誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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絶対酒呑みながらじゃないと後半書けなかっただろうな……(遠い目


15.これを、あなたに -We`ll wait until you talk-

彼女に問われたことがある。『彼のことを、どこまで知っているのか』と。彼のことはあのハンターと出くわしたあの夏の時に聞かせてもらった以外にも少年兵だった頃のことも後々になってから教えてもらった。銃を持たずにナイフのみで切り込み、殺害指示の標的となっていたグループの中心人物を殺しまわっていた日々。そうしていて今から十年以上前、人生で初めて殺しを失敗した。その標的は民生組織のエース部隊を率いていた中隊長で、既にご老体の身であった男性であった。楽であったと思ってたのに、思ったよりも腕が立ったその男性はいつもと同じような手段で奇襲をかけて失敗。捕えられた彼は後に壊滅した暗殺グループと手を切り、徐々に性格から矯正されていって座学から学び、次第に『戦い方』を『生き方』といった手段を教官となった男性から学んでいったという。だが生物はいつか生を終えるものであり、人という種も同じである。その時はまだ第三次世界大戦に各国に使用された核兵器の放射能の影響が多く、人体に蓄積されていく放射能を除去する薬剤等もなかった。教官は放射能によって病気を引き起こし、彼に看取られて亡くなった。それからは多くの親しき者達と出会い、別れを繰り返して今に至る、と。

そこまで知っているのは彼女―――45―――も同じだった。私達は彼に助けられ、今こうしてグリフィンにいる。しかし疑問が一つ残る。

私達が知っている少年兵時代、だが『それ以前』は?

彼の両親が亡くなっているのは知ってはいるものの、年代などを考えてみると十代に達する前に失くしたことになる。その詳細を私達はまだ知らない。

いや、下手に首を突っ込まない方がいいというのは理解している。結局は人の記憶に土足で踏み入れることになるのだから、熟考を重ねるべきだということも。他人に探れと言われたのだとしても、彼のだとしたら私は『はい、わかりました』と即答することはできない。

好奇心や興味があるからとかではなく、『知りたい』とは思う。でも直感で知るべきことではないと、知ったら戻れないと私の中のどこかが警鐘を鳴らしている。

それによる気分の悪さを日々押し殺しながら、私は彼と共に歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――☆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を終えてからはまたモール内の店巡りを再開し午前中の時点ではまだ行ってなかった店舗に足を運んだ。

私達の基地でも時折、小動物が迷い込むことがある。ある時は天気の良い青空が広がっている時、または嵐のような横殴りの風と雨が降る時などこれといった共通点がない日常生活中でだ。私達AR小隊の部屋の窓を開け放していたところで、一羽の小鳥が飛び込んできたこともある。

私はそうでもないが、人形の中には小動物を誰よりも一倍好む子もいる。それこそ、基地内で見かければ指揮官に飼いたいから許可して欲しいと直談判するほどにだ。そんな子に今の私達の指揮官は苦笑いを浮かべながらも許可証にハンコを押してくれている。でもさすがにこうして色んな種類のが一気に押し寄せられた場合、あの人はどのようになるのだろうか。

 

「っとと……ふふっ、甘えん坊ね」

「その子も可愛いけど、こっちの子は毛並みがいいわね。大人しく撫でさせてくれるわ♪」

 

そう、要はペットショップである。犬、猫などの小動物が種類も数も豊富に揃えられており、中には直接一歳に満たない猫と触れ合うことのできるスペースが設けられていた。私と45も女性を中心のそこに入れさせてもらい、触れ合っている動物たちの子供たちとじゃれ合った。私は転げまわることはなかったが、45の方は背中を床につけてしまうほど楽しんでいた。ローガンは私達がふれあい広場に入ってからは外の方で各動物の説明書を見ているようだったが……。

 

「え……犬のもあるんスか。あぁ、いや別に買うつもりはないんですけど……まあ、見るだけなら……」

 

店員さんに案内され、私達から少し離れた箇所の方に向かっていった。

少し後ろ髪がひかれる思いではあったが彼一人にするのも如何なものかと思い、もう少しここにいると言う45を置いて私は彼の後を追った。

ペットフードや小道具の棚の間を小走りで抜けていくと、ローガンは猫のにも負けず劣らず人がいる犬のエリアにいた。ただこちらの方は猫の方とは違いふれあい広場のようなのはないが、ショーケースのようなのに入れられている愛らしい子犬たちが入っている。大型犬、中型など成犬となった後に大きさの違いがはっきりするのもあったりしており色々と目を引かれる。

