誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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物によりますがサスペンススリラーの映画って面白いですね。


30.繋がる道筋と思惑 -Run, Don`t be killed-

ふわふわと水中で浮かんでいるのと同じ感覚だ。何度も錐揉み回転しているせいで上下がどちらなのかがわからない。冷たく肌を撫でるような水温は錯覚だろうが、それによって故郷(ロシア)を思い出した。

それでもわかることはただ一つ。ここは現実ではない、ということだけ。戦術人形は夢を見ないというのにおかしなものなのだが、そこまで頭が回らない。とにかく今はふわふわと流れに身を任せるだけ。

 

『グローザ……』

 

名前を呼ばれた。懐かしくはあるがとても愛おしいあの声で。聴覚センサーを優しく振るわせる、あの温かい音。呼ばれただけだというのに心はこんなにも跳ね、薪がくべられた暖炉のように感情の火は勢いを増す。製造されたばかりの頃の自分であれば、馬鹿で不必要な感情だと吐き捨てていただろう。だが、柔らかく包み込んでくれるあの両腕による抱擁をされたらそう思えなくなるだろう。誓約の証をもらったことで帰るべき場所があそことなってはもう我慢がきかなくなったものだ。なにせ唇同士の気持ちの伝え合うことを知るだけではなく共有までも知れたから。

恋情が実ったことで幸福と愛が生まれ、それらがまた新たな自分の力となったことを今でも……いや、メンタルモデルがなくなるその日まで忘れることはないだろう。

 

『グローザ』

 

また声が聞こえるので発信源の方を見る。口元が緩んでいるのを自覚してはいるが止められない。

振り返った先に自分の視覚に映るのは残っている記憶から薄れることが決してないあの人の姿。赤いロングコートのグリフィンの制服をわざとと思えるぐらい少しだけ着崩しているだけに留まらず、髭の剃り残しも目につく。だけどそのブルーの両目が自分を捉えて自分を呼んでいる。そして身だしなみが整っているとは言えなくとも優しく微笑んでくれている、それだけで嬉しくなった。

気付けば自分は親しみがあるだけでなく我が家と認識している極東ロシア支部の基地の中庭にいた。やや寒くはあるが日光が温かく照らしてくれる、あの場所にあの人と立っている。

 

「――――――」

『うん、おいでグローザ』

 

その人の名を呼ぶ。『指揮官』という役職ではなく、あの人の名前を。そして走る、愛しい人へと。まるで他人の目を気にしない子供のようだと言われても気にしない。ここは私とあの人しかいないのだから。

名をもう一度呼びながら駆ける。自分の声に喜びといった正の感情が溢れているのが少々恥ずかしい。それでもあの人は当たり前のこととして今まで受け止めてくれていた。だから何も気に病むことも何もない。

あともう少し、というところで人間でいう瞬きをした、してしまった。広げていた両手を空を抱き、自分は地面へと転倒する。

 

「――――――?」

 

名前を呼びながら身体を起こして目の前を見ようとすると誰かが覆い被さってきた。たまらず尻餅をついてしまう。

全体重をかけるようにして自分を倒してきたそれが何なのか見てみたら、あの人の、指揮官の遺体だった。背中には何発もの弾痕があり、そこから彼の血がとめどなく出続けていた。

気付けばどしゃぶりの雨が降っていた。

指揮官の肩越しに、眼前を見てみる。そこには雑魚の鉄血兵と薄ら笑いを浮かべる鉄血のハイエンドモデルたちがいて、戦術人形の私達が持つのと同じ銃を持っており、硝煙が漂っている銃口をこちらに向けていた。

なにがあったのか、それで全てがわかった。自分は衝動的に愛銃を持っている左手を持ち上げ、引き金を引いた。

 

「あぁ……あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

感情の奔流、警告やエラーが視覚に表示されるが知ったことではない。そんなのを出して目の前を塞ぐのであれば自分の、私の邪魔をするな。それだったら私と同じように撃ち続けろ、そうしなければ何も解決しない。

撃たれて風穴を空けられた鉄血兵は次々と倒れていくが、ボスのハイエンドモデルは跳躍し私の銃撃を回避した。鮮やかに跳び回るのに私も狙いを定め直して撃つが間に合っていない。上下左右、物陰などに転がっている憎き敵に当たらないことに私自身に腹を立ったその頃に、装填している弾倉の中身が無くなって引き金を何度引いてもガチガチと鳴るだけでさっきまでと同じように反動を生まない。

弾切れ、という単語がようやくAIに浮かんだ時には標的は雨の中に消えていた。笑い声だけでなく見下しているあの視線を私に残して。

 

「指揮官……――――――……!」

 

愛銃を捨て、私は愛しい人の名を口にしながら容態を見ようとした。彼の腕は自分を抱き締めているままだったのでまだ息はある。だが防弾コートを貫通し何発も受けているので楽観することはできない。

――――――逝かないで……私を一人にしないで……――――――

そう言って彼を一旦振りほどこうとした途端、力の入れ方が変わった。口づけを何度も交わした唇が耳元にきて微かに声を届けてきた。決して望まない、望まない形で。

 

『いきて……生きてくれ、グローザ……オレの愛しい女性(ひと)……』

 

