誰も助けてくれない -Can you hear me?- 作:麒麟犬
―――時計の針をハリー達が急変した二つの事態にぶつかることになる、その少し前にまで遡らせよう―――
『いいぞローガン、やれ!』
「了解、爆破!」
トンプソンがダミーを使って攪乱しつつ設置、グローザが中距離からスモークの合間から見えた敵歩兵に対しての援護射撃。開戦で綱渡りをして見せたローガンの次に二人が自分達の番だということで、半ばこちらの制止を振り切る形で実行された。
ローガンもできる範囲で前線に出たトンプソンを援護し、彼女からの合図で左手に握っていた起爆装置のスイッチを入れる。
そして本日二回目となる、地上で炸裂する花火。ただ見世物とするための火薬などが仕込まれているわけではないので、地面で爆発したそれには色とりどりではない。ややトーンが違って見えるだけの赤い爆炎が広がり、同時に轟く爆音が風と共に一帯を支配し備えていない者達を蹂躙した。
先ほどよりも安全に備えていたローガン達はそれぞれ状況を確認する。
「チーム1、各員状況報告しろ」
『グローザ、こちらは問題なし。……本当にやってのけるとは思わなくて現実味がないけど』
『こっちも五体満足、ダミーへの損害も軽微だ。疑ってんのかよ、グローザ。紛れもなく、私たち自身でやって見せたんじゃないか』
『そうだけど……私も今まで人類に対して肉食獣と変わらないこんなのを……』
「正直な話、俺だって一人でこんな兵器を相手に取ろうとは思わない。出くわしたらやり過ごすようにしているわけだしな……」
『MP5』の弾倉を変えているローガンでも、ここまでうまくいくとは思っていなかった。ちょうど今スクラップにした戦車の対処は、フォースフィールドを展開して敵歩兵の銃撃のみならず戦車の主砲も防いでみせたトンプソンの貢献が大きい。直撃ではないにしろ衝撃はあっただろうから動きが鈍っていたが、そこのカバーをグローザとこちらでしていたのでトンプソンだけが仕事全般を押し付けずに済んだ。
一輌目の排除に至っては、もう『運に救われた』の一言に尽きる。
「さて……チーム2、大丈夫か?こっちはもう完了、支援が必要ならそっちに行くぞ」
グローザとトンプソンと合流したローガンは同じ目標を持って別行動しているベクターとG36cのアサルトチーム2との通信を試みつつ、爆破した戦車と距離を取って一旦身を潜めた。
『大丈夫よ、こっちは次に取り掛かるわ。手の内が知られる前に制圧できてるから、なんとかなってる。ただ、ちょっと爆弾の量に不安があるわ。一輌目に念には念を、ということで使いすぎた』
「了解だベクター。こっちに残ってるのを私がそっちに持っていく、そんですぐに終わらせよう」
『ありがとうトンプソン。二輌目の近くで待機してるから、そこで落ち合いましょう』
「オーケー、後で会おう」
ローガンが何かを言う前に応答したトンプソンはまだ残っているC4爆弾のバッグを肩に担いだ。
「おいおい、別に煩いことを言うつもりはないけどそう自分だけでホイホイと決めていいことではないだろ」
「だけどローガン、お前が戦車に接近するよりも人形の私達が行く方が都合がいい。結局お前は人の身であって私達ほど丈夫じゃないんだ、そのこと忘れてないか?」
「それを傘にして言われちゃ、俺からすればタチ悪いんだが……」
「指令室でボスがお前はもしもの時の要だと言ってたが、今でもあまり変わらないだけの働きをしてるじゃないか。だったら、それらしくしてみてもいいだろ」
それらしくしてみる、ということにローガンはピンと来なかったので首を傾げる。隊を組んだ中で精々分隊長までが任命された序列で最高位であった為、ハリーのように北アメリカ支部内で高みにいる人間がしていることと言われてもパッと出てこない。日常生活においての彼の癖というのは見ていてわかって来てはいるが、こういう作戦時にしていることではどうなのかわからないローガンである。
……というよりも、トンプソンが言ってるのはそういう事とはちょっと違う。
そうとも気付かずに頭を捻る勘違い野郎に彼女は苦笑しつつ、自分の頭をツンツンと突いた。
「それをちゃんと考えておけよローガン。お前がこの先どのような道を選ぶのかは私は知らないが、どこかで指揮官になるにせよ、そのまま私達と肩を並べて前線で戦うにしても気付いておいた方が良いぞ。それを自然と心得ている指揮官がいるわけではないだろうが、結局はそれを自分で気付けた奴が一番強いんだろうさ。……ボスみたいにな」
「うん……?っておい待てっ!」
こちらの制止を振り切り、トンプソンは走り出した。もちろん、彼女も何も考えていないわけではないので、見つかるリスクが少ないルートで迂回していくのだろう。ズタタタタッと長い脚で地面を蹴り上げる、トリッキーな動きだった。おそらく訓練か何かで競争をすることになるのだとしたら、彼女に勝つことはできないだろう。と考えていたところで、そこでその走り方に見覚えがあった。
「なあグローザ、あのトンプソンの走り方だけど、あいつにもお前教えたのか?」
「……彼女に対しては何も教えていないわ。それどころか、あなたに関することで色々と聞かされたぐらいよ。私としては別に聞く必要はないと思ったんだけど」
「グリフィンに関わってからも誇れるような経験をしてきたわけではないから話されても困ることはないが……酒の席で零したぐらいの事しか言ってないとは思うがどう感じたよ」
「どうも思わない。人の数ほど人生経験というのに違いはあるわ。それにいちいちケチをつけたらその人を否定してるのと同じじゃない。そこまで落ちぶれていないわ。でも一つだけ言う事があるのなら……」
端末を操作して応援に向かうべきポイントはあるかと確認しているローガンのを見ずに、グローザは彼の肩に手を手を置いた。
