誰も助けてくれない -Can you hear me?- 作:麒麟犬
<11:57>
端末に映されていたUAVからの映像も途切れたことで無援になった現在。
全員でダムからからがら脱出し、生い茂る森林内で一時腰を下ろしたあとで負傷したペチェングの容態を他の者達に診てもらっている。その間にローガンはグローザから自分の拳銃である『P226』を受け取って使えなくともカモフラージュとして取っておいていた『ベレッタM92F』をその場で投棄。ヘルメットと煙草臭かったバラクラバも外し、周囲の木々で浄化されて新鮮に思える空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
所持している弾倉も取替え、周辺を警戒しているトンプソンとベクターがあともう少しで戻ってくるのを腕時計を見て確認した。
「ローガンさん、応急処置だけではありますが終わりました。一先ず急に危篤に戻ることはありません」
「そうか、あいつの具合はどうなっている?戦術人形でも撃たれたらマズい所が一つや二つはあるだろ?」
「はい、人間と同じく頭部や心臓がある胸部を撃たれたら致命傷になります。電脳とコアが損傷した場合は私達も死を覚悟することなりますね」
「となると、ペチェネグの奴は……」
「胸部を撃たれはしましたが、幸いなことにコアに傷がついていません。ですが早く基地に戻らなければ、彼女の容態は悪化していって……」
傷の具合を診ていたG36cから伝えられたことから、やはりペチェネグの容態は芳しくないらしい。先の戦闘でどうみても予断を許さないそれを見てなんとなくそうではないかと思っていたが、やはり良くない方に運気が傾いた。
彼女の肩越しにペチェネグの方を見てみると、やはり患部を処置されているのにも拘らず苦しそうに肩で息している。傍にいるMG5が励ますようにして声を掛けているが、もう意識も朦朧としているようで反応が返ってきていない。仰向けに寝かされている彼女を見たことで、自分の判断は間違っていたのかとも思いトラウマが脳裏に呼び起こされた。
あの時の滝であのようにするしかなかったとはいえ、その前に別の選択肢を取って入れば抉られることはなかったのではないかと。作戦を終えた後で自己問答を繰り返し、救えた者達から温かく迎えられたというのに。
こんな情けない自分を溜息に乗せて吐き出せたらどれほどよかったかと、無意識にローガンは深く息を吐いた。
「……大丈夫です、ローガンさん。あなたがいなかったらペチェネグさんではない、他の誰かと一緒に犠牲になっていたのかもしれません。彼女は重傷を負いはしましたが、それでもきちんとした処置を受ければまた戦えます」
「そう言ってもらえて嬉しいけどさ、やっぱり自分を責め立ててしまうよ。
「心配しないでください。私達の指揮官だって、最初は経験不足で焦ったりして的確に戦況を把握できていなくて危なげだったんですよ。そして命を拾ったようにして生還できた私達に頭を地面にこすりつけるほど謝ってきたんです。それが今では電子支援の操作や指示までもを並行してできるようになっているんですから。私達の為にも懸命に戦ってくださっているあなたであればいつかはできるはずですよ」
「……サンキュー。これからのことにちょっと臆病になって勇気づけられたよ。もう少し休憩したらペチェネグの奴も動かさないとだし準備してMG5を手伝ってやってくれ」
優しい微笑みと共に贈られたG36cの言葉にローガンは礼を言って指示、彼女は嫌な顔をせずに戻って行った。
体内に残っていた悪い気を短く一息に吐き出し、バシンッ!と左手の掌に右手の拳を思いっきり数回打ち付ける。痛みが掌を貫通して甲にまで響いてきたところでこれからどうするべきか考えた。
まずは把握できている範囲での状況整理。
現状、ダムの麓の方はハイテク部隊に制圧されていると見た方が良い。ダム内部で交戦した四人であれだけの実力を発揮して見せたのだから、戦術人形である彼女達とは互角以上に渡り合える。そうであるのなら人間である傭兵たちの相手など容易いだろう。UAVで最後に観測できた画像としては、歩兵である彼らが次に相手にしたのは一輌の戦車であり、こちらはアリが一方的に自分達よりも巨大な獲物を数で嬲るようにしていた。観測した方角の遠くの方から何かが爆発した音が聞こえてきたので手段はわからないが破壊したのだろう。戦闘ヘリの方はどうなっているのかがわからないが、いずれにしても自分達でもハイテク部隊の彼らのどちらを見つけても容赦なく撃ってきてもおかしくない。
次にそのような状況下で自分達が勝利に当たる条件。
さらに予期せぬ事態により弾薬のみならず消耗が激しいので、そこからして今回ばかりは逃げるが勝ちだ。ここから誰一人として犠牲を出さずに離脱してハリーの元に帰還して報告、そして次の戦いには万全の状態で臨む。その作戦にはローガンも参加するつもりだ。
そして、その勝利条件を達成しなければならないのに必要なことは言わずもがな、救援ヘリの要請だ。
無線は繋がらなくなったことは、基地にいるハリーの方でも把握できている筈だ。手配をしてくれているだろうが、大まかな位置が分かるだけで自分達がいる細かい座標まではわからない。であれば、どのようにして連絡を取れるようにすればいいのか。
「難しい顔をしているわね。これからすべきことを悩んでいるのかしら?」
「その通りだよ、ここから全員で逃げ出せる方法を探しているんだ。暇ならお前の知恵を貸してくれ」
「いいわよ、私だってここで無様に朽ち果てるつもりはない。それで、どこまで考えたのかしら?」
「ああ、まずは……」
眉間に皺を寄せていたローガンの肩に手を乗せて前に回り込んできたのはグローザだった。彼女がヘリアンと本部から基地に到着した五日前はこのように戦地で意見を交わすことはないと考えていた。それが今では互いに鋭い棘のように抱いている思いはあれど、それを前面に出していては肝心な今を乗り切ることはできないということで相談しているのだ。
人生、何があるか分からないというが、本当にその通りだなとも思う。雨降って地固まるということにはならずとも、同一の目的の為に頭をフル回転させているのだから。
「やっぱり離脱するにはジャミングが曲者ね。対処するとして一番先に頭に浮かぶのは装置の配置位置を割り出して爆弾を設置して破壊することだけど、あなたはそう考えていないんでしょ?」
「ああ、その装置をここに持ち出した連中の腕がいいしそれをするのにペチェネグの容態の事で時間がない。迅速にやるのだとしてもリスクがありすぎる」
「そう考えて問題ないわ、私もこの一案は採用する気なんてさらさらないし」
