誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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AA-12とAUGを迎える準備は出来ました。だけど後者はともかく、前者の周回は物資の消耗から目を背けてなんとか出来てる状態です……。


24.予期せぬ事態 -Thanks,I`m going-

人間にはレム睡眠とノンレム睡眠というのがある。学術的なことは省くが、眼球運動もせずに脳と身体がリラックスして深い眠りに入るというのは後者であり、睡眠では前者と大体九十分を目安に交互で繰り返される。

緊急招集を受けることになるのだとしても、やはり避けたい時間帯というのがある。ローガンからすればそれは明け方だ。日々の睡眠時間を六時間程度と定め、日付が変わるごろに就寝しているローガンからすれば目覚めが悪い、ノンレム睡眠に入って間もない時間帯に叩き起こされることになったわけである。

部屋の壁にセットされているパネルからけたたましいブザーが鳴り、それに文句を言いながら簡易的に身支度を整えたのは十分前。

指令室に入ってみれば、知っている顔の人形達と指揮官のハリーがそこにいた。

 

「よう、おはようローガン。その様子からすれば、最悪な目覚めだったみたいだな」

「脳の回転が十分じゃないってことが自覚できるほどにな。自室であれこれする時にいちいち忘れてしまってたよクソッタレ」

 

なにも隠さずについた悪態にトンプソンが笑いながらこちらの背中を叩いてくる。朝から元気だなと思いながら彼女の隣に立つと、我らが指揮官の脇にスオミが控えていた。

ローガンの通信端末にお礼の旨を伝えるメールが届いたので、励ます意思を込めた返信をしたのは、昨日の夕方。さすがにもう落ち着いたらしく、こちらを見た時に笑顔で一礼してきたので軽く手を上げて簡易的に挨拶を返した。

招集していた全員揃ったということを確認したらしく、ハリーは座っていた椅子から立ち上がる。その表情は、いつもの柔和な顔つきではなくまさに真剣そのものだ。

 

「こんな明朝から悪いけど、緊急事態だ。それも予見していたよりもさらに悪い方向に」

 

ハリーは部屋の中央に設置している、ブリーフィングと作戦の指揮を兼ね揃えた端末を起動しホログラムで浮かび上がらせる。それにはダムと重しき建造物と離れたところに隊列を組んでいると思わしき部隊が映っていた。

 

「一昨日の事件から得た証言からの推察ではあった。でも無視できることじゃないとして偵察部隊の一部隊を編成し、昨晩にここから南側に位置する土木建造物のダム周辺に送り込んだんだ。ここまでなら知っている人もいると思う。スオミ」

「はい。偵察部隊からの現場報告では、正規軍とは全く違う、見慣れない部隊の野営地を発見。まず敵部隊の規模ですが、夜間で正確に測れてはいないようですがおそらく中隊から大隊規模だと思われます」

 

大隊、という単語に一部の人形達に動揺が生まれた。

グリフィンで編成されるのは一部隊に付き最大で小隊規模。つまり、ダミーも含めて二十五人である。これ以上の人数編成はしないことはないものの、多くは小隊規模に編成した部隊を複数配置するだけで一ヵ所に纏めることはほぼほぼないらしい。正解かどうかはわからないが、人間以上のポテンシャルをもつ戦術人形であれば、小隊規模で個別に作戦行動をしていた方が効率が良いなどメリットが多いからだろうとローガンは考えている。

とはいえ、見知らぬ部隊がそこにいるということは嫌な予感しかしてこなくなる。しかもそれが錬度などは置いても、人数だけでもこちらを圧倒するだけの規模であればだ。

端末の操作権が移譲されたらしく、スオミは手に持っているタブレットにメモリーチップを挿入し読み込ませた。表示させるための動作が終了させるまでの時間の間も彼女からの説明は続く。

 

「偵察隊からすれば、敵の装備も充実しているそうです。近辺で見回りをしていた歩兵から確認してみたところ、SMGやアサルトライフルで武装しており軍隊さながらの装備となっていました。また、他に双眼鏡で確認できたことなのですが……」

 

端末の読み込みが終わったらしく、スオミは手元に視線を戻して指をタブレットに滑らせる。いくつかのダイアログボックスに収まっている写真で捉えられている物に、ローガンも愕然とした。

 

「戦車……!?」

「そうです。送られてきた画像解析の結果、1980年頃にここ、アメリカで開発された『M1エイブラムス』であることが確認されました。展示されているようなレプリカではなく、本物であることも解析班から報告で来ています」

 

現代は第三次世界大戦の影響もあり、戦車のような戦闘で使える兵器などほとんどないと聞いている。核兵器が各国から発射された際に、よーいドンといった勢いで世界各国で用いられた電磁パルス(EMP)の影響で、全世界の電子機器を積んだ兵器もスクラップにされたからだ。それでも兵器その物がイカれたわけではないので、操作盤などを取り換えれば運転することはできる。しかし今のように大戦が終結してからは、民間人の生活や戦術人形などの自律人形が優先され、兵器に使用する電子部品の入手は困難でしかない。

元々第三次世界大戦中は歩兵による白兵戦がウェイトを占め、後半はコンピューターや機械による兵器による戦争というのではなくなったらしい。そのような背景もあって存在を忘れてしまいそうになっていたが、戦術人形といえど戦車のように高火力を発揮する兵器には太刀打ちできないといっていい。烙印システム(ASST)を施され、手足のように自分と同名の銃器を扱えるからといってもやはり限界はある。彼女達も『歩兵』であり、あくまで人間の兵士よりも優秀だというだけなのだから。