「さっきみたいに感傷に浸るようじゃ、長生きはできない。悪いことではないけどそこまで感受性を働かせるようじゃ、いずれは何処かで命を落とすことになるわ。やっぱりあなた、『
今までとは違った否定。ただ、先日までの外聞や彼女自身の見解による信用に関するものではなく、ローガンのパーソナリティを一つ知った上でのものだ。
本来なら憤慨に至ったのかもしれない。ローガンの外からではなく内側を見て、人格そのものを否定しているといってもいいのだから。
しかしあのようなことがあったことで、彼女の話し方が淡々と告げているものではないようにしか思えなかった。言葉の端々に、彼女自身が刺さっているナイフの痛みを抜けずに堪えているようで言い返す気力も起きてこない。その抉られている痛みを知っていて同じく苦悶しているからか、否定されたローガンは落ち着いていながらも鎮静していた。
「それでも、俺は……」
無意識に空いている右手を握りしめ、腕全体にも力が入りわなわなと震えた。どこにもぶつけようがない黒く滾る痛みが胸の内を焼いてくる。
居場所、知人や友の消失からの悲哀。終わりの見通しが立たない戦いへの諦念。そして目を逸らしたいと思ってしまう自分の裏の顔への嫌悪。それらも含めて形作られている
嘆きたくてもそうして良いと思える相手が見つからない。清廉潔白で裏表のない、人間でも人形でもそういるものではない。多少の愚痴を黙って聞いてくれる相手はいても、自分だけがこうして苦しんでいるわけではないのだから。
だけどそんなどうしようもないことがあっても歩みは止められない、ローガンは割り切れなくとも無理矢理脇に追いやろうとした時だった。
『ブラボー……こちらアルファ……応答を……!』
ザザッと砂嵐に混じって聞こえるような声で、ローガンは飛びつく様に無線機に縋った。
「どうした、アルファ。うまく聞き取れないが一体何があったんだ?」
『指令部と……通信が……!』
「アルファ?おい、応答しろ」
完全に遮断され、アルファリーダーの79式の声が全く聞き取れなくなる。ローガンが声を出しながら自分の端末で調整しても変化がない。
グローザも簡単な調整をしていたらしいが同じく結局は何もできなかったらしい。ただ彼女は目を閉じてなにかを確認し、ローガンの方を見て言ってきた。
「間違いない、ジャミングされているわ。近接通信ならできるわけだから完全にではないけど、極端に距離が遠すぎれば全然聞こえなくなる」
「なんでそんなのが突然発生してんだ。戦車やヘリの隠し玉でそんなのがあるのだとしても、一番最初に出しておくべきじゃないのか。今なら指向性で自軍には影響のない機器が開発されてるんだろ」
「わからないけど嫌な予感がする。敵軍制圧で連携を崩すために電子機器の無力化を測ってくる、いずれはUAVによる支援も当てにならなくなる。なかなかのやり手だと思った方が良いわ」
「くそっ、たしかにプロフェットにも繋がらない……ブラボーにチャーリー各員、聞こえているのであれば一旦作戦は中止。状況確認をするから集合するぞ。場所は――――――」
そこまで言い掛けた時だった。聞こえなくなった隊からの程ではない、こちらの援護をしてくれていたT5000からの通信がノイズ混じりに聞こえてきた。
『すいませんリーダー、なにか様子がおかしいです!ダムの麓でなにかが……あれは、ヘリ?いやでも……』
「こちらでも確認する。聞こえている全員は今すぐ動けるように準備しておけ」
しゃがみ姿勢から立ち上がったローガンはグローザと一緒に、ダムに隣接している林から駈け出して水音が聞こえる方へと走り出す。近づいていく度に顔を風が叩いてくる。自然に吹いてくるものではなく、人工的に作られた乗り物が発生させていると感じられる強さに不均一だ。
見える位置にまで到着した二人は匍匐姿勢で確認。ローガンは双眼鏡を取り出すと発生源と思わしき場所を重点的に追って行く。
「なんだあれ……空間が歪んでる……いやでも、あの歪んでいる形状はたしかにヘリっぽい……?」
「私にも見せて」
隣にいるグローザに双眼鏡を渡し、報告してきたT5000のみならず全員に改めて回線を繋げた。とはいえ、こちらから繋がる様に操作しただけであって、聞こえていない可能性もある。
とりあえずローガンは確認を最初に取っておくことにした。
「聞こえている各員、無線状況を確認して報告しろ」
『こちらチーム2。トンプソンと合流してその場で待機中。無線状況はイエロー』
『マシンガンも同じくイエローだ。こっちでもダムの方での異変は確認できている』
『スナイパー三人、こちらは集合していますが無線状況はレッド……それでブラボーリーダー、あれは一体……』
「まだわかっていない。まだ様子見だが現段階でも油断は絶対にするなよ……」
肉眼で確認していても異常事態だ。麓にいる傭兵たちも動きが止まり、何事かと視線が一ヵ所に集中している。彼らでもこのことは知らなかったらしく、それまでしていたであろう作業が止まっている。
「グローザ、あれはなんだかお前ならわかるか?」
「はっきりとはわからないけど……あれ光学迷彩を搭載した輸送ヘリじゃないかと思う……」
「光学迷彩って……あの透明になるやつで……スナイパーの人形達が持ってたりするあれだよな?」
「ええ、まさしくそれよ。でも人間サイズでならともかく、乗り物を透過するものなんて私も聞いたことないわ。それに、あれもまだ欠点もあるのだから完全には信用できないのよ」
姿を隠し透明になったように見える光学迷彩は便利なように聞こえるが、たしかに欠点も存在する。例えば、激しく動けば効果が薄くなること。それを防ぐことはできなくもないが、使用しているバッテリーなどを大きく損耗させるなどもあるため控える必要があるという。だが今こうして目の前に広がっているのはグローザの言う通り、人のサイズを大きく上回る兵器に搭載されて光が屈折・回折されている。空間が一部歪曲しているのでわからなくはないが、それでも目を凝らさなければ発見しづらい。
