誰も助けてくれない -Can you hear me?- 作:麒麟犬
<15:32>
烙印システム、『Advance Statistic Session Tool』を略して『ASST』と言われている技術について復習しよう。
I.O.P社が開発したそれは、グリフィンにも提供している戦術人形の第二世代型の全てに導入されている先進技術の一つだ。それを施されることで、銃火器を持つ人形と同名の銃のペアは人間やそれまでの戦術人形より大きく上回る戦闘力を発揮させることができるようになる。自分の体の一部、または半身として感じられるらしい専用銃であれば人間としては一流の兵士も顔負けの運用効率と射撃精度を誇り、離れた位置にあっても銃口の向きさえも把握できるので戦闘面で良いこと尽くめだ。
他にもスオミが歴史から
「それがどう関係ある?まさかとは思うが、ASSTが人間に適用されているとは言わないよな?」
『そのまさかだよ。近年、ロシア政府は政治的にも見て鉄血との戦争を収拾できてないことに焦りを覚えていたんだ。アメリカに並ぶ世界で二強の国である彼らの中の急進派が強硬手段で敢行したのがこれ。正規軍とは外部の組織に試験的にでも新技術を導入、その兵士を投入して事の顛末を見ているのさ』
通信相手からのガイドに従い木の合間を縫うように前進するローガンは集中力を保たせ続ける。『P226』とナイフを構えながら警戒しつつ言われた方角へ。本格的に怨霊達に関わる話の前に、グローザが連れて行かれたと思わしき有力な場所に向かうことになった。そしてその最短ルートとして、地下のメンテナンス通路への出入り口を目指している状況である。UAVからの画像など付近に関わる情報が無いのでガイドは普通にありがたい。それでも聞かされている話の内容は穏やかじゃない。敵を知るのに必要であることは理解しているが、聞きたくない話として耳を塞ぎたくもなってきている。無線機を外したくなる気持ちを抑えつつ、ローガンは続きを促した。
「……本当の話なら人間型ASSTってところか。方法としては、機械で改造人間にしているのか?」
『その通り。手術で首筋から脊髄にデバイスを取り付けてまずは身体に適応させるの。そうしてある程度まで回復したら薬を使いながら実験と訓練開始。その過程で事故があって野垂れ死になっても急進派の政府の上官は見てないふり。だって正規軍の兵士じゃないんだもの、ここで死んでも損しない。むしろ仕事を終えた後に支払わなければならない報酬が軽くなるしリアルタイムで送信されている実験結果がもらえるんだもの。願ったりかなったりの筈』
「考え方だけじゃなく命の価値観が違いすぎるどころの範疇に留まらなねえなそれ」
『それでも処置される兵士とは同意の上よ。さすがに強行しすぎれば内部告発者が出てくるし、鼻が良い政府関係者が嗅ぎ付けることにもなる。だから奴らも慎重にやっていたようだね』
通信相手にではなく、同意をもらっても人道的とは全く思えないことをしているロシア人をローガンは鼻で笑った。事態を好転させる為の新技術の実験、というのは聞こえがいいが結局は人間をモルモットにするのと同じだ。それを咎められはしない、傭兵といった政府に属さない外部の人間を使っているのが尚更だ。しかも話を聞く限りではまだ試験段階、安全が確立されているわけではない。
『元々ASSTはI.O.P、企業の技術でI.O.Pでも無条件にこのことを譲歩できないわ。研究の基盤としてロシアはなんとしても欲しかったでしょうけど、政府相手にはいどうぞって開示出来る筈もない。それにかまわずに実戦投入しているけど不安要素がまだ多くある状態よ』
「それなのに自分達の都合を優先しているっていうのか、ロシア政府の急進派の連中は。だけどそれがさっきの銃を拾っちゃいけないのとどう関係があるんだよ?」
『GPSが関係しているというのが大きいんだけど、部隊全員が統一されている銃器を手にしていて全てのその位置をその気になれば知れるとしたらどうする?脳が負荷に耐えれるかどうかは別として、今のところ人間側だけじゃなく銃本体にもシステムが入れ込まれているのだから、自分のだけでなく他の隊員のもやる気があれば感知できる。せっかく発見されずに侵入できたのだとしてもそれで全てが台無しになっちゃうよ』
ぐうの音も出ない回答にローガンは押し黙った。技術云々は置いて、通信相手が言ってることは筋が通っていてさっきの『As Val』を携行してはならない明確な根拠があるからだ。
とりあえずここまで整理してみると、現在相手にしている怨霊部隊の隊員達のバックにはロシア政府の急進派がいて、新技術の実験も兼ねて今回の作戦に投入。その新技術とは、I.O.Pが戦術人形に施しているASSTを人間に適用できるようにしたらどうなるか、というもの。
人類に向けた新型ASSTというのには驚きだが、国が関わっているのであればステルスヘリに光学迷彩や携帯型ライオットシールドといった数々のハイテク装備に納得がいく。どう考えてもあれだけの装備を人数分用意するには一組織としては無理があるが、ロシアそのものが注力しているのであれば辻褄が合う。
「……厄介な敵ではあるが試験段階なのが唯一の救いだな。でも後々完成した新型ASSTによる奴が出てくるのがあるから気持ちが軽くならねえな」
『だろうね。こっちはまだ実際にその兵士を目にしていないけど、他になにかあなたが気付いたことはある?』