ジャミング装置の在処がわからないので偵察して敵の目を避けつつ爆破。言うのは簡単ではあるが、陽が燦々と照っている今の時間帯で実際にやってみて成功する可能性は極めて低い。せいぜいどこかで見つかりながらも、C4爆弾を設置して自決するぐらいだ。グローザの言う通り、ローガンもそれでは何の意味もないので実行するつもりはない。
そこでローガンは近くの木に立て掛けているグリップと引き金が付いているような見た目の筒を顎でしゃくった。
「鹵獲しているあれで遠くから破壊するってのはできなくはないが……それでも確実性は薄い、最終手段になるな」
「言うまでもないけど、ジャミング装置はどこにあるかがわかっていない。陸に置かれているのか、それともあのステルスヘリに積んだままでいるのかもわかっていないわ。発射した際に自分から位置を晒すことにもなるのだし、自殺行為に等しいわよ」
「そんなに睨むなよ、俺だって最初っから良い案とは思ってない。それにそういう外的な要因以外にあれ自体にも問題があるんだし、手段が他に見当たらなければでいい」
ローガンが死に絶えた傭兵から鹵獲したロケットランチャーの『Mk153』。肩撃ち式多目的強襲兵器を英語にし、SMAWというアルファベット四文字で略されるそれは2001年から米軍で運用され始めた兵器である。発射したらまっすぐ、尚且つ他のロケットランチャーの弾頭よりも高速で飛ぶといった特徴がある。装填できる弾頭の種類も様々で、戦車のみならず焼夷弾の装填も可能である。それでローガンが問題としているのは、『Mk153』の照準器だ。本体の方は大丈夫だったのだが、戦車の破壊におけるC4爆弾の爆破で損傷し使えなくなっていたのだった。その為、『Mk153』に搭載されていた誘導機能は失われ、ステルスヘリのような動いている物に対して命中させるには難しいといえる。もちろん照準器を外したことで、本体に備わっているサイトシステムで撃つことはできるが前述のとおり無誘導である。
とすればどうしたものかと、腕時計を一瞥してローガンは唸り始める。するとそこで、訓練施設の説明で知り合ったグリズリーがこちらに歩いてきた。
「え~と、ローガン。一つ意見させてもらっていいかな?」
「なんだ?」
「装置の破壊は、必ずやらなければならない事なの?」
そこでローガンは目が点になった。この戦術人形の少女は、今なんと?
「え~と……説明してくれるかグリズリー?」
「うん。ふと思ったんですけどさ、ジャミング装置はきっとまだ未完成じゃないではないかと思ったのよ。完璧に妨害するというのであれば近接通信もできない筈なのにできたんだから。となれば、広範囲に及ばすこともまだできていないことも考えられない?私達が若干時間をかけて徒歩で離れて行っても、通常よりもマシなぐらいに」
なるほど、たしかに考えられなくもない、とローガンは顎に手を当てる。通信状況がイエローやレッドになりながらもまだアルファよりも近場にいたブラボーとチャーリーの各員に接続できたことから、まだ不完全な部分があるのであればそこに活路を見出せる。
「そうなると、ここから交戦を避けて徒歩で突破するというのが最善か?」
「そうじゃないかしら。ここら辺はチャーリーが偵察していたこともあって地形を概ね把握していると思うし、聞いてみたら安定したルートを進めるかも」
「だったらグリズリー、SV98に説明しておいてくれるか。俺達はそろそろ戻ってくるトンプソン達にしておく」
「わかった、そっちはよろしく」
頷いたグリズリーがマガジンの確認をしていつつもペチェネグを心配をしているスナイパー達の方に駆けていった。それを見送ったローガンだったが、自分の向かい側にいるグローザが浮かない顔をしているのに気付く。彼女にしては随分と考え込んでいる。二日目のパトロールをし終わって帰還した時にも声に出さずとも唸っているかのようだったが、今のグローザはそれ以上であった。
「どうした、まだ何か分からないことがあるのか?」
「いえ、ジャミング装置なのにそこを疎かにするのはあり得るのかと思ったの。もしジャミングを主目的とした装置であるのであれば、彼女の言う通り一切通信ができなかったはずよ」
「……たしかにそうだな。光学迷彩にライオットシールドを展開できるデバイス、あそこまで開発できているのであれば詰めが甘いことなんて考えにくい」
「EMPで一時的に無力化したにしても電子機器が復帰するのが早かったわ。たぶんデバイスで復活させる機能にも優先順位があるんじゃないかしら」
グローザが引っかかっているように、ジャミングを念頭にしているのであればその強度を限界まで上げて敵を困らせるのが正解だろう。ノイズだけを通信機から発せさせるのがジャミングだというのに、それを中途半端にしている。ローガンにもこのような電子的な妨害にあったことは少なからずあるが、どれもが他の隊との連絡が取れず全体的にパニックになりそうになっていた。
自分だけの頭で考えるにしても限界がある。同じ方向からの考えでもだ。
一旦隅に置いたローガンはグローザにふと別で気になったことを聞いてみることにした。
「なあグローザ、敵の連携を崩す以外で自分達が有利に動けるようにする材料ってのは何が思い浮かぶ?」
「敵から情報を盗むことがまず一つね。敵部隊の人数に配置や目的、分刻みで決めている行程だとか色々。効率よく潜入する前にそれを予め知っておくととても捗るわ」
「偽の情報かどうかの判別のやり方は?中には予見して全く違うことを散らしていることもあり得るけど」
「……まさかだけど、私から技能を盗むつもり?」
「そうじゃねえよ。だけどさ、他に気になったことがあるんだよ。俺達がダムの中で傭兵たちと戦ってあまり時間が経たないうちにあいつらが来た。あまりにも早すぎないか?」
通路にて傭兵たちと交戦し、制圧してからアルファと合流した。合流した後であのハイテク、いや怨霊部隊との連戦になったが、数分しかなくインターバルが短い。あの怨霊部隊が自分達とあまり変わらないタイミングでダムの中に進んでおり、偶然出くわしたと言ってしまえばそれでお終いではある。
しかしもしもの話だが、アルファと合流するまで自分達が泳がされていたとしたらどうだろうか。効率よく一纏めに一網打尽できるのであれば、ローガンも標的としている人物を本人の思うままに行動させ、用がなくなれば捕えるなりその場で片付ける。ちょうど数十分前にそのようにさせられたようにダム内部に残っていた傭兵たちと交戦して制圧、そして無事合流した。そのタイミングで自分達が動いて始末するという流れになる。
ではそうするとして、ローガン達を泳がせるきっかけはなにか。それならグローザが言ったことで、情報の奪取だ。自分達が三部隊内で情報を共有するのに使用した物は?
