誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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おぉう……


28.狂気の片鱗 -Bad feeling-

<グリフィン北アメリカ支部の音声ログより再生>

 

 

『それで……現場はどうなっているんですか?』

『一言で表すなら酷い以外にないわね。殺傷方法は銃殺でしょうけど、死体を弄んでいたようよ。四肢を分断したり爪を剥いだり色々と』

『なんてことを……殺人を犯したのに飽きたらず、死者を遊び道具にするなんて許せない……!』

『どのような経緯があっても私は犯罪者相手に同情しないけど、ここまでのことをするだけのことをしでかしていたのこの被害者。先日の事件ではAR15に射撃されて死んだ仲間を見て投降したって聞いているけど』

『報告では確かにその通りです。ですが、それまでのことについてはまだ経歴を完全に掴めていませんね。名前から洗い出せた出自を知ることは出来ましたが、ある時に突然と消えています。南米の生まれであることは確かなようですが……』

『技術がさらに発展して情報統制が取れているようになった、とか戯言を言ってた当人を殴りたくなるわね。自分の脚で国を渡り歩こうとしている漂流者の足跡を追うことが出来ないなんてね』

『こちらは被害者の詳細を治安組織と共同で追います。そちらは?』

『現場に残されている手掛かりとなる証拠からして、その治安組織内に犯人がいる可能性が高いわ。犯行時刻に周囲に知られないようにサプレッサーをつけた拳銃で始末したりしているけど、その後の後始末がお粗末。血だまりに出来てる靴の形状が統一されている『ルックオーバー』の制服のそれと同じよ』

『であれば、各自の靴にDNA鑑定をすればいずれは……。時間がかかっても確実に追い詰めれますよね』

『そうね、でもそれじゃ遅すぎる。その間に買い換えられたり捨てられたりすれば一発でアウト。それにそんな大きな変化があったりすればわかるかもしれないけど、ちょうど今日からは制服は新デザインの入れ替え時だもの。旧デザインのは各自で処分するように言われてるってことだし、これだけで追いつめていくのは難しいわね』

『監視カメラはどうなのですか?』

『ちょうど牢の中をあまりうつさないアングルで何者かが幽霊みたいに動いていたのは確認できたわ。何もない所からサプレッサーじゃ無くせない硝煙が、そしてしばらくした後に赤い足跡が出てきたりと何も知らない人からすれば幽霊を疑うでしょうね』

『ですがあなたが言う通りに危険度が高い、この手の暗殺にも長けているという部隊が絡んでいるのであれば不可能ではないということですよね。でも足跡を消さずに現場から去るなんて……ひょっとしたらわざと残しているんじゃ……』

『あり得る話ね。罠を仕掛けて待ち伏せていることが十分に考えられけど、ここで退いたら事件解決にまで辿り着けれないわ。スオミ、ここの近場に最近人の出入りがない所って割り出せるかしら』

『時間はかかりますが出来ないことではありません。なにが狙いですか?』

『火のない所に煙は立たぬ、よ。何かしらかの原因がなければそれに伴ったことは起きない。それと火事を起こした犯人が惨事を見るのなら大抵どこにいるか知ってる?』

『事件発生現場、ですよね。消火活動や家事に怯えたりしている人を見て面白がったりする為に、犯行を犯した後で現場に戻るっていう……』

『そういうこと。今回は火じゃなくて銃による犯行だけど、ここまでのことをしているんだから感情や欲を優先してたりしてる、他に口封じだとかが目的だったとしてもあまり心理的には変わらないわ。ここを出入りしている治安組織の人間が何人もいるけど、『仕事』という理由を得ている人間が一人居る筈よ。そして、自分が所属している組織の出方を監視するのであればどこに拠点を置くといいかしら?』

『……だから近場で潜伏しているのだと考えたのですね。何か大きな動きがあればすぐに撤収できる、それを無線とかじゃなく確実に把握できるように』

『ええ、確証はないけどね。一歩ずつ前進よ、スオミ。こっちは他になにかないか探ってみたりするから、さっき言ったことをやっておいて頂戴』

『了解しました。少々お時間をくだされば探り当てます』

『お願い。それと話は変わるけどスオミ、ローガン達は今どうなってるか分かる?』

『残念ですがまだです。ジャミングで途中からもう……』

『そう……とにかくお願いね、スオミ。私達だけじゃ手が回り切らないからあなた達も頼りにしてるわよ。特に、ハリーに関してはあなたをね』

『えっ、いきなり何を言ってるんです!?』

『そのままの意味よ。仲直りはできたけど、私は一度あの子を見捨ててしまったから見守ることぐらいしかできない。でも誰よりも時間を共有したあなたなら、ずっと支えれるだけの資格があるから』

『そんなことはありませんよ45さん!あなただって……!』

『勘違いしないでねスオミ。別に悲観しているわけじゃないわ、むしろ喜ばしいのよ。ずっと副官を受け持っているあなたなら私は安心よ』

『それじゃあまるで、いついなくなっても良いと言ってるようなものじゃないですか!私は嫌ですよ、あなたがいなくなるのも!』

『またこうして戻ってきたけど、私達は元々存在しない部隊(ノットファウンド)で確たる居場所はないのよ。なければいいけど、いつか私達の所為で解決できない障害があったとしたら姿を消すつもりよ』

『そんな……!』

『それにね、もう私にだって心の拠り所はあるの。404じゃない別の所に。だから私だってできることならしたくない。そうならないように、いざという時はあなたも力を貸してくれる?』

『もちろんですよ、その時は躊躇わずに言ってください。私もできることはやって尽力しますから』

『……ごめん、ありがとう。それじゃあまた後で』

『はい。ではわかり次第こちらから連絡します。気を付けてくださいね』

 

 

―再生終了―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<??:??>

 

 

浅瀬に漂っていた意識が浮上した。頭がボンヤリとするが熟睡していた時ほどの靄はかかっていない。目を開ければくすんだ茶色の土が映り、耳からは鳥の鳴き声が聞こえてきてほどよく聴覚を刺激してくる。

