誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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二人称の呼び方で原作と違っているかもしれません。その時はこういう世界線かという感じで受け入れてくださるとありがたいです。


1.誰にでもあること -Don`t worry.Do your best-

「私たちとは別で行動していた二人にも連絡してみたところ、遅れることにはなるが向かうそうだ!だが戦闘音だけでは詳しい場所をあいつらは知らない!なにか遠くからでもわかるものでもあるか!?」

「俺達の手持ちに位置をマーキングするためのカラースモークグレネードがある!それなりに距離があってもわかるだろ!」

 

端末で確認できる戦闘状況を見て、ローガンは即席チームと共に走っていた。すぐ横には眼帯をした戦術人形―――M16―――がいる。彼女は耳元に無線機を当てながら喋っている。すぐ後ろにはAR15が遅れず着いてきており、バックアタックを食らわないようにケイドは最後尾を走っていた。

走りながら聞いていたところ、AR小隊の戦術人形は四体。ローガンとケイドと共にいるAR15とM16と同小隊の戦術人形も援軍に駆けつけるとのことだった。

 

「M16、私たちはさきほどの戦闘でダミーを全て失ってる。弾薬も少ないですし、いつもとは違った戦術が必要よ」

「ああそうだな。下手に前に出すぎればハチの巣になるのは明確だ。ローガン、なにか作戦はあるのか?」

「まずは鉄血と本格的にやり合う前にブラボー達の撤退を援護してやらないとだ。まだ戦える奴はともかく、負傷した連中を安全なところまで下がらせなければならない!」

「戦場に本当に安全な場所なんてないわ。それだったら敵を殲滅を行う方が効率がいいはずよ」

「あくまで今回の目的は『殲滅』も考えたブラボー達の『救援』だ。今回は敵を全滅させることじゃなく救出を前提に行動する!」

「だけどそれだと―――」

 

そう話していると目的地に到着する。物陰から戦場を見渡し

予めローガンが所属するグランドが定めていた集合ポイントは干上がった川を基とした帰還ラインの手前である。沿岸の数ヶ所を軍用のSUVでも通れるよう緩やかな坂に工事されているのだが、その坂の根本の部分でローガンとケイドの友軍が戦っているのが確認できる。だが懸命に戦っている彼らよりも鉄血の戦術人形達の頭数が多すぎるのである。さきほどAR15達が倒した部隊よりも、である。

 

「……こいつは、救援してからの撤退を第一に考えた方が良さそうだな」

「まさかここまでとは……!」

 

目の前の戦場に対しM16は半笑いになっていた。AR15もわずかながら目を見開き、モノクロの敵兵を見て驚きを露にしている。

 

「ゆっくりはしていられねーし、早速動いた方がいいだろ。ローガン?」

「ああ、そうだが……お二人さん、そちらはどう動くよ?」

 

戦場に飛び込む気持ち的な用意を済ませたケイドがローガンに笑みを浮かべる。だが今回の戦いにおける援軍は彼らだけではない。ローガンは見返りを求める代わりに協力を提案した戦術人形の二体に問うた。

チームといっても、グランド所属のローガン達とグリフィンの部隊のAR15とM16。お互いに気性も戦闘時の動きの癖も何も知らない。それに誰にでもできることとできないこと、得意なことと苦手なことがあるのは当たり前である。うまく立ち回るためにどのようにしているのかはこの際置いておくとしても、元のチームではどのポジションに就いていたかは知る必要があった。それに、ローガンからすればこのチーム内には上下関係のような立場の違いなどないと感じていた。

 

「頭数ではこちらの旗色が悪いのは確かだ。その上負傷者の救出となれば尚更。連携で敵を切り崩すしかないだろうな。それでいいよな、AR15」

「ええ、そうするしかないわね。作戦としてはどうするのですか?」

「まずはお前たちがどう動くのかを教えてくれないか。そうすれば―――」

 

ローガンはベルトに引っ掛けていたグレネードポーチからカラースモークグレネードをケイドに投げ渡す。義足のカードリッジの残量を確認した相棒はそれを受け取り、手入れがあまりされていないせいか傷だらけのサブマシンガンMPXのストックを引っ張って拡張させている。いつもは全力で止まることなく走り、必要になれば発砲する彼でも知り合ったばかりの仲間と現在の状況からいつもよりも緊張していることが伺えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そんじゃ行くぞ。カバーよろしく頼むぞお二人さん!』