 

「数は片手で数えれる程度ではありますが、それでも大きい兵力です。他にも攻撃ヘリも確認されています」

「随分と準備が整っているわね……。指揮官、質問していい?」

「許可する、グリズリー。なんだい?」

「奴らがそこまでの規模で南に押し寄せているのは何故?そもそもの話、そこに偵察部隊を送り込んだ推察って?」

 

治安組織によるあの尋問の映像を見たのは自分とハリーやヘリアン、それとM4だけだったなと思い返す。指揮官をちらりと見てみると、彼もまた自分を見ていた。アイコンタクトで説明を頼むと言われたので、頭をガリガリと掻きながら上着のポケットから入れっぱなしにしていた記録媒体を取り出し、ブリーフィング端末の差込口に入れた。

 

「まあともかく、最初にこいつから始まったんだが……」

 

ローガンからすればもう四度目になる尋問記録の再生。一通り終わった後で、ローガンは得られた考察を話した。とはいっても、麻袋と一緒に持ち出された情報に関することだけだったが。未だに不明である、食糧庫に持ち出した人間像、そのようなことをした経緯、そして先日交戦したグループとの関連性など。

様々な意見をM4とも交えて有力と思わしき形で纏められた考えにおいて、整合性の有無を問われた場合はさすがに『有る』と返答することが出来ない。相手は確定的な要素が全くない靄のような存在で、性格から来る考えに一貫性や矛盾があってもおかしくない。その為、あくまで自分達が積んできた人間関係の経験からきた推測でしかないのだ。

 

「……なるほどね、とりあえず了解したわ。でもそうなると、当の本人はどうしているのかしら」

「たしかにそうだ。ハリー、あれから大体一日になるがなにか掴めたか?」

「ごめん、さすがに複数のタスクをこなしながらじゃそこまで追い付けないよ。情報収集で動かせる人員が限られてるし、アテにできるパイプでも当たり外れもあるしね」

「一日だけじちょっと無理があるよな……にしても待てよ、敵方は一日を間に空けただけでもう進軍してきたっていうのか?」

 

先日にローガンも現場で対処に当たることになったパトロールの騒ぎ。あの騒ぎからまだ二日目にしかなっていない。奪取した情報の解析をし、それから得られたことから作戦を立案して準備するのが順当だ。明らかに一日で全ての行程を終わらせるには無理がある。しかし、そこに突破口の糸口がある。

トンプソンの隣に立っていたPTRDが同じ考えに至ったらしく口を開いた。

 

「だけど、そこにアドバンテージがあるのかもしれないわね。もし私達と敵対する連中だとして、まだ十分な情報収集が出来ていないのであれば……」

「その通り、僕達が先手を取ることだってできる。どのような意図があって近づいてきているのかはまだわからないけど、ローガンと話し合ったようにダムの機能停止が目的である場合は容認してはならない。作戦開始時の動きとしては未確認部隊の目的を突き止め、それを阻止するということにする。現時点でも警戒されるのを避けるために、尋問といった直接情報を引き出すような接触は今のところはしていない。だから入手するのであれば迅速にして欲しい。他に質問はあるかな?」

「送り込んでいた偵察部隊はどうなっている。現場からもう退いて帰投しているのか?」

「いや、彼女達の希望もあって潜伏しているよ。機動と偵察を重視したSMGとスナイパーを重点としている編成だから、連携は取りやすいと思う」

 

こちらからの質問に答えた後で、ハリーは端末のパネルを操作し幾人かの名前が表示されているボックスを開いた。

 

「こちらから本人達にも伝達するけど、今後は偵察部隊は『チャーリーチーム』、こちらから追加で現地に送り込む多目的作戦部隊として『アルファチーム』、そして戦車などの兵器に対応することをベースとする『ブラボーチーム』を編成した。それぞれ、自分達で確認してくれ」

 

ローガンもホログラムで浮かび上がった編成を見るために何歩か引いて確認した。他に招集されている人形達もアワアワしたり慣れているように落ち着いて見渡しており反応は様々だ。

そして浮かび上がった編成は以下の通りである。

まずアルファだが、こちらは何事にも柔軟に対応できるような面子で組み合わされている。隊長として79式。隊員には95式、グリズリー、Kar98k、K2である。さすがに戦車などの重装甲には足止め程度しかできないように思えるが、それでも幅広く歩兵には対応できる。隊長にしている79式は性格も相まって相応しいと言えるだろう。

そしてブラボー。こちらの方に自分の名前があった。隊員はローガン、トンプソン、ペチェネグ(PKP)、MG5、PTRDである。マシンガンやスナイパーライフルを基本としているため機動力は落ちるが、装甲に貫通させるには高火力で押し切るしかない故の組み合わせだ。対戦車ライフルのPTRDに、高レベルのマシンガンであることで有名の二人、そして敵の攻撃をフォースシールドで防げるトンプソン。どこまで通用するかどうかはわからないが、現時点で最善な編成としてはこれなのかもしれない。ただ一つだけ問題がある。それは――――――。

 

「ちょっと待ってくれハリー。なんでブラボーのリーダーが俺なんだ……?」

「適材適所、って言葉は知っているよねローガン?」

 

冷や汗をダラダラと流すローガンにハリーが笑顔で返してくる。そう、隊長と定める隊員には名前が太枠で囲まれているいるのだが、ブラボーの他の人形達の名前にはついておらず、ローガンの名前の所にしっかりと付いているのだ。

