誰も助けてくれない -Can you hear me?- 作:麒麟犬
<19:01>
『ハニーバジャー』のアンダーバレルに取りつけている垂直グリップを握りながらでも見れるように左腕の内側に端末の位置を調節したのは正解だった。リアルタイムで自分達と敵のいる位置が表示されているマップに視点を下ろし、もしもの場合を想定して死角になっているところを特に警戒しておけばいい。ここまで仕事が楽になるのだからある意味儲けものだ。複数人で行動するとなると全体的な機動性が落ちたりと素早く動くことに支障を来し、それをカバーするのに連携してクリアリングをしたりとやることがたくさん出てくる。それらも一人でこなせるのだからできるだけ時間短縮したい身であるこちらからだとありがたいことこの上ない。
「またT字路か。グローザ、目標の方向は変わらず北東か?」
「ええ、システム感知による位置に変化ないわ。ただ近付いてきたことで高低差もはっきりわかってきた。ツーフロア下、一階に立て掛けられているようね」
「銃口の向きまでわかるっつうのは聞いたことあるがマジかよそれ。色々とASSTさまさまだな」
「効率よく戦えるという点では確かにそうでしょうし、離れたところにある得物の居所を知れるのは戦術人形の特権よ。基地で一回あなたが言ったように肉体を人形に置き換えたらいいんじゃない?」
「内蔵とか腕とかが悪くなったりなくなったわけではないんだから勘弁してくれよ。つうかもうブラックジョークでしかないぞそれ」
背中にまで届くもうお馴染みになってきたグローザの冗談に溜息を吐きながら応え、ローガンは曲がらずにそのまま前進する。無論、行先ではなくとも万が一にでもマップに表示されていない敵はいないと認識する為の『ハニーバジャー』を構えての目視による確認を忘れていない。ストックを右肩に当てたままの銃口をそちらに向ける為に持ち上げるとそこには誰一人としていなかった。赤外線モードにしたゴーグルに映らないのだから間違いない、とローガンは歩を止めずに前進する。
今のところ順調に会敵せずに済んでいるが、廊下のあちこちに死体が転がっており見ていて気分が悪くなることは必至だった。中にはアルファの79式達が対応した傭兵の死体もあるのだろうが、どれもが酷く損壊してしまっているので見分けがつかない。
「話を聞いた時はまさかと思ったけど本当に……狂った人の行いでしかないわね……」
「M4、一応こういった証拠は撮っておいた方がいいんじゃないかしら。政治には興味ないけど、表向きから好き勝手に踏み入れられるのだけは食い止めた方が良いかもしれない」
「……そうね、動画で撮っておきましょう。ROも別視点ということで録画しておいて。指揮官への報告としての参考資料にもなるわ」
「了解」
側頭部と耳で挟んでいるカメラを起動した二人に目をくれてから改めて見てもやはり気持ちが良い物ではない。解体されてから時間はそれなりに経っているようなので垂れ出ている血は固まってきて赤黒く変色してきてもいる。やはりローガンも死体を見慣れてきてしまっているが、自覚あるままに切り刻むなどして正気を疑わせるようなそれを見たことあるかと聞かれれば否だ。フラググレネードの爆発や対物ライフルによって四肢のどれか一つでもなくなっている、戦闘の最中で無くしたのであろうものばかりでしかない。同じ戦死だとしても死体の損壊が故意によるものか否か、たったそれだけでも死体への見たかというのは変わってくる。それが今、苦痛を顔に刻みながら絶命している傭兵達を見てわかった。
頭の片隅から浸食しようとしてきてる狂気を振り払い、通路の真ん中で転がっている死体を避けたり跨いだりもして進み続ける。と、そこで進んでいる通路の先から赤点が表示される。赤点の数は二つで形状に従ってこちらに向かってきている。できるだけ穏便に行きたいのでどこかにやり過ごしたいと思うが、動く速度からして隠れようとしても発見されてしまうのがオチだ。
やむを得ない、と即決したローガンは左腕でハンドサインを後方に送る。進行中断を表してから敵数を知らせ、すぐ後方にいるAR15をこちらに呼んだ。
「そこの曲がり角から来る、静かにナイフでやるぞ」
「了解」
左太腿に備えられているAR15のナイフが抜かれるその一連の動作から反射的に目を背け、ローガンも腰の鞘から抜いて近接戦闘に備える。やがてバタバタとした印象を抱かせる足音が聞こえてくる。それに混じって水温が跳ねる音も。
ゴクリと喉を鳴らしたのはローガンとAR15のどちらだったのかはわからない。ただ集中力を研ぎ澄ませている二人にはそんな些細なことなどどうでもよかった。聞こえてくる音から距離を測って損耗のない不意打ちをしようとしているのだから。
そしてその時はやってきた。ゴーグルをつけていることで見える敵の一部が表示されたのと同じタイミングで飛び出し、ローガンは曲がろうとしていた+二人の内側にいた者をタックル跳ね飛ばし、その勢いのまま奥側の敵を壁際にまでぶつける。叩きつけられた直後に反撃に転じてくる。両腕をクロスさせた防御こそしたものの膝蹴りをかまされた衝撃で少々後ずさってしまい、追撃を許してしまった。抜かれた大型ナイフの切っ先が迫ってくるだけでなく拳銃に片手が伸びていた。
(そうは問屋が卸さねえよクソ野郎!)