言うまでもない、ローガンも片耳に付けているイヤホンとマイクが一体になっている無線機だ。
「まさか、俺達の無線が盗聴されているのか?」
「……なるほど、たしかにそう考えられもするわね。グリフィンの無線も簡単に盗聴されない様に暗号化しているけど、鉄血のハイエンドモデルが回線に割り込めたりするのだもの。認めざるを得ないけどグリフィンの暗号レベルは低いわ」
歯噛みしてしまいたくなる思いだった。まだ確証はないが、もしこちらの回線の会話を静かに聞かれ怨霊部隊の全員に知られているのだとしたら、こちらは後手に回され続ける。何かしらかの打開策を見つけなければ、攻め手として攻撃できないのは明らかだ。
とはいえ、ここで無線機を捨てることはできない。情報共有や連携、基地に帰還するには必要不可欠で今の戦場には欠かせないものだ。本当にそうなのかどうかはまだわからないが、今回の騒動で不用意に使うことはできない。
「朗報だぞ、ローガン!」
ダッダッダッ!とそこでここから一時離れていたトンプソンとベクターが双眼鏡を片手に走って戻ってきた。その表情は光明を得たりといったように、サングラスから覗ける爛々とした光が瞳の中に見える。
「ダムの正面、ここから北東の方にだがグリフィンのマークが刻まれているヘリが見えた。なんとなくではあるだろうがボスが察してくれたんだ!」
「グリフィンのヘリが来ているのか?今はどこに!?」
「私達が見つけた時はこの一帯を大きく旋回していた。向こうがどうなっているのかはわからないけど、今から早く動ければピックしてくれると思う」
そうなるとどうしたものかと思う。無線機の無力化を狙った装置の破壊をせずにここから徒歩で離れ、怨霊部隊の襲撃がないとわかるところにまで到達してから迎えを要請するのが安全策だ。だがこれにもここから徒歩で離れるその道中で徘徊している鉄血と遭遇する可能性もあるという問題がある。鉄血兵の排除に問題がないにしてもその銃声を聞きつけて追撃を仕掛けられることもあるのだから、この方法を取っても確実に離脱できるわけではない。
それでもそれはここらで来てくれたヘリに回収してもらうよりも危険性は低い、というメリットはある。
ちらり、とローガンはもう一度ペチェネグの方を見てみる。
戦術人形にも顔色というのがある。それはAR小隊の皆と出会う前にも404小隊の面子とコンタクトを取った時に知った。人間と同じように気持ちを表面に出すことから、ローガンも自分達と相違ない存在だと思っている。そんな存在の一人である彼女が荒い息をし汗を流している、その姿を見てローガンはもう迷いを振り切れた。
グローザを含めた、動ける戦術人形たちが自分を見ている。現場にしても『指揮官』という役職は本当に自分に似合わないし、降りかかる重いプレッシャーからして逃げ出してしまいたいと望んでしまうが、逃げ出せば自分だけでなく信じてくれている彼女達を裏切って死なせてしまうことになる。
それだけは絶対にしてはならない、ローガンはそう胸に焼きつけて口を開いた。
「チャーリー、フレアガンは持ってないか?」
――――――
<12:35>
ローガンを含めて今日の朝方に投入された部隊を除いて、偵察を昨晩からしていたSV98達が選んだ場所は全体的に開けた草原だった。秋の色に染まってきている木々の葉とは違い、ここで生えている雑草はまだ暖色に染まり切っていない。
負傷者のペチェネグとダムの作業員たち、ダム内部で捕えた傭兵たちを扇形に展開している自分達の後方で待機させたこの場に神はいるのかどうかを考えていたりしないほど、ローガンは神頼みを当てにしていない。精々逆境に屈せずに切り抜けれたのは偶然や悪運に救われたと思うぐらいだ。そんな神話でしかいないような本当にいるかどうかが怪しい存在に祈る暇があるのなら、体力トレーニングなどして体を鍛えることに時間を回している兵士。そんなローガンからすれば、祈りたければ勝手にしててくれ、というスタンスである。
広がった陣形内でローガンは『ハニーバジャー』のマガジン内の弾薬を確認して戻した。しゃがんでいる足元に予備のマガジンやロケット弾を装填している状態の『Mk153』も置いておき、なにかあればすぐに拾って撃てるようにグリップを自分の方に向けておく。起爆装置を手に持っておいて匍匐姿勢になってなった。
そして事前に決めた時間になったタイミングで、保護対象になっている人達よりも後方で高さ二メートルはある岩の方から赤い火の玉が撃ち上がる。曇り空になってきた上空に上って行ったそれは次第に消えたが、良い意味でも悪い意味でも目立ってくれただろう。
(さて、どうくる……?)
