違うんだし、一人じゃ見えないものがわかったりするかもよ?」

「……そうね。じゃあお願いしようかしら?」

「任せて!それとそこにさ、美味しいアイスクリーム屋さんがあるからさ!」

「ふふっ、いいわよ。その時は私が奢るわ」

「やったぁ!」

 

眠気もどこへやら、ピョンピョンとベッドの上で跳ねる9を注意した45は開けていたタンスを閉じ自分のベッドに腰掛ける。

グリフィンに来て半月強経った今、過去に肩を並べていた人形達が自分達のことを覚えていないことに胸の痛みを感じていたりもしていたが今ではそれもなくなりつつある。それに以前よりも強い繋がりも小隊内にも外にもできた。絶対にこの繋がりを、気持ちを、無かったことにしたくないし無くしたくない。

誰かに簡単に明かすことが出来ないこの想いは、現代指揮官のハリーに対するものとは違う。

彼はどうなのだろうか。

そう一人の青年を想い、45は復活した9と談笑しながら外の満月を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――☆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼間の騒動があったその日の夜。私は自室のクローゼットから何着かの衣服を引っ張り出していた。

今の季節を考えるとこういう色合いの……いや、これでは少々派手ではないだろうか。彼はこういった明るい色よりも暗色系の方を好む傾向もあるし幾分それも考えるべきだろうか。それでも私にもお洒落な服を着たいという欲もある。普段はあまり変わり映えのしない上着とワンピースによる服装なので偶にはこういったのもいい。戦う場に立つのであれば、見た目よりも機能性の事を重視して考えなければならないのだから。

そこまで考えていてふと、鏡に映った下着姿の自分の体を観察してみる。

……お世辞にも、男性が悦ぶような体つきではないことは確かだ。いや、豊満な女性を好む男性がいれば、逆に私のような体型の女性を選ぶ人もいることは知ってはいる。それでも自信というのが沸いてこない。ローガンがどのような好みなのかも特に知らないからだ。食べ物で辛い物が好きだというのは知ってはいても、異性についてはどうなのかとはさすがに聞けない。あまりにもハードルが高すぎる……。昼間の時のような体の奥底で燃えるような怒りがあれば違っただろうが、後々になって冷静になった私ではとてもじゃないが無理だ。

さて、大事ではあるが今は重要ではない、一旦そのことは置いておこう。

どうしたものかと私が考えていると、部屋の扉が開かれる。ノックなしで入ってくるのは一人だけなので特に今の姿を隠す必要はない。

 

「AR15、お風呂……まだ悩んでたのね」

「……ええ。あんたがあがったのなら私ももう入るわ」

 

またあとで考えよう、そう思い部屋から出ても恥ずかしくないようにいつものワンピースにもう一度袖を通し、寝間着などの必要なものを揃えてクローゼットから出していた幾つかの服をハンガーに通して戻した。

そこまでやってさて行こうと、視線を上げると椅子に腰かけたM4がこちらを微笑ましそうに見ていた。

 

「……なに?」

「うーうん……AR15も大分感情豊かになってきたなって思って」

「何言っているのよ。私はいつも冷静よ?」

「任務の時はね。でもローガンさんのことになると人が変わったようになるなって思うのよ」

「そんなことないわ。ローガンはいつも自分のことを隠そうとするから、ああでもしないと本音を引き出せないのよ」

「素直じゃないわね」

 

なにがおかしいのか、クスクスと―――嘲笑などではない―――おかしそうに笑うと彼女は椅子から立ち上がると後ろ手に組みながら窓へと歩いていき、そこから見える満月を見上げる。

 

「ねえ、AR15。前の指揮官の事、どういう事を覚えてる?」

 

少し憂いが込められたその声色によって紡がれた台詞に私は記憶に残ってる出来事を引っ張り出す。印象に残ってたのは―――。

 

「……私達に、AR小隊全員に歓迎会を開いてくれたことかしら」

「うん、私もそう。だからさ、これだけは言わせて」

 

振り返った彼女は微笑みながらこちらに振り返る。その顔は私だけが知っている、何かの痛みを我慢している時の笑顔だ。でもその痛みの正体を、私は知っている。

 

「後悔がないように、ありのままの自分をいずれは彼に見せてあげてね」

 

あの時、指揮官が亡くなったこの友はどれほどの胸の痛みを味合わされただろうか。どれほどの無力感に打ちひしがれそうになったのだろうか。少なくとも、私が感じていたのよりは段違いに上だったに違いない。

それに、ある時に彼との会話で言われた言葉がふと頭に蘇ることがある。

『君が心を許せる相手を、全てを委ねても構わないと思える誰かをいつかは見つけなさい』。それがどういう意味だったのか、今ならなんとなくわかる。でもそれは言葉通りでの意味であってそこに秘められているそれはまだわからない。いつも表面だけでなく裏側にもなにかしらかの意味を持たせていた彼のことだ。きっと、なにかある。

でもそれは今は構わない。考えるよりも先にこうしなくてはならない。

私は腕に抱えていた寝間着などをベッドに置くと、前にローガンが45としていたように額をM4のと合わせる。

そして呆気にとられている彼女に私はこう言ってやる。

 

「うん。ありがとう、『親友』」

「……どういたしまして」

 

お互い照れくさくなって笑い合う。昔ならこんなことは絶対しなかったしこうして彼女と笑う事なんて決してなかった。彼が亡くなって二十年経った今、私達も人間達のように変わった。それが良いのか悪いのかと聞かれたらわからない。感情モジュールなどという、戦いでは不要に思えるこの機能。ローガンが泣き崩れてしまいそうになったあの時のような痛みを、そして今親友が感じているそれを理解できるのであれば絶対に悪い筈がない。だったら、こうして私達も変われたことには享受すべきことの筈だ。

彼に話せばきっとわかってくれるだろう。なぜなら、指揮官と共に私達のことを対等と共に思ってくれているのだから。

私は親友に行先を伝えて部屋を後にする。そして三日後にあるイベントに胸を躍らせていた。




いつからこんな欲張りになったのかな私。これまでで投稿してきた作品を読み返したりして見て反省点などをある程度洗い出していたのですが、他の方の作品とも比較して良いところを全部取り入れようと躍起になっている私がいるのです。無理とは言わないけど、それじゃ精神的にやっていけないぞ~私。
前回の後書きで通知しました通り、今回から日常的なお話を投稿することにしました。ただ色々なことの練習も兼ねてしばらく続きそうです。それでも時々シリアスを織り交ぜて雰囲気を忘れないようには心がけているようにはしています。
ちなみに今回の前半で説明させてもらいました、マークスマンライフルともDMRとも言われている銃を私も改めて調べてみました。これまではFPSなどのゲームの関連で少しの知識しかなかったのですが、中々面白い銃ですね。本文ではコッキングと呼ばせてもらっているボルトアクションがないので目標が多数でも対応できるという風に理解して『ほ~ん』と間抜けな声が出てしまいましたが(笑)
私自身はゲームの知識でしか身に着けてないのでガンマニアではないので、当たり前のことではありますが今後はネットとか調べ、ある程度自分で噛み砕いたことを文に転写致しますので誤りがあった際にはご容赦ください。
では今回はこの辺で。
ではでは―――

『ローガン は 一息で喋る を 覚えた !』
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