「あんなハイテク装備を揃えている部隊なんざ聞いたことないぞ。裏から投入されたグリフィンの督戦隊とかか?」
「督戦隊が存在しているかは別として、グリフィンでもあそこまで進歩できていないわよ。現在じゃ同じように搭載した兵器の開発があと一歩まで来ている段階の筈……」
「オールドネットの情報じゃイギリスで昔戦車に取り付けての実用化に向けてどうとかあったが……っと、傭兵が動いたな」
「そのまま発生源の方に……!?」
次の瞬間だった。何もないように見える地点から発砲した銃から発せられるマズルフラッシュが生まれた。ダァンッ!と放たれた弾丸が接近していた傭兵の頭部を撃ち抜き、撃たれた男は地球の引力にひかれて仰向けに倒れる。
少なくとも目を逸らさずに注意を欠けてはいなかった。脳の半分の処理をグローザとの会話に割いていても視線はずっと外していない。
突然のことにローガンは呆気にとられたが、すぐに周囲にいる味方に確認を取った。
「この現場を見ている奴だけで良い。ヘリから兵士が降下しているのがぼんやりでも見えていた奴はいるか!?」
『い、いえ。こちらでも全く分かりませんでした!』
『なんだあれは……こんな連中聞いたことがないぞ……ローガン、あなたはどうなんだ?』
「生憎だがこんな奴らは俺も初見だよ。光学装備を全員に持たせての部隊なんざ、敵に回してくないしな……」
仲間がやられたことを機に、敵がいると見定めた地点に向かって傭兵たちは銃撃を開始。水飛沫を上げるダムによる人工の滝を背景に何が見えているのかはローガンにはわからない。感じている疑問は同じであろうが、感情はそうではないだろう。目の前にしてしまった未知数による恐怖に駆られ、衝動のままに引き金を引いているに違いない。
叫びながら腰だめに構えた軽機関銃をずっと撃ちだしている者が戦闘不能に、そしてその後ろにいるSMGを持っている者が倒れるが、彼の心臓部にナイフが刺さっていたことがグローザによって教えられる。
損害が生み出されている傭兵たちに対し、ハイテク部隊の方はどうなのだろうか。カバーして身を隠せる物陰といえば、対応している部隊が置いている物資が入った木製のコンテナが数個あるだけ。大きさ的に隠れれて男性が二人隠れるのがギリギリだ。
こうして様子をずっと見続けていられたが、もし自分達に降りかかった場合を考えてローガンは背筋に怖気が走る。むしろ、自分達が最初に標的にされていないのが本当に幸運だ。
「グローザ、俺の銃を返してくれ」
なにをすべきか決断を下したローガンは、グローザが持ってくれている自分の本来の銃である『ハニーバジャー』を受け取った。予備のマガジンを防弾チョッキのポーチに入れ、チャージハンドルを引いた後に安全装置を解除。
そして、これより自分達がとるべき方針を口にした。
「これが聞こえている全員、これよりダムの上部に向かえ。一旦集合して連絡が取れなくなったアルファとも合流して対策を練る!チーム2はマシンガン部隊とも合流、スナイパーチームはもう一度援護射撃だ!PTRD、もしこちらの存在に連中のステルスヘリが気付いた場合は撃って構わない!」
そのローガンの指示が一瞬わからなかったのかもしれない。しかし処理が追い付いた人形の中に異議を唱える者も出てきた。
『奴らは今こっちに気付いてない。それにそっちの位置的にも囲めている。だったらこのまま撃って袋叩きにするべきだ!』
『現場を見てないからわからないけど、聞いてる限りじゃPKPの言う通りよ。正体もわからない
ペチェネグとベクターからの指摘もわからなくはない。彼女達の言う通り、こちらの存在が気付かれていないのだから先手を取るのも確かに一つの手だ。だが、ローガンが懸念していることは別にある。
「たしかにそれもあるがアルファとの連絡が未だに取れなくなったんじゃそっちが第一だ。それに連携を崩すジャミングからして、奴らは相当なやり手だと見た方が良い」
『だったら……!』
「だけどな、駆け引きも何もなしで最初のコンタクトが銃撃だ。本来なら所属を明らかにするだとかあるのに、姿を隠したまま撃ちだしてきているってことはもう交渉する気なんざ絶対に微塵もない。それにだ、目の前にいる奴らだけが全員というわけじゃないだろ。俺達と同じように事前に情報収集を経てから来たのであれば、それ相応の装備を揃えている筈だ。ステルスヘリにスナイパーチームでも位置が確認が一切できないだけの完成度のある光学迷彩。明らかに歴然としすぎているだろ、俺達とも……!」
悔しいがローガンも一対一で交戦できたとしても勝てる自信は全然ない。ここからでも視認できた精密な射撃と攻撃手段。相手の実力は未だにわからないが絶対に勝てると思いこまないべきだ。
それにまだ傭兵たちにはまだチーム2がまだできていない戦車の破壊が一輌だけ残っている。それに戦闘ヘリもだ。このような状況下に介入した場合は三つ巴の乱戦となりえる。その戦闘の最中にこちらからも死人が出てしまい、頭数だけでも不利なこちらに吹いている逆風の勢いが増すことになってしまうのだ。
わざわざ傭兵たちがいる中央に目立つ形でハイテク部隊は戦い始めた。最悪の話、中央にいる彼ら以外にも同じ所属の兵士が展開しており、包囲・殲滅を進めようとしているという風に読むこともできる。そうであったらこちらの背後にも忍び寄られ首を掻っ切られることになってしまうだろう。
『……私はローガンさんの命令に従います。臆病であるからこそ長生きできるとも言われてますし、後々に全滅を考えられた展開が杞憂であったら儲けものですから』
『私もだ。私達が力任せに解決できる案件じゃもうなくなっている。一旦退いて、アルファと合流してどうすべきか話し合おう。それでいいよな、ローガン』