正直なところ、ローガンの人形に対しての接点が厚いところがあれば逆のところもある。この基地で代表的なAR小隊との綿密な関わりを持つことから注目され、明るくフレンドリーな性格の持ち主である人形達とは食事や酒、又は演習で知り合えてきた。酒を飲み交わす人形達からの紹介もあって幅が広く、銃のカデゴリを問わず、である。

だが逆にというか、人間関係と同じく芳しくないのもいるのだ。それならいい例として、同じ隊にいるペチェネグがそうだ。基地内で彼女は他の人形を見下すような台詞が多いらしく、良い話はほとんど聞かない。口だけでなく実力は本物ではあることは訓練中で知ってはいるが、彼女と組んだ中で仲の良い人形も見たことないのである。

 

「それじゃ指揮官、一つ聞かせてもらおうか。こいつをワタシ達の隊のリーダーにした理由は何だ?人間であるこんなウスノロを懇意にするのは勝手だが、作戦にそんな友情関係を用いられたら迷惑でしかない」

 

そう言いながらペチェネグはこちらに歩いて来て、その鋭い瞳で睨んでくる。青筋を額に浮かべ、こちらに指をさしながら言葉を重ねた。

 

「というか、こんな奴のどこが信用できるんだか納得できる説明をしろ。使える使えない以前に、こんな奴を動員するメリットがワタシにはわからない」

 

当の本人から鋭い視線と一緒に胸に突き刺さるワードを受けて少々ローガンは渋い顔になってしまった。グローザに指摘されてからわかっていたことではあったが、さすがに彼女以外にもそのようにストレートに言われると来るものがある。あれから考えてみてもキリがないとして脇に置いていたが、やはり戦術人形達の自分への懐疑心を持たれても仕方なかった。

ローガン・ブラックという人間がグリフィンに加入した途端、まだ正式な隊員はいないが隊長の座に権限まで得ているのだ。実力も正確に測れない新入りが着任したのは、自分達よりも上の立場で、上司になったようなもの。人間や人形も関係なく、疑いを持たれても不思議ではない、必然だ。

他の人形達の視線が自分に向けられるのを感じながら、ローガンは明後日の方向も何も見ることが出来なかった。というよりも、どこに逃げることもできない。ローガンではなく指揮官のハリーに向けられた問いかけだというのに、自身の価値を問われているようで仕方なかった。

 

「……うん、まあ君たちの気持ちはわからなくはないよ。というよりも、ローガンが僕達に力を貸すと言ってくれた時からこうなることは覚悟していたからね」

 

だがこちらの心情とは違い、ハリーは笑顔だった。

 

「じゃあ一つずつ説明するよ。ローガンを動員する訳としては、僕がいる本部との連絡が何かしらかの事故で出来なくなった場合は現場指揮官として起用できるというのがある。本人にも、隊長としての経歴があるらしいしね」

 

その返答の一言にローガンは心中で『なんじゃそりゃああああああああ!?』と叫んだ。隊長としての経験はないわけではないが、ハリーにはそこまで話したことはない。やはり、隊員として現場での指示に従っていた方が長いのだ。それだというのに、万が一のことがあった時の現場指揮官、ということにローガンは心の中であんぐりと口を開けた。

それを他所に、ペチェネグは質問を続ける。

 

「何かしらかの事故が起こる?ならそれを無くすようにすればいいだろうが。完全になくすことはできなくとも、それに近づけることならあなたにはできるだろう!」

「たしかにね。でもそれができるようになるのはいつの事なのかな。明日、一週間後、一ヵ月後?それとも一年か十年後かな?……ペチェネグ、僕にだってできることとできないことはやっぱりあるんだよ。事故とか望まないことが起きる可能性がもし『0』にできたのだとしても、それは完全な『0』じゃない。確率では小数点を四捨五入して『0』になっているだけで、その数字がどこかの要因で狂えば容易に『1』にだってなるんだ。勿論、努力はしてそうならないようにはする。でもそれを実現するまでの第二のプラン、現地で直接戦場を目にして指示を出せる人間として、ローガンを今回取り入れたかった。すぐには僕と同じように指示は出せないだろうけど、それでもいつかは出来る筈だよ。テロリストだけでなく鉄血との戦いに生き残ってきたローガン、ならね」

 

こじつけのようにも感じるが、言ってることは間違っていない。

例えば仕事用に筆記用具を用意するとして、ペンの一本をいつも持ち歩くケースに入れておき、もう一本を服のポケットに予備として取っておく。メインに使うのはケースに入れておいた方で、忘れずに持ち出せたのならいい。必要なかったわ、といって笑い話で済めばいいのだから。だがもし、ペンを必要とする時にそのケースを忘れてしまった、失くしてしまったらどうだろうか。ペン程度なら仕事場にあるのかもしれないが、ひょっとしたらないことだってあり得る。水性か油性かのインクの質、色など、必要としている要素が一致していない場合はどうすればいい?そのような時の為に、もう一本のペンを、予防策を取っておくのである。

それは勉強や事務仕事だったりとあまり変わらない。重要な作戦であればプランAの他にBを用意したりと万が一の為に備えておくものだ。

ローガン自身の意思や能力は置いといて、ハリーが言ってるのはそういう事であった。

 

「それに君達も知っている404小隊の隊長の45の話だけどね、ローガンは彼女と協力しながらであったけど、過去に戦車を相手にして勝ったことがあるんだよ」

 