長い間うつ伏せになっていた所為か体の節々が痛みを発しているが無視できない程ではない。そう思いながら体を起こしたが、パタタッと地面に何かが滑り落ちた。それを見たローガンが頭部に手を当ててみるとグローブを填めたその片手を真っ赤に染め上げ、少なくない血が自分の額から出ていることが窺えた。

 

「くそっ……」

 

周囲に敵影はないかを確認し、今のところは見受けられないので近くの木陰の方に向かいしゃがんだ。応急処置を行うべく、専用のキットをウェストポーチから取り出すと思い出したようにして痛み出した箇所に消毒から施し、終わったら絆創膏を貼っておく。単なる切り傷であればこれだけで十分だろう。

他に痛む箇所がないかを確認したが、頬がジンジンと痛む以外に多少打ち付けたことによる痛みが残っているだけで大事はなかった。

ローガンは自分が置かれた状況を改めて確認してみたが、周囲はダムのあった周辺よりも木々の数は少なく、端末で確認してみるとあべこべの所に自分はいることがわかった。

なぜこんなことに、と記憶を手繰り寄せ、咄嗟に思い出したことによりその場から立ち上がった。

 

「グローザの馬鹿野郎……!」

 

ローガンが覚えている限りでは、ヘリ内部に乗り込んできた怨霊達と交戦することになり最終的に自分は負けてしまった。どれもが素早くも力のある一撃であったが、一対一であればまだやりようがあるのでカウンターを狙い格闘術で組み伏す。繰り出された拳を躱してからのカウンターで投げて地面に叩きつけ、拘束しようとしたところで不意打ちを受けたのである。もう一人が迫ってきたことに気付いたころには、ローガンは横っ面に蹴りを食らって壁に方にぶっ飛ばされていた。フラフラになりながら起き上がってみれば、同じ装備を身につけた、ローガンよりも背丈が高い大柄の怨霊がもう一人。こちらに先手を打ったもう一人の怨霊がこちらに向かってきたのに対応しきれず、成すがままに攻撃を受けていたが途中からグローザによる援護が入ったのである。

 

「なにが『しっかりしなさい』だよ、ったく……」

 

励ますなり鼓舞するのだとしても他に言いようがあるのではなかったのかとも思うが、当人がいないのに愚痴っていても仕方ない。

とはいえ、彼女も参戦し当初から乗り込んできた怨霊と交戦を始めたのだが、そこから先はどうなったのかをローガンは見ていない。ただ、一瞬の隙にローガンが急所に拳を叩き込まれた際に薄れゆく意識で目にした時は、彼女も捕らわれてしまっていた。

そこからの記憶はないローガンは、周囲に自分を連れ去ろうとしていた怨霊がどこかに潜んでいるのではと思い、身に着けている装備の中で武器になる物を探ってみた。どうなったのかはわからないが、周囲に彼らの同類がいないこの現状を見る限りではあちらとしても良くないことになったのではないかと思ったからである。

メインとしている『ハニーバジャー』は機内に立て掛けてしまっていたし、ヘリの損傷だけでなく誤射や跳弾を恐れて機内では発砲できなかった。なので今は手元だけでなく、目を覚ました周辺にもない。ただ幸いなことにサイドアームの『P226』とナイフは無事であったのでそれらを握って周囲を見て回ってみた。

木の根を跨いだり落ち葉を踏みしめ、半径約十メートルで見て行ってみると、思ったよりもすぐに見つかった。

 

「……ついてなかったな」

 

高さがほぼ二メートルにある鋭く突出した木の枝が大柄の怨霊の腹部を貫通し、木の幹を伝ってダラダラと体内で循環していた生命の一部が流れ出ている。枝もろとも真っ赤に染まっているその光景から目を逸らしたくなったが、ここで調べたりして断片的にでも知らなければ意味がない。

ローガンは両手に持っている武器を収納すると、木の幹の凹みに手足を引っ掛けて少しずつ上って行き、もう動かないことを確認しながら死体を枝から引き抜く為に押し戻した。死後硬直で筋肉が収縮したことにより動かすのに難儀したが、幸いなことに抜くのに動かさなければならない枝は長くない。

幹に背を預け、尻もついた安定した体勢になると脚を徐々に伸ばして仏様となった遺体を少しずつ動かす。時折体内から嫌な音が聞こえるがそれを無視し、やがて我慢の限界に達しようとしたところでようやく終わった。

仲間の遺体でないので敬意を払う必要はない、ということで無造作に落ちて転がった死体を見下ろしながら少し息を吐き、ローガンも木から下りてもう必要となくなった敵の装備を一つ一つ確認してみた。

 

「さてさて、何が出てくるかな……」

 

まず血にも濡れている光学迷彩マントだが、こちらは破れてしまっている。刺さっていた枝と同じ芯の大きさだけの穴が空いてしまっており、利用できるかは怪しい。それを取り去って兵士本体の方を見てみると、体全体に外骨格のような機械が取り付けられていた。機動性を武器にする戦術人形が付けているのと同じようなそれを見ていき、ローガンが左腕に付けているのと同じような端末があったのでそれを操作しようとしてみた。だが落下の衝撃がよっぽど激しかったのか、真っ暗な画面で故障してしまっており操作を受け付けなかった。仕方ないのでその外骨格の特徴だけでもと思い、その場で転がしてみると背中の方に軍用のリュックサックよりも二回りほど小さい何かがある。それすらも一部が欠落してしまっているが、こちらは同じ要因によるものではない。機関部ともいえる箇所に銃撃を受けたらしく、何発もの弾着痕が表面から内部にまで銃弾が食い込んでいる。形状と隙間から見える機密さ、下部にみられるジェットエンジンの排気塔のような物があることからして、正式名称はわからないがジェットパックのような物らしい。

 

(なるほど、これに銃撃を受けたことが要因で制御不能になったのか。それでここ近辺の俺は運よく地面に、こいつは木の枝にグサリ……)

 

よく助かったことに今更ながら安堵しつつ、まだ探り切れてない装備を順々に見て行った。手が敵の血で汚れたりすることに嫌悪しつつも、手に取れたりするものは遠慮なく手に取る。

