誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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お嬢さん方の服装が難しかった……


14.カラースクリーン -I`m scared, ladies-

しぶとく残っていた残暑もなくなり、晴れ渡る空に季節が移ったことを知らせる秋風。青空を見上げてみれば雲も小さいのがちらほらと見える程度で今日一日の天候は変わらないことを知らせている。

 

「……晴れたなぁ」

 

ローガンは手を目の前にかざし、そう呟く。彼自身もその台詞に特に意図はない。ただそうなったことを、自分が何もせずに結果が生まれたことのように言っただけであって決して悪意はないのだ。

正直なところ、話が決まった時には悪天候になったりと少々期待してたりしたのだが、それでは彼女達には悪いと考え、前日のうちに事務処理を行いながら覚悟を密かに固めていた。なにせ、鉄血と戦う方がマシではないかと思えるほどのあのような場に出くわしてしまったのだ。いや、出くわしたというのは語弊があり生み出してしまった一因は自分にあることはなんとなくわかっている。そうだとしても、自分が被害者側であるような気がしてならない。

そう思いながらも左手首につけた腕時計を確認する。時刻は二人と待ち合わせの時間の午前十時の十分と少し前である。当日は商業区の北と南ゲートのうちの南側の方に現地集合になっている。

そして自分の服装を改めて確認。青と黒のストライブのベストに白の長袖のシャツ、黒のジーンズという私服に着替えたローガンは随分久しぶりの服に『こういうもんだったけか?』と首を傾げた。もとより二人から『自分達はお洒落していくのだからそっちもして』と釘を刺されていたため、グランドの地区の地域住民たちが贈ってくれた最近のを引っ張り出したのである。もらった直後に試しに袖を通したのが最後で、それ以降は着る機会がなかった。普段グリフィンの基地内にいるときは楽な服装で、ということでラフな感じのものだったのでいきなりこういうのを着ると落ち着かない。

それに戦術人形であっても、AR15とUMP45という二人はローガンにとっても友人としての仲を切ることを躊躇う存在だ。義務感や使命感というわけではないが、あの二人が視察というのを抜きにしても楽しんでほしいと本心から思う。それを成すのが今回自分の役目でもあるのかもしれないが。

最初はどうしたものかな、とゲートで配られていたパンフレットを開いてみてある程度の情報を頭に入れていると、誰かが自分の目の前に立ったことによる気配を感じ目線を上げるとそこには後ろ手に組んで笑みを浮かべている少女がいる。人混みが背景になっているのにも関わらず、その少女は映えて見えた。

 

「やっ、ローガン♪月並みだけど待たせちゃった?」

「別に待っちゃいねえさ、45。俺が着いたのもそんなに経っちゃいない」

「そこは普通に『俺もさっき来たところ』って言って欲しいわね」

「そんな典型的なコミックの展開にもって行ってたまるか。俺からすれば誰かとのんびりぶらりと出掛けるのは初めてなんだから勘弁してくれよ」

「あら、ローガンってこうして外出するのは初めてなの?てっきりオフの日でもマーケットに誰かと出掛けたことでもあるのだと思ってたわ」

「そうだぞー。男としては情けないが、こういうのは不得手なんだ。初めて来るところだし一緒に手探りで頼む」

「そっか。じゃあ今日は一緒に楽しむとして……AR15は?」

 

45とは合流したが、もう一人の同行人のAR15がまだである。腕時計で時間を確認してみると所定の時刻は過ぎてしまっている。几帳面で真面目な彼女が遅れるというのは珍しいなとローガンは思うが、ふと頭によぎったことがあるので尋ねてみる。

 

「45、お前を信用していないわけではないが一応聞いておく。なんかあいつ関係ので細工はしてないよな?」

「そんなことはしてないわよ、ローガン。私だってやっていいことといけないことは弁えているつもりよ。命のやり取りをする戦場ではともかく、こういう機会にそんなつまらないことはしないわよ」

 

