誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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P226ってあんなにバリエーションがあったんだな……


18.クレイジーストリート -Not decent-

何事もゆったりと起こったりするのではなく、予告も何もなく突然来たりする。

事前にアポを取ったりして時間を設けてもらい、話を聞いてもらうようなそんな平和な会社員のような日常を送っているわけではなかったことを忘れていたのは、しばらくの間前線から離れていたことによる影響だろう。油断をしていたわけではないにしても、仕事や体を動かしての訓練などにしても予想外の出来事というのは大抵気を緩ませたときにやってくる。

後でそう考えさせられる出来事がこの日に起こった。

 

『全ユニットへ通達。エリアN11-4のコールレストランにて銃撃事件が発生。この無線を聞いた全チームはただちに応援に駆け付けよ』

 

二日目のパトロールで昼食休憩を取ることになったローガンとAR15の二人はその時は何を食べようかと相談しながら車を走らせていた。現在進行形で巡回しているのでテイクアウトでなにかしらかの食べ物を車内で取る方向で話は進んでいたが、入ってきた治安組織からの緊急無線によりそれまで立てていた全ての計画はお流れである。すぐにローガンは車両の警告ランプを光らせ、アクセルペダルを踏んで開けられていく一般車両たちによる道の合間を滑るように走らせた。

先日は保護区の西区の方を集中的に回っていたが、今日は北から東へと万遍なく巡回しようと段取りを取っていた。そのため、今北区の道路の上で車を走らせながら昼食の相談をしていたこともあり北を示す『North』の単語の頭文字のNと座標の11-4は現在位置からモニターで見てみると、ここからそんなに離れていない。車をかっ飛ばせば五分程度で到着できる。

それを確認した助手席に座っていたAR15は車内に取り付けられている無線機を素早く取り、有線で繋がっているレシーバーを口元に近付けた。

 

「こちらグリフィンパトロール。こちらからの応援も必要ですか?」

『願わくばお願いします。敵の詳しい武装に関する報告は来ていませんが、現場にいる隊員にも被害が出ているようです』

「了解しました。ただちに向かいます」

 

AR15はレシーバーを元の位置に戻し、据え置きの無線機の電源や周波数はそのままにし、左耳に付けているワイヤレスのイヤホンに片手を当てて呼びかけた。繋がっている先は、自分達とは別で保護区に展開したもう一つのパトロールチームであるスオミ達の方にではあるが、彼女にではない。先日ローガンが話した、嫌った態度を見せてきた本部からの客人のグローザにである。

 

「今の聞いたかしら?こっちはローガンと現場に向かう。そっちもスオミと可能な限り急行して」

『了解よ。スオミ、ここからだとどれぐらい時間がかかる?』

『残念ですがすぐには無理ですね。今しがた、交通事故があったようで現場検証が始まってます。交通規制もありますのでおそらく十分はかかります!』

「なら俺達で先行して治安部隊と一緒に現場を抑える。現場に到着次第、基本はあちらさんの指示に従う方針でいくぞ」

 

ローガンが最終的に行動方針をまとめるとスオミ達からは『了解』と返事が聞こえてきて、助手席に座る相棒は頷くのと同時にギターケースを模したアタッシュケースを展開し、『ST AR-15』を取り出すとマガジンを叩き込み、替えの弾倉を腰に巻き付けているバックパックのマガジンポーチに入れていった。

だが運転に集中しているローガンだが、少々引っかかることがあった。今日のパトロールを始めるのに朝から憎まれ口を叩いてきたグローザからも素直な応答が返ってきたからである。

 

「グローザ、まさかお前から『了解』の返事が聞けるとは思わなかったんだが。スオミから何か言われたのかよ」

『いえ、私からは何も言ってませんよローガンさん。さきほどもそうですが、昨日私と組んでから色々なお話を聞いただけです。ただ本人からは口止めされているので話せませんけどね』

『……そうよ。スオミには話したけど、他の人形やあなたには言わないようにしてもらっているわ。でも筋の通った理由があるとはいえ、若干不満に思うこともあるわよ』

 