「二つある。奴らの身体能力と技術がこっちより上回っていると言われたらお終いだけど、銃を使わない近接戦闘じゃ対応に一歩遅れてしまった。俺だけが負けたのならともかく、俺よりも経験を積んでいる仲間の戦術人形までもやられてしまったんだ。単純な格闘術であれば人間相手に負けることがないだろうに、理由が分からないことがまず一つだ。二つ目は心理的な打たれ強さで、近くで仲間が撃たれても気にも留めなかったのが気になる」
『え~と……ごめん、こっちで蓄積している記録じゃ答えになるものが無いや』
「いや、そこまで気にしなくていい。奴らに関する情報を少しだけでもくれたんだし十分助かってる」
「ならよかった……と、そこから二時の方向に五メートル行ったところが目的地。入口は電子ロックがかかっているからこっちから操作して開けるよ」
落ち葉を踏みしめながら指示通りに進んでみると、たしかに盛り上がった地形の根元付近に鋼鉄製の扉が見える。開き戸になっている近くにあるボックスを開いてみると、そこには電子パッドがあったので、ローガンは端末を操作して接続した。
「接続したぞ。いけるか?」
『うん大丈夫、これならいけるよ。開けるまでちょっとだけ時間を頂戴』
「了解、焦らせるつもりはなけど出来るだけ早く頼むぞ」
端末の画面が勝手に変わっていくのを少しだけ見た後で、ローガンは通信相手からもって行って大丈夫だと確約をもらったゴーグルの動作を確認してみる。
怨霊達がつけていたゴーグルをつけてみてわかったが、やはりローガンが睨んでいた通り暗視モードや熱源モードがあったりして、通常とは違った形で視界を確保できるだけの機能があった。他にも双眼鏡ほどの倍率はないがズームもできたりもしており万能型の装備といえる。
迷彩マントなどを他にも携行したかったのだが、リンクさせる自分の端末との相性が悪いだけでなく、戦術端末としてバージョンが旧いので適用できなかった。新しい玩具が事情あって使えない気分というのはこういうことなのかと思いながらもローガンは後ろ髪を引かれるような感覚を覚えている。
『……なんとなくだけど、未練残してる?』
「まあ、な。理屈はわかっているけどどうしても心残りがある」
『わからなくはないよ。新しいものを使う時は気分が高揚するけど、何かしらかの事情があって使えない時の落胆を感じるなという方が無理な話だよ』
まあそれに拘っていても仕方ない。駄々を捏ねていても結果がひっくり返るわけではないのだから。
ローガンはゴーグルの操作を覚えた後でグレイから預かった『レミントンM700』の弾数を確認した。装填されている弾数は五発で、予備の弾は六つあるが合計で持っている弾数としては多いとは言えない。発砲するのであれば可能な限り必中を狙うようにして撃つ必要がある。加えて銃口にはサプレッサーが付けられているわけではないので、撃つのであれば最終手段で交戦しなければならなくなった時だけだ。発見されたりもしない限り、自分が愛用している『P226』を使っていくしかない。できればそのような状況になることにならないように努力はするが、事故などでなりたくないことに陥った場合はもう最悪なことになる。自分には祈るだけの神はいない、ならそうならないように自分自身に願うしかない。
『……うん、ロック解除。あなたがここを通ったら自動で通れなくなるから時間は稼げるよ』
「サンキュー。でもこの先は一方通行か?」
『データによればダム内部の地下施設、浄水関係の機器が密集しているエリアに到達するよ。そこから先はあなた次第』
「なんとなく悟ってはいたけど、やっぱりお前のアシストはここまでか。話し相手としてやりやすかったのに」
『それはごめん。でもこっちは指示してきた人形を経由しているわけだから長時間のサポートはできないの。本体があなたの端末に移れれば話は別だけどね』
本体、という単語に少々引っかかった。、人形を経由して通信してきていることと自分に助けを求めている二つから、どこかで動けない状態にあるのかもしれない。
そうなるとやはりこの者の救出もしなければならない、とローガンは扉に手を掛ける。
ナイフを持った手で扉を開けて『P226』を構えながら出入り口を確認。付近に罠はないがメンテンナンス用と言われているその仄暗い通路には蛍の光のような仄かな光があるだけで暗い。さっそく鹵獲したゴーグルの出番だということで、頭にバンドで留めていたそれを目の前に倒そうとした時に大前提として聞くべきことに思い当たった。
「聞くのを忘れていたが、お前に指示している人形ってのは何者だ。あまりわからないけど、別の奴の意思を経由させれるポイントになることなんざそうそうできることじゃないだろ」
ローガンは自分の端末に視線を落とし、まだ通信が続いていることを確認してみる。まだ繋がっており自分が投げかけた質問を聞き逃したことはないだろう。
『まーそうだよね、それは遅かれ早かれ聞かれて来るとは思ってたよ。でもこれも答えられないよ』
「……それは知らないとかじゃなくて、教えられないってことだよな」
『察してくれて助かるよ。それでもこれだけは忘れないで。その人形は『傍観者』じゃなくて『当事者』。上擦りの仮面は笑っていても素顔は真逆だから』
「お前には借りができたしこれ以上は問い詰めないことにするよ。この一件が片付けれたら要求通りにするが……一体どこにいるんだよ?」
くすり、と通信相手の彼女は笑った。息がマイクにかかったのとは違い、笑い声がほんの少し漏れたかのようである。