声に出さずに吐き捨てると、ローガンは怨霊の刃を躱すと左手でナイフを握りしめながら右手で向けられようとしていた拳銃を跳ね除けて距離を詰める。そしてお返しとばかりに腹に膝蹴りを食らわせ、身体がくの字になったところを逃さず頭部を右腕で抱え込むと首筋にナイフを突き立てた。一気に刃の半ばまで刺さったが確実に断つ為にそのまま腕力を込めて貫通させる。
抵抗がほとんどなくなったそこで追撃を止め、ナイフを抜くとAR15の方を確認する。彼女は首尾よく倒せたらしく、組み伏した怨霊の心臓部からナイフを抜き刀身に付着した血糊を敵のマントで拭っていた。
死線を向けてきているローガンの方に気付き彼女は口を開いた。
「大丈夫、そっちは?」
「一歩間違えたらまともに食らって面倒なことになってたがなんとか」
立ち上がったAR15の方に寄って端正な顔に付いた血を自分の指の背で拭いてやる。返り血で濡れているのとは別で感じられるすべすべとした肌触り、さっと赤みが差して睨んでくる彼女から目を背けてローガンは待機しているメンバーに前進の合図を送る。
「ローガンあなた、どこか余裕があるのかしら。いやそうよね、今の真似なんてそう易々とできないでしょ!」
「わりとマジな早口言葉で捲し立ててくれているところ悪いけどもう皆来たぞ。ほれほれ前進前進」
本人からの問い詰めで気恥ずかしさが倍になって押し寄せてきそうにもなるのでローガンはすたこらさっさとばかりに皆の先頭に改めて立つ。殺気と表現される程の重々しい雰囲気はないが、隙さえあれば一瞬のうちに百連打で小突かれそうな気がしてくるので先行した。
「遠足みたく雑談をするのは良くないとは思うんだが聞かせてくれ。あの二人はいつもああなのかよ?」
「う~ん……ローガンさんがなんかやって怒られているのは見たことありますけど、さりげない精神攻撃はないですね。あくまで友人みたいに適度に接していましたし……」
「あの野郎なんか距離を履き違えてるんじゃねえか?オレ様から見ても異常だぞあれ。下心丸出し、てよりかは何も考えてねえだけと思うんだが」
最後列にいる二人からなにか聞こえるが、羞恥心で赤くなっているAR15からの刺々しい視線と脳内フィルターでカットする。
進みながら端末のマップを確認してみると敵の動きも活発になってきているエリアに踏み込んできているらしい。こちらに明確に近付いてくる赤点はないものの、こちらから付近を通過せねばならない通過点もあったりと危うくなることが想定される。
迂回しようと思ってもそれが可能な通路もない、そこを制圧して行こうとした時には付近にいる怨霊達に知られて派手な戦闘が起こる。八方塞がりになろうとしたところで、妥協案ということで一つを皆に提示した。
「ここから先は敵が集中しているから下手にステルスに拘ると痛手を負いかねない。ROが持ってるシーカーマインで陽動を仕掛けて気を取らせている間に突破しようと思うんだがどうだ?」
「その前に一つだけ確認させて頂戴。この際だから認めるけど、あなたも戦術人形を相手に簡単には負けない、それどころか一人でも武装している複数人相手にも対応できるだけの実力がある。
「もちろん、俺だってできれば奴らと撃ち合いをするのは避けたい。だがここまで来た以上はもう最小限に済ませるようにするのは諦めた方が良い気がしてきた。ここまでの奴らとの戦闘でわかったことだが、こちらが先に先手を打てる状況下であればまだ楽に倒せる。なら進行方向に出てくるだろう相手方を速攻で片付けていくのも有効な一案だと思うんだが」
ローガンが熟考をしたのかどうかをグローザは確認したかったのだろう。彼女も眉間に皺を寄せて考えた後で頷いて納得の意を示してくれた。他の面々を見ても異論は特にないようでシーカーマインを持つROは複数のそれを起動する用意を行っている。
「グローザは俺と同じ先頭に、一気に走り抜けるぞ。M4、AR小隊の指揮は頼んでいいか」
「わかりました。では私とROで二人のバックアップ、AR15は後方からの援護の位置に付きます」
「オレ様もてめえと同じポジションに入る。ハンドガン一丁だけの人形がいるんじゃ火力が足りなくてマズい。なら数を増やして押し切ってしまった方が良い」
「それじゃRO、十秒後にシーカーマインを起動してくれ。こっちから見えなくなったら走るぞ」
「わかりました」
全員が早急に動いて準備を始める。ローガンはナイフを逆手に取りながら『ハニーバジャー』のグリップを握りそのタイミングを待つ。
後方からゴロゴロと転がっていく野球ボールの球体三つが違う方向へと向かって行く。
「ゴー!」
ローガンから発せられた号令を元に全員が走り出す。グローザとバーンズが自分の前を走り、後方にはM4とROが追従してくる。最後列にいるAR15も後方を警戒しつつ進行ペースを崩さずに来ている。そして走って数秒、爆破音が各所から火災報知機の音に混ざって聞こえてくるので陽動が行われたことが各員に知らされた。
ASSTでリンクしている装備がある方向へと走っているグローザの背中を追いかけながら端末に視線を下ろすと、北東の方から接近してくる赤点が表示される。
「北東から来るぞ、数は三!」
「勢いと機動を活かして接近戦で一気に片す。あなたは銃撃でお願い」