店員から用があれば呼んで欲しいと言われたローガンは端の方から見ていったので私もそちらの方に向かっていく。

 

「犬と猫の種類ってどちらが多いのかしら?」

「随分前に見たオールドネットの情報だと、当時は犬の方が圧倒的に多かったみたいだな」

「それって大きさによるからっていう理由もあるわよね。でも本当にそれだけかしら?」

「たしかそのページで見た情報だと、犬は狩猟だとかの幅広い目的に合わせた品種改良で増えていって、猫は愛玩目的だけだったみたいだな」

 

ローガンはガラス越しに目の前にいる中型犬の子犬にちょっかいを出すようにして指であっちこっちへと動かして遊んでいる。中にいる子犬も追いかけるように狭いスペース内で右往左往と動いており楽しそうに見えた。

 

「でもまあ、何を飼うかは人の好き好きだしあまり関係ないだろうな」

「昔から犬派と猫派とか分かれてるわよね。ローガンならどっちを選ぶ?」

「俺だったら……犬も猫もどちらも良いとこがあるのがわかるから悩むけど、どちらかといったら犬かな」

「本当に犬なの?ローガンは猫派だと思ったわ。だってグリフィンにいる時とか飼ってる猫に破顔しているじゃない」

「お前、午前からそうだとは思ってたけど俺にも言うようになってきたな」

 

SOPIIなら『へへーん』と言って笑い返していたことだろうが、ローガンには私の顔はどう映っているだろうか。笑っているのは私自身もわかるが、それがM4のような優しい物なのか、SOPIIのように無邪気なのか、M16のような男勝りのものか、ROのように静かに微笑むようなものなのか分からない。

だけどローガン自身も笑っているのだからきっと悪くは映ってないのかもしれない。

そこからは会話しながら見ていった。ネットの画像で見た通り、販売されている子犬にも色々な特徴があった。胴が長く脚が短い子、毛がふわふわで体が一層大きく見える子、毛先がカールされている毛で被われている子などいて、グリフィンで飼われている子犬とは違っていて新鮮だった。私とローガンは近くに張り出されている説明文を読んだりもして『この子犬は~みたいだな』と言ったりして楽しんだ。

ペットショップ内には小動物だけでなく、鳥なども扱っており、後になって合流した45とも一緒に見て回る。

 

「へ~、ここはフクロウも扱っているのね。飼うのに値段は張るけど」

「たしか前にファンタジー系の昔の映画をグリフィンの希望者全員で見たわね。大ヒットシリーズだったこともあっておもしろかったけど」

「主人公が魔法学校に通う前にフクロウを飼い始めて荷物まとめて学校へ……ああいうのもたまには悪くない」

「私達その時は別用で見れなかったのよね。帰ったら見させてもらえるかしら?」

「たぶん大丈夫よ、見終わった後に指揮官から全員が許可もらってる。また見たくなったり今回見てない子の為に視聴覚室に置いておくって」

「じゃあ帰ったら別日に404小隊全員で見ようかしら。その時はローガンも見ましょう?」

「俺はいいよ。また次回作が見つかったりするかもしれないし、それを見る前に復習がてらってことで」

 

後方支援任務で見つかったファンタジー映画の話をゲージ内でこちらを見ているフクロウを見て思い出す。あの日はAR小隊も他部隊の子たちの多くも時間を作って上映に立ち会い、ローガンと指揮官が機材を操作してホワイトスクリーンに映した。始まる前にローガンと一緒に淹れたコーヒーを飲みながら見ていたけど面白かったと思うし、あのシリーズが七部作まであるみたいだし見つかったらいいなと思う。

 

「たしかグリフィンのまだ入ってない鳥かごが一つあったわよね。フクロウを一羽買ったらどうローガン?」

「一羽にどんだけかかると思ってんだ。おいそれと出せる額じゃないのはお前もわかるだろ……」

「バカみたいに高いわね……。私達の一ヵ月分の月給を全て足して足りるのかしら?」

 

犬とか猫とも違う愛らしい姿なのに、こんなにコストがかかるのかと私は愕然とする。いや、単にあの小動物の彼らが安いわけではないのだが、一番高いのでも下手すれば一桁違うのもあった。それにフクロウの餌となる鶏肉やゲージなどの必要なものも考えていけば冗談にならない程の額になる。ここまでのことを聞いたローガンは冷や汗をかき、45も口元は笑ってはいるが完全に慄いており先程言った自分の冗談が捉えようによってはとんでもない無茶ぶりであったことに気付いたかのようだった。

 