アサルトライフルやサブマシンガンといった小銃はないものの、ローガンと同じようなナイフや拳銃の他に注射器が見つかった。中身はわからないが、わざわざ持ち歩いているのだから何かしらかの用途があるのだと思い、後々に調べれるのならそうするとして回収しておくことにした。フラググレネードにフラッシュバンといった投擲物もあり、必要になれば腰に下げているそれらを引っ張ればピンが素早く抜けれる工夫もされており、ここからも戦い慣れていることが窺えた。

続けてベストや戦闘服を見ていくと、右上腕部に部隊章のワッペンを発見。楕円の赤い生地に銃を持つ白い骸骨が描かれており、下の方には文字が刻まれていた。残念ながらその文字を読むことはローガンにできなかったが、それがどの国の言葉か理解できたのに加えて驚愕した。

 

「なんでこんな所でロシア人が関わっているんだよ……!」

 

そう、ローガンが見たのはロシア語だった。英語ではないと理解できたのは明らかにその文字の羅列の中に英語のアルファベットではない文字が混ざっていたからだ。ちゃんとした学がないローガンでも、それがどの国のアルファベットなのかは理解できる。

独特な形状しているそれらを見間違えることなく断じたローガンは、顔に装着しているゴーグルとマスクを外して人相を確認。口から血を流しながら絶命しているその顔は、白人である自分よりも肌が白く彫が浅い。顔の幅も広く短く切り揃えられた毛色がブロンドであることも加えて如何にもなロシア人らしい顔立ちだった。

フラググレネードの形状で気付くべきだっただろ、とローガンは自分を叱責した。アメリカ製とロシア製のとは大分違う。しばらく使わなかっただけでなく見ていなかったせいで忘れていた。

ともかくローガンのは大きな失敗ではないが、目の前の事実はそうではない。また北アメリカ大陸のここにロシア人が入ってきており、そしてここまでの武装と来た。

そうなるとやはり……、と考えそうになったが、今こうして自分はここにいるがグローザの姿がない。ローガンと同じく捕らわれた彼女の行方だけでなく、自分を回収しに来てくれたAR小隊や共に作戦に参加してくれた皆がどうなっているのかもわからない。

探知されることも考えられたが、他がどうなっているのかが知りたく居ても立っても居られなくなったので無線機の回線を開くように端末で操作した。

 

「こちらグリフィン所属のブラボーリーダー。聞こえる奴はいるか、応答してくれ」

 

呼び掛けてみるが応答はない。グリフィンのみのオープンチャンネルに呼び掛けてみているのだが、誰からの声が聞こえてこない。何度も声を掛けてみても変わらずイヤホンからはザーッといったノイズしかなかった。

繋がらないことで舌打ちし、ローガンは今後をどうするのかを考える。

いくつか思い描かれる選択肢のどれよりも悪手になるのかはわかっている。だがそうしなければ、ここから自分だけが一旦生還できたとしても手遅れになってしまう事にもなってしまうだろう。だからといって装備が乏しい現状で交戦することになった場合は間違いなくやられてしまう。それどころか姿が見えない相手にまともに戦えるかどうかも怪しいどころか、不意打ちを受けてしまってお終いとしか思えない。孤立無援になった今の自分が何も考えなしに動いていては……。

そこまで耽っていた時、ローガンは自分がこのまま基地に戻ることを考えていないに事に気付いた。彼女からは色々と頭に来ることを言われていたりもしたが、傭兵たちを相手にした今回の戦いではサポートしてもらった。

頭に引っかかるようなことはあれど、それを理由に軽視してはならない存在であることは元から承知している。であれば、悩む必要はないのではないだろうか。現地でくよくよ悩んで何人の仲間を失ってきたか思い出せ。様々な局面で拾った命ではあるが、捨てるつもりはないだけの意思はある。それを削ってでも、自分の為にも後悔をしたくないという思いもだ。第一、スオミにどのような顔をすればいいか考えてないだろ。ハリーの命の喪失を誰よりも恐れているあいつに、別口で悲しませるつもりなのか。……許してくれ、二人とも。俺はもう、逃げたことで誰かが泣かせたくないんだ。お前らからどういったことを言われてしまうのかは大方わかるけど、生きて帰れたら甘んじて受けるから。

立った状態から深く息を吐き、これからどのように動くか改めて考えようとした。

そうした時、バキッと背後から枝が折れた音で反射的に『P226』を抜いてそちらに素早く向けた。振り返った先にはこちらの反応に驚いた女性が両手を上げた状態でいた。

 

「あ~っと、ごめんなさい。たまたま近くを通りかかったんだけど……あなた、兵士?」

「……そうだけど俺が行くまでそこから動くなよ。危害を加えるつもりはないけど、一応怪しい物とかがないか調べさせてもらうからな」

「うん、わかった」

 

私服姿でいる黒髪白人の持ち物で武器になる物を身に着けているかどうかを確かめる。異性であるので妙なところを触ったりしないように気を付けながら見て行った。

背中には木製腕には特に目についたり異質に思えるのが無かった。次に腰回りだが、サバイバル用品といったロープやハンドライトがある他にサバイバルナイフがあった。それを地面に落とし、腰に巻いている上着で少々隠れているジーンズの方を見た時、まず真っ先に目につくのがあった。

 

「……なんでお前、『44マグナム』なんてのを持っているんだよ。正直似つかわしくないけど戦術人形じゃないよな、あんた」

「父さんからの形見でお守りにしているの。似合わないのはわかってるつもりだけど、そんなに?一応鍛えてるんだけど……」

「細い身体のあんたみたいな女がデカいリボルバーを持ってるんだから驚きなんだよ。ああでも、戦術人形(あいつら)にもそれなりにデカい銃を振り回してる奴もいるしそうでもないのか……?」

「私が言えたことじゃないけど、混乱しているそんな状態で大丈夫?」

「大丈夫じゃない、大問題だ」

 