耳を擽られたかのようになったローガンは眉を顰めたが、思ったような返答がくることはなかった。
ブツンッと通信が途切れ、無線機からはノイズが聞こえてくるのでローガンは端末に視線を落とす。そこにはもう誰とも通信で繋がっていないことを知らせるためのダイアログボックスが表示されていたが、それとは別でメッセージが送信されていた。開いてみれば同じく送信主がわからない者からのものだったが、本文でもう誰なのかは察しが付く。
「『辿り着く為の『地図』と『座標』はもうあなた達の手にある。あとはそれに気付けるかどうか』か……」
しばしその文面に視線を落としていたが、そればかりで時間を使うのはよろしくない。
両目に収まったゴーグルを起動してから暗視モードにすると、ローガンは後ろ手で扉を閉める。ガチャンッとしまった後に重い金属同士が嵌まる音が響いたが、あとに残っているのは静寂だけ。
深呼吸したローガンは両手に持つ慣れ親しんでいる武器を構えると、黄緑がかった視界におかしなものがないかと警戒しながら歩き出した。聴覚にも気を配りながら進むこちらを迎え入れるのは何も透視させない暗闇、それだけだった。
―――<グリフィン北アメリカ支部 同時刻>―――
こちらから送り出したAR小隊からの通信も途絶えてしばらく経ったが、今のところ開けている回線に聞き慣れている彼女達の声は入ってきていない。
それによる負の感情が疲弊しているハリーを徐々に蝕んでいくが、彼は足元から自分を飲み込もうとしている泥沼に気を払わずに、確認できるだけの情報を収集しようとしている。基地にいる支援班に指示を出しながら、自分も解析されて送信されているデータを見逃すことも捨て置くこともせずに目を走らせた。
「さっきこっちに送ってきた十四番目のUAV観測データを……いや熱源感知も含めて全部だ、急いでくれ」
ひっきりなしで自分の戦術指令端末に送られてくるデータに一度だけで穴が空くほど目を配らせるが目ぼしい結果は得られない。兵器や兵士を映したどれも同じようなものなのかわからないが、世界で危険組織としてマークされている戦闘員と画像を照合させていたりと集めれるだけの事実をかき集めようとしているがどれも『不一致』という結果のみ。
異変が起きた時、まだ生きていたUAVの映像からは仲間達が統率されている動きをしているのは確認できたが、ダムから大勢で出てきた時を境に全く見えなくなった。ハリーは思うにローガンがうまく立ち回ってくれていると確信しているが、AR小隊とは別で任務に送り出した404小隊の45が言ってたように時間の問題だ。
今頃全員で脱出できていればいいが……。
「ジャミングを駆使する特殊部隊は世界中でも多くない。初手からの戦術も特殊で限られた情報でも他よりも尖っている物には違いない。だというのにここまで見つからないとはな」
「ええ、それに完全に後手に回ってしまっています。現地にいる彼女達からの報告が聞けないんじゃ大きく前進できません」
現グリフィンを纏め上げている総司令官もブリーフィング端末を操作して届けられた情報を確認しているが、ハリーの指揮官としての実力を見定めるためか基本的に静観している。だが部下にとっての緊急事態なので無関心や無頓着でいるのではなく、彼もわかっているであろうことを確認して思考面で補足していたりする。
スオミが404小隊の作戦指揮に移ってまだ数時間だというのに、猫の手も借りたい状況に陥ってしまっている。他の人形を変わりの補佐として呼ぼうにも、役割に当てはまるその人形はダムの方に向かっており現時点で基地にいる人形達に代わりになれるものはいない。副官をスオミに任命してからは頑なに交代を拒み続けているのが要因で、頭にすぐに浮かぶ代役以外が指令室の端末の扱い方をよく知らないのだ。
とはいっても彼女を責めることはハリーとしてもするつもりは一切ない。彼女のおかげで打破できた逆境もあったのだから。
「……ハリー、私が強く言う必要はないが少し休め。休憩なしで大分コンピューター相手に格闘しているだろう」
「この机から離れたら気絶してしまう自信がありますし、今僕が休んだら事態が手遅れになったしまいかねません。大丈夫です、以前三徹したままで作戦指揮をしていた時がありますから」
寡黙であったことを除けばあの父親から性格を受け継いでいるな、とヘリアンは胸中で呟いた。
そう思う彼女ではあるが、付き合いがある方であった人物の息子なのだから多少は手を貸してやることも忘れない。UAVから得られた情報をブリーフィング端末で映し出されている周辺地図に表示させたりとして総合的な情報整理を行っていた。
上級代行官としての仕事でこういうのもあったなと懐かしみながらもしていると、指揮官用の机に備え付けられている固定電話が鳴った。
「非通知……このタイミングで……?」
訝しんだハリーはすぐに補助端末を操作し、録画と逆探知機能を起動して受話器を取った。受話器を片耳に寄せて端末に接続している液晶画面に出てきている音波を見ながら言った。
「はい、どちらさまで?」
『グリフィン北アメリカ支部の指揮官、ハリー・クロスハートか?』
声は男性と女性のが混ざっているように加工されているが、喋り口調にロシア訛りがある。
そのことをメモに走り書きして、上司が自分にも聞けるようにする為にヘッドホン付属のマイクを有線で繋げるとヘリアンに差し出す。彼女はこちらに歩いてそれを受け取ると両耳にあてがった。