それに正々堂々と勝ちたいしね、と本人の小さい呟きは周囲の話し声や足音などによって掻き消えてローガンには聞こえなかったが、本人が知りたいことは聞けた。とにかく自分の知る限りで最悪なことになってなければいいが、今のご時世では何が起こるのかはわからない。グリフィンではないが、とあるPMCの組織層の中では上位に位置する人物が私用で外出したら護衛がいたのにも拘らず暗殺されるというのは時折耳にする話だ。戦術人形であるAR15でも幾分起きることはあまり考えられないがあり得ない話ではないだろう。

もう少し待って来ない上になにも音沙汰無ければ連絡寄越した方がいいだろうかと思った時だった。目の前で川のように流れている人混みをかき分けるように、潜り抜けるように、誰かが悪戦苦闘しているのが見える。その人物はできるだけ不和などが起きないように心がけており、人の隙間という隙間をすり抜けようとしてはいるがなかなかできていない。そしてその少女の髪色や背格好が一瞬見え、ローガンは誰なのかを確信する。

 

「……ローガン」

「……45、ちょっと待っててくれ」

 

彼の視線の先に気付いた45は『仕方ないわね……』とため息混じりに言うとひらひらと手を振って早く済ませるように言葉でなく伝えてくる。近づいてみると激しくはないものの水流とは違って抗いがたい人の流れにやや慄くような気持ちになるが、そのような一時の感情に流されるわけにはいかない。

 

「よっと……!」

 

少し無理やりではあるが自分の半身を濁流に突っ込ませる。そして手を伸ばして立ち往生するしかなくなった少女の手を掴みこちらに引き寄せる。少女は掴まれたことに反応し抵抗するような素振りを一瞬見せたが、こちらのことを確認できたのか掴まれている手をすぐに剥がすようなアクションをやめた。

 

「痛っつ……!」

 

誰かの肘が治療中の箇所に当たってしまったのか、すぐに『ごめんなさい』と謝る声が聞こえてくるが一旦痛みと共に無視して引き上げた。そしてそのままゲートの方に向かい、アーチの根本で待ち続けてくれていた45のところまで一緒に向かう。ふぅ……、と一息をつき掴んでいた右手を離した。

 

「……遅刻よ、AR15」

「ごめんなさい。でも45、あなたが先に来てたのね」

「時間厳守とは言っては無かったけど、それでも守るようにするのは当たり前じゃない?」

「やめろ45。こんなところでピリピリするなよ。それにこんな状況じゃ仕方ないさ」

 

人の川に飲まれて動けなくなっていたのはAR15だった。少々刺々しい45の台詞に言い返すことなく彼女は乱れた髪を手串で整える。ローガンはそれを見てからさきほど少しだけ身を投じた方に目を向けてみる。

新設された商業区、というよりも昔でいうのならデカいデパートやショッピングモールだ。グリフィンにまで報告で来るほどの賑わいを生み出していることを考えれば、現地集合ではなく少し離れたところで集まり、それからここに足を踏み入れるように考えた方がよかったのかもしれない。

 

「それよかお二人さん、言ってた通りおめかししてきたんだな。改めて見てみてもAR15も45も似合ってるじゃないか」

 

先に来た45の服装は裾と襟元を黒く縁どられたシャツに白と黒のチェック柄の薄手で長袖の上着を着ており、ジーンズ生地のデニムスカートから伸びたニーソックスで包まれた脚まで見てみても年頃の女子らしい服装を意識していることを思わせる。左目の傷も少し化粧をしているのか、目を凝らさなければ見えない程度になっている。

今しがた到着したAR15の方は柔らかい印象を抱かせる白のニットに膝下までの赤のロングスカート、いつものように髪飾りでワンサイドアップにしておらず頭の方にはカジュアルな茶色のキャスケット帽子がのっており、45とはベクトルの違う見た目相応の服装である。それに片方の手首にはブレスレットもつけており細部にもこだわっているのが窺える。

 

「……うん、お前さん方がそう気合い入れてたんだとすると申し訳ないな、俺」

 

手を抜いたわけではないが、二人のように考え続けた結果と言うわけではない。ただ単に以前こういう組み合わせだといいぞ、と言われたのを思い出し実践しただけである。お互いにライバルをチェックした二人はローガンに目線を向け、同時に『あ~……』という反応になる。まあ、ある程度予想できていた反応だった。