ガサガサと風で揺らされた草同士が擦れる音以外には自分の呼吸音しか耳に入らない。展開している中でローガンがいるのはは右翼の中央で、雑草で隠れているせいで見えないが左右にはグローザとベクターがいる。それなのにここにいるのは自分だけのような錯覚に陥る。そう思い込んでしまうのは次第に聞こえてくる自分の心臓の音のせいか、それともこの目で見て脳に焼き付けたあの怨霊に対する恐怖のせいかわからない。たしかなのは、過去に鉄血の大部隊と戦った時に感じていたのと同等の感情の波に飲まれそうになっていることだけだ。
彼自身も言っているが、ローガンも一人の兵士であり人間だ。感情表現が欠如していることがない、現代ならどこにでもいるような存在である彼でもやはり恐怖を感じることはある。頭にきたり慄いたりすることはあっても、グリフィンの人形達との会話などで感じているのは暖色に表現される感覚。命の危機で手足の先にまで伝わっている、まったくの真逆であるそれを左手で掴んで抑え込むようにしてみる。自分で触れているのは右肩だというのに、指先は自分の体に埋まって精神に巣食おうとしている感情に触れてるだけだと、現実からかけ離れた妄想に沈んでしまいそうだ。
頭がおかしくなりそうだった。こめかみがキリキリと締め付けてくるように感じ、ローガンは顔を顰めそうだった。
帰還して報告した後は一時でもいいので少しだけ休み、仮眠を取ったらコーヒーを飲んでハリーと話し合う。そうしなければ、想像しているよりも最悪な事態になりかねないのだから。
でもその前に、あいつらと少しだけでも話をするぐらい罰は当たらないだろう。
考えられる帰ってきたことによる報酬で口元を緩め、銃のグリップを握り直した時だった。
バララララララララッ!というローターが回っているエンジン音が聞こえてくる。次第に大きく聞こえてくるそれらは近くを通りかかったようにしか今はまだ聞こえない。敵によるものなのか、それとも待ち望んでいる者達からの救いの手なのか。このエリアで潜んでいる仲間達と同じく、ローガンもじっと待ち続ける。
やがて真っ直ぐこちらに来たのだとわかってきた頃には、ノイズが徐々に薄れてきた無線で知っている声が聞こえてきていた。
『……ますか?こちらAR小隊リーダー、M4A1です。私の声が聞こえる方、いるのでしたら何かしらかのサインをお願いします』
疑う余地は全くなかった。ローガンがまず周囲を警戒しながら立ち上がると、手筈通り79式も立ち上がりはっきりと輪郭まで見えてきたヘリに手を大きく振って見せた。
『聞こえていますかアルファ、ブラボーリーダー!こちらでも肉眼でそちらを確認しています!』
「はい、聞こえていますしこちらからも見えていますよM4!来てくれて助かりました!」
飛んできているヘリの機数は二つ。どちらも武装を積んでいない輸送ヘリの『CH-47』でチヌークと言われている機体で真っ直ぐこちらに向かってきた。
チヌークに積載能力からして搭乗できる人員を鑑みても妥当な機数だ。現地にいる部隊数からすると三機だと思ってしまうが、内部で必要なことをしておけば一機でも五十五人乗れる。他よりも資源があるグリフィンでも、可能であれば物資の浪費は避けたいところなのだから正解と言える判断だ。
こちらの上空に到達したところでホバリングした、二機のどちらかに乗っているM4からまた無線で声が聞こえてくる。
『アルファリーダー、そちらの状況の報告を』
「民間人数名と捕虜が二名、負傷者が一人です!その人形の容態が悪いのでまずそっちを優先してください!」
『了解。広さが問題がある為、一機ずつ着陸し搬入口を開けるます。あとはそちらか速やかに搭乗をお願いします!』
前衛として布陣していた自分達の後方に着陸することになるので、保護対象の彼らを人形全員でそちらから一時退避させる。残っている各員のダミーを付いていたポジションに残した状態を見守っていると、ローガンの無線機にM4とは別の回線が接続された。端末で接続先を見る前ではあったが、なんとなくわかっていたし声を聞いたことで誰なのかは聞くまでもない。
『ローガン、あなたは大丈夫なの?』
「なんとかな。俺に大きい怪我はないけど、全体的に見れば戦力を大分削られたよ。お前らが来てくれて助かった、AR15」
『そう……よかったわ……』
ローガンの返答を聞いた少女、AR15が無線越しであってもわかるほど安堵の息を吐いているのが聞こえてくる。
それほど心配してくれていたことに嬉しく思えばいいのか、それとも茶々を入れてからかってやってもいいのかに少しだけ迷った。だが通信が出来なくなる、戦況が把握できなくなってそこに友人がいるのであれば心がざわつくことにはなる。AR15はそれで気を揉んでくれたのだから後者を選ぼうとローガンは思わなかった。
着陸してハッチが開いたそこで機内から出てきたROとM16が武器がない、戦う術を持たない人達を中に誘導していった。そして自分では動けないペチェネグを背負ったMG5と彼女を後ろから支える、元は彼女と同郷のPTRDが一緒に乗り込んでいったのを見送る。
『話を聞いた時は少し驚いたわ。無線妨害にUAVの機能不全、これまでであってもどちらか片方だけだったから疑ったわよ』
「今は仕方ないし詳しいことは後で話すけどな、今回はやたらに無線で話さない方が良い。まだ確認できていないけど、絡んできた奴らはこっちの話を盗聴している可能性がある」
『わかったわ。戻ったら指揮官と一緒に聞かせてもらうことにするわね』
やがてヘリ一機への乗り込みが終わり、ハッチが閉まって離陸しようとし始めた。閉まる少し前に搭乗していたAR小隊の二人がこちらに手を振ったりしていたのでこちらからも振り返す。閉まり切ったそのヘリは高度を取ると少し離れたところで再びホバリングを開始。そして今度はAR15もいる残りのAR小隊のヘリが降下してくる。