グローザの不満もわからなくはない。たしかに戦闘経験に関しては、もっと過酷な戦場で人間ではない存在と戦い続けているこちらの方が上ではある。緊急無線で非常事態を通告した治安部隊に被害が出ていることからして、彼ら以上の装備を今回事件を起こした犯罪者達は持っていると考えられる。ならば鎮圧するのはこちらの仕事であり、犯人達を片付けた後の後始末を治安組織の者達に任せるとして銃撃に全力を注ぐべきではないかと、そんな考えを彼女は燻らせているのだろう。

しかしそうだとしても事件現場の状況を把握し切れているのは自分達よりも治安部隊の彼らの方だろう。単純な話、ローガン達は訓練も積んだ兵士ではあるが全ての状況を見渡せている鷲ではない。無論、グリフィンとは違って町中を交代で四六時中見回っている彼らもそうだが、事件現場に出くわした場合誰よりも迅速に行動できるのは間違いなく向こうの方に軍配が上がる。そうであるのなら、一番最初に銃撃事件に遭遇した治安部隊の指示に従い、必要であるのなら知恵や発想を、制圧するのなら武力を貸してやる他ない。

指揮権を委任された場合はローガン達が現場の隊員たちを動員することになるとして、それまでは治安に協力する形を取るべきだと判断しているのである。

口には出さないが、グローザもそれはわかっているのだろう。敵数、負傷者、人質などを最初からできるかぎり記憶している治安部隊に協力するという形で戦って事件解決を行うことにするのであって、自分達だけが銃を撃つべきではないのだということを。

 

「……特にいう事ないならそれでいいな。そろそろこっちは現場に到着する。交戦状態になったらしばらくこちらから通信できないから留意しておいてくれ」

『わかりました。基地の方には私の方から報告します。気を付けてください、ローガンさん、AR15』

「了解だ」

「ええ、ありがとうスオミ」

 

本道を通っているだけでは到着するのが予定時刻より遅れると判断したローガンはショートカットをするためナビが示していない小道を通ったりやや無理矢理な運転で走り抜けていった。壁など一般車両にぶつかるすれすれになったりすれば、AR15は少々身を縮めているのが時折声を漏らしている様子からわかった。

 

「ちょっと、ローガン!急いでいるのはいいけどもっと気を付けてよ!これじゃ事故を起こして事件どころじゃなくなる!」

「人生何事も経験で努力の連続ってやつだ!今日できないことがあれば明日やる、なんて生温いこと言ってられるかよ!停滞は一種の死だってどっかの偉い人は言ってたんだしな!」

「それをこんな危なっかしい運転でしないで!……まさかだけど、昨日のニット帽を取られたことを根に持ってたりする!?」

「そんなことは全然ないッス~!」

 

言ってることの信憑性があるのかないのかの判断がAR15にはできていない様子だが、嘘は言っていないローガンである。言ったことの八割がその台詞の通りであり、残りの二割はAR15の想像通り。だがそれ以前に全然という副詞がもうアウトであり、爆走魔と化した運転手がこの場限りの嘘つきであることが証明される。

無茶な運転と言っても、たまに歩道を歩く通行人を驚かせることはあるが、直接こちらがぶつかるようなことが起きないようにはしている。車同士の事故も避けるために見通しの悪いところでは速度を緩めつつ左右の確認も行っており、運転しているローガンは事故には最低限の注意は払ってはいた。

あくまで危なっかしい運転をしている要所というのは行く先が見通せる真っ直ぐな小道や、スピードをまだ完全に落としきって道を開けているわけではない車両が多い本道である。

やがて窓を開け放っていることで銃声が聞こえてくる。通達された現場の座標までもう少し。

 

「ほ~れほれ、兵隊さんのお通りじゃ~!安全運転の四文字をどっかに置いてきたおまわり代行のお通りじゃそんな俺が言っても説得力が皆無だけどなふははー!」

「ローガンあなた……解決し終わったら覚えてなさいよ……!」

 

