誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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第四章、開幕


36.砂塵舞う大地へ -The uncertainty-

朝になって保護区から飛び出したのは三時間ほど前。道中で運転を交代したりして、飾り気も何もないSUVを走らせ続け目的地が見えてくるまでの道中に横槍が入らなかったのは幸運なのかそれとも……。

そんなやや後ろ向きになりながらも、近年では放射能により突然変異を起こし一部だけに密集した植物と広範囲の砂漠化で成っている区域、フロリダ州に到着した。砂塵が舞う廃墟の近くに車両を停め、キーを回してエンジンを切ると後部座席で座っていた人形が助手席で寝ていたチームメイトを起こす。

 

「ほら、ついたわよ。あんたの仕事なんだから準備しなさい」

「んぅ~……わかった……」

 

お馴染みに思えるその様子を見たここまでの運転手、ローガンは苦笑すると頭にいつものニット帽代わりに持たされた物品を手に取る。運転している間もチラチラと目が向けられた、視界を砂塵の中でも確保する為の防護ゴーグルを取り付けている帽子である。耳を覆うようにもなっている、全体的に暗色のそれを被り自分の装備が全て身に着けれているのを確認。それからローガンは助手席に座りながらターバンに四苦八苦している人形、G11の手伝いをしてやった。髪と同色のそれを丁寧に巻いてやり、最後にそう簡単に巻きなおしにならない方にしながら、ローガンは後部座席にいる二人に声を掛ける。

 

「お前達も準備はいいか?昨日のブリーフィング通り、先に俺とG11が外に出る。想定外の事が発生したらお前達も対処してくれ」

「ええ、大丈夫よ」

「同じく。ここで躓いてちゃ仕方ないしな」

 

愛銃を両手に持つ戦術人形の二人、HK416とAEK-999ことバルソクにそう返されてローガンは頷く。そして弾倉を込めたG11に目配せしたから『ハニーバジャー』を持って扉を開け、熱気が溢れている空間へと身を投じた。

車輛から外へ、砂がやや降り積もっている大地へと片脚を置いた瞬間に外気に触れた身体の毛穴が一気に開いたのがわかった。無論ローガンも砂漠の上に立つことになるとなればこうなることを予測をしていたし、ここに来るまでに冷房をガンガン効かせているのに肌に汗が浮かんできたりもしていたので覚悟していた。熱帯や寒冷など極端に厳しい世界に赴いた経験があっても慣れるのはそう簡単なことではない、その言葉を噛みしめながらローガンは車輛の外へと完全に出た。

燦々と照らしてくる太陽を出発前に渡された特殊サングラス越しに睨みつけてから集合地点として指定されている一帯を見渡してみる。視界に映るのは砂ばかりというわけでなく、かつてリゾート地帯と呼ばれていたそこの名残が目についた。そこそこ大きい外食店やアロハシャツなどの衣服の販売店に、既に荒らされた装飾店などなど。ここに来るまでにもグリフィン本部のビルを彷彿とさせるホテルらしき廃墟も見えてもいたので、金持ち達が謳歌していたであろうと想像させられた。

だがそこで一つ問題がある。事前に伝えられていた時間帯で指定されている場所にいるというのに、人影が一つもないことだった。

 

「……ローガン」

「ああ、わかってる」

 

いや、正しく言えば姿を現さない、だ。G11のようにローガンも明確に確認できてはいないがなんとなく気配を感じている。複数の視線が自分と彼女に向けられてはいるが、その主達は一向に出てこようとしていない。まるで地面をなんとなく見ているうちに視界に入ってきた蟻を観察しているように、なにもせずにただ『見て』いる。

それだけのことではあるが、やはりこちらとしては気分がよろしくない。指揮官のハリーと十分な打ち合わせを機器越しにしていたであろうに、敵意を抱かれているようでならなかった。

 

「まあ、警戒してしまうのもわからなくはないんだが……とりあえずG11、お前ならどうするよ?」

「まず一人、隠れている場所を特定できたから警告ということで付近に一発撃とうか」

「不許可だ。今回は外部組織との協力をしながらの仕事だぞ。それじゃ決裂してしまうだろうが」

「じゃあこうする」

 

ずんずんと歩く小さな背中を目線で追って行くと、不意に立ち止まってしゃがむ。そしてそこで砂を掴むようにして掌で鷲掴みにすると一気に持ち上げた。途端に露になるのは、匍匐姿勢で銃を抱えて震えている人間の兵士である。その瞬間に離れていたローガンでもわかるほど、ターバンの合間に見える両目に負の感情である恐怖が吹き上がった。

 

「うわ、うわぁああああああああああああああああ!!」

 