皆が『えっ』と驚愕する一方で、ローガンは『げっ』と顔を歪めた。

 

「RPGや重火器がない中で、どうやって相手にしたのか。僕としてもそれが気になるところだけど……ローガン、どうやったんだい?」

「……スモークを45が使ったことでこっちの居場所を見失ったんだ。その隙をついて、砲身にフラグを投げ込んだ。そうすれば砲塔の中で爆発した挙句、砲弾にも着火すると思ったからな」

「それでどうなったんだい。目論み通りに倒せたのかな?」

「予想の斜め上だったよ。その場で吹き飛ぶのかと思いきや、坂道で後ろの方に斜めになっていたのだから、一回爆発した後でそっちの方に吹っ飛んで木端微塵さ」

 

あの時はよく生き残ったものだと思う。うまくいくかどうかは賭けであったが、運気はこちらの方に味方したらしく特に派手な怪我をすることなく倒すことが出来た。鉄血兵が人間の兵器を使用することに危機感を覚え、これが今後ないようにと思い、やけっぱちになりながらの即興の作戦行動であった。45は成功した後に呆然とし、何かが吹っ切れたように笑っていたが、あの時の自分は腰から力が抜けてその場に座り込んだ。本来なら投降するのが筋だろうが、相手は鉄血であるため緊張感を一時忘れて無我夢中で行動していたのだから。

 

「それがローガンをブラボーチームのリーダーにした最大の理由さ、ペチェネグ。今ほどの充実した装備がなくとも、ローガンはその場にあるものを使って最大限に戦うよ。勇気と無謀は紙一重というように、無茶することだって時には別の何かに置き換えられることだってある。それとさ……」

 

ペチェネグに近付いたハリーの雰囲気が変わる。ローガンも見たことがない、笑顔を浮かべながらも静かに怒っている時の表情で。

 

「こういう作戦には絶対に信用できる人員で行うことを僕は念頭にしているんだ。そこに友情は関係ないよ、あくまで仕事だからね。支援をする時に融通を利かせる際に働かせることはあっても、そこはかわらない。それにさ、親友の悪口を言われて僕が何も思わないような臆病者だと思うかい?」

最後は自分の為に怒ってくれているというのに、なぜか全く喜ばしい感情が湧いてこない。それどころか、別の意味が含まれているような気もしてくる。プラス思考ではなくマイナスに大きく振り切られ、体温までもが下がっていくような錯覚までも覚えてきた。

普段は強気な態度であろう戦術人形もその迫力に押され、何も言えなくなったようにタジタジになっていた。さきほどは自分が悪いように言われたが、流石にこうなるとフォローをどうにか入れてやった方が良いだろうと思う。だがなにをどういうか、知らぬ間に毛糸のようにこんがらがっていた思考を解き解そうとするが時間を要することは避けられない。

そんな時だった、思わぬ助け舟が来たのは。

 

「すいません、失礼します」

 

コンコンッと指令室の扉が三回ノックされて入ってきたのはグローザだった。長い髪を揺らしながら入ってきた彼女はまっすぐハリーの所へと歩いていき、歩数で言うなら彼女の歩幅で三歩程の距離で立ち止まる。

 

「ハリー指揮官、今回の作戦ですが私も参加させてください」

「君が参加するのかい?ヘリアンさんからも『本人が望むのなら、どんな任務に就かせても良い』と言われてたけどもちょっとな……」

「大丈夫です、あくまで私は彼、ローガン・ブラックの補佐として動きます」

 

思わぬ台詞に純粋にローガンは驚いて思わず声が出そうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、どういった風の吹き回しだよ。あれだけ毒を吐いておきながら俺の部隊に入るって」

 

グローザがローガンが率いることになったブラボーチームに加わること。本人から提案されたときは、出撃コストに関して問題があるのかと思ったが、ハリーがそれをなくした。前述したように、グリフィンでは一部隊につき『小隊』を最大規模として編成している。ダミーも含めた定員以上にならなければいいと言うのであれば、ダミーを扱えないローガンがいることでその分の人数の空きが四人空いているので問題ないということになる。滅茶苦茶、というより揚げ足を取っているように思えるのかもしれないが、元々軍隊ではダミーなどいった分身はない。全員が正真正銘、人生という過程で得た経験を積み重ねてきた人間であって、取って代わられる変わり身ではない。そうして考えれば、空いたダミーの四人のうちの枠の一つにグローザが入ることになった。ただし、ローガンの作戦行動の補佐になることに加えて、戦車などの兵器を正面から相手にはできないので隠密行動になる。機動性が問われてゾロゾロと引き連れるわけにはいかないのでグローザのダミーは連れて行かないという条件付きだ。

それからはとんとん拍子で話が進んだ。ペチェネグもそれ以上食い下がることなく、結果的には了承したということになった。

ここからの出立は今から一時間後、06:00ということになりチームそれぞれで集まって準備したり、フォーメーションを組んだりの確認するために弾薬庫に一旦集まっている。

アルファチームが別の机でマガジンに弾薬を込めているのとは別のところで、ローガンをはじめとしたブラボーチームも同様の作業を開始。ハニーバジャーのマガジンの一つ目に込め終わったので二つ目のに移行した。いつもやり慣れている作業ではあるが、今回は違って隣に本部のエリートが座っている。

訝しげに問うたローガンの問いかけに、グローザはこちらを見ずに答えた。

 

「今回の作戦であなたの実力を測りたいから、というのが大本ね。本当にそれを過去にやってのけたのなら今回もできるんじゃないかっていう期待もあるのだけれど、あれは本当の事?」