女性のベルトに取りつけているホルスターには黒い銃身の『44マグナム』があった。久方ぶりに見るそれを一度手に取り、回転式になっているシリンダーに弾薬は込められてはいないものの手入れはされていることを確認。独特なカスタムが加えられているようだったが、詳しく調べてみなければわからない。しかし今はそこまで重要ではないので捨て置いた。

それ以外にはローガンの危険センサーに引っかかるようなものはなかった。正確にいえば本来とは違う用途で使わなければ危害を加えることにならない範囲で、ではあるが。

 

「持ち物とその様相からして、お前は兵士じゃないな。こんなところで何してんだ」

「私は年に二回ここで鹿撃ちをしにきているの。ここは動物が多いから絶好の穴場なのよ。ほら、そこにライフルを立て掛けているでしょ?」

「ふとした時に鉄血が出てくることがありえるのに女一人でハンティング?信用できないな」

「だったらさ、これ見てよ。保護区で暮らしていてちゃんと今回の外出許可もとってるから。あなたが正規で認められている兵士であればわかる筈よ」

 

彼女の持ち物から出された透明のケースに入っているカードを見てみると、たしかにこの女性を写している証明写真が名前と共にある。名前は『グレイ・カーンズ』で、年齢はローガンより若くこの間誕生日を迎えたばかりの『十月三日』生まれだ。

写真と見比べてみてほぼ間違いなく同じ人物であることが確認できたが、まだこっちに来て経験がないローガンからだと許可証が本物かどうかの判別がつけれない。

もしこちらを攻撃しようとするのであれば反撃に転ずることにして、ローガンは一旦身分証明証を返却して拳銃をホルスターに戻した。

 

「……とりあえず返す。状況が状況で用心深くなってしまっているんだ、悪いな。でももう鹿を撃つのをやめてここから早く逃げた方が良い」

「一時間ぐらい前にここに来たんだけど、なんか遠くから銃声が聞こえていたりしてたから何かと思ったわ。何があったの?」

「説明するのを躊躇うぐらい、激しいドンパチをしたってことぐらいなら話してやるよ」

 

ほら早く行った、とばかりにしっしと手を払い、ローガンは調べていた怨霊の方に戻った。グローザの行方を知るのにも色々と時間が惜しいし、入手した情報に則って行動したりとやることがたくさんある。

スモークはたんまりあるが、C4爆弾のように爆発で殺傷できる武器がなくなっている。とりあえず投擲物のロシア製のフラググレネードをベルトに括り付け、フラッシュバンも同じようにしておく。中身が分からない注射器も入ったことを確認したところで、死体に驚いている様子を見せない女性、グレイがまだ近くにいることに気付いた。

 

「おい、冗談抜きでもう逃げた方が良い。ここで見たことを忘れて命があるうちに回れ右するのが賢明だぞ」

「……いや、そうするつもりだけどさ。その人、お兄さんが殺したの?」

 

本物の死体となった怨霊を指さしているグレイがそう聞いてくる。自分の事を怖がらせる為に嘘をついて『自分が殺した』と言ってもよかったのかもしれないが、そんな余計なことをする程気力と体力に余裕があることに確信がない。この先、ローガンでも恐怖心を抱く敵の監視網を潜らなければならないのだから、できれば面倒事はない方が良い。だからといって邪険に扱いすぎればさらに頭を悩ませることにもなりかねないので思ったことをそのまま口に出した方が良い、と結論付けたローガンはそのまま声に出した。

 

「期待していたかもしれないけど違う。俺の仲間のおかげで事故ってこいつだけお陀仏したんだよ」

「あ~、なるほどね。んじゃあ、お兄さんはこれから逃げるの?なんかこの人ありきたりな迷彩服じゃないし、只者じゃない感が満載よ」

「そうしたいのは山々だけど、戻らないと目覚めが悪いことにもなりそうだからな。無謀だけど来た道を歩いて戻っていくつもりだ」

「戻らないと目覚めが悪いこと?命があれば儲けものっていうぐらい、危機的な状況になれば自分のことを優先しても罰当たらないよ?」

 

その場から立ち上がってグレイを見てみると、彼女はこちらの目をのぞき込むようにして髪とやや同色の瞳をこちらに逸らさずに向けてきている。ローガンの頭一つ分背が低い彼女がいつの間にか手にライフルを持っているのに気付き、左手をナイフに伸ばそうとしたが届く前に手が押さえられた。いや、彼女の両手はライフルを持っていて自分に対してどちらの手を駆使していない。何が動かなくしているのかと思い視線だけで自分の左手を見てみたが、誰にも触れられていなかった。むしろ、動かなくしていたのは自分の右手であり、持てるだけの握力を青筋を浮かせるほど発揮して握りしめていた。

何故、と訳が分からず少々パニックに陥りそうになっているローガンにかまわず、グレイはライフルを持ったまま距離を詰めるように歩いてくる。

 

「別に自分に正直に答えていいんですよ?偽る必要はありません、こんな状況下で献身的になれと誰かに言われているわけではないんでしょう?逃げたって誰も攻めませんよ、皆あなたを置いて帰還しているのですからその仲間達に責める資格はありません。今のあなたのことを知っている人なんてこの世のどこにもいませんし、もう居ない者としていることだってあり得るんです。さあ、あなたは何故、戻ろうとしているのですか?」

 

つぅ……と汗が額から頬へ、そして顎へと伝っていき地面へと落ちて行くのを感じる。残暑ももう消え失せているというのに汗が止まらなかった。

今目の前にいる女性は何を言っている?自分の事を偽っておらず、自分で能動的に戻ろうとしているのだと、ローガンは確信している。葛藤するほど悩み、それでも後ろを振り返りつつも前進するほどの決断した自分の意思を挫こうとしているのかとある筈のない疑念が生まれる。だがそれだけでなく、小首を傾げて瞬きをせずに口元を三日月を思わせるほど口角を上げている彼女を見ていると、底が全く見えない深淵を除きこんでいるような感覚になってきた。目を背けようと思っても両手と同じく脳で命じても自由に働かせれない。