 

「言葉にしていいのなら言うけど……」

「なんというか……普通よね」

「ですよね~……でもシンプルイズベストっていうじゃないですか」

「でも服装だけに限らずシンプルすぎて困ることもない?」

「男の人の服装はこういう場だとそこまで派手にしない方がいいだろうし間違いではないのは確かだけど……」

「まあ気にしないでくれ。俺よかお二方が映える方がいいだろうしな」

 

ローガンからすれば二人とも容姿端麗、羞月閉花で一緒にいるこちらが恥ずかしく思えてしまう。現に通りかかる人の男性の多くは二人に視線を釘づけにされており、別の誰かにぶつかるか同行人に注意されるかど突かれたりして我に返ってる。

 

「ローガン。さっきはありがとう、本当に助かったわ」

「気にすんなよ。あんなんじゃ遅れたって本当に仕方ないし全然許せるよ。それよか怪我も何もなくて何よりだ」

「ていうかローガン。わざとではなかったようだけど、さっき怪我してるところにぶつかられたけど大丈夫なの?」

 

後ろから見ていた45なら見えていたのだろう。ワシントンD.Cでの戦いによる傷が残っているなかで、一番酷いのが背中全体だった。打撲で済んだだけ奇跡だが、強烈に二回も打ち付けたこともあって治りもあまり早くない。徐々に良くなってはいるものの、それでも動かしたりするのは気を遣わなければならなかった。404小隊が特に気にしているのがローガンでもわかる。45はもちろん、9も一日に一回は顔を見せに来て調子はどうかと尋ねてくる。今は軽く突いてくるが、まだ病室から出たばかりの頃は影を落とした顔で触れることもしなかったのである。所々で良い意味で彼女らしくない、短い時間の間でも気遣ってくれたのを覚えている。416は演習訓練の様子を見に来てるローガンを見かけると怪我の容態を自分の目で確かめようとして来る。それで一回は逆セクハラのような事態になりかけたが、一部始終を見ていたウェルロッドがハリーに説明してくれたりして事なきを得た。だがそれからも彼女は時間があればチェックを行い、自分ができる範囲で治療できる箇所はないか探している。『私は完璧なんだから……ちゃんと診てあげないと』とうわ言のように言ってた彼女は負い目を感じているのかもしれない。しかし小隊の中でローガンに対して負い目を一番感じているのはG11だった。マンティコアとの戦いで怪我を許してしまったのみならず、イントゥルーダーとの交戦では危機回避となる援護はできても、明確なダメージを負わせる射撃はできなかったのである。さらに自分は戦闘の最中で脚を負傷し、動けなくなり援護射撃もできない状態へとなってしまったのである。そのため普段は眠そうな目を擦りながらこちらに近寄ってくるのが、今は会う度にとてもすまなそうにしており『……大丈夫?』と聞いてくるのだ。さすがにもう大丈夫になってきてると伝えても彼女の表情は全く晴れない。大事というわけではないが、今ローガンのことをやや悩ませていた。

 

「まあ、大丈夫だよ。いざという時はちょっと休ませてくれればいいからさ」

「その時は遠慮なく言って、ローガン。あなたも大分無茶を重ねてるし、矯正という意味で自分を見つめ直すことも必要よ」

「まるでカウセリングの先生みたいだな」

「なら先生って言ってくれていいわよ?」

 

ふふっと笑うAR15にローガンは『冗談だろ?』と返す。

 

「さて、と。立ち話を長々とやってちゃ時間の無駄だし行くとしようか」

 

新設された商業区というか、新たなショッピングモールは今だと滅多に見ない盛況っぷりだ。人口密度も高く、銃弾が飛び交う戦場がどこでも起こっている殺伐とした現代でもこれだけの人達が生き残っている。その人達が顔を輝かせているのだから決して悪いところではないはずだ。忘れてはならないが、今回は仕事も兼ねてはいる。だが楽しまなきゃ損だろう。