『前に出すぎるような無茶は絶対しないさ。そのかわり危なくなったら助けてくれよ、立案者さんよ!』

 

ブラボー達の交戦位置から逆側、挟み撃ちを行う位置についたケイドとM16からの通信が入る。ローガンはカスタムM4のセレクトレシーバーをシングルに切り替えつつ、物陰から撃てるように姿勢を安定させているのを横目で確認した。

 

「よし、作戦開始だ。十秒後にハンドグレネードを投げて炸裂したら撃ち始めろ」

 

そう言うとローガンは無線の周波数を切り替え、懸命に堪えているブラボーに繋いだ。

 

「待たせたなブラボー2。そちらの向いている方向、鉄血のケツを一点突破でアルファ2とお客さんが蹴り上げる!誤射に注意してくれ!」

『ようやく来てくれたかローガン!ケイドはともかくお客さんてのは何者だ!?』

「説明は後だ!報酬を求められてはいるがとにかくこっちに味方してくれる!」

『なるほどオーケー!それと本部からの砲撃支援の準備がもうすぐ終わるそうだ!』

「了解した。そちらの幸運を祈る」

 

ノイズ混じりの通信を終了させたのとケイドが投げたグレネードが爆発したのは同時だった。

そこからさらにカラースモークを発生させたケイドは機動力を駆使しつつ、反応に遅れている鉄血の戦術人形達を屠っていく。M16も油断していた敵を盾にしつつ、自身と同じ名であり分身と言えるアサルトライフルを発砲して確実に前進していく。

とはいえ、前衛でブラボー達の元を目指す彼らが実力を発揮していても捌ききれない鉄血はいる。同時に二体の敵に狙われる、空になった弾倉を交換するといったどうしようもない状況になるのは必然である。

その穴を埋める役割を担うのがローガンとAR15である。AR小隊で盾役を担うM16であるのに対し、AR15は少し下がったところで火力を出すとのことだったので彼女には二人の援護の役を共にやってもらうことになったのである。

 

『十一時の方向……クソッ、ありゃあガトリングじゃねえかよ!』

「AR15、狙えるか」

「大丈夫、射線はちゃんと通ってる!」

『っと!助かったぞ、サンキュー!』

 

ダァンッ!と言った直後にAR15は発砲する。ローガンからは見えないが、命中し倒したらしくケイドが礼を言っている。

 

「M16、そこの壁で少し待ってくれ」

 

彼女の進行方向にロケットランチャー、RPGを構えて撃とうとしている鉄血を確認したローガンは指示を飛ばす。そして息を大きく吸い、止めると三回引き金を引いた。ダン、ダン、ダン!と肩に来る衝撃を感じつつサイトを覗いて狙っていた敵の戦術人形を注視する。半分は狙い通り、もう半分は当たればラッキーといったところだった。撃った三発の弾丸のうち一発は剥き出しの弾頭に直撃、爆発したのである。 不幸な鉄血達は仲間の巻き添えを食らい木端微塵。無論、離れている位置の壁に隠れていたM16は無傷である。

 

『おいおいマジか!あんたどれだけの場数を踏めばそんな腕が身に付くんだよ!』

「なけなしの運を使っただけさ!それよりも囲まれる前に急げ!」

『わかってるさ!とにかく助かったよ!』

 

ローガンは笑いながら新しいマガジンを装填する。たしかに、このような結果になったのは彼にとっても運が良かったとしか言いようがなかった。

 

「リロード!マガジンラスト!」

「ほら、まだあるぞ!大事に使えよ!」

 

残っているマガジンのうちの二つを臨時の相棒の足元に滑らせる。彼女がそれを拾い上げて礼を言おうとした瞬間、ローガンと二人でいる高所の背後から爆音が轟く。予め仕掛けてトラップが起動したのである。

 

「来やがったな……!AR15!」

「わかってる!M16、こっちにも鉄血が来た。もう援護はできないけど頑張って!」

『了解だ!気をつけろよ!』

 

ここまで打ち合わせ通りである。

こちらからブラボー達への先遣隊としてケイド達を行かせたとして、中距離~遠距離から援護しているローガンとAR15の方になにも攻撃が来ないわけではないことは当たり前である。現に、先程までの援護射撃では当たりはしないものの数発の鉄血からの弾丸が飛んできていたのである。そして援護位置の背後からの爆発音。頭を使った鉄血の戦術人形が迫ってくることは重々承知しているローガンは、グランドが付近に防衛物資として予め用意していたクレイモアを鳴子としてAR15と一緒に仕掛けていたのである。