「そんなにするのに、あの映画での大男は大金をポンッと出したのか……?」

「どうかしらね……。描写としてはその購入しているところはなかったわけだし、ひょっとしたら少し苦い思いをしながら買った可能性もあるわよ」

「でもここですぐに買うことはできないわよね。ごめんローガン、悪ふざけが過ぎたかもしれない」

「いやまあ、大事になってないしいいけどよ。にしても馬鹿にできないなお前も」

 

そう言いながらゲージの格子を指で軽くつんつん叩くローガンに、中にいたフクロウが『ヒュルルル』と一鳴きした後に人間のように胸を張ったように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――☆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクセサリー製作体験?」

 

モール内の店舗を大体周り終えた私達はあとはどこを見ていないのかとパンフレットを広げたところで、宣伝をしているモールスタッフの人に声を掛けられた。

広場の壁際を見てみれば、そこには幾つかの工作機械が臨時のテントの中に置かれており、つなぎ等の作業着を着ている作業員たちが工作機械を作動させて火花を散らす作業をしたり手作業で加工した鉄板を磨いたりしているのが見える。外からでも見学できるように窓のようなのがテントの壁面にあった。

 

「はい、新開発された機器を使用してその場ですぐにできます。お客様にはその作りたいアクセサリーの型の形を作ってもらえればあとはこちらで製作いたしますが如何ですか?」

「ローガン、どうする?」

 

渡されたビラにもう一度視線を戻したローガンは少し考えて、両脇にいる私達にこう言ってきた。

 

「俺は別にいいかな。でも二人がやりたいのならやってていいぞ」

「それじゃその間どうするの?」

「俺はちょっとまた行きたいところができたからさ。ちょっとそっち行ってくるから大丈夫さ」

「ローガンも作りましょうよ。三人で作って比べ合いとかしてみたいわ」

「それに惹かれないわけではないけど、俺はアクセサリーとかつけないしな……」

 

私と45でそれなりに粘ってみたがローガンの意思は変わらず、首を横に振るだけだった。

しかしこのままじゃただ単に時間を浪費するだけだったので私達が折れた。

 

「じゃあ終わり次第こっちに戻って来て。時間もそろそろグリフィンに戻らないといけなくなるぐらいだし」

「そうだな。んじゃ、こっちの用が終わったらすぐに戻るよ」

 

左手首にしている腕時計で時間を確認してみると、もうそろそろ陽も傾こうとしている時間になっている。季節も変わって昼間の時間も短くなってきているので基地にいる皆に心配をかけないようにした方がいい。何よりも今は指揮官が不在の状況だ。基地内では副官のスオミに余計な仕事を舞い込ませないようにしてあげた方がいい。

ローガンが人混みに消えるのを見送った私達は、スタッフの案内に従って作業机の椅子に座って説明を受けた。

工程としては、まず私達が作りたいアクセサリーの形を渡された厚さが2.3ミリほどの鉄板に罫書き、それをスタッフに渡す。私達がするのはそれだけであり、あとは作業員のスタッフが工作機械をつかって加工するのだが、最後の仕上げとして制作したアクセサリーの表面を鏡のようにすばやく加工できるというのだった。私達が鉄板を渡して出来上がるまで大体二十分かかるか、かからないぐらいらしい。

代金を支払ってから手提げ鞄を座った椅子の足元に置いた私は、最初にどのようなのを作るのか迷った。シンプルなもの、例えば十字架のような物も一瞬考えたが、それだとなにか宗教のようなのを疑われそうだったので却下した。そうして考えていくうちに、五芒星のような形を罫書いた。罫書くのに型などの当て板のようなのはなかったため、全て定規による直線だったが終わった後に見てみるとなかなか悪くない出来になった。

そうしてから横にいる45の方を見てみると、彼女は鉄板に404小隊の腕章と同じ部隊章を罫書いていた。

 

「……うまいわね。ほとんどフリーハンドよね、それ」

「まあこれぐらいわね。飽きるほど見てる私達のマークなんだしね~」

 

音符が飛んでいるのが見えるぐらい、ルンルン気分で罫書いている彼女を横目で見て私は少し悔しい思いをしていた。単にアクセサリーのことではない。

今日の調査が始まってからは、ローガンは私より彼女と多く会話をしたりしている。単純に45自身がコミュニケーションを積極的にとるように彼にしょっちゅうちょっかいを出しているのもあるが、それでも毎回ちゃんと彼は反応しているので彼女は嬉しそうにしている。

それに比べれば私はどうだろうか。今日の集合時間には人混みで遅れる、下着の話で落ち度がない彼にモヤモヤした気持ちをぶつけるように当たってしまう、昼食時にはくだらないことで45と張り合ったつもりになって彼との意地の張り合いになってしまう。それだけじゃない。今日の買い物の時だって、ローガンを無理やり引っ張りまわすようにしてしまったことだってあったんだ。何をしているのだろうか、私は。