その言葉がAIに入ってきた瞬間に僅かに残っていた力が失われて重みが増した。彼の腕は下がって顎は肩に乗る。

それだけでもうわかってしまった。私が愛した人がもうこの世からいなくなったことが。ここに配属されてから数年、寝食を密接的に共にするようになってからも四季が何度も繰り返されたというのに。

それなのに私はこの人を守れなかった。何という無様、愚鈍、無力な人形だろうか私は。I.O.Pが開発したエリートという肩書きなんてあるが、そんなのはやはり意味を成さない。結局は上等な結果を得るだけの材料をもらっただけであって、あとは自分でどうにかしなければならないというのに。何故それをわかっているフリをしてしていたのだろう、どうして今になって痛感している。失ってしまって初めて気付く、という言葉だけでは収まらないことになってしまったではないか。

 

「ごめん、なさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

謝罪をしていても当人に届かないのだから何の意味もないことぐらいはわかっているだろうに。涙を流したところで、雨が洗い流してしまうのだから。

……ああ、そうか。『雷雨』のこの日を何度も見ているのだ私は。恋人を失うだけでなく戦友であった彼女達も全員失ったこの日を。

私が戦えば隣に立つ誰かがいなくなる。人形も人間も誰もかもが全員。何度も、何度も何度も何度も……。

もう嫌だ、戦場にいるのが。多少形が違うだけの悲劇が繰り返されるここにいるのが。ここまで身も心も削らなければならないのが戦術人形だというのなら、もういい、もう戦いたくない。

 

――――――誰か、誰か助けて……助けてよ……――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<16:57>

 

 

「畜生が、次に進むのはどっちだ!?」

「左だ、その先に注意書きの扉があるからそこに突っ込め!」

 

背後からくる銃撃に対し時折応戦しては踵を返して走り続ける。基本的に前方は自分よりも荒々しいと思える男のバーンズに任せ、自分は牽制をする程度に背後を撃って可能であれば一人ぐらい、怨霊たちをあの世へ送り返した。

潜入して一人で来た道を戻る形で走っている現状では落ち着くも何もクソもない。前から来たり後ろからは追ってきたりで脳の処理が回り切れていない。

 

「クソが、目の前から四人のお客さんだ!フラッシュを使わせてもらうぞ!」

「フラグも一緒に放り投げてしまえ!出し惜しみをして命が拾わせてもらえる奴等じゃないんだしな!」

 

ベルトに括り付けていた殺傷型の手榴弾と非殺傷の閃光手榴弾が一つずつ取られ、通路の曲がり角の向こうへと投じられる。先に投げられたのは後者のフラッシュバンで、金属が破裂したような音の後に一秒も違わず爆音が轟く。

ドォンッ!!とダムの通路を揺らし、爆発が曲がり角のこちらを横切る。それと同時に火災報知機が働き、けたたましいベルを鳴らしながらスプリンクラーからの放水が始まった。

バーンズが前方の確認をしていると追手がまたこちらを撃つべく半身を乗り出したので、ローガンはしゃがみながら『P226』で発砲する。現状では意味を成さないサプレッサーが付いたままだがそこまで気にする必要性あんど全くない。

放たれた弾丸が放水されてシルエットがはっきりしている怨霊の肩だけでなく脇腹を穿ち、鮮血をまき散らせる。一瞬動きが止まったのを見逃さずに追い討ちをかけて追加で引き金を引いて一人を死なせた。

 

「長く持たないぞ、前はどうなんだ!」

「クリアだ、つうかこっちは弾がもうない!」

「なら交代でグローザを頼む。俺が前に立って応戦する!それとその銃は捨てておけよ!」

「なんでだよ、まだ使う場面は―――!」

「あとで説明するから言う通りにしろ!!」

 

ぐったりとしていて動かないグローザをバーンズに任せ、ローガンは『P226』をリロードしておく。そして文句を言いつつも敵兵から鹵獲した銃を捨てた彼に渡してから前方を確認しつつ、背負っていた『レミントンM700』に持ち替えた。

バーンズの言う通り敵影が見当たらないので飛び出し、地下への階段と仕切っている扉を蹴破る。バァン!と開いた扉付近にも敵対している対象はいないのでそのまま下へと向かう。横幅にそこまで余裕がない、狭い階段なのでライフルの銃口を前にしながら腰の高さに、そしていつでも撃てるように引き金には指を掛けておいた。安全を確保すべく先行して銃剣突撃の姿勢で駆け下り、爆弾が複数仕掛けてあった地下へと到達する。

そこでは予想していた敵兵の待ち伏せなどはなく、人影が一つもない。だが光学迷彩で待ち伏せしていることも考えれたので、返されたゴーグルのサーマルで必要な範囲でクリアリングを開始。物陰や自身の身長よりも高さがある物の上などを確認した。

バーンズが追い付いてきた頃には進行ルートの安全は確保。あとから続いてくるかもしれない怨霊への時間稼ぎとして階段の方にフラッシュバン、そしてバーンズがしたようにグレネードを放り投げた。ただし、塞ぐために二個以上を連続で、である。階段付近には敵が設置した爆薬がないので、よっぽどの暴投をやらかさない限りは大丈夫だ。