そして自分達も帰れると思った時だった。この場の全員に共有で繋げたオープン回線にKar98kの声が飛び込んできたのは。
「ローガンさん、今です!」
何が、と聞くことはなかった。すぐにローガンは緩やかにとき解れていた緊張感を編みなおし、手元に用意していた起爆装置のスイッチを押す。事前に仕掛けた罠であるC4爆弾の起爆し、扇形に連鎖爆発が草原の上で発生して衝撃が地面を揺らした。
炸薬量が仕掛けていた数だけ多く、加えて距離も遠くなかったため耳鳴りがするものの視覚までは損なわれていない。そして手筈通りにEMPグレネードを預けていた95式とトンプソンが叫びながら起動させてそれぞれ左右に投じた。指定していた『範囲』と『効力』はどちらとも三。
ローガンはすぐに片膝をついた戦闘体勢になり、EMPグレネードから発せられた電磁パルスによって装備が無力化されただろう兵士を見据える用意を行った。各人形たちもそれぞれの配置にまた戻ったタイミングで、眼前に怨霊達が姿を現した。C4爆弾によるトラップの効果はあったらしく、爆破によって吹っ飛ばされて行動不能になったりと様々。ただ既に体勢を立て直すように起き上がろうとしていたので、この好機を逃す他はなかった。
「いまだ、全員撃て!だけど闇雲に撃って弾を無駄にするなよ!」
銃声によって掻き消されない様に、ローガンは出せるだけの声量で無線機に叫んだ。
「着陸を急いでくれ、こっちも長くは持たない!」
『了解、少々荒い着陸になるが仕方ない!』
『かまわないから、急いで早く!ハッチを開いて私達も援護するから、頭に気をつけて皆!』
パイロットからの返答に続いて同じ機体に乗っているらしいSOPIIの声が返ってくる。
後ろを振り返りはしなかったが、背中に響いて届いてくる銃声の数が増えたことが察せられた。完全に地に着いたかどうかは定かではなく、それを確認するのにも時間が惜しすぎる。集中力を一時でも抜けば死する、今回は尚更だ。
倒している怨霊の数を数えている暇もなく、『ハニーバジャー』の残りの弾倉は装填しているのを含めればあと二つだということとここからの離脱のプラン、展開している仲間という三つの事しか頭にない。
『アルファ並びにブラボーリーダーへ通達。チャーリーチーム、乗り込み完了しました!』
『ブラボーリーダー、スモークはもうないのですか!?』
「生憎だけど効果がないみたいだ!スモークを使っても俺達が射撃できなくなるだけのデメリットしかない!」
ペチェネグが負傷したあの時、充満しだしていた煙で怨霊達の行動を見えていなかったがあまりにも正確無比な射撃だった。交戦している時のような正確性ではなく、必中を狙ったようなあれの要因にはすぐに思い当った。目の部分が突起しているあのゴーグルの機能の中に熱源を感知し表示するサーマルモードがあっても不思議ではない。見た目としても傭兵たちが付けていた視覚保護の物ではなく、如何にも機器を搭載していることを表しているようなのだからその可能性がある。
『燃料に余裕がないぞ、全員急いで乗り込め!』
「RPGを撃って時間を稼ぐ!そうしたら全員全力でヘリの方に向かえ!」
こうしてて戦い続けても勝って制圧するどころか膠着状態にはならない。こちらは弾薬がほぼなくなってきており、ダミーの数が減らされている人形もほとんどだ。対してグリフィンを追い越した技術と万端の装備で臨んできている怨霊達。戦力差が明白に出ている現状じゃどう逆立ちしても夢物語の結末どころか自分達の撤退までが叶わなくなる。
時間をかけているだけだとこちらが一方的に押し潰されるのを待っているだけだと、ローガンはストラップで繋げている『ハニーバジャー』の安全装置につまみを動かすと、足元に転がしたままにしている『Mk153』を拾い上げた。
無線機を使わず、この場にいる人形達全員に聞こえるように声を張り上げながら肩に担ぎあげる。
「チャンスは一回だが、人形のお前らなら牽制射撃は考えずに走ればあっという間だろ!」
『でもローガン、あなたは……!』
「俺の事はいい!」
セーフティを外し、電子機器による照準器を取り外した『Mk153』本来のサイトで覗き込んだローガンは数が集中している方に銃口を向ける。自分達が展開している陣形からして、発射した時に生じるバックブラストを誰かが浴びる心配はない。
誰かが自分の名を言いながら異を唱えようとしたが、生き延びた場合の後からの説教を覚悟しつつローガンは発射した。
バァアアアアアアアアアアアアアン!とロケット弾を撃ち出した途端に『ハニーバジャー』や『P226』、これまで使った銃器よりもとてつもない反動が生じ銃口から跳ね上がった。随分前にグリフィンではないどこかの演習訓練で使ったのと同じかどうかはもう覚えていない。ただその時と違うのは担いでいるこのバズーカの反動に釣られて転倒しなかったことぐらいだ。
ドォオオオオン!と装填されていた汎用性に富んだ両用弾が地面に着弾し、近場にいた数名の怨霊を消し飛ばした。背後のヘリからとは別の風圧がローガンの顔面を叩き、さらに周囲へと広がっていく。それに目を細めながらもローガンは右肩の鈍痛を堪えながらその場に用済みとなった兵器を捨て無線機に向かって叫んだ。
「全員どんな手を使っても良い、振り返らずに走ってここから退くぞ!AR小隊、援護を頼む!」
『了解……!AR15、SOPII、ダミーも含めて幅広く展開し全員の到達まで援護射撃!あらゆる手で皆がここに来るまで撃ち続けて!』
いつもの手順であるのであれば背を向けて走る前に眼前にスモークを投げるが今回はそれが意味を成さない。数メートル横のグローザとベクターが走り出したようにローガンも駆けだそうとしたが、そこで異変が起きた。
ロケット弾を撃ち出す前までは持久戦を仕掛けているような動きから、怨霊全員が身をさらけ出すも距離を詰めながら撃ってきたのである。AR小隊による誰かの銃撃で隣の兵士が倒れてもお構いなしで、動揺したような様子も見せずにいるその姿を肩越しに見たローガンはぞっとした。