そして形状的には曲がっていないどころか遮蔽物が無いそこに踏み入った瞬間、ローガンはゴーグル越しに映された怨霊達を撃つ。やはり現場においての情報量で分があるので先手を取ることが出来た。射撃を出来るだけ妨げない様に前頭姿勢になったグローザとバーンズによって生まれた射線にいる三人に弾をばら撒く。それで稼がれた時間を活かし、距離を詰めた二人が飛びかかる。そこでローガンも狙いを定めて一人に集中砲火をかまし数弾受けたことで仰け反っている怨霊を葬る。そして二人が飛びかかって残る敵を片付けていくのを蹴るなりしてアシストし早急に収拾させる。
「怪我はないようだがまだ行けるか?」
「言わずもがな、そこまで気にしなくていいわよ」
ローガンから差し出された手をグローザは払いのけると自力で立ち上がった。バーンズも負傷することなく倒したようで難なく立ち上がったのを確認してからまた走る。
「急ぎましょう皆さん!各所に点在している監視カメラのジャミングですが対抗され始めてます!」
「やっぱり敵方もただやられるわけではなしということね。ローガンさん!」
「もとより今時間をかけるつもりはないし、そうしているようじゃ良からぬことがあるのはもうわかってる!ペースを上げるぞ、遅れるなよ!」
最後列にいるAR15にも聞こえるように声量を上げて号令を出すと、気合で増した速度で先頭を走る二人を追い抜く。ただただ闇雲に走るのでなく端末にも気を配ったりもしていたりと必要なことをしているというのに、暗黒の中を目隠しした状態で駆けているような感覚を拭えないまま。
――――――
<19:12>
結果でいえば予想していたほど消耗することはなかった、といえるだろう。『ハニーバジャー』の弾倉を交換するのも一度だけで済み、撃たれるなり刺されるなりされて大きな怪我をすることなかった。それはローガンだけでなく皆もそうである。不意打ちと力押しによる進行だったので体の各所に殴打された跡やかすり傷が出来たりとしていてもまだ満身創痍には至っていない。それだけでなく、消耗した気力と集中力こそ変わらないが物的な浪費が少ないのは何よりだ。
目標としているグローザの装備がある部屋、近くの壁に備え付けられている札からしてそこはダム職員にとっての事務室らしい。M4が扉と床の隙間からワイヤー状のカメラを挿し込んで内部を確認している間に周囲を警戒して待機していると、確認作業が終わったらしくM4が立ち上がった。
「内部に敵兵、見えた限りで数は十人以上。アサルトライフルやSMGで敵全員が武装しているわね。グローザさ……グローザの銃はまだ確認できていないけど」
「ここをどう攻めて制圧するんだ。僅差だが数は向こうに分があるんじゃ正面からだと勝ち目が薄いぞ」
バーンズの指摘の通り、現状ではやはり正々堂々といった戦いを前提にするのは得策ではない。これに関しては彼に言われなくてもローガンも含めた全員がわかっていることだが、自分達とは違う組織に属し別視点を持ち合わせている人間が言う事なのだから間違いないだろう。
「ローガンさん、ここ周辺のマップは端末にありますか?」
「生憎だけどさすがに全部がインストールされてないようだな。俺達が入った出入り口諸々よりも通路の作りが新しいがそれが原因か?」
「たしか……半月前に機器の一新も含めて増築工事が終わった話がありました。それまでの事務室はその場しのぎの仮設でしかなかったようなので、今回のでまともなのを用意したとか」
仕方ない、とローガンは一旦警戒態勢を解き、自分が所持している物資を今一度確認してみる。『ハニーバジャー』の弾倉は今装填しているのを除いてあと一つだけ、『P226』の方は二つある。背中の『レミントンM700』の出番は今回ではなしだ。空中での事故で死んだ怨霊から回収したフラググレネードはなくなり、投擲物としてあるのはフラッシュバンと持ち腐れとなっているスモーク。これらを見る限りでは策を練って一方的に強襲するのは難しい。精々扉を蹴破ってフラッシュバンを投げ入れるのが関の山だ。
「どこか薄い壁に穴をあけて不意打ちをかます、というのが無難か。それか別の出入り口があればいいが」
「事務室なので他の入り口がある可能性、ね。私達の執務室は一つしかないけど」
「茶々を入れないでくれよAR15。ともかくあったらラッキー、なければ薄い所見つけて爆破して突入てな感じでどうだM4。なければ一応爆薬をくれると助かる」
「私からは異論ありませんのでお渡ししますよ。AR15と一緒に行ってください」
「了解。それと今回の突入の合図を送る時だけは無線を使うぞ。さすがに二手から攻めるのに掛け合いも何もないんじゃ無理だしな」
皆と同様に頷くAR15を連れて行こうとしたところで、ローガンは装填している弾倉を確認している一人を見た。敵から奪ったハンドガンとナイフ、そして己の体術で自分達の先頭を走っては蹴散らしていた人形。敵対するのではなく味方として立ってくれるのであれば心強い、それがここまでの戦いで得られた見解だ。彼女とはまだスオミのように打ち解けているわけではないが、棘を埋め込まれたローガンとしても望まないことがない限りはできれば敵になり得ない関係を築いておきたいとは思う。ならばやることは一つ、自分とROと一緒に来てもらうのが良いだろう。
それに自覚しているのであろうが、溜まってきている『負』を吐き出させるにはいいのかもしれない。
「人数と火力を均等に分けておきたいしグローザ、お前も来い」
