誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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21.疲れ果てた先に -Source of misery-

それまでの現場検証の引き継ぎを終え、基地に帰れるようになったのはもう陽もとっくの昔に沈んでいる頃だった。

休憩を取るだけの時間をもらっていたとはいえ、水を飲めるぐらいでしかなく夕食どころか軽食もなかったのである。胃袋が主張を繰り返される頃に帰れるようになったローガンは、現場付近にスオミとグローザが乗っていた車両に乗り込んで基地に帰還した。本来ならコールレストランの方に置いていた当初のAR15との車両の方に向かわなければならなかったが、既に回収済みだという報告を新人オペレーターから受けていたので直帰で戻れた。

道中にて、検証などの作業で疲れた様子であるグローザと運転を交代し後部座席に移った後、AR15の方は舟をこぎ始めて助手席からこちらの方に寄りかかろうとしていた。さすがにローガンも寄りかかられながらの運転はできないので、少々惜しかったが赤信号で停まった際に窓枠の方にまで彼女の重心を動かしてそちらの方にもたれかかるようにしたのだが。

その際、時々基地内でも嗅覚を甘美に刺激する花のような甘い匂いで、寝ている彼女を抱き寄せたくなったが、後部座席にいるグローザの目もある。男性としての(さが)を恨みつつ、ローガンは青信号になったので運転を再開。

やっと基地に到着したのは夕食を取るにしても遅い時間帯である。

車庫にバックで車両を入れると、それまで静かに寝ていたAR15を起こし、寝顔を見られたということで非難がましい視線を向けられながらもグローザとこの後のことを相談した。

パトロールしている時に事件に出くわした際はやはり報告書の提出は求められている。だが提出期限は任期が終わった後で良いとマニュアルに書いてあったため、急ピッチで書き上げる必要はない。それでも口頭で帰還したことの報告を合わせてするべきだということで話は纏まった。

 

「そんじゃ、報告は俺がしておくからお前達は先に帰っとけよ。眠くなるほど疲れてるんだしその方が良いだろ」

「でもローガンだって疲れてるでしょ?一旦休めれたから私はいいけど、あなたは寝れていないじゃない」

「大丈夫だよ、報告ぐらい。あいつが戻ってきたんだし、俺からすれば顔ぐらいは見ておかないとだしな」

 

半分は本当で嘘100%で言っていない。虚偽であるのは自身の体力。正直なところ、眠気は今のところないがこのまま自室に戻ってベッドに飛び込んだら確実に寝てしまう。人形であるAR15の体力が貧弱であるのではなく、単に頭を働かせ続けていたことによる興奮状態が続いているため、身体的な疲労は蓄積しているものの、目は冴えている状態だった。

それに、その場にいるのであれば彼女から聞きたいこともある。

 

「私が言えたことじゃないけど任せましょ。スオミは撃たれたし、皆疲れている中で買って出てくれたんだもの。今回はそれに甘えても罰は当たらないわ」

「そうしてくれ。それに二人とか三人全員で行ってもあまり意味ないしな。むしろ怪我の具合を具体的に見られるぐらいで得することなんざなにもないしな」

「……わかったわよ。スプリングのところで今日の夕食、一緒に食べる為に待ってるから。絶対に来て」

「はいよ。終えてシャワー浴びたら行くからな」

 

絶対よ、とAR15は愛銃を収納したギターケース持ち、車庫のシャッターを潜って先に宿舎に向かった後で、ローガンは車内にホルスターと一緒に置いていたP226を手に持つと運転席の扉を閉めて鍵を閉めた。

そうしている間に、助け舟をローガンに出したグローザはガンケースを持って歩き出していた。

カツッカツッと彼女のブーツのヒールが音を立ててAR15と同じ方向へと向かっていくのをなんとなく耳で認識していると、急にそのヒールの音が止んだ。

 

「ねえ」

 

声を掛けられたので近くに置いてある工具類のボックスに腰掛けながらグローザの方を見る。琥珀色の瞳が真っ直ぐこちらを射抜くように視線を向けてきていた。

 

「この間聞いたあなたが戦い続ける理由、あれは本当の事?」

「何を聞いてくるのかと思えば、それのことか。別にあれに嘘もなにもねえよ」

 

ピットの出入り口前で話していたことを思い返す。

あれらからグローザに対して僅かどころじゃない反感を抱くことになる決定打になったが、彼女が言っていたことにも一理ある。正しいか間違っているかといったら、正しい言い分だ。計算するのに電卓もしくはそろばんのどちらかを使えと言われたようなもので、皆が前者を選ぶことに対して意地になり、後者を壊れるまで使い続けるという認識で間違っていない。それを人形と人間に置き換え、自分達が使われる道具になっただけの話だ。

信用だってそうだ。結果を示しているにしても、自己中心的になっていると捉えられてもおかしくない。ローガン・ブラックという人間の人柄を明確に認識できない本部の人形が不信感を抱くのはごもっともといえている。

だからローガンはなにも反論しなかった。『そろばんが電卓に打ち勝てるほどのメリットをどう説明する?』ということだ。不透明で抽象的なことしかあげられず、結局は機械に任せることになることになるのだから。

 

「あの目的そのものを疑っているわけじゃないけど……」

「……なんだよ。珍しく歯切れが悪いじゃないか。いつもなら棘のある感じで言ってズバズバと切り込んでくるのに」

「こっちが悩んでいる時に茶化さないで。どういえばいいか考えているんだから……」

 

