誰も助けてくれない -Can you hear me?- 作:麒麟犬
<17:51>
何気ない日常の一角に建っている建造物の裏路地にて、45を隊長として機能している404小隊の面子が集合しているだけでなく、数人の治安組織の隊員もいた。彼らはバックアップとしてここにおり、表道にも私服で変装している隊員達が待機している。
「……なあ、本当にあんたらだけで大丈夫なのか?」
簡易点検を終えた『UMP45』にマガジンを装填し、襲撃にあった場合にでもすぐに対応できるように準備を終える。そうしていた45に協力を申し出てきたカイルがそう彼女に尋ねた。
実はここに来るまでにも二度同じように45に聞いてきており、こう三度目になってはさすがに『またか』と感じずにはいられなくなってくる。それでも45はいつものような笑顔を作って猫撫で声でその問い掛けに答えた。
「何度でも言いますけど大丈夫ですよ。こういう荒事の対処は日常茶飯事ですから」
「それでも人手は多い方が良いだろ。相手は油断ならないどころか、殺人嗜好まで持ち合わせている奴だぞ。数で押し切るとは言わずとも……」
「……自分で言ってることに気付いてますか、カイルさん。それは犠牲を前提にしている考えなんですよ?」
笑顔を崩さずに首を傾げた状態で45はピッと立てた人差し指でカイルの鼻先を指す。上体を軽く仰け反らせた彼に45はさらに言葉を重ねる。
「
「言ってることとあんたらがこの道のプロだということは理解しているよ。それでも、確実にことを良い方に運べるとはやっぱり思えないんだ。この間の一件では結果的になんとかなったが、少なくとも負傷者が全く出ていないわけではない。それどころか
「チンピラを捕まえること、普段の仕事であればそうであったのに拳銃を本格的に使う事件に遭遇してなにもできなかった。こうした実力不足が目に見えてきた以上、どこかで挽回を測りたいと考えているのではないですか?」
「そんなわけ……!!」
感情による掴みかかる勢いをつけたカイルが45との距離をさらに詰めようとして来るが、彼女はそれを許さずに人差し指を鼻先を突き、一度突いたら放さずにそのまま後ずさりをさせた。その細い指先にはそれ程の力がないと思っていて仕方がないのだが、ほんの一瞬だけ彼女が戦術人形であることを忘れてしまっていたようでカイルはなずがままになった。それどころか足がつんのめって尻餅をついてしまう。
重力に引かれるがままに地面と衝突させることになった部分摩るカイルに手を貸さず、45は見下ろして言った。
「そう言って無茶をして死んだ人を何回も見てきたわ。献身的に力を尽くそうとしたけど実力が気持ちに付いてこずに帰らぬ人を。あなたはまさしくその例よ、カイル・ローズ。自分にできることとできないことの区別ができないほど、あなたの思考回路は若くないでしょ。それとも保護区の外とは比較的に安寧な生活に慣れ過ぎてその脳は腐っているの?」
無意識に顔に張り付けていた笑顔が取れていたのかもしれない。そして自分の声帯モジュールが働いて冷たい声音の台詞が飛び出てきた時に遠のきそうになっていた『404小隊のUMP45』が前面に出てきているのに気付く。
グリフィンの暗部に属する者達からの仕打ちを忘れていない以上、それを押し殺す必要はないとは自分でも思う。ただそれを知らない、目の前で唇をかみしめているカイルに対して厳しく当たるのは少々筋違いだ。なにせ彼とは同じ頃にこの世で生を受け、自分とは年齢がそう変わらないのだろうからだ。そんなまだ無垢でしかなかった彼に咎はなく、場合によっては同じ立場に立たされて使い潰されることだってあり得る。今の時代、まともな神経を持ち合わせて組織の上層部の椅子に座っている者などそうそういないのだから。
「……だけど、そう
45はこちらを見上げているカイルに手を差し出す。呆けた表情のまま手を取った彼に微笑みつつさらに言葉を重ねた。
「こういったことを言う性分でありませんから恥ずかしいですけど、忘れないでくださいねその思いを。それだけでは歩幅が狭い一歩ではありますが、その一歩こそが次に繋げることが出来る足掛かりになりますから」
それだけ言い残すと踵を返し、ダストボックスや建物に続く階段の手摺に寄りかかって待機していたチームの方に向かう。それぞれが今の会話を聞いていたのだから反応が違っており、興味ないと切り捨てていたわけではないようだった。ニコニコと微笑ましいものを見ているように笑っていたり、ニヤニヤと面白いものを見たとばかりに不敵絶え意味を浮かべていたり、意外な一面を垣間見たと少し驚いていたりと様々だ。
そう認識した途端、頬が熱くなるだけに留まらず気恥ずかしさを誤魔化すのに歩みも早くなった。
「へぇ~……これまでに冷徹な判断を下してきた隊長がクサい台詞を言うとはねぇ~。明日からの天気は土砂降りの雨なのかしら」
「どうかしらね。自分でも似合わないと思うことを言ったわけだし、雨どころか季節に先んじて雪が、吹雪になってもおかしくないんじゃないかしら」
「そうなったら責任を取って日本晴れを起こして頂戴。昔の低体温症作戦のようなことになるのはごめんよ?」
ひらひらと手を振って416からの本音と冗談が入り混じっていてよくわからない台詞を躱す。現在進行形で時間は惜しく、無駄にするわけにはいかない。
AR小隊が現地に到着して作戦部隊を救出したものの、奇襲に会ってローガンとグローザが攫われたという報告はこちらにも入っていた。そして彼らを救出すべく、隊長のM4とAR15、電子戦で45に並ぶ実力者のRO635が再度エリアに突入したというまでも聞いてはいるが、彼女達が助力に向かっても事態を好転させるのは厳しくハリケーンによる向かい風に逆らおうとしているのに他ならない。ならばこちらに当てられているタスクを終わらせて有益な情報を入手、そして彼らの助けに向かうべきであり、45自身もそれを望んでいた。