「そうですがこちらが先に質問しています。名乗っていただけますか?」
『残念だろうがお前がそういう事が言えない立場にある。今回こちらは通告をしに来ただけだ』
「通告?こちらとしての状況とタイミングからして、占拠しようとしていた傭兵たちもろともこちらのチームがいたダムを強襲した武装勢力、と解釈しますがそれで差し支えありませんね」
『そこまでわかっているようで何よりだが……そうなると途中から把握ができなくなって行き詰っているな。どこからわかっていないか教えてもらおうか』
「こちらの能力を測っているのであれば無駄です。それとこの電話回線を通じて工作を講じようとしても徒労で終わりですからね。こちらにはそのようなサイバー対策に長けた人材がいますので」
『ブラフにしては三流だな』
「そう断じてしまっていいのですか?それと流さずに反応したということは自ずからそうしようとしていたことを認めたことになりますが、自分の言動にお気づきになりました?」
『威勢がいいな。後方でふんぞり返っているもやし野郎だと思っていたが骨があるようだ。顔を直接見ることが出来なくて残念で仕方ない』
本当にそう思っているのか、とハリーは心中にて鼻で笑った。だが電話の男はこちらに対し高圧的に話そうとしているがなにかを探ろうとしている節がある。
一泡吹かせたいという欲はあるが下手にちょっかいを出せば取り返しがつかないことになりかねない。ハリーにとって煽り合いは嫌いではないどころか得意分野の一つだが、連絡が付けられない現場には自分の部下がいる。彼女達が無事に戻ってくるまでは、今のところこちらは先手を取れない立場にいることを忘れてはならない。
「それで、わざわざこちらにご丁寧に電話をかけてきて何の用です?」
『こちらの依頼人のこともあるし、単刀直入にいこう。今のグリフィンは鉄血の狙いをどこまで把握している?』
視線を上げてヘリアンを見る。彼女はアイコンタクトで『お前の判断に任せる』と視線で伝えてきたので、ハリーは範囲と言葉選びをして言った。
「……政府関係者の感情を利用している、というところまでは」
『なるほど。そうなると……『砂漠の湖』というのを知らないようだな』
「砂漠の……?」
聞き慣れていない用語にハリーは眉間に皺を寄せてどういうことかを考えようとしたが、疲労が積み重なっている脳では情報処理をできそうにない。意識は冴えているというのに、思ったことができないことに歯痒く感じているハリーを置いて電話越しにふむ、と声を漏らすのが聞こえた。
『となればこちらが要求するもののこともわかるまい。だがまあこういえばわかるだろう、そちらがアメリカ政府の要人の一人が持っていたデータを渡してもらおうか』
「……それにどのような価値があるのか分かりませんが、こちらが応じなかった場合は?」
『聞くまでもないだろう?先にここに来ていたゴロツキどもに代わって破壊する。その前に有害物質を流して保護区の生活を壊すことも決定づけているが、それぐらいのことをしないと揺るがないだろ?』
ぐらり、と視界が揺らいだ気がした。それは気の所為であることは承知している筈なのだが、要因が重なりすぎてそうではない気もしてくる。
ハリーは今となってはなけなしの気力を振り絞って立ち直って声を絞り出した。
「……なぜ、そのようなことをしようとするのですか?ロシア人がここでそのようなことをしたと公表した場合、それだけでも戦争は免れませんよ?」
『政府とは余所者のこっちが知ったことじゃない。むしろそうなったら仕事が増えるんだ。戦争行為万歳、喜ばしい限りだ!』
「この……!」
『だがオレ達を恨むのは筋違いだぞ。事の発端は国同士の争いを承知の上で始めた政府の意向だ。戦いがあればグリフィンだって暇を持て余さずに済むんだ、いいじゃないか』
この言動でハリーは悟った。この者がいる組織はまともな人間などいないといえるほど狂っている。頭のネジが外れているどころではない。そもそもの物事への見方が、価値観が、築いている基盤の全てが違っているのだ。目の前で泣いている子供がいるのに対し、歩み寄って声を掛けることをせずにそれを面白そうに眺めるのと同じだ。この者は戦争そのものは『悪いもの』ではなく『良いもの』としてみているのだ。何も知らずに戦う兵士が死ぬのを望んでいるのといっても差支えないほどに。
それからはもう、うんざりするような問答の繰り返しだった。グリフィンの指揮官として楽しめているのかと、好きなことをできているのかとと色々と聞いて来て、皮肉を混ぜたこちらの回答をおかしそうに全て笑い飛ばしてきた。
『グリフィンというのはやっぱり面白くないようだな。コンピューターとにらめっこ、支援機器の操作をしているどこにやりがいがあるかに理解に苦しむ』
「勝手にそちらの価値観にすべてあてはめることではないでしょう。自分で用意している定規でしか物事を測れないのですか?」
『そんなことをすることにどんな意味がある?お前がやっているのは要は戦略ゲームだ。『命がある~』とか建前を振りかざしながら戦場に兵士を送り込んでいる主人公を演じていて、なにが楽しい?』
「きれいごとばかりを並べるつもりはありませんし、彼女達を軽々しく扱うほど自分は現実と架空と混同していません。それに楽しいも何もありません、それこそこちらこそ理解に苦しみます」
『ブーメランだぞ。それこそ自分の定規で物事を測っているというものではないのか?』
「っ……!」
