誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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申し訳ない……


19.狼と爆炎 -Beware of burns-

人混みが見える前には拳銃がまず彼らの目に入らないようにホルスターに収納したローガンは、逃亡者の特徴を脳内で反芻しながら目を凝らしながら探していた。

もう一班との情報共有も兼ねて言ったが、それでもどこかで意識しながら捜索しなくてはどこかで脳内からフェードアウトしてしまうことは間違いなかった。

横断歩道の信号が変わったことで、歩道の手前で待っていた人混みが動き始める。バタバタと走ったり歩いたりするなかにローガンも混ざり、周囲に目を配りながら道路を挟んだ対岸の方へと移動する。

背丈が一般男性とそんなにかわらないローガンからすれば、位置を別の地点に移してもそのまま立っているだけでは全体を見渡すことなどできない。

それを解消すべく近場にあった数段高さのある広場へと続く階段に足を向けて視界に入るだけの人の服装などを確認するが、やはりというかこれといっておかしいと思える人物はいなかった。

 

『現在こちらはN15-5でそちらに向かっています。捜索対象は今のところどうですか?』

「ダメだ、やっぱりインパクトのある印象を与えるバラクラバと防弾ベストを脱ぎ捨てられたのは大きいな。銃は持っているだろうけど、こんな人口密度のあるところじゃ全然わからない」

 

コールレストランに残って戦闘続行していくAR15と別れ、ここまで来る道中で道端に人相を隠す役割を果たすバラクラバと銃弾から身を守る防弾ベストが落ちているのをローガンは発見した。そのことを車両に乗った状態で捜索することにしているスオミの一班にも報告したものの、頭によぎったのは逃亡犯と数分前に射殺した犯行グループの男達の会話の内容だった。

今となっては事細かく覚えていないが、ローガンは『バーンズ』という名にどこかで引っかかっていた。その名に関する報告書をどこかで読んだはずなのだが思い出せない。

だが追跡されることを踏んで、目立つ一部の装備の投棄を行ったということはこの男は逃げ慣れている。冷静になれば誰でも思い浮かぶことだろうが、銃撃による命のやり取りをしていたというのにこの考えに思い当たるということは、当人の性格だけでなく幾分かの経験も関わってくるはずだ。唯一頼れる目印としては事件に巻き込まれた当人たちから聞いた、なにかしらかの料理の素材が入っている、肩に担いで持って行ける大きさの麻袋を持っていることのみだった。

「もうN12-4にはいないとして、俺はこれから13に入る。スムーズに走って逃げれるのだとしても、それなりの重量はある物を担いでいるんだ。通常通りに走れるはずがない」

『わかりました。それとローガンさんは小道の方を主に探してもらえますか?表道の方は治安部隊の方たちからも捜索してもらえますが、12と13区の小道は狭いだけでなく直角に入り組んでいて私達のだけじゃなく彼らのも難しいんです。追跡速度は落ちても小回りが車両よりもきくローガンさんの足の速さなら及第点です』

『でも責任重大だということは忘れずにね、ローガン・ブラック。誰よりも犯人に近いのはあなたよ』

「……わかってるさ。俺だって自らミスしたくない」

 

グランドの司令官、ノートンほどじゃなくても嫌に思えてきたその声にローガンはある種の緊張を感じながら小道の方に走った。本道とは違い、小石や空き缶などが転がっているその道をローガンは全力で走り抜ける。人通りが限りなく少ないことで足音もそうなるだけでなく、走り抜けることができる。視覚や聴覚の五感の二つに全力全霊を注いで違和感を探す。単純に足音を聞くのではなく、麻袋を持った人物、銃などが揺れることで起こる金属音。それらを目印に探していった。

 

『ローガン、こっちはもう制圧して片付けた。現場はもう彼らに任せて私もそっちに合流するわよ』

『でも、あなたがそのまま行ったとしても目立ってしまって却って見つからない可能性があるわ』

『でしたらAR15さんはその場で治安部隊の手が空いている方がいたら共に捜索できますか?徒歩で向かうとグローザさんの言う通り、ライフルが目立って民間人に悪い影響が出てしまいます。言い方は悪いですが、そのままで向かわずに足を確保した状態で彼らに紛れて行動してください』

 

彼女達の通信を頭に入れつつも足を止めずに走り続ける。

スオミからの情報通り、ここは車に乗ったままでの捜索は無理に等しい。二人がすれ違うのもなんとかできる程度の道幅しかない為、徒歩や自転車かバイクとかでなけらばここを通行するのはできない。おまけに結成されているボランティア団体もここまでは行き届いているわけではないらしく、散らばっているゴミの量も酷い。なぜ本道とはここまでの差があるのか不思議に思うぐらいだ。