「余計なお喋りはもうやめましょう、時間も思ったよりかかってる。無線のステータスを各々でチェック」
45は無線機を起動するのに合わせて他の404の全員も肩や腰に取りつけている端末の電源を入れていく。点滅しているランプが徐々に落ち着きを取り戻すようにして速度が緩んでいき、45の無線機の状態は少々バッテリーが消耗しているだけの緑色を示した。
「グリーン」
「同じくグリーン」
「こっちも」
頷いた45は無線機を操作し、自分の小隊と指令部をリンクさせる。これでリアルタイムで誰からの報告や注意も受け取りやすくなる。
階段を上がって目標がいると考えられている建物へと入る裏口の白塗りの扉に近付いた。
「指令部、スオミ。こちら404小隊のUMP45、聞こえるかしら?」
『はい、聞こえています。報告をお願いします』
「そっちから受け取った情報を元に治安組織の部隊も含めて作戦の展開準備を完了。突入は私達404でやるけど、逃亡阻止を含めて彼らには囲んで待機してもらっているわ」
『了解しました、これから作戦の遂行許可を得ます。数十秒だけ時間をください』
それだけを聞いた45は9を見ると彼女も頷き、自分が正面に立っている扉の横側に付く。鍵がかかっているかどうかは416に予め確認してもらっており、許可が下りればいつでも突入できる。
突入による作戦であり、建物の中を見通せるだけのポジションが周囲にないので今回はG11による狙撃支援は見込めない。なので404全員が突入し、目標を押さえることになっている。
『404小隊の各員へ通達。突入許可が下りました、作戦行動を開始してください』
「了解よスオミ。404小隊、キックオフ。突入開始、全員発砲を許可する」
9がドアノブを捻って扉を開けたタイミングで45は先陣を切って突入した。先んじて停電させて中は暗い、なのでフラッシュライトを点けて見るところを照らす。最初に入ったところはマンションの裏側で人の気配はまるでない。
45はそのまま歩を進めると9や他のメンバーを入って見るべき箇所を各々でチェックしていった。そして今のところ分かれ道のない、一本道である廊下を進んでみると、意図的に置いているとは思わせない配置で段ボールが積まれており、その陰でワイヤーが引かれていた。他にないか注意しながら進んで見てみると、今では滅多に見ない形でトラップが仕掛けられている。
「非殺傷のトラップを仕掛けているけど、鳴子を仕掛けるあたりからしてやり方はアナログね。だけどでもコストの事までも考えているのなら効率的。中身を食べ終えて空になった缶を有効活用しているのだから」
「それで環境に気を使っているのなら百点満点。だけど侵入者を許さないのであれば容赦なくクレイモア地雷を仕掛けても良いと思うけど」
「サイレンサーベティとかいうのも開発されたというのは知らないの9?跳躍地雷のアレを進化させたはいいけど、敵の存在を音で知らせないことから実戦ではあまり意味を成さないということでお蔵入りになっているけど」
「あ~、アレなら今みたいに騒ぎをあまり起こしたくない市街戦で有効かもしれないね」
9と416の会話を聞きつつも45は後続などの為にスプレーでわかりやすくマーキングして注意を促すようにしておく。罠を解除するだけの時間と労力、今はそれすらも惜しいからだ。焦っているわけではないが、出来るだけ迅速に事を運ぶようにはしておきたい。
「スオミ、トラップがあることからここが
『わかりました。それと気を付けてください。その近辺での口コミになってたりしていますが、配達トラックがここ最近で頻繁に出入りしていたようです。誰も住んでたりすることがないというのに不思議がられていたそうです』
「そう。でも治安組織の人たちは取り調べとかしなかったの?」
『もちろんしたそうですよ。ですが運転手に話し掛けようとしてもさっさと逃げられたり煙に巻かれたりとロクに相手にすることが出来なかったようです。あくまで可能性の話ですが、複数人でそこに立て籠もっている場合も考慮できるので気を付けてください』
「了解」
ワイヤーを跨いでさらに前進する。45以外の面々も引っかからない様に注意しつつ後に続いていき、一階ラウンジに到達した。
一度ここで集合を掛けてそれぞれの顔が見えるように円になり指示を出す。
「ここから散開して捜索するわよ。416とG11はペアになってこのフロアを、私と9は先んじて二階に。なにか目立った物があったらすぐに無線で報告すること。それでオーケー?」
「当たり前のことを聞くようだけど、目標から奇襲された時は撃たない方が良い?それとも撃つんだとして、致命傷にならない脚とかを狙う形で」
「ここで得られる情報源なのだから生きて捕えるのが絶対条件よ。G11の銃じゃ閉所の行動はしにくいから、416と連携しつつ油断しない様に。いい?」
「……うん、わかった」
と、ここで45は一つ訝しんだ。いつものG11であれば45からの指示を受けると怯えて震えあがった末にしゃっくりを起こしてしまっているというのに、今の彼女は淡々と仕事をこなそうとする普通の戦術人形とあまり変わりがない。それに普段のように腑抜けた顔をしておらず、鉄血と直に交戦している時のように目が据わってもおり宿っている光の鋭さも違っていた。
45だけでなく、9や416も気付いたようで当の本人を見ると三人の視線の的になっている人形の少女はさすがにたじたじになった。
「……なに?」
「え~と……私の目の前にいるのG11よね。私の視覚モジュールとカメラがどうかしているのかしら」
「45姉、それなら私もおかしいみたい。でも変だな、今日一緒に昼食で食べたのはハムとレタスとチーズのスタンダートサンドイッチで余計なものはなかったと思うけど」