ドドドォン!!と緩い曲線を描いた手榴弾が爆発すると、うっすらと見えていた階段が瓦礫で見えなくなる。人が通れるようにするのだとしたら少々時間が必要で、その頃には自分達はここからとんずらしているだろう。

 

「……よくもまあ、ここまで頭が回るもんだなてめえ。あいつらみたいに楽しんでやっているわけじゃないだろうな」

「奴らにも聞かれたけどんなわけないだろって話だ。生きて帰るのに必死なのに、そこまで余裕があってたまるかってんだファッキン」

 

大きく深呼吸して酸素を肺に取り込んだローガンがそう悪態をつくと、それもそうだとバーンズは笑った。

一息つきたいところではあるのだが、今自分達がいるのは敵地であって安全が確保されたわけではない。というよりも、周りが爆弾を仕掛けらている地点なので安らげはしないだろう。

放たれた銃弾が掠めたことにより頬から出血しているのに今更気づくが応急処置する時間があまりないどころかこの程度では億劫でしかない。手の甲で拭うと数十分前に通った道を辿った。

 

「それで、さっき言ってたことの理由ってどういう事なんだよ」

 

バーンズは本来であれば敵対関係にいる男なので少々迷ったが、それだけでクヨクヨしていれば死に繋がる。なので正直にローガンは包み隠さずに話した。

 

「ここまでの裏道を教えてくれた信用できる奴から聞いた話だ。ロシア政府のロクでなしは戦術人形よろしく、新技術を人為的に外部組織の兵士に施しているんだと。それで自分達の銃の位置を遠くから知れるだろうから、こっちが使う為に鹵獲しても敵をおびき寄せる餌を掴まされるってことだよ」

「そういうことかよ……。それじゃ、今のところそれぐらいしかてめえはわかっていないのか?外部組織の名前とか構成も含めて色々と」

「ああ。それに奴ら自身にまだわからないこともあるから油断ならない。最悪を想定して対処しろ、というのは簡単だけど線引きができねえよ」

「銃が思ったように使わせてもらえない縛りがあるに加えて、奴ら全員が血を見るのが大好きな残忍と来たものだからタチ悪いな。援軍はないのか?」

「悪いけどこっちからも連絡が付けられないから助けを呼ぼうにもできない。だから……」

 

言葉を続けようとしたその時、近くの手摺に火花が突然散って延長線上にある壁を穿った。すぐに首を竦めてローガンは応戦する体勢に入ると射線を推測しそちらに視線を向ける。何もないように見えるが、ゴーグルを迷いなくつけてみるとそこにはマントを被っている兵士が見えるようになる。

 

「クソ野郎どもが来たぞ、視認できた敵数は……八!」

「あっちは俺が通ってきた道だぞ!」

「先回りされて退路なし、最高だなおい!!」

 

虫みたいにワラワラと出てくる怨霊にローガンも応戦する。『レミントンM700』のスコープを覗いて別の物陰に移動している敵兵に照準を定めて発砲。ドンッ!と久しぶりの狙撃銃(スナイパーライフル)の反動が右肩に響くだけでなく腹にも木霊す低い銃声が発すると、銃弾は標的の足元を抉った。

舌打ちしながらボルトアクションで不要になった弾を排出し、ゆっくりと狙えないがスナイパースコープを調整し再度狙いを定めようとしたが近くに銃弾が飛んできたので身を屈めた。

 

「完全に数で押されてしまってる!このままじゃ時間の問題だぞ!」

「ならこっちで攪乱する!てめえはそのまま狙撃を続けろ!予備のマガジンを寄越せ!」

「無駄撃ちするんじゃねえぞ!」

 

グローザを物陰に下ろして叫ぶバーンズに、ポーチからまだ使える『P226』のマガジンを三つ地面で滑らせるようにパス。彼が受け取るのを見てからローガンは場所を変更し上体を低くしながら左方に移動した。

こちらに距離を詰めるには連絡橋になっている橋を利用しなければならないので、特別な道具を使われたりしない限りは他から回り込まれることはないだろう。すなわち奇策による不意打ちがなく全滅させれればいい。

しかし忘れてはならない。頭数に限らず単純な火力による戦闘では間違いなくこちらが不利であり、弾薬もほとんどないといえる。それらの事を忘れていたのでは未来はない。

 

「橋に盾を展開した野郎どもが二人行ってるぞ!」

「そこで釘付けにしろ、こっちで片付ける!」

 

比較的見晴らしのいいポイントを発見し、ローガンは手摺にバレルを乗せて射撃体勢を安定させて連絡橋がある方へと視線と銃を向ける。標的との距離が最初と違う為、スコープのピントを合わせて息を大きく吸いこんで息を止める。呼吸によるブレを無くしてサイトの中心に怨霊を捉えて引き金を絞った。

第二射は命中し、ほぼほぼ狙った箇所とも言えるだろう。撃たれた怨霊は倒れて見えなくなり、二人目や他がこちらに気付く前にローガンは弾を排出しもう一発撃った。

 

「橋の奴らは倒したぞ!」

「奴らの装備を奪う、援護しろ!」

「少し時間をくれ、間をおいてから行けよ!」

 