腐臭が鼻を突いてくるゴミ袋を飛び越えたローガンの無線機から、逡巡したAR15の声が聞こえてきた。

 

『……わかったわ。ローガン、無茶は絶対にしないで。それとスオミ、こっちで拘束した犯人の一人がいるけど彼らに引き渡すということでいいかしら?』

『かまいません。なにかわかればこちらの方にも情報が回ってきますので、今は置いておきましょう』

 

傾斜がある道ではないが、鍛えられた軍人でも走り続ければ疲労というのは少なからずは溜まってくるものだ。直進するだけでなく右へ左へも走っているうちにローガンの息が上がってきた。時折すれ違うか横切るか、または追い越す人全員が何事かとこちらの方に視線を向けてくるが、それぞれの人相や格好を見るだけにして懇切丁寧に構ってはいられない。

息を切らしながら走り続け、やがて本道の方に面する小道の出口に辿り着いた。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

膝に両手をついて肺に大量の酸素を送り込む。地面を見下ろすようにしていると、自分の顔から垂れ落ちた汗がアスファルトの路面にシミを作り出す。

追跡対象とは別の道に進んでしまったのか、または自分が思ったよりも相手の移動速度が早かったのか、それとも段々と鈍っていった五感が必要な情報を拾えなかったのか。或いはここではない別の道を使ったのかはわからない。

いずれにしても、ローガンが走り抜けたのは辿り着けれる終着点の一つにすぎない。今から引き返したとしても手遅れだろうが見つけれる可能性はないわけではないが、結局は徒労で終わってしまうことの方が想像できる。しかし……と負のスパイラルに嵌っていることに気付いたローガンは壁に少し寄りかかりこれからどうすべきかを再度考える。

一時的な疲労により考えがあまりまとまらないが、ふと違和感を覚えるのを目で捉えた。

それは数十メートル先にある乗り物で、外観も全て治安部隊の物だ。その深い緑色を基調とした車両の周囲にも一見してこちらの味方であることが窺える様相の男達が立っており雑談しているようにリラックスしているのがわかった。

だが、なにかがおかしい。根拠など明確に説明できる要素はローガンにはないが、そこにいる三人の何かが違う。

感じる違和感を確かめるべく、息が整えたことでそちらに向かおうとした時だった。

 

「……やっぱり嗅ぎ付けれるだけの『鼻』がありやがったかてめえ」

 

背後から聞こえてきたやや高めの男性の声に不意を突かれた。咄嗟に振り返ったが、黄土色の麻袋の生地がローガンの視界全域に広がっていた。

 

「が、ふっ……!?」

 

躱すだけの時間は全くなかった。できたこととすれば、反射的に片腕だけでも使って衝撃を緩和しようと目前にかざしただけ。それでも中身が詰まった麻袋がこちらにぶつけてきた衝撃は大きかった。右腕の骨にまで響く衝撃と痛み、そこだけで留まらずローガンの顔面にまで延長してきた。立ち続けていられず、背中を壁の方につけて体勢を崩すがすぐに立て直す。

ローガンの鳩尾に狙いをつけた蹴りを正面から受け止め、それを勢いよく持ち上げるようにして相手を転倒させた。予測できていたのかいないのか定かではなかったが、思わぬ反撃に襲撃者は麻袋から手を離しながら仰向けに倒れた。ローガンはそこで拳を叩き込むべくすかさず振り下ろした。

 

「うぉらぁ!」

「……反応と反撃方法、良し」

 

だが短い気合の声とともに振り下ろされた拳は躱され、相手には起き上がられたとほぼ同時に右手の拳が迫る。その手には折り畳みナイフが握られていた。そうくればローガンが習得しているCQCの出番でもある。

突かれたナイフの切っ先が自分の腹に刺さる前に相手の右手の手首を掴み、関節を決めるように捻り上げようとした時だった。右腕に意識を集中したローガンの横っ面に左拳が刺さる。

脳が揺れ、視界があらぬ方向へと向けられるが掴んだ右手は離さなかった。ローガンは半身になって振り抜いた状態である襲撃者の横側に回った。

そしてすぐさま膝を腹に食らわせた。

 

「お返し……だっ!」

「げほっ……!攻撃における力量も上々だな……!」

 

お終いに両手を組んだ振り下ろしも浮いてきた背中にお見舞いしてその場に蹲らせた。一時的ではあるが襲撃者を動けなくさせたローガンは拳銃を距離を少し取って銃口を突きつけた。