「そう言われるのはなんとなくわかってたし別にいいけど、あなたはいいのかしら?」
「生還できるのに私情を挟むような真似をする程、俺は『子供』じゃないぞ。無駄に時間を浪費したくないし二度も言わせるなよ」
一句を強調しながら言い放ってやったそこに反応したグローザは目を瞬かせるとゆっくりと溜息を吐き、部屋の側面に沿った通路を歩く自分の横に並んだ。してやられた、というよりも怒気が彼女の内面で発生したのは気のせいではないだろう。それを証明するかのように自分をギロリと睨んでいるのだから。とはいえ、そのような視線も最早慣れてきてはいるのでローガンはもう動じない。
そして自身の隊長の指示に従ったAR15が腕を伸ばせばすぐに届く程度の後方にいるのを見てから前進する。
「この辺は死体の山が無くて幸いだな。やっぱり精神衛生的にあれはヤバすぎる」
「……心の準備が出来てるか出来ていないは関係なくそれには同感ね。でもローガン、天井も何もかも真っ赤だったのはあなたが通ったところだけだったのかしら」
「あんなところがこのダム内で何ヵ所もあってたまるかって言いたいがどうだろうな。あれもあれで酷かったが、ここまでのも中々キツいだろ」
「キツいなんていう表現以上よあれじゃ。それに来た道を戻るのはできればお断りしたいわ」
「心配するな、俺だって見つかって追いかけられたりしなけりゃ御免だよ」
先程の件もあってAR15はローガンといつものような会話しながらグローザを警戒している。それでも努めて平静を装っているみたいではあるが、言葉の端々まで隠しきれていないのがローガンでも窺えた。隣にいるベテランに悟られない様に内心で苦笑いを浮かべるものの、本人には悪気はないのだから馬鹿にするのは筋違いである。とはいえ、ローガンとしてはAR15の事を貶したりするつもりはない。
「別の意味で不満たらたらって感じだなグローザ。人形に当てはまるかどうかは知らないけど怒ると皺が増えるぞ」
「心配しなくてもそこまで人間女性に似せられていないわよ。この面子にしたのは誰の思し召しかしら、とは思うけど」
「それこそ心配し過ぎ、というよりも訝しんでの見当違いだ。誰も仕組んでないし、俺だって仕事をするのに適切な奴を選んだだけだから他意はないからな」
しばらく歩いていったところで扉があるのでそこをゆっくりと開けてみる。中は明かりが無く暗いので壁のスイッチを入れてみるが天井に備え付けられている電灯がいくつか点灯しない。
「メンテナンスを怠ってる……てことはなさそうだな。バラバラになっている死体とかがないだけで綺麗に掃除は行き届いてる」
「扉含めて弾痕はあるからきっと流れ弾か跳弾が蛍光灯に当たったのね。これじゃ無理もないわ」
フラッシュライトを点けて部屋を照らしてみると資料室らしく、現代では珍しかったりする紙による資料が棚に立て掛けられている。ファイルや壁に血痕があるそこから視線を落とせば死体も転がっているがここはまだ手つかずのようで損壊が見受けられなかった。もう言うまでもないだろうが、四肢がまだ本体と繋がれているのでアルファチームと戦った傭兵達だ。
交戦によるばら撒かれているそれらを跨ぎ、慎重に探索していると扉を発見。方角を確認してみると事務室に繋がっているらしく、耳を澄ませてみると中から話し声が聞こえてくる。
ローガンが扉に近付きながらAR15とグローザにサインを送り、三人で無線機の操作を行い共有回線に接続し直した。
「M4、別の扉を発見。周囲に警備はいないわ」
『了解、AR15。タイミングはそちらに合わせるわ』
もしローガンとグローザの見立ての通りであればこれが傍受されている可能性がある。であればこちらの手の内が知られない様に使用しないか、それか時間をかけずに速攻で畳みかけるその時でしか使えない。であるからしてここからはスピード勝負、迅速かつ確実に事務室内を制圧し目標を回収しなければならなかった。
「ローガン、フラッシュとスモークを中に投げ入れて」
「フラッシュはともかくスモークの意味はないだろ。俺らも手に入れてはいるが奴らにあのゴーグルがあるんじゃ……」
「対策される前に片付けるわ。ここに日を跨いで長期間居たわけじゃないから部屋の構造と扉の位置まで完全に把握するのは難しい筈。なら方角と勘を鈍らせた上で私もこれを投げ入れる」
そう言ったAR15の手元にはローガンが持つスモークグレネードと大体同等のサイズの筒が握られている。外観からして投擲物と同じものだろうが、それが機能した時の効果がわからない。
「大丈夫よ、信じてローガン」
彼女から発せられる明確な言葉とその表情。それらだけでローガンの腹は決まった。
深く息を吸い込んで吐くとフラッシュバンとスモークを用意し、二つのピンに指を掛けて扉の方に視線を向ける。
「グローザ、俺の合図と一緒に扉を開けてくれ。そんで投げ入れたら閉めて突入準備だ」
「あなた異論がないのなら私から言わせてもらいたいけど時間がないわ。だから黙ってあげるけどそうすんなりと通ることがないことを覚えていなさいよ」
「言われなくてもわかってるさ、あくまでこれは俺の勘と信用だ。M4、十秒後に突入だ」
わずかに開けられた扉の隙間にスモークにフラッシュという順序で投げ入れると、すかさずAR15がピンを抜いたそれを続けて放られた。そして閉められた扉の向こうから聞こえてくるのは閃光が炸裂した音とロシア語によるものかの叫び声。それらを背景にローガンは『ハニーバジャー』のセレクターをフルオートに動かして準備完了。
