誰も助けてくれない -Can you hear me?- 作:麒麟犬
<19:47>
囮として別れたバーンズの言う通りに東側に歩いてもう二十分になり、坂道を上ったり下ったりとして足を取られそうになってもなんとか転ばずに済ませたりとしていたのが限界になってきていた。それでも進み続けていると目的と思わしき場所を見つけれたので、罠の有無を確認しつつゆっくりとエントリーする。中は暗かったので暗視モードのゴーグルを使用し、敵影も無いのを確定させてから備え付けられている電灯を点けた。
点けたことにより、そこに何が置かれていたのかを明確に認識できたので全員で驚愕する。
「こいつはまあ、よくここに置くだけの余裕があったもんだな……」
「そういえばここ一帯に攻撃ヘリが見受けられたとかの報告があったのに昼間では見かけなかったわね。一機を失敬したのがバレたらタダでは済まなかった筈なのによくやったものね」
「結果的に俺達が役立てれそうだしこれに関しては問題ないだろ。さてさて、動かせるかどうかの確認をしないとだな……」
辿り着いたのは倉庫と車庫が一体となっている寂れた建物。多くがトタンでできているその中には軍用のSUV、先日のカーチェイスでバーンズ達が使用していたのと同型のように一目見た時は思ったが、後部が吹き抜けのようになっていたりするので全く違うタイプのものだ。
そして外には手作り感が満載の断熱シートで包み込まれている攻撃ヘリ『AH-64』こと『ハインド』が数機あった。シートを剥がした時には通常通り、有人による操作かと思ったのだがコックピットの操縦席がなかったりと奇怪であったので詳しい解析をROに任せた。
とりあえずSUVの状態を確かめるべく、ローガンはボンネットを開けてエンジンの状態を確認。この間のパトロール前に基地で車両の点検したりもしたが、その時はまだそこまで車の知識にそこまで明るくはなかった。
「動かせそうなの、この車両。元は傭兵達が乗っていたのだからちょっと心配なんだけど……」
「まだなんとも言えないけど一応ガソリンの有無も確認しておこう。それさえもよければ動かせると思う」
AR15が手伝ってくれながら近くで心配そうにしていたが、配線云々や部品の配置などまで突っ込まれたりしない限りは大丈夫そうだった。専門的なところまでを聞かれたらわからないが、ブレーキオイルの残量や各所の摩耗具合を見ても余裕があったのでそう判断したのである。
「ガソリンもよしっと……。AR15、キーをまわしてみてくれ」
「わかったわ」
AR15から応答が返ってから一間空け、エンジンがかけられる。
ブロロロロロロロロロロロッ!と始動したエンジンの具合も確かめ、音にも何かしらか不安な要素が混ざっていないかも注意してみる。覚えている限りのことをすべて一通り調べ終わったローガンはエンジンを切るように言いながらボンネットのカバーを下ろした。
「大丈夫そうだな。とりあえずこいつを使って奴らのリーダーを追跡することはできそうだ」
「『足』を手に入れたのは何よりね。でもどうするのローガン、状況によってはステルスで無力化はできなくないかもしれないけど……」
「いや、もうステルスでやることを前提にしない方がいいだろう。ここまでの戦闘でわかったが、最終的には先回りされてしまってる。それだけの要因を奴らに与えてしまってるというのがあるが、隠密に排除できたとしても袋叩きにされてしまうことが目に見えていすぎだ。だったらもう目標に照準を絞った特化型の強襲でいくのが手だよ」
成功し生還できる可能性がある手段はそれだけだろう。怨霊達の戦闘力は高く侮れないので装備を整える以外の段取りも無いのでは確実に敗北を期することになる。ただし、それは裏を返せば有効な手段を分析し用意しておけば優位に立てることを意味していることにもなる。
「もし時間に余裕があることがわかっているのなら俺がまた奴らに変装して内部分裂を起こすことも考えれたけどな。だけど外にあるヘリが使えるのならまだ他にもやりようがある」
「ちなみに聞くけど、ヘリの操作の仕方の訓練を受けたことは?」
「はっはっは、あるわけねえだろ」
「ダメじゃないそれじゃ」
「だよな。だけど一見して普通のヘリとは違ってたんだ。ROの解析がもしいいのものであるのなら……」
そうして話していると、扉が開きM4とROが入ってくる。二人の顔は光明を得たとばかりに晴々としておりこちらに歩いて来て報告した。
「いいニュースですよ、二人とも。あのヘリは無人機、つまりドローンとして機能させることが出来ます!」
「ドローンとしてってことはやれる範囲が広がるな。となればあれの操作をするのはROになるが行けそうか?」