揚げ足をとられたりして舌戦でも前進できない。正直言って不快なので受話器を置いて電話を切ってしまいたいが、そんなことをすれば後々に耳が痛くなるようなことになりかねない。
それに今ので会話において自分が発言したことの言動までもが危うくなっているのを自覚せざるを得なくなった。度重なる長時間の作戦指揮を続け、一夜どころか現在まで寝ずにいる影響がここにも来ている。肉体的な疲労よりも精神的な方が自覚しにくい。
人体から生み出される自然なドーパミンによる興奮が収まっていくことで蓄積されていた重石がハリーに圧し掛かってくる。それを見たヘリアンは代わろうと思って口を開こうとした時だった。
ハリーの机の上に置いている携帯型の無線機のランプが点滅し始めて通話を要求し始めたのである。
手一杯で気付かない彼の代わりにヘリアンが取る。その相手から総司令官がどのような表情を浮かべることになったのかどうか、それは誰にもわからない。
ただ、連絡を寄越した彼女はこう言ったらしい。こちらを労う声色で『よくやってくれた、戻ったら別命があるまで待機していてくれ』と。
――――――
<16:21>
ゴォンゴォン……!と作動音を立てる機械の陰などを確認してみて何度目だろうか、とローガンは独り言を漏らしそうになったが臨時の会話のパートナーはもういないので返ってくることはない。
作戦行動といっていいのかわからないが、ローガンからすれば一人で敵地に潜るのはもう慣れっこだ。それでも鉄砲玉になってこいとばかりな
地下通路に入ってもうしばらく経ったが今のところ会敵することにはなっていない。ゴーグルの機能を切り替えたりもして熱源感知にも気を配ったりもしているが、ほぼほぼ一本道である通路では怨霊と言われれば連想する兵士をまだ見ていない。
(さて……)
大分歩いた先には重々しい扉があった。湿気が多いに加えて通路の片面に設置されている機器の機械熱で蒸し暑いので、もうここを抜け出したいという欲ももう無視できない程になっていた。なのでその扉がもう天国へのそれに一瞬は見えなくもなかったが、神々しい印象は皆無で、しかも扉には一枚の張り紙がある。妄想の世界に逃げることが回避できたローガンが読んでみると、『忘れもの注意!』。
「……俺が忘れている物ってなんだろうかな」
人は逐一あったことを記憶しているわけでなく印象に残っていることしか覚えていない。良し悪しに関わらず、自身にとって衝撃的に感じることが第一で前提だ。
誰もが忘れたことの方が比率的に多く、ローガンも例外ではない。自分の足跡を確認する為に振り返っても付けた覚えがあるのは一部分だけで、どれもが頭を悩ませるものばかりだ。
嫌なことを思い出して時間を浪費させるところだったと、ローガンはかぶりを振って手動でゴーグルをどかす。そして扉の取っ手に手をかけてゆっくりと開け、まずは一センチにも満たない隙間から視野を確保し近くに敵がいないかを確認した。ブービートラップによるワイヤーもないので、身体を滑り込ませて静かに閉じた。そして近くにある作業机の陰にまで到達して再びゴーグルを起動、見える範囲で敵兵がいるかを探ったが目につく物は見られない。しかし部屋を移ったことで環境の変化があっただけではなく、こちらは前進を一旦やめて身を潜めているというのに足音や話し声が聞こえている。隠れている作業机から移動し音の発信源の方に自身は音を殺しながら行ってみると、迷彩マントを被っているだけに留めて銃を手元に下げている兵士が二人、仮の休憩所と定めているらしい場所で寛いでいた。ロシア語で会話しているので内容までわからないが、切羽詰ったような口調ではない。今のところまだ自分の存在を知られていないようだ。
足音が聞こえるのでまだ別におり、音の方角と数からして別で二人いるようだった。対処を考えたローガンだったが、ここではやはり攻撃しないことにして別の通路を散策していたところで一つ気付いた。今のところローガンは地下にある機械の総合制御室があるところにいるのだが、いたる要所に爆薬が仕掛けられていたのである。
(設置されている場所からして……ダムの破壊に至れるのか?)
いや、違う。設置されているのは壁の一面側であって柱などといった攻撃されればただでは済まないところは避けられている。大穴を開けたりはしてもダムの瓦解には至らせることはできないのに対し、なぜ中途半端に破壊活動をしようとしているのか、とローガンは素朴な疑問を持った。
(起爆した後になにかしらかの狙いがあるのなら……急がないと)
今ここで爆弾の処理をしようとしても多大な時間がかかる。それよりも先に付近にいる敵を制圧しなければならなくなったりと、タイムロスが著しいので現時点ですべきことではない。
状況次第でこの後ここにとんぼ返りで戻ってくることになるかもしれないがいずれはやらなければならないということで記憶し、ローガンは警戒しながら進んだ。
(にしてもやりにくい……その場しのぎのような装備一式じゃ尚更だな)
グリフィンから支給された普段の装備とは違っているので足音が立てやすいので一歩ずつ前進する時に足裏を地面につけることにも意識を割かなければならない。敵から剥ぎ取った戦闘服とブーツなどを強奪し、身に着けてからしばらく経ったが感覚がなかなか馴染まないので、隠密で足音を抑えるのも一苦労である。普通に歩けば足音が起きるだけでなく、背負っているライフルや装備を吊り下げている金具などが揺れて望まない音を立ててしまうこともあるのでそれにも気を付けたりと気が楽ではなかった。