一人の兵士がパニックになったことを合図にあちらこちらから銃を構えた気候に合わせた装いの兵士が出てくる。両手にはカラシニコフの小銃があり、銃口の多くはゆっくりと立ち上がったG11に向けられている。ローガンも言わずもがなではあるが、一応本当に敵意を無いことを示すために両手を上げた。が、付近から大量の兵士が敵意剥き出しで出てきたことに反応して車輛から出てきた二人に制するように片手を向ける。そして銃口を向けずに下げるようにサインを送りそうさせた。

 

「やっぱりそうだ!戦術人形なんて全部敵でしかないんだ!」

「I.O.P製のだって鉄血となにもかわらねえじゃねえか!平然としているあの様があのカス共と違いないことを物語っているじゃねえか!」

 

おいおいそれはないだろ、とローガンは嘆息した。後ろの車輛で待機している二人はこちらの指示通りに銃を下ろしているし、G11もローガンと同じように両手を上げて大人しくしているだけ。ただただ、隠れて様子を窺い続けていた兵士の隠れ蓑を剥いだだけだ。たしかにそのステップを踏む前にここ一帯に聞こえるよう声を張り上げたりしなかったのは問題があるのだろうが、こちらは提示された条件にも従っているし何一つ破っていない。

 

「おい待て落ち着けよ。こんな所で銃弾を無駄にするのはどちらにしても悪い方に転ぶに決まってる。それに落ち度があるのはお互い様だろ」

「ざけんなグリフィンのクソッタレが!てめえはマウントを取った気になってんじゃねえってんだ!」

 

近づいてきた兵士の一人がアサルトライフルのストックでローガンの腹部を殴打し、衝撃で折って下がってきた横面を二撃目として殴った。

ガンッ!と衝撃と痛みが最後に体勢を崩し両手と両膝を砂の大地につき、ローガンは味覚で鉄の味を感じ取ったことで口の中を切ったのだとぼんやりと思ったが、それだけでは状況は終わらない。

ガチャリッと次いで聞こえてきたので、銃口が近くで自分の頭部に向けられたことを察する。顔を上げてみれば予想通り、顔を露にして感情を剥き出しにしている兵士が今にも撃つ様相でこちらを睨みつけていた。

 

「ローガンッ!」

「こんの……!!」

 

我慢ならなくなった416とバルソクが銃を構え直して今度こそ敵意を吐出させるが、数としてはこちらが圧倒的に不利。ダミーはおらず、自分とG11はいつ撃たれてもおかしくない状況である。戦術人形である彼女はまだなんとかなるのだろうが、ただの五体満足な人間であるだけのローガンは頭部に一発撃ち込まれるだけで人生が終わる。

 

「だからお前ら、銃を下ろせって……!」

 

再度呼び掛けようとしたところでもう一発ストックで殴打される。サングラスが目の前に地面に落ちたので少々拾いたい欲に駆られそうになったが、一触即発の状況下に陥ったのでもう下手に動くことが出来ない。この集合地点で出てきた兵士の人数はおおよそ二十人ほど。口々に罵ってくる彼らに対して有効手段はこちらにはない。それどころか、自分から次に何かアクションを起こそうものなら、引き金にもう既に指を掛けているので撃たれるに違いなかった。

まずはここから、といった序盤から躓いたことに吐き気までもが出てきたその時だった。

 

「なに勝手なことをやってやがるてめえら!銃を下ろせ、まだ上げてる奴はぶっ飛ばすぞ!!」

 

使われているのが大体同じ色彩による絵画の中であれば一際目立つ彩色が為されている物のように、上空高くまで真っ直ぐ響かせるような声が鼓膜を震わせてくる。その声により喧騒が静まり返り、どよどよとした焦燥が辺りに生まれてきた。ローガンが顔を上げて見て見ると、肩に僅かに届かないぐらいに切り揃えた黒髪に鋭く吊り上がっている黒目、健康的な印象を与えてくる小麦色の肌の女性がそこにいた。それだけなら一介の民間人と違わないのだが、漆黒の日よけマントの下のデザート柄の迷彩服と黒のタンクトップの装いに加え、両手に持っている『ドラグノフ(SVD)』がそう感じさせない。

そんな女兵士は姿を現した表通りから歩いて警戒している416とバルソクを通り越すと、ローガンの近くで狼狽えている兵士の元に来た。そして加減していないのが丸見えの拳を振りかぶって、その兵士を殴りつけたのである。

ギュルルルルルルンッ!と効果音が付きそうなほど、先程まで自分に暴力をふるった兵士が目の前で回転しながら吹っ飛んだことにローガンは驚いていると、女兵士は青筋を額に浮かべながら怒号を発した。

 