知らないうちに溜息が出てしまっていたのか、彼女がこちらを不審なものを見るように見てきた。

 

「何なのよ。いきなり溜息なんてついて」

「……ごめん、あんたに思うことがあってついたわけじゃないわ。今日の私を振り返って自己嫌悪しているのよ」

「そんなネガティブになるほどの事なんてあなたにあった?」

「他人にはないように見えるかもしれないけど、自分には少し堪えることがある。あんたもそうでしょ?」

 

『まあ、わからなくはないけど』と言いながら45は自分の作業に戻る。私もこれでいいかなと思ったところで、一つ思いついたことがあった。どうせなら、ここでいない彼の為に何か作ってあげるのもいいかもしれない。そう思い、スタッフに聞いてみたところ、もう一人分の代金をもらうことにはなるが構わないと言ってたので、私はもう一つの鉄板に罫書きを行った。まずは楕円のような形に罫書き、その内側に一回り小さいサイズで同じような円を描く。その後で私の記憶にあるあのマークを表面としている右下の方に罫書いた。ただ一つの記憶違いを起こしたくない為、たまに全体的に見て間違いがないかを確認し最終的に確認が終わったところでスタッフの人に45と一緒に渡した。

 

「……AR15、私はあなたが羨ましいわ」

「え?」

 

スタッフに渡した鉄板がそのまま作業員に渡され、確認が済んだ彼らが工作機械にセットし火花を散らしながら加工を開始する。そこで45が私にはっきりと聞こえる声量でそう言ってきた。

 

「ローガンとは私よりも時間を共にしている。それだけであそこまでの彼を引き出すなんて」

 

一瞬言っていることがわからなかった。だが数秒を空けてローガンの私に対しての態度のことだと気付いた。

 

「そんなことはないわよ。私なんてローガンに思ったことを言ってるし、むしろ傷つけてないか不安になったりするわよ」

 

実際その通りだ。

私にとってはAR小隊の皆は戦友であり、友人でありながらも家族である。家族であるのなら他としての認識よりも本音を話せることから、もうローガンは私にとって家族そのものだ。でもまだ彼の気心までは完全に掴めていない。最近になって日常生活だけでなく他人の射撃訓練でどこをよく見ているかなどの癖や着目点がわかってきたぐらいなため、まだずけずけと何も遠慮せずにというわけにはいかない。M4達とはもう二十年は共にしているため、大体どういう事が逆鱗になるのかをもう把握できているが、人間であるローガンはその頃は私達の与り知らぬところで生まれて育っている最中だろう。もちろんそうであるのだから彼がどういう道筋を歩いてきたのかなど話でしか知らない。推測こそ触れない方が良いことは測れるが正解かどうかは別問題だ。

誰にでもそうだが、『完全に』誰かのことを理解することは難しい。だからこそ、慎重にというわけではないがある程度は反応を見る必要がある。

 

「それなのよ、AR15。私はそれが羨ましいのよ」

「……どういうこと?」

 

そう言いながら咄嗟に横にいる45の方を見る。彼女はテントの向こう側で行われている作業をずっと見ているが、その目はここではないどこかを見ているのがわかった。

 

「ローガンはきっと、私にも話している時は本音をぶつけてくれている。でも自分のことを深くまで探られないようにしてるような気もするのよ」

「それは誰もが同じことじゃないの?私だっていきなり自分の全部をさらけ出せと言われたら抵抗するわよ」

「たしかにそうね。でもAR15、この間話したこと覚えてる?」

 

窓の向こう側では余分の鉄板部分を廃材として捨て、削り終わった鉄板の断面に残ったバリを取り除くために鑢を掛けている。それだけでなく外枠の部分を斜めに削り見栄えも良くしようとしていた。

そこまで作業が進んだところでまた彼女の方に目線を戻すと、普段404小隊の隊長としては滅多に見ない、病室で見たような素の時の彼女が眉を伏せて俯いていた。

45が言っていることはわかるため、そのまま口にした。

 

「ローガンが私達に話してくれた過去のこと、よね?お互いにその部分では差はないってことだった……」

「そうよ。でも少し興味が湧いたから彼に関してのデータベースを調べたの。今ではそこそこ発展した民生組織に関わったりすると簡単なプロフィールが登録されたりするのは知ってる?」