コールレストランというのは、北側の保護区の中では三本指に入るほど客の出入りが多い大規模な店である。店の詳しい構造はまだ足が運んだことがないためよくわかっていないが、オフの日に行ったことがあるというSOPIIとROによれば、食事ができるようにしているテーブルが設けられているエリアは一階の広い店内や店の前だけでなく、外側の階段を歩けば二階もあり日当たりのよいラウンジのようになっているという話であった。

現場まであと数十メートルといったところまで車を走らせて停車させたローガンは、さきほどAR15が手に取っていたレシーバーを取って報告を入れた。

 

「グリフィンチームから現場の全ユニットへ。こちらは南西側の方から接近する、誤射に注意してくれ」

『了解した!現在交戦中だがやられてばかりで旗色が悪い、急いでくれ!』

 

レシーバーを座席に放り投げたローガンは運転席から下り、聞こえてくる銃声と叫び声に切り替える。先程までは遊び心も加えてクレイジードライブをしていたがもうそんなことをしているだけの猶予はない。

こちらに言いたいことがあるように睨むAR15の視線に気づいていないふりをしながら声を掛けた。

 

「急いで欲しいそうだし、気を引き締めていこうか。オフェンスを頼むぞ」

「それはいいけど……絶対にあとでやり返してやるんだから」

 

ローガンとAR15は車をロックしてから現場へと走り出す。

走りながら右足のホルスターからP226を取り出し、マガジンの弾数とタクティカルライトの動作も確認してからスライドをさせて薬室に弾薬を装填させた。

目的地まであと十メートルを切ったところで、ローガンの近くで停車していた車の方に弾丸が飛んできた。パァン!とボンネットの側面に穴をあけた瞬間にローガンは身を別の車の方へ隠し弾丸が飛んできた方を警戒。

「―――二階ラウンジ、敵が三人だAR15!お前の銃で狙ってくれ!」

「目視で確認、了解よ!」

 

カバーしている車のボンネットに銃のバレルを乗せたAR15はスコープを覗いて狙いを定める。

その間にローガンは耳元の無線機を調節し、重要作戦以外のオペレーターを基地の方で受け持つことになった最近配属された新人の方に繋げる。

 

「こちらローガン・ブラック、AR15と共にN11-4にて銃撃を受けた。これより交戦する」

『りょ、了解です!』

 

まだ駆け出しである新人から上擦った返事を聞いた瞬間、射撃体勢に入っていたAR15がパシュンッとサプレッサーによって銃声を消音して一発発砲。最近は特殊弾の『.300BLK高速弾』を使用すべくバレルなども交換した『ST AR-15』から排出された薬莢がアスファルトの道路にカンッと音を立てて跳ねていく。彼女が発砲した後で先程ローガンも確認したラウンジの敵が仰向けに倒れていったのが見えた。

 

「ワンダウン……二人目もダウン!」

「よしひとまずいいぞ、もう一人も突然の事で戸惑って隠れた。今のうちに行くぞ!」

 

車の陰から二人で同時に飛び出し再びレストランへと走って行った。

ローガンが銃撃現場に到着して見た光景の感想としては、昔のジャンルがアクションだとかサスペンスのハリウッドの映画であった銃撃シーンってこんなだったなんて風に頭のどこかで考えていた。

立て籠もる建物を背後に犯人はアサルトライフルを持って銃撃、治安部隊はパトカーを映画の警察の特殊部隊のように壁にし拳銃で応戦している。ただ、やはり装備に差がある。

ローガンがパトロールに当たって着用している防弾ベストのように、グリフィンから支給されたそれは簡素ではあるがしっかりしている。ただし、鉄血など重装備の敵と戦うことを想定しての設計ではなく、腹のあたりにあるアサルトライフルのマガジンポーチはない。単に、町の見回りで制服の上から着用するための代物なのだ。

それと同じようなのを味方側の治安部隊の隊員達も身に着けているが、犯人達が着用しているのは鉄血と戦う時にローガンが身に着けている代物だ。

見た限りでの装備では、一丁前の防弾ベストとアサルトライフルって感じだなと確認したローガンは手前で様子を窺いながら応戦しているベストにアルファベットで『カイル』と刺繍されている隊員の方へと近付いた。

 