「くそ……!」
「頑張ってほら、急いで早く!」
「ベクターは前を走って、私は彼の後ろに付く!」
ダンダンッ!とたまらずにホルスターから抜いた『P226』を片手撃ちで闇雲に撃って命中させるが同じような結果だった。グローザが自分の背後に戻って拳銃を撃ち放ち、前にいるベクターが所持している焼夷手榴弾を投げて自分にもっと早く来るように手招きしてくるがとうの昔に持てるだけの脚力は出している。息をすることを長い間忘れてしまっていたかのようで、肺に酸素を取り込もうとすると走る速度が落ちている感覚になってもきた。それでも走り続けるがまだ距離がある、着陸地点を確保する為に広く展開しすぎたのかもしれない。
歯を食いしばりながら足を動かし、自分の背中に手を伸ばして掴もうとしている亡者を払ってくれている少女達の元にまで向かう。人形の彼女達のダミーが壊れていくのを目にしながらも必死に。
やっとあと三メートルというところにまで到達したところで桃髪の少女がベクターを、そして自分の元にまで走り寄ってきてくれた。
「ローガン、こっちよ……!」
自分を庇うようにして後ろに立って怨霊達に鋭い眼光を向けて発砲しているAR15に並ぶようにグローザも到着した。並び立ちながら彼女達は同じ速度で後退しながらもう姿が見えなくなってきている怨霊達に鉛玉を放ち続けている。
どうやらローガン達が乗り込む人員で最後だったらしい。ダミーがもう片手で数えれる程度しかいなくなったものの、本体である彼女達はヘリの奥の方に詰めていた。
AR15に続いてM4からの電子支援を直接受けたSOPIIが榴弾を『M203』で撃つ。 手馴れている手つきで入れ替えてもう一度発射し、得られる結果を見ることなくこちらの方に引き返してきた。
「ブラックバード、全員乗りました!」
『ヒヤヒヤしながら来るのを待ち侘びてたぞ。掴まれるところがあるなら遠慮なく掴んでいろよ!』
ヘリのハッチが閉まり出すのと同時に慣れないうちは不快に感じてしまう浮遊感がローガンを持ち上げるようにして浸食したが、それ以上にここから離れられることによる安心で打ち消された。
ハッチが閉まるまでの時間稼ぎとして、限られた視界内で見えている怨霊達に銃撃で応戦しているAR小隊の彼女達の邪魔にならない様にしながら、グローザが狙っている敵兵を『P226』で撃つ。彼女が持つ『マカロフ』のストッピングパワーでは確実に倒しきれないと判断した故でのそれがどう思われたのかはわからないが、横目で一瞥されただけだったので悪いようには思われていない筈だ。
最低限の高度を得た機体が前進し始める。緊迫していた状況下から脱しはしたが、まだ終わってはいない。
『M4、近接スキャンで敵の大部隊が接近しているのを感知。奴らが何かを始めようとしている』
「姉さん、今はそれよりもここから離脱しなければならないわ。思ったよりも私達のダミーへのダメージもある。通信ができ次第、指揮官に報告して本腰を入れて対処しないと」
『たしかにそうだな。それとローガン、もう聞かれているのかもしれないが引っかかることは何かないのか』
M4とM16との会話から急に話を振られはしたが、心当たりは本当にローガンにない。精々見たままの事を共有することしかできない。
「俺にはなにも。だけど最新鋭ともいえる電子装備があるんじゃ民兵や傭兵とは全くの別物だ」
「あの動きと連携、そして光学迷彩。近未来に焦点を当てた特殊部隊というのが私の見解ですが……」
『いや、それ以上の存在だよM4。
「だろうな。それに味方が倒れても動じずにフォーメーションを崩さずに撃ってきていた。どんなメンタルトレーニングをしていてもどこかで動揺することはある。だというのにあそこまで感情が無いかのような本当の機械みたいに動いていたんだ人間ならまともじゃない」
『奴らの中身が正規軍が使用している自律人形の可能性はあるにはあるがその線も薄い。彼らが求めている人形の戦闘機能に該当しない動きからして、ほぼ間違いなくマントの内側で動いているのは人間だ。I.O.Pが私達の知らないところで関与していることもあり得るがな……』
考えれば考えるほどわからなくなってくる。統制が取れている敵部隊との交戦経験はあっても鉄血とは違う、姿を晦ましてもずっと隠れているのではなく一度でも発砲すれば交戦を開始するあの部隊を見るのは初めてだ。
グリフィンにいる彼女達は勿論、ローガンもそうである。敵として見据える者に対して恐れを抱くことがあっても、それが大きなプレッシャーとなりのしかかってきたことはない。
「だけど撃てば殺せるから勝てなくはないよ。それにああして身を曝け出した方が私達はやりやすいでしょ?」
「もっと頭を使いなさいよSOPII。それを逆手に取ってくる戦法を取ってくることだって奴等ならあり得るの。数に対抗するのならこちら頭数をそれ以上にするような単純なことじゃなく変則的なことだってやってきかねないわ。私達でも思いつかない、奇想天外な発想で」
『あの敵を見くびるつもりはないけど慎重になりすぎてないかしらAR15。たしかに異質だけど勝てない敵ではないわ。ローガンさんがやっていたようにEMPグレネードを用意して光学迷彩を無力化、そして堅実に交戦する為のきちんとした準備をして臨めば制圧できる筈よ』
「そーだそーだー、ROの言う通りーぶーぶー!」
「
「ぶぅうううううううううう!」
ふくれっ面になったSOPIIがその赤い目でAR15の言うことに腹を立てたようにしている様を見て、ローガンは思わず笑ってしまった。AR15の言うことはもっともだとか、耳を傾けていたこちらとしても頷くことはあったが最後のSOPIIの抗議の声に思わず噴き出したのである。身体を休めることはできても精神的には集中力を切らすことはできなかったので限界が来たのだろうが、もう今はそれを置いておこう。