「今になっては航空支援も徐々に立て直されてきてるから支援に誤りがないようにするための簡易登録ね。戦闘機でいう敵味方識別装置みたいにUAVとかで位置情報を分かりやすく認識するための措置だって」

 

指揮官もグリフィンのデータベースに私達の情報を登録し、作戦開始前にコールサインをそれぞれ入力することで各人員のその時の位置を把握するためにしている。

戦闘機であればパイロットのHUDに視界内にいる別の戦闘機が敵か味方か判別できるようにするように、UAVが撮影している画面に映る人物や人形を色でも識別しやすくしているらしい。実際指揮官からも直接説明を受けたことがあり、それだけのプログラムを組んだことに感心したものだった。

現在ではそのアイデアが他でも生み出され、グリフィンや指揮官の組んだプログラムほどじゃなくても工夫がされていることは聞かされている。

 

「ローガンはいくつもの組織を伝って今に至っているってことだったから、前にいた組織から調べてみたのよ。あなたは名前も知っているでしょ?」

「『グランド』のことね」

「そう、だからそこから調べたのだけれど顔写真とかだけじゃなくそれまでの経歴とかまでもあったわ。でも問題はそこじゃなくて、グランド以前の他の組織のものとも全然違うのよ」

「え……?経歴がそれぞれで違っているってこと……?」

 

頷く45が嘘を言ってるようには見えない。私自身もあまり考えられないことに思考が追い付かなかった。

 

「更新日時が登録日時から変わってないことからデータが改竄されたことはないわね。すり替えもないことは確認してあるわ」

「じゃあローガンが嘘を、虚偽の情報を残しているってこと……?」

「それが一番考えられるわね。グリフィンに登録されている物とも全く違ってるし。でもどの経歴情報にも共通点が一点だけあったのよ。何故だかその関連の情報はどこにもなかったけど、『特殊作戦部隊タスクフォース116』という一番古い経歴だけは共通してたわ」

「タスクフォース……116……」

「私達の404がそのように、ローガンも公にされなかった作戦に従事していたのはそこで初めて知ったわ。でもそうでなきゃ、あれだけ鉄血と渡り合えるのに納得できないわね」

「でもタスクフォースにいたことはあまり書かない物じゃないのかしら?」

「今じゃ敵となっているのが人間だけじゃないし、大部分は鉄血との戦いよ。昔はそうじゃないでしょうけど、今ではそれだけの強みを持ってないと生き残れないわ。それに、これだけ一貫してあるってことはローガンにとっても誇らしく思ってたりすることじゃないかしら?」

 

たしかにそう考えられる。あまり考えられないが、もし私も後々になって違う組織に属することになった場合はグリフィンのAR小隊にいたということは書き残すつもりだ。隊の終わりが良くなかったのだとしても、そこで得た経験と思い出はなかったことにしたくないから。

でもローガンがまだ隠していることはあるということはここまででわかった。誰にでも隠し事というのは有り、野ざらしにするようなものではないことはわかってはいたが、こうしてみると少し心に来るのがある。感情モジュールの誤作動とは思えない胸の痛みが私を焦がした。

 

「でもローガンはあなたにならいつか全て話すと思うわよ?私だってそうしてもらえるようにするつもりだけど、あなたは自分の考えや目的を全部彼に話してる。ローガンはあなたに共感を示しているし、誰にもない感謝の念を示しているのよ?」

「私に?でもそんな大したことなんて何もしてないわよ。せめてケイドが、ローガンの親友が亡くなってしまった時に傍にいただけで……」

「『無力で泣きそうになっている人にただ手を差し伸べるだけでいい』。これ、ハリーから言われたことでしょ?」

 

重く感じる顔を持ち上げた私に45は笑いかける。まだ胸をつっかえさせている物はあるようだが、それでも幾らかは体にかかっている負担を軽くできているかのようだった。

 

「差し伸べるだけのことはしていなくても、その場で受けた痛みをすぐに知ってくれる人がいてくれるっていうのはとてもありがたい事なのよ。簡単な同情は反感を買うだけだけど、ただ寄り添ってくれたあなたにローガンが何も思わないことはないわよ。むしろ、彼があなたにしてやれていることはないかと悩んでいるんじゃないかしら?だから私は、AR15というあなたが羨ましいのよ。偶然とかが重なっただけにしても、お互いに他では見ることのできない『特別な存在』として見れるのだから」

 

やがて研磨が終わった鉄板に鏡面処理がされ始める。新開発されたという機器の上部が蓋のように開かれており、そこに45の部隊章のアクセサリーと私の五芒星と友に宛てたのを置くと何かのスプレーをかけて真っ白に染めると蓋を閉じて機械の電源を入れている。ここまでくるともう完成も間近だろう。