いや、正しく言えば『突きつけようとした』としただろう。右手が空を掴んだことで見下ろしてみると、ホルスターに収納していたP226はそこになかった。

 

「てめえの探し物はこれだよな?」

 

痰を吐いた襲撃者が代わりにローガンが愛用している拳銃のグリップを正しい持ち方でありつつ引き金に指を掛けた状態で突きつけてきた。考えるだけの時間はあったのかもしれないが、それよりも先に体が動いていた。距離は一メートル程度の地点から駆け出し、自分の頭を左の方に逸らす。途端にダァンッ!と銃声が鳴り響き、弾道から逸れきれなかった右頬を銃弾が掠めた。

再度発砲されないよう、P226のスライドを右手で掴んで銃口を地面の方に向けさせる。

 

「近頃の鉄血の奴といい、最近は目の前の人の銃を奪うのがブームになってんのかよ!?」

「そんなの知ったこっちゃないが、オレ様達の戦いにルールなんてねーんだよ!!」

 

眼前に薙ぎ払われたナイフを上体を逸らして回避。一瞬拳銃への握力が緩んだのを感じ取ったローガンは引っ手繰るようにしてP226を取り戻す。右手の中でクルクルと回して構えようとしたローガンだったが、本道の方での騒ぎに気付くのが遅れた。

さきほど目をつけた三人の男達が車両から取り出したのか、小銃を空に向けてフルオートで撃ち放って下がって腹這いになるように叫んでいたのである。

そちらに注意を取られた隙をつかれる。襲撃者はタックルでローガンを吹き飛ばし、足元の麻袋を回収した。

受け身を取って反撃に転じようとしたローガンだったが、彼にとっても厄介な方向へと事態は進行してしまう。

 

「バーンズさん、こちらへ。オレが後ろに付く役目を引き受けます……!」

 

奴の仲間と思わしき男がカービンライフルを片手に襲撃者を庇うようにして来たからである。拳銃であるこちらが早いため先手を取られることはなかった。しかしレストランで戦った連中よりも錬度が高いのか、襲撃者をこちらからでは見えない位置へと逃がし、すぐに身を隠してこちらからの銃弾をやり過ごした。

舌打ちしたローガンは銃を下ろすと走ってナイフを抜く。待ち伏せているようであれば反撃するためだ。

小道から本道から身を出した瞬間、銃撃がこちらに繰り出される。咄嗟に身を屈めると路地の方に身を隠した。

 

「くそ……!スオミ、報告だ。N13-5の道路で複数の対象と交戦!だけど奴らは車両で逃亡を図ろうとしていて俺一人じゃ止められない!」

『了解しました。ただちにそちらに人員を送るように要請します!それまでなんとか引き留めていてください!』

 

顔を出そうものならすぐさま銃弾が髪を掠める。ヒュン!と風を切るその音に身を屈めたローガンは、マガジンを確認。マガジンの中身が空になっておりP226のスライドが弾切れを知らせるようにスライドが後部に固定されていないことから、薬室に入っている一発が最後だったらしい。持ち込んでいるP226の弾倉は今替えたのを除いてまだ二本ある。しかし民間人が周囲にいることもあってやたらに撃つことはできない。

それでもこのまま動かずにいれば敵の思う壺だ。

ある程度弾幕が薄れたタイミングで飛び出し反撃すべくローガンは何発も撃ち続ける。

対して、襲撃者の男を庇うようにしてこちらに銃口を向け続ける連中はこちらに正確に狙いを定めていない。

だが三人で連携してVIPを護衛するようなその動きは悪くなかった。彼らの目指す先には、ローガンでも予測できるあの深緑の軍用車両。

 

「逃がすかよ……!」

 

狙いを一旦外し、突如として起きた銃撃戦によって運転手がいなくなった一般車両のボンネットを滑るようにして反対側へ移動。それを何度も繰り返し、深緑車両を盾にするようにして通りを上体を低くした体勢で連中の死角へと潜りこむ。

あと五メートルまで来たところで微かだが連中の一人がこちらの方に身を乗り出して攻撃しようとして来る。そうされる前に走りながら二度引き金を引いて阻止。その者の近くに着弾したことで彼は一瞬怯んだが、すぐに気を取り直して再度引き金を絞ろうとした時にはローガンはもう目的地に到達していた。

運転席に乗り込んだであろう男を撃つべく、ローガンはしゃがみの体勢から立ち上がろうと脚を垂直に伸ばす。

 

「判断も悪くない。獲物を逃がさないためにある程度の危険を冒しても食いつこうとメンタルもある。てめえ、相当の場数踏んでやがるな」

「っ!?」

 