扉の反対側にいる二人にハンドサインで指を立てて四本目のタイミングで握り拳を作る。そしてグローザが扉を蹴破ったので先陣を切った。ほぼほぼ同時に別の出入り口からM4達もエントリーし目の前のテーブルを倒して即席の遮蔽物を作ったりともしもの場合に備えている。
そして突入して目に映ったのは事務室内に充満しきれていない煙に包まれながら隠れていたり床で蹲る怨霊達。スモークに巻かれているのに何故わかるかというと目に見えてはっきりと発光しているからである。そうしたのは他でもない、AR15が使用した投擲物によるものだろう。
メカニズムなどを考えるのは後にするとして、ローガンは反射的に赤く発光している怨霊達を撃つ。本人達はフラッシュの影響を受けていることもあってこちらの視覚や聴覚で位置を知れていない。反撃が始められる前に倒すのがセオリーとも言える。
「一人やったぞ!」
「こっちも一人ダウンさせた!」
「援護をお願い、移動するわ!」
敵方の復帰が早く放たれた銃弾が近くに着弾し破片をまき散らす。負傷させられないよう、ローガンはこちらに銃口を向けている怨霊をスモーク越しに狙い牽制だけでもいいので発砲した。
「AR15、グローザ、お前達は回り込んでくれ!こっちは奴らを釘づけにしておく!」
指示通りに動き出す彼女達に攻撃がされない為にも少なくなっている弾薬数に無理を言わせた。頭を覗かせるようにしていた者に命中させたりしているが、その箇所が生命活動を断つのに十分でないのでまだ戦闘を継続させている。
やがて弾倉が空になったのを告げたので、リロードをせずに『P226』に持ち替えて戦闘続行しようとした時にローガンが一つ気付く。応戦する動きを見せていた怨霊達が何かを取り出している動きの後、その何かを腕に突き刺すような動作が続けざまに為される。その一連の行動が何を意味するのか、すぐに思い知った。
スモークを掻い潜るように上半身を低くした怨霊数人がローガンに突貫してきたのである。すぐさま『P226』を撃って脚に命中させるが、勢いがなくなるどころかさらに速度が増して突っ込んできたのだった。
「な、に……!?」
複数人による近接戦になる、そう判断し左手をナイフの柄に伸ばし指先がそこに触れたがこちらに到達した怨霊の足技が繰り出される方が早かった。顎を狙ったそれをなんとか回避し、反撃とばかりに右手の『P226』を持ち上げようとしたがもう一人に不意打ちを仕掛けられてフックが迫ってくる。その頃にはもう左手が柄に到達していたので抜き放ち、そのまま振られてくる腕の進行方向上に刃を向けた。次第に刃に肉がめり込み、すぐにその感触が消えた。ただローガンが思っていたのとは全く別の結果で、である。
人間は触れた物が極端に熱かったり冷たかったりした場合は反射的に手を引っ込める。感覚器官によるその働きは痛覚にも適用され、思いがけず縫い針が指に刺さればすぐに痛みから逃れようとする。
しかしそれは人間という生物の構造上の話であり、この世で生を受けてから常識とはかけ離れたことを経験し続ければ歪んでくる。極端な温度の熱気にしても冷気にしても耐性を獲得するというのはそういうことではあるのだが、さらに捻じ曲げて歪にするのが生命においての危機感の喪失だ。命というのがあるのを本能で理解しているのであれば前述の行動をするだろう。
では、ローガンが肉眼で確認できるほど接近してきた怨霊がどう行動したのか。言うまでもない、腕が無くなるのを厭わずに腕を振ったのである。
「くそっ!」
「ローガン!!」
怨霊の片腕が飛び、顔面に二つの断面から放出された血液が付着する。自分の名を叫び声に乗せているAR15に応える暇もなく、分離した腕に減衰した勢いのまま頬を叩かれる。
払い除ける必要はなく重力に引かれて落ちるのだが、敵方の一部が自分の近くにあることの嫌悪感が勝った。それで気を取られたのが一瞬、しかし繰り出された次の攻撃に対処するにはその一瞬が必要だった。一番最初に接近してきた怨霊に薙ぎ払われる回し蹴りを受けてしまったのである。
爆音で重々しい鐘が耳元で鳴らされたようにして脳が揺れ、防御も何もできなかったローガンは横っ面に吹っ飛ぶ。幸いなことに骨にヒビなどが入ったりしてはいなかったが、痛みと衝撃はこれまで受けてきた殴打よりも強かった。ここ事務室に来るまでにも何度か受けたが、それらはまだ堪え切れる程度でしかない。
「ごっ……が……!」
よって、床に転倒して悶絶してしまうだけの威力で一時的にローガンは他に何も考えれなくなってきていた。
床に伏していながら脳内で描かれる色彩が一色で染まり、視界が歪み、意識がやや遠のきそうになる。それでも一秒程度で最低限で回復、なんとか身体を動かして仰向けになり手放さずに握っていた『P226』を撃った。
五体満足の怨霊には半身で放った銃弾を避けられたが、流れ弾として片腕を失った方に二発命中しようやく体勢を崩せた。続けざま、と行きたいがまだ十分に動いてみせてる敵を忘れてはならない。
空中に跳んで飛びかかってきたその怨霊の腹を伸ばした片脚で蹴って仰け反らせる。それでさらに時間が稼げたのでもう一度手に持っているハンドガンをお見舞いした、が蹴られた怨霊も負けじと次の行動に移す。その行動も誰に予測できただろうか。片腕が無く膝をついている味方を前に出して盾にした、その迷いのない動きを。