「今日の現場での証拠探しでは隅の方で座っていないで能動的に動いていたわ。もう既にやった検証を見直しては気付いたことがあったら口にしていたり、今までのことが嘘みたいだった」
G11を除くそれぞれが顔を見合わせて今日の任務中に見受けられたことを言い合い、再度彼女に視線を集中させる。すると彼女は一度溜息を吐くと銃に即席で取り付けた暗視装置を起動して言った。
「それはいいけどさ、早くここでの仕事を終わらせようよ。使える時間は有限だし」
肩越しに振り返ってG11は416を見る。別人になったようにしか思えない、その顔を崩さない様子からして何か大きな変化があっただろうかと考えに耽りそうになったが、45は9の肩を叩くと二階に上がっていった。
――――――
<同時刻>
話している最中にグローザが少し違った声色で呻いたような気がしたのでそちらに目を向けてみると、ようやく悪夢から覚めたように目をゆっくりと開いていた。すぐに近くにいるM4が身を乗り出して片膝をついて彼女と目線の高さを合わせる。
「ここは……どこなの……?」
「大丈夫ですよ、グローザさん。ここに敵はいませんから。各機能のチェックを改めてするのでちょっと言う通りにしてください」
ROがM4の手伝いをすべく駆け寄って専用のキットを取り出し始めるのを見ていると、バーンズがそれまでの話をする為か前屈みになった。隣にいるAR15は息を吐くと立ち上がり、自分の分身である『ST AR-15』を手に取って各部位の点検を始めた。それでも聞き耳は立てているようで、要所を外しては戻したりしている最中に視線だけはローガンに向けてきている。
私に気にせずに続けて、そう言われたような気がしたのでローガンは正面に目線を戻した。心臓はバクバクと鳴っており落ち着かない気分だが、ここを逃せば自分達が別でぶつかっている問題に関わる情報を逃すことになる。
それだけは絶対にあってはならない、と自分を奮い立たせた。
「砂漠に存在するとか言われている、直球な物の事を言ってるわけではないようだな」
「そうだ、地球温暖化で昔よりもさらに過酷になってるあんなところに誰も寄り付かない。それだから誰も見たことないとか言われていて伝説にもなりそうになっている、そんなものではない。で、どうなんだよ?」
「名前だけは知ってる。実際にどういったものかは全く知らないが」
腰を下ろして思い出すのはアッシュと名乗られた、まだ実際に姿を見ていない鉄血のハイエンドモデルからの音声データ。再生したのはまだ正式にグリフィンに加わる前に、データを添付した状態で届いた最初は自分だけで、AR15とは一番信用できる者としての二回だけだが。気に食わない、というのは他の鉄血兵として今も暗躍しているだろう他と同じなのだが、別で引っかかることがあった。人類とI.O.P製のとは別の人形という立ち位置で敵対しているのにも関わらず、わざわざ足取りを教えてきたことだ。それがあるので、ローガンはアッシュという鉄血兵を他と一纏めにできずにいる。
ローガンにとって『オアシス』という存在についての検討もつかずにいたが、なぜ怨霊たちはそれについて話していたのか。
「ちなみに、それを聞いた経緯はどうなんだよ、ただ書類を流し読みしてて目についた単語じゃないだろ?」
「ニードトゥノゥ、っていうのを知ってるか?軍隊で知るべき者だけが知るってことだけで無駄にベラベラ喋らない様にするってやつだ。そんなのをお前に話してどうするんだよ」
「別にいいじゃねえか。てめえもそこまで重んじているわけじゃないだろ、軍記とかなんだの。お互い生き残るのに必死になって泥水を啜っては腹を下すのが目に見えてるものまで口にしてきた身だろ」
「なんでそう言える?お前に俺の事を話したことなんてないだろ」
「体型に体にあった傷、そんでその目を見れば大体わかるさ。一つずつ教え込まれて鍛え上げられてた奴ならもう少し肉付きが良いが、てめえは少し細いからそうじゃねえ。根本的に必要なことだけを学んでは自己流で戦ってきた、そうだろ?」
ほとんど正解であったのでローガンは舌打ちする。たしかに十代半ばほどで教官に捕まって暗殺業から転身し、兵士というものは何かを叩きまれながら銃と馴染もうとする時期があった。その中で時折、こんなことを知っても今じゃ意味を成さない、と言って教本の要所を飛ばしていたところも存在している。まあそれで限られたことだけを教えられても、自分の頭に全て入っているとは言い切れないが。
渋々、という感じでローガンは口を開いた。
「とある奴からの音声データで、だ。まだ懐疑的でしかないから報告までしていないが、自分達を追うのであればそれを先に探せとかなんとか」
「……なるほど、そいつの組織も含めて知っているのは世界で大きく分けても片手で数えれる程度しかいないってことか」
「どういうことよ……?」
怪訝な顔になるAR15に一度目をやり、バーンズはナイフを取り出して床に円状の傷をつけた。そしてその中に手頃な大きさの石をいくつか置くと三分割するようにしてラインを引く。
「一から説明するぞ。知っての通り、そもそもオアシスというのは砂漠とかの乾燥地域にはあると違和感しかないと言われている緑地だ。それなのにそんな妙ちくりんな名前になったのは数十年の歴史に由来となってんだ。第三次世界大戦後に広がっていく戦争の傷跡が著しい地域を『砂漠』と例えて、好き勝手に持論を振り回す犯罪分子や鉄血の屑どもによる進軍を『砂漠化』てな感じにな。そうすれば存在が疑わしいオアシスはなににあたるかわかるか?」
「オアシスは砂漠の中にある潤い……となると今の時代では有益な物資かなにか?」
「そう推測するのが正しいな。裏世界による情報網によると、『オアシス』というものの大本は手で触れられるものではないらしい。名前によるカモフラージュか何かかは知らないが、ロシアの奴らが乗り込んでくるのはおかしく感じないか?」