額に人差し指を当てて言葉選びといった感じだろうか。グローザとのこれまでの会話からすると、物怖じせずに自分の言い分は包み隠さずハキハキという性格だとローガンは思っていた。オブラートに包む、ということはせずに伝えるべきことはそのままにしてだ。

ボックスに腰掛けたまま待っていると、グローザは諦めたようにかぶりをふった。

 

「ああもう、疲労って私達のモジュールにも影響を及ぼすのかしら。全然口に出すことが浮かんでこない」

「なら今日はもう休んどけよ。単に考えが纏まらないだけだろうし、明日にでもぶつけてこいよ。お前からの毒にはもう慣れてきたんだしな」

「スッキリしないけどそうさせてもらうわ。じゃあおやすみ、影の狼さん」

 

最後の皮肉を聞き流したローガンは歩き去っていくその背中に『おやすみ』とだけ言い返すと、車両の鍵を持って基地内の指令部まで向かった。

重石をつけたように重い両脚を通常運転で動かし、キーホルダーの鎖の輪に指を通してクルクルと回しながらふと思い出した。

そういえば彼女が左手薬指にしている銀の指輪、あれはなんなのだろうか。彼女の性格からして、わざわざ銃を握るのにやや支障をきたすような位置にアクセサリーをつけるとは到底思えない。

アクセサリーではないのであれば、ローガンからしても縁がないと思える『アレ』だろう。人生の墓場とも言われる結婚をしたことを表すものではあるが、戦術人形ではどうであろうか。彼女達との婚約が出来るとすれば、グリフィンの指揮官といったような、人形の所有主だろう。だがそのメリットは?

……いや、別に彼女達のように、笑ったり泣いたりするする人形と結婚することにはあまり嫌なイメージはローガンにはない。

戦術人形に対する知識が乏しい以上、彼女本人に聞く方がいいかもしれないが……。

 

(それについても聞いてみるか……)

 

車庫の明かりを消し、その場を後にしたローガンは、改めて気怠い身体をなんとか脳で従わせて歩き始めた。

ここの掃除、言った通りしてくれたんだなと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指令室の前に到着したものの、ローガンは少々悩んでいた。

今はもう業務終了時間になって数時間経っている。それどころか、基地中の皆も特別な事情がなければもう食事も終わらせているはずだ。いつもこれぐらいの時間帯から、執務室で自分の隣にデスクをもらっているM16をはじめとした数人の人形達と、スプリングフィールドも交えて静かに雑談などをするトンプソンから呑もうと誘われている。

今日の事件を解決するのに最後の最後で声を出してきた『あいつ』。しばらく基地を空けていた彼も疲れているだろうし、今日はもう指令室にいないのでは……?

むむむ……とノックするように手をかざしながら、脳内に浮かんできた選択肢で四苦八苦していると、

 

「鍵は開いてる、入ってきていいぞ」

 

ここの男性指揮官ではない、本部の女性総司令官の声が聞こえてきた。声自体もまだ聞いたことがない刺々しいようなものではなく、ただ単純に呼び掛けた声色だ。

『なぜこの部屋に……?』とは思ったものの、これ以上間を開かせるわけにはいかないということで、ノックを三回して一間空けてから室内に入った。

 

「随分と遅い帰還だったな、我々の隠密部隊隊長殿?話では聞いていたが、ここまで遅くなるのはあまり感心しないぞ?」

「すいません、ヘリアンさん。俺らとしても、彼らだけに全投げするのは忍びなかったんで……」

「冗談だ、遅い帰還にはなったが負傷したぐらいで済んだんだ。保護区内とはいえ、銃撃戦になれば最悪の場合は脳天を撃たれて即あの世だ、よく戻ってきてくれたな」

 

ここの基地の指揮官が書類整理などだけでなく、作戦指揮をここから行えるようにと機材が内包されているデスクに腰掛けていたのは、今のグリフィンの代表を勤めるヘリアントスであった。

最初は笑っていない笑顔であったことと彼女からの気迫でローガンはややたじろいでしまったが、ジョークだということを明かした後は両目にも笑みを浮かべていた。

どうもローガンはこの人が苦手だった。悪い意味ではなく、良い意味でだ。

白か黒かといわれたら、間違いなく真黒な職場で銃を撃ってきたこちらからすると、グリフィンという組織内での仕事は間違いなく楽な方だ。もちろん、やっていて改善を求めるか我慢しなければならないことはあるが、それらを含めても良い職場だと思う。それを形作っているこのヘリアントスこと、ヘリアン総司令官は上司として理想に近いとは思うが、逆に悪意が全く感じられないので恐怖心を感じ得ない。

その分、自分に頭を下げてでも協力を頼みながらも、友人として関わりのあるあの指揮官の方が、自分が書き上げた重要書類をアルコールランプの上にかざしてくる分取っ付きやすい……と思う。

 

「それで、奴らに関して何か収穫はあったのか?」

「とりあえず掻い摘んで言っても量はありますが、奴らが予定していた逃亡先は北西側の無人地帯のようです。高速道路に乗る前にどこかの区画で襲撃チームの中心人物を逃がし、残りは囮のようでした」

「随分と用意周到だったようだな。民間人どころか、事件が発生する場に居合わせた隊員がとんとん拍子で進んだと言ってたぞ」

「ええ、その人物が意図的に車両に残していた手記からも、その計画性が窺えました。経験も負けず劣らず積んでいますし油断はできません。AR15が現場で拘束した犯人への尋問は?」

「明日の早朝から治安部隊の彼らが今やってくれるそうだ。終わり次第、情報をこちらにも伝えるとな」

 