「ええ、なんとか。兵装も完備されていますし機器に問題も見当たりませんでしたから、本体の私自身をちゃんと防衛してくださるのであれば心置きなく仕事できますよ」
「ならどうするよM4。AR15には言ったが、下手にコソコソするよりももう強襲してしまうのが一番だと俺は思う。出来れば偵察して明確な弱点を割り出したいが、ローター音で遠くからでもばれてしまうのがオチだろうし」
「私も大体同意見です。ですけど、ローガンさんの弾薬が心許ありませんし、狙撃銃で援護に回っていただけますか。ヘリの音で銃声も大分掻き消せると思いますし、近くにスポッターとしてグローザを待機させれば接近されても少しは対処できると思います。ただ、ROは動けないので共にいてください」
ローガンが戦闘で主力としているのはPDWの『ハニーバジャー』だが、現時点で使える弾倉は今装填している一本だけになってしまっている。今朝から現地に残っているのはローガンだけでなくグローザもそうなのだが、ペチェネグがやられた時から使い続けて長期戦に結果的になってしまっている。なのでサイドアームとして併用している『P226』と共に弾薬が誰よりも少ないのは必然的だった。
それであれば貸し出されている『レミントンM700』の残り弾数は合計で七発。一発も外さずにワンショットワンキルで仕留めることが出来た場合は七人屠れるという事である。
現状から見てもう弾薬枯渇していると見ても過言じゃなくなってきているので、M4の提案は筋が通っている。
まだ余裕のあるAR小隊の二人が前線に行き、彼女二人を同じく弾薬がほとんどないグローザと一緒にバックアップすること。無難ともいえるその判断にローガンは反感を覚えず素直に言った。
「了解、きちんとROもこっちで見ておくよ」
「お願いしますねローガンさん。全員で生きて帰るのが第一なんですから」
「その辺の認識は俺だって同じさ、心配するな」
渦巻いているだろう心配な気持ちを紛らわせる為にM4の頭を少々乱暴に撫でまわした後で、ローガンは『レミントンM700』に限界まで弾薬が込められていることを確認してから車内に置いておく。それから車内に予め置かれている『物品』も使えることを確認した。
「ROがいいなら何時でも行けるぞ、準備が整ったら言ってくれ。俺はグローザを呼んでくる」
「あなたは休んでなさい、私が行ってくるわよ。朝から作戦行動に入っていて
「あ~……いいのかAR15。その……」
ローガンでも気がかりとして引っ掛かっているのは、ダムへの突入前の剣呑な雰囲気であった二人の会話である。
そのことを知らないM4とROにはあまり知られないようにする為にも言葉探しで言い淀んでいると、AR15はひらひらと手を振りながら彼女達が一つしかない出入り口の方へと歩いていった。
「大丈夫、心配無用よローガン。言い方はちょっとキツいけど彼女の言ってることは間違ってはいない、あくまで物事の一つの見方よ。それを踏まえて平静でいれば問題ないわ」
「……まあ気を付けろよ。あいつも色々と酷い目にあって参っているわけだから、そこだけは絶対に忘れないでやってくれ」
わかっているとばかりにAR15が振り向かずに再度手を振り、ドアノブを捻って満月が闇夜を照らしている外へと消える。その背中を見送ったローガンはまだ少々心配ではあったが、追いかけるような真似をすれば彼女自身のプライドを傷つけることになりそうだったので車両から下りることはできなかった。
やれやれ、とローガンは車両の荷台にスカルマスクを外しながら腰掛けて一息をついていると、ROと簡易的な打ち合わせが終わったらしいM4がこちらに来た。
「隣、座っても良いですか?」
「ああもちろん。全然構わないぞ」
失礼します、とM4は適度に距離を空けてローガンの隣に腰掛ける。彼女は彼女でやることがあるようで、自分の銃の簡易メンテナンスを行い始めた。
M4が主力武器としている『M4A1』にとってもローガンにも馴染みがある。今となっては苦々しい過去としての象徴になってきているのでとある場所に置いてきたが、アタッチメントだけでなくバレルなども独自にカスタムしたあれを何時でも思い出せる武器だ。毎日のように手にしていたのだから、どこにどのような傷があったのかもありありと目にも浮かんでくる。
作業しているAR小隊の隊長が悪いわけではないのだが、精神的にも疲弊してるのもあって余計に悔恨による感傷に浸りそうになった。
「ローガンさん、AR15のことですけど……」
やや俯きながら湧き上がってきていた感情に葛藤しているローガンの耳にM4からの声が入る。その時に自分が感情の泥沼に沈みそうになっていたことに気づき、取り直しながら顔を上げて横にいる彼女のほうを見た。