『こちらも三人とも同意見。ブラボーリーダー、こちらは皆が来られる必要な分だけ援護して勘付かれるのを避けるわ。出来るだけ迅速にお願いするわね』
G36c、MG5、PTRDから同意の意見が無線機を通して聞かされてくる。これで突っぱねられたらどうしようかと内心でヒヤヒヤしていたローガンは、ほうと息を吐いた。
「すまん、そしてありがとう」
『……あなたの考えはまだわからないけど死ぬことにならないのであればそれが第一ね』
『クソッ……了解だリーダー。私とMG5はこれからアサルトチーム2と合流する』
『臨時の現場指揮官がそんなこと言うなよローガン。お前の言ってることには納得がいくし私も素直に従うさ』
ベクターとペチェネグもローガンの懸念をわかってくれたのか、引き下がってくれた。『現場指揮官』、その一言がズシリと肩に乗っかってきたが、それに戸惑っているばかりでは前に進めない。
やや崩れかかったメンタルを立て直したローガンは立ち上がり、傍にいるグローザに手を貸してやる。とはいえ、なかったようにして彼女は自分で立ち上がったが。様々な意味を含めた溜息を吐き、ローガンは言った。
「作戦中でもビリはごめんじゃないかお前?」
「ええ、できればなりたくないわ。だったらやることはわかるわよね?」
それを聞いたグローザはローガンに気をあまり払っていない速度で走り出した。
―<グリフィン北アメリカ支部の作戦ブリーフィング音声ログ#283>―
<10:51>
『何があったんですか?』
『緊急事態がさらにそれ以上に上書きされたんだよ、M4と45。まずはこれを見て』
『……様子からしていつも以上に穏やかじゃないわねハリー。テロを仕掛けられているのはあなた自身じゃない?』
『そんな軽口に返せる気力は今の僕にないよ。でも、状況は把握してくれたかな』
『時間が惜しくなると感じるぐらいには、ですね。それで指揮官、私達AR小隊と45さんの404小隊に同時に招集をかけたのは何故ですか?』
『端的に言えば君たちに同時進行で任務に就いてもらいたいんだ。生憎だけど僕はダムの方の件で手一杯だからもう一つのオペレーダーをスオミに任せることになる』
『内容は……ダムに向かっている三小隊の援護・回収に、殺人事件の犯人追跡……。でもこれって……』
『まだはっきりとはわからない。だけどここで第三者の介入があったんだ。何か別の狙いがあると思う』
『睡眠不足と疲労でまともな判断が出来ているとはあまり思えないけど……でもそうね、横槍を入れてくるには遅いわ。どこかで傭兵たちと交戦するタイミングを見計らっていると見た方が良い』
『そうですね……それと指揮官、ダムに展開している小隊たちと連絡が取れなくなったのはいつからですか』
『三十分ほど前だよ。79式だけじゃなくてローガンとSV98からの応答もない。UAVの支援もいつまでもつかはわからないけど限界まではするつもりだ』
『……そっちはまずいわね。見たことのない部隊と傭兵を相手にした三つ巴』
『こうなった場合はローガンに懸けるしかない。彼が僕達からのサインを受け取ってくれればいいけど、手一杯になってたらもうどうしようもないよ』
『簡単にはやられないだろうけど、時間の問題でしょうね』
『だったらどうしますか?二つの任務の割り当ては決められていませんが』
『追跡なら404でやるわ。戦場でもこういったことならあなた達よりも私達の方が向いている。……申し訳なさそうなそんな顔しなくていいわよ、もう慣れてるし』
『……すいません。でしたらAR小隊は三小隊の回収に向かいます』
『よし。二人とも、小隊を率いて今すぐ現地入りしてくれ。こちらの方でヘリの手配を既にしてある』
『それはなによりね……一つだけ忠告しておくわ。M4、ハリー』
『なんだい?』
『ダムの制圧は一旦置いて撤退した方が良いわ。アメリカだけじゃなく、全世界の裏社会で噂にもなってる部隊かもしれないから』
『そう思ったのは何故ですか。直接見たわけじゃないのに……』
『どこかで聞いた話だったんだけど……ごめん、思い出せない。でも、金の為に汚れ仕事をしていた
『趣味で人を殺しているというのですか……!?』
『趣味というのは気晴らしを含めた当人のやりたいことで得られるのは満足感と、快楽だ。だとしたら快楽殺人を繰り返してる、人間としても道を踏み外しているアウトローだ……』
『詳しいことが思い出せたらこっちから連絡するわ。急いだ方が良いわよ二人とも。そうしないと……ローガン達が全滅するわ』
-再生終了-
――――――
<11:14>
バババッ!と放たれた銃弾が頬を掠めるがローガンは開かれた扉による物陰に飛び込みブラインドショットで牽制する。撃ちっぱなして『MP5』の弾が切れたので装填していたマガジンをその場で捨て、最後の弾倉に取り換えた。タクティカルリロードで素早く取り替え手前に引っ張り上げていたコッキングレバーの取っ手を戻して完了させた。
皆と合流した後にアルファチームの救出を取り決め、彼女達はダム内部に進む旨を含めた報告したことからローガン達も進行した。それから数分後、通路にて傭兵たちがさらに内部へと繋がる扉のコードの解読に地団駄踏んでいるところに遭遇。投降を推奨したにも関わらず撃ってきたので交戦を開始したのである。
「エネミーダウン!あと八人ですよ皆!」
「トンプソン、G36c。フォースフィールド行けるか!?」
「私はまだだ!戦車の破壊の時に無理に使ったせいでモジュールに負荷がかかりすぎたみたいだ!」
「なら私一人で行きます!援護お願いします!」
「了解。アサルトチーム、先行するG36cに援護射撃だ!」
ダム内部へと突破するのには、前衛として主にアサルトチームが担当。C4爆弾による兵器の破壊を担当していたローガン達は、スナイパーチームのPTRDとSV98からの援護の手を借りている。