ローガンが動き始めると少女達も横に並ぶ。そして歩きながら三人で会話、というより真ん中にいる彼を取り合うように結果的に二人が交互に違う会話の内容を始め、時折二人が火花を散らす。

前途多難じゃねえのかこれ……と思わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飲食だけでなく服、アクセサリーなどの様々な身に着ける物品が売られているなかで男子禁制のエリアに二人が入っていったのを見送り、近くにあるベンチに腰を下ろす。そしてこれまでで購入した物が入った袋と一緒に自分も腰を下ろして一息をつく。

ここまでで色々と歩いた。まずは適当に歩いていき、目についた何かがあれば三人全員でそちらに寄ってみて見物。そして気に入れば購入していくなどして今の時間帯は昼食前になる。

最初はローガンを挟んで睨みあっていた二人だったが、買った服などの装飾品が入った袋を持った途端に怪我をして療養している彼に任せるのは心苦しいと言ってからはそれなりに打ち解けている友人同士のように各店を回っている。荷物を持つのにあたってはローガンとしては男として任されて欲しかったのだが。

 

「……まあ、いいか」

 

吹き抜けになっている空を見上げ、そこから見える太陽に片手を翳してみる。燦々とした日光が掌を焼くが決して苦痛を与えるものではない。今の季節だと若干温かみを感じる、夏のようにうだるような熱さとは違う。

前にこうして戦場から、または関係がないような場所にまで来て空を見上げたのはいつだっただろうか。もうそれも思い出せない。たった二カ月ほどでで色々なことがあるどころかありすぎた。苦痛に満ちたこともあれば安らぎや喜びを感じたこともあるがそれが良い事なのか悪い事なのかもわからない。甘えるわけではないが幾分疲弊してはいるのかもしれない。

 

「矯正……自分の見つめ直し……か……」

 

ここに三人で来てAR15が最初に言ってたことを思い出す。グランドにいた頃の自分を彼女はどう見ていたのだろうか。最初は単に相棒を囮に背後から忍び寄ってM16と一緒に形だけの拘束を行い、後で見返りを求められる代わりに共同戦線を張ってその時の同僚を助けた。とは言っても、その時は頭が空っぽの司令官による巻き添えを食らい、気を失ってしまったのだが。

知りたいのであれば直接聞けばいい事なのだろうが、さすがに面向かってそんなことを聞くほどの胆力をローガンは持ち合わせてはいない。むしろ、恐怖さえ覚えることもある。

やれやれ、と溜息を吐いた時だった。サイドバックに入れていた携帯端末が震え、メールが来たことを知らせてきた。何かと思い取り出して操作してみると、今回の仕事の指示を出した指揮官のハリーからのメッセージだった。

『楽しんでいるかな?―――』

 

「……おーう、色んな意味でな~」

 

最初の一文に何故だか腹が立ったがその後もまだ続いている。ここで端末を投げるのは愚の骨頂だろう。

タッチスクリーンを操作し、三次元的に浮き上がる文面をさらに表示させる。

『―――とは言っても君にそこまでの余裕があるかどうかも怪しいからね。できるだけ精神的に休んで欲しいと思ったんだけど、まさか45が嗅ぎ付けるとはね。この前の電話でも言ったけど謝るよ―――』

まあそういうつもりで指示を寄越したんだろうなとは思っていたのである。

先日AR15がいつの日かぼやいていたローガンの独り言の内容を口にしていたが、情報だけでなく電子戦にも強い45が知らなかったことを嗅ぎ付けることのできる存在というと、ローガンからすればハリーしかいなかった。彼自身が明かしたが、自分の持っている情報処理と収集の技術はまだ少年期であった頃に45から教わったものだったという。まだその頃は指揮官として働いていた自分の父親の仕事のことに対する好奇心への抑えが利かなかったため、直接目的の情報を教えてもらうのではなく知るための手段を教わるということだった。何とも遠回りな、と思うがローガンからすれば生き残る手段の一つをまだ十代前半で身に着けたことに驚いた。それを言ったら、ナイフ一本で戦ってた君に言われたくないよと呆れられたが。