「戦場での仲間としてでなく、プライベートの友達としてでもお願いしますね。普段はあんなですけど、誰もいないところでは人知れず本音を漏らしている、そんな人形ですから」
「よろしくしてもらっているのはむしろ俺の方だ。執務室で偶にSOPIIとバカ騒ぎしたりしている時に怒っている時に言う口上は素なんじゃないのか?」
苦笑したM4は銃のレシーバーを直し、見慣れているいつもの形状に戻す。置いていた弾倉を装填しなおして安全装置をかけると近くに立てかけた。自分の方にまっすぐ向けてくるその瞳に映っているのは自分なのだろうが、彼女自身が抱いている思いが何かを見透かすことなど心理学者でない限りは出来やしない。ただ、ローガンも付き合いのある人物として推測はできる。AR15と一番仲が良いことが見受けられるのはローガンからしても彼女であるのだから、友情からなる友好的な感情だろう。
「あれも彼女の本音でしょうけども、AR小隊とは別の他人と話す時はあそこまで素直に口にしないんですよ、指揮官でもそうです。ローガンさんにもSOPIIのようにも接しているということは良い意味で遠慮がないという事なんですよ」
「ん~……そうなのか?正直なところ、単に45となんかしらかで張り合ってたりしてるからその間に立たされているだけなような気がするんだけども」
虎と龍の戦い、その初戦の事を思い出すと背筋から駆け巡るような悪寒が蘇ってくるが、あれはあれで互いに殺意はなく意地による争いだっただろうとローガンは思う。グリフィンに属する戦術人形という建前があるので模擬戦などでなくては手出しはできない。しかし万が一のことも考えて、互いにとってのストッパーとしての役割を勝手に押しつけられているだけだと考えていた。
「う~ん、そう考えてしまうのは一体なんでなのかな~……」
本当に困ったように苦笑しているM4に首を傾げ、ローガンは防弾ベストの外付けポケットから水筒を取り出し中に入っている水を飲んだ。喉を潤し元の位置に戻していると、M4はローガンがしている蒼天の腕章にそっと触れてくる。
「これのデザインと一緒に発注を依頼することを言い出したの、AR15だったんですよ。
「でもまあ、ちょっと横から『おまけ』が付けられてしまったな。グリフィンと『シャドー隊』、それにお前達AR小隊の部隊章が付けられているだけでなかったもんな」
「届いた時はどれがローガンさんの部隊のか少々わかりにくいんじゃないかと思ったのですが、それぞれに大きさのメリハリがあるのでこうして見てみるとわかりますね」
「幸いなことにな。俺としては腕章なんてのが別になくても良いんだが、これはこれでいいさ」
その場で座りながら垂直に両手を組んで背伸びをし、生まれた反動を利用して立ち上がる。手首足首をぐるぐると回したりしてストレッチを始めるローガンにM4は改めて微笑んだ。体を解しながら彼女の方に向いて同じようにして笑いかけて見せると一番最初の頼みに応えた。
「俺でよければあいつと仲良くするさ、心配するな。誰にも本音を打ち明けれないってのはそれはそれで辛いしな」
「お願いしますね、『親友』の席は譲れませんけど」
「そこまでお株を取るつもりもないさM4。せいぜい『お友達』ってやつが限界だろうさ」
ローガンがまた腕や脚までも解しつつ体の向きを変えようとしているとなにかしらかをまたM4は呟いていたのだが、緊迫した状況下から離れていることからもうそこまで注意を割けていなかった。身体の隅々までストレッチを終えてから再びスカルマスクで顔半分を覆っていると、扉が開いてAR15とグローザが駈け込んで来た。
「奴らが来たわよ、まだ距離はあるけど時機に見つかる。先手を打たれるその前に早めにここから出発したほうがいいわ」
それを聞いて全員でもう一度準備に取り掛かる。ローガンは自分の銃器が積まれているかを確認していたが、一つ気になったのでこの場にいる自分を除いた全員に尋ねた。
「なあ、ROは別として
「あなたがやるんじゃないの?」
自分の銃を持ちつつ後部から乗り込んでいくAR15がさも当然とばかりにそう言い残していく。それに一瞬目が点になったローガンが全員を見渡してみると、残るAR小隊の人形達は笑顔で『どうぞどうぞ』としており、グローザは興味なしという感じでAR15に続いて車両に乗り込んだ。ただしその琥珀色の目は『あなたがやったら?』と語っており、最後の逃げ道が閉ざされたことでこの時になってようやく知った。最初から口に出していなかったが、誰もこの車両を運転するつもりはなかったのだということを。
「それじゃ頑張って頂戴、
「……ちくしょうめ、こんなところでやり返されるとは思わなかった」
「ちゃんと私言ったでしょ?覚えてなさいよ、って」