現場から押収できた物品からして、犯行に及んだ彼らは一つの組織として動いているというのがローガンの所見である。レストランで組んでいた陣形、現場からの逃走先にあった別班によって用意されていた車両。グローザからも同時攻撃を仕掛けられていたという話もあったことから、訓練を受けた上で統率されている。加えて、あの男を守るために体を張ってきたこともある。だがあのような庇い方はどう見ても犯罪者のそれとは違う。組織そのものの根幹である人物にあの男は当てはまらない、根拠はないがそのようにローガンの直感が囁いていた。

そしてふと思いついたことを、自分の中のデータベースにはないことをソファに座った彼女に尋ねた。

 

「ヘリアンさん、『バーンズ』という名前に聞き覚えは?」

「……いや、覚えはないな。その名がどうかしたのか?」

「中心人物だと思われる男の名です。奴自身の本当の名かどうかはわかりませんが、相当な腕利きではありました。戦術人形でも油断した場合、負けることは間違いありません」

「それほどの者なら治安の彼らと共有している危険人物リストに載っている可能性があるな。できるだけ早く調べておこう」

 

お願いします、と言ってローガンは頭を下げた。

徒歩での逃走で最終的には追い付けたが、初手からの攻撃からこちらの拳銃を気付かない間に奪っていたことからして、対人戦闘はやり手であることが確信できる。あれだけの腕をもつ男がマークされていないことは考えられないかった。

 

「とりあえず、今日のうちに聞きたかったことは現場で得られた成果だ。証拠品などから推察は明日以降にするとして、今日はもう休んでおけ。あいつは戻ってきて荷物整理を終えた途端、彼女達に連れていかれてたぞ」

「ここを一週間どころか十日以上留守にしてましたしね。予定を大きくオーバーしていますし……そうだ、大きく話は戻されますけどスオミの容態は?」

「無事だ。肩だけでなく首元付近も撃たれていて、少々意識も朦朧としていたが人間よりも頑丈にできている。数日は外出できないが、しばらく根を詰めていたそうだしいい休みになるだろ」

「……すいません、ヘリアンさん。重ねていくつか質問させてください」

 

こちらの表情からなにかを読み取ってくれたのか、彼女は一間空けてから自分の向かえ側にあるソファに腰掛けるように勧めてきた。長くなると察してくれたのかは定かではない。しかし、今それは重要なことではないだろう。

 

「……それで、聞きたいことは?」

「まず一つ目、これはまあ馬鹿な質問なので足蹴にしてくれて構いません。彼女を車内でグローザが撃ったという可能性は?」

「完全には否定しないよ。あれでも結果を出すことに拘りを持って戦う人形だ。そのプライドの為なら、彼女だってそうするかもしれない。君とかから疑いを持たれるいった色々とリスクは伴うがな……でも君の中でも答えは出ているんじゃないのか?」

「……ええまあ。現場のその場で湧いた一時の激情をぶつけ合いましたけど、あーいった奴でもちゃんと考え抜いた理念があることはわかりました。あいつが打算的にこの基地の人形達と接触しているのではないかとも思いましたけど、そんなことをしているにしてはあまりにもその……」

 

言うべきことか一瞬迷ったが、総司令官が隠すな話せと命じていたので口に出すことにした。

 

「……『線引き』がはっきりなようであやふやです。人間と人形、俺と彼女達への接し方が」

「……なるほど、君の目にそう映ったのか」

 

バルソクへの伝授からの本部の人形達の辛辣な総意を言った時の自分への当たり方。あそこまでの温度差にはさすがに愕然としないことはないだろう。

だが、『なぜ?』という疑問が残る。

『子供っぽい夢を持っている気に入らない人だ。だから冷たくしよう』というそれこそ中等教育もされていないような年齢の少女の単純なもののわけがない。それが正解だと思うのかと問われた場合、当事者であるローガンでもそんなわけないんじゃないかと否定する構えを取る。彼女の言い分から『生きるか死ぬかのシビアな世界で子供っぽい夢を持っていることもあって信用ならない』ならまだ納得できるが、先述したような理由であれば蹴り倒す勢いだ。

あやふやなものでなく、それだけの理由がある。じゃあそれが、人形だったらどうなのだろうか。まだ実際に耳にしていないにしても、そんな希望的観測に基づいたエゴが彼女達に根付いていてもおかしくない。

そこまで考えていないエリートではないだろう。グローザは射撃をはじめとした戦闘技術の腕だけでなく頭も冴えている。彼女のAIであれば、思慮深い人間のようにそんな不確実で心理的な心情に行き着くはずだ。

そう、色々と不確実だ。

人間と人形だから接し方を変えるというだけならまだともかく、思想などにも話を持ち出すとキリが無くなる。グローザは無意識にそのことの境界線の引き方を避けているようだった。

 

「そうなると、聞きたいことはグローザの事か?」

「……まあ他にも一つありますけどね」

「……いいだろう。なら少しだけ彼女の事を話してやろう」

 

そう言うとヘリアンは背もたれに体重を預けている状態から、両膝に肘を乗せて両手を組みそこに顔をもって行くといったような姿勢になった。表情も真剣そのもので、ギラリと光る眼の奥の光にローガンは押し黙って耳を傾けた。

 

「私自身も全てを聞かされたわけではないが、グローザは元々こことは別の支部の方で副官を勤めていたんだそうだ。彼女自身もその基地の指揮官の為に尽力して部隊を率いて戦果を上げ続けた。……が、その指揮官を亡くしたある日を境に彼女は本部への転属となったことが本部で記録として残されている。この時は私はまだ代行官としてグリフィンにいた頃であって、関与していないこともあって詳細はよく知らないがな」