それでもなんとか浄水器の制御機械を複数置いているこの場から移動できた。ここにいる怨霊の数と配置を覚えながら移動していったところで階段があったので暗視モードの状態のままで一段飛ばしで上がっていく。突き当りの扉を警戒しながら開けると日光が隙間から入ってきたのでゴーグルの電源を切って進入。一旦外して周りを改めて見渡してみると、地上ダムの内部通路に出たらしい。目の前の窓からは六時間以上前にステルスヘリを見かけた広場が見えている。
ようやくここまで戻ってきたなと思ったローガンは一息つこうとした時に、バタバタとした複数の足音が近づいてきた。すかさず来ていた扉に戻って身を隠し、気持ち程度に開けておいた。
「わかっているな、もし聞き出せなかった時は人質として使うことしかできない。『捕虜をとったのであれば人質以外の役目としても利用しろ』というのがボスからのお達しだ」
ロシア語ではなく英語による会話、それが頭に引っ掛かったが一旦頭の隅に置いてそのまま聞き耳を立てた。もちろん、不意打ちを想定して『P226』とナイフをそれぞれの手に持っているのは忘れていない。
「大丈夫ですよぉヒヒヒ。それよりも自白剤の新薬、あれが戦術人形に効くのかを試してみたくありませんかぁ?汗を垂らしながらも息を荒くする様がホントに……ヒヒッ!」
「それでトリップしすぎて量を誤るなよ。それでこの間一人殺しただろ。『副作用がどの程度のものかを~』とかを理由にしていたが、今回は絶対にするな」
「了解ですぅヒヒヒヒヒヒッ!」
「本当に分かってるのか?」
扉越しに横切っていった会話を耳にしたローガンは、隠れていた地下への階段から出て遠ざかって行った足音の追跡を、サーマルに切り替えたゴーグルを装着して開始した。
グローザがいる場所の特定が省けたとかも思い、ローガンは未だに続いている英会話の内容に胸糞悪くなりながらも追って行くが、音を頼りに目の前を歩いているだろう二人以外の怨霊の兵士は見かけなかった。なので物音を抑えることと見失わないことに専念できたのだが、敵にしている怨霊部隊の隊員というのは数としてそんなに多くないと考えられはする。だが回収地点にての襲撃の人数も考慮すると少なくもない。
ヘリが着陸する場所を中心にした扇状に展開したこちらの対応するのに、ダミーがいる人形には二人以上のグループで応戦していた。人間であるローガンにも容赦なく二人以上の怨霊が相手取ってきたあの場での戦闘は、互角の戦いとは決して言えない。C4を地雷のように埋めるなりして罠を事前に仕掛けていたとはいえ、それでなんとか撤退までの時間を稼げただけであるのは忘れてはならないだろう。
決して自分が楽観しないように戒めながらも追跡していると、次第に日当たりが悪い方へとローガンは向かって行くのに気付いた。それだけでなくアルファと傭兵たちによる戦闘による痕も多くなってきており、壁には血痕が残っていたりと凄惨な光景が嫌でも目に入ってくる。
ローガンでも土に残されている足跡が古いかそうでないかの判別はできるように、飛び散っている血もできる。なのでブーツの裏で踏み躙ることになっているそれが新しいのであることがすぐに分かった。
(まさか……!)
会話の声がT字路を曲がった先から聞こえてくる。ゴーグルを外して細心の注意を払いながら覗き込むと、目を思わず背けて再度隠れてしまった。そこにある光景はあまりにも惨たらしく、視覚的に刺激が強すぎて一般兵や戦術人形にも見せるのに了承を事前にもらわなければならない程のものだったからだ。
荒くなった息を整えたローガンは覚悟を決めると身を乗り出して歩を進めた。アスファルトと同じ色の壁や地面に留まらず、天井にまで飛んでいる血痕が濡らしているのは一部だけという範疇に留まらない。
もう元の色が全く見えない、そもそもここからの通路の色はこういう色だったのではないかと思ってしまうほどの染色。そして両側に転がっている死体の山。内臓が飛び出しているだけでなく四肢を切り取られたことによるものなのか、苦痛や恐怖で歪んだ表情に両目が見られない。瞼が閉じられているからではない。はっきりいってしまえば抉り取られてしまっているからだ。
「あららぁまーた新しい山ができてしまってますねぇ」
「せめてここらに防虫剤を巻くなりした方が良いな。ハエが集って臭くなってきたんじゃたまらん」
「それじゃあ手配しておきましょ。でもまあ死臭が鼻をつまんでいたらどうですぅ?」
「持ってるお前の道具を落としていいならそうするさ。でもそうすれば困るのはお前に限った話じゃないからできねえんだよ」
それらに構わずに楽しげな会話が聞こえてくる。日常的な惨状で見慣れているからか、気にしないといった感じに。
だがそこまでに気を回せず、水音を立てないように歩くローガンの脳が悲鳴を上げ始めた。ガリガリと引っ掻かれるような頭痛が起きると同時にフラッシュバックするのは過去に経験した、トラウマとなっている赤に関連した記憶が掘り起こされる。通っているここのように数々の血に濡れているそれらが浮かんでは消え、そしてまた別の記憶が浮かんでくる。瞬きをするのに目を閉じても同じだ、これといった変化がない。
一歩踏みしめる度に記憶の欠片が引き出しではなく両側の死体のように山になって埋まっていた所から飛び出してはローガンを苛んでくるのに抵抗していると、なにも両開きの自動ドアが開かれ、そこに向かって血溜まりが弾けていった。
(くそ……!)