T5000とマシンガン部隊であるMG5とペチェネグは後方を警戒している。味方が密集している閉鎖空間での戦闘では誤射を招きかねないので、本来の火力を発揮するために二人は追手となる敵の迎撃もしくは足止めを担当してもらうことになった。もしもの時はT5000による狙撃もしてもらい、傭兵かそれともあの謎のハイテク部隊と戦うことになる。
G36cがフォースフィールドを展開し、身体の中央から湧き出ている光の靄がコーティングとなり彼女自身を覆っている。射撃しながら最前衛になった彼女の援護でローガンも『MP5』で撃った。
撃たれている傭兵たちは身を隠した。追撃をすべくG36cの後ろに付こうとしたが、彼女の足元に何かが投擲されてきた。久方ぶりに見る物だったが、それがなんなのかがローガンにはすぐにわかった。
「
名称を声に出した瞬間だった。バシュンッ!と掌サイズで樽型の筒が上下に開き電磁パルスが展開されたらしい。至近距離で受けたG36cのフォースフィールドが消えた。
「うっ……!」
「やべぇ、やられちまうぞ!」
「援護するわ、行って!」
グローザによる射撃で傭兵たちを牽制してもらっている間に、ローガンは身を屈めてその場で動けなくなっているG36cの腕を掴み、もう片手で持っている『MP5』で自分も発砲。平衡感覚が狂っているらしく足元が覚束ないので、途中から肩を貸してやって元の物陰の方に戻った。
「すいません、ローガンさん……でも少し時間をいただければ復帰できると思います」
「わかった、それまで少し休んでろ」
今の電磁パルスの影響でG36cのダミーは完全に機能停止してしまっている。戦術人形は通常の機器よりも耐性があるので時間さえあればその場で機能を修復し戦線に戻ることは可能だ。だがそれは本体の話で、ダミーは違う。司令塔である本体の命令を受け付けて実行するダミーには耐性のみならず復調させる機能までが施されていないので、銃撃よりも簡単にダウンしてしまうのだ。
「全員、不用意に距離は詰めるなよ。G36cの二の舞になるぞ!」
「だったらどうする!?このままじゃ勝てはしてもジリ貧だぞ!」
「焼夷手榴弾があるわよ、ローガン。歩兵に対してはだだっ広い屋外じゃあまり効果を発揮できないけどここだったら」
通路は一本道で迂回できるだけの広さはない。このまま銃撃のみの交戦では悪戯に時間と体力を浪費するだけだ。最悪の場合、挟撃にあってさらにマズいことになる。タイムリミットが明確にあるわけではないが今は時間が最も惜しく、正面を対応している間に背後から来るかもしれない正体不明の敵兵が来ることがないことを願うしかない状況だ。
出し惜しみしている暇はないだろう、と考えたローガンは身を隠していた扉の蝶番を『MP5』の銃撃で破壊し、取っ手に左手を通して即席の盾にした。厚さは約二十ミリで合金。一般男性程度の大きさもあって重量はあるが若干自分に傾かせるようにするのであれば問題ない。
「いいぞベクター、焼夷手榴弾を頼む!」
「了解、何の心配もいらない」
投じられた手榴弾が目の前を横切ったタイミングでローガンは扉を盾にして通路に出た。途端に遮蔽物の向こうから断末魔が聞こえてきた。声からして片手で数えれる数人が受けたらしく、こちらが受けている銃弾の量も若干減ったように思える。
「俺が先行する、援護を頼むぞグローザ!」
「わかってる、そのまま進んで!」
すぐ後ろにグローザが付いて、前進するこちらの歩調に合わせながら脇の方から撃ちだした。重量のある扉を両手で支えているのでローガンは撃つことまでできないが、仲間が近くにいるので手が足らないところを補強してもらう。グローザに続いてトンプソンも続いてくる。焼夷手榴弾による火も次第に消えたのでさらに前進した。
「確認できるだけで良い、あと何人だ!?」
「あと四人!トンプソン、準備はいいかしら?」
「もちろんだ、フォースフィールドを展開する!こっち側のスナイパーチームもカバーしてくれ!」
ようやくモジュールのエネルギーチャージが終わったらしく、トンプソンが飛び出した。EMPグレネードを受けないよう、体全体を低くした低頭姿勢で駆け出してシールドを起動した。
そちらの方に敵の集中が逸れたタイミングを見計らい、ローガンはほぼほぼ使い物にならなくなった盾を掴んで持ち上げる。そしてそのまま銃声のある方へと投げ出した。
「うぉおおおおおおらぁああああああああああああ!」
ローガンの声に乗せられた気合と一緒に投げ出された扉は思ったよりも飛んで近くにいた敵兵の上にズンッ!と覆い被さる。同時にトンプソンも肉弾戦で一人を無力化し残りは二人だ。
追いつめられた敵兵二人は思っても見なかった手段で攻撃されたことからか、動揺しているあまり狙いが定まっていなかった。距離が詰められているローガンやグローザとは明後日の方に撃って天井を穿っている。
「どいて!」
背後にいるグローザの声にすかさずローガンはしゃがんだ。サイドアームとして携帯している拳銃の『マカロフ』を彼女は抜き放ち瞬時に撃った。撃たれた敵兵は急所を撃たれたことで倒れて残りは一人、と思われたが。
ダァアン!と一際響く銃声が後方から轟き、その兵士の腹部に風穴が空けられる。そこにあったであろう内臓も何もが消え失せ、後方に倒れて血の海をそこに作り出した。
刺激的なものをこれまでの人生で見てきたローガンでもくるものがあったが、胃の中身が喉元にせり上がってくることが無くなったことに複雑な心境だった。とはいえ、これで一時は安全を確保できた。
「クリア!まだ息がある奴は無力化された兵士を縛り上げておけ!」
損害状況は報告されている通りだとG36cとトンプソンのダミーを合わせて六体。他にベクターの方も銃撃で最後の一体もやられてしまっており使い物にならなくなっていた。何よりも電磁パルスによってG36cのダミーが一網打尽にされたのは痛手だった。