「……まあ、嘘は言ってないな。ただ、操作に関しては手探り状態で何とか動かしているような状況だったんだ。でもまあやっぱり油断はできなかった、何発か撃ち込まれたし」

「よく生きてたわね」

「我ながら本当だよ。んで、どうなんだよ。話が逸らされそうになったけどよ」

 

二本目も終わり、三本目に移る。『ハニーバジャー』の弾倉はあと三つあり、他にもサイドアームとして使い続けてきた『P226』のマガジンもある。メンテナンスは日々やっていてちょうど昨晩したので、あとで簡易的にするだけでいいだろう。そう思いながら、マガジンを取ってグローザの方をジロリと見た。

こちらの視線を他所に、彼女はどこを吹く風と言ったように迅速にマガジンに弾薬を込めている。

 

「……昨日、スオミの言ったことを覚えてるかしら。『ぶつかっている壁を迂回してなかったことになんかできない』ってことを」

「ああ、覚えてる。『最良の結果を得るには、逃げているばかりじゃいけない』……お前が言ってることもそれに該当しているよな」

「ええ、あの子があそこまで考えて行動を起こしていたなんて思わなかった。人間の死に立ち会って悲しみを覚えても、すぐに前に進むことを選ぶ人形というのは多いようで実際は少ないのよ。スオミはその少数派の一人に見えて、実際は多数派の方に入ってる。それでも、誰かに触発されて立ち直るというのは私が見た中で一人もいなかったから……」

「……話が見えてこないぞ。結局、お前は何を言いたいんだ」

 

手が少々疲れたため、三本目の途中で一旦手を止める。手首を回したり、グーとパーに掌を開いたり閉じたりしてストレッチ紛いのことを行う。親指の付け根辺りを片手でぐりぐりと力を込めた状態でこねて、疲れた筋肉を(ほぐ)したりもしてみる。

スオミの言っていたことで思うことがあるのであれば、ローガンも同じだ。ただし、それがグローザと一緒ではないとは限らないが。

 

「……簡単な話、スオミの姿勢を見習おうと思っただけよ。あの子は拒否し続けるんじゃなく、受け入れて前に進む糧にした。私にだって足掻き続けながらも逃げ続けているのがあるから。なんだそんなことか、て思う?」

 

ヘリアンとも初対面の時はローガンに否定的な意見をぶつけていたというのに、グローザから聞かれることがないだろうと考えていた彼女自身の思考の問題。

自分の考えを口にし、それに対しどう感じるか。たったそれだけではあるが、心にじわりと沁みてくるのを感じながら口を開く。

 

「別に思わないさ。それに間違っていないことなんざ、あいつ自身が証明してるだろ」

「そうね、あの子はたしかに自分で証明して見せた。でも私が知りたいのは正解か間違ってるということじゃないの。私自身がそのような選択をすることがおかしいかどうか、ということよ」

「おかしいことはないんじゃないのか。人間ってのは全員が全員、自分で何もかも模索して生きてきたわけじゃない。何かをする前に、既にその道を通ってる誰かのやり方を模倣したりすることだってあるんだしな」

 

当たり前の話だが、赤子の頃から自分自身で考えて行動するというのはできるわけがない。物心がつくまではほとんど自分では何もできないと言った方が良いというぐらい、人間の子供というのは無垢だ。一からすべてを学ぶには、実際に例として上がっているのを見習った方が効率が良い。だからこれまで教科書などで数式などを学ぶときは、すぐ傍に実例があったりして法則といったルールを理解できた。

自分がもっとマシになれるように、前向きに生きていけるようにするために誰かの生き方から学ぶことはおかしなことではないとローガンは思う。技術を盗む、という風に参考にできる何かがあるのであれば、それを自分に置き換えて活かす。生きていけば転換点となることなんて幾らでもあるのだから、その切っ掛けの一つとすることに悪く言う人はいないだろう。

 

「そうよね。あの人からも言われていたというのに、まだ私は……」

「……グローザ?」

 

小声で言ってたこと聞き返そうと思ったが、何でもないという風に首を振られたため追及できなかった。

首を傾げつつも再び作業に戻ったローガンは弾薬を込めていき、メインアームの分を終えた。次に『P226』の分と思い、机の上にのせている別の弾薬箱を手元に引っ張り、数発を右手に掴むと反対の手に持ったマガジンに一発ずつ詰め込んだ。単調である為、中弛みがどこかで起きそうになるがこの後の実戦の事を考えて気を緩めないように努める。

 

「私はまだ、現代の戦地にあなたが踏み入るだけの余白はないと思うわ。戦術人形(わたしたち)の仕事がなくなるからとか、存在意義が揺らぐからじゃなくて。腕が立つのはこの間のカーチェイスで見させてもらったけど、あれならまだ軽量装備の人形ならできることよ。でも、他の誰にもできないことができるのであれば付け入る隙はあるのかもしれないわね」

「最後の台詞だけど、それは助言っていうんだぞ。お前、前から随分と高圧的に言ってたのに今の発言で矛盾が混ざってるのに気付いてるか?」

 

ローガンからの指摘に気付いたグローザははっとしたようにして考え込み始める。ぶつぶつと呟き始めた彼女を尻目に、ローガンは弾込めを続けていき、サイドアームのP226のも終了させた。一通りの銃器の準備を済ませたローガンは椅子から立ち上がり、机の上に重ねていた『ハニーバジャー』のマガジンを防弾ベストの正面ポケットに、『P226』のも脇腹のスペースに収納させる。持っていく投擲物で毎度お馴染み、スモークグレネードに手を掛けようとした時だった。