「物資調達を目的にしているにしてはリスキーすぎておかしいし、わざわざアメリカに踏み込んでいる事実が明るみに出れば世界から白い目で見られることになるわね。ニュースじゃ各国は睨み合いをしているとかでピリピリしているのが目に見えて来てるし一触即発寸前よ。ロシアとしてもできればリスクを冒してでも他国に侵犯することは避けたい筈」
AR15の言う通りだ、とローガンも頷いた。
水面下の動きであって報道組織に知られていないが、AR小隊たちに降りかかった火の粉、他国の特殊部隊による侵犯はアメリカに留まらず世界中で起きている。マスコミは首を傾げながらも荒唐無稽な推測をしているが、各国政府では事実を知っているので身の内に武器を忍ばせながら圧を掛け合っているのが現状だ。そんな世界情勢でどこかの国が部下にナイフを持たせて他を突つくことが明るみになってしまえば後ろ指で指されることは必然といえる。誰だって指されながら罵倒されるのは御免である筈だ。
「だが人間型ASSTを開発したといわれているロシアの急進派がいる。ロシアの内情は知らないが、奴らが鉄血への対処以外にも目的としているのが今回の行いだとしたらまだ納得いくものがあるんじゃないか?」
「そうだ。内部分裂、保守派と急進派による食い違い。そんな中で自分達の主張を強化しようとして思いついたのが『オアシス』奪取だ。グリフィンはスペツナズとやり合ったってその筋から聞いたことあるんだがそれは本当か?」
バーンズがロシアの急進派を示す『R』を近くに刻む一方で、ローガンは隣にいるAR15を見ると、彼女は自分の小隊長から無言の了承をもらったらしく頷いた。
「目的を聞いても答えずに撃ってきたわ。終わった後で正直疑問は多く残ってたけど、彼らを動かしたのは急進派、目的としていたのは『オアシス』へと繋がる手掛かりってことになるのかしら。となるとあの詳細不明だったあのデータは……!」
「情報処理班はなにかしらかの数字の羅列からして座標だと言っていた。となると『オアシス』の在処を示す手掛かりの一つという事か」
連結して繋がっていく事実にローガンはAR15たちにも話した、正体不明の通話相手を思い出す。彼女は最後にメッセージで『『地図』と『座標』はもうあなた達の手の内にある』と残していた。その『座標』が今言ったそれなのだとしたら。だがそうなると『地図』に当てはまるのが何かが分からなくなるだけでなく、他に当てはまるになるのが思いつかない。
「それともう一つ、『オアシス』を作り出したのはI.O.Pみたいに技術を持つ人間じゃねえ。グリフィン上層部から散々な扱いを受けただけでなく撃たれた、ある戦術人形のAIを元にしたのを考え付いたのは、『兵士』や『技術者』とか関係なくオレ様たちとは違う存在だ」
「……いや、まさか!仮にそんなことをしたとして、そいつらの目論み通りにいくとは限らないだろ!」
「嫌なことではあるが事実だ。あのクズ野郎どもはこの手を使ってでも排斥しようとしてきてる。オレ様も知ったときはんなわけねえだろと思ったが考えていけばそれしか思い当たらねえんだよ。アメリカ政府自体にはそうした技術力に長けた人材はいねえことだしな」
怨霊との戦いのこの一件で協力者という立ち位置であるバーンズの言うことだ。なのでここまでの全てを信じ切っているわけではないが、そればかりには素直に飲み込むことが出来なかった。
「ローガン、一体どういうことなの?」
「馬鹿馬鹿しい想像だと思いたいが、『オアシス』を作り上げたのは俺達と対立している鉄血だということだよ……!」
AR15は絶句したが、ローガンも一つずつ外堀を埋めていくと渋々ながら頷くことしか選択肢が無くなってくる。コンピューターに対しての情報処理の能力は政府にあっても、人形や兵器に対しての技術力は無いに等しい。なにか必要なものがあればI.O.Pなど専門にしている企業に依頼するしかないぐらいに。
それにバーンズが知る由もないが、大戦による混沌に突き落とそうと暗躍しているのもある。コンピューターウィルスや虚実による情報戦ではなく、不確定要素がそれらよりも詰まっていると言っても過言ではない心理の弱点を突いた戦略。これまでにはなかったと言われている新たなそれを駆使しているのだから一概に捨て置けなかった。
「オレ様はその手の技術に明るいわけじゃねえが、人間の思いに変化に似せた感情モジュールってのはこうしてみると厄介なものだな。だけどその記憶と機能を持ったまま別の存在にさせたのなら、そいつに人類に対して燻る思いがあってもおかしくはねえ」
「……ロボット工学三原則をある程度までしか適用されていないからこそ抱く感情がある。普通の自律人形なら悪辣なことを考え付いた人間に対して怒りを感じても、私達戦術人形は自分や仲間に危害を加えるのが人間でも正当な訳があれば反撃が許される。怒りの先には憎悪、さらにその延長線にあるのは殺意でしかないわ。認めたくないしそうでないと願いたいけど、勝手にメンタルを構成して勝手に殺しにかかった人類を恨んでも仕方ないわね」
鉄血のような自律人形を敵にすれば厄介な存在だと、そう感じたのはいつだっただろうかとローガンは思い返そうとしたが、そもそもなかったのかもしれないと結論付ける。初めて隠れる以外で対処した幼少期、ナイフでやぶれかぶれになりながら捨て身で攻撃したものの命を拾ってしまい、それからは死に場所を求めるように繰り返した。そうしているうちに頭部にナイフを突き立てていた敵の動きを学習し、自然と効率的かつ確実な方法で狩っていくのを身に着けたのを今でも覚えている。人類に牙を剥く人形に対して面倒と、厄介といった表現を明確に認識せずに育ったのだから分からない。ただ一つ言えることは、冷たい笑みを浮かべながら世界の裏から陥れようとしている鉄血工造という存在にこれまで以上に腹立たしく感じていることだった。