そこからは以下のようになっていた。

『―――それで君に連絡だけど、僕としては望ましくなく本部での用事が長引いてまだこっちに残ることになったんだ。スオミにはもう話を通しておいたけど、あの子は本来ならやらなくていいことまでやっちゃうから心配なんだ。だから今日の外出が終わってからの明日からは様子を見てやってほしいんだ。彼女が危うかったりしたら止めて欲しい』

 

「……送信っと」

 

とりあえず了解の旨を記してからはそれからはなんてことのない、ここまでで逢ったことをかいつまんで簡単に報告し、最後には『体には気をつけろよ』と締めくくり返信。『送信完了』と表示されたら端末を元のバックに戻すとタイミングよくAR15達が戻ってきた。

 

「おーう、お気に召すものはあったか?」

「私はね。でもAR15は恥ずかしがって無難なものしか選ばなかったわ」

「あんなの選べるわけないじゃない!布面積が圧倒的に足りなすぎるわよ!」

「だからっていつまでも地団駄踏んでちゃ意味ないでしょ。鈍感にして堅物のこんなだもん」

 

こちらをじろりという擬音が似合うような目線で45が見てくるのに合わせ、顔を赤くしているAR15がちらりと彼女に合わせて目を合わせてくる。『おん?』と首を傾げる阿呆に二人は向かい合って溜息を吐いた。

 

「……ねえローガン。私達人形に限らず、女性が下着を選ぶのに何を重視すると思う?」

「男の俺にそれを聞くのかね?」

「うん。ここは違ったけど、他だと男の人も店内に入ってたりするわよ?」

 

45による剛速球どころかデッドボール寸前の内角の球にローガンはバッドを振らずに避けることしかできない。先程二人が入っていったのは女性用下着を販売している店舗だった。彼女ら曰く、店の前に看板で『男性の方はご来店をお断りしています』と事務的に知らせる店は珍しいと言うが、人混みの多い場にあまり来ることのないローガンにはわからない。

『性別・男 特性・公共の場においてほぼ無知』というステータスを抱える冒険者にパーティメンバーの笑顔と一緒に来る同士討ちは止まらない。

 

「それで、ローガンはどう考えてる?」

「……小耳に挟んだりしてるけど、機能性だけじゃなくて色とかデザインにも拘るって聞いたことがある。それじゃないのか?」

「う~ん……まあ間違ってはいないわね。でも正解ではないわね」

「ていうか俺が言うのも何だが、公共の場で下着の話なんてするもんじゃなくないか?」

「大丈夫よ。全員がこっちの話に耳を傾けてるわけじゃないんだから恥ずかしくもなんともないでしょ?」

「いやそうだろうけどだからといってオールオーケーになるわけないだろ?羞恥心ビンビンで俺はここに居づらいんですけど」

 

冒険者が周りを見渡してみれば周囲を行きかう人達の中でこちらに怪訝そうに視線を向ける村人たちがちらほらと見受けられる。人間だとか人形も多少関係あるのかもしれないが、男性でも女性にも恥ずかしく感じることにも個人差というのはある。同性でも差があるのだから間違いはない筈である。

だから45は平然と話してはいるがローガンからすれば自分が話しているわけではないのに居づらい気分になる。その辺の認識はAR15も同じなのか落ち着かないように見える。

 

「私がどんなの買ったって、誰も気にしないわよ」

 

んなわけないだろ!と胸中で叫ぶ。ローガンも周囲の男性諸君も45は顔が整っている認識ではある。彼女の性格をよく知らない人からすればどのような下着を身に着けているのか興味を持ってしまっても如何せん仕方ない。ローガンも男であるため、全く気にならないと言ったら嘘になる。

そんな考えを見越してか、にまにまとした笑顔を見た瞬間ハメられたと気付いた。

 

「あらら♪ローガンはどんなのを想像したのかしら?」

「お前な……戦術人形でも多少は慎みってのを持てよ。こっちだけが精神攻撃受けるんじゃ納得できねえよ……」

「いいじゃない♪それで、どうなのよ?」

「だからよ……」

 