「こんの馬鹿野郎が!まさかと思って見に来てみればやっぱりこれだ!手段を勝手に選ばせてやるとまでてめえに任せてやった覚えはねえぞ!!」

「で、ですがリーダー。こいつらの一人がうちの隠れ蓑を剥がしたんですよ!?それだけでも敵対すると受け取れるでしょう!?」

「んなわけねえだろうが、勝手にてめえらの都合のいいように解釈してるんじゃねえ!大方、被害者の建前を得られるように出るべきタイミングで出てこなかっただけだろう!!」

 

殴られた兵士が地に伏しながら言い訳を並べているが、リーダーと呼ばれた女兵士の勢いは衰えない。むしろ薪をくべられたようにして勢いは増していった。

眼前で繰り広げられている身内での騒動にローガンはどう動けばいいのか分からないが、とりあえず落ちたままになっているサングラスは拾えるものとして取り戻しておき、かけ直しながら全体を改めて見まわしてみた。やはりこの女兵士が来たことによる影響が大きいのか、この場にいる全員がざわついている。

圧による拘束が解けたことでG11がこちらに駆け寄って手を貸してくれたので、それを手に取って立ち上がり成り行きを見ていると、416とバルソクもこちらに来た。

 

「とりあえず、私達が一方的にリンチにされることはなくなった、ということよね」

「たぶんな。初っ端からキツいのをもらった時は話すことすらも絶望的だと思ったんだが、とんでもないことになったもんだ」

 

口内に溜まった血を吐き出して診ようとしていたG11を制してもいると、話が終わったらしい女兵士がこちらに来た。至近距離から非難を食らわされていた兵士がそこで立ちながら俯いているのを放っておき、こちらに砂に足を捕らわれることなく堂々と歩いてくる。それだけなのに、さっき数十名の兵士に銃口を突きつけられた以上のプレッシャーを感じたのだがそれはきっとローガンだけではない。

 

「うちのもんがすまなかったな、お客人達。頭が悪いこいつらにはまたキツく言っておくし、私達の拠点でその傷の治療もする。今回はそれで許してくれ」

「いやまあ……うん、別にいい。こっちもあんたたちの話を聞いていたというのに関わらず配慮に欠けていたしな。とりあえず、落ち着けれる所で話を聞かせてくれ」

 

女兵士がふてぶてしい態度を取るのかと思っていたのだが、素直に頭を下げたのだからやや拍子抜けだった。腰からしっかりと曲げて謝罪するその様は欧米人では全くと言っていいぐらい見ることはない。ローガンは顔つきからして東洋人、中国や韓国、もしくは日本で生まれた人間なのではないかと考えた。

 

「わかった、そっちの指揮官と話し合った通りに私達の拠点に先導することにするよ。私の乗り物は向こうに停めているからそれについてきてくれ。拠点周辺についたらこっちのもんが誘導するからそれに従ってくれればいい」

「オーケー。それじゃまた後で」

「よし……てめえらは歩いてきやがれよ!ここまで来るのに使ってた乗り物は他の奴らにもう回収させてあるからてめえら自身の足で帰って来い!!」

 

最後に残された命に幾ばくかの兵士がそこに座り込むなりしてげんなりとしているが、こちらでも聞いていた約束とは違う事をしていたのだから自業自得だろう。だからといって良い気分に浸っているわけではないのだが、こちらに傷を残すように手を上げたのはあちらの方が先であり、誘発するようなことを招いたのも相手方だけでもある。

できるだけこんな暑い所に居たくないとも思い、ローガンも自分達の車輛の方にも戻ろうとして一人に怨憎の念が込められた視線を向けられているのに気付いた。この区域にてここまで強い思念を向けられることをした覚えはないのだが、ローガンは振り返って探してみると一番自分に高圧的に威圧した兵士が目につく。それですぐに筋違いの逆恨みの主が誰なのかが確定した。

勘弁してくれよ、とローガンは頭を掻きながら特に相手にせずに車輛にまた向かったのだが、それが気に入らなかったらしい。乗り込んでから一瞬だけ横目で見た時には、付近にいた仲間達に羽交い絞めにされていながら、何かを叫んでいた。

 

「マスターは人気者だな。人も人形も関係なく関わり合おうとして来るんだから」

「笑えねえ冗談はよしてくれ。ああいった連中とはいい思い出が皆無、トラウマにもなりかねない記憶の一種だよ」

 

キーを回してエンジンを始動させるとそこから離れ、女兵士が着用していたのと同じような柄のSUVに追従する。四駆車でも走りにくい行路をスイスイと走っている彼女のおかげでこちらにかかってくるプレッシャーは少ない。

それによって生まれる余裕で思い出されるのは二週間も前の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<十四日前>

 

 

 

大欲怨霊事件から三日、和解したグローザがヘリアンと共に本部に帰還した翌日の事である。

当日のローガンはオフということでAR15とM16に連れられて保護区内にある商業区に出向いていた。グリフィン内の料理対決という景気づけのイベントに備え、手分けして各品を集めるとして渡されたメモの通りに指定された器具を籠に放り込んでいる最中に通信機器のバイブレーションが働いたので見てみる。画面には我らが指揮官の名が表示されていたので小声で応答すると口上での挨拶はそこそこに用件はすぐに伝えられた。