そしてアンカーを地面へと突き刺し、ラぺリング用のロープをセット。AR15がそうしてる間にローガンは手持ちのC4爆弾を数ヶ所に設置した。

 

「こっちはいいわ!」

「よし、先に降りてろ!俺もすぐに行く!」

 

着地地点を確保するためのスモークグレネードを投げ渡したローガンは最後のC4を仕掛け、先にラぺリングしたAR15の後を追って飛び降りる。銃声が頭上で轟いている間に地面に着地、AR15も降りていることを確認したローガンは彼女と共に先程までいた高所を見上げつつ距離をとった。そしてそこから鉄血達の顔を覗かせた瞬間、ローガンは手元のリモコンでC4を起爆。ドォオオオオオオオンッ!!と朝方なので早すぎる花火派手に上がり、哀れな鉄血達は吹っ飛んだ。

 

「うっし、こっからだ。先行する、続いて来いよ!」

「ええ!」

 

ローガンはカスタムM4の射撃モードをフルオートに切り替え、ケイドとM16がぶっちぎった敵の軍勢の中に手持ちに残っている二つのスモークグレネードを放った。プシューと音を立てて灰色の煙が立ち上った空間に二人は突っ込んだ。曇っている視界のなかで確認できる敵のみを倒しながら前進し、こちらに掴みかかってくる鉄血がいた場合はナイフで切り裂いた。

だが何事にもアクシデントというのは付き物だ。遅れずローガンに追従していたAR15が不意打ちを受けて止まってしまったのである。

 

「あっ……!」

 

予定していたコースから大きく外れ、AR15は敵に組みつかれ銃が発砲できる状況でなくなってしまったのだ。

敵の戦術人形と取っ組み合い、地面に転がりまわる。時間との勝負、切迫した状況に焦りが生じ冷静な判断ができなくなってきてしまったAR15だったが―――。

ダンダンッ!とローガンがP226をホルスターから抜き、危機に直面していた彼女を助け出した。自分が手を下さず倒れた敵を目の前にして一瞬呆けてしまったAR15の前にローガンは走り寄った。

 

「急ぐぞ、来い!」

 

地面に座り込んでしまっているAR15に有無言わさずに立ち上がらせる。そして彼女の左手を引いてローガンは走り出した。

 

「は、放してください!もう大丈夫ですから!」

 

手を引かれている状態で我に返ったAR15は少し顔を赤くしてそう叫んだが、ローガンには周りの銃声と爆音で聞こえていない。そこでケイドからの無線が入った。

 

『アルファ1!HQからブラボー2に連絡が入った!迫撃砲による支援が来るぞ、全力で走れぇ!!』

 

そう言われた以上、ローガンとしては急ぐより他はない。爆発物による味方の支援はありがたいが、巻き込まれるのはごめんである。

 

「AR15、走れぇ!のんびりしてたら迫撃砲で畜生どもとこの世からおさらばだ!!」

「だからもう放してくださいよ!一人でもう走れますからぁ!!」

 

状況が状況なだけに仕方がないわけだが、衰えない戦術人形の聴覚でローガンが言ってることは聞き取れても彼には聞こえていないので意味がない。

そして立ち上るスモークから抜けた二人を援護するために、辿り着いたケイドとM16を筆頭とした兵士たちが持っている銃器で鉄血達を射撃する。鉄血の最前線を目の前にしたあたりで聞き覚えのある音が空から聞こえてくる。間に合わないと判断したローガンは咄嗟に後ろを走っていたAR15を自分の方に引っ張った。

そして、ッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!と腹に響く爆音がした瞬間、襲ってきたのは立っていられないほどの爆風と身を焦がす熱であった。

AR15を抱え込むように庇ったローガンは彼女と共に吹っ飛ばされ、地面に後頭部を激しく打ち付けて意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

激しく燃える見覚えのある紅いシンボルマークが売りだった民家。掌には無数の紅い切り傷と痛々しい火傷。夜空に浮かぶ紅い月。

紅、紅、紅。

あの日、刻み付けられた記憶に印象深く残っているのは紅いものばかりで。

それがとてつもなく、どうしようなく悲しかった。

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ」

 

急速に意識が浮上し、眩しい光が視界に飛び込んでくる。数回瞬きをしてからぼやけているのを治めた後で、首を動かして周囲を確認。見慣れた壁紙と床、ベッド、手洗い場。自分が所属する部隊の独房であることがわかった。