「従っていた指揮官がやられた日を境にか……その後はどうなりました?本部に来てからもまったく銃を取らなくなったわけではないでしょう?」

「その通りだ。無論、彼女でなければ我々が望んだ結果を出せない潜入作戦に動員されたり、激戦区域で応援が必要とされている支部の方に配属されたりした。だが配属された先で現場指揮を行う指揮官に対して辛辣な物言いをしたりと手厳しかったらしいがな。それでメンタルをズタズタにしながら転属を繰り返して本部に戻ってきたわけだが、今回はここの視察も兼ねて私の護衛として連れてきたわけだ。私の予想では、お決まり文句のようになっていた『ここの指揮官は気が弛んでいる』とか呟いていたりするものかと思ったが、なにも言ってないのだから少々驚いている」

「それ、たぶん俺がサンドバックになってたからじゃないですかね。『あなたは腑抜けている』だとかを正面切ってストレートにぶつけられた方が楽じゃないかってぐらい、ボッコボコに殴って頭に浮かんでいた不満が解消されていたり?」

「言っていてそんなわけあると思うか?」

 

……ないですね、と中身が詰まった袋代行が泣く子も黙りそうな怖い笑顔に目を逸らす。このノリは通じないらしいのでダメ、と脳の中のメモ帳に記した砂袋代行は白髪頭を掻きつつ、一時だけ普段とは違うモードにシフトしていた脳内スイッチをカチリと切り替えた。

 

「問題外と切り捨てられてもおかしくない質問から色々と聞くことが出来ましたけど……そうなると二つ目の質問として、今回のパトロールでスオミと組ませたのは……」

「おそらく君の考えている通り。グローザは任務こそ真面目に取り組み、支援などがあった場合はそれ相応の収穫を掘り出して持って帰ってくる。そんな彼女でもあまり一般人との交流はここ最近ではほとんどないと言っても良いぐらいだ。それを理由に基地だけでなく、街中の視察を含めてスオミとの同行を命じた。ここで製造されてから長く生きている彼女であれば、性格も相まって反発し合うことはあまりないのではないかとも思ってな」

「あいつにも他人の言い分に譲ろうとはしない頑固な面もあるのはご存じでしょうかね。上司がいなくなった数日間で倒れたというのに、『今日できなくとも明日からでも取り返す』と説得しようとしても聞く耳を持っても安静にする姿勢もなかったんですよ」

「誰にだって譲りたくないと思うような、独占欲が全開の物というのはある。政治家が自分の立場を奪われまいと拘るように、スオミだって『副官』の座を誰かに盗られたくないんだ。指揮官が代わってから任命され、それからはずっと上司を支え続けているんだ。そんな『副官』であることに誇りを抱いているのであればわからなくはないんじゃないか?」

「……たしかに、通ずるものはあります。それが良き上司と巡り合えたのであれば尚更」

 

ヘリアンは恐らく『スオミだけに明かした』ことを知らないだろう。ここでそのことを話してしまっても良いが、そこで変な方向に話がこじれてしまったら困るので、ローガンは口に出さずにしまい込んだ。しかもこの話は迂闊にべらべらと口に出すべきではない。

その内容は推測だけで確かな中身までは想像がつかないが、口止めされているのであれば仕方ないだろう。たしかな判断材料もないのに決めつけてしまえば、それこそ取り返しのつかないことになりかねない。

生きているのに袂を願っていない形で分かつことになるのはローガンにとっても心苦しく思うものだ。苦痛を感じるのであれば、あの苦いだけの缶コーヒーを飲んで味覚が狂ってしまうぐらいで良い。

誰かと話しているのに物思いに耽っている場合じゃないと気を取り直し、一番聞きたかったことを脳内に呼び起こした。

 

「それじゃ最後、これが俺にとって本題と言える質問ですけどもいいですかね?」

「かまわないさ。聞きたいことがあるなら、タイミングは見計らっても遠慮だけはするな。戦場では手腕だけじゃなく知略を巡らせることだって必要だし、そんなつっかえたものを抱えた状態で行きたくないだろ」

「たしかに、喉が物でつっかえた状態で戦うのは全くないと言いきれませんし想像したくないです。そんじゃ、聞かせてもらいたいんですけど、ここに来て初日でシャドー隊の扱いに『いい意味で困ってる』って言ってましたけど、本部の人形達の総意を聞く限りじゃそうは思えないです。なぜそんな言い方をしたんですか?」

 

脳内で疑問の半分以上の枠を占めている重石を口から吐き出した瞬間、目の前のグリフィンの現最高責任者はモノクルの奥の目をギラリと光らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿舎から最短でバーに行くには東西南北に基地の建物に囲まれた、大学のキャンパスのような中庭を経由して行くのが一番である。ローガンの自室もある宿舎があるのは中庭から南東の方で、一日の始まりである朝では食堂を利用するために最短でそこを突っ切って向かって行ってる。もう夜の闇も深まってこちらに面している建物の窓からは非常灯がちらほらと覗かせている中をローガンはシャワーも浴びてからAR15との約束通りスプリングフィールドのバーに向かっていた。

肉体的疲労が重なっているだけでなく、総司令官との内容が濃く込み入った話もあって脳をフル回転、精神的にも大分参った状態であるため、本心を明かせば今日はもう夕食を取らずにベッドに直行してしまいたかったが、約束をしてしまった以上は可能な限りは守っておきたい。