ダム内部の方は多目的部隊であるアルファが担当することになっていたのでスムーズに通過する為のコードを所持していない。なので解読を進めていた扉の状況を確認する為、ローガンは端末を壁に取り付けられている機器に接続した。しかしセキュリティの解除といったことまでできなくはないが、あくまで簡単なものまでしかできない。ローガンが扱う技術は主にドローンといた特殊機器の操作が出来る程度でしかないので、一等級とは言わずとも強固に守られているのでできそうになかった。
「ダメか……進退窮まるってのはこのことだな」
残されている過去の通過ログからの複数類似しているコードを照合するなどしたが駄目だった。高性能コンピューターと扱える技術を持つ兵士にできたであろうが、どちらもない現状ではどうしようもない。電子戦が得意である45がいれば違っただろう。
「まあ仕方ないけどダメだったのかしら?」
「ああ、お前がやってみるか?人間と人形じゃ違う結果になると思うんだが」
「残念だけど私もそこまでできないわ。それにここのセキュリティが非常事態の警戒態勢になっているからレベルが上がってる」
「敵地なら遠慮なく力押しできたけど、使い物にならなくなって後から響いてくるのだけは避けてやらないとだしな……」
さきほどの戦闘の最中で使用されたEMPグレネードを使うのも一つの手だが、それがどのような結果になるのかが分からない。ロックが解除されて開くか、それとも機器のみが使用不能になり扉が開かないのどちらかだ。
「ここであまりやりたくないけど爆破するしかないかこれ?」
「でもどうやるの?爆薬といったらC4か敵兵のフラググレネードしかないでしょ」
「ブリーチングチャージみたいな突入爆薬があれば一番いいんだが……でもありゃあアルファだけが持ち出してたな」
調べてみたところ幸い迂回するルートはなくもないのでそちらに行くしかないかと思い、ローガンは敵兵が持っていたまだ使えるEMPグレネードを数個回収してポーチに入れておく。敵が使えるものを持っているのであればなんても奪え、ローガンの恩師の教えである。とはいえ、グリフィンに所属する前に見たのとは勝手が違っているので使い方を入念に後で確かめておくことにした。
ルートを表示させるようにしながらそれぞれで装備を確認するように命じた時だった。
「ローガンさん、アルファとの通信が繋がりました!」
無線の状況をリアルタイムで確認してもらうようにしてもらっていたT5000からの報告で、ローガンはすぐに一旦切っていた無線の電源を入れて回線を繋いだ。
「こちらブラボーリーダーのローガン。アルファリーダー聞こえるか!?」
『ようやく声が聞けました。こちらアルファリーダーの79式です。ブラボーリーダー、そちらは今どちらですか?』
「現在ブラボー並びにチャーリーはそっちに合流すべくダムの内部を進行中だ。だけどIDロックが掛けられている扉にぶつかった訳だから回り道をしなければならなくなる」
『IDロックの扉ですか?それでしたら大丈夫です。だって……』
背後の扉が突然開いたのでローガンをはじめとした高機動の人形達は反射的にそちらに銃口を向けた。しかしそこには敵ではなく、同じ作戦を実行している仲間の姿があった。
「……私達がこうしてこれたんですから」
「ああもう、驚かさないで下さいよ79式。危うく撃つところでした!」
G36cの言う通り、一歩間違えればローガンも引き金を引くところだった。予告もなく開けられた扉の先にいるアルファチームの全員の姿形を見て一息つく。
そして後方警戒に務めている人形達を除き、互いに状況を報告した。アルファの方も誰も欠けてはいないものの、煤けていたり服の裾がほつれるだけじゃなくナイフで切り裂様にボロボロになっている。被弾した箇所も見受けられる者もおり、ダミーの方は内部構造が露出してしまっていたりもしていて酷いことになっていた。ダミーにもそれぞれの感情を投影する機能が備わっていたら、戦場さながらの光景になっていたであろうが無表情で本体に追従している。その損害を与えられてボロボロになっているのが人間だったら……。
「ローガンさん?今保持している物資や状況を教えて頂きたいのですが……?」
79式がこちらの目を覗き込んでくるようにしてきたことで我に返ったローガンは咳払いをすると、何事もなかったようにしてついさっきの戦闘を終えたばかりに受け取った報告を述べた。
「後衛以外のこっちはそれぞれが残っている予備のマガジンが一本ずつってところだ。野外で歩兵を相手として戦闘になっていた連中はまだ弾薬に余裕がある。俺はまだ本当の自分の銃を使って無いし大丈夫だ」
「他には鹵獲したロケットランチャーとEMPグレネード、ですか。まだ戦闘は出来なくはありませんが、大部隊との戦闘は難しいどころか不可能に近いですね……」
「そっちの弾薬はどうなんだ?それに後ろの人達は?」
アルファの人形達に囲まれるようにいるのは作業服を着ている年齢はあまり変わらない見た目の男女数名だ。それぞれも殴打されていたりもしていたようで頬に痣があったり腹部を押さえていたりしている。
「彼らはここのダムのシステム管理をしている自律人形です。乗り込まれていた制御室でまとめられていたところで突入して救助しました」
「……なるほど。自律して動いているのは戦術人形だけではないとは知っていたけど、こういうところにもいたんだな」
「制御室を最後に内部の方は制圧し終わっています。そして悪戯にシステムに干渉できない様にロックを掛けておきました。プロフェットに繋がりませんがこの一件はもう解決ではありませんか?」
「いや、それがだな……」