意識を失ってからどれだけの時間が経ったのか、あの場の敵はどうなったのか、死傷者は出たのか、そして自身が庇った少女をはじめとした仲間たちは無事なのか。

知りたいことは山のようにあったため、ローガンはベッドから脚を下ろし立ち上がったが、視界がぐらつきまたすぐに腰を下ろすことになってしまった。

 

「かーったく、ちきしょう……」

 

無意識に口から出た独り言とため息。

とはいってもここで立ち上がったとしても出歩くことがかなわないので意味がない。それに、独房に入れられるだけの大きな理由がローガンには思い当たらない。だがそれは、司令官としての良識を弁えていたとしての話だが。

 

「……よう、お目覚めかい」

 

あれこれ考えているローガンの耳にこちらも聞き慣れたくたびれたような男性の声が届く。顔を上げると、そこにはグランドの制服に身を包んだ看守が苦笑いを浮かべながらこちらを見ていた。

 

「ああ。こっちが寝てる間に我が家に勝手に放り込んでくれるとは、相変わらずあの基地司令は俺のことが嫌いなんだな」

「ここを我が家と言ってくれるな。お前さんの為に、毎食持って行ってやってるこっちの身になってくれ。兵役を終えてここに来てからお前さんの話を全く聞かない日は一日もないぞ」

「それだけ部隊で活躍しているって思ってくれよ」

「ぬかせ」

 

最早独房に入れられてから定番事項の一つとも言えるようになった看守との軽口の叩き合い。頭を光らせ厳格そうな顔つきをしているこの看守はローガンにとっては仲の良い親戚の叔父のような存在である。

それから看守から様々なことが聞けた。

まとめると、ローガンが気を失ってから推定で三時間ほど経過しているとのこと。脳震盪を起こした上に地面に摩擦を起こしながら滑ったことで頭に包帯が巻かれている以外にも体中にも様々な処置がされていた。ローガンが気を失ってからもケイド達が奮戦して迫撃砲で散り散りになり始めた鉄血達の制圧戦になり始めたころにAR小隊の残りのメンバーも合流し、戦場を蹂躙したとのこと。そしてローガンが庇ったAR15をはじめとした仲間たちも無事であるということだった。辛うじて命を繋ぎとめたブラボー1と迎えの隊員たちも現在医務室で安静にしているという。

 

「それにしてもお前さんに砲撃を知らせずにブラボーにのみ教えるとはな。もう本格的に殺しに来てるぞノートンめ」

「自分の家が貴族だった頃の権力を振りかざして部下たちを黙らせているんだろうな。いつかは内部の誰かから暗殺されるんじゃないかと思うんだが粘るな」

 

迫撃砲による敵の殲滅は適当な判断だっただろうとローガンも思う。地上部隊を向かわせるのだとしても、移動などで時間を食ってしまい到着する頃には手遅れという定番の結果になりかねなかった。そこで基地からの遠距離支援として、旧世代の兵器である迫撃砲で攻撃したのは間違っていないと誰もが思うだろう。だが、そこでブラボー2からの要請に応えたオペレーターとは別の意思が働いたと見える。

 

「私もチラッとお前さんたちが帰還した際にあの新人オペレーターを見かけたんだが、気を失っているお前さんを見て顔面蒼白どころか死人の顔色になっちまってたよ。聞いた話じゃ、有効にしていたはずのアルファへのチャンネルが閉じられていたそうだ。やった筈の当人は否定しているがな」

「あー……それはお気の毒に」

「お前さんとケイドの坊主が招待した客人方もカンカンだ。特に桃髪の子と黒髪眼帯の子がね。桃髪の子なんざ、自軍の基地に戻った暁には指揮官に報告するとまでね」

「AR15が?」

「戦術人形ってのはあれほどの感情表現が豊かなんだな。私も長い間生きてきたが、あそこまで怒っている様を見かけたことなんざそうそうない」

「そんで?彼女達は罵詈雑言をぶつけたわけじゃないだろ。ただただ言われたことをやるだけのポンコツとは違ってちゃんと物事を考えて動けていた奴らだ。ちゃんとキレる訳も言ってたんじゃないか」