肩を震わせて声を押し殺してはいたものの、それに気づいたSOPIIが矛先をAR15からローガンに向けた。
「ローガン、何が可笑しいのさ~!」
「いや、な~んかお前がそうしていると本当に仔犬がわんわん吠えてるみたいだなとか思ってだな」
「わたしは犬じゃないしワンワン吠えていないもん!AR15が言ってることにムカついてるだけだもん!」
「それはわかってるよ。でも要求吠えとか抗議をするには小動物は色んなことをするのはわかってるだろ。俺かすればSOPII、今のお前は唸っている仔犬そのものなんだよわんわん」
文字に起こした吠え声を口から発する時だけ声を高くしてみると、顔を赤くしてぶるぶる震えていたSOPIIのボルテージが臨界点に達しようとしているのが目に見えて来ていた。
別に八つ当たり成分を含めているわけではないが、ローガンとしての砕けたコミュニケーションを取りやすい戦術人形のランキング上位に彼女がいるのでからかうのをベースとした会話ができる。加減や引き際を覚えれば尚更で、決して先日のことを根に持っているわけではない。背中だけでなく右腕の銃創までにも一発もらったやり返しを、などとは決して。ローガンだってAR小隊の皆とは良好な仲でありたいのだから。
……しかし、SOPIIが口をガッチンガッチンと鳴らし始めたのは予想できなかった。
「もう怒った!こうなったらローガンを頭からバクバクしちゃうぞガオォー!」
「おぉう、獣化への拍車がかかってきたなSOPII!だけど俺だって大人しく食われたりするほど優しくねえぞバウバウ!」
果物をもぎ取るようにして両手の関節を曲げて構えたSOPII相手にはもう後には引けない。ローガンも頭のどこかでは『バカなことをしているな~俺』とか考えていたりもしているが、ギアを入れ替えられた脳の活動はもう自身の意志では止まらない。他の人形に怒られても仕方ないが、こちとら戦車相手にも果敢に立ち向かって全員生還したんじゃ文句あるかわれぇの構えである。
グリフィンが誇るエリート部隊に属する彼女達を除いて、打ち解けている方といえるトンプソンがやれやれと視界の端で呆れているのを脇目にしてローガンとSOPIIは取っ組み合いの姿勢を見せる。片や実力行使、もう一人はそういうのもやぶさかではないが言葉攻めを主にしている。
先手、狂犬とも比喩される戦術人形のSOPII。彼女は踏み込んで突撃、ローガンに組みついてから押し倒して歯を鳴らした。
「ガオオオオオオオオ!ガァオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「あれ、なんか我を忘れてないSOPII?なんか割とマジのキャットどころかリアルファイトに突入しちゃってるけどなんでこれ!?」
自業自得、お前がそうしたんだろ、とツッコミを電脳に浮かばせた戦術人形の数としてはこの場の過半数を占めているだろう。
そうとも知らない収集する後を考えなかった大馬鹿野郎に対してギロチンが迫り始める。反射的にSOPIIの頭部を掴み眼前にまで迫ってきた処刑台から逃れるように押し戻そうとするが、力だけでは彼女に勝てる筈もなく徐々に白い歯が迫ってきた。
「さぁあああああああああてローガンはどこから食べられて欲しいのかなぁああああああああああああああああ!?」
「ちょーっと冷静になろうか少女よ!健康的で綺麗な歯並びにしているけどそれを俺の血で真っ赤に染め上げてしまってもいいのかな!?」
「今はわたしに生まれている感情の憂さ晴らしができればそれでいいんだよ!」
「そんなんじゃ本当の狂犬と変わりがねえじゃねえかお前ぇえええええええええええええええええええええええええ!?」
私刑執行。節々に加えていた力をブーストして鼻先に食いついたSOPIIによる食いつきで、ローガンは痛みに耐えきれずにその場でのたうち回った。しかしマウントポジションとして手足の自由をいつの間にか奪っていた彼女による押さえつけで、足をばたつかせることしか叶わない。
ガパパパパパパパパ!と高速の咀嚼が行われ、出血せずとも歯の痕が残るほどの力加減である。
「もういい加減にしなさいSOPII、やり過ぎよ!」
「落ち着きなさい、ローガンさんも悪ふざけが過ぎますよ!」
「や~い、怒られてやんの~!大人気ないローガンにあっかんべ~、おしりぺんぺ~ん」
「リードを引っ張られてるのとどっちが惨めだか考えてみれよSOPII。おっとステイ、本当のこと言っちゃダメだろ俺の口めお口にチャックだふへへ」
バッチンバッチン!とかち鳴らす少女と、シュッシュシュ!とシャドーボクシングを始める大の大人。
さすがに見かねたAR小隊の常識人の二人が止めに入ったが、第二ラウンドが始まる前に二人の頭にAR15の鉄拳が落ちた。頭の天辺に着弾した弾丸による被害は大きく、脳震盪を起こしたようにぐわんぐわんと視界が揺れることになりながらも説教を受けることとなった。
数分後、機体内部に備え付けられたシートに座ることを許されずに地べたで正座を強いられることとなった二人がそこにいた。
「わたし、悪くないもん……」
「口車に乗せられたとはいえ、先に物理的な手を出したのはあんたの方よ。考えを深めるだけじゃなくて感情の制御もできるようになりなさい」
「ぶー……AR15だってローガンに対して色々とさー……」
座禅組ませれているのとどっちがキツいのかなー、と一時ボーっとしていたが、ローガンはリフレッシュできた頭でさっきまでの出来事を振り返ってみる。
ダムに向けて一週間前から進軍していた傭兵たちと兵器、そしてこちらにも実体があるのかすら怪しく思えるあの怨霊達。グリフィンの自分達が傭兵たちのことを嗅ぎ付けれたのは先日のハイウェイ事件までに発展したあの後に得た情報があったからだ。それならば彼らはどうだろうか。どこから傭兵たちの存在を知ってどのようなメリットが見込めるという理由でここに来た?