ガガガカンッ!と再びこちらを狙った銃弾が付近に着弾したタイミングでローガンは発砲した分だけ弾を込めると狙撃地点を移動した、ように見せかける為にローガンは高いところにある複数の備品に近くの工業部品や道具を投げて音を立てさせた。少しタイミングを置いてから同じところ、匍匐姿勢で手摺に取りつけている鉄板と骨組みの間から戦場を覗いて射撃体勢に移行した。

言われた通り待機していたバーンズは前方に牽制射撃をしながら走り出し、連絡橋に転がっている小銃を回収する為に向かう。そうしている彼に対岸の橋の根元付近で照準を定めている兵士が二人。息を吸い込んで止め、狙い通りに頭部を穿つ。だが連射することはできないので、血肉をまき散らした味方に動揺しないもう一人までの対処は間に合わない。

ロシア製のアサルトライフル、サプレッサーが標準装備である『As Val』の銃口から硝煙が舞うのがここからでも見えた。

 

「くそっ!」

 

幸いバーンズはすぐに身を隠してやり過ごしたが、場合によっては頭部を撃たれて戦闘不能になっていた。やはりメンタルが他の組織の兵士とは違う。すぐ傍で味方がやられてもお構いなしだ。

悪態をつきながらも弾を排出して次の標的を選ぼうとした時だった。目の前の手摺に銃弾ではないなにかが命中しそこでロックされた。

反射的に見てみれば、それは弾丸やグレネードといった直接的な殺傷力があるものではなく、用途は別にあるもの。以前同類の装備を使いはしたが、それよりもずっとしっかりしている代物であることをローガンはこのあと思い知らされた。

ギュルルルルルルルルルルルル!とワイヤーやロープが巻き取られるような音が聞こえたと思った瞬間、目の前に二人の怨霊兵が現れたのである。

 

「フックショットか……!」

 

サーマルで映された彼らが片手に持っているものを見て驚きながらも、ローガンは不意打ちを何とか対処した。ナイフによる刺突を銃で受け流し、ストックを怨霊兵の顔面にぶつける。鈍い音がして仰け反った味方をカバーすべくもう一人が逆手に持ったナイフを薙いできたのは『レミントンM700』をその場に落とすかわりに防いだ。

ゴッ!とローガンも防御に徹しずに大振りの怨霊の脇腹に右拳を叩きこみ、左手でナイフを抜いて同じ箇所を横薙ぎで切り裂く。深々と肉を抉って敵の血が半円状に広がって足元が覚束なくなった敵に追い打ちで蹴りをかまそうとした途端、最初に刺突を繰り出した怨霊が復帰し組み倒してきた。全体重を使った突進に耐えきれず、ローガンは背中を地面に付けてしまう。痛みに呻く暇もなく、怨霊が拳を振り上げてこちらの顔を殴ってきた。

数発殴られたが、ローガンは野放しになっている右足で怨霊の背中を蹴って前のめりにさせると頭突きをお見舞いした。自分の腹の上で跨られていても相手が相手なだけに嬉しくもなんともないどころかむしろ腹が立つ相手に顎に正拳を打ち、倒れたその者から転がって起き上がるとサッカーボールを蹴るようにして地に伏している頭に容赦なく攻撃。ゴキャッと音と共に、首が捻じ曲がった怨霊は動かなくなった。

 

「あ”あ”……あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」

 

脇腹を抉られて手負いである怨霊がマスクの下から叫んで突っ込んでくる。血塗れの両手には大型のサバイバルナイフで、今倒した者やローガンの物よりも大きい。刃渡りによるリーチも言わずもがな、見余ればひとたまりもなく切られてしまうだろう。

ローガンは逆手から持ち直して繰り出される斬撃を何度かあしらった。ただ完璧とはいかず、二の腕や頬に切り傷ができてしまう。 だがそうしてでも見切った甲斐はあったものだった。しっかりと訓練されていてナイフのみならず体の動きも負傷しているとは思えないような体捌き。それでも誰にでも癖としているのはあり、日常のみならず戦闘でもそうだ。

刺突を繰り出してきた腕を躱してから右手で掴み、もう一本のナイフによる薙ぎ払いを自分のナイフで防御。そして鳩尾にこちらの膝蹴りを受けたことにより後ずさりする怨霊のホルスターからロシア製の拳銃を奪い、セーフティを解除し撃った。正確に狙ったわけではなかったが、肉弾戦になるほどの至近距離であればサイトを除く必要はない。タンタンッ!と銃声としては高い音と鉛玉で風穴を空けられた怨霊は絶命し倒れた。

休む暇がなかった接近戦で息が上がりはしたがまだ戦闘続行である。敵の拳銃を捨てると落としていた『レミントンM700』を拾い、見ていた戦場を俯瞰した。ローガンが二人の怨霊と戦っている間もバーンズは奮闘していたようで、足元にはローガンが倒した覚えがない死体が三人転がっている。彼と自分が倒した怨霊の数を合計してみても九人だが、こちらからでも見えている敵兵は三人いる。

 

「いい加減に嫌になってくるってんだよな……!」

 

ライフルで再び狙撃を開始ししようとしたその時、地響きがして天井から瓦礫が降ってきた。すぐにローガンはその場から離れて様子を窺った。

 

「マジかよ!?」

 