この惨状を見たら誰でも出来るだけ早く目的を達成してここから遠のいた方がいいと考えるべきだろう。あまりにも刺激が強すぎて正気を保つのも時間が経つごとに難しくなってくる気もしてきた。足元に転がっている人の指や腸、眼球が陽が差さないこの場所の光源となっている電灯で照らされて血の色に染まりながらテラテラと光って存在を主張してくる。
侵食してくる狂気に塗りつぶされてしまわない様に気を強く保ちつつ、ローガンは閉じられた扉に聞き耳を立てた。
「さて、未だに眠っている客人を起こさないとだな」
「そうですねぇ、それじゃあこっちの『生贄』の方の処理をしてしまわないと……」
こっちの存在に気付いていない。それを確認したローガンは腹を決めて扉を叩いた。
ガンガンッ!と通路に鉄製の防火扉が叩かれたのと同じような金属音が響き渡った。現時点で他の敵が見えずともこの音が聞こえたらこちらに寄ってくることも考えられる。速攻で中を押さえて退却する、そのことを念頭にしながら『P226』とナイフを握りしめた。
「おい、まさかとは思うがカードを……」
一人が出てきた瞬間にローガンは左手のナイフをその怨霊の腹に突き刺してねじ切るようにして捻った。この男のものかそれとも自分のか判別がつかない苦悶の声を胸の方から漏れ出るのを無視し、片手で横向きに構えた『P226』を部屋の内側に向ける。この後の為か迷彩を解除していたのではっきりといるところが見えている。咄嗟に脇に下げていた取り回しの言いサブマシンガンを取ろうとしていたが、こちらの方が行動だけでなく銃のこともあって早い。
バスバスバスッ!とサプレッサーを付いたままでバラベラム弾を三発放つが、一発外れるだけなく命中した箇所は銃を持っていない方の肩と脇腹。
「ひゃ、はははははははははははははははははははははぁ!!」
「ちぃ!」
先手は取ったがそれだけで残る怨霊の命を絶って屈服させることはできなかった。狂気しかない笑い声で反撃に転じ、腰だめに構えたサブマシンガンの銃撃が来る。
ダララララララララララッ!と発射速度の数値が高い銃撃をローガンはナイフによる不意打ちで倒した怨霊を盾にして凌いだ。タタタタタタタタタタッ!と弾丸がその背中に当たったようだが弾は抜けていない。そして銃の発射速度が早いということは、その分弾切れになるのも早いという事でもある。すぐに横殴りに来ていた鉛の雨は止んだ。
「んの野郎が!」
用済みになった怨霊の体をその場で捨ててローガンは『P226』をホルスターに戻してナイフを利き手に持ち替えながら走った。マガジンを取り換えようとしていた怨霊がなにかを懐から取り出そうとしていたが、先手と同じく接近戦を持ちかけたこちらに分があった。跳んでからの荷重を全力でかけた回し蹴りでその怨霊の胴体を蹴って転倒させた。
靴裏にアーマーといった装備とは別の柔らかい感触がありはしたが、ローガンは仰向けになった怨霊の首に逆手に持ったナイフを突き立てた。
「地獄に墜ちてろサディストが……!」
ゴフッ……と吐血して飛び出したそれがローガンの頬に付着して汚してくる。もう刃が埋まっているというのに抵抗すべく体重をかけているこちらの両手に力を加えているものの、目のハイライトが失われたと同時に消え失せた。
もうその者が起き上がってこないことと、こちらの姿を明確に認識することなく絶命したであろう怨霊を確認し、ようやくここで知っている顔の者がいることに気付いた。
「グローザ……!」
椅子に座らせられ、両手両足を太い鎖と南京錠で拘束されているだけでなく胴体にまで同じく拘束具が取り付けられている彼女を見つける。反射的に駆け寄ってみると、こちらからの呼びかけに反応はしないが怪我はないようだった。
南京錠を見たローガンは鍵を探すために今しがた倒した怨霊達の荷物を漁る。そう時間もかからず、ナイフでとどめを刺した怨霊のポーチからそれらしい鍵束を見つけ、ローガンは戻りながら合致する鍵をジャラジャラと音を立てながら探した。
「……差し支えなければ、そのままこっちも助けてもらえたらありがたいんだが」
部屋に響いた男性の声で反射的にハンドガンを抜くと発信源と思もしき方へ銃口を向ける。ローガンの背後、座っているグローザの正面に彼女と同じく拘束されている男がいて、痣だらけではあるがその顔に見覚えがあった。
「……お前、『バーンズ』とかいう奴だな」
「へえ、やはりそこまで突き止めていたか」
「情報源、参考人として逮捕した奴から聞かせてもらったよ。腕が立つだけでなく随分と慕われていたようでもあったし覚えてもいたんだ」
「印象で記憶に残っていたのはお互いさまってことだな、へっ」
鼻で笑うその男、バーンズから照準を外したローガンはグローザにつけられている鎖の南京錠に会う鍵を『これでもない、それでもない』と片っ端から試していった。このタイプであれば用いられる鍵は大体同じもので統一されている物だよなと、半ば願いながら続けているとガチャリッと機構が外れて一つ目が地面に転がった。そのまま左脚の方に移って同じく差し込むと抵抗を感じることなくスムーズに同じく外れた。そしてこの鍵がそうかと思い、残ってる四つの開錠に取り掛かった。
「そっちが終わった後で良い。片腕だけでも外したらこっちで勝手にやるから。時間との勝負なのは、てめえの動きからなんとなくわかった」
「こんな状況下で敵があんなだ、外してやるのは吝かじゃないが……お前のを外すメリットを一つでも作ってくれよ。お前の言う通り速攻でやらないといけないが、ケチることを考えると外さなくてもいいんだしな」
「随分と意地の悪いことを言ってくれるじゃねえか……」