それに45の言ったことに未だ実感が湧かないが、私はローガンのことを『特別』と見ていることをここで自覚できた。

彼と一緒にいれば心が休まるし、楽しいことがあれば一緒に笑いたい。怒ることがあれば諌めてあげたいと思うし、悲しいことがあれば一緒にいてあげたい。これがまだ先代指揮官の言ってた感情なのかどうかはまだはっきりとはわからない。でもローガンに対して親身になりたいという気持ちには偽りないと断言できる。

自分が知らないうちに得ていたことには気づかない。それでも私にだって45に劣等感を感じることだってある。

 

「……私だって45みたいに、ローガンをからかってみたいと思うことはあるわ。午前のあの時みたいに、あの人の考えを詠んで籠絡して笑いながらからかって……でも最後には一緒に笑いたいわ」

「うん。だから私とあなたは対等よ。私は以前、ローガンの頬にあーしちゃったけどね♪」

「あ、あれは卑怯よ!私だってローガンに……!」

「ん~、口では何とでも言えるし行動で示したらどうかしらね?」

「~っ!」

 

カラカラと笑う45に私は地団駄を踏むことしかできない。でも私と彼女は顔を見合わせると笑いあった。

私達AR小隊と404小隊には少なからず因縁がある。45自身にも目的の達成の為に平気で共同戦線を組んでいた輩を切り捨てることがあったとの話もあるためまだ心底から信用できているわけではない。しかしあの病室での最後の彼女の行動、そしてその言動からローガンに向けている気持ちに嘘偽りはないように思えた。だったら彼に自分から自覚あって不和を齎すことはないはずだ。

そんな彼女は暗にこう言っているのだ。『彼が話してくれるまで待とう』と。

「お二人ともお待たせいたしました。また機会があればご来店ください」

「きたきた~。……うん、ちょっと罫書いた際に形が怪しかったんだけどこれだったら問題ないわ。AR15、そっちは?」

「大丈夫よ。余計な傷も何一つないし、こういう仕事をする職人もまだちゃんといたんだって思えるわね」

 

やがて完成品が手渡され、紐などが通せるように追加で小さな金具がつけられている二つのアクセサリーを私も確認してみる。どちらとも傷はなく、線に沿って五芒星の方は内側の鉄板も切り取られているのに加えて、若干星を描く線が丸みを帯びているようになっているなどしており、服と一緒に身に着けるものであるのだから他よりも見栄えに気を払わなければならない為苦労するらしいが、短時間でここまでの仕事ができている技術スタッフには『お見事』と素直に称賛を送りたいものだった。

もらった金属板を鞄にしまった私達は店を後にしようとしたところで、知っている顔が汗だくになりながらこちらに走ってきているのが見える。

私達にばれない様にしている隠し事もしている病み上がりの怪我人なのに、とは本人には言うべきだろうが私達は言うつもりはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――☆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻も夕方といえるぐらいになってくることには、もう今では陽も眠るように地平線の向こう側へとほとんど消えていた。

私達が迎えに来てくれた、作戦中では『ブラックバード』というコールサインの人間の男性が運転してくれた車に乗って数十分経って私達のグリフィンの基地に到着した。彼はハンドルやレバーを操作し、基地の車庫に納車してエンジンを切る。

 

「お嬢さん方、もう降りてもいいぞ」

「ありがとうブラックバード。ヘリだけじゃなくてマニュアル車の運転もできたのね」

「二年に一度やっていた車検もできない今じゃ、整備もなにもかも自分でやらないとだしこれぐらいはな。まあ不服なことと言ったら、グリフィンからガソリンを買わないとならないことぐらいだ」

「大変ね、自分の趣味を満喫するために組織から燃料となるのを買わないとならないというのは」

「それはともかくよ、助手席で寝こけてる野郎を起こしてやってくれよ。涎でシートが汚れるんじゃたまったもんじゃない」

 

ブラックバードの言う通り、助手席ではローガンが窓の方に重心を倒して眠っていた。

彼が迎えとして到着して乗り込んだ後、ローガンはしばらく軽口をたたき合っていたが、一日の疲れがどっと来たのか少ししたら着いたら起こしてくれと言って睡魔に身を任せていた。

 

「あなたが起こせばいいじゃない」

「男からすれば自分を起こしてくれるのは見目麗しい断然お嬢さんの方が良いさ。むさいおっさんが自分を起こしたってなんも嬉しくないよ」

「ならAR15、あなたが起こしたら?私はちょっと急いで404小隊の皆のところに行かないとだから」

「AR15の嬢ちゃんなら大丈夫だな。そんじゃ、おっさんはこっちの荷物を持つのを手伝うとするかね」

「別にいいわよ、私一人でも大丈夫だから。そんな風に点数稼ぎをしようとしても無駄よ?」

「おぉっと、こっちの魂胆も見え見えかい!」

 