「グリフィンのローガンだ。現在の状況は?」

「ようやく来てくれたなPMC!今のところ、見ての通り膠着状態だ。被害は今のところ負傷者が六人で済んでいるが、あの小銃で前にはなかなか出れない!」

 

ダタタン!と近くの車両に着弾し、反射的に首を竦める。近くでは待機しているAR15が店の前で銃撃戦を繰り広げている犯人を見て、口を開いた。

 

「敵数は全員で五人ですか?二階ラウンジにいる三人のうちの二人はこちらで倒しましたけど、地上にいる四人を合わせればそれだけになります」

「いや、表にいるのが全員じゃない。報告では事件発生時に店内に乗り込んできた犯人の数は十人強でまだ店内にも数人残ってる。逃げ遅れた人質もいることから我々も強行作戦が取れないんだ」

「人質もとって数人で立て籠もりか。……なら、まずは表側の制圧だ。AR15、いくぞ!」

 

P226の安全装置を解除したローガンは側面に回り込むために移動を開始。こちらの存在に気付いている犯人達もこちらに銃口を向けてくるが、撃たれる前にこちらから発砲した。

タンタァン!と二発分、薬室からパラベラム弾の薬莢が排出されて反動が手首に来るのが先日訓練で使っていたというのに久しぶりに感じてくる。

発射された二発の弾丸はこちらを狙っていた一人の犯人の防弾ベストに命中。バスバスンッ!と薄い金属がひしゃげたような音が苦悶の声とともに聞こえてきた。

 

「命中したのに行動不能にならないか……当たり所によるが、やっぱり拳銃じゃ火力不足だな」

 

ローガンが昔から使用しているP226で用いている弾丸である、9mmパラベラム弾では防弾ベストを着用している敵には有効打には届かない。正しくいえばなっていないわけではないが、ベストの部分に当てているだけでは相手に衝撃とそれなりの痛覚を与えてはいるものの、体そのものに届きにくい。

製造に当たっての原料の削減だけでなく反動の軽減を目的とした弾丸では胴体に風穴を空けることはできない。

だが移動するのに十分な時間を稼げた。ローガンは半円状に展開している犯人達の左側に回り込むように走り、ひとまずは大きく動けた。

そこからさきほど命中させた犯人の様子を窺うべく、事件が発生した当初に巻き込まれたのか、運転席側で転がっている頭を撃ち抜かれてしまった一般人の死体をややどかすようにし、その車両と地面の間から覗き込んだ。

 

「ごめんよ……!」

 

怒りを腹の底で点火させながら、死体になってしまった中年の男性を動かして確保された視界から見えた限り、さきほどローガンに撃たれた輩は命中した箇所の具合を確かめ、そこからこちらの位置を探っている。

 

「ローガン、ラウンジに残ってる残り一人を片付けたいけど、こっちからじゃ狙えない。高所を取られているんじゃ私達も下手すれば撃たれるし優先したいんだけどどうにかならないかしら?」

 

こちらの動きに追従してきているAR15からそのことを言われ、たしかにと思う。

今のところは銃声が消音されたことで方角がわからないところから狙撃されたと正しく推測をしたらしいラウンジの最後の一人は、今はまだ頭を出していない。本人の性格はどうかはわからないが、幾分はラウンジの壁で隠れ続けているのだろう。

地上にいる連中を叩くのも大事だが、なによりもそちらもなんとかしなければならない。それどころか、戦闘においての有利な位置にいるのだから優先すべきだろう。

 

「そうだな。さてと……」

 

現在の状況を確認。二階の敵を片付けるには、こちらがもっと高い位置、つまりラウンジよりも高さのある建物の見える位置に移動するか、それとも向こうが隙を見せてくれるぐらいだろう。

まずは前者だが、これは不可能。周囲にはコールレストランよりも高さがある建物はない。AR15がラウンジを見下ろすようにして銃撃が可能な建物は見える限りではないし、遠方にあったのだとしてもそれまで治安部隊が持ち堪えられる保証はない。

後者だが、こちらも先述したことから現状から直接叩くのは無理だ。それにラウンジに上がる為の階段はレストランの正面からしか昇降口はないため、もし階段を使う手段を取るのなら正面の五人を制圧する必要がある。しかし五人を倒そうしている間にラウンジの敵が再び攻撃してくることも考えられる。