手を伸ばすどころかもう普通に触れられる距離にまで近付かれたことで、グレイの目の奥にある妖しい炎が見えてくる。ゆらゆらと揺れるそれが火の粉を散らし、瞳の中に留まらせずに外へと煽ぎチリチリとした火傷を負わせてくるようだった。

体はその姿勢の状態で縛りつけられていて動かないが、それでも思考は、心は正常に働いている。基地の外を出歩けばどこにでもいるようなこの人物に影が差した訳はわからない。

心臓を跳ね上げさせるまでのことを『圧』みたいに追いつめようとして来る彼女に言わなければならない事を、ローガンは正直にそのまま口にした。

それを聞いたグレイは、毒を抜かれた様にきょとんと目を丸くした。

 

「……え?たったそれだけのことなの?」

「誰かに見返りを求めているとでも思ったか?でも俺は無い物強請りしか許されていなかった身だからこれといった物欲らしいものはない。あったとしても美味いコーヒーを飲ませて欲しいと思うぐらいだ」

「……銃を持つことはあっても組織の上にいた父さんが教えてくれたことの一つで、勇気と無謀は紙一重って言われたわ。今のお兄さんはヤケクソって訳でもないみたいだけど、冷静に見極めているとも思えない」

「お前は他人の心理をそう簡単に掌握できるものだと思っているのかよ。俺だって無茶なことをやろうとしていることの自覚はあるし、恐怖だって感じてる。誰もいないと思ったところから現れてナイフで瞬く間にブスリ、なんてのを想像していないわけないだろ」

 

ローガン以外の誰にされているわけでもなかった束縛が解かれ、血を通わせている身体が本来の動き思い出したようになる。

相手は銃を持っているのでナイフにすぐ伸ばせる位置に左手を置き、腰に置いたその手とは反対の手で防弾チョッキの留め具を外した。ベストにある二種類のマガジンと医療の応急キットなどは抜き去り、そうしている間にも警戒していた目の前にいるグレイに投げ渡す。彼女は驚きながらそれをライフルを持ったまま受け取った。

 

「それにな、仲間だからって以外に俺個人の目的としても捨て置けないんだ。初対面なのに関わらず好き勝手言ってくれやがったあいつだけど、俺以外に知り合った連中には辛辣なことは言わなかったし、永遠にいなくなるかもしれないと苦しんでた奴の事をはいそうですかと捨てなかった。俺にとっての理由は多くなくてもあいつらには片手で数えれる程度で二つや三つはある。自分の命を優先するならそれは結構、間違っていないさ。でも俺は切り傷を負う程度で済むのであれば躊躇せずに行くよ。そうではなくて死ぬんだとしてもな」

 

機動性重視、というよりも動きやすくなる為にローガンは迷彩柄の戦闘服の上衣を脱いで元から来ていた群青色のシャツ姿になる。空のマガジンをそれ専用のポーチに放り込み、『P226』のはベルトとズボンの間に挟み込んで応急キットをポケットに入れておく。

そうしているローガンにグレイはパチクリと目をしばたかせた後でまいったとばかりに笑った。

 

「……なーんか、若い父さんを見てるような気分。もうわかった、止めない」

「ならよかった。そいつを着て、今度こそ帰れよ。正直なところこんな時に出くわしたら助けれる自信はない」

「心配しなくてももうそうするよ。それじゃ、はい」

 

ベストを片手に持ち直したグレイは、ライフルの銃身を持った状態でそのままローガンに突き出した。その行動の意味が分からないローガンではない。すぐに首を横に振った。

 

「いや、ここを抜けるまでの自衛の為にお前が持っていた方が良いだろ。兵士の俺がそれ受け取ったら別の所から怒られちまう」

「だからといってこのまま貰ってばかりじゃ私の気が済まないわ。生まれはビルが建っている街中で生まれても自分の脚で走れるようになってからはこういう所で過ごした方が長いから逃げ足はお兄さんにも負けないわよ」

「それでもだな……」

「考えてみてよ、自衛のためにとか今お兄さんは言ったけど、兵士じゃない私が姿が見えない連中に撃っても焼け石に水、コンマ数秒だけ捕まるのが遅くなるだけだよ。下手に撃つよりも走った方が生きて可能性は高いだろうし、だったらこれはお兄さんが使った方が有効活用できると思うんだけど」

 

自分が言ったことに絶対の自信があるのか、グレイの顔は勝ち誇っている者のそれになっている。多少ムッとなりはしたが言ってることに一理あるどころか、警戒しながらここの外に歩くよりも真っ直ぐ走って行った方が良いのかもしれないと思える。

仕方なし、後日顔をまた合わせないとか……とローガンはそれを受け取った。

 

「わかった、ありがたく使わせてもらう」

「じゃあ予備の弾も渡しておくわ。落ち着いた時でいいから返してね」

「……まさかと思うが、ホワイトデーよろしく倍返しとか期待されてないよな?」

「え、むしろそうじゃないの?」

 

当たり前とばかりに満面の笑みと一緒に投げかけられた台詞を聞かなかったことにしたローガンは渡されたライフルを確認した。狩猟用として使っているライフル、とグレイは言っていたそれはローガンも馴染みがあるボルトアクションの狙撃銃(スナイパーライフル)である。なにからなにまで基礎から叩き込まれた時代で教官から射撃訓練を受ける前にあった説明だと、イノシシや鹿みたいな動物は勿論、警察や軍隊にも採用されていたという。その『レミントンM700』のグリップを握ったりして記憶の中の感触と照合したりしていると、弾薬パックなどに入れられていない、文字通り真っ裸の弾丸がそのまま渡された。

文句つけたら何を言われるかわからないので、ローガンはもう出かかった言葉を飲み込んだ。

 

「それじゃここでお別れだね。生きて帰ってこれたら何ができたか詳しく教えてよ」

「了解、気をつけろよ」

 

ストラップに腕を通すとグレイは走り出す。言っていたことは嘘でないらしく、ひょいひょいっと跳んだりして出っ張ってたりする木の根や突き出ている大きな石で転んだりせずに軽やかに走って行った。