爆薬を使って通路の地面に穴を空けたらしく、覗く様に前屈みになっている怨霊が何人もいる。それだけでなくこちらに降りてこようとしているのが数名。

舌打ちしたローガンは狙撃の為に移動していた道をすぐに戻り、流れ弾が当たらない様に陰で置かれているグローザを担ぎ上げた。背中に魔の手が届く前に走って連絡橋へと走る。幸か不幸か、開けられた穴から撃たれてはいない。ただラぺリングを終えている怨霊がこちらに撃ち出そうとしているのが見えた。

そこからは振り返らずに走って階段を下り、戦っているバーンズに追い付いた。

 

「逃げ場なしの八方塞がりまであと一歩だ、速攻で行けるか!?」

「タイミングを測ってくれたらいつでもいいぞ!」

「よし、三秒後にフラッシュ行くぞ!」

 

貸していた『P226』が返されたので、グローザを担いだまま手に慣れ親しんでいる拳銃を一旦置いてからベルトに下げていたフラッシュバンをピン抜いた状態で片手に持つと投擲。そして投げた先の方で閃光が迸ったタイミングで二人して飛び出す。バーンズが先行し、ローガンは援護である。閃光がゴーグルを通したらしく、怨霊達が目元を押さえているのが見えたがバーンズが亡きものへとしていく。フラッシュの影響を受けている者達に銃弾をくれている彼を狙おうとしている一人を撃ってローガンは敵がいなくなった地下通路を目指した。前後が入れ替わり、バーンズが援護する為に後ろに付く。

 

「追手が来たぞ。オレ様達を逃がさないのに必死というよりも狩りの獲物を逃がさないというのを楽しんでいる、そんな表現が似合う様子だぞ!」

「勘弁しろってんだ、こっちはもうクタクタだってんのに!」

 

文句を言いながらも走るが、体勢が整ったらしく銃弾が近くに着弾し始める。それでも走っていると閉じかかっていた扉が勢いよく開かれた。

 

「くそっ――――――ってお前なんでここに!?」

「詳しく説明しているだけの時間はありません。急いでこちらに!」

 

ローガンは先回りできていた怨霊が来たとばかりに思って『P226』を構えたが、扉を開け放った相手は見知っているどころか毎日のように顔を合わせている人物であった。

言う事に従いローガンはそのまま走って通路の方へと避難すると、もう一人の顔がこちらを迎え入れた。

 

「ローガン、怪我を……!」

「そこまでデカくないから俺の事は良い。それよりもそこにいる奴は一応共闘関係だ、こっちに誘導してくれM4!」

「了解です!」

 

バーンズに呼び掛ける一人の戦術人形、AR小隊のM4が援護射撃も始める。彼もグリフィンの人形が来ていることによるせいか、一瞬目を見開いたが了解の意を示してこちらに駆けてくる。

少し安心してしまったことにより、気力で持たせていた身体の力が抜けてしまい担いだままにしているグローザを落としそうになったが、同じくAR小隊のメンバーであるAR15が物理的に支えてくれた。

 

「ちょっと、大丈夫なの……!?」

「わりぃ……ちと疲れちまった」

「ここを抜けれたら休める筈よ、頑張って」

 

仲間からの励ましを受けたのでもう一息ということでローガンは気合を入れ直すと、バーンズがこちらに到達しM4は扉を閉めた。それを合図に皆で逆側へ走り出し、AR15とM4は簡易設置型の地雷をその場で投げ捨てるようにしながら定期的に置いて行った。

 

「動けなくなるほどの怪我がなく無事で何よりです、ローガンさん」

「助けに来てくれてマジで助かった、礼を言うよ。とにかくお互いに説明し合う必要があるし、セーフポイントをどこかで見つけよう」

「大丈夫です、予めそういうポイントを見つけてROに維持をお願いしています。それで……」

 

M4は銃を捨てて右方で走るバーンズを見てやり、こちらに視線を戻して問いかけてきた。AR15も口には出さずともその目で同じ疑問を持っているのを察せた。

 

「彼は信用できるのですか?随分と戦い慣れているので後ろから首を掻かれるのが容易に考えられるのですが……」

「気持ちはわからなくはないが、助け出す際に借りを作らせたんだ。ああいう性格の奴はそう易々と裏切ってこない」

「随分とはっきりと言い切っているけど、その自信は何処から来ているのよ」

「……俺の経験と勘」

 

鳩が豆鉄砲を食らったようになったM4とやれやれと困ったように額に手を当てつつも口元は緩んでいるAR15を見てローガンは笑った。昨日もこうして彼女達と会話していたというのに随分と久しぶりに感じる、と郷愁に似た感覚を覚えながら。

そうしていると背後から爆発音が響いてきた。ドォン……!という爆音でもう一度脳のスイッチを入れ直し、振り返らずに彼女達と走る。

 

「一旦ここから離れたらROの元に向かいましょう。そこでローガンさんの本来の装備も置いています」

 

狂気の巣窟と化したあの場から少しだけでも離れられる、それだけでも気は休まるよとローガンは口に出さずとも二人に感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<17:42>

 

 

二人の先導に従って辿り着いた場所はコンクリートで造られた山小屋のような建物だった。乾いた土のほぼ同色の枯葉を踏みしめながら辿り着くと、M4の言っていた通りでROが確保して状態で待機していた。

ROから手当てを受けている間も疲労が押し寄せてはしたが、情報共有などすべきことがあったのでまだ完全に体を休めるのはお預けである。

 