「でもその時は解決し終わったらって話だったろ?」
せめてもの口答え、ということでローガンがそう揚げ足を取ってやるとAR15に笑顔で頭を
――――――
<20:00>
残忍な怨霊達でもそのままでは全速力で走る車輌に追いつけるということはさすがになく、あと十数メートルという地点から外に飛び出したこちらに銃撃をお見舞いしようとしているだけですぐに振り切れた。ただ、今ここで発見されたということは、これから行く先で警戒態勢を敷かれているに違いない。
ガタガタタン!と舗装されていない地面の凹凸に合わせて車体が揺れる度に、助手席に座ってるAR15が様々な意味を含めた眼差しをこちらに向けてくるのでたまったものじゃない。申し訳程度に整えられている所を走行しても揺れる時は揺れる、大小に違いはあれど完全に避けることはできない。だというのに不満そうな意思を第一にしてこちらを言葉はないまま威圧してくるのだから嫌な汗が止まらなかった。
「ステータスはオールグリーン、ドローンとのリンクに問題ないわ。ただ戦闘になったらどうなるかわからないけど」
「今のうちに遠隔操作に慣れておいてRO。その時になったらあなたが一番の頼りよ。ひょっとしたら戦況が向かい風を浴びることになったとしても巻き返せるのはあなた次第なのだから」
M4の言う通り、物資のみならず戦力差でも大きすぎるので戦況を好転させる起点になるのはROが遠隔操作する『ハインド』以外に他ならない。
現状で問題をあげていくのだとすると細かいのを省けば二つだけある。偵察をしていないことから敵勢力がどれだけのものか分からないことが一つ、もう一つはROが操作している『ハインド』ドローンの操作系統である。
彼女曰く、遠隔操作をしている感覚としては『視点はドローンに搭載されているカメラによるものだが、動かしている時の手足までもがヘリそのものにはなっていない感じ』らしい。基地内でコアなゲーマーとしてRFBが知られている彼女の言葉を借りるのであれば『FPSゲームでヘリを操縦させられている』ということだった。
それであれば言うまでもなく、RO自身が操作する『ハインド』ドローンは一機が限界であり、残りの機体は鉄でできている紙飛行機でしかない。幸いなことに操作するのが電子戦に特化した戦術人形ということもあり、操作系統として追従させている。それによりROが操作しているドローンに付いてくる形で他の機体もついて来ているということだ。ただし、ROのような人形だからできることであるが完璧とはいかず攻撃開始したところで特に何もしない、あくまで金魚の糞のようについて来ているだけなのだ。なので見た目だけの効果しか生まず、無理矢理リンクさせていることもあってROへの負担も半端ではないのだった。
そのかわり撃墜されるか、もしくは兵装が無くなった場合は機体を切り替えて戦闘を続行するという手段も取れる。それまでは空を飛ぶハリボテではあるが。
「ローガンさん、進行方向はそのまま北へ!最後に聞き出せた情報によると、敵リーダーは敢えてジャミング装置と同じ地点にいるそうです!」
「となれば奴らが罠を張っているのは明らかだな!どうするM4、さっき話した通りで行くか!?」
「現時点で考えられる最適な戦術は他に考え付きません!これでいくしか……!」
こちらの手口を一から十まで知られているということはないだろうが、どこかで糸口を掴んで追い込んでくる筈だ。何よりもダムの方で『ハボック』の存在が確認された以上、これから向かい先でも軍用兵器が用意されていると見込むべきだ。
それも考えてみると、ROだけに負担がありすぎだ。敵兵器の無力化を第一に行うのだとしても、付け焼刃で操作している彼女一人には荷が重すぎる。
別の手口を考えるべきだろうか、とローガンが考え始めた時だった。走行している右側から自分達が乗っている車両とは別のエンジン音が聞こえてきたのである。
「視認したわ、右から一輌接近!」
AR15の報告により運転しながらそちらに目を向けてみると、ライトを点灯した軍用車両がこちらに向かってきた。悪路である坂道かスピードを落とさずにこちらに付いてくる。
ROを除く皆が戦闘態勢に移行すると、その車輛から精一杯張り上げた声が聞こえてきた。
「援軍として来ましたよ皆さん、助けに来ました!」
「スオミ?スオミなの!?」
「事情は把握できてます、情報共有の為に一度停まっていただけますか!?」
グローザが驚きの声をあげるのでルームミラーで後方の車輛を見ると、たしかにそこには助手席から手を振るスオミが映っていた。彼女の言う通りローガンはブレーキを踏みギアを切り替えてからサイドブレーキを掛ける。そして援軍としてきてくれた彼女達の方を見た。