その背中を見送って見えなくなった頃になってローガンは彼女と真反対に歩き出そうとしたところで思い出した。彼女の連絡先を聞くのを忘れていたのである。

 

「……まぁ、なんとかなるかな?」

 

名前と人相はわかっているので、いざという時はグリフィンでの権限を使うなりして調べることにしローガンは一度止めていた脚を動かす。

現在時刻を確認すべく腕時計を見てみると『14:47』と表示されている。随分と長い間気絶してしまっていたようで、帰還する頃にはもう作戦を開始して半日が経っているのかもしれない。それを気にしていたところで状況が良くなるわけではないが、それはそれ、これはこれだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<15:14>

 

 

 

目的を達するのに、まずはグローザがどのあたりにいるかをまず突き止める必要がある。それを知る手っ取り早い方法としては敵兵に対しての尋問だが、今回は相手が悪い。雲を掴むような結果で終わることが大いに予想される。さらに肉眼で見えずともローター音で付近にいることを窺わせるステルスヘリの存在もあって、偵察の基本として見晴らしのいい地点で双眼鏡で見渡す、といった二カ月ほど前にSOPIIを救出した時と同じ手段が取れない。

不可視のタカの目による障害から付近全域の偵察を断念したローガンだったが、木々に紛れながら前進していたところで地面に残されている痕跡を発見した。

 

(足跡……)

 

雑草を巻き込んで道に残されているのは何人かのブーツによる一人分の足跡だった。残されている歩幅がしゃがみながら進んだことによるものか狭く、時折足を引きずったせいかつま先から伸びたりしている。今ローガンがいるのは北側でありダムに進軍していた傭兵たちが来ていたのは真反対の方角からだ。そうなるとこの足跡が彼らの物ではないというのは間違いない。

 

(それにしても、待ち伏せ(アンブッシュ)してる奴が見当たらないな。それだけのことに回せる人員がいない、というのはあり得るが……)

 

今こうして警戒しつつ前進しているローガンの経験としては、見通しの良い地形があったり、多少凸凹していたりする木々が生い茂るだけの場所であればその陰に雑草などに偽装したりさせた前哨狙撃兵(スカウト兵)がいたりした。片手で数えれる程度ではあっても遭遇した時は先手をとられ、位置を正確に把握できないまま交戦することになっていた。だが遂行した作戦の後に振り返ってみると、行く先々の地形が分かっているのであればそこを避けるなり、逆手にとって回り込むことができたのかもしれないと考えることができたりもしている。

傭兵掃討の作戦前に地図をインストールした端末で確認してみると、この足跡が続く先には高所が緩やかではあるがややあるといえる地形になっていた。

なんの意味もなく足跡が残されている、というのはないとローガンは自身の中で結論付けた。この先に歩いていった敵兵は何かしらかの目的を持っていたのか、それともこれに釣られたウサギを狩る為の罠なのかはわからないが用心に越したことはないだろう。

回り込むべく見つけた足跡から逸れて歩いていく。これまでと同じように足音を最大限に抑えつつ、かつ姿勢も低くしながら向かって行く。

そうしていって数分、頭上をステルスヘリが通って行ったらしくエンジンの駆動音が通り過ぎて行った後で、起こされた風により雑草や木の葉が靡かれて肉眼で捉えている視界に一時的な変化が起こる。目が届く一帯の一部、小川を挟んだ数十メートル先にある大木の根元にいる『それ』を、ローガンは見つけた。

呼吸を止め、他が周囲にいないことを祈りながら目立たないように接近。小川に足を突っ込む時も細心の注意を払いつつゆっくりと水しぶきを上げないようにしながらゆっくりと近付いた。石を蹴ったり踏み外したりもしない様にするのにここまで気を使ったことはないと思いながら、サプレッサーを銃口に取りつけた『P226』とナイフを握りしめ、万が一の時はいつでも引き金を引けるように指を掛けた。

 

「……らぁ!」

「……っ!?」

 

一メートル単位に達したタイミングでローガンはその怨霊を蹴り倒し、転倒したらその機会を逃さずに背中に当たる部分を踏みつけた。動けない様に力を込めつつ手に持っていた小銃を手が届かない様に蹴っておき、ここまで接近すれば見えてくる両手を取るとこちらまで持ってきて縛り上げた。

 

「さて、色々と聞きたいことはあるが顔が見えないんじゃ尋問がしにくいのもある。ちょっと化けの皮を剥がさせてもらおうか」

 

適当にマントを掴むと一息に手元に引き寄せる。バチチ……と電気が弾けるような音がしながら徐々に姿を現してきたその怨霊の面も晒し、露になったその横っ面に挨拶代りで拳をお見舞いした。

 

「……へっ、最近のアメリカ人は能無しばかりなのか?力づくで何とかなると思っている脳筋ゴリラとかわりがないぞ」

「心配するな、拷問は不慣れだけど鍛えられた兵士でも根負けするほどの痛点を俺でも知ってる。どうせ殴る蹴る、自白剤による尋問に対する耐久はお手の物だろ?」

「それでどうなる。自分にそれを試したとしても、口を割らないことだってあり得るぞ」

「それならそれでかまわないけどな、こっちはそこまで時間をかけるつもりはない。だから単刀直入、迅速にやらせてもらおうか!」

 

敵対勢力の一人なのだから躊躇う必要も暇もない。ローガンが把握できていることは少ないのでここで入手できる情報が第一歩だ。

逆手に持ったナイフをそのまま化けの皮を剥がされた怨霊の片脚に、膝立ちになっている太ももに突き刺す。ザクリッと自分の牙を肉に食い込ませると手に来るのは嫌にもなっているあの感触。

やむなしに拷問紛いにした時には自分はこういうのに向いていないと自覚した過去とは違い、苦悶の声と息を漏らすだけで悲鳴を上げないことから存外しぶとい。そう思いながらローガンはナイフの柄を握りながら問うた。

 