 

「緊急方針会議?」

『うん、今さっきその連絡が来てね。ホログラム越しに組織の重鎮を交えた会議が五日後にされることになったんだ』

 

肩と湿布やらなにやらが貼られている頬の間に挟んでいては会話しにくいと思い、片耳にイヤホンマイクを押し込んで起動しリンクさせる。先日の作戦から身体の動きは悪くないが、細かいかすり傷や痣があったりしてて何か触れる度に付近の傷が痛むので持ち出して正解だったとローガンは思った。

 

「急ぎの用、つうか俺が直接的に関わることないんじゃないのかその会議。重鎮の中に変哲のない一兵士がいるんじゃおかしいだろ」

『ところがどっこい、それが君の席まで用意されてるんだよ。鉄血のハイエンドモデル二体の掃討した人間兵、というのが相当関心を引いてしまってる。元々君という人材を起用するには僕も手を焼いたんだけど、こんなところでも面倒なことになるとはね』

 

会話しながら商品棚に置かれている使い捨ての食器セットを籠に放り込む。週の三食、練習も兼ねて夕飯の時間帯では自分達で調理して食事を取ることになったのだが、基地内の食堂やカフェから食器類を借りることはできないのでわざわざ購入することになったのである。世界的に金属が不足している状況下であるのだから店頭に並べられているのは、よく食事を取る箇所とは違って安価な素材でできているものばかりだ。とはいえそれに比例して財布の紐を解きやすいので悪いことではない。

スプーンやフォーク、最近では珍しく思える陶器の皿を入れたりしてもう一度意識を電話の方に向けた。

 

「でもなんか、別の意図を感じるな。気のせいならいいけどよ」

『ご明察。誰かさんが重要情報を秘匿していたからね~参考人として引っ張り出したかったんだろうね~』

「その件は悪かったって言ってるだろ。敵からのボイスメッセージへの信頼性なんてわからないし、タイミングの問題でもあったんだからよ」

『でも今後はないようにしてねローガン。良くも悪くも情報一つで一気に躍進できることがある。今回はそれがこっちに追い風を吹かせたけど、先日の戦いで失敗していたら向かい風ばかりで前に進むこともできなかったから』

 

わかったよ、と最後にローガンは苦々しげに返してからメモを見返して忘れているものが無いか確かめる。そうしてる間にも気まずさを起点とした居心地の悪さを感じはしていたが、一連の流れから察しはついた。

 

『とにかく君が把握できている『オアシス』に関係した情報を君自身が話さなければならないんだよ。僕はその補足で、話のまとめ役としてヘリアンさんから指名されてる。今回こうして急ぎで連絡淹れたのは了承をもらう為さ』

「断ろうものならお前の立場も危うくなるよな。わかった、とにかく五日後に緊急会議というのに出席する。詳しい要項とかあったらメールで俺の端末に送っておいてくれるか?」

『もちろんそうするよ。詳細な日時だとか参加する要人の名前とかその他諸々ね』

 

また明日からの仕事が増えたことに加えて組織内で位の高い人物が集う場に当人としていることで気が重くはなりながらも、ローガンはハリーとの電話を終わらせて電子機器を仕舞った。ハリーにはあのように言ったが、本当の所まだ不透明であるので話すか迷っていたのである。アッシュからの言い渡されたことが真実か否か、それだけでなく一度だけヘリアンから直接言われたことがローガンは気になっていた。

さらに大欲怨霊事件が収束の兆しを見せ始めた昨日にハリーから教えてもらったことだが、『アネクドート』の要求はやはりというべきかワシントンD.Cで死亡が確定された元政府所属のVIPが所持していたとされているUSBメモリーだった。暗号パターンが元アメリカ陸軍基地で入手したデータと共通していることからして、やはり無関係ではない。

細かく話さないとなのか~、とローガンは気が重くなった時だった。

 

「ローガン~まだなのかよ~?私は腹減ったんだけどな~」

「私達のは終わったのだからあとはローガンだけよ。なにかわからないものがあるの?」

 

声のした方を見て見ると、いつもとは違う私服姿のAR15とM16がいた。メンタルモデルが年頃の少女に設定されていることもあって、二人もお洒落している。彩度が低くとも柔らかい印象を持たせる黄色とは対照的にそれが高い赤寄りの橙が裾でラインを引いていたりと秋を連想させるワンピースに、その上から焦げ茶色のジャケットを着用しているのはAR15。ラフな黄緑のシャツの上から薄手の青いパーカーに袖を通し、黒いGパンを穿いていて自分らしさを前面に出しているのはM16である。