言わんとしていることも会話の流れから察し、ローガンは嘆息する。自分にそのようなことに対する耐性がないからでもあるだろうが突飛すぎるだろう。せめて密かに考えさせる程度にしてほしいと思う。

それにしても、出会ったばかりの頃には想像できないことになったなとしみじみ思う。戦場で出会ったこの人形と今では硝煙の臭いや銃声もない場所に仕事ついでに遊びに来ているのだ。服も黒と黄色、白とグレーの戦闘服から青と白黒の私服を着ているのだ。人と出会うとどうしても初対面のイメージが先行してしまうことになるが、今となっては当時の凍てついた記憶が脳裏にチラつくことがあまりない。小悪魔のような悪戯をするようになったのも打ち解けたことによる変化ではあるだろう。それでもやはり変わらない物はある。例えばイメージカラー。性格面もそうだが404小隊の詳細も人形からすれば注意すべきものだろう。45がその小隊の隊長であるのだから、要注意すべきことだ。それらからするとローガンからすれば彼女のイメージカラーは警告色の黒と黄色である。それにどこか一貫している部分を持つ45のことだ。となると下着の色は……はっ!?

気付いた瞬間には時既に遅し。ローガンが我に帰った時には45の笑みはさらに深いものとなり、後ろ手に組んで前かがみの状態で覗き込むように近付いてきていた。

 

「あれれ~?なんだか顔が赤いよローガン~♪」

「おまっ、ここまで織り込み済みだったのかよ!?」

「ローガンの事だもの♪きっと深く別のことを考えているうちに無意識に行くんじゃないかと思ったのよ」

「どちくしょう、モロに術中に嵌っちまった……!」

「それでそれで?どういうのを想像したのよ?教えてよローガンっ♪」

「なんでそんなにウキウキしてんの!?俺弄ることにどういう楽しみを見出してるんですかねぇ!?」

 

45の猛攻にローガンはたじろぐことしかできない。風前の灯火というわけではないが、ライオンや豹によって壁際に追いつめられた鹿になった気分だった。

じりじりと距離を詰めてくる45からふと横に視点をスライドさせるとAR15がいるのだが、彼女は彼女で何やら不機嫌そうにジト目でこちらを見ていた。

 

「……変態」

「小声で言わないでもらえます!?普通に言われるよりも精神的に来ますことよ!?」

「いいじゃない。世の中の男性は全員がそうだって言うんだし今更でしょ?それともローガンは異性に興味がない口?」

「ちくしょう!ツッコミどころだけどここで否定したら特殊な性癖を持つ奴が寄ってくるからできねえ!」

「あら、やっぱりローガンはそうだったのね。見損なったわ」

 

グサグサッ!とハートに銃弾どころか投擲されたナイフが何本も突き刺さり、その場で項垂れたローガンを45が腹を抱えて笑い始める。AR15はぷいっと顔を背けてしまい、この場で自分の味方となる人物はいないことを悟らざるを得なかった。

ちなみに、AR15に対してのイメージカラーは白や桃色、または冷静なこともあるので瞳と同じようなブルーであるとローガンは後日語ったという。したがって彼女の……おっと、これ以上はいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気を取り直して店をまた回る前に、昼食をとることになった三人はフードコートの一角にあって他よりも大きくスペースが設けられているファミレスに足を運んでいた。

それぞれでメニューから頼む料理を決め、カウンターで受け取った三人はファミリー用の丸テーブルの方へと向かい、それぞれ注文した料理がのったトレーを置いて食事を会話しながら取る。

ローガンは注文したビーフカレーを口に運んでみると、食べやすい大きさに切られた牛肉と野菜の食感とカレー特有のスパイシーで刺激的な辛味が味覚を刺激する。辛さの方は中辛を選択したのだが、おそらく正解だっただろう。ローガンはどちらかというと辛党なのではあるのだが、そこまで経験があるわけではない。中辛でも汗が軽く出てくるのだから辛口ならともかく、激辛など数口が限界だ。

しかし辛味の中に確かな旨味があるわけで、牛などの培養肉などではなく、実際に牛から直接加工した牛肉の美味しさに感動さえ覚える。

 

「うまいな……」

 