 

「よう。こっちはもういつでもいいが、そっちはどうよ?」

「もう少しだ。マガジンはもう良いから、あとは対戦車用装備とか色々な。現地で敵から拝借できたらそれもいいが、あまり期待して当てにしない方が良い」

「それもそうだ、準備段階で持って行けるのならその方が良い。もう少しでマシンガンの奴らも来るはずだから最終チェックまで待機してるさ。それと爆薬とかで必要なのがあったら後で教えてくれ。私も準備は手伝うさ」

「すまん、助かる。とはいってもここからもって行けるのはC4ぐらいだし、あとはもういいや。全員揃うまで待っててくれ」

 

トンプソンが別部屋で終えたらしく、自分と同じ名前の小銃を近くに立て掛けると、アルファチームの方にも声を掛けに歩いていく。

ローガンは改めてスモークグレネードを数個取るとサイドバックやウェストポーチに入れておき、久しぶりに手に取る気がするC4爆弾も入れておく。これらに関してはトンプソンやグローザにも、敵に接近をすることになるだろう人形達にも持たせた方が良いだろうということで、後で現地に持ち込む軍用バッグを用意しておいた。

本来であれば対戦車ミサイルも持って行きたいところだが、さすがにここの武器庫には置かれていなかった。そのかわり、対戦車ライフルとして名を刻んでいるPTRDが部隊にいる為、まだいいだろう。マシンガンのペチェネグやMG5もいるので、戦闘ヘリに対しても後れを取ることはあまり考えれない。もし入手できそうなのであれば、現地で敵から奪う手段も検討しておくことにしよう。

 

「すまないローガン、遅れてしまったか?」

「別に大丈夫だ。アルファと一緒にトンプソンも最後の打ち合わせで待ってるから、お前達も来たんだし始めるとしようか」

 

ローガンは銃のメンテを終えたグローザを呼ぼうと思い、ついさっきまで作業していた机の方を見たが当の本人はいつの間にかトンプソンに連れられてアルファの方に向かっていた。グローザ本人としては当惑した様子であり、片手を笑顔のトンプソンに掴まれている。

よくもまあ、つんけんしている彼女に遠慮なくできるもんなんだな、と思いながらローガンはダム周辺を拡大して写した地図を中心に広げている会議机の前に立った。

グリフィンに来て大々的な作戦に参加する、というのは今回が初めてだなと今更ながら気付いた。今のところ、偵察やVIP回収任務で少人数、もしくは単独での作戦行動でしかやっていない。ここにきてからどれもこれも生易しいと思った仕事はないが、今回は内容もあって難易度が跳ね上がっている。今までは主に鉄血兵の相手にするにしても、戦車のような装甲車両の相手を主目的としたことはない。ハードル高いなとは感じるが、勝ち筋が全くないわけではないだろう。自分は人間ではあるが、射撃や思考だけでなく身体能力云々が秀でている戦術人形が味方としているのだ。油断大敵でそれで慢心しているわけではないが、心強い味方がいるという意識は持てる。

 

「さて……まあハリーから言われているしこっちから特に打ち合わせることはないと思うが、一応確認だけはしておこう。アルファのリーダーは79式だったな、進行してくれるか?」

「わかりました。まずアルファですが、こちらはまず情報収集として現地にいる兵士を捕え、尋問を開始。それを指揮官(プロフェット)に報告し、ダムの機能を損なわせるものであれば相手の行動阻止に動きます。なにか相違点はありますか?」

 

適切な声量ではきはきとした声だったので全員の耳に届いているだろう。それに話していた内容としても簡易的ではあるが合っている。

アルファは全体的にバランスを取った編成なので遊撃的に行動することになる。現場での情報収集を始めとして、向こうで確認されている部隊が友好的でないのであれば直接妨害・阻止することになるのがアルファチームだ。

 

「ローガンさんのブラボーですが、こちらはチャーリーと合流しての任務になりますね。現地に到着次第、ターゲットとなる車両の車列の位置を確認。私達から伝えられた情報で指揮官(プロフェット)からゴーサインが出た場合は破壊工作を開始してください。攻撃手段はローガンさんからの指示になります」

 

そしてローガンもいるブラボーチーム。戦車や高確率で追加で相手にすることになるであろう戦闘ヘリも含めた隊列の相手になるのだが、人数差もある為本格的に撃ち合いにになる前に無力化させる必要がある。飛んでいるヘリの撃墜は見つかる前の時点ではできないので諦めるしかないが、戦車であればまだできなくもない。歩兵の数も可能な限り隠密で、といきたいところだが難しいだろう。夜間であればともかく、作戦を開始するのは太陽も昇っている真昼間だ。

 

「やっぱり難しいかなぁ……」

 

そう誰かが呟いたが、ローガンはある一つの策を弾薬庫に移動している間に思いついていた。

 

「俺が奴等に成りすます、てのはどうだ?」

 

全員が口を小さく、目も驚きで見開いてこちらを見てくる。ローガンはニヤリと口角を上げながら全員を見渡した。

 

「潜入任務の手段の一つだが、この手段を取ってもいいだろう。俺が向こうの服を奪って車列に加わり、隙があれば戦車に爆弾を仕掛けるなり歩兵の人数を減らす。ロケットランチャーがあれば手っ取り早いが、C4しかないらしいしどうしたもんかと思っていたがこれならいけると思う。どうだ?」