……まあそれでも、携帯端末で連絡してしまってもよかったのではないかとも思ったが、最高責任者殿から『あいつは今日はもうバーに拘束されているだろうから顔だけ見に行って来い』とも言われていたのでやむなく……といった経緯だった。教官の実地訓練に比べたらまだマシだしこれも体力づくりの一環……と割り切ったローガンは目的地の扉の前に辿り着き、両手開きの扉のロックされていない左側を開けたのだが。

 

「……なんだこれ」

 

目に飛び込んできたのは死屍累々でありながらも阿鼻叫喚の有様だった。バーの奥にあるダーツやビリヤードの台の方に陣取っている衆がどんちゃん騒ぎで笑い声を高く上げたり、酒が入ったジョッキやグラスを一気に呷ったりするなどしていてローガンも顔真っ青になる。そもそもの話、足を踏み入れた先が目に見えるほどのカオスなことになっていれば誰だって気が引けたりするものだ。経緯も何もクソもないことなどない。必ず何かの結果が生み出されたのだとしたら、そこまでに行き当った過程があるのだから。

しかしここまでのお祭り騒ぎなどローガンは目にしたことなどない。現在の時刻はもう日にちが代わる二時間ほど前であるというのにここまでのテンションを維持することが出来るなど

もはや頭を働かせることも億劫になってきていたので、もうそこに深く関わらないことにして赤い顔で眠りこける人形達を跨いで数人の人形が静かに座っているカウンターの方にローガンは逃げた。

もう向こうの惨状の対処は諦めるというか、最初から分かっていたかのようにしていたマスターに挨拶として片手を上げた。

 

「……ええっと、お疲れさん。いいのか、止めなくて?」

「そちらも遅くまでお疲れ様です。いいんですよ、もうこうなることは容易に分かっていましたから」

 

もう一度肩越しに振り返って見てみれば、今度は腕相撲が始まっていた。周りがはやし立てる中で二人の戦術人形が肘をついてお互いの手を掴み笑いながら睨みあっている。対戦するのはFN小隊のFALとファイブセブンこと57。軽口をたたき合いはするが同小隊内で行動するため信頼し合ってることが窺えていたのだが……。

……うん、あれは目が全然笑ってない。それによく目を凝らしてみればまだ試合開始前だというのに軽く握るのではなく、もう使用する腕全体に最大出力で腕力を発揮させている。人間じゃ無駄に体力を使うだけで得することなど何もないだがお構いなし。おーい、レスリング台の方が悲鳴を上げていますけど気付いてます~?

 

「それで、なににしますか?」

「ん~、もうこんな夜遅くにがっついて食う気分になれないしな。ビールとそれに合う軽いつまみを頼んでいいか」

「ええ、かしこまりました」

 

開始の合図で『ファイッ!』という誰かの掛け声と盛り上がりを背にし、ローガンはマスターに注文を出した後でカウンター席に座っている人形達の中で約束を取り付けていた少女を目で探していく。すると隅の方で突っ伏すようにしている様を発見。その隣には見覚えあるどころか、ガッツリ日常で絡んでいる人形が一人いた。

話をすることになってもまあ特に困ることもないしいいか、と思いそちらに歩を進める。気配でこちらに気付いたのか、それともその聡いそのAIの頭脳で予測できていたのかはわからないが、バーの一角の喧騒で足音がほとんど消えているこちらに顔を向けてきた。

 

「お疲れ~♪随分と遅かったわね、ローガン?」

「知ってるかもしれないけど残業につぐサービス残業だったんだよ。おかげでこっちはヘトヘトだまったく」

 

そこにいたのはこの間商業区の様子を見て回るのに同行してきたUMP45だった。彼女の両手でも収まるサイズのグラスにはまだなにかしらかのアルコール飲料が注がれている。

向けられてきた顔色からして、そこまで酔っていないように見える。普段から彼女から発せられる猫撫で声も視線をこちらに向けてくる金色の瞳もいつも通り。雰囲気もリラックスしているで満面の笑みを浮かべていた。

一旦は両腕を枕にしている約束相手、AR15の様子を確認してみると、目を回したようにして眠っている。顔が赤くなっているが、その原因が近くに置かれている中身がまだ半分ぐらい残っているジョッキであるのは明らかだった。

 

「ローガンが来るのが遅いし、周りに流されるようにして飲んでたんだよ~。いつもならよっぽどのことがない限り断ってなのに、そんな素振りもなくいきなりビールジョッキを手に持ったから私も驚いたわ。何かあったと聞いたけど何も答えないままこうなっちゃったし、どうしようかと思ってたのよ。今日一日、AR15となにかあったの?」

「今日の昼間から二時間ぐらいでアサルトライフルやサブマシンガン、防弾チョッキまで着ている奴らとドンパチしたぐらいでこいつとは喧嘩みたいなことは一切してない、と断言はできる。俺としては意識してこいつとそういう険悪になるようなことはできればしたくないしな」

「ならAR15でなにか思うことがあった、そういうことになるわ。でもそれに突っ込むのは野暮なことだし今はそっとしておくべきよね」

 

今ではこうしてスリープモード、人間なら酔い潰れて睡魔に身を任せている状態なので無理に動かすべきではない。普段なら小動物みたいに寄ってくるG41みたいに頭を撫でようものなら怒ることは間違いないが、労う意味合いで指先で優しく撫でておくと、45の右隣の席に腰を下ろした。

彼女に昼間からの事件で自分が見たことを隠すことなく伝えている間に、スプリングフィールドに注文していたビールとマスタードと一緒に出されたソーセージが到着。会話の合間に舌鼓を打ちつつ、肉から溢れ出る肉汁を酒で一緒に流し込んだ。