ちょうど額を狙うように、前回に開け放たした窓の向こうの助手席から襲撃者は拳銃をこちらに向けていた。

なにも考えず、ローガンはすぐに身を屈めた。途端に髪を掠めた銃弾が街道の壁にめり込む。

 

「オレがこいつを引き留める!その間に急いでここから離脱しろ!」

 

声からして、襲撃者の方に駆けつけた男だろう。そいつがさきほどローガンに発砲しようとしたが阻止された男だったらしい。

エンジンがかかった車両を回り込んできたその一人がこちらにフルオートで撃ってきた。『スコーピオン』こと『Vz61』でばら撒かれる銃弾を受け止めきれる訳がない。加えて近くに遮蔽物となり得る物体はない。

敵車両の阻止を優先しようとすれば、ローガンは外に出ている敵兵の一人にハチの巣にされることは間違いない。かといって、こちらに攻撃を仕掛けようとする敵の排除を優先すれば逃亡しようとしている連中のこの場での足止めは難しくなる。

一瞬頭に過った取捨選択だったが、直後にローガンの体が取ったのは後者だった。

 

「わりぃけどそう簡単に俺は死なねえぞ!」

「な……にぃ!?」

 

『状況的に有利な敵兵と至近距離で会敵し、遮蔽物も何もないのであれば特攻してなんとしても生き延びろ』。昔教官から叩き込まれた教訓がここでも生きた。

ナイフを抜いたローガンは左手で逆手に持ち、先程のように上半身を低くして地面を蹴り上げた。

目の前には、まさかの行動で意表を突かれた表情を浮かべる敵兵の顔。

 

「く、そがぁ……!」

 

蹴り上げる前の二人の距離は一メートル強であり、発砲されることは覚悟していた。それよりも先にこちらが撃って阻止してもよかったが、それではナイフによる近接攻撃に遅れが出ることからどちらにしても避けられない。それにここまでの至近距離なのだから覚悟はしておくべきだ。

ダダダダンッ!と、基地の演習場でも散々聞いてきた銃声が耳を打つ。途端、右肩と右腕の二の腕に真っ赤に焼けた石を高速で押し付けられような痛みが走った。しかしローガンは足を止めずに距離を詰め、ナイフを飛びかかると同時に振り下ろした。

ナイフの切っ先は男の首元に刺さり、苦悶に満ちた声とともに血が噴き出す。地面に押し倒された敵兵は手足をバタバタとさせて足掻こうとするが、ローガンは『Vz61』を握るその腕を左脚で押さえている為それは叶わない。切っ先という名の肉食動物が獲物の肉に食いつくように深く抉る感覚。ちり……と脳裏に火の粉のような記憶が過るが今は関係ないと無意識に払い、苛立ちを基本の腕力に上乗せしてすぷりとさらに深く潜り込ませた。

目が白目をむき、じたばたと動かした手足の力が抜けたところで返り血を浴びつつもナイフを引き抜き、第二に止めるべき標的の方に向き直ろうとした。

しかしやはりというべきか、その時には車は走り出していた。

 

「くそっ……!」

 

乗り込んだ男たちがこちらに牽制射撃しながら逃げようとしているのを阻止するためにローガンも撃ち返す。結果で言えば逃亡阻止は失敗で終わったが、せめて一矢報いることには成功した。身体を半ば以上を車体で隠すようにして撃ってきていたあの襲撃者の肩に銃弾は命中、銃を路面に落としてそのまま走り去っていった。

このまま逃がすわけにはいくか……!

周囲を見渡し使える乗り物はないか探してみる。するとそこまで離れていないところに、全身を黒模様で塗装されている大型バイクが持ち主と思われる男性と一緒に道端に停められていた。

P226をホルスターに戻したローガンはその男性のところまで走った。

 

「すまねえ、緊急事態だからお前さんのバイクを貸してくれ。ちゃんとあとで返すから、グリフィンの方に明日にでも訪ねて来てくれればいい……!」

「返してくれるならいいけどさ、君の腕からシャレにはならなさそうなぐらいに血が出ているよ!?まずそっちの処置をした方が良いんじゃないのかい!?」

「だったらこいつを巻いてくれるか。こういう時の為に常備しているから慣れているんだが箇所によっては本当にやり辛いんだよ、だからやってくれると助かる」

「わかった……!」

 

取り出した止血用の包帯をその民間人に渡して処置をしてもらっている間にローガンはようやく自分の状態を確認した。右肩は防弾ベストが防いでいたため衝撃だけで済んでいたが、右腕の方は弾が貫通して血が出ている。包帯を巻いてもらっている間にローガンは止血剤を小型の注射器で注射した。処置も一通り終わったので動かしてみたが、多少動きが鈍いがそこまで大きくない。