バーンズに言われた通り自分が口に出したことの性格の悪さをローガンも自覚しているが、そうでもしなければ自分の事に精一杯になってきている感情の天秤による結果を変えれそうになかった。グローザはまだなんとかなるにしても、ファーストコンタクトから逃亡犯と治安の追跡者としての関係であるこの男までも抱えきれる気はしない。
「そうだな……まず共同戦線でここから脱するのに協力できることだな。どっちにしてもてめえも手はあった方が良いだろ」
「……まあたしかにな」
「あんなカメレオン野郎どもに関してはオレ様も知らん。仲間が全員やられてこっちも手が足りないんだ、だからてめえとは手を貸したり借りての関係だ」
「それだけでも確約してくれるならそれだけでも十分だ、ちょっと待ってろ」
グローザを拘束していた鎖と拘束具を外し終えたので、ローガンはバーンズの右手を押さえる鎖を外し、その手に持っていた鍵束を手渡した。
そして彼が自分で自分を解放している間に、ローガンは周囲に置かれている物を確認してみるが、拷問用の器具だけでなく血だらけのペンチや鋸があったりして顔を顰める。だが一通り見て行ったが、グローザの装備はここに置かれていなかった。
「捕虜にした奴の武器は別の場所に置いてるのか?」
「ああ、オレ様のもそうだ。意図はわからんがあんな奴らのしていることだ、ロクなことじゃねえだろうな」
そちらの回収もしなければならないか、と考えたローガンはゲンナリとした。仕方ないことだとわかってはいるが、嫌なものはやはり嫌なものだ。だからといって手を抜いてしまえばI.O.Pの技術が向こうに渡ってしまいかわないいのだが。
ガリガリと頭を掻いたローガンが溜息をついた時だった。
「――――――ぁ」
「……ん、グローザ?」
目を閉じていたグローザが意識を取り戻したらしく、息を漏らして身震いしたように見えたのである。正面に回ったローガンが確認してみると、彼女はゆっくりと目を開き始めていた。
彼女の頬に掌を当ててみるとそれまで気付かなかった脂汗がローガンの手を濡らしたが、発汗による効果がありすぎているせいか、驚くほどグローザの体温は低く感じる。まるで、自分勝手に動く本物の人形のようで温度を感じなかった。
触れたローガンの手を白く細い手が震えながらもそっと掴み、焦点が定まっていない両目を自分に向けて唇が微かに動いて音を震わせた。
「お願い……ここから……もういや……」
「おい、どうしたんだよ」
「また……繰り返されるの……いやよ……もう戦いたくない……」
聞くことがないと思っていた弱音にローガンは度肝を抜かれるような感覚を覚えたが、グローザは今見ても熱にうなされているという表現が当てはまる様子。ロシア生まれの美人を想像させる顔には涙が溢れてきており、重力に引かれて頬へと流れてローガンの手をさらに濡らした。
予想していたのとは真逆の反応で思考が止まったが、ただではすまない状態なのは確かだ。ローガンは自由になったバーンズに尋ねた。
「奴らに何かされたようだが、お前にはわかるか?」
「ああ、そういえば……」
バーンズが何かを言い掛けた時だった。ローガンの左腕の端末がブザーと同じ警告音を発し始めたのである。
ブーッブーッ!という耳を
ローガンは肩や首でグローザの全身を担ぎ上げてバーンズに叫んだ。
「新手の敵だ、数はこっちより多いぞ!」
それを聞いたバーンズは目の色を変えると、転がっている銃をとり、取れるだけの装備を身に着け始めた。
ローガンは扉の付近までくると一旦しゃがんで『P226』をホルスターから抜く。そして短時間で準備を終えた共同戦線の相手が追い付き、投擲物のピンに指を掛けて目配せしてくるので頷いて顎で進む方向を指示した。
「……ハロウィンにしてはちょっとはえぇか?」
「どっちにしたってシャレじゃすまないさ。なにせトリックオアデス、本当に殺しに来てるんだからな。タチ悪いことこの上ないだろ」
「ちげぇねえ」
ピンが抜かれたフラググレネードが来たのとは違う方へと投じられ、指示した方向へと撃ちながら走り出すバーンズにローガンも続いた。担いでいるグローザがなにかを呟いているがそれに構っている暇はない。
なにせこうして戦っているのに精一杯なだけでなく、徐々に脳を埋め尽くそうとする狂気に打ち勝たなければならないのだから。
低体温症が常設イベントとなったのは私にとっても良いことなんですが、最高レアリティのショットガンの方々の確率がえげつなさすぎて涙出そうです。なんでやねん、なんでサト8さん来てくれないんですか、ピックアップって嘘ですやん。なけなしの資源がドンドン減っていってもう回せませんよ。コラボイベントもあるらしいのに、これじゃ出撃も危うくなってしまいますじゃんかぁあああああああああああああ!!
……とまあ、少々荒ぶりながら大型を時々回して枕を濡らしている今日この頃。マシンガンのあの子だけが来ず、他はみんな出てるという変に面白くなっている基地の指揮官をやっていますが、なんでだろうなぁ……。でもまあ、ネゲヴとかPKPの編成拡大でコアをあまり消費しなくて済んだしいいのかなぁ……。
そうぼやいていながら今回も書き進めていましたが、前回から登場しているキャラの台詞が地味に困っていたりしました。だってねぇ、今は多くは語れないんだけどねぇ……。わからないようにはしていますが、好きな部類に入っています。虐げられてしまう彼女の在り方を見て、救いがあって欲しいと思うのは悪いことではないでしょ?
にしてもグローザ関係の章でここまで長くなるとは思わなかったなぁ。話の構成を考えていたにしても、追加で盛り込んでいったらこんなに話数が重なるとは。……アイエェー。
では今回はこの辺で―――。
『海外のホラーゲームさながら』