加えて、ローガンはグリフィンから指示されている通り、拳銃とそれに関わる物のにしか持ち込んでおらず、鉄血との戦いであれば毎回持ち出しているスモークグレネードはもとより投擲物が今はない。そのためスモークを展開している間に二階に駆け上がるような強硬手段もとれない。

昨日AR15から優しく釘を刺されたこともあるため、ローガンとしても自分から身投げするようなこともするつもりはないが、自分としてもそんなつもりはなかったとしても他人にはそう映ってしまうこともある。

さて、どうしたものかと考えていた時だった。

 

「なあ、AR15。俺がお前を上の方に跳ぶ為の手助けをしたとして、どこまで行ける?」

「……大体三メートルぐらい行けるかもしれないわ。でもなぜ?」

 

こちらからの質問に答えてから後で聞き返してきた彼女にわかるように、ローガンはコールレストランの側面と幅二メートルぐらいあけて隣接している別の飲食店の間にある、上の方に伸びている円形のパイプを指差した。

 

「俺がお前の踏み台になってからあれでラウンジの方にお前が上って、そこにいる奴を片付ければいいと考えているんだがどうだ?」

「悪くない考えだけど、ローガン自身が踏み台になるわけじゃないでしょ?正確に言えば、あなたの両手がそうなるだけで私が高く跳ぶだけなんだから、そんな言い方しないで」

「……意図してなかったんだが自虐と捉えられちまった。とりあえず謝っておくよ」

 

もし今のように実戦で戦闘状態でなければ少々おちゃらけていたのかもしれないが、今は非常事態で自分達二人以外の命もかかっているのである。空気を読まなければ説教を食らうことは目に見えているので、頭を覗かせたふざけた時の自分を抑え込み、タイミングを見計らって店の側面へと走り出した。

途端にこちらの位置を再度補足した犯人が血走った目で再びこちらを狙いを絞る。

さっきはこちらが早く射撃できたが、今度は向こうの方が早かった。アサルトライフルに限らずサブマシンガンなどの小銃よりも軽量で構えるのも早いP226などの拳銃でも、事前にストックを肩に当てて銃身を持ち上げている敵には早さで負ける。

しかし忘れてはならないが、ローガンやAR15の二人で戦っているわけではない。

ここに誰よりも早く駆けつけて対処に当たっていた彼らの存在をないがしろにしていたその男は、一度撃たれたことで頭に血が上ったのか脳内から自然と過ぎ去っていたようだった。タァンッ!と銃声がしたと同時に足に弾丸を受け、その場で転倒した。

 

「そのまま行け、援護する!」

 

銃声がした背後からの声に振り返れば、ここに来てからこちらに情報を提供してくれた隊員が拳銃のマガジンを取り換えながら叫んでいた。側面に回れたローガンはその者に親指を空に向かって立てた後で、転倒して身動きが一時的にできなくなったその男に止めを刺したAR15にハンドサインでこちらに来るように指示。正しく理解したAR15は頷き、ローガンが援護射撃で陰から身を乗り出した瞬間に彼女はこちらの方へと駈け出した。一人がやられたことに気付いた他の覆面をしている犯人達は周りに叫び、残った四人の中の二人がこちらに銃口を向けてくるがローガンは発砲。装填しているマガジン内の弾丸を使いつくすつもりで撃ち、AR15がこちらの方に到達していることには、二人のうちの一人は銃のグリップを握っていた手を負傷し、もう一人は発砲した弾丸が一発頭部に命中し、額から血を流しながら倒れていた。

これで合計四人、敵から戦力を削いだなと思いながらローガンはリロード。弾のある新しいマガジンを代わりに装填し、セーフティをかけて奥で待機しているパートナーの方へと走った。

 

「ローガン、いつでもいいわよ。人形としての力も使うつもりでちょっと手が痛くなると思うから我慢して」

「それぐらいは承知しているし、どんと来いだ。むしろそのつもりで来いよ、高く跳ばないと反撃を食らっちまうぞ」

「もちろんわかってるわよ、そんなこと。行くわよ……三……二……一……!」

 