「……とりあえず、ここまでが俺が得られた情報だ。無いとは思うが小さい子には絶対刺激が強すぎて見せられないがな」

戦術人形(わたしたち)にもアウトな人はいるでしょうね。悪影響で我を失う人形もたまにいますから……」

「あれじゃさすがにスプラッタームービーが好きな奴をあそこに放り込んでやろうという冗談もかませねえよ……」

 

ローガンも含めて、情報共有に集ったのは五人。一通り話したこちらに同情の眼差しをM4を向けてきたので笑い飛ばしてやろうとも思ったが、乾いた笑い声しか発することが出来なかった。鉄錆のような嗅覚で得られる情報よりも視覚によるもののショックが大きかったので覚えていないように、腰を下ろした現状のように落ち着いた状態になってもプラス思考にまで持っていけていない。それどころか一周周ってしまい何とも思わなくなってきてもいるので、常人としての感性を失わない様に願ったローガンである。

 

「そういえばあまり覚えていないんだが、そっちは俺とグローザがいなくなってからどうだったんだよ」

「置き土産でフラグが放られそうになったけど、背中のジェットパックを撃ったらバランスを損なって落ちて行ったのよ。それでお終い、ていうわけにもいかないし私達であなたを助けに来たつもりだったんだけど余計なお世話だった?」

「いや、全然。繰り返すことにはなるけど本当に助かったよ。だけど補給をしないどころかダミーを連れずにって、無謀の一言でしかないと思うんだが俺だけか?」

「一人でグローザを助けに言ったあなたに言われたくないわよ。なに?自分の命は勘定に入ってるとか言わないわよね。そんな口だけの言い訳を聞きたくないわよこのおバカ」

 

隣に座っているAR15からありがたい台詞と一緒に脇腹に拳を受けたことにより声を漏らす。衝撃こそあれど力加減は痛くない程度に抑えてくれていたが、それとは反対に言葉による見えない暴力は容赦なかった。

 

「いやだってよ、あそこで戻ってもこっちを見つけ出してくれるってなことはなかっただろ。保身第一に行動していたわけだから周囲には最大限で気を配ってたんだし、こうして合流出来たんだからオールオーケー……」

「結果論で語るんじゃないわよ、バカローガン!一歩間違えるだけでなく巡り合わせが少しでも違っていれば死んでたのかもしれないのよ。さっきだって私達が助けに入らなかったら危うかったのに保身第一!?ああもう頭に来た!頭のネジが足りないローガンはこうしないとダメかしら!?」

「あだだだだだだだだだだだだ!?いつしかやったことがあるこの体罰を俺が受けるとは思わなんだっていうかマジで痛い痛い痛いAR15さん俺の頭皮が死んじゃいますこのままじゃ白髪どころか髪が生えてこなくなりますからぁあああああああああああああ!!」

「バカにつける薬はないっていうけどあんたに有効なものは絶対ないわ!差異はあってもそこまで考えれない筈もないわよねローガンの事だから!だったら確信犯、考えが至らないないよりよっぽどタチが悪いことはわかっている筈でしょこのオタンコナス!!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!とスクリュー並みに回転しているAR15の拳がローガンの側頭部を両側から痛めつける。逃れようと体全体を駆使するが、ローガンの握力と腕力では彼女の腕をどかすことは敵わず、それどころか万力を思わせる圧力も加わっているので前後に体を動かしても意味を成さない。結局は両足をじたばたさせることしかできずにいた。

 

「言ってる事はごもっとも我ながらそう思いますけど許してくださいだってグローザ一人だけが敵地に残されたんじゃどうなるかわかったものじゃありませんしロクな扱いをされてないと思ったんですものぉ!!」

「うっさいもう喋るな!ここまでの短い期間で成果を出してくれてはいるけど命を何度拾えたかわかっていないわよねあんた!一緒に行動している味方がいないならこれ幸いとホイホイと敵陣に向かっているんじゃいつか死ぬわよ!私と会う前にもこういうことを繰り返していたんでしょそうよね!?」

「ひぃいいい勘が良すぎて首を縦にしか振れない振れないけど矯正中ですから勘弁してください今後はないようにしますからぁああああああああああああああああ!!」

「だからそういうのはないと言い切りなさいって前から言ってるじゃない!有言実行以前にこっちの身にもなりなさいって話を理解しなさいこのニワトリ頭が!!」

「もう落ち着いてAR15。ローガンさんも無茶が過ぎたけどこう言ってるじゃない、今回はこれっきりにしてこっちも痛くなってくるから」

「これでもまだ足りないほうよ絶対に。この分からず屋はまたやらかすんだからここできつく教え込んでおかないと……」

「……前々から思っていたけどお前は俺のオカンかよ。SOPIIに理性養えとか言っておいて自分は棚上げするといだだだだだだだだだだだだ!!」

 

口は災いのなんとやらを学ばないローガンの為にというわけではなく、話を進ませようと静止を促したM4の行動も虚しく暴力(しつけ)が再開される。これまで見たことがない戦術人形の新たな一面を目の当たりにしているせいかバーンズは目を丸くしている。ROは意識がはっきりしていないグローザの容態を集中して調べている、と思っていたのだが彼女もチームメイトが滅多に見れない変貌に顔が引き攣っている。