ヘルメットとバイクのキーを受け取ったローガンはエンジンを始動し、持ち主に礼を言うとクラッチレバーを握って左脚の方にあるチェンジペダルを押し下げてギアを入れる。加速し始めたバイクから低いエンジン音を鳴らしながら坂道の下の方に向かった敵車両を追いかけ始める。

そして、耳元の無線機の方に繋いでいる現場指揮官に報告を入れる。

 

「スオミ、ターゲットは治安部隊のに偽装した一般車両。今さっき北上し始めたのを現在追跡中だ。色は言うまでもない深緑でナンバーは……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――☆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全ユニットへ。現在犯行グループの車両が北上しておりナンバーは!N14エリアへ急行せよ!繰り返す……!』

 

スオミへの報告を私も聞いていたので車両無線の無線を聞く必要はないのだが、他の人達にはそうではない。

コールレストランで力を貸してくれた治安部隊の隊員の一人である男性、カイルと同部隊の二人の同乗者と共に私も彼らの車両に乗ってN14エリアへと移動していた。

 

「N14か……それでそちらの方の準備はどうだ?今すぐにでもおっぱじめれそうかい?」

「ええ、大丈夫です。弾薬はそう多くはありませんけど今回の一件を片付けるのには十分有ります」

「詳しいことは私にはわからないが、そちらが大丈夫だというのなら大丈夫なんだろう。急に出くわした場合はさっき話した手筈通りで行くということでいいか?」

 

それでいいです、と私は頷いて安全装置をオンにしている私の分身のリロードと簡易点検を終わらせてからグリフィンの無線機に片手を当てて語り掛けた。

 

「スオミ、こっちはもうすぐ目的地のエリアに着くわ。そこからは徒歩じゃなくて車両に乗りながらの捜索を続行するということでいいかしら?」

『それで大丈夫です、AR15さん。私も現在到着してから対象を探しています。そちらもそうしてください』

「了解、到着次第捜索開始するわ」

 

スオミとの通信を一旦切り、バディを組んでいるが今は別行動となっている相棒に呼び掛けた。

 

「ローガン、あなたは今どこ?可能であれば合流した方が良いわ」

『ええとここは……N14-7だな。あれだけの速度での急発進をして他に影響を及ぼさないはずがないからそれを辿ってたんだが……』

「急ブレーキの痕はともかく、乱れた車列は衝突していなければ次第に元に戻るものね」

『ああ、最初はそういうのから追跡できたんだが今じゃ見当たらない』

 

徒歩で移動している犯人を発見するのも乗り物に乗っている敵対者を見つけ出すのも難しい。後者となっている現状では時間帯の事もあり車の流れが悪くなっている。場を乱すようなことをせずに周囲に溶け込むようにして流れに乗っていた場合は一車ずつ見ていくことはできる。こちらは緊急事態と言うことでランプを点けて捜索し、やや乱暴ではあるが合間を走行して探せているのでそうしていた場合は見落とすほど集中力を欠如していなければ発見できるはずだ。

それはともかく、問題が一つだけある。

もし私達が追っている対象がそうしていた場合、確実に攻めの手段を実行する前に一つ一つ吟味しなければならなくなるケース。

カイルがそれを口に出してくれた。

 

「別の場所で人質を確保していて車内に連れ込んでいた場合、PMCのあんたらはどう対抗手段を取る?少なくとも俺達は車のパンクを狙って射撃と言うのはできないが」

「……それは一番考えたくないですね。ローガンからの話だと、奴らは彼を撒くことが出来たのでその手段を取ってこちらをやり難くすることが考えられます。もし慎重な行動方針であればしないかもしれませんが、レストランで派手とはいわずとも暴動を起こしたことからして、関係のない民間人を巻き込むことが考えられます」

 

あそこまでの銃撃戦を繰り広げた連中だ。籠城戦において高所の場所取りを行ったこともあって最低限の心得はあるように思える。一人一人の実力は戦術人形の私からすれば大したことはなかったが、それぞれがうまく死角や味方がリロードするタイミングに合わせてのカバーをしていたため馬鹿にはできない。銃器の扱い方も学習・実践したように手馴れていたことから訓練も少なくとも受けているだろう。

だがそれは(本人達には言えないが)カイルをはじめとした治安部隊の彼らと同じ程度しか積んでいないので、単に彼に対して火力面で有利になっていただけだった。技術も戦術も付け焼刃のようにその場しのぎのようなもので、私達グリフィンのように鉄血とは十分には戦えない。

 