グリフィンでも滅多に食すことのできない牛肉に食欲が先行しそうになるが、夢中でがっつくわけにはいかないよなと考えたローガンが皿から目線を上げると、二人の視線がこちらに釘づけになっているのに気付いた。正確に言えば自分自身ではなく、皿の上のカレーライスである。

 

「欲しいのか?」

「……別に」

 

下着云々の下りからあまり会話しなくなったAR15がぷいっとまた顔を背ける度にローガンは嘆息してしまう。後々になって考えてみれば、部分的にだけでも否定すれば良かっただけなのだが、今更何を言っても効果があるとは思えない。

どうしたものかな、と頭を掻いていると、45が自分のカルボナーラをくるくるとフォークで巻いた状態でこちらに差し出していた。

 

「一口だけ取り換えっこしましょうローガン。そっちも一口頂戴」

 

こちらが頷くと、45はさらに差し出したフォークの先をさらに突き出してくる。『おん?』と思ったローガンに決定的な一言が耳に飛び込んでくる。

 

「あーん♪」

 

んぅ!?と隣にいるもう一人の少女が呻くが、そこまでに気付くことはできなかった。

こちらが何かを言おうと口を開こうとしたが、45は顔を赤くしながらも笑顔を浮かべながら小首を傾げてくる。

まあいいか……と思い、彼女が差し出した料理を体を前に乗り出して咥える。途端に口の中に広がるのはパスタにはあまりないモチモチとした食感だった。ローガンはあまりパスタを食べないのだが、それでも牛乳などの乳製品が上質であるのに加えて、カレーを食べてた影響もあってか一層感じるまろやかな味を感じた。

 

「……へえ、この店のパスタも美味いんだな」

「でしょ?それじゃ、そっちのカレーも一口頂戴?」

 

45が自分から一口をくれたのだ。だったらこっちも同じようにしてやるべきなのかもしれない。現に彼女はニコニコ顔でいるわけだし、先程の下着の件よりも多少は羞恥心が働かない。下手に加速するよりも早く済ませてしまいあまり考えないのが吉だろう。

そう考えたローガンは一口を掬い取り、45の方にまで持っていく。

 

「……♪」

 

パクッとスプーンに食いつき、自分の口の中にカレーを滑り込ませると味わうように咀嚼している。やはり辛いのか飲み込んだ後でヒーヒーというかのように口の中に風を送り込むように手で仰ぎ始めた。

 

「は~、このカレー辛いわね。これ全部食べれるのローガン?」

「まあ大丈夫だろ。たしかに他の店とかの中辛カレーよりも辛いが食べれないことはないしな」

 

そう言いつつまたカレーをスプーンにのせると再び口の中に運ぶ。45もまた一口カルボナーラを口に入れると食事中だというのにルンルン気分の様子で再開した。

とそこまできたところでようやく喉のつっかえがどうにかなったのか、AR15が自分の水が入っていたコップを置いて一息ついていた。

 

「……大丈夫かよ?」

 

そう言って彼女のコップに水を注いでやり、元の位置に置いておく。はー……はー……と俯いて息をしていたところからAR15はジロリと顔を上げてローガンの方を睨んできた。

 

「ローガン!私にも一口もらえるかしら!?」

「お、おう?別に欲しいならいいけども」

 

その謎の気迫に押され、ローガンはカレーを掬ったところで一瞬動きが止まる。

もう過ぎたことで45にしてやったりされたりとしたが、彼女のフォークと自分のスプーン。もうそれぞれの料理の一口目を食べる為に既に使用したわけで、そしてそれをお互いに食べさせるために使ったわけで……。

 

「…………………………………………………」

「……ローガン?」

 

……考えないことにしたローガンはそのスプーンをAR15の方に向ける。そしてそのまま静止していると向こうも察したのか、頬を赤らめて口を開く。

 

「あ、あーん……」

 

そのままAR15の口の中にスプーンの先は消え、やがてのっていたカレーが消えた状態で出てくる。彼女がもぐもぐと口を動かしているが、ローガンは手に持っているスプーンをあまり見ずにカレーを掬って自分も食事を再開する。