ダンッ!と初速をつけたAR15は組んだローガンの両手に片足を乗せる。衝撃とともに彼女の靴の感触と思ったよりもない当初のままの体重が手に乗った、その瞬間にローガンは自分の真上へと集中させた腕力を打ち上げる。

 

「うぉおおお……らぁ!」

 

打ち上げられたAR15はやや真上に跳び、高さが3.5メートルほどのラウンジの手摺まで両手を届かせて勢いを殺さずに駆け上がっていくのが見えたのがそれまで。相棒が忠告した通り、痛くないわけではなかったがそれほどのものではない。どちらかというと痺れの方が大きい。

右手を大きく振るったローガンはホルスターに戻していた拳銃を抜いて応戦が可能のようにすると、来た道を引き返し戦況を確認しようとした時だった。

 

『ローガン、ラウンジはクリア。残ってた一人はこっちが引き金を引く前に投降したわ』

「オーケー、仕事が早いな。そんじゃ片付けと―――」

 

いこうか、とまで続かなかった。今も交戦状態となっている本道の方に体を向けて歩き出そうとしたローガンの左斜め後ろの方から、バンッ!と裏の勝手口が開き、ぞろぞろと人が出てきたからである。咄嗟に反応できなかった。なにせ銃を構えたものの、最初に出てきたのは見るからに民間人で犯行グループの一人でなかったからだ。そのうちもう一人出てきたのが緑色の迷彩柄の防弾ベストを身につけて、民間人の背中に拳銃の銃口を突きつけている男。目元や口元しか露出していないバラクラバも目に入っても、一番最初に出てきた人物に思考をもっていかれていたため反応が遅れた。

 

「撃ち殺せぇ!!」

「っ!!」

 

タンタンタンッ!と指示を出したその男から先手を取られる前に咄嗟に発砲。射線上に人質はいない為、狙いを最低限にしかつけてはいなかったものの、喉元が弾けるように血が噴き出したため、命中した箇所は底だろう。でもだからといって、ローガンは一人を倒したからといってそこで安心してはいられなかった。

今撃ったのはリーダー格の犯人でほぼ間違いない。手に持っていたのは拳銃しかなく、身を隠したり人質を盾にするようなこともなしに、先にこちらが構えているのにも関わらず、攻撃をしようとしたことから戦い慣れていないことは目に見えている。

しかし、他人に攻撃指示を出すというのは上に立つ者がすることであり、部下が近くにいることを意味する。

 

「いたぞ!やれ、撃ち殺せ!」

「正義面したクソッタレが、ぶっ殺してやる!!」

 

一般人であれば突きつけられれば背筋が凍り、怯えることになるバレルがこちらに向けられた瞬間、ローガンは『ふざけんな』と内心で毒づきながら近くにあったごみ収集のボックスの陰に飛び込んで身を隠した。

ダララララララララララララッ!!とアサルトライフル二丁分の弾幕がマシンガンのように展開され、ボックスに着弾していく。

 

『ローガンっ、大丈夫!?』

「大丈夫、とは言えねえな!裏手の勝手口使って店の中から出てきた奴らと交戦中!そっちから狙えるか!?」

 

突然返事が途切れたことと裏手の方からの銃声で焦ったのか、相棒役の友人が無線越しにこちらの安否を確認してきたため銃声にかき消されないように怒鳴るように報告。

こちらからの援護要請に応えるために、さきほどローガンの手助けを借りながら跳躍したラウンジの手摺から身を半ば乗り出すようにしたが、何か問題があったようですぐに身を引っ込めた。その彼女にも狙いをつけたのか、一人がそちらの方にも発砲しだした。

 

「ダメ、位置が悪くて狙いをつけれない!射線上に人質もいるし撃ったら貫通して当たっちゃう!」

「ああくそっ!たしかにそいつは無理だな!」

 

しかもAR15にはタチが悪いことに、その人質を動かさないと来た。これでは新たな高速弾の有無にかかわらず、貫通力がある彼女の銃では延長線上にいる民間人に命中し重傷を負わせてしまう。ローガンも釘づけにされており身動きが全く取れない状態だった。