「『オアシス』がどういったものか、それはわかったわ。でもそっちが気になると思ったことは一体何なの?」
「そこの坊主が言ってた『変なお友達』の話からして、奴らは急進派に雇われた外部組織だ。『地図』と『座標』が『オアシス』に辿り着くのに必要なものなんだろうが、それとは別で『オアシス』関係のものをグリフィンから回収しようとしているようだった。心当たりはあるか?」
「……いや、俺にはない。AR15、お前にはどうだ?」
「残念だけど私にはないわ、『オアシス』なんてのの詳細ははじめて聞いたし……『座標』と暗号パターンが同じものがあったけど……」
「あのUSBメモリーか。どう関連しているかはわからないが、分析結果を聞いてみた限りでもそう多くなかったな」
「でもあなたの端末に送られたメッセージには必要なものの二つはもう揃っているってニュアンスで送ってきてたわよ。それじゃ、あのUSBメモリーの中身が『地図』だとしたら?」
ロシアの急進派が持っていなくて自分にはあるもの、把握している限りで考えてみるとたしかにあのメモリーチップの中身だろう。AR15の言う通り、あれが『地図』である可能性はないわけではない。ただローガンからだと、少々違う気がしていた。仮にそうだとしても、偶然にも『オアシス』がある地点に辿り着いてしまったことを考えていない鉄血ではない筈だからだ。分析班からの報告でも推測だけであってはっきりとした結果を聞けたわけではなかったのだが、招かれざる客が入ってこれないようにする扉の『鍵』である可能性は捨て切れない。
ただこうして話してみて、怨霊達がなにを欲しているかの推測はできた。
「いずれにしても、ただこうしてここに居続けることはできない。お前達と合流出来たあそこにあった機器とダム、仕掛けられた爆薬からして交渉材料に使われるものとして考えた方が良い。今かそれとももうとっくの昔に持ちかけられているだろうな、もう奴らの手中に落ちているし」
ローガンが締めくくりに口にした台詞に頷いたのはAR小隊の面々。バーンズはこちらを静観しており、グローザはまだ状況の把握が追い付いていない。ただ一つずつ噛み砕きながらざっとでも追い付こうとはしているので、後で補足説明をすることにはしておくことにはした。
「俺としてはやれるだけのことはした方が良いとは思うけど、立場的にはM4が上なんだし指示してくれよ」
「お互いに『隊長』という役職なので私達に上下はありませんよ、ローガンさん。そちらからも戦術などに関して進言できることがあれば言ってください、是非今後の参考にしたいので」
「俺から参考にできることなんざ何もないと思うんだけどな……」
「無茶をしたということでああしたけど、なにも参考にならないとは言ってないでしょ。でもM4、ローガンの無茶癖の真似だけはやめて、私達の身が持たないから」
「グッサリと刺されるようなフォローをありがとよ、AR15。とても心に来て本当に目から涙がちょちょぎれるわもう」
「もうちょっとオブラートに包んであげたらAR15。これからが肝心な時なのにローガンさんのメンタルがズタズタになるわよ」
部下としてではなく仲間として接する姿勢を見せてくれるM4、誰よりも馴染んでいるからこその口調と態度で肘で突ついては毒を吐くAR15、間違っていない事ではあるが一応の毒抜きを試みてくれているRO。似通っているように見える三人ではあるが、あのAR小隊の執務室にいるからこそわかる個性を知れば完全にそうではないと言えなくなってくる。彼女達も人間みたいに喜怒哀楽の感情の噴出だけでなく、大事にしている物事に違いはあるのだ。そして、これから向かうことになる戦いの場では心強い味方になってくれる。ダミーを連れていないので戦力の低下は否めないが、それでも個々の持っている能力が発揮できないわけではない。
「さて、そうなるとまずは具体的にどう動きましょうか。話からして穏便に話し合いで片付けれる相手ではないので実力行使しかないでしょうけど」
「現状からしてダムの地下、爆薬の解体は無理ね。なら大本を断ってしまうのが手だけど、肝心の起爆装置を持った敵がどこにいるのかすらわかってないわ」
「ジャミング装置も忘れちゃならないぞ。あれによる妨害で連携もとり辛くなってる。ここから離脱するにはその破壊が欠かせないぞ」
「それに関して朗報があるわよ。皆が来るまでにここ一帯に展開されているジャミング装置による波紋のような波を追って行ったけど装置の在処は大体把握できたわ」
「問題は山積みね。広域での手分けをすることはリスクがありすぎて今回はできない。だから一纏めで戦力を集中させるけど、手際よくいかないとなにかしらかが手遅れになるし……」
電子機器への対応が一流であるROのおかげでこちらに制限を課していた装置の在処を突き止めたのは行幸に等しい。とはいえ、立ちはだかっている壁が重なりすぎて難易度は洒落にならないほどになっている。最後まで一つずつ対処するには、設けられているだろう交渉のタイムリミットまでに間に合うかどうかが分からない。
とすればどうするか、と頭を捻っているとROは腕をグローザに掴まれたので反射的にそちらに目を向けていた。
「一つだけお願い……私の銃を取り返させて……」
「……そうですね。自分の半身が奴らに奪われているというのは気持ちが良いわけありませんからね」
「それと……私が尋問を受けている時に奴らのリーダーが言ってたわ……『もうじき、グリフィン北アメリカ支部の保護区は地獄になる』って……」
それを聞いた時にはもう優先順位を考えることも話し合うこともなかった。顔を見合わせた後で各々即刻出立準備を整えるべく立ち上がり、ローガンは『レミントンM700』を背負い、『ハニーバジャー』を手に取ってチャージハンドルを引いて発砲準備を終える。