数十分前に外で起こったことをアルファにも情報共有で伝える。妄想や架空の世界でしか見られなかった技術を駆使する部隊、通信障害も引き起こしているのは彼らであることの可能性。敵と交戦するのであれば情報源から断って連携を崩すといったことを最初にしてきたこともあって、戦い慣れていることからしてもう疑いようがない。横槍を入れてきたハイテク部隊はこちらと渡り合うだけの実力を持っていると見るべきだろう。
「ぬか喜びさせてしまって悪いけど、まだ事態は収拾できていない。奴らが何者かの正体を突き詰めてもらうのはプロフェットにやってもらうとしても、ここから片すのは俺達の役目だ」
「……そうですね。ですがまだ民間人としてここの自律人形の方々を安全な場所に避難させなければなりません。そして私達も補給しなければ。油断してはいなかったのですが消耗しすぎてしまっています」
「同感だ。俺達が前に出る代わりにこっちで捕えた捕虜の移送も頼んでいいか?」
「ええ、でしたら……」
そうして79式との今後の方針を交えた相談が進んでいく。ローガンと彼女だけではなくSV98も交えて話し合った結果、数々通過するルートをアルファが通ってきた道から途中で逸れ、ダム内部への別出入り口から脱出することになった。
できるだけ関する情報もなにもないあの部隊との交戦を避けていくことにしようということにもなり、そこから対応策も練ろうとして話している時にMG5から無線がくる。
『ブラボーリーダーだけじゃなく皆聞いてくれ。私達が通ってきた通路に何かがいる……!』
その一言で全員に緊張が走る。
ローガンはすぐに自分達がいる位置から数メートル後方にいる彼女達の方に姿勢を低くしながら向かった。物陰に隠れながら様子を窺うMG5、ペチェネグとT5000の近くに到着したローガンは同じく身を潜める。
「それで、どんな感じだ?」
「見てくれた方が早いが、じりじりと接近してきている数人がいるようなんだ。数はわからない……」
「さっき一瞬だが一部の通路の景色がぶれたようにも見えた。ワタシの勘だけどいる筈だ」
口だけでなく腕もいいというペチェネグの言うこともある。いずれは避けられないだろうとは考えてはいたが早い段階からの交戦になったことをローガンは悟った。
「全員、二十秒後にここから撤収を開始するぞ。先頭はグローザでルート指定はアルファリーダーに一任する。ブラボーとチャーリーでアサルトチームにいた人形は引き続き前衛だ」
「了解だ。だけどどう切り抜けるつもりだローガン?」
「カウントと同時に傭兵たちのEMPグレネードを使って奴らの光学迷彩を一時的にでも無力化させる。姿が見えたのならこっちの攻撃もしやすくなる、ある程度まで数を減らせたらここから退くぞ」
「……オーケー、それしか手はありませんね。それなら私達のダミーをその場で足止めに少し残しましょう。
「よし、それでいこう」
ポーチから先程のEMPグレネードを取り出したローガンはそれに彫り込まれている文字を確認した。『範囲』と『効力』とあるそれらの下には左右に動かせるつまみがあり、片方を最大にするともう片方が最小の方に自動で動かせされる。二つの項目を同時に最大にまで持っていくことはできず反比例にしか動かないが、相手がいるであろう位置は屋内ということで悩む必要はない。最大レベルが五なので『範囲』を二に、『効力』を四にした。
「行くぞ。三……二……一……ゴー!」
ローガンによって投げられたEMPグレネードは大体狙い通りの位置にまで飛んでいって地面に転がった。そして傭兵たちとの交戦のようにグレネードの中身が外部に露出し、肉眼では見れない電磁パルスが展開された。
期待しているだけの効果はあり、灰色のマントを頭から被って目に当たる部分が突起となっているゴーグルをつけている異相の兵士がそこに四人並んで出現。一瞬動きが止まったのを見逃すほど、こちらも負けてはいない。
「よしいいぞ、撃て!」
「T5000、まずはお前から退け!扉の向こうにまで行けたら無線で報告しろ!」
「了解です!」
ズダダダダダダダダダダダダッ!とすかさず射撃を開始して銃声と一緒にマズルフラッシュも起こす。マシンガンであるMG5とペチェネグの二人が主に撃ち出し、ローガンも今装填しているマガジンが最後である『MP5』を惜しみなく撃った。
しかし先手はこちらがとったものの、四人の敵はそれぞれ片腕を地面とは水平に前に出す。そして取り付けている何かのデバイスから上下に展開したそれに、ローガンも含めた三人は驚きを隠せなかった。
「ライオットシールドだと!?一体奴らどこまで用意周到なんだ!」
「くそっ、思ったよりも面倒だぞこいつら!」
「奴らを殲滅するまで相手にする必要はない、勘違いするなお前ら!T5000、そっちはどうだ!?」
『今、撤退完了です!次来ても大丈夫です!』
「MG5、次はアンタが行け!もうそろそろ装填している弾薬箱の弾薬が切れるだろ!」
「すまない、先に行く!」
ダミーを二体残したMG5がペチェネグの言う通りに後方に駆け出す。匍匐姿勢になっている彼女のダミーを跨がって撃ち続けているローガンが持っている借り物の銃の弾薬がなくなったので、その場で捨てて元の銃である『ハニーバジャー』を手に取った。安全装置を解除し、とうの昔から知っていたような反動を感じつつ引き金を人差し指で引く。
こちらの銃弾を防いでいるだけかと思ったが、左右の外側にいる二人の兵士が内側の二人の後方へと回り込んだ。そして一間空けた後で反撃してきたのである。
ガンッ!とT5000のダミー一体に命中。だが当たり所が急所から逸れていたので戦闘を続行している。それでも動きが鈍らせるだけの効果は生み出されてしまい、射撃が少々覚束なくなってしまった。
「ペチェネグ、あとどれぐらいもつ!?」
「わからん!リロードしている間をアンタとダミーにカバーしてもらっても不安がある!