そんな普通のソーセージの中に色が赤いのがあったため、手に持って使っていたフォークが止まってしまう。

 

「……なんだこれ。小さいのに如何にもなバイオレンス感が出ていて食うのに躊躇してしまうんだけども」

「チョリソーっていうスペインで生まれたっていうソーセージ。私も食べたけど美味しかったわよ」

「へぇー、そんじゃいただきますっと……」

 

フォークで刺した赤々しいそれをえいやと口に放り込む。

噛んだ瞬間に肉の食感と一緒に味覚を刺激してくるのはスパイシーな肉汁。この前まで口にしていたソーセージからは甘いそれが出てきていて腹を満たしてきたが、こちらの方も中々だ。

作る課程では香辛料も混ぜているのだろう。塩コショウのようにスパイスと言われたらすぐに思いつくそれだけでなく、カレーほどじゃなくても多彩なものをつかっている。ただ単にしょっぱいいだけじゃなく焼きたて特有の熱の中に辛味があり辛くて辛くて辛くてからくてからくてからくてがががががががががががががががががが!?

 

「ばばばばばばばばぁあああああああああああ!?」

 

舌に対する痛烈な刺激に我慢できなくなったローガンは考えることなく反射的に置いていたビールに手を伸ばし緩和するために一気に口に含んで流し込む。美味く感じる筈の麦の香りと苦味を味わうことなく食道に時間をかけて通したことにより、ようやく口内に一時だけ時間に比例して大きくなっていた暴れん坊将軍が静まった。汗が噴き出てきているのを感じながらチクチクと針で刺すようにまだ微かに残っている痛みを逃がす為に、荒く息を吐きながら顔を上げると、隣の45は腹を抱えながらブルブルと肩を震わせ、今は少し離れたところで食器を洗っている、さっきこの凶悪飯を出したスプリングフィールドも口に手を当てながら『ふふふ』と声を漏らしていた。

 

「んだこれぇ!?辛いなんて一言で収まらないぞおいぃ!!」

「くふふふふ……ごめん、ローガン。ここのチョリソーは辛い物好きのスタッフの要望で特別辛いの……。本場のは入っていないけど、日本に流通したののように唐辛子がこれでもかと……くっくっく……!」

「ごめんなさい、ローガンさん。食べ物で遊ぶのは悪い事ではありますが、酒の席での余興ということで許してください……ふふふ……」

「それだったら先に言って『イエス』か『ノー』の選択肢をくれよ!しかも45、お前知ってて俺に食わせて反応を楽しんでたんかいぃ!」

「へへ~ん、無知は罪なりっていうしね~♪」

 

SOPIIにもお仕置きとしてやってたりする、両サイドからの側頭部ぐりぐりの刑に処す為に左腕を伸ばすが、するりと猫がこちらを馬鹿にするようにして躱される。席を立った彼女を追うべく立ち上がろうとしたローガンだったが、両脚に来ていた疲労にアルコールの影響も重なってかその場で立ち上がることもできずに転倒してしまった。

ドタタンッ!と派手にローガンが受け身を取れずに前面から転んだことで、悪ふざけが過ぎたと考えたらしい45が駈け出そうとしていた体勢からこちらに戻ってくる。

 

「え~と、ローガン大丈夫?」

「……起こしてくれたら今回の事はチャラにしてやる。だからちょっと手を貸してくれ」

 

激辛チョリソーで味覚が麻痺したが、仲間との一種のコミュニケーションとしては単なる軽口の叩き合いよりも親しみを感じる。五十歩百歩であまり変わらないのかもしれないが、親しくなれなければここまでのことはできたことではないだろう。なによりもそれは、45が便乗した仕掛け人のスプリングフィールドが証明している。コーヒーの話から知り合った彼女からドッキリ染みたサプライズが用意されていたのから、仲が深まっていると思っていいだろう。それに45も仕事で疲れているこちらを気を紛らわせる為にもやってくれたのだろう。要所でこちらをからかってくる404小隊の隊長だが、チームをまとめるポジションにいるからかなんだかんだで面倒見は良い。残業も含めた事件の話では口をあまり挟むことなく黙って耳を傾け、一通り話し終わった後でも改めて『お疲れ様』と言ってくれたのだ。本心からであろうその純粋な労いに気を悪くするほど、ローガンは捻くれていない。

損得勘定で考えれば、45に対してのやり返しができないことで差し引いても十分なお釣りがある。というかありすぎるぐらいだ。

助け起こされて椅子に座り直したローガンは、水が入っているコップを一気に呷って一息をついた。溜息を吐いて顔を上げた先に視界に映ったのは、こちらの一末の展開を露程知らずに未だに騒いでいるグループである。

 

「随分と盛り上がってんな。やっぱりお前達戦術人形も祭りみたいに騒ぐのが好きなのか?」

人間(ローガン)みたいにそうでもないのもいるし、好きなのもいる。反対に嫌いな人形もね。私は好きでも嫌いでもないけど、面倒なことに巻き込まれたりしない限りは少し離れているところで傍観しているぐらいがちょうどいいかな」

「そういう価値観の見方はやっぱり同じか。……そういや、咄嗟に逃げてしまったけど帰ってきたあいつはどこいったんだ?まさかあんなにレベルの高いアームレスリングに参加してるわけじゃあるまいし」

「ハリーならあそこよ。あのレンガ柄になってる壁際のソファの上」

 

45に言われた方向を見てみれば、たしかにそこに我らが指揮官、ハリー・クロスハートがいた。この基地内では自分達の頂点に立っている男だというのに、酒で酔っているように赤い顔になっている人形達に近寄られている様から先輩から絡まれている新人を連想してしまう。その様子を見たローガンは思わず顔が引きつってしまった。