「まず一つ、俺と俺の連れを一緒に捕まえた奴が一人いた筈だ。連れを浚った奴はどこにいった?」

「ふーっ……ふーっ……我々ロシアの兵は無口だと決められているのは知らないのか?」

「こうして話しているってのに今更何言ってやがる。昔なら血反吐を吐かせるまでやっても割らなかった奴が居たそうだが、今もそうとは限らないだろ」

「ふん……我が受けた祖国の訓練は変わっていてだな、体力テストだとか銃の扱い方を学ぶ前にすることがあるんだ」

「へぇ……それで?」

「貴様の阿婆擦れの母親がどのような死に方をしたのか、それからロクでもないことを繰り返していた父親のもそうだ。人の不幸は蜜の味で麻薬と同じだ。快感を得るだけでなくそれで限界値を引き上げられるのだからな……」

 

ニタニタと笑いながら耳触りの悪い声を発する口を閉じさせるべく、突き刺しているナイフの刃がある方とは逆に力を加え、肉を断つようにして切り裂く。プライドが働いているのかは知らないが、短く悲鳴を上げるものの声量は辺りに響くほどのものではない。

マグマのように煮えたぎる精神状態ではあるが、思考は氷河のように冷めていた。焦りや怒りをどこかに置いているローガンは睨みながら久方ぶりに出る低い声を出す。

 

「……で?そんな面白いことが出来るのならロシア生まれだったら良かったのにとか思わせたかったのか?」

「……はっはっ、僻むなよ猛犬。貴様も戦うのなら楽しくやりたいだろ。アメリカは鉄血との戦いに必死になりすぎて見ていてつまらん」

「ざけんなクソ野郎。戦争なんてのに楽しいつまらないがあってたまるかよ。今日までの命のやり取りを楽しんで、銃とナイフで会話するのが趣味かてめえ」

「ゲームジャンルを問わず、興味があるのであれば傍らで見ているより実際にやってみた方が楽しい、というのは知っているか?だったらわかる筈だ貴様も」

「わかりたかねえよ。遊ぶみたいにゲーム感覚でここにいるんじゃ、寿命を自分から短くしている自覚があって然るべきじゃねえのか」

「知らないね。だったら太く短く、楽しんで死にたい」

 

根っからの狂人ぶりにローガンは話していても時間の無駄と思い、本題に戻ることにした。刃長が約二十センチあるナイフの切っ先が骨に当たっているらしく、コツコツと固いものに当たっている感触が伝わってくる。刃が半分以上埋まっているそれを引き抜くと、首元にまで持ってきて若干喉に食い込ませた。

 

「無駄だと思うがもう一度聞いておこうか。俺の連れは何処に行った?」

 

普段は黒光りしている自分のナイフが今では怨霊の血によって真っ赤に染まっていた。喉元からの出血で更に赤黒くもなり始めるが気に留めず、ローガンは問い詰める。だが怨霊は気味の悪い笑顔を浮かべるだけで何も口にしようとしなかった。

このままナイフをスライスさせて喉元を掻っ切ろうとしたローガンは、ふと自分の端末のランプが点滅しているのに気付いた。基地にいる間ならともかく作戦遂行中は敵兵に気付かれない様にオフにしているというのに、と思いながらそのままの姿勢で画面を見てみるとメッセージを受信していた。宛先のアドレスは間違いなく自分にだが、送り主は文字化けしていてわからない。ただ短く小数点も含めた五桁の数字と暗号コード、そして『信じて』という短いメッセージ。

少し考えたローガンだったが、警戒を緩めずに『P226』をホルスターに戻してナイフを握ったままにしている左腕につけている端末を操作する。送られてきた数字に従って無線の周波数をいじってコードを入力、そして無線機を接続した。

 

「……誰だ?」

 

問いながらもローガンはもう一度右手にハンドガンを握り、警戒心を半ば無線の向こう側に向ける。

悪戯ではなくとも、誰かによる阻害か何かかと考え始めるとノイズが取り除かれていき次第に聴覚的に鮮明になってきていた。

 

『えーと……聞こえています?』

「……聞こえてる。聞きたいことは色々あるが、お前は誰だ?」

『こっちにも事情があるから時間がそんなにないし詳しく話せない。でもあなたの敵ではないよ。その件が片付いたら次に助けて欲しい、て考えているんだ』

「今そんなこと言われても困る。こっちはこっちで精一杯なんだしな」

『わかってるよ。まあ簡潔に言えば、単独で前進するのに困っているあなたを一時的にでも助けるようにある人形に言われたってところかな。とりあえず、目の前にいるそいつは殺してしまっていいよ。全てとは言えないけど、ある程度までならこっちからガイドできる。どうする、『狼王ロボ』?』

 

ハンターとイントゥルーダーといった鉄血の上級人形にも呼ばれていてもローガン自身は忌み嫌っているその二つ名が快活な印象を感じさせる声に乗せられている。そのことに複雑な心境を抱きながら溜息を吐き、当てたままにしているナイフに込めている握力を強めた。

 

「幸か不幸か知らないが、てめえは用済みだ。話してくれる口がないんだからな」

「心配するな。この後の面白そうなことが見れないのは残念だが、これはこれで良い。貴様の両親にはよろしく言っといてやるよ」

 

薄ら笑いを浮かべる男に対しての感情を断ち切る様に、ローガンはナイフを薙いだ。その方向に鮮血が飛び切り裂かれた隙間から息が漏れる音が聞こえてきたが気にも留めずに遺体を蹴ってその場に転がす。ナイフに付着している血糊を戦闘服の下衣で拭い去り腰に下げている鞘に収納すると無線機に手を当てながらその場にしゃがんだ。

 

「こっちとしてもそうするしかなかったから始末したが、最低限でこれだけは聞かせてくれ。俺がお前を信用できるだけの材料がないんだが何を提示できる?」

『提示、ね。でもそう言わずに、今こうしてあなたに通信しているのが気に入らないのならそう言ってよ。そうしたら話せるだけのことは教えるのに』

「見ず知らずどころか何も知らない奴からいきなりショートメッセージが送られてくればこんなにもなる。一般ネットに個人情報の流出や電子妨害、ハッキングが盛んになってきている今じゃ警戒するのが当たり前なのを知らないのか?」