スオミは笑顔を浮かべながらグローザと話を始め、M4と共に情報共有を始めている。同じ小隊メンバーである彼女達が無事であることに少しだけ涙を浮かべながら駆けたSOPIIがROに抱き付き、目に見えない負担が掛けられている彼女の為にAR15が剥がしにかかった。それらに頬を緩めていると、運転席に座ったままでいるこちらの方にまで歩いてきた少女達が三人。
「傷だらけだけど無事で何よりだよローガン。なんだか私達が会う時って毎回こんな感じな気がするけど」
「こうして話ができるのは命あってだ。わりと状況的に詰みに限りなく近かったからお前達が来てくれて助かったよ」
「こっちに来るまでも私達にも色々とあったんだけどね。それはまた今度話すわ、G11の活躍もね」
「G11が?」
404小隊の隊長、UMP45の隣に立っているG11をローガンは視線を移してみると、件の彼女は普段の一倍以上に気合が入っているように見えた。
やる気に満ち溢れているG11という珍しいものを見てから隊長の方に戻すと、肩を竦めて苦笑いを浮かべている。
「なんともまあ……誰か飴をあげたのか?」
「まさか、404はなにもあげてないわよ。自発的に行動していたから驚いたわよ」
「皆そう言うけどアタシ自身は何も変わってないよローガン。前の不始末を挽回する、それだけなんだから」
それを言われたローガンも45と同じく苦笑したが、内心で感じている苦々しさはそれ以上である。
再会したあの日、イントゥルーダーとの戦闘でG11は途中から援護射撃ができなくなり、また動けるようになるのはもう全てが終わった後だった。謝罪を受けたものの、G11がそこまで責任を感じなくていいことだとはローガンは思うのだが、妙に引き摺り続けて今日である。
ローガンも基地内で顔を合わすたびに大丈夫だと言っていたのだが、それでも暗い表情が晴れないG11を見たのが昨晩の夕餉の後。一日経って転身したようなその変わりように驚いている気持ちはあるのだが、やはり普段とは違う、『らしくないこと』をしているのだから逆にこちらが申し訳ない気分にもなってきていた。
「何度も言うけどなG11、あの状況下じゃ俺一人で注意を逸らし続けるなんてさすがに無理だったんだよ。それに無力化されても結局はお互いに生き残ったじゃねえか」
「なら何回でも言い返させてもらうよローガン。アタシは戦術人形なんだから戦うのは当たり前なんだし、人類を助ける為に造られた。助けるのは民間人だけじゃなく兵士であるローガンもだよ。404を以前に助けてくれた恩を返すどころか借りにさらに積み重ねてしまったんだし、アタシもいつも以上に頑張らないとなんだよ」
「参ったな……」
「まあいいじゃないかよ
「それはそうだが、いつからお前は俺の事をマスター呼びになったんだよ」
「今からだが不満か?」
「勘弁してくれ」
援軍の最後の一人であるバルソクがニヒルな笑みを浮かべてくるのにローガンは溜息をついた。
とはいえ、ここで彼女達が来てくれたのはありがたいことこの上ない。人手が増えたことで自分達五人だけではできない、幅広く展開して攻略に臨むことができるようになったのだから。
彼女達と話していると後方、M4とスオミから全員に集合するように声が掛けられたのでローガンは運転席から出た。先を歩くG11とバルソクの後に背中を追うようにして歩いていくと、背中に勢いよくぶつかってこられた。言うまでもなく、45による衝撃だ。
少々前のめりにぐらつくぐらいで倒れそうになることはなかったが、当の本人はローガンの背に引っ付いたままで特に他のアクションを起こしてこない。
「……ごめんローガン。ちょっとだけ、こうしていさせて」
背中越しに聞こえてくる45の声、それに安堵以外にどのような感情が含まれているのかローガンにはわからなかった。ただ嘘偽りのない、45自身が心から思うことを言ってくれているのだけはわかる。
今日だけで何度したか分からない溜息ではあるが、どれよりもまだ悪くないそれを静かに外へと吐き出した。
「……ちょっとだけだぞ」
「うん」
そこまで距離が離れていないので聞こえるということで、皆に話を始めるように頼む。現地においてのブリーフィングが行われる中、彼女達の中にいる一人がこちらに複雑な思いを乗せて視線を度々向けていたが、今回ばかりはローガンも必死に我慢していた。なにせ、これまで戦ってきて誰かにこうもわかりやすく心配されることなどなかったのだから。
――――――
<20:27>