左右から体の一部を押し付けられるようにしている彼と目が合うことでこの間のように救難信号がアイコンタクトから発せられる前に、ローガンは座席を回し再度カウンターの方に向き直った。

 

「指揮官のあいつが戻ってきただけでここまでのお祭りか。これじゃ行方不明の状態から帰還してきた場合じゃどうなるかわかったもんじゃないな」

「ん~……まあハリーが帰ってきたことからっていう理由だけじゃないんだけどね。指輪も持ってくれば、誓約狙いで全力でアピールする子もたくさんいるんだよ。ローガンは知ってる?」

「さっき知ったよ。人形とのパラメータが一定値になると可能になるっていうやつで、誓約の指輪をつけた人形はさらなる限界突破が出来るようになるっていうあれだろ」

「掻い摘んで言ってしまえばそうだね~。な~んだ、ローガンは知らないと思ったのにもう聞いてたんだ、ちぇ~……」

 

つまらなさそうに唇を尖らせる45に得意気に笑ってやったローガンは重くなってきた瞼を現状維持。自室に帰るまで寝てはならないと強く自分に言い聞かせ、傍にあった水差しでコップに中身を注いだ。

若干思考が鈍ってきている頭でヘリアンとの会話を思い返す。

正直、彼女から聞かされた時は複雑な心境だった。両人の合意の上で結ばれるのには問題がないにしても、人形に指輪で烙印を押すのは思うことがある。抽象的な例えで明確に表現できないが、まるで自分の物だということを証明するために名前を彫るように感じたからだ。人命よりも軽く見られる彼女達だが、そこまでする必要があるだろかと考えたが、半月以上前に戦ったイントゥルーダーとの対話を思い出す。彼女はグリフィンの指揮官は戦術人形との繋がりを育み、それを武器の一つとすると自分に気付かせた。数値では表せず、目で見ることはできないそれを形にしたのが、誓約の指輪なのだとしたら。

 

「……指輪を本部から調達したものだからあそこまでアプローチがあるんだったら納得だな。さっきはG36なんざいつもの五割増しの早さで奉仕してるし、普段ならツンツンしているわー(WA2000)の奴が隣に陣取っているのも腑に落ちる」

「特にハリーが指揮官として真面目になるようになってから製造されたっていう子はね。足並みを揃えながら一緒に成長してきたみたいだし、お互いに励まし合ったりすれば親近感も嫌でも湧いてくるんじゃないかしら」

 

横目で45を見てみれば、そこには何かを懐かしむように目を優しく細めている姉のような面持で自分の背後の方を眺めている彼女がいた。

 

「なんか寂しそうな顔してるぞ、お前。親離れした子供を見ているようにも見える」

「そりゃあ、さ。幼少期のあの子を弟のように見てきたんだもの。人形(わたしたち)は歳を取る度に成長しないけど、人間はそうじゃないでしょ。そんな時間の流れを感じるのは老い耄れになっていく大人達だけだと思ってたけど、私達もそんな気分になれるとは思わなかったわ」

「まあ気持ちはわからなくはないよ。でも人形は精神面で成長できても肉体の方は……」

「……ローガン、今猛烈にサンドバックが欲しくなったんだけどなってくれてもいいよね?」

「お断りします~」

 

笑顔に影が差した45から逃げるように、ローガンはまだ残っているソーセージに手を伸ばす。やや冷めてしまっているが、まだ食えなくはないなと思いながら一つずつ口に運んでいった。

もう既に精神面で綻びが所々に生まれて中身が出てきそうになっているというのにこれ以上ボッコボコにされてたまるかの姿勢で視線を目の前の更に固定し手だけを動かして淡々と食べ続ける。もし横から両手が伸びてきて顔を動かされても抵抗できるように、アームレスリングしていたFN小隊の二人に倣い筋肉を力ませた。

こちらの様子を隣人はニコニコと黒い笑顔で見ていたが、何かを思いついたように口を開いた。

 

「ね~ローガン?もし指輪を誰かに渡して誓約するのだとしたら、誰に渡す?」

「ないない、そんなことは絶対にない。ハリーみたいに指揮官になるのはごめんだし指輪を渡すほどの仲が良くなるほどの人形は多分いない」

「もしもの話だよ。今はいないんだとしても何が起こるのが分からないから人生というのはおもしろいんでしょ?良くも悪くも思った方向にいかないことだって誰にでもあるし、自分にとって都合がいいと思えることを想像してもお金だってかからない、それを口にするのもタダだよ」

「まあ一理あるな。物質的に何かを消費するわけじゃないし気恥ずかしささえ我慢すればいいわけだしな……んー」

 

とりあえず実力行使に来る様子がないので一旦リラックスし、もう遮断しかけている脳内回路でまだ稼働できるだけの思考を行う。

苦戦しつつも激辛チョリソーも含めてもう食べ終わったので、フォークを置いたその手で頬杖をつくが勢いのまま大量に取り入れたビールの影響が大きく考えが纏まってこない。45の方を見てみれば、真意を窺わせないようにまだ影のある満面の笑みを浮かべていて意図が読めなかった。

しかし正直な話、まだ二十代半ばで女性経験がほとんどない男であるローガンに対して真剣に尋ねているのだとしたらハードルが高いのではないだろうか。もし同性同士で冗談が十割の話であればふざけて答えられるが、ここまでの話の流れと、相手が人形とはいえ、自立して思考できるだけでなく異性の形を取っているのだからどうもローガンからだと好ましいベクトルで流れを持っていけない