やっぱり二人とも美人たよな~とかぼんやり思いつつも、二人の呼びかけにローガンは応えた。

 

「うんや、もう揃えたから会計を頼むだけだよ。そっちはもう終わったのか、早いな」

「まあ私でもここらにはぶらりと出入りすることあるから大体どこに何があるのか分かる。あとはそれが必要になるかどうかだよ。それでも最近」

「そう言って昼食後に行く食料品売り場でお酒のコーナーにずっと留まらないでM16。用があるのは料理酒だけでそのまま飲むつもりはないんだから」

「おぉっとぉ、早速釘を刺してくれたな~。別にいいだろ、見るだけならよ~」

「あなたの場合、皆で出し合って集めたのとも別で自ら有り金をはたいて買いかねないから言ってるのよ。今度の定期健診で引っかかるわよ」

 

いつものような会話がされているのに混ざりたい気持ちはあったが、遅れているのは自分なのでとりあえず背中で聞きつつ会計を店員にカウンターで頼んだ。ある程度は企画主たちから軍資金として渡されていたのだが、やはり無駄遣いはよろしくない。だからAR15の言い分は最もだと、ローガンも頷ける。

さすがに定期健診という戦術人形の各器官の健康診断も兼ねての単語がAR15の口から出たことによるインパクトが強かったのか、次に聞こえてきたM16の声は引き攣ったような、動揺している印象を抱かせた。

 

「だ、だけどよぉAR15、スプリングのバーでも日本酒はありつけないんだぞ?たまにはさぁ……」

「羽目を外して一晩で飲み干し、アルコール分解機能がオーバーヒートして全機能が停止した去年を忘れたの?健診に引っ掛かっただけじゃなくてあれでM4が一番取り乱して大変だったのだからまた同じ目にあるのはごめんよ」

「俺がいない時期にそんなことあったのか……いや、M16のことだから一回だけの事じゃない気がするんだが……。AR15、そこんとこ後でちょっと詳しく」

 

会計を終えたローガンは悪戯心が湧きださせた言葉のまま付き従ってくるAR15にそう言う。M16がこちらの脇腹をどついてくるが、時々おちょくられたりする仕返しである。なのでやめてくれとばかりに困ったようにしていても、これ以上踏み込むのはまずいと感じるまでは聞かせてもらうつもりだ。

 

「そうされるのが嫌だったら自分の持ち金で買うのはやめてM16。ローガンも子供みたいに弱みを得ようとしないでよ」

「わかったよ、そのつもりはなかったがさすがに自粛する。あんなに狼狽した妹の顔を見るのは戦場以外じゃコリゴリだしな」

「うい~……まぁいっか……」

 

AR小隊の良心の一人、というよりも最終防波堤にストップを掛けられたのでローガンはやや不服ながら諦める。

とりあえず購入した商品が入った二つの大きな袋を片手に持ち直し、この区内である飲食店を通信機器で表示させようともう一度取り出す。するとAR15がローガンの軽くなってる方の手に自分の白い手を重ねた。

 

「それでローガン、さっき何を話していたの。様子からしてそこそこ大事っぽかったけど、電話の相手は基地にいる誰かかしら?」

「……故意に聞いていた、わけではないようだな」

「あの店は外からでも見えるようにガラス張りになってるから、目を凝らせばわりと中に誰がいるか見えるさ。だから非売品で展示されている日本製の陶器に目を奪われてるお前の姿もその気になればわかる」

 

ハリーからの電話を取る数分前の様子まで知られたことにローガンは嘆息した。いや、彼との電話をしてたのが知られるのはまだいいが、その前に自分の興味・関心を惹かれた物がなにかまで知られていたのは少々恥ずかしい思いもするものだ。執務室を共にし、三食を共にしていることもあってこちらの趣味すらも既に知られているのに何を今更、と当人達からは言われるだろうから決して口にはしないが。

ハリーから口止めされているわけでもないし別に隠すことでもないということで、ローガンは緊急方針会議の事を話した。

 

「なーるほどね。一兵士が招集会議に参加することになるのは異例と言っちゃ異例だが手っ取り早く把握している情報を誤りなく知るには効率的ではある。でも大方、指揮官やローガンが気に入らない奴が吊し上げの振るいに掛けたいってことでぴったしくる理由をつけて提案されたんだろうが、そこに結果を急いで得ようとする連中が乗っかったんだろうな」

「所属する兵士一人を排斥するのを目的としているのなら陰気で随分回りくどいじゃない。本部の黒い噂の話は端々に聞いていたけど、噂というにしてもあまりにも信憑性はないわ。でも本当の事ならそこまで腐ってたというのかしら?」