こっちが口を挟む暇もなく、二人は車庫から出ていく。

寝ているローガンと二人っきりになったことで高揚するような、小躍りをしてしまいそうになる気分になる。二人が出ていったところで車内でまだ眠る彼を運転席から身を乗り出して揺さぶった。

 

「ローガン。グリフィンに着いたからもう起きて」

 

声を掛けてみるが深い眠りに入っているせいか目を開けようとしない。それどころか子供がまだ寝たいと言うように身を捩ってこちらから逃げるように顔を背けた。

その仕草に腹立たしいといったもどかしさなどは感じなかった。むしろ、微笑ましかったり尊いものを見た時に感じる胸の温かさが湧いて来た。

私はそこで肩に置いていた手をローガンの髪を梳く。出会った当初は刈り上げた髪も今では伸びており、私の指の隙間からこぼれてサラサラと音を立てた。

 

「……ほら、起きなさいローガン。AR小隊が、皆が待っているわよ?」

 

起こす為であった筈なのに、今はそんな目的意識はなかった。声色も後々になって思えば柔らかいものになっていたし、このままずっとこうしてローガンの頭を撫でていたいという気持ちに溢れていた。

改めてこうして注意深く彼のことを観察してみると、男性としても整っている顔立ちであるということがわかる。耳に軽くかかる程度まで伸びた赤毛がほんのわずかに色彩を残している白髪に、彫りの深い顔立ち。顔全体も面長であり鼻も少し高い方だ。頬もすっきりしているし今は閉じている切れ長の瞼の向こうの栗色の目の温かさを私は知っている。

こうして眠っている今なら……と私の中の誰かが囁くが、今やっても意味はないだろうと雑念を振り払う。最初は驚いて彼に対して問い詰めてしまったが、それらに羨望があったのは間違いない。いや、私も彼に口づけをしたことはあるが、二回とも意識を失う間際であったためノーカンだ。だから、彼がちゃんと意識を持っている時でないと意味がない。でも私が抱いている気持ちのことを考えればそうしてもいいだろうと新たな欲が語り掛けてくる。ローガンに抱いているのは友人としての友愛か?それともこうして頭を撫でていることで満たされている母親心?そうじゃないだろう、本当は気付いているがそれを言葉にするのが怖いだけだ。しかし私は人形、彼は人間。グリフィンにいる人間の多くは私達人間と心を通わせているが、世間一般で見れば気持ち悪いものだということだ。それなのにローガンに身を寄せても、寄り添っても許されるものだと思っているのか?今は45の影響もあって惰性で親しくできているが本当は断ち切るべきなのかもしれないのに。それでも……!

 

「……っ。もう着いたのか?」

 

私が一人で内心で悶々としながら撫でていたら、ローガンは目を覚ました。体を起こし、助手席に座った状態で欠伸をしながら上体を伸ばす。私は悩みながらもいつの間にか近くまで迫っていた顔を離した。

 

「そうよ、ローガン。まったく、起こそうとしてもあなたは目を覚まさないんだから」

「……あぁ、わるかった。とりあえずもう行くとするか」

 

助手席の扉を開けてローガンは車から降りた。私も内に湧いて来ていた黒い思いを振り払って反対側から降車した。

バタンッと頭にのしかかる嫌なものに蓋をするように扉を閉めたところでモールでのことを思い出す。持っている手提げ鞄に片手を突っ込んで探してみると思っていたものはあった。

「ローガン、ちょっと待って」

 

 シャラシャラッと車に揺られながらモール内で道すがら買った鎖を金具に通して完成させたそれを持って私は車の反対側にいる彼のとこまで小走りで向かった。

 

「はいこれ。私からのプレゼントよ」

「これは……ドックタグ?」

 

IDタグとも言われる兵士であれば戦場で身に着けているそれをローガンはそれを片手で鎖を持って吊るして私に聞いてきた。

 

「それになんか型抜きされているな。長方形をジグザグに切ってたり、斜めに寸断してたり……。これはなんだよAR15?」

「そのマークに見覚えないローガン?私達の執務室にもあるのだけれど」

 

執務室にある……?と寝起きの頭で首を捻り始めたローガンだったが、結局は思い至らなかったようで首を左右に振った。まあこればかりは仕方ないのかもしれない。ローガンからすれば、グリフィンが考えたこの部隊章に気付けるのは見たことがある程度で本格的な意味に辿り着くには独力では難しいだろう。