解答に窮しながら視線をスライドさせると、そこにはせっせと仕事を片している人形のスプリングフィールドの姿がある。後のことなど何も考えず、思いついたことをそのまま吐き出した。

 

「まあ、スプリングフィールドかな」

「へぇ~……彼女の良さは私もわかるけど、どういうところが良いと思うの?」

「容姿端麗、物腰の柔らかさ、包容力……」

「……他には?」

 

まだ短い付き合いではあるが、上げれば割と彼女の長所は多く見つかる。今しているように仕事に対しても手早さや容量が良かったりもするし、話もしていて楽しい方だ。他の人形達からの評価も高く、彼女と険悪な雰囲気になっている人形を含めたスタッフをローガンは見たことない。

そうしているのは今しがた上げていった物腰と包容力だが、あと他に男性スタッフから定評のある一因となっているのは……。

 

「……色気?」

 

その瞬間、ぶつんっと何かが切れた音があった気がした。

音源はローガンの左隣からである。いや、そもそもの話、至近距離からとはいえまだノイズパーティが盛大に行われているのだから若干掻き消えていてもおかしくない。だというのに、なぜそんな音がはっきりと聞こえてきたのだろうか。そしてなぜ、自分は冷や汗を流している?

恐怖ゆえか、下半身がセメントで固められたかのように動かないままローガンは体のもう半身をそちらの方を見ないようにするために関係のない方向へと向けようとする。首だけだと、間違いなくネックツイストされる勢いで回される気がするからだ。しかしスムーズにいかず、ギギギ……とゼンマイ仕掛けの玩具のようにしかゆっくりと動かない。

そのうち幻聴であるだろうが、ゴゴゴゴゴゴ……と引き続き地響きの似た音の発信元は優しく、そしてゆっくりとローガンが座っている椅子を回して自分の正面に持って来させる。

そういえばここのカウンター席で座る椅子は回転式でしたっー!とローガンは心の中で叫んだ。

 

「ふ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん、ローガンってそういう風にしてスプリングフィールドを見てたんだ~~~~~~~~~~~~~~~~~~?」

「ち、違いますことよ!?あくまで彼女の魅力を口にしただけであって、それ以外の意図はありませんよ!?ほら、人の良さは人それぞれと言いますよね、なにも自分にはないからといって僻む必要性は……!」

 

そう言いながらローガンの視線は45の顔から下に落ちてしまう。そしてある一部に到達した途端、そこで思わず止まってしまった。

あっと思った時には時すでに遅し。胸倉をそっと掴まれ、当人からとびっきりの笑顔が向けられる。そして握り拳が見えた瞬間、『終わった』と気付いた。

 

「今日最後に、言い残したいことはある?」

「えっ、え~とそうですな~……」

 

回避する方法を少々考えたが、結局何も変わらないと断定。だったら正直に話してしまおうと、ローガンは口を開いた。

 

「夢はあっても胸は膨らまない」

 

拳が振り抜かれる前振りや警告も何もなかった。45からのノックダウンパンチによる衝撃こそあれど、痛みがなかったのは唯一の幸運だろう。

一瞬で暗転した視界と一緒に意識も闇へと沈んでいく。ようやく隙ありとばかりと睡魔が気絶と一緒に自分を泥沼に引き込んでいった。それに抵抗することなく身を任せ、明日の朝にいつも通り自室のベッドから問題なく起床できたらいいなと頭の片隅で考えていた時だった。

 

『……ローガンのバカ』

 

ローガンが知っている二人分の声が罵ってきたのである。誰の声だっけと疑問として浮かび上がったものの、『もういいや』と長かった一日を終える為に遠ざかっていく視覚と聴覚から得られる情報を断った。




SNSではフリー素材として投げ込まれている画像があったりします。そのツイートの投稿主兼イラストを描いた方が元々のツイートと一緒に加工する前の画像を上げてくれるものです。そのドルフロ関連の中で気に入ったのがあったので、DLさせてもらい、投稿主と同じ箇所に編集で文字を入れました。さすがにTwitterで使うことは恐怖心からできないので、友人同士のLINEでスマホゲーの結果を教える程度にして使っています。……一応、著作権とかの法的にも大丈夫な筈だよね?とか思ってたりもしますが、そのツイートの返信では違った方々が思い思いに画像を貼り付けてたりしてたり本人が『フリーテンプレート』と言ってるので大丈夫でしょう、うん。
というわけで今回も投稿させてもらいました。一週間で二話の投稿ってこんなにしんどかったっけ?と首を傾げてましたけどもなんとか。ですがこの先、リアルの事情もあって一週間で二話の投稿というのはほぼ無理ですので、あくまでできたらいいなという感じでお願いします。さすがに辛いZE☆
チョリソーというのは本編で45が言ってるように、本場では唐辛子などで直接刺激してくる香辛料はないようです。私はコンビニで売られている酒のつまみとして置かれているのしか食べたことありませんが、適度な辛さで好きな食べ物の一つです。でも辛党だからといって、ローガンが食べたようなのは口にしたくはありませんね~。だって食事ですから楽しんで食べたいですもの。え、チキンだって?ほっといてください。
夏に差し掛かるということは、ビールも美味しく感じれる季節になるという事でもあります。そう考えれば、嫌いな季節のトップに君臨する夏に対する嫌悪感も少しは和らぐものです。食べたことがない新しいつまみはないかなと思ってたりもしますが、財布と適宜相談しませぬと。お~、こわいこわい。
というわけで今回はこの辺で。

『ねえ、処す?ねえねえ、処すの?』
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