町を大規模に破壊したりしないようにするための理由だというのはわかるけど、装備の規制をしやがった野郎に一発怒鳴ってやりたくなる、と考えていたローガンだったが、彼の耳に犯行グループの者達の会話が聞こえてきた。

 

「もういい、お前達が人質と一緒にそいつを運んで行け!殿はオレ様がやってやる!」

「あんたがここで死んでしまったんじゃ今回の作戦を実行した意味がないのと同じだ!旦那が行ってくれ!」

「お前さんが逃げる為の時間をオレ達が稼げりゃ、もう成功したようなもんだ!頼むぜ、バーンズ!」

 

聞き取れた会話からして、殿を務めることでこちらを牽制しながら話し合っている。それ以上のことはまた銃声で掻き消され、なにも耳に届かなくなった。

 

「クソッ!鉛玉と銃声のオンパレードであちらさんの動きが全然わからねえ!」

「……時間を頂戴、ローガン。これだったら……!」

 

途端、こちら側にずっと撃っていた一つの銃声が消えた。横から覗いてみれば、一人が仰向けに倒れて力なく腕が投げ出されていた。コールレストランを見上げてみれば、二階ラウンジの屋根にAR15の顔が見えた。ラウンジの一部が屋内のように建設されているらしく、二階よりさらに高い位置の屋根から射撃したようだった。さらに高い位置からの射撃であれば、角度も動き人質に当たることもない。

ナイスショット、とローガンが言う暇もなく、レストランラウンジの方に牽制射撃を行った一人が最初にAR15を見つけた位置から狙いを動かし、新たに見つけた位置へと銃口を向けた。

その瞬間を逃さず、ローガンはボックスから立ち上がってP226の引き金を一回引いて銃弾を飛ばした。あっ、と向こうは反射的に一時こちらをノーマークにしてしまったこちらを見、口を開いたがもう遅い。発射された弾丸は狙い通りに人体の急所に命中させ制圧。

すぐさま警戒しながら前進し、壁に背を預けた状態から曲がり角で飛び出してさきほど交戦開始位置の方に銃を構えたが、そこに敵と思わしき人影はなかった。いたのは数人の民間人で、耳を押さえて怯えているだけであった。

 

「も、もうやめてください……あなたたちにはなにも……!」

「俺はグリフィンのローガン・ブラック。治安部隊の協力要請で来たが、こっちはもう大丈夫だ。だけどここにもう一人いたそうだけど、どこに向かったか見てないか?」

「そ、それでしたら、荷物抱えた状態で細道の方へ……」

 

数人の中でまだ精神的に落ち着いている一人の男性を見つけたローガンはそちらの方に駆け寄り、銃で怯えないように自分の体で隠し、しゃがんで目線を合わせて聞いたところ人質を一人連れて裏路地の方に向かっていったらしい。指された方角は北東で砂利道のように舗装されておらず凸凹したような道だった。日当たりも良くない影の道の先にある下り階段の先は遠くに最近完成した高速道路が見えた。

元々北区はこの間ローガン達が出向いた商業施設のモールがあったりするように、建設技術が他よりも違う。新しい物が人々の興味や関心を刺激するように商業施設の発展が目覚ましいことから、建設の業者達も力が入っているらしい。

だが今回ローガンに対しては不利な状況を与えている。

 

「……この先は車とかの通行量が多いどころか人口密度も高いエリアだ。そんなところに行かれたら」

『……万が一、逃げた犯人がこちらに銃を撃ってきた場合、大混乱が起きること間違いないわね』

 

人混みの中で銃声を鳴らせば、阿鼻叫喚でこちらは銃撃戦どころじゃなくなる。民間人への誤射はしてはならないのだからこちらから攻撃が出来なくなってしまうのだ。

それでもこのまま見過ごすわけにはいかない。ローガンは幾分逡巡した後で無線機に手をやりながらレストランの屋上にいるAR15の方を見上げた。

 