「なるほど……でも危ない綱渡りです、大丈夫なんですか?注意を怠って発見された場合は……」

「歩兵っていう立場を変えずにスクラップにしなければならないんだ、その時点で無茶だよ。もしもの場合は、バックアップとしてグローザとかトンプソンに近くに潜んでいてもらうさ」

 

79式の言う通り、たしかに危ない綱渡りだ。それに発見された場合は即座に撃たれてしまってもおかしくない。変装して近付くのであれば、自然に溶け込めるようにしなければならなかったり課題は山積みである。

しかしこれ以外に確実性を持たせる方法はほとんどないだろう、とローガンは考えている。戦車への攻撃手段は他にないわけではないが、それではどうしても銃声を発したりとやりにくくなってしまう。それであれば、銃声を発してしまった後でそちらに注意が逸れている間にローガンが爆弾を取り付けてしまったりした方がいいだろう。これであれば、自分がしくじらない限り幾らでもやりようがある。

 

「『シャドー隊』の隊長としてでも、隠密能力が問われるわけですね、ローガンさん。直接そのお手前を拝見することはできませんが、成功を祈ってますわ」

「そいつはどうも……といいたいところだが、物質的な問題もある。接近しC4を仕掛けるにしても、一度に持ち出せる量は限られてるから、下手に持ち込み過ぎれば目立ってしまって問い詰められること待ったなしだ」

「それなら私もやるわ。一台か二台だけでも破壊できれば全体的にそっちに意識が向けられて行軍が止まる筈よ。そうすれば、私とトンプソンが多少は動きやすくなる」

「ああ、その通りだな。当初はバックアップで近くに隠れているが、うまくいった場合はグローザの言うとおりに動こう。サプレッサーの銃で歩兵を排除しながらであればいけるだろ」

 

頭を捻りながら地図に視線を落としていたところで、グローザからの救済案が提示された。

咄嗟に彼女を見てみると、憮然とした様子で腕を組んでこちらを睨んでいた。

 

「本来なら止めるべきなんでしょうけど……まあ仕方ないわ、他に方法はないのだしね。それに指揮官にあなたの『補佐』を命じられているのだし、可能な限り近くにいないといけないのだから」

「……そうかい。なら、二人にも頼むとする。これならまあ、戦車への対策はいいだろう」

「私達やPTRDはどうすればいい?機動性がローガン達ほどよくないからついていくことは難しいから、掃射できるように有効射程を意識しつつ場所取りをした方が良いだろうか?」

「そうだな、MG5とペチェネグは中距離での掃射で、PTRDは高台のような高所からの狙撃だな。さすがにこの周辺地図だけじゃ地形が把握しきれないから、現地で着き次第それぞれのポイントを探ることもしようか」

「了解だ」

 

マシンガンのMG5と彼女の横でぶすっとした顔をしているペチェネグ、そしていざという時の戦車に対しての切り札であるPTRD。

このチームからの犠牲がないようにする、これはローガンとしても作戦遂行で第一としている。時には払ってでもやり遂げなければならないが、誰もそれを心から望まないだろう。

 

「さて、出発まであと二十分です。それぞれでまだやり残してることがあるのであれば、時間内に終わらせてください」

 

その79式の一言で解散し、各々が銃器や装備を手に取って身に着けていく。

ホルスターに『P226』を入れ、ストラップを首から肩にかけて『ハニーバジャー』を脇に下げた。そしてC4やスモークなどを持ち出す様にグローザとトンプソンに言った後で、ローガンは基地内のとある部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、そりゃあそうだよな……」

 

足を向けた先は自分のデスクもあるAR小隊の執務室。ここに来る間も数人の戦術人形達とすれ違ったが、どの顔もローガンがあまり合わせたことのないものだった。

執務室内もまだ誰も来ておらず、静寂だけがそこに満ちていた。しーんとした室内だというのに、そこから笑顔や笑い声などといった記憶が甦ってくる。自覚しているほど、愛おしく思えるその温度も。

作戦が間近に迫っているのだから感傷に浸っている場合ではないし、ここには用事で来ているのだということで振り払った。自分のデスクにさきほどのブリーフィングや昨日の考察でコンピューターに挿し込んだ記録媒体を損傷したり紛失しないように、デスクの引き出しの中に仕舞おうということでここまで来たのである。時間もそこまで残されていない。

 

「ん……?」

 

ローガンはそれを手に、自分のデスクにまで歩いていき手を掛けようとしていたところで一つ気付いた。昨日の仕事を終えるまで、置いていない筈のものが二つ、そこにあったのである。

一つはローガンが作戦行動でいつも被っているニット帽だ。一日目のパトロールを終えた際に、AR15によって洗濯するということで没収されていた。いつも見慣れているそれは小奇麗になっているどころか、きちんと洗われたらしく目に見えるような汚れも見えない。元々から全体が黒で目立ちにくいのだが、それでも土や埃がついているのであれば一目でわかる。つく度にローガンも取っていたのだが、どうしても取り切れないのもあったのである。それが今では綺麗になくなっていた。

そしてもう一つ、これに関しては見覚えがない。見た目としては黒く縁どられており蒼天、といった春の青空を思わせる明るい色で形作られた輪っかだ。大きさから手首に付けるものではなく、近くには布地に止めるためのピンがある。