「……っ!……っ!!」
もう悪態も出てこなくなったローガンは数発撃った後で空になった弾倉を捨てた。リロードをしているそのタイミングで見境がないとしか思えない怨霊が飛び出して距離を詰めてくる。
先程一撃を受けて確信したが、身体能力が向上しているようだった。攻撃の際の腕力と脚力、銃弾に対しての反射神経、こちらへの対応をする際の思考力。どれもが目に見えて上昇していることからして、煙に紛れながら取り出していた何かによるものだろう。人間ではなかなか至れない
まだ冷静でいられている頭脳を駆使し、ローガンはリロードを終えた『P226』とナイフを握り締める。詰められている現状と距離からして撃つのは得策ではないので、構えるだけに留めて引き金を引かずにいた。
怨霊もナイフを抜き、様子見のようにして薙ぎ払う。避けることもできたが、敢えてローガンは自分のナイフで受け止め、右肘を敵方の胸に食らわせる。肘を主軸にし銃を上向きにするように腕を回転させようとしたがすぐにフリーになっている怨霊の腕が掴んでくる。スライドを掴まれながらの発砲は軌道をずらされて天井を抉ったが、その掴んだ手に填められているグローブの生地がスライドの間に挟まり取れなくなった。
怨霊の方もこのことには予想外だったようで動きが一瞬止まったが、それを見過ごすほどローガンも甘くはない。頭突きを顔面にお見舞いし、仰け反ったところで襟を掴んで引き寄せると喉元に切っ先を埋め込んだ。
「お待ちかねの
怨霊は負けじと自分の手に持っている刃物をローガンに突き立てようとしたが、手が空いたAR15からのバックアップでナイフが飛んでいくどころかその手に風穴が空けられる。そしてもう少しで仕留めれそうという所でローガンは力づくで無理矢理『P226』を怨霊のグローブから分離させ、目の前でまだ交戦している敵方を撃つ。
「あと何人だ!?」
「確認できたところであと四人です!そちらからも援護をお願いします!」
「任せろ、そのまま行け!」
M4からの要請に応えて一人、さらにまた一人と、他の面子にとって戦いづらく死角に隠れられている敵方を葬った。もう弾薬も少なくなってきているので闇雲には撃たず、急所を狙って正確に。
このまま交戦し続けていればこの場を制圧できることはローガンでも断言できが、それは横槍が入らなければの話である。
ドォンッ!!と突如自分達が突入したのとは逆側の壁が吹き飛び、外と空間が繋がれる。壁に大穴を開けた相手が大勢の怨霊達かという絶望に近い予想が頭に過りながらも土煙に目を凝らしてみるが、それとはかけ離れていた。悪い意味で外れたということを確信したのは、耳を叩いてくる風の音とローター音。ダムの構造上、低空飛行には無理であるので姿形を把握することはローガンにはできなかったが、壁の近くで奇跡的に負傷することがなかったROが叫んだ。
「Mi-28です、皆さん逃げてください!!」
Mi-28とはロシア製の攻撃ヘリで、大混乱、大損害を意味する『ハボック』という別名を持つ兵器だ。
ROからのその台詞を聞いた瞬間には皆の行動は早かった。すぐに交戦を中断し、敵兵器から最も離れているローガンにAR15とグローザが突入した扉の方へと走り出す。
「グローザ、お前の装備は!?」
「もう確保したわよ、早くあなたも急ぎなさい!」
ハボックに搭載されている三十ミリ機関砲の機銃掃射が始められ、天井を貫通して弾丸が命を刈り取ろうとしてくる。それに巻き込まれることはこちら側に幸いなかったものの、固まって陣形を整えていた怨霊にも容赦なく鉛の雨は降り注いだ。グローザを資料室に押し込んで最後に事務室を後にしようとしたローガンの目に映ったのは、四肢がもげて絶命していく敵兵の姿だった。
部屋と部屋を区切る扉を閉めたものの休んでいる暇はない。M4とAR15が廊下の方を確認しているが敵影はなかったらしく即座に指示を送ってきた。
「一旦ここから離れて別の所に潜伏しましょう!ローガンさん、それに適した部屋に心当たりは!?」
「悪いけど俺だってここに関しての地理はねえ!だけど攻撃ヘリでも地中の奥までミサイルを届かすのはほぼほぼ無理だ!だったら地形の方に埋もれている部屋の方に行けばいい!!」
「私がグローザさんが先頭に立ちます、ローガンさんは可能な限りでマップでガイドしてください!」
全員で部屋から飛び出し、同じ方向へと走り出す。ローガンも続きながら『ハニーバジャー』のリロードで最後の弾倉を叩き込み、チャージングハンドルを引いて終わらせたが、すぐにまた交戦状態に持ち込まれた。ヘリの攻撃音を聞きつけて怨霊達がわかりやすく前方から接近してきたのである。
「来たわ、どうするの!?」
「まともに相手するな!左だ、左に曲がれ!!」
ROとグローザが曲がったのに皆で続き、追撃をしてくることも考えてバーンズが後方にフラググレネードを投擲する。炸裂音が後方で轟くのを背中で感じながらそのまま走り、来た道の階段を登ってガラス製の窓として外に面している通路を通過した。そこから見えるのは最新鋭の装備を積んではいても攻撃の度にそれがブレている攻撃ヘリである。
「でも一旦逃げたところでどうするのよ!ダムには爆弾とかが仕掛けられているのだから根本的な解決にならないわ!」