「クソッ!!」
悪態をつきながらもローガンは撃つが今になっても誰一人として倒すことができていない。敵兵にシールドがあるだけならまだなんとかなったが、構えている前衛を支えながら発砲してくる後衛がいる。MG5やペチェネグの高火力による力押しで崩すには難しい……いや、ここまでできているのだから、無理だと考えるべきだ。無意識に見下すことがないように意識し、対等かそれ以上の敵として裏をかく。
知恵と発想も活用して生き残ってきたローガンだが、残念ながら自分でも名案だと思える、高確率で痛手を与えれるだけの戦術が浮かばない。
これはあくまで撤退戦であり、無理に実行する必要もないがここから退けた後にも交戦しなければならなくなる。ならば情報は多いに越したことはない。
『いいぞリーダー!早くこっちに来い!』
「先に行けローガン!ダミーがないアンタがいなくなってもそうかわらない、ワタシは後から行く!」
「いやお前も一緒に来んだよ!長引けばこっちが不利になる。ダミー二体を前に立たせて発砲しつつ後退だ、急げ!!」
「……了解!」
欲を掻けば自分達は命を落とすことになるので思考を断ち切った。ローガンは早めにマガジンを取り換え、ポーチからよく知っている装備を取り出し先に通路の真ん中に飛び出したペチェネグの後ろに立った。
最初の指示通りにその場にダミーを配置したペチェネグは、自分の左右斜め前にも立たせる。匍匐姿勢から立って腰と同じ高さに銃を構えて撃ち始めた彼女の後ろで、ローガンも撃ちつつスモークグレネードのピンを口で咥えて一気に引き抜いた。
「スモーク行くぞ!」
ハイテク部隊の攻撃を妨げるべくローガンは視線の先に投じた。カンッカララ……と地面に転がった筒から煙が立ち上って自分達の射線も不明瞭なものになるがそれでいい。
ローガンは空いた手でペチェネグを肩を掴み転ばない様に気遣いながら引っ張る。
「焦らずにこのペースを維持だペチェネグ!」
だが気を抜かず、油断していなかったとしても想定外というのはある。後退している最中に一体のダミーだけでなく、本体である彼女自身にも銃弾が当たってしまったのである。
未だにもくもくと立ち上る白煙の向こうから正確に銃弾が飛んできたことにローガンは一瞬動転したが、目の前のことをすぐに飲み込んで無線で全員に知らせた。
「がぁ……!」
「っ!?畜生、ペチェネグダウン!弾薬がある奴で良い、援護を頼む!」
『アルファ、ブラボーリーダーに向けて全力援護!誤射は絶対にしないで!』
命中した箇所は銃を握っていた方の右肩と腹部に胸部。人工血液がダクダクと流している彼女の銃についているストラップを通して背負ったローガンは、両手でペチェネグの服についている取っ手を掴むと持てる腕力で引いた。
上げた視線の先で、白煙から徐々に姿を現す幽霊が現れてくる。ジジジッ……とマントから電磁を発しながらまだ動いているダミーを一体ずつ屠っていくその様は、この世のものとは違う、別の世界から来た何者かのようだった。
沸き上がる恐怖を抑え込み、ローガンはペチェネグを引きずりながら再度『ハニーバジャー』で迎え撃つ。
「私の銃を返して置いて行ってくれ……それだったらアンタだけでもここから……!」
「うるせぇ!勝手に好き放題言ってここで野垂れ死のうとしてんじゃねえ!」
弱音を吐くペチェネグを黙らせ、ローガンはリロードせずにそのまま後方へと下がった。やがて自分ではない誰かが手伝ってくれたことで少し楽になる。
ペチェネグを任せたローガンは弾倉を変えてチャージハンドルを引く。そしてこちら側にある扉の機器に向かって操作している作業員を援護する79式の隣に立って撃ち続けた。
「ロックします、皆さんさがって!」
作業員の言葉に従い、ローガンも射撃を中断して狭まっていく光景を目に焼き付ける。この強敵の存在を決して忘れないように。
システムが復帰したのか、迷彩マントの効力が発揮されて再び幽霊を覆い隠していく。射撃と前進をやめた彼らが足元から消えていくのを見続けたローガンは、傭兵だけでなくこちらの命を容赦なく奪いに来ることから、脅かすだけで満足する『幽霊』ではなく『怨霊』みたいだと、そう思った。
前回投稿してからリアルの方で面白いことだとかがあったのかと聞かれたら、とりあえずノーです。ドルフロを含めたスマホゲー二つでイベントがはあって、目玉となっているアイテムを得るために必要としているポイントをかき集めたり色々としてますが。自由時間がもうちょっとあったらいいのになぁと思って切望したくもなりますね。……うん、それだけです。
今回から出てきた『ハイテク部隊』と本編では称している部隊のモデルとしては、近未来を世界観とした主人公が属する某潜入ゲームです。こうしてハッハー!することもできるので遊びの幅が広いと言えるシリーズものですが、敵にしたらどうなるのかというのを今回のでちょっとでも感じていただけたのではないでしょうか。なにせ、高技術で姿が見えない敵に常人以上の強さを持つ兵士ですよ?敵がゲームの主人公みたいな兵士なんですよ?私は怖いです、うん。
とりあえず今回はこの辺で。山場はこれからだうへへへへ―――