グローザと徒歩で移動して十分程度で明かりが見えて方向が間違っていなかったことを知れるのはいいが、それを僅かに反射して地面に展開されている罠が見つかった。行く手を遮るように感知式の罠として仕掛けられているワイヤートラップの合間に足を下ろして慎重に乗り越える。踏むか足首が触れるかしても敵方に警報が鳴ってこちらの存在が知られてしまうので、ここで躓くと自衛をするのに精一杯な役立たずになってしまう。
集中力を途切れることなく突破すると木々を爆薬で吹き飛ばして確保したと思われる即席の広場。環境破壊を著しく象徴するように木々の断面がチェーンソーなどで水平に切られたような形状でなく、歪になっているのでそれだけはすぐにわかる。
環境の保護に行動と理念の重鎮を置いているわけではないが、こうもされているとさすがに沸々と怒りが湧いてくる。近年『グリフィンは鉄血との戦闘にかまけて~』云々、様々な問題の原因として社会にこじつけられているのだからここで変な種を捲くような余計なことをされているのだから尚更。
眉間に皺を寄せながらもローガンは近くにグローザがいることを確認すると、彼女も容認できない物を見たかのように表情を歪ませていた。
「各員へ、こっちは目標地点に到達した。ステルスは終了、派手に行こう」
『了解』
周辺に敵影が無いことを確かめ、無線を起動してから対象地点に概ね到着したことを報告し、両手で『レミントンM700』を持ちながら低頭姿勢で移動する。やがて今いる位置の上空からローター音が自分とグローザを追い越し、聴覚で前方に飛行していくことを、木々が途切れていたことで二つの発信源が視覚に映った。二人の戦術人形に操作されている二つの機影は見えているそこの攻撃を開始。
ドドドドドンッ!!と発射されたロケットランチャーが着弾地点を焼き払って吹き飛ばす。
夜空に映える爆炎が立ち上るそこを見下ろし、渡された望遠鏡を持って俯瞰するグローザに続いてローガンは崖になっているそこで匍匐姿勢になり、手に持っているライフルを構えた。
『各員へ通達。先制攻撃は成功しましたが、やはり目標周辺では敵部隊が臨戦態勢に移行していたみたいですぐに応戦してきました』
『手筈通りに空の敵は私とROで引き受ける。たまに地上に支援攻撃はするけどあまり期待しないで』
『了解、これから攻撃を開始します。シャドー1、援護をお願いします』
コールサインを混ぜた要請に応えることを示す為、まず最初に今しがた西から車輛で突入したM4達の方にいる怨霊を息を止めて一人排除。すぐに用済みの薬莢を排出し、M16がいないAR小隊と交戦しようとする敵兵をもう一名を狙って撃つ。第二射はミス、明かりによって輪郭が見えている怨霊の頭部を掠めただけだった。
「落ち着いて狙いなさい、焦らずに確実に。AR小隊もそう簡単にやられはしないんだから」
かつて訓練を受けていたことで扱えてはいるが、ローガンは
その謂れのないツケを払うことになることに内心で舌打ちし、ローガンはボルトを引いてもう一度発射体勢に移行する。
もう一度同じ敵をスコープで見える視界に収めて中心に頭部を捉えると、息を大きく吸いこんで止める。そして右手の人差し指で引き金を絞った。
三射目はクリティカルヒット、狙った通りに弾丸が飛んだらしく血肉の華を咲かせてそこに倒れたのが確認できた。
「グローザ、次は?」
「ちょっと待って……スオミ、敵部隊のリーダーを逃がすという情報を奪取したわ。そっちは今どこなの?」
『詳しくは言えませんが、そちらの右方のどこかですよ』
「冗談を言ってる暇じゃないけど、仕方ないわね。シャドー1、スオミ達を探して」
弾も少ないので下手に発砲することはできないが、せめて位置の把握だけはしておくべきだ。
今はグローザが持っているがROが奪取した無線機により、敵の出方を把握できる手段を手に入れたので動きやすくなるとは思うだろう。だがこちらが無線を用いて情報共有しようとしても敵方にも傍受されているのでこちらだけで情報を専有できない。それでも情報伝達に不便があるのはお互い様。怨霊達はリアルタイムでこちらの無線情報を受け取れているネットワークを確率しているだろうが、ならばそれを逆手に取った戦法を取ることで逆襲を考えた。
『特別な戦法らしい戦法はないまま、それぞれが強襲する』という手段、つまり役割を得た各々が目的を果たすために自由戦闘を行うという事である。
「見つけたぞ、スオミ。そこから十一時の方に修正……いや行きすぎだ……いいぞ、その方向を維持しろ。そうすればグローザの言う方に行き着ける」
『了解、ありがとうございます』
「こちらは援護要請が来るまで一旦周辺警戒などに移って待機。情報は入手次第おって伝達する」
無線をそのままにしたローガンは傍に置いていたラぺリング用のアンカーを地面に打ち込み、そこにフックを掛けておいて万が一の時の備えをしておく。自分達に対して用意されていたわけではない『物品』ではあったが有効活用をしない手はないとしてここまで持ち出したそれをセットしてから戦況を俯瞰する。