「心配しないでAR15!さっき傍受できたけど、奴らのリーダーをここから遠ざけるみたい!あいつらの無線からの音声をグローザさんが翻訳してくれたわ!」
「そんなのをいつの間にしてたんだと言いたいところだけどよくやってくれたよ!大体重要なスイッチを握っているのは現場指揮をしている奴だって決まってる、さすがにサイコ野郎の奴らでもそこら辺は変わってないだろ!」
リアルタイムマップが復活したのですぐさま敵位置を割り出す。タッチパネルになっている端末の画面に指を滑らせて操作し、自分達の現在位置から近場にいる敵兵を優先的に表示させた。
「そのまま行ったところの突き当り、右は駄目だ、待ち伏せされてる!」
「じゃあ逆の左の方に行けばいいじゃない!」
「そのまま行ったら行ったで地獄だ、外に出てしまってハボックにハチの巣にされるぞ!」
残念なことだが、どちらにしても逃げ道はなかった。事務室にまで辿り着くときには右の方なのだが、ローガンの言った通りそこでは複数人にアンブッシュ、待ち伏せされている。だからといって逆方向に進んだとしても外へと続くだけで何の意味もない。非常階段があるが外から丸見え、下りるか上る間に三十ミリ機銃に肉片にされてお終いだ。
それに待ち伏せしているのは右側だけだというのが肝である。片側だけに歩兵を集中して待機させていることからして、怨霊達も建物の大まかな構造だけは把握しているのだろう。そうでなければ騒ぎが起こってから十分程度の短時間の間に兵の配置などできたのものではないからだ。
「逃げる場所もはっきりとしてないからはっきりとは断言できないけど、スモーク展開するにしては数も足りない!八方塞がりってのはこういうことだよな忘れてたよクソッタレ!」
「とにかく左へ行きましょう、あそこは遮蔽物も何もないので予め待ち伏せしていた方が有利です!」
後方にいるM4の言う通りに動き、分かれ道に差し掛かったところで左への進行を余儀なくさせられた。とはいえ、地獄へと続く旅の猶予が増えただけなので根本的な解決にはなっていない。
「本当はここまでついていくつもりはなかったんだが礼だ、一つだけ抜け道を教えてやるよてめえら!」
ローガンの横に並んで走っているバーンズが叫び声に近い声質で言ってくる。自然と視線が彼に集まった。
「この先から外に出て大体東へと二百メートルぐらい進んだところに秘密玉を隠しておいていたんだよ!もしも何かあった時は数人だけでも連れてトンズラできるようにな!」
「本当かそれは!?」
「マジな話、嘘発見器がこの場にあったら気概で壊してしまうぐらいの大マジだ!」
「だけど二百メートルじゃ俺の手持ちだけじゃ間に合わない!他にも持ってる奴はいるか!?」
全員に尋ねるが、ローガン以外には誰も持っていないらしく首を振るか否の意を示すなどしてきた。持っている数はローガンのだけで三つしかない。そうなると二百メートルまで離れている地点に到達するまでには足りない。犠牲が出るのを覚悟の上で、というであれば別だがローガンにはそのようなことを前提に作戦行動の立案をしたことないしこの先もするつもりはない。仕方ない、という一言で済ませられてしまう結果を得てしまうのはもうコリゴリなのだから。
「心配するな、そこにはてめえらで行け。オレ様が奴らの面倒を見てやるよ」
「……おい待てバーンズ、お前一人が囮になるっていうのかよ!?」
「それしかねえだろ。オレ様はてめえらとは違う存在、外部の人間だ。それも犯罪者でならず者、これでお役御免できるし手間が省けるじゃねえか」
「犯罪者だからといってあなたを囮に使うっていう馬鹿な真似が見過ごせる筈がないじゃないですか!あなたにはちゃんと私達の基地に来てもらって……!」
「オレ様みたいなクズの生存に拘ってどうする。てめえら全員が甘ったれた世界に入り浸っているわけじゃねえのはわかってるし、長く
認めるのは業腹ではある。しかしバーンズの言う通り、ここから逃げきるには誰かしらかを自分達とは別の方に行かせるのが最善策ではある。叶う事であれば駆けだす前にハボックを撃墜できればいいのだが、可能な装備がなく現状からしてそれだけに集中できる状況ではなければ撤回せざるを得ない。
ならばということで戦術人形の誰かを明後日の方へ行かせるつもりなどローガンには毛頭ない。それだったら自分が行くぐらいに。
苦悩していると振り返らずに走っているグローザが直接投げかけるようにして言った。
「聞かせてもらうけど、生還するだけの勝算があるのかしら?あなたも修羅場で渡り歩いてきたのでしょうから後先のことを考えれないわけはないでしょう」
「たしかに、確証はないがそれだけの算段は出来てるさ」
「考えてその程度、だったら自分勝手なことを口走っているんじゃないわよ!」
そこで片脚を軸に向き直ったグローザがバーンズに掴みかかる。彼の横にいたローガンが止めに入ろうと反応した時には既に事は起こっていた。伸ばされた腕に捕まれたバーンズはされるがままに壁に背中から叩きつけられ、襟元から持ち上げているグローザに見上げられる形で睨まれる。
すぐにローガンもM4が止めに入ろうとしたが、バーンズからそうしないように手を上げられたので一旦下がった。
「あなたがそう考えていても私達からすればそう易々と『はいそうですか』と通すわけにはいかないのよ!