「ああ。ブラボー達がHQにアルファチームも救援に向かうことを報告していたのを踏まえて、『アルファチームの彼らにもちゃんと支援を話して弾着するまでの時間を言ってたのならいい。だが本人たちに何も言わず、遠回りのような形で知らせるとは……!』云々とね。まあ、他所の自分たちも危うく巻き添えを食うところだったからキレるのも筋が通ってる」

 

おぉう……とローガンは慄いた。普段自分達の前では威張り散らしているノートンという名の無能司令官がそんなことを言われてどのようになってたのかを知りたいと思ったが、それは後で独房から出たときにケイドがその場にいたら教えてくれるのかもしれない。

 

「まあともかく休みな。頭を打った以外には少し範囲が大きい火傷を負っただけで特にデカい怪我はないみたいだしな」

 

看守はそういうとゲートの一部を開け、肉や野菜などのいくつかのメニューを載せたプレートを置いていった。そういえば朝方ろくなのを食べてなかったよな……とローガンは重い体を動かして食事にありついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

独房に入ると特にこれといったやることはない。強いていえば、天井のシミを数えるか独房内で筋トレするぐらいである。だが怪我をしてしまってロクに体を動かすこともままならないため、シミを数えるか睡魔が来ないまま目を閉じてベッドの上で転がっているぐらいしかできることはない。

夕日が狭い窓から差し込んだ今より少し前に疲れた様子でありながらもニヤニヤしているケイドが面会に来た。回収したドローンの扱いが悪いと研究開発部門から小言をもらったり事後処理などを行ったりと、普段であればローガンと二人でやることを一人でやったため積み重なった疲労も単純に二倍なのであった。そんな彼であったが、ノートンがAR15を中心としてAR小隊の面々から説教をもらったり、訓練に勤しんでいる他の兵士達が利用している設備があまりにもお粗末だとメンタルをズタズタにされてたようだった。そんな話をケイドから聞いたローガンは怪我の痛みを忘れて腹を抱えて笑った。

それが数時間前、ケイドがまた事務処理に戻ってから現在。さすがに爆笑の波は過ぎ去り、その反動か退屈になってしまっていた。

こんな時間があったらせめて銃の手入れとかそんな地味な作業をさせて欲しいなと考えていたらいつの間にか転寝をしていたらしい。

独房の格子になにかが当たった音がした瞬間、ローガンは跳ね起きた。

 

「ぶぇ!?」

 

そんな間抜けな声を出して起き上がり音のした方を見てみると、そこには朝の戦闘で相棒として戦場を走った戦術人形がいた。

 

「……ごめんなさい。寝ていたのだから起こすつもりはなかったのだけれど」

「……気にするな。下手に寝すぎてしまえば変なところで支障をきたすからな」

 

さすがに気まずそうな顔をしているAR15に欠伸混じりでそう返した。見てみたところ、目立った外傷はない。顔に湿布のような絆創膏を貼っているぐらいで大丈夫そうだった。

 

「お互いに無事で何よりだよ。今じゃいつ死んでもおかしくないからな」

「無事といってもあなたは傷だらけじゃない」

「五体満足で命をもって戻ってこれたら無事って俺は思っているからな」

「なによそれ」

 

おどけたようなローガンの台詞にAR15はクスリと笑った。しかし、何かを思い出したのか表情が先程よりも暗くなった。

 

「ごめんなさい。私があそこでミスをしなければ、あなたがここまでのことにならなかった」

「それこそ気にするなよ。運だとかタイミングというものには技術を磨いてもどうやっても抗えない。それにあんな状況下じゃ、奴らだって俺達と同じことをしてくることだって十分有り得たんだ」

「でも、私がもっとしっかりとしていれば……」

「あのな、俺があそこでああしたからお前さんは生きてるんだろうが」

 

ローガンはベッドから立ち上がり、格子の隙間から腕をすり抜けさせ肩にやさしく手を置いた。置いた瞬間、俯いていたAR15が体をビクリと震わせ恐る恐るといった感じで顔を上げる。その目は自身への呵責と申し訳なさで淀んでしまっていた。

 

「もしあそこで置いていってしまったとしたら、俺は自分を許せなくなる。お前はそうならないようにしてくれたんだよ」

「私が……?」

「ああそうさ。それにお前だってできるんだったら大勢で任務を達成して帰りたいだろ」

「……ええ。私だって任務を達成する時だってAR小隊全員でして帰還するんだって決めてるから」

「そういうことさ。基地に帰還したら、助けれなかった命に謝るのは間違っちゃいないさ。だけどそれよりも、一緒に生還できた奴らと達成感を味わえるだろ。そんでビールで乾杯して飯食って大騒ぎ。終わった翌日に今度同じような状況に直面したらどうしたら犠牲を少なくできるかを考えればいいのさ」