ROだけでなく合流してから申し出てくれた45による攻撃で敵方もすぐには体勢を整えるまでには至っておらず、怨霊達それぞれがバラバラに戦闘態勢に移行している。しかし一人で会敵しても固く結束しているAR小隊とスオミの即応部隊に歯が立つことなく敗れているのがありありとわかる。空の方も意外にもROと45が善戦出来ており、地上への支援攻撃が可能なほどの余裕がなくとも相手にもそれを生ませていない。
「それでグローザ。お前は今まで何を経験してきた?」
ジロリと彼女に向けられる視線。ローガンは重要標的の索敵の為に視線はそのまま戦場を見ているのだが、そちらの方は見なくても肌で感じられるだけの負のオーラがあった。
「お前にもお前なりに考えてることがあるだろうから別に無理に話してもらおうとは思ってない。だけどこっちにも知っておきたいことはある。お前が俺の事を断片的に知っているように、俺も人伝に聞かせてもらったが他人から聞いたそれだけが全てじゃないからな」
「それじゃ私が逆に聞かせてもらうこともできるかしら?私自身も噂に流されていたから本人から確たる話を聞いたわけじゃないんだし」
「もちろん。だけど事細かく話すんだとしたら時間が今は足りない。だからお前の事を素直に聞かせてもらいたいんだよ。口約を交わした訳じゃないが、バーンズから垂らされた糸がある。それに関連した共通項が互いにあるだけじゃんく、それにお前の意識が無い間に言っていたことも気になるんだよ」
戦いたくない、そのワードを聞いただけでローガンは少々疑問に思っていた。
グリフィンの戦術人形は定期メンテナンスということで年に数回の各部位の点検が入る。そこにはメンタルモデルのチェックもあるので、異常があればすぐに専門的なメンテナンスチームに回されているのである。
ローガンが聞いた話によれば、メンタルケアを施して効果が見込めなかった場合はリセットされて出荷される当時と同じ状態にされるらしい。そうされる明確な限界点はわからないが、そうなる重要な要因としては『戦意喪失』がまず思い当たる。戦術人形は本来人間の代わりに戦う為に造られた存在なので、それを失っては存在意義を見失うのに等しいからだ。
グローザがその喪失を口ずさむほどのダメージを受けていることは無意識であった彼女自身が実証した。であればそれを見逃すことはグリフィンにない筈である。
「どこにでもいる人形と同じような経験、では済まないわよね。頭が変に回るあなたのことだから」
「付き従っていた指揮官を喪うっつうのがどこにでもある話であればだ。現にここの支部の前指揮官も戦死という形で亡くなってるし。でもそうホイホイとある話じゃないだろ」
「そこまでは知っているのね。だけどあなたが組織を渡り歩いて放浪していただけで知らなかっただけ、という風には考えないの?」
「自分の事だから考えもしたがそれだけで物事の正否を決めれない。お前が現在進行形で何を考えているかの推測が出来ても本当にそうなのかもわからないしな」
先程発砲した分だけの弾込めを終えてボルトを戻し、ローガンはグローザを今度は見た。視線が重なり合って先に目を逸らしたのは彼女の方。観念したようにしながら言葉を紡ぐのにローガンは耳を傾ける。
「たしかに私は極東ロシアで鉄血から同じ祖国から生まれた仲間だけでなく、指揮官も守れずに亡くした。戦力が世界的に不足しているということでメンタルリセットはパス、本部から迎えが寄越されて、そっちに移転することになったのその一ヵ月後よ。あの時の光景が時折フラッシュバックしていたけど、本部で待機して要請があればその支部に赴いて戦って、そして元に戻ることを繰り返した。帰るべき場所というのがわからなくなるのに一年も時間は要らなかったわ」
「居場所を見失ったとかじゃなくて、仕事を終えてから帰還する場所がわからなくなった、というわけでもないようだな」
「目に見える家がわからなくなる方じゃなくて、安らぎを得られるという意味でよ。本来なら人形として必要のないゆとりを感じられるたから、私の中の電脳に深く刻み込まれたそこを無くしたのはメンタルに相当響いたわ。それこそメンタルチェックで引っかかってしまうほどにね。診断レベルはレッド、人間と同じく
「一つだけ聞きたい。メンタルモデルのリセットがその時にされなかったのはなんでだ。PTSDで戦えなくなる兵士の話は聞くが、そういうのは治療を受けて復帰するか退役のどちらかでしかない。だけど戦術人形であればリセットした方が時間が短縮できて戦場投入には手間もかからない。俺自身はその方が良いとは思わないが、切羽詰まった状況下に置かれた場合はそうすべきだとは思う」