「自分がせっかく助けた命がまたアホみたいなことをして窮地に陥るというのならやりたくない、ということだな。成程、たしかにオレ様もそうなることが目に見えているのならそうしたくない。というよりもそういうことは今までにも何度かあった。通りがかった先でロクでなしに追いつめられて殺されそうになっていたところを助けたら、『あんたの為にこの命を使いたい』とかも何度も言われて、最後にはオレ様を庇って無茶して死んでいった奴を見てきた」
命知らずで無茶をする、それを今まで指摘されたのはローガンにもあった。グリフィンに来る前もその後も。なんなら二時間ほど前にAR15に体罰と一緒に怒られたぐらいだ。
ついローガンは横目でAR15を見てしまったが、彼女も自分の方に視線を移していたらしくすぐさまグローザ達の方に戻る。心当たりなどは幾らでもあるというのはお互いさまという事だった。
「だったら言わなくてもわかるよね?どんな立場にいても命を捨てるような行動をおいそれとするものではないって!」
「ああ、たしかにそうだ。そうだけどよお嬢さん、あんたでも今まで誰かの為に『自分』を張ったことはあっただろ?」
水面に水滴が落ちたことにより波紋が広がっていくようにして一瞬ローガンは内で荒ぶり始めようとしていた胸の痛みが止まった。グローザが話していることがバーンズだけでなく、自分にまで指しているようなことだったので困窮していた感情が嘘のように静まり、周りで聞こえて居る筈の音が遠のく。そして続く会話だけがはっきりと聞こえてきた。
「何を言って……」
「話を逸らし、嘘を言って、逃げんなよお嬢さん。あんたの持つ実力は長い人生を経て得た物だ、ひょっとしたらオレ様よりも長く生きてるかもしれないがな。そんなあんたが内側に譲れないものが一つか二つ、あったりしなかったら手に入れれる筈がねえ。あんたの事はよく知らねえが、
「私には……私にはそんな人なんて……!」
「逃げるなと言っただろうが。他人だけじゃなくて自分にまでごまかしがきくと思ったら大間違いだぞ、自己暗示にも限界があるしな」
力が緩んできた手をそっと振りほどいたバーンズが自分達の先頭の方へと歩いていく。足取りは割と軽やかであり、表情も重苦しい負の感情を浮かべているわけではない。この場にいる者の中で一番顔を合わせているローガンも見たことがない、口元を僅かに綻ばせている顔だった。
「誰にだって戦う原動力というのはある。使命感、復讐だとか第三者からすればそんな当たり障りのないようなつまらなく感じる物が。だけどそれを抱いている当人からすれば簡単に捨て去ることはできない大切な一部だろうさ。それの中で一番強くなれる、してくれる手伝いをしてくれるのは『大切な誰か』だ。すごくクサいことなのかもしれねえが、結局は気持ちの拠り所に出来る者がいる奴が強い。親愛、友愛なりなんだっていい、そう良い感情を預けれる奴が持ててる奴がこの世で一番強くなれる資格を得れる」
足元に転がっている死体を掻き分け、バーンズは怨霊達が所持しているのとは別の銃を手に持ち弾倉を確認。そして各所のメンテナンスをしてから立ち上がった。
「お嬢さん、あんたにも居ただろう『大切な誰か』が。だけど生憎オレ様はそこまで踏み込む役割には就けれない、てめえらグリフィンからすれば余所者だしな。だからそういったのは……」
バーンズの視線がグローザからローガンの方に移る。その目には明確で強い意思がありはするが、どこか申し訳ないような思いも感じさせるそれが。
「てめえに任せたぞ、『狼王ロボ』。てめえらの為に、オレ様がここは預かってやるよ」
そう言い残したバーンズはもう近くにあるところまで来ていた非常階段の扉を蹴破り、上空に銃を撃ってから走り出す。そして手摺に手をかけて飛び越えたところでこちらからは見えなくなった。
消えたその背中を見ていることしか出来なかったローガンは深呼吸すると、グローザの肩に手をゆっくりと置いた。彼女に言うべきことは、そうしたことではない。共に戦って切り抜く、肩を並べる相手に今言うべきことはたった一つだけ。
「行くぞ、グローザ。まだなにも終わっちゃいないぞ」
こちらに振り返ることはなかったが、やや俯き加減でありながらも僅かに頷いて見せた。
星空の下へと皆と一緒にローガンは走った、成すべきことを成すために。
―――M16、たしかにお前の言ってた通りだと思う。結局は誰にだって限界というのはあって、全ての悩みの種の面倒を見きれる訳ないんだって。知る人全員のことを抱えながらも自分の事を疎かにしていない奴なんてこの世にいないだろうし。きっと長生きできる性分じゃないとは思う、なにせ複雑な思いを抱いてはいても見捨てれないとかのそんな理由で敵地に忍び込んだんだし。きっといつかどこかで人知れず死ぬんだろうな。だけどさ、誰かを切り捨ててまで自分の為に生きようとすることなんて、俺にはできないよ―――
実はというと、前半部分の執筆がなかなか進みませんでした。なんでこんなに滞ってしまってるんだ……?てな感じに自分で首を傾げてしまうぐらいに。中盤辺りになってようやくエンジンがかかって一気に進められましたが、その時にはもう週末間際になってまして私は少々ヒーヒー言いながらの作業でした。結局のところ、なんであんなに進めれなかったかわからなかったなぁ……。
とりあえず今回は再加熱、戦闘描写マシマシでございます。ラーメンに例えるのであれば、ハーメルンというこのサイトのスープに原作のドルフロが麺、そしてオリジナリティを一見して感じさせる私のこの作品がトッピングの野菜です。二次創作の作品を食べ物に例えるとは何ぞや、と思うかもしれませんが……ハッハッハ。とにかく、今回を含めて次回とその次で、グローザを絡めた話は終了です。前回の後書きでそう述べてしまったので自分の首を絞めてしまうことにもなったのですが、これだったらなんとかなるかなぁ、てな感じです。とりあえずスランプには陥らずに済みそうだなぁ。
それとどーでもいい話ですが、私が指揮官となっている基地の背景が変わりました。デフォルトの物からLive2Dの『懐かしき風景』というのに。ログインで貯めていたダイヤがそれで吹っ飛びましたが後悔していません。……ごめんなさい、そんなどーでもいい話です。でもちょっと気分が変わるのでいいですね、こういうのを変更するのも。
とりあえず今回はこの辺で―――