『しばらくの間『地上』のことを知らなかったわけだけど……そっか、そこまで時代は移ろいでいたのか。ならごめん、経緯をあまり話さずに用件だけを言うのは不躾だったね』

 

おや?とローガンは思った。素直に非を認めて詫びてくる存在を最近見ていないわけではないが、初めて声を聞く相手から友好的に思えるコミュニケーションが取れるというのはローガンにとって初めてだったのである。礼儀という二文字を重んじていなくても、よっぽどのことであれば少々ムッとなることはある。例えば、明らかな落ち度があってそれを認めても謝罪しないような輩とかがそうだ。そういった礼儀だけでなく性格まで問われる範疇になれば、多少のことは許容できるローガンでも不快になってしまうものだ。

 

『じゃあそっちが移動しながらでよければ話すよ。一応周囲に敵の反応はない、ここ一帯で待ち伏せしているのはそいつだけだから』

「本当にそうなのか?ここと行先にいずとも遠くから狙撃されるのも御免だぞ」

『だいじょーぶ、そういうルートを進めるようにもする為にコンタクト取ったんだから。嘘も何もなし、見返りで後日助けてくれればそれでいい。それでいい?』

「どこから俺を見てるかどうかは知らないが……了解」

 

どちらにしても言ってることが本当であれば話している相手は自分を一時的に支援してくれるのだから、援護も何もない、装備もままならない現状では支援してくれるだけでもありがたい。七年以上の単独出撃による作戦遂行で培った経験を武器にしても不透明なことが多いので間に合わせるには厳しいとしか言えない。通信相手の正体はわからないが、利用できるものはなんでもそうするのに限る。

死体をどこかに隠す必要もない、ということでローガンは死体を跨いで持ち主がいなくなった銃を拾い上げようと触れた時だった。

 

『待った、奴らの銃は使えるけど持って行かない方が良い。どれにもGPSが内部につけられていて分解して取り除くには時間がかかる上にリスクがあるから』

「GPS?使えるのなら今のご時世、そこまで気にしている暇なんてほとんどないだろ。そこら辺の奴より戦える分、管理能力が欠けているのか?」

『そんな素っ頓狂な理由ならよかったんだけどね。残念だけどコミックに登場するドジっ子みたいに微笑ましいものじゃない。これを聞いたあなた達人間からすれば『そこまでするか』と言わせてしまうほどだよ』

 

どういうことかわからないが一旦触れようとしていた右手を引っ込める。見た目は普通に変わり映えのしない『As Val』、視線を背後に移せば死体の下敷きになっている『ドラグノフ』だというのに。内部にGPSを仕込んでいるというのは銃規制に従って取り締まっていた頃にもあったらしく珍しいと思える程度だが、真剣味が一際増した声を発する通信相手はそこまで気にしていないことがわかる。

首を傾げたローガンは何も考えれないままに聞いた。

 

「そこまで驚くほどのものなのか?」

『うん。人間ではないこっちからしても、そんなことを考え付いた奴が気持ち悪いとしか言えないよ。そこまでして優位になっていたいのかと思うぐらいにね』

「俺からしてもロシアの兵士達の多くは『祖国を守る為~』とか言って後の事をあまり考えていないという見解だ。今はどうかは知らないが、記録にあるのを読んでいる限りだと感嘆するどころか直接面に向かって罵倒したくなるよ」

『同じことを感じてくれる人がいるのはやっぱり嬉しいけど、これを聞いたらそれだけじゃ済まないかもね』

 

その筋で有名である特殊部隊の記録によれば、ロシアの特殊部隊は劇場に立て籠もった武装勢力の制圧を目的として催涙ガスを使用。それにより人質を取っていた者達を始末できたものの、ガスの影響は当然ながら人質にも及ぶ。非致死性ガスでも昏倒した後でなにかしらかのアクシデントを考慮していなかった特殊部隊の兵士達は慌てながらも救命措置に当たったが、多くの民間人を呼吸困難や心停止から回復させられなかった。

そのような背景があるので、ローガンからだとロシアは国の事を考えすぎて人命に対しての配慮をやや欠いている、という印象しかない。

だが通信相手によればそれ以上の、憤りを覚えることのようだった。

 

「もったいぶってはいないだろうけど、それでどんな事だ?」

 

チラリともう一度『As Val』を見る。ロシア製の小銃はご無沙汰で操作を誤ることはないだろうかとも考えていたのだが、想定していたのとは違った形で使うことができなくなった。その事に腹を立てているわけではないが、不思議には純粋に思う。

そして耳だけでなく思考すらも傾けていたローガンに向けられたその台詞。聞いた時はまず押さえ切れない間抜けな声が出てしまった。

 

『……ロシア政府公認の技術で人間に戦術人形のシステムを導入し始めた……て言ったらあなたは信じる?』

「……は?」




最近のマイブームはハイボールを探求することです(唐突
現在はビンゴイベントが始まっていて、私も一日たりとも欠かさずに全ての任務をこなしています。ですがあれ、あそこまで数字が被るものなんですかね?酷い時は埋まってる方が少ないというのに、九つのどれも新しい数字が出なかった時がありましたけど……マジであれなんなんすかね(半ギレ。でもまあ、JS9獲得まであと一歩まで来れましたし頑張りますよ。でもこっちを注力しすぎて、もう四年以上やっているもう一つのスマホゲーの方が疎かになっていたのでそっちもやらないといけなかったり……頑張れ私のスマートフォン。私のになってまだ一年ぐらいにしかなってないじゃないか(ニッコリ。
さてさて、今回は新しい登場人物が登場させました。一人はオリジナル、もう一人は……ノーコメントで。実はもうちょっと後々になってから登場としていたのですが、次への直接的な絡みになるのが乏しかったのでちょっとだけ投入しました。正体は物語に合わせて明かしますが、元々は原作でも登場している人形とだけ言っておきます。
では今回はこの辺で――――――

『徐々に刺激的な描写を導入してみたりなんだったり』
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