ようやく気がすんだのかグリグリ万力地獄から解放され、摩擦の影響もあって普段よりも熱を持つ側頭部を押さえて悶絶する。自然に冷却されるのを待つローガンをAR15はそっぽ向いて明後日の方を見るが、そんな彼女の心境を親友は理解しているみたいである。

 

「気持ちはわかるけど、もうちょっと労ってあげたら?たしかに無茶が過ぎてはいたけどグローザを助け出しはしたんだから。本当は無事でAR15も嬉しいんでしょ?」

「そんな甘いことは言ってられないのM4。それに仲間が無事だったのを嬉しく思うのはおかしくないわよ」

「もう、素直になってよAR15。私だって……」

 

こちらに見向きもしなくなったAR15と苦笑いしているM4から離れ、ローガンは彼女達が持ってきてくれていた自分の本来の装備を確認する。『ハニーバジャー』はいつでも撃てるように良好な状態であり、黒や紺色による暗色で統一されている、ポケットやフックなどが所々にある防弾ベストや戦闘服も問題ない。そして変装によるカモフラージュで使っていたポーチやサイドバックとは別のも全て揃っている。そして何よりも紛失したくないとも思うそれらがあるのを見てから、ローガンは全身一通りの装いを戻した。

 

「やっぱり慣れてる服装とか武器が一番だよな……」

 

独り言でそう呟きながら汗のみならず返り血も染みついている借物を捨てる。体全体と慣れ親しんできている藍色の戦闘服に上衣と下衣両方とも着替え、黒の防弾ベストを装着。足音を消すことを前提にしている隠密に特化したブーツに履き替えたりと、細かい装備を一通りつけ終わる。ポーチや持ち物の中身も入れ替えたりもしている最中に、スカーフやスカルマスク、そして出動する直前に持ち出した腕章は取り出して装着した。マスクは口元につけずに首元にかけている状態だが、蒼の輪は左腕に通して固定する。そこに描いてある『シャドー隊』以外の一部のマークを見やってから、建物内の人目がないところから出た。

陰から出てきたローガンを最初に見たのはバーンズだったが、一瞥しただけでとくに何も言ってこなかった。それでもAR小隊の一員として話は聞いていたであろうROは微笑んだ。

 

「お似合いですよ。PMCの兵士といったら如何にも、といった感じです」

「比べられて一人だけ目立つような格好はしたくないが、そう言って貰えるのは嬉しいな。だからといって女物の服を着たいとは思わんが」

「そうでしょうね、ローガンさんならそう思っても仕方ありません。でもお洒落なのを日常生活で着たいとは思わないのですか?」

「よっぽどのことがないのであれば俺は必要最低限のものでいいよ。毎日着るわけじゃないんだし」

 

ローガンさんらしいですね、と苦笑したROが再びグローザの容態確認に戻ったので、邪魔をしないようにローガンは『ハニーバジャー』の横にグレイから借りている『レミントンM700』を置くと少し離れた所に腰を下ろした。と同時に、ローガンの腹の虫が主張を始めた。今になってから考えてみれば、輸送ヘリの中で軽食を朝食として食べただけでそれから食べ物を口にしていない。ちまちまと要所で水は飲んでいたが、胃が消化するものを入れていなかった。

なにかないかな、と思っても自分以外の誰かがそういった物をもっているとは考えにくい。グローザとバーンズは本来の装備は手元になく、AR小隊の三人の少女達もここまでの長丁場になるとは考えていなかっただろうから食料を持ち出していないだろう。唯一持っているのではと考えられるのは、鉄血に対しては容赦のない気性だけでなく子供のような感性なども併せ持つSOPIIぐらいだ。

ないものねだりをしていても仕方がない、我慢しよう。そう思っていたローガンの目の前に何かが差し出された。何かと思って視界のピントを合わせて見てみると、短時間で摂取できる栄養食として知られているスティックバーで、差出人を伝って見てみると目を逸らしてバツが悪そうにしているAR15だった。

 

「……くれるのか?」

「それ以外にどう見えるのよ」

 

押しつけるように眼前にまで寄せられたのでローガンは素直に礼を言いつつそれを受け取った。アルミホイルに似た外観の素材で包まれているクッキーを頬張っていると隣にAR15が座ってくる。特に深い意味もなく一瞥して視線を目の前に戻すとROの近くにM4が寄っていって話を聞いていた。二人から壁に体重を預けている人形の方を見て呟いた。

 

「戦術人形でもやっぱり戦いたくないって思うことはあるんだな……」

「どうしたの急に」

 

適当にはぐらかしてローガンは大きくスティックバーに齧り付き、拘束を解いた直後のグローザの弱々しく感じたあの相貌を思い出した。凛々しくはあっても棘がある、上司や人形達には柔らかくあっても自分や敵には雷雨のように厳しく当たる。とはいっても口だけで実力が伴っていないわけではなく、基地内での訓練で残した成績だけでなく実戦でも優秀といえる。突如の不意打ちで動けなくなった味方の救出に一役買っただけでなく、先陣切って前進しようとしたこちらに合わせてきた。他にも撤退では脚力で負ける自分の背後について援護してくれたのだ。