そしてだんだん暗くなってくる外を吹き抜けになっている窓枠から見ながら首元に巻いていたスカルマスクを鼻の高さまで上げてそこから下を覆った。
もう死の五も言っていられなくなった。敵がもうその凶暴性を持って危害を加えてくるのであれば遠慮をする必要もない。
さあ、
―――<ERROR>―――
<17:57>
まだ見ていない無人の部屋の扉を蹴破り、潜んでいるかもしれない敵影があるかを確認するが誰もいない。404小隊が突入してからもう五分は経っているが、まだ引き金を引いて交戦するような事態にはなっていなかった。
45は隅々までフラッシュライトで照らし、残されている家具の中に隠れていないかも確認してからそこを後にする。
「45姉、そっちは誰かいた?」
「誰もいないわよ。9、そっちこそ消音されてるからといって戦っていないわけではないわよね?」
「そんなことしないよ45姉。ここまで来たら敵対者が一人でもいた方がいいと思うぐらいだよ」
それもそうよね、と45は一通り見て回ったフロアを後にし、隣に立った9と共に三階のほうに上がっていく。敵が接近してきたというのを知らせる程度のトラップしかないので、今のところ集中力がさらに研ぎ澄まされることはない。スオミが得た情報の通り、複数人がここを利用しているというのは嘘ではないようではある。できたのがまだ最近と思える足跡や降り積もっている埃やゴミ、それらがある床のほうを見てみると決して誤った情報を掴まされたわけではないだろう。ところどころに仕掛けられている鳴子もそれを裏付けている。
『45、一階の方を調べたけどクリア、敵影はまったくないわ。さっき9が言ってた事の気持ちはわからなくはないぐらい不自然よ』
「スオミ、こちらUMP45。まだ全体を調べ切れてないけどあまりにも不気味すぎる。ここ周辺で目立った動きはあるかしら?」
『今のところありません。通信が治安組織の彼らと繋がっていますから電子ジャマーによる妨害なども観測されていませんし、いつものようなコソ泥による引ったくりが解決されているばかりで得にこれといってないです』
「わかったわ、そのままなにか大きな動きがあったらこっちにも教えて。416、私は9と三階に向かってる。そっちもG11と一緒に合流しに来て」
『了解よ』
三階への階段が終わり、踊り場に到達した45と9は見える範囲で周辺を照らしていく。45は歩を進めて左右の分かれ道になっている右側の方を見ようとした時に肩を9に叩かれた。
肩越しに振り返ると9はいつものような作戦中に浮かべてはいても緊張感を忘れてはいない笑顔になってはいる。だが一点だけ違っており、ようやく目当てのものを見つけたとばかりに口角がさらに上がっていた。『UMP9』のグリップを持っていないほうの手で注目すべき方を指しているのでそちらを見てみると、建物の様式とは少々違う扉で閉められている部屋がある。フローリングや壁紙に対しての調和を拒否している色、血のような赤がシックとは違う印象で目を引いたので、45はすぐに情報伝達。
「大当たりよ404小隊、9が目標を見つけた。三階に上がって左側の壁側から二つ目の部屋よ。スオミ、突入するわ」
『三階左側ね、わかった』
『了解しました、わかってはいるでしょうけど犯人は生かしてください。関連する情報を引き出す必要があります』
「大丈夫、わかってるわよ」
9と共に血塗れを髣髴とさせる扉についた45はまず最初にハックできる電子機器がないかを確認した。電脳世界に自分の意識を半ば投じ、目星をつけている部屋から垂れ下がっている人間には不可視の糸を探す。ビデオカメラなら中の様子を探る、メディア再生機なら注意を逸らす等して優位に立てるようにする為だ。
扉の隙間から見える糸を元に自分を手繰り寄せさせ、進入した電子機器を起動させる。それと同時に自分に適用できる機能を照合した。
有効である機能を列挙する。視覚、聴覚、録画ならびに保存。また、既に内蔵ディスクに保存されている記録の再生も可能。
入り込んだ電子機器が何かを確認した結果、小型デジタルカメラだと分かった。そして45は視覚的情報を得るためにカメラの撮影モードに移行して最初に映るのを自分の電脳に映す。だがそれで取得できる情報は彼女が思っていたようなものではなかったので、想像していた荒々しいことを避ける文面に不信感を募らせる。
「……9、突入の際はトラップの有無だけには注意して。本当に抵抗しないのであれば割と穏便に片付きそうよ」
「……わかった」
9は扉のノブを捻るとゆっくりと引っ張って足元に注意を凝らす。45は彼女がそうしている手前でドアノブに不審なものが無いかを確認したが銃弾による応酬が無いどころか不意打ちすらも何もない。
完全に開け放たれた部屋はランプで照らされているかのように明るく玄関に当たるこちらの方にまで光が届いている。銃身についているライトを消した二人は床板のように見えるそこを踏みしめ、お互いに死角をカバーしつつ前進した。
「素晴らしい行動力と思考能力ですが、そこまで警戒しなくていいですよ。罠の類は何も仕掛けていないですから」
「どうかしらね。そう言って私達を騙そうとした人間はもう何回も見てきたわ。犯人の言う事に素直に耳を傾けるほど、性格は素直じゃないわよ」
「信用されていないのに悲しみを覚えはしますが、それがどういった感じで繋がっているのが気になりますね。話してくださいませんか?」
奥から聞こえてくる声の発信源を視線と共に銃口を向けながら辿っていくと、光源に照らされながら如何にも待ってましたとばかりに両腕を広げている男が一人いる。そこで立っているその者が武装している様子はないが服の下にナイフや小型の拳銃を隠している可能性もあるので油断もならない。
ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべるその男、目星をつけてから同じ組織の関係者から話を聞いてみたところ、先日のハイウェイでのカーチェイスの現場にいた男であることが判明していた。その関係者、カイルも45からの根拠のある説明を飲み込めていない様子だったが、404小隊全員で足踏みをしているだけの時間はないと押し切ったのである。
「話すわけないでしょこのサイコパス。
「お互い様であるのならそんな悲しい事を言わないでくださいよ。404小隊、こちらでもよく噂を耳にしていましたから分かり合えるのではと思っていたのですが駄目ですかね?」
「戦う為に造られた戦術人形に自由はないと言っても良いわ。何かしらかの理由があってそこから離れたいと言ってもメモリーが消去されて製造当初に戻される。でも私達にも意思があって友人を選ぶだけの権利ぐらいはあるわよ」
男の背後に回った9が両手を後ろに回して手錠をかける。そうされているというのに笑顔を崩さないその男は『UMP45』を構えながら正面で睨みを利かせている少女にペースを崩さない。
「ですがこれだけは聞かせてください。私があの留置所での犯人だと突き止める、その決定打になったのは何です?」
「突き止めたわけじゃないよ、あんたも含めて該当する数人に絞り込んだだけ。ただ、現場を出入りしている者の中で目を爛々と光らせているのを見逃すほど甘くないわよ」
「アリバイがないことから状況に基づいた推測もあるわよ。ただ、それがなくても現行犯であることが濃厚であることが経歴から知れたけどね」
治安組織のデータベースに真っ当な人間としての記録が残されていてもそれはただの紙上での情報と全く変わらない。デジタルかアナログか、それだけだ。ただ、その場で一致するだけの要所で関連付けて一気に手繰り寄せることができるのは前者しか出来ない。書類で厚みのあるファイルを自分の手で捲っていくにはどうしても時間がかかってしまい、探している箇所を目で探す必要もある。
しかし45の場合、データベースにある情報だけでなく顔写真といったような変えるには手間をかけなければならないことが広範囲で検索できる。それもインターネットに入力して検索エンジンに任せるだけでなく、その気になれば機密情報を保持している組織の方に潜りこめれる。そうして45は404が治安組織の隊員達と現場を検証している間にグリフィンだけでなく、各国政府のサーバーにアクセス、要注意としてマークされている犯罪者をリストアップした。そして、ロシア政府にアップロードされているデータを見て確信を得たのである。
「あんたはロシア内で政府だけでなく正規軍の要人のみならず目についた民間人までの暗殺や拉致、そして拷問と見せかけた殺人を繰り返してきた。本名まで判明していなかったけど、監視カメラにも映っていたあんたの人相が各国に登録されていたわよ。そこから治安組織の前に名前や出生が全く違う自分で、ダムの整備士に就いていたこともわかったわ。」
「なるほど、有名人になれているようで気分が良いですね。でもそれでは、私が今どこに属しているのか分からないのではないのですか?」
「ええそうね、さすがにそこまで足取りは終えていなかったわ。だけどこれだけではっきりしたことは、私達の指揮官が言っていたダムの記録データを紛失したのはあんただということよ。それに要注意人物としてマークされていること、そして保護区で表沙汰になった事件があった飲食店に隠したことから故意的によね」
推理にもならない、あくまで集めれた情報からの推測でしかないがどのように見てもこのような結果に行き着いた。現場からの物的証拠は一致している人物が多すぎて絞り込む段階にまで至らなかったが、収集する手を内から外へと向ければ大分変わったといえる。そしてハリーからの発言やローガンとAR15からの報告書、殺害されたピーターという囚人の証言。これらから一気に調査が進み該当する人物が数人に限定できた。
「戦術人形とはやはり面白いものですね。人間のように動いては時折おいそれとはできない働きで成果を上げる。見た目は全く変わらないのに技能をもっているのですから尚更です」
「見た目に寄らず、ていうのは誰にでも当てはまるわ、私もあんたも。あんたの場合、そんな優男のような顔面で親しまれるでしょうに性格と本性が台無しにしてる。腹に抱えてるのが邪悪すぎるのよ」
「人じゃなくても動物を殺す、というのが悪だというのですか?でしたらあなたも同類でしょう、仕事といって自分達の存在を秘匿する為に目撃者を抹消してきた。あまつさえ、戦術人形さえも。そんなことを何回も繰り返してきたあなた達が『表』で立ち続ける人達と歩き続ける、虫が良すぎますよ。オイルや血で汚したその手で綺麗な仲間の手を握ろうとして気後れすることないのですか?気付かなかった、考えたことないじゃすみませんよ。それともそれを知っていながらもあなた達の手を取っているお仲間は相当バカな部類ですね、愚かでしかありません」
たしかに404小隊は存在しない部隊として他に確たる認識をされないよう、メモリーを書き換えるか破壊するかして裏世界を渡り歩いてきた。過去に起こったことはもう変えることが出来ず、この男が言ってることを否定することは適わない事である。それでも彼女達とこの男に違うことが一つだけ、仕事や趣味といった『範囲』の話ではなくそこに感情が関係してくる。人間や人形といった害を与える相手がどの枠組みに当てはまるのかは関係ないが、この男は現場の惨状からして『殺人』に快楽といった生きがいを感じる感情を見出している。射殺だけで終わらせず手足を切り落としていたりしたこと、そうした後でここでヘラヘラとして笑っていることが何よりもそう45と9に思わせる。では、半月以上前まで仕事を請け負うまで放浪していた彼女達はどうか?