「でも十分に場数を踏んでいないようなので可能性は低いと思いますが……」

『……いや、そうでもないな』

 

N14がもう目と鼻の先になった地点にまで到達した私とカイルの会話が聞こえていたのか、無線越しにローガンがそう呟いた。

 

「そうでもないって……なんでかしら?」

『俺が追跡していた犯人だが、途中で俺の事を待ち伏せしていたんだ。初手からの奇襲手段といい、奴は接近戦での俺の動きも見切っていたし評価までしてたし仲間にも頼りにされている。頭の回転までは測れないが、自分達の戦いにルールなんてないなんて言った奴なら、姑息な考え付くだけの頭脳を持っていてもおかしくどころか考え付いてるだろうな』

「可能性の裏付け……最悪な事態の想定としてちゃんと考えておくべきね。そうなるとローガン、発見しても車への直接攻撃は避けるべきかしら。もし本当に人質がいた場合は、攻撃してくる同乗者への発砲に限定して運転手へは停車を命ずる方針でいいわよね?」

『そうした方が賢明だろうな。俺からスオミに報告するから、そっちは俺の方にまで来てくれるか?今N14-5で停まっているから、もし早めに来れるなら合流しよう』

「了解。私達もN14に入ったから今すぐそっちに向かうわ」

『おう、待ってるぞ』

 

グリフィンに所属している私達のみの無線機による通信は終了する。他に打つべき手段は、予測しておくことはないかと考えようとした時だった。

運転しているカイルを除いて、助手席と後部座席の私の隣に座っている二人の隊員がニヤニヤしていたり、温和な印象を与える笑みを浮かべていたりしていた。。

 

「……なんです?私の顔に変なのがついてたりしますか?」

「いやなに、I.O.P社の戦術人形は鉄血の奴等よりもそれぞれ個性が豊かだっていうだろ?今日じゃない随分前にあんたを見た時は淡々と仕事をしていたから今みたいな反応をするとは思わなかったんだよ、なあ?」

「正直なところ、仕事とはいえ近寄りがたいとは思っていたんだけど、今の君はそれが幾らか払拭されていますね。なにかいい変化があったんだとしたら……さっきの無線相手ですかね?」

「そうじゃないですよ。単に彼は気の合った友人のような存在ですよ」

 

ローガンに対しては、思うことは色々とあるが結局は、彼の在り方が危ういと思うから守りたいという気持ちが強い。45とはなにか対抗意識をもつ気持ちがあって負けたくないというのが私の本心である。

それだけの筈よね……と私の中で再確認していると、視界の隅に移った助手席の方が一層笑みを深めてこちらに言ってきた。

 

「んなことい言ってごまかすんじゃないよ。声が聞けるようになった時のお前さんの嬉しそうな顔、オレは見逃さなかったぞー」

 

咄嗟に自分の顔の方に手を当てて確かめてみる。指と掌の感覚から確かめてみてもはっきりとわからない。

 

「今は無表情っていうか感情があまり感じられないけど、話している時のお前さんは一人の女の子そのものだったしな。良いもの見させてもらったな、なあカイル?」

「やめてくださいよジョージ先輩。たしかに滅多に見られないとは思いますが、俺は本人の前でそんな風にぶっちゃけれないですよ」

「この際だからお前もぶっちゃけちまえ。最近お前は詰所の若いのと良い感じであるのはもっぱら噂になってんぞ~?」

「誰ですそんな噂流したの!?仕事の話をしていただけで別にそんなことは……!」

 

二人が緊急事態とは思えないような話をし始めたことに私は目を丸くしてしまったが、せめて私だけでもと思い窓の外に目を向けて見渡してみる。すると私の隣にいる眼鏡かけた優男から声を掛けられる。

 

「詳しく聞くつもりはありませんけど、無線の向こうの方とは付き合いが長いのですか?」

「……あなた達にそこまで話す必要性をまず説明してください。それと集中しなければならない現状で暢気にしていられる理由も含めて」

「おっと、そう言われてしまうと少々辛いですね。好奇心で手痛い思いを藪から出てきたするのが分かっているのであれば、私は手を引きますよ」

 

そうしてくださいと最後に区切って私は鼻を無意識に鳴らしていた。普段近くで見ることのない戦術人形を間近で見て興味・関心があるのだとしたら大きな間違いだ。大人になったというのなら、命のやり取りをすることになるここじゃないにしても、物事の優先順位を明確につけなければならないというのがわからないのだろうか。

私というAR15は、以前からどうしても治安組織の彼らの多くを好くことはできなかった。いや、彼らが悪いわけではない。中には純粋に力のない民間人を守ろうと尽力している人もいる。