手に取ってみて納得したが、以前AR15が話していた腕章だった。仕事部屋としてこちらに割り当てられた際に、AR小隊がローガンに贈り物として用意していた品である。彼女によれば、当日に間に合わず後日となっていたので忘れかけていたが、昨日ローガンがここを後にした時に届いたらしい。丁寧に作られており、AR小隊の全員がつけているのとほとんど変わりがない。

それにしても何故、こちらに届くのが遅れたのだろうかと、とふと思う。出来はたしかだが、これを作るのに十分な期間があったのではないだろうかとも。

そう思いながら何気なく腕章をひっくり返してみたところで、今しがた湧いていた疑問は溶け去った。これを注文したのはAR小隊であり他の隊といったグループではない。だがそれは発注した時の話であり、製作過程の途中で追加で変更や追加注文があったりした場合は多少話が変わってくる。つまり、AR15達ではない誰かがこの腕章のデザインにちょっとした『オーダー』をしたのである。

 

「ったく、あいつらめ……」

 

ふっと息を吐き、それらの部隊章を見たことにより口元が緩む。

これを見た時のAR小隊の反応としてはどうだっただろうかと想像してみる。きっと、純粋に驚いたり、やられたと額に手を当てたり、全然違うではないかと怒ったりしていたのかもしれない。だがローガンからすれば一番気になるのはAR15のだ。

そういえば、と思い出す。昨晩パトロールから帰還したAR15とも夕食を取ろうと思い、食堂のテーブル席の一角をM4と一緒に陣取っていたあの時。談笑して他のAR小隊の面子を待っていて彼女達が来たのはいいが、AR15が一目見てもわかるぐらい、近寄りがたいオーラを発していた。SOPIIがぷんすこと頬を膨らませているのがまだ(元からそうだが)かわいらしく思うぐらい、である。なにかあったのかと声を掛けようとしたが、ギロリと蛇どころかクマよりも恐ろしい動物に睨まれたようだった。以前45と指令書を間に挟んで問答を繰り広げていたあの恐ろしさ以上のそれに、すぐにローガンは口を閉じたが何が原因なのかさっぱりだった。近くを通りかかった45と9のペアにも同様、というかそれ以上の睨みを利かせていたが、妹は慄いていても姉の方はどこを吹く風。無かったようにしてAR15に『今日もお疲れ様』と言った後でこちらににっこりと笑いかけてきた。

 

「恐ろしいもんだな……」

 

再度の蛇ならぬ龍睨みを思い出し、やれやれとローガンは時間を確認する。あと十分でヘリが離陸する時刻になるだけの時刻になっていた。

 

「行くか……」

 

当初の通り机の引き出しに記録媒体を入れておき、ニット帽とその腕章を掴む。ニット帽は被り、腕章はつけずに何も収納していないサイドバックのポケットに入れてチャックを掛けておく。

現地に着き、もし相手方がこちらに害成すのであれば話し合った通りに行動することになる。そうなれば、今身に着けている銃や防弾ベストなど装備を一旦すべて外して敵となった歩兵の軍服を着なければならない。だから、腕章を今つけても無駄になってしまう。それを言ったらニット帽やスカルマスクも目立つことも考えられるので外さなければならないが、この新品の腕章だけは今は良い意味で身に着けたくなかった。

――――――作戦を終えて帰ったら、あいつらに礼を言わないとだな――――――

今から飛び込むことになるのは博打にも近い、銃弾が飛び交うことになるかもしれない戦地だというのに、気分はスキップすることが頭に浮かぶぐらい軽くなった。

軍人としてそれはよろしくないだろう。

それでも友人達からの贈り物に嬉しく思うことのどこが悪いのだろうかと、胸に抱きながらローガンは朝の廊下を歩いていった。




最近はSASなどといった特殊部隊を特集した番組だったり、レンジャーの訓練の様子を取材したのを見たりしています。ゲームや映画で名前は知っていましたが、その詳細までは漠然としたものしか頭に入ってなかったので、わりと興味深かったです。以前私がやっていたFPSのゲームで、特殊部隊の隊員達を選択・操作してマッチの目的を達成するというゲームをやっていました。その中で、銃が強かったりしたわけではなかったのですが、グレネードサイズのEMPを投げて電子機器を破壊・無効化するキャラクターが無性に好きでしたね。見た目からして、『ザ・特殊部隊員』といったシンプルな感じで、形から入る私は最初にアンロックするキャラクターを選ぶときは迷わずそれを選びました。今でもそのゲームはプロゲーマーたちに取り扱われてたりしており、世界的にも人気を博しています。でもフレンド含めて私的な意見ですが、バグやラグだけでなく銃弾の当たり判定がよろしくなく、度々どころじゃないぐらい文句が出てました。近接攻撃の判定も、こちらが先に確実に当ててるのに敵プレイヤーの方が早く当てたということでダウンさせられたり……本当にあれ、私のヘイトも稼いだゲームだったなぁ……。
とまあ雑談が長くなってしまいましたが、今回は……話したいことは特にないなぁ……。でもまあ正直な話、戦車を吹き飛ばすにはどれだけの爆薬が必要になるのかな、とか考えてます。申し訳ありませんが、現実と差異が生まれることが考えられますのでご了承ください。作中でローガンがやったという、砲身へグレネードを投げ入れて破壊するというのは動画で上がってたりしてたので確証があるのですが、どうも爆薬で普通に破壊することになるという事では、まだ調べれてません。もしもの時は戦車を相手にしたりするゲームを参考にしますのでお許しください。
では今回はこの辺で―――
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