「正規軍、というよりも政府上層部の一人に謀殺で亡くなられたクルーガー氏を思い出せよ。あの頃、著しいとはいかずとも正規軍よりも着々と戦果を上げれていたのは間違いなく先代指揮官のような優秀な人がいたからこそだが、そんな人材を育てて生み出したのはあの人だと言っても過言じゃない。発覚して犯人がお縄になった時には歳もかなりのもんだったから獄中で死んだが、そいつの犯行動機は『政府(じぶんたち)にはないものをたくさん持っていたから』とか言ってたそうだぞ」

 

今となってはもう過去の話となったそれを、聞きかじった程度であればローガンも耳にしている。

一般的に呼称されているのは『グリフィン』ではあるが、正式名称は『グリフィン&クルーガー(G&K)社』である。それを設立し最高責任者の初代社長を務めたのは元ロシア内務省で軍人として働いていたクルーガーこと、ベレゾヴィッチ・クルーガーという男性だ。運営にあたって戦術人形を起用し人類の犠牲を最小に抑えるだけに留まらず、鉄血人形の反乱の始まりとなった『蝶事件』にて諦める他PMCとは違って地区侵攻を阻止したりと数々の功績を残している。

そんな彼が亡くなった要因を作ったのはM16の言う通り、彼に異常なまでに嫉妬した挙句に死に追いやったのはロシア政府関係者。結局は視野が狭く融通の利かない老人によるくだらない感情のもつれから来た事件だったが、その後に点在している支部の指揮官の喪失と合わせて大きな損失を(こう)ったと言える。

 

「誰しもがもっている負の感情を暴走させれば、人だって殺める殺意に膨れ上がる。そう言いたいんだよな?」

「そういうことだ。純真に努力を積んでいても望んでいたほどの結果を得られる保証はない。繰り返される望まぬ未来が繰り返されれば、隣の芝が青く見えるどころか輝いて見えてくる。そうなれば蓄積された強い感情の吐き所を求めてしまって暴走列車になるんだよ」

「現実味どころか説得力のある説明ありがとよM16。とにかく当日は墓穴を掘らないように気を付けるさ」

 

真剣そのものの表情から一転し礼を述べられたM16はニカリと笑って表情が良くならないAR15の肩を叩いて諌めた。細長い彼女の指がローガンの手から離れていくが、雑談を始めたM16に意識的にも引っ張ってくる彼女の手に対抗し始めた。膝下のワンピースが翻って露になる美脚に視線が持っていかれない様に通信機器の画面に固定する。

 

「で、AR15。この際だし後で仕事の合間にも手を出せる菓子も見て行かないか。そろそろ切らす頃だろ?」

「そういえばそうだったわね……。この間買ったのはクッキーとかキャラメルみたいな洋菓子だったし、趣向を変えてみようかしら?」

「たしかこの辺で『伝統の味を引き継いで』云々を商売文句としている日本の菓子つうか和菓子の店があってだな。たまにはそういったのも良いとは思うんだよなAR15」

「……なんでそう言いながら俺の方を見てんだよ。いや、興味がないと言えば嘘になるけどよ」

 

ニマニマと笑みを浮かべているM16にローガンは肩眉を上げながらそう言うが、M16はまともに取り合わずに『別に~?』と口笛を吹き始める。AR15は先を歩き始めるM16の背中を少し見ていたが、溜息を吐きながらこちらを見上げた。

 

「ローガンは和菓子を食べたいのかしら?」

「うんまあ……M16みたく今の自分の所持金減らして無理にとは言わないけどな」

 

こちらを射抜くように見てくるAR15に嘘を言わずにありのままにローガンは言う。ローガンもビスケットやクッキーも良いとは思うが、小麦粉やバターなどでできた菓子以外の物も食べたくはなる。だからといって飴やガムみたいにしばらく口の中に残留するものを勧められたのだとしても、業務時間中に微睡んでしまわぬようにする眠気覚ましのものしか口にできない。なので昼寝になる直前のSOPIIにも渡したりするグミも含め、長時間舐めたり噛むそれらは『仕事用』というように無意識に割り切ってしまってたので、今更甘いのをもらってもなかなか口にすることはできない。

なので買われた場合の休憩時間中に出されるであろう和菓子はローガンからすればとても魅力的だった。

 

「本来ならダメって言うんだけど、私達に教えて練習に付き合ってくれてるだけじゃなくて、小隊内の集金にも少し出してくれたんだもの。結果はどうなろうともこれぐらいはお礼するわ」

「そうしてくれるのは嬉しいがお前は良いのか?当日までに時間をかけて納得のいくものが出来上がるようにするのはいいが、それに比例して素材を買う金もかかるんだぞ」

「わかってるわよ、そんなこと。でも私の身近にいてくれて協力もしてくれている人に今少しでも恩返ししたいのよ」

「その気持ちも嬉しいよ、嘘もなく本当にな。今日この時に与えた恩を返してもらうのも良いが後に持ち越そう。そんでグリフィンで大騒ぎした後で、俺達は俺達で祝賀会をしようじゃんか。そこで今まで作った料理を肴に酒飲めれば俺は十分だよ」