私は自分の携帯端末の画像にあったかどうかを検索し、見つかったのでその画像を映した状態でローガンに見せた。

 

「正解は『COLT』よ、ローガン。私達の腕章にもある部隊章っていえば思い出すかしら?」

「……あぁそれだ!どっかで見覚えがあると思ったらそれだった!にしてもなんでこんな……」

「……実はね、あなたの歓迎会をしたあの日に色違いだけど私達と同じ腕章をプレゼントで渡すつもりだったの。でも当日に間に合わなくてダメだった」

「腕章を?でも俺は書類整理の部屋が割り当てられただけでお前達の分隊の一員じゃ……」

「そんなことを言わないでよ。私達を一度に助けてくれたあなたを私達が何も思わないわけないじゃない。たしかにあなたはAR小隊の一員ではないけど、私達にとってはかげがえのない友人であり家族なのよ。グリフィンの皆よりも身近に感じるあなたに、私達は贈りたいと思った」

 

私達AR小隊で頼んだそれはまだ本部からこちらの方に届いて来ていない。腕章一つでなぜこんなに時間がかかるのかと皆と不満に思ったがない物をねだっても仕方ない。結局は届かずに歓迎会を催した。

だけど私個人で少し悔しい思いもしていた。45がワシントンD.Cでローガンに渡したスカルマスクだ。ニット帽と同じ紺色のコットン生地に手製のスカルペイント。型を使用してはいるが手作りであるのがわかるマスクであるが、ローガンとしても大事にしたいと言っていた。そんな手製のマスクと同じようなものして他に何がいいのかと考えて、私はドックタグが思い浮かんだ。

ローガンはいつも服の内側に入れているため邪魔になったりすることはないと考え、あのアクセサリーの製作体験で実行したのだった。

 

「そういうことだったのか……」

「……でもごめんなさい。今考えてみれば私達の気持ちをあなたに押し付けてるだけだわ。迷惑なのかもしれないのに……」

「んなわけあるか」

 

不意に伸びたローガンの右手が私の額を小突いた。コツンッという音とともにくる痛みで私は少し呻いてしまうが、それでも優しさに満ちた痛みであった。

 

「迷惑だとか考えてる奴であれば、こういうのをわざわざ手作りで渡されることがある筈がないだろ?……ありがとな、AR15。俺なんかの為にわざわざ作ってくれて」

「……どういたしまして」

 

素直な彼からの礼に私は恥ずかしいような、嬉しいような、とてもこそばゆくなってしまう。だけど決して悪いことではないから、私もローガンも笑いあった。

その後は車庫からお土産を持った状態で出て私達の執務室に直行。二人で来たことに皆からからかわれてしまったが、それも一つの思い出。荷物整理を後回しにしていつものふだん着に着替えたところでまもなく夕食が出来るという知らせが来ることから、私とローガンは執務室に据え置きのコーヒーメーカーで少し温めのコーヒーを淹れて飲んだ。たまにはと思って、ローガンに合わせてブラックで飲んだというのにどこか甘く感じたのはきっと気のせいではないだろう。




気持ち程度のほのぼのであとはシリアスでございます。
というわけでここまで読んでくださってありがとうございます。私としてましてもなんだか心安らぐように話を持っていきたいのですが、どうしてもそっち方面に……ちがーう、ほのぼのに面舵いっぱーい!私のバカヤロー!!
後半もほとんど酒の勢いです。いや、この後書き書いてる時点で空のビール缶が机の上に二本転がっている状態で最後のというわけで三本目も開けてぐびぐびと。たまにはいいでしょ?ここまで呑んだって。
さて、この時代でショッピングモールというのがまだあるのかどうか怪しいところですが、あってもいいだろうと自己完結してイメージしながら書かせていただきました。もっとモール内を歩いたという描写をすべきところだったのですが、それでは他の方々のと被ってしまったりして二番煎じどころか何番煎じかわからないよな……と考えてここまで縮小させてしまいました。申し訳ないです。しかし前半の男性には難しいあーいう話とかは新鮮味はあったのではないのでしょうか?
それとこれを投稿してからですが、AR15からM16に対しての三人称での呼び掛けの修正を入れさせてもらいます。ふとした時に気になって仕方ないのでご勘弁ください。
とにかく今回はここまでとさせていただきます。次回としましても本筋には戻りませんが……?
ではでは―――

『AR小隊が好きだからCOLTドックタグとか欲しいんじゃ~という叶わぬ願い』
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