その理由を明確に表しているのは横にいる優男がそうだ。さきほどのレストラン前の戦闘では(私を除いた)他とはあまり変わりない働きはしている。なにもしないよりもいいのだが、自分の探求心を抑えようとはしないことは別だ。戦術人形に対しての知識が欲しいのであればI.O.P社に問い合わせるなり情報を求めればいいというのに、やたらとこちらから話を直接聞きにくる。

助手席の彼を見てみればいい。彼は中年で頭の髪もなくなってきている、俗に言う良ければ『おっさん』、悪い場合は『おじさん』と言われるような男性だ。今では運転席にいるカイルに緊張感がないようにして絡んでいるが、ちゃんと見るべきところは見るようにしている。ルームミラーから反射して見えた眼光といい、カイルをいじっているようにしても目の方は真剣に見渡しているのは違いない。実力がものを言う銃撃戦では力不足なのは否めないが、それならばできるまでのことを精一杯やろうとしている姿勢は正しいと私は思う。犯人達の自分達を狙う射線に民間人がいるのであれば、自分が動いて考えなくもない危機を回避し、その後で移動させるように指示しているのはやや驚きだった。それらの技量があるのであれば、同組織の皆からリーダーと言われているのには納得できる

それだというのに、鼻歌を混じらせて頬杖をついているこの優男は何だ。ピクニックに行くわけでもないというのに、脚を組んでリラックスしている様に苛立ちを隠し切れない。空気を読んでいないというよりも、自分のやりたいことしか考えていないのだろうか。どうも机に座って雑務ばかりをこなしている隊員というのはこのように、書類上で知ったことを実際に目にした際に食いつく輩もいるので注意が必要だと以前に指揮官が言ってたが、こういうことだと理解したのは初回のパトロールの時で、今となれば三年ぐらい前になる。

煮えたぎってくる感情を抑制して私も外に目を光らせているが、車内を見ていない時に限って隣から視線を感じるのだから勘弁して欲しかった。

 

「それで、相方から何か言われなかったか?さっき合流するなだのどうの話していたけど、明確な場所があるのであれば教えてくれないか?」

「そうでした、ごめんなさい。N14-5で待っているそうなのでそこに向かってください。彼は私が見つけます」

「了解」

 

まだ今日出会った中で好感が持てるカイルはハンドルを切って私が言った目的地へと向かってくれる。そうだ、こうして協力的な隊員もいるのだ。だから決してグリフィンが形成した防波堤の内部で無責任なことばかりしている連中だけが全てじゃないということだけはわかる。公僕といわれる程じゃないにしても、献身的に取り組んでくれている者もいるのだから私は放っておくことはしない。

リーダーがこちらの方に少しだけ振り返るようにして、口を開いた。

 

「わかっているのならいいが、友人なら大切にするようにな。こんな血生臭いところで埋もれさせたくはないなら尚更な」

「心配しなくてもわかってますよ」

「ならいいさ。失くした後で気づいた時にはもう手遅れ、どうにもならない。そんな後悔をしないようにな」

 

実感が感じられるその台詞を胸に刻みながら、私は車内に戻していた視線が混んでいる車列に移ろうとしている時だった。

ザザッとノイズが走り、無線機から声が聞こえてきた。

 

『AR15、グローザよ。こっちの方で目標とアイコンタクトして追跡開始。今N14-1と15の境目よ、応援として急行して』

「了解、ならローガンも……」

『彼は来させるべきではないわ。私達とあなたで捕えるからこれ以上の応援は不要よ』

 

淡々した返答に私の脳裏に過るのは昨日ローガンが話してくれたことだ。一通り聞いてから抱いた感想としては、本部にいる戦術人形の総意と思わせる傘を被せた自分の考えを強要させようとしているとしか思えない。

AEKに限らず、こちらの基地にいる人形達には親しげにしているのにも拘らず、ローガンにだけ刺々しい態度でいることもそのことが関係しているのだろうが、物理的な危害を与えずとも精神的に追い込もうとしているのであればよろしくない。元々私も含めたI.O.P製の戦術人形は、無抵抗の人類には攻撃できないようにされている。当たり前の話だが、創造元の人類に反逆するようなのならそれに対しての手段を取るのはおかしくないのだから、そのようなセーフティを設定するのは納得できる。鉄血の事もあって重点を置かれているのは承知している。

しかしそれは物理的な、身体的なものであって、誹謗中傷や暴言などを言う事に関してはなにもされていないと指摘されている。暴行をする前にセーフティが働き強制停止になるが、口から発せられる言葉には制限がない。セーフティがそちらの方にも課されていない原因は、AIとはいえど、良識は持っているので口にすべきではないとわかっているから、人形それぞれのパーソナリティが損なわれるからだ。