「そんなことでいいの?」

「もちろん。下手に気遣われるよりはそっちがいいと俺は思うよ」

 

心配そうにこちらを窺ってくるAR15の額にデコピンを軽くかまし、ローガンは足を止めた彼女の前に出る。そして振り返ってこう言ってやった。

 

「ほら行くぞ、AR15。そんな辛気臭い顔してないで、もっと前向きに行く先を見てみろよ」

 

こちらを待っているM16の元に、迷う少女の手を取ってローガンは向かった。

―――俺はあくまで彼女達についている影であって陽の光を浴びることはどうしてもできない。だけどこうして、手を引いた末に送り出すことはできる―――

そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<現在>

 

 

 

女兵士の先導に従って到着したのは鉄血の襲撃にあって全滅したと言われている民生組織の基地の跡地であった。誘導されるがまま内部に入って見渡して見れば所々にその戦いの後が見受けられたが、使用するようになってからは機能面だけでなく見栄えも気にして補修作業を進めている。砂漠による熱気で汗をかきながら立てられた脚立によじ登って板を打ちつけている工員をローガンはサングラス越しに見て労いの言葉を呟いたが聞こえてはいない。しかし非力な女子供の生活を確保する為にも仕事に従事しているのだから、決して悪いことではない。

トンカントンカンッ!と金槌の音をBGMにしながら、ローガンは青くなっているという殴られた頬を診てもらい、内出血ということで湿布を貼ってもらった。

処置を受けてる間に416は女兵士に挑発的な笑みを浮かべながら言った。

 

「わかっているのかしら?改修中の基地とそこに住まう人達。国家に民生組織として登録されない限りは、大人数で銃を持って居るだけで難民でも地元民にしても『民間人』なんて見られない。もう立派な武装集団と見做されるってことを」

「そうなればお宅みたいなPMCや正規軍に目をつけられもするってことまで考え付くのに時間は要らなかったさ。だが自衛するが為に複数人と銃を取って戦っている間に鉄血に住処を追われた連中がついて来ていた。ネズミ算みたいに増えていったよ」

「事情持ちはもう皆一緒よ、特別なことではないわ。私達みたいな戦術人形に恐怖するのはかまわないけど、事情があるからと過激なまでに排除しようとするのはもうテロリストと変わらなくなる。一応グリフィンは各国家の代わりに鉄血の排除に従事しているのだからもし憚るのならそう判断せざるをえないの」

 

416の言う通り、各国家が有する正規軍の軍事力では鉄血兵の制圧が難しいということでグリフィンに一任されている面がある。目には目を、歯には歯を、戦術人形には戦術人形を。製造元が違っていて素のパロメーターには差があっても、I.O.Pも新たな技術を導入したりもして備えられている性能は総合的にそう変わらない。人間で構成された部隊による白人戦で戦っている正規軍よりもまともに戦えているのはこちら側(グリフィン)だ。

国家に認められたPMC、その為に『戦術人形は皆変わらない』、『人形達が戦場に踏み入る余地はない』、『人間(じぶんたち)の中に紛れ込んでくるな』などどデモを起こすだけならまだしも、本格的に銃をこちらに向けてくるのなら交戦せざるを得なくなってくる。もし今こうして居る間に狙撃を受けたのなら鉛弾が飛んできてこの場にいるグリフィン所属のローガンや416の誰かに命中した時は真っ先に会話している女兵士の組織を疑う。そうするだけの理由はもう数十分前に確実に出来てしまっているからだ。

 

「しかしまあ、ここの皆が俺達を過剰に厄介な余所者として見ていないのはまだいいさ。そんな連中はあそこにいたのが全員ならいいがな」

「あんなでも毎日見ている顔ぶれで気心だってもう知れている。ほぼほぼ間違いなくあれで全員だよ」

「なら結構よ。協力関係を保つのに私達の傍に置かないで頂戴。それがお互いの為よ」

「そうする。さて、話の準備をしながら自己紹介だ。あたしの名はハルカ・タカハシ。ハルカと呼んでくれればそれでいい」

「顔つきから何処かの東洋人かと思っていたんだが日本人だったのか。よく極東からここまで来たな」

 

それはどうも、それとよくご存じで、と彼女はニヤリと歯を見せて笑いながら部屋の隅で待機している部下に命じ、備え付けられている戸棚から地図を引っ張り出させた。それを広げる手伝いをする女兵士、ハルカを見ながら脳にその名を刻んでいると、脇を416に突かれたのでローガンも名を明かした。

 