 

過去にした経験をローガンは時折思い出すことがある。たとえば、鉄血に人質として捕えられた民間人の救出を命じられた時とか。その時は救出するのにあたっていた兵士数人と民間人も多くやられてしまった。帰還してからローガンは自分を責め、助けれなかった人達への謝罪を口に出さずに続けていた。だがその時、今は亡き教官から『兵士として戦場に出た以上、死ぬのは覚悟しなければならない。それにお前は民間人を数人死なせたんじゃなく、それ以上のあいつらを助けたんだ。それは恥じることも謙遜する必要ない、胸を張って誇れることだ』と、ただでさえ少ない配給ビールを置いていってくれたのである。

 

「それに、お前は俺があの時した判断を間違っていると言うか?」

「そ、そんなことは言うつもりはないに決まってるじゃない!」

「だったら、言うべき台詞は『ごめんなさい』じゃないだろ?」

 

ニヤリとローガンは笑いかけてやる。一瞬呆けた表情になったAR15だったが、すぐにそういうことかといったように肩を竦めた。

 

「……ありがとう、ローガン。私を助けてくれて」

「どういたしまして。お前はもっと強くなれるよ」

 

迷いの雲は晴れたような顔になったAR15に激励を贈ってやる。そして肩からポンポンと軽く叩いた。

 

「そんで、謝りに来ただけだったのか?」

「ううん。実は私たちを迎えにここまでグリフィンがヘリを送ってくれたのよ。それがもう少しで到着するってことだから挨拶に来たの」

「そういうことだったのか。こっちに来てから……いや、やっぱりいい」

 

藪をつついて蛇を出すところであった。ケイドから話を聞いておいてよかったとローガンは心底思った。首を傾げたAR15に誤魔化すように笑みを浮かべる。

 

「ともかく、こっちとしても今回の経験は貴重だったよ。グリフィンの部隊であるお前達と戦えてよかった」

「こちらこそ。鉄血の戦術人形に対して物怖じせずに戦うあなたと戦線を共にできてよかったわ。姉さんもあなたとケイドを高く評価していたし」

「そいつはよかった。……気をつけてな」

「ええ、ありがとう」

 

握手をかわしたAR15は振り返ることなく去って行った。ローガンはその後姿を見えなくなるまで見送り、先程までのやり取りを思い出す。

 

「……なに恥ずかしいことを言ってんだよ、俺」

 

なにも考えることなく自然に口から出た台詞に溜息を漏らす。ベッドに腰掛けて悶えていると、基地のどこかからかヘリのローター音が聞こえてきた。AR15が言ってた、グリフィンからの迎えのヘリの音だろう。

そういえば、とローガンは思い直す。なぜAR小隊はあの区域に、四体で固まって動かずにわざわざツーマンセルを組んで行動していたのかがわからなかった。自分達と同じように地形のデータ採取?いや、彼女たちはそうするのに必要な機械などをなにも出していない。それに彼女たちの装備を見た限り、戦闘になった時に使うものだけでそれ以外の物は見当たらなかった。一体……?

そうこう考えているとヘリの音は段々と離れていき、次第に聞こえなくなった。聞くべき本人たちがいないのにわからないことを考えても仕方ないと思ったローガンは限られた窓から見える空を見た。

 

「また明日から頑張らないとだな……」

 

夕日が完全に沈む前にもう少しでこの独房から出られることだろう、なら明日からどうするかケイドと話さないとだな。

そうローガンは暗くなりつつある空を見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

その日の夜のことだった。グリフィンのヘリが撃墜されたのを確認したという報告がローガンの元に来たのは。




思ったよりも随分早くできたなぁ……。
戦闘描写も随分と久しぶりです。これがあーなって、こいつがこう行ってー……てな感じで打ち込んでましたけど、銃での戦闘は剣とかの近接戦闘とは別の楽しみがあっていいですな。ロマンがあります。うん、楽しい。自分の思ったストーリー展開が進めていけるというのはやっぱり楽しいです。
ともかく、次回も大体の構図は出来上がっているので……いえ、やっぱりこちらのペースでやらせてください。期限とか納期とかの単語で胃がキリキリというので(笑)
それでは―――



『救援(殲滅)』

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