そういう事を意識してしまったのであれば、店員に言って替えてもらうべきだっただろう。だがこのご時世、銀食器も貴重になってきているのでプラスチックの使い捨てのスプーンを使っている飲食店がほとんどである。しかもそこまで数も多くない為、ローガンとしても他意はないが渡された一つのスプーンを使い続けるしかなかった。

テーブル右側にいる45が無心で食べ続けているローガンをニヤニヤと見ているが、そのことに突っ込めば傷を最小で済ませようとしているこちらが本格的な火傷を負うことになってしまう。気付いてはいるが本来のペースで振る舞おうものなら痛手を回避できないので無視することにした。

とはいっても、視線を向けてきていた二人にカレーを食べさせてあげることはできた。これならもうこの場で考えることを放棄していれば特に何も問題はない。

だが、ローガンには一つ失念していたことがあった。彼女は言ってはいなかったものの、もちろん食べさせてもらったことに対するお返しというのはあるのであって―――。

 

「ローガン、あーん……」

 

―――無論、AR15からも彼女が食べていたミートソースドリアを食べさせてもらえるのである。

 

「ですよね、いや別に誰が悪いわけじゃないんだけどなんだよこの憤り……!」

「ほらほらローガン♪せっかく食べさせてもらえるのだから早く」

「お前絶対楽しんでるだろ!笑い方がすげえ悪巧みを考えてるって書いてる感じなんだが!?」

「悪巧みって人聞き悪いわね。知略って言って頂戴?」

 

クソッタレ……、とローガンは歯噛みするが食べ物にも何よりもAR15に罪はない。ただ単に善意で食べさせてくれるようなものなのだから。

いつまでも待たせるわけにはいかないので、ローガンもままよとばかりに食いついた。ミートソース仕立ての挽肉とチーズの相性は以前に似た料理を食べた時から元から良いとは思っていたが、ここまでとは思ったことがなかった。トマトが苦手な人であっても問題は全くないだろう。それにカルボナーラもそうだったが、こちらの料理も誰かから食べさせてもらえたので美味さに磨きがかかっているとベタではあるがそう思える。

しかしここで思考の泉に蓋をしていたというのに、その蓋が重量のある鋼鉄製であったというのに吹っ飛んでしまった。

おかげでストップをかけていた自分のだけでなくAR15と45の使用している食器にも意識が向く訳であり……。

 

「ローガン、顔が赤いじゃない。熱でも出始めたの?今日はもうグリフィンに戻る?」

「そういうAR15も同じだぞ。帰るならお前じゃないのか?」

「私は大丈夫よ。カレーが辛かっただけで体調は絶好調だから。それよりもローガン、怪我が悪化して冷や汗が出ているわよ?」

「涙だから、これ涙だから。あまりのドリアのうまさに泣けてきただけだから何も問題ナッシング」

 

最早言っていることも滅茶苦茶である。

意地の張り合いとばかりに笑顔で睨みあう二人に45は楽しげにパスタを口に運んでいた。

 




ほのぼのとは。つうか前にも同じようなことをやった気がしたなぁこんなの。
女子の服装ってやっぱり大変ですね。いや、現代では男性も昔よりも気を使わなければならないというのはわかってはいますが、ここまでとは……と思いました。
最近はアクション系統のハリウッドの映画を見てたりするのですが、それらを見ているとシリアス的なのをまたやりたいという欲がムクムクと出てきてしまうんですよね。ダメだ、静まれ私の欲望めって感じでいつも抑え込んでいますけど、いつまで持つかなぁ……。
ともかく、今回の外出話は二分割であり、今回投稿したのはその前半部分でございます。以前申し上げた通り、ほのぼのだとかの話をしばらく続けるつもりだったのですが、ふと思いついたネタがあったのでそれを次回投稿する後半の後に書き上げることにしました。命のやり取りをするシリアスではないのですが、まあちょっとしたグリフィン内で……という感じで。
てな感じでこの辺で。う~ん、グダグダしたくはないですぞ~。
ではでは―――

『彼はノーマルであり同性愛者ではありません』
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