「私自身が
えげつないことをするな、と慄きながらも称賛した。グリフィンも一枚岩でないことはヘリアンから説明されていたが、組織の隅々までトップにいる人物の声が届いているのかと聞かれたらそれは違うというのはローガンにもわかる。巨大な団体になれば尚更で、暗部なんていうのが生まれているのならもう届いていない人物がいておかしくない。
「それからでしょうね、私が人間嫌いになったのは。誰にでも言えることだけど、腹の奥底で考えているのがわからないのが見えるのだもの」
「だから俺との初対面でもあんなに刺々しかったのか。訓練施設から何まで俺の事を評価し、終いには個人的な目的なんなり聞き出しては」
「それでもパトロールの初日にスオミとの会話であなたの話を聞いて信じれたのは確かよ。長年生き続けて類には見ない変化を起こしたメンタルモデルを保有している個体だもの。彼女が話してくれることには興味を沸かせるだけでなく、信憑性も濃かったから。あなたが二ヶ月の間に残した功績も、矛盾や疑問点を残すことないようにもしてくれてたわよ。後でお礼言いなさいよ」
「言われなくてもそうするよ。そうなるとグローザ、お前がダムで捕らわれながら苦しんでいたのは……」
ガガガガガガガがガッ!!とローガンが言おうとした瞬間に無線機にノイズが走る。ローガンやグローザ、グリフィンに属する者達が付けている方ではなく、ここまでの道のりで倒した怨霊から拝借した物の方だ。大音量のそれに顔を顰めながら何事かと思い、ローガンは傍らにいる彼女が手に持つ端末に視線を移す。
パッと見たところ異常はないように見えるそれをグローザは操作するが受け付けられず発せられるノイズは収まらない。
やがて耳障りな音が無くなり、スピーカーからは男性の声が聞こえてきた。
『強制的にプライベート回線に切り替えさせてもらったが聞こえているなローガン・ブラック。そしてグローザ14』
ローガンには聞き覚えが無かったが、グローザの方はそうでないことは目に見えていた。顔は青ざめてはいるものの、目の奥に揺らめている戦意の炎までが掻き消えているわけではなく、ロシアアルファベットと数字で表示されている画面を睨んでいる。
そしてローガンが歩むことになる怨霊にも付き纏われる戦場の旅路。その幕が本格的に上がったのは今この時からだった。
どうでもいいことですが、私自身も気のせいの一言では収まらない体験があったりします。幼少期に寝ている母親を馬乗りになっている男が居たり、曇りガラス越しに見えた誰かわからない人影だったり、振り返った瞬間に覆いかぶさるように襲ってきた黒い影だったりと色々と。番組で放映されているものの中には製作会社が作っている、とか聞いたことがありますが、それだけが全てではないと私的には思います。だってそこまで嘘を混ぜ込んだらつまらないじゃないですか。
ここまでのまとめの一環として、現在三章に出ている怨霊という風に比喩させている敵について、基本的なところをここで集約させてみたいと思います。
この敵に備わっているのは兵士としての高い技術。少々わかりにくいとは思いますが、ダミーがやられていたりかすり傷を負わされていたりと一応ローガン達も負傷していたり損耗していたりしています。優位に立てるように今のところあれやこれと戦略でもって応戦してはいますが、自分の中では逆の立場になった場合は恐らく全滅という結果になってしまうのだと思います。それと最も目立っている電子技術が今回の戦いの要です。ジャミングと無線傍受、前者は中途半端でもどちらとも可能となっているデバイスの所有や携帯型ライオットシールドに視野を切り替えれるゴーグルにステルス迷彩。姿を消す迷彩やシールドはともかく、どれか一つの機能を持たせてのデバイスはこの世に出ていますが、そこに別機能を加えたものは今のところないそうです。私が抱いている近未来のロマンを詰め込んでしまったものではありますが(笑)。
そして特筆すべきなのが残虐な嗜好。ダム内部に進入した際、ローガンが目にした弄ばれた死体の山で象徴させました。自分と同じ生物が死体になっているのを実際に見るというだけでなく、それがバラバラになってたりしている。そしてその解体現場がその凄惨さを語ってる。これらを何とも思わない、日常のように感じている敵がこの兵士達です。
以上のように簡単にまとめてみました。今後出てきた際にはこれらのことを踏まえながら読み進めて頂ければ幸いです。
次回で一応三章は締め括っておきたいとは思いますが、場合によっては投稿が遅れたりとあるかもしれませんのでご了承をば。
では今回はこの辺で――――――