口で大きいことだけを語るだけでない、こうして肩を並べてみて実感したがM16に並ぶ実力者であることは間違いない。それがローガンの中であったグローザの印象である。

それに反して、あんな表情で嘘を並べたようには朦朧としている様子だったので思えない。気丈に振る舞う一人の人形としての本音じゃないだろうかと考えられる。

ではあのようになり、そして未だに汗を流しながら魘されている原因となったのは何か。それを探るのはROと交代したM4の役目だ。詳細はわからないが、言うまでもなく原因を作ったのはあの怨霊たちだ。

 

「……色々と考えている顔だな」

 

声のした方を見てみると、頭の後ろで両手を組んで足を組んで投げ出しているバーンズだった。彼はこちらの様子を笑ってたりして面白がっているわけでなく、眉間に皺を寄せている真剣な様相だった。

 

「なにを考えているかは知らねえが、あのお譲さんが追いつめるだけの材料はあったぞ」

「知ってるなら早く教えてくれ、もったいぶらなくていい」

「関係がない奴の苦痛に満ちた絶叫でも精神的に耐えがたいものがあるのはお前は知っているか?そいつの強さにもよるが、痛めつけられる奴の人数が一人二人どころじゃなく複数人だったら?」

 

ビクンッと心臓が跳ねた気がした。ローガンにとっても嫌な記憶としてこびりついている、目を逸らしたいそれがフラッシュバックする。自分ではない誰かを目の前で痛めつけること、見知っている相手でもそうでなくても精神に来るダメージは形容し難い。あの通路で転がっている物がそうなのだとしたら。

隣に座っているAR15はわなわなと震え始め、ROは顔を青ざめる。代表としてAR小隊の隊長であるM4が震える唇を何とか動かしてバーンズに確認を取った。

 

「それじゃあつまり、ローガンさんが見たのって……」

「てめえらが考えている通りだ。俺もそうされかけたが、お嬢さんの目の前でオレ様と同じ傭兵たちを嬲って殺したんだよ。グリフィンのあんたらが把握している情報を知る為にな」

「それで私達への攪乱という線は……ありませんね。そうすることで得られる利点がありませんし、あなたも傭兵側の人間でしたでしょうし」

「外部組織の人間の言うことをすぐに信用しないというのは結構。てめえらを騙したところで意味がねえ」

 

嫌な想像は的中。頭痛がしてくる頭を押さえつつ、ローガンは鼻を鳴らすバーンズに聞いた。

 

「死体の出処と経緯はわかったが、全部がそれに使われたのか?」

「いや、あそこにあった六割は奴らの娯楽だ。わざわざ快楽を得るのに捕虜にしているのだから余計タチが悪い。それらに辛抱強くお嬢さんは耐えていたようだが、オレ様が見た時には大分衰弱していたから相当ヤバかったんだろうな」

 

太腿を殴りつけたその勢いでローガンは立ち上がる。冷えた壁を殴りつけ、額を当てて加熱された自身の熱を取り払おうとするが何の意味を成さない、それにも腹が立ってくる。

あまりにも惨すぎる行いを目の前でやられる尋問。程度は違えど、目の間で四肢が切断されたりする様を何度も見せられては異常をきたすのも当然だ。ローガンにも似たような経験はあるが、そこまで仲間が痛めつけられていたわけではない。だが形は多少違っていても命を落とさせてしまった、それだけは一致していた。

気付けばAR15が近くで自分の肩に手を置いて落ち着けさせるにしてくれていた。気遣ってくれている彼女に礼を込めて目配せをすると、頷いてバーンズに聞いた。

 

「グリフィンから情報を聞き出そうとしているのはわかったけど、詳細はどういったこと?」

「そこまでオレ様にはわからねえよ。尋問が開始されようとしたタイミングでそこの野郎が突入して奴らを片付けたんだ。ただ、監視や尋問で移動させたりする奴らの会話で気になることを言っていた」

「気になること?」

 

向いていた壁から振り返ったローガンがバーンズを見ると、彼は自分を一直線に見つめていた。怪我に対し簡易的に処置されている顔にある口が開かれ、『それ』が空気を震わせて自分達の耳に入ってきた。

 

「てめえら、『オアシス』ってのを知ってるか?」




コラボイベントまであともう少し、となってきて人力を始めとした物資をそれぞれ後方支援でかき集めています。そしてちまちまと建造とかもしてコアも貯蔵してたりして一週間、まだ自動回復がしなくなる段階まで貯めれてないんですよねぇ……。いやそれだったら物資使ったことをするなよという話なんですが、やらずにはいられない衝動に駈られてついつい……。
まぁそれは置いておくとして、そろそろ~といった感じで物語の糸を束ねていくことになります。色々と散りばめていたので自分でもどれがどこにあったのかの欠片探しをしたりしています。今回ぐらいまでの展開は物覚えが良かったり勘の良い人であれば察しがついていたのではないでしょうか。だからといって次回から意表を突かれるような展開になっていくことは約束できませんが(汗
……う~ん、話すことがないな~と思いつつこうして後書きを書いていますけど、もう話のネタはないですねぇ。別に長く書けという決まりはありませんけど、どうにかこうにかもうちょっと続けれたらな~とか思いますけど、種が無いんじゃどうしようもないですなハハッ。
ではまあ、今回はこの辺で―――。
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