「ローガン・ブラック。グリフィン北米支部所属部隊の『シャドー隊』隊長だが、今回は共同作戦のグリフィン部隊の隊長になった」

「私は戦術人形のHK416。今回はローガンの補佐として臨時作戦部隊に所属しているわ」

「よろしく。それじゃ現段階で必要な自己紹介はしたということで、本題に入ろうか」

 

部屋の中央にあるアルミ製の大テーブルの上に広げられている紙の地図に416と共に覗き込む。赤ペンによるいくつかの書き込みがある中で、とある一ヵ所が丸で囲まれながらバツ印がないままに強調されていた。

「あんた達が用があるのはこのフロリダ州の全域ではあるが、ここは地下にも開拓されて行き来が盛んに行われるようにもなった場所だ。そんでその出入り口がこの印の位置」

「周辺の地形と点在している跡地からこの星印が現在地、あんたらの基地のここだな。距離もそこそこあるし回り道せずに行くには徒歩しかない」

 

ここに来るまでの道は砂に幾分まみれてはいたが、それでもタイヤがスタックして進行が遅れるようなことにはなる程ではなかった。途中から遠くにフロリダの街並みが見えるのを景色にできるほど見通しの良い道路を走行したが、目的地に近付くにつれてまた波状に積もっていき楽な移動は期待しない方が良いとローガンも悟っていた。元より極端な環境下に赴いての指令であったので覚悟してはいたが、照りつけるどころか刺すようにまき散らす太陽光に耐えながらの徒歩による移動はやはり堪える。

 

「移動方法は徒歩だとしても、地下への入り口は他にもあるわよね。そこだけに限定されているのは障害物がなくまだ使える状態にあるからかしら?」

「たしかに半分その通りではあるがもう半分は違う。最近になって出入りが激しくなってきた鉄血兵のマークが薄いというのが一番の理由だ」

「ハリー……指揮官からもそれは聞かされたけど、徘徊するのとは違って結集したり何かを搬入しているそうね」

「まだ搬入されている物の正体はわかっていないがな。運び込まれていると偵察した奴からの報告を受けたのは昨日の事ですぐにそっちに伝達して正解だった」

 

事前に聞かされた情報の一つにあった鉄血達の動き。ハルカの兵が写真をこちらに渡してきたので見てみると、防弾性に長けたボックスを運んでいる二体の鉄血兵がそこに写されていた。二枚目の写真はそれらを守るよう、厳戒態勢で周りにはヴェスピドやストライカーだけでなく、マンティコアまでもがいる様子のである。

 

「尚更、楽観視できる状況じゃなくなったな……」

 

そもそもこんな状況になったことの情報をどのような伝手で入手したかは教えてもらえなかった。だがワシントンD.Cと同様に密かに潜入し始めていることを知った以上は見て見ぬフリはできないということで即座に派遣されたのがローガン達である。

 

「当初の予定通り、あたしも使える奴を何十人か連れて協力する。ただ緊急時の部下への指揮は私が行う、異論はないか?」

「俺からはない。416は?」

「私達に敵意剥き出しに後ろから撃って来なければ誰でもいいわ」

「善処する。人選や準備にこれから取り掛かるから時間をくれ。二時間後に出立するよう、そちらもそのつもりで」

 

416と頷いてからローガンはハルカの兵に促されるがまま退室するように二人で扉へと歩いていく。

ここから出た後は彼女達の部隊と共有する弾薬と食糧などの物資の荷卸しをしているだろうG11とバルソクと合流し作業を終わらせ、全員と改めて情報共有。ハルカの隊とは連携をできるよう、柔軟に動けるようにも打ち合わせた方が良いのかとも思えるが、それは後でもいいだろう。とりあえず基本的に互いに阻害し合わぬよう、隊列を別にするのも一つの手か、とも考えながらドアノブに手に掛けたところで、ハルカからの声がまた背に届いた。

 

「そういえばこいつはあんたらの上司から聞かせてもらえなかったが、差し支えなければ少しは教えてくれよ」

「ハリーからはなにも教えられていないのか?」

「ああ、これはさすがにということで口を割ってもらえなかったが、奴らの阻止だけを目的に人間のあんたまで来るのは何かあると思うんだよ。単に奴らを制圧するだけなら戦術人形だけでいいし、あたし達の協力は不要の筈だ」

 

事情を詳しく知らない上にグリフィンとの関係が薄い外部の人間ならそう考えて仕方ない。元を辿っていくとグリフィンも昔は戦術人形による部隊を持たず、人間の傭兵によって成っていた民間軍事会社だ。しかしその名が広く知られている現代では戦術人形が主力ということで見られてもいる。

ハリーから聞いた話では、実際に現時点の基地の防衛を目的とした人員の配置ならあるが、遠征として送り出すことは異例だと言う事