45の燻る感情が一瞬で冷えるだけでな消え失せる。表情が無くなり目に獄炎が燃え盛り始めた姉を見た9が離れると、大きく右拳を振りかぶって打ち出す。バキリと拳がめり込んで男は壁にまで吹っ飛びズルズルと床に転がる。砕けた鼻の穴から鼻血から大量に出てくるに留まらず、折れた歯が45の足元に転がった。
「そうね、殺して未来を奪うことは褒められたことではない、善か悪と言われたら後者よ。でも本心から望んでいるわけではないのに戦術人形の頭部を吹き飛ばしてメンタルの破壊しなければならないこと、あんたはそれで胸が晴れるような思いをしたかどうかを一番聞きたいのでしょ?昔なら何も感じないで終わりだけど、今ならこう言えるわ」
45は床で仰向けになっている男の胸ぐらを掴み自分の目の前にまで引き寄せる。そして呆けた様子の男に己が感じていた全てをぶつけた。
「嫌に決まってるでしょうが!!顔もなにも晒さない知らない奴から勝手に
「ちょっと待った45姉!気持ちはわかるけどそれ以上やって当たり所が悪かったら死んじゃうって!!」
慟哭に近い叫びを至近距離から浴びせかけた45は乱暴に床に放り死なない程度に腹部に蹴りをかまそうとしたが、さすがにこれ以上はと思い見かねた9が腰に巻き付いて止めに入る。続いてようやく到着した416も引き離すべくリーダーを背後から羽交い絞めになって引っ張った。
「だいぶヒートアップしてるけど冷静になりなさい!こいつらとまともな会話なんてできるわけない、言ってることが正しくても理念までわかりあえることもないことなんてあんたもわかってたことでしょ!」
「それでもよ416!このクズはハリーや皆を、ローガンの事を馬鹿にした!404ならまだいいわよ、貶されているのは私達だけで実際そうだったんだから!だけど伸ばすのを躊躇ったこっちの手を乱暴にでも取り合わせてくれた恩人を馬鹿にされても何も思わない恩知らずなんかに私はなりたくないわよ!!」
「頭に来るのは私も同じよあんただけじゃない!でもそれだけで突発的で欲に従った行動をするようなら本当にこいつらと変わらなくなるわよ!『加減をするしないに関係なく衝動に突き動かされたままに拳を振るんじゃチンピラと同じだ』って誰が言ったか思い出しなさい!!」
肩越しに45は叫ぶのに416も負けじと自然と声を張り上げる。冷静な心情までもが怒り狂っている、45の理性ではそれすらも自覚できでいない。男は面白いものを見ているとばかりに笑い声をあげた。
だが同じ小隊の三人を他所に、男の前に立った少女が一人。いつもは眠そうにしながらも据わっている目は灯火を宿し、物理的にも精神的にも銃を持っているその小柄な体には確たる芯が通っているようだった。首だけを壁に預けている状態になっている男の前に立ってその少女、G11は静かに口を開いた。
「別にさ、お前がどう考えていても良いよ。赤の他人であって事件を起こされても迷惑になる、見て見ぬフリはできないし簡単に片づけてはいけないことだけどそれだけだし。でもさ……」
G11は静かに男の懐に手を入れて探ると一枚のワッペンを引っ張り出す。赤い布地でロシア語が書かれているそれを流し目で見ると目の前にかざして部隊章を握りつぶすようにしてくしゃくしゃにした。
「お前は神様や何でもない、頭がキレるとかも関係なくただの犯罪者。……ううん、力があると錯覚してる性悪なガキと同じ。子供なら覚える欲の自制も何もできてない、手当たり次第に喚いては暴れる赤子だよ」
「なに……?」
男の笑みが崩れて別の感情が生まれる。45や9に416も変化に気付きG11の背中を見ると、不可視の気迫がそこから漂ってきていた。416からすればいつもバディを組んでいるのだから二人よりも尚更電脳の処理が追い付かない。
「殺人が本能にしてるっていうのならタチ悪いけど、人肉で命を繋いでいるわけじゃないよね。それだったら弱肉強食が身近で見られる虫と同じかそれ以下。こうなったのは前世がそうだったんじゃないかな?」
「黙れよ、機械で身体を築いて人間の真似事をしている人形風情が知ったような口をきくな!」
「黙らないしそっくりそのままお返しするよ。でもまあ虫と同じかそれ以下、そこだけ訂正するよ、さすがに失礼だ。彼らは本能ではあっても子孫を残すために生きてるんだから。それも関係なく単に殺しを続けてるんじゃ鉄血のクズと同じだね、奴らは手段を選ぶだけの知能と目的はあっても消そうとしているのが悪すぎる。あいつらとお前達は同等だよ」
「黙れぇええええええええええええええええええ!!」
立ち上がった男が全体重をかけた頭突きをするようにして突進してくるがG11も戦術人形だ、身体能力は比べるまでもない。跳んで回避し突っ込んできた男の首根っこを掴むと自分に働く重力も利用して地面に組み伏した。ドタンバタンッ!と衝撃で付近に置いてある物が跳ねたり落ちたりしたが些細なことでしかない。G11を知っている誰もが記憶の中にいる彼女と違っていると声無き声で叫び続けているのだから。
「足を格闘に使えるのにしなかったね。考えなしに仕掛けても意味ないことぐらい、戦い慣れているのであればわかる筈だけど全然じゃん。それなのに高説高々に言っちゃって恥ずかしくないのかな」
「……ならあなたは私が言ったことに対して何も思わないのですか。何も思わないんじゃ糸で繋がれている操り人形と変わりがありませんよ」
「腹立たしく思わないわけないよ。基地の皆はアタシ達の過去にあったことをそのまま受け止めてくれてるんだし、お前が言ったことに怒りを感じてる。でも404がやってきたことの本質、それを知らずに表塗りのことをベラベラと言ってるのが一番頭に来るんだよ。それこそ、アタシ達のことを知った気になっているんじゃないって言いたくなるぐらいに」
呻く男を取り押さえてがっちりと起き上がれない様にロックしたまま、G11は顔だけ上げてリーダーを見る。そして未だに目に浮かぶ静かに燃え続ける灯火を絶やさぬまま尋ねた。
「次はどうするの45。これだけじゃ、まだローガンを助けたことにならないよね?」
なんやねん、ファイブセブンがドロップするまでに周回回数が三桁になったんだけど……と愚痴りながら周回し続けてようやく、といった感じです。ゲームの方はプランモードで指示し、その間に書き進めて行った今回。滅茶苦茶に頭を使ったりなんだったり、という風に思うかもしれませんが、結局は簡単に纏めれば、鉄血お手製の『オアシス』争奪戦になっているということです。それでローガン達がそれを知ろうとしている間に404小隊は敵の隠れ家に突入してG11が犯人を取り押さえる。結局はそれだけです、はい。それぞれに流れや理由を持たせてはいますがね。ここまででもいくつか伏線回収したり、別のを張ったりと色々としていますがどこまでできるかな私。
それでどうでもいい話ですが、最近はシリーズや他作品と合流しての合作(?)を通して大作になっている映画を色々と見ています。なんで数年前の公開されたときに見なかったのかな私、と自分を罵倒しながら見ていますがとても面白いです。銃はあまり関係ありませんが、こういう熱い展開はアメリカならではだな~、とか思ったり。私のドルフロ二次創作にこういった熱いのを持ってこれたらいいんですけど、やり辛いかなぁ……。
とりあえず今回はこの辺で。私自身も頭を捻らせたりしていたのを幾分出したんでオーバーヒート気味なんですよ。
ハハッ――――――
『細かい所でオマージュを盛り込みたくなる』