「AR15、お前は表にいる治安部隊の奴らを助けてやってくれ。俺は逃げた奴のあとを追跡する」

『一人で行くつもり?それだったら私も……!』

「悪いけどそれダメだ。ここにいる民間人たちだけじゃなく、彼らも俺達の助けを必要としている。それにせっかくの有利なポジションに着けて早急に片がつけれるのにそのチャンスは棒に振れない、そうじゃないか?だからといって、俺はここから逃げた奴も無視でできない」

 

進行している状況からして、どちらも捨て置くことはできないことをどこかでわかってはいるのだろうが、様々な要因から首を縦に振ることができないようだった。そんな風に精神的に苦悶しているのが見えたローガンは先程話を聞いた民間人から逃亡している犯人の特徴を聞き出す。身に着けている物や身長などを聞いてから、もう一度屋上からこちらを見降ろしているAR15の方に笑いかけた。

 

「ここを任せるのは俺のお前への信頼だよ。お前一人でもここの制圧ならやれないわけじゃないだろ?俺だってバジャーさえあればあいつらなんていちころだっての」

『……口では何とでも言えるわよ、ローガン。ダミーが扱えないあなたがなにをどうしたら勝てるのよ』

「……なんとか」

『なによそれ。結局はやっぱり口先だけじゃないのよ』

 

若干怒ったような口調になったことでローガンは彼女の機嫌を損なったことでしくじったと思い身を少し縮こまらせたが、その後で聞こえてきた深い溜息と台詞でそれが杞憂だったことを知った。

 

『……とりあえずわかったわ。私もここが片付け終わり次第そっちに向かうから。……そうね、それまではストッパー役を彼女達に任せようかしら』

 

ストッパー……?、と首を傾げたローガンだったがすぐにそれが誰になるのかが思いつき『良薬は口に苦し』ということで飲み薬を飲まされていた数日前と同じ気分になった。

苦手な人物の二人に出くわした場合はどう言えばいい?、と実際に出くわした416も依然聞かれた際は、こういう時は『うへぇ』と漏らせば間違いないだろうと言った時のことを思い出す。AR15は名前まで今のところ口にはしていないが、二人の戦術人形が思い当った。一人は、まだいい。まだ付き合いはそこまでないものの、頑張り屋で人当たりも良いのだから。この間ローガンが注文していた昼食のメインを同じく初めて食べて顔を輝かせていたぐらい、表情も豊かだ。問題はもう一人だ。それはAR15だってわかってくれているはずだが……?

と、そこで現場に到着するまでの一言に帰結したことに思い当たった。

こちらに背を向けてしまっているからわからないが、きっといい笑顔を浮かべているのかもしれない。

普段やろうとは考えないことはするものじゃないな。そう思いながらローガンはP226の残りの弾倉を確認。まだそこまで距離を稼がれていないはずだと思いながら階段を数段飛ばしながら走った。




戦闘が八割方。ただしまだ終わっていない状態で次回へ……。気持ちよくない終わり方じゃないにしても、こういうのはなかなかないんじゃないかな……。
前書きでも言ってますが、書いている最中にP226の使用する弾薬はパラベラム弾だよなと思い、確認がてらネットで検索したのですが、あんなにも多い物なんですね。私がP226という拳銃を知ったのは今から七年ほど前になりますが、その頃までは拳銃と言われて真っ先に思い浮かべるのは、M92FことベレッタだとかDE50ことデザートイーグルとかでした。特に前者では、有名な某ホラーゲームでカスタムガンとして登場し、リアルの方でガスガンになりましたしね。なによあのデザイン、カッコ良すぎでしょ。バレルがシルバーでスライドが黒色とか。グリップとかもマークも……あああ、ロマンを感じますわ……。そういうゲームもやっていて分かる人には分かる筈……。
それはともかく、グローザが関わってくる話としては『起承転結』にあたる『起』の部分でございます。今の時点ではまだ、と言えるでしょうけどいつまでになるかなこれは。銃が関わってくる話での戦闘描写は難しいものですね。や、単に私がハードルを上げているだけかもしれないですけども、あーだこーだと考えながらやっていたら今感じに……あーもう、胃がキリキリと。
てなわけで今回はこの辺で。
ではでは―――

『免停待ったなし』
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