金であればこちらを揺すって巨額のそれを求めてくるだろう、だがそれだけでは力が物を言うようにもなってきている現代で生き抜くには難しい。資源ならなるほど、水力発電で得られる電気もあるし除染・浄水施設と一体になってもいるというここを奪えれば一石二鳥だ。しかしそれを主目的とするのなら近場に居住区があるようでなければならない、あそこに住み着くには大分不便がある。
では他に何が思い当るだろうか。金や資源を別とした、人類が築いてきた文明も危うくなるどころか滅んでいるといっても過言ではない今の時代で生き抜くカードとなり得るもの。前述した二つ以外に、銃や弾薬といった直接実力行使に至れるのに有効な武器以外にも優位に立てる目に見えない物は昔から存在している。
「人間関係……個人……弱み……?」
たしかに該当する。ただしそれでは個人的で範囲が狭いため有効打になりにくい。その筋から揺さぶる相手のハリーのことを知れたとしても、鉄血だけでなく過激派の反社会的組織から指揮官の個人情報を守るためにグリフィンは誤情報をばら撒いていたりもするので信用性が怪しいからだ。
となれば、誤魔化しがないクリアな個人情報を要求するのだろうか。いや、それを本人から聞いてどうするという話だ。それでは時間を指定しない犯行の予告をしているようなもので意味をほとんど為さない。
では、何を要求してくる?
「いや……でもまさか……」
「……ローガン?」
泡沫のように浮かんだ可能性が捨てきれなくなってローガンは考え込む。隣に同じ体勢でいるSOPIIがこちらを訝しげに見てくるがそれすらも厭わずに自分の考察に入ろうとした。
そう五感の感覚が薄れそうになっていたその時、風の流れが発生し内から外へと流れていく。高度を取ったことによる冷気が入り込んできて変装としてまだ着ていた防弾チョッキ戦闘服の合間も縫って侵入してくる。
原因はすぐに見つかった。頬を舐めるようにしてきた感覚の元を追って行くと、ヘリのハッチが開かれようとしていたのである。
『おい、誰か悪戯で開けたのか!?』
「私達の誰も開閉ボタンに触れていません!そちらからの操作ミスではないのですか!?」
『こっちもそういった操作はしていない!押し間違えるにしても飛行操作とは全然別の所にあるのだから無理があるぞ!』
ブラックバードとM4の話が聞こえてくる傍らで、ハッチの一番近くにいたローガンは何かが入ってきたのを辛うじて視認した。それは段々と広がってくる空を背景にして屈んだ姿勢から立ち上がってくる。透明なそれが人型だと理解した途端、ベールが剥がれていき明確な輪郭が露になった。酸素マスクを追加で取り付けているその様相を見て愕然としたローガンは呟いた。
「それじゃあ本当に憑いてきたようじゃねえかよ……!」
本物の怨霊に思えてきたローガンは半笑いになるしかなく突進してきたそれに対して交戦せざるを得なかったのだが、この最中のどこかで彼の意識は一時途絶えてしまっている。
ドルフロのイベントがまた来たとね、うん。
浴衣スキンをぶん回してペチェネグことPKPのがもらえたりしましたが、できればグローザが欲しかったんだよなぁ……。まぁいずれはショップで直接買えたりするのでしょうけどね、グローザの2Dスキンまでコイン貯めるとします。
前書きでも言わせていただきましたが、お気に入りの数がある程度まで達していました。こんな物書きを気に入っていただけたようで嬉しいです。別サイトでファンタジーの世界観のよりも念入りにやってたりしていますがまだ至らない点がまだ見受けられてたりしていますが、今後も時間潰しの片手間に読んでいただければ幸いです。
ちょっと別の話になりますが、夏の風物詩ということでホラー関係の番組がやってたりします。そういうのを見ていてふと思いついたのですが、ホラー映画や怪談ではなく実際に目にした彼女達はどのように反応するのかどうかが気になってきたんです。現段階のストーリーの流れとしましては無理がありますので今は置いているのですが、できそうだなと思ったタイミングで挿し込もうと思います。わーちゃんなら叫び倒して引っ叩きそうですけど(笑)
おいおい考えていくということで、今回はこの辺で――――――
『無限ロケランがあったら問題なかった』