人形に搭載されているAIは元からインストールしている知識から口にしてはならない台詞との線引きはしてある。だがそれは戦術人形の性格を表現するための擬似人格モジュールがエラーを起こさない程度にだ。もし制限する言葉とモジュールが矛盾した場合は、人間でいうど忘れのように話している途中で浮かんだ単語が霧散したり良心が痛むようになってたりする。I.O.Pによれば、戦闘を除いた人間の不完全さを表現するためだともいう話だが定かではない。

それだというのに、科せられた人形としての高いハードルを飛び越えたかのようにしているのだから不思議に思える。まるで、人格モジュールが暴走し、長く生きてきて考え方がまるっきり変わって、胸が痛まなくなったかのようだった。

 

「そう考えることは勝手だけど、本人に言ったのかしら?私に言っても無駄なことはわかっているんじゃ?」

『でしょうね。私から言ってもいいけど、あなたからなら効果があるんじゃないかしら?彼は私の言う事には耳を貸してもそのようにしないし、知り合ってから『お友達』として繋がりを持ったあなたの方が従いそうだもの』

「だったら私からいう事は一つだけ。ふざけるな、余所者の分際で」

 

無意識に怒気が含まれていたのか、ぎょっとした様子が同乗者の者達から窺えたが今は関係ない。利害だけを求めるこの人形に私は言わなければならない。

だがそれは、今ではない。

すべて片付いた後の基地で言ってやろうと思い、点火したままの炎を一旦は長く燃え続けられるだけの薪をくべた状態でしまいこんだ。

 

「自分の思い通りにならないことがあるのは当たり前で、許容だとか妥協をしなければならないのはあなたでもわかる筈でしょ?もうこの事件に私と一緒に足を踏み入れているのだから今更なにを言ってもローガンは誰かに何を言われても向かう筈。それに……」

 

目の前の広場に彼の姿が見える。バイクに跨りながら端末を操作してから、左手を無線機に当てていることから状況を把握しているのだろう。現に車内に搭載されているそれのスピーカーからは目標車両の情報が伝えられてきている。

改めて見てみると、少々傷だらけ、というよりも顔に傷があるだけにとどまらず右腕に包帯を巻いていたりことから無茶をしてくれたのだろう。そんな彼がこちらに気付き、手を軽く上げて合図を送ってくる。

あれだけ釘を刺したというのに……と内心で溜息を吐きつつもこちらの言うことに耳を傾けているであろう相手から投げ渡されたボールを力一杯投げ返してやる。

 

「あんたがどこで何を見て経験したのかは知らないけど、私が守りたいものに手を出して傷をつけるようなら、迷いなく撃ってあげるからそうして欲しいならそう言いなさい。どこで何をしようとしても、絶対に許さないから」

 

何かを言いかける前に無線機を操作し通信終了する。

車両が道路の端で停車したので、私は後部座席の扉を開けてローガンの方に小走りで向かった。

軍隊なら家族、兄弟と言われる存在になったこの人を、本部からの上から目線の連中に好き勝手には、絶対にさせない。それは、擬似感情モジュールを作り出した訳を知るために戦い続ける私の目的に加えられた、新たな存在理由。




週に二話の投稿はしたいな~とか考えていた先週、ドルフロの夏イベントに重なって別タイトルのスマホゲーのイベントが始まって内容も相まってほとんど消えかけていた陽が再点火されてしまってました。……うん、悪いことをしたわけではないでしょうけども、一応お気に入り登録をしてくださっている方々には期待してくださってる方もいらっしゃると思い、見えない頭を下げさせていただきます。とはいえ、リアルの方でも少々忙しくなってきてもいたので手一杯になってた感はありました。残業シーズン嫌だな~……。
それはともかく、思ったよりも三章のボリュームが増えそうな感じでありますが、大まかな流れは決まってはいるんですけどね~。あれやこれやと考えているうちに、こんな話の流れに……。おおう、抱えきれるのかなこれ……。
タグに『残酷な描写』というのを最初に加えていたのにそれっぽいのがあまりなかったな~とか思いつつも色々と描写に手を加えていたりしますが、単調にならないようにしないとですね。語彙力と言うか、文章力の限界を理系の自分も感じ始めているのでどうにかしたいものですな、ハハッ。
後半は愚痴っぽくなってしまいましたがこの辺で。週末にも投稿できたらいいなとかなんだったり。
ではでは―――。

『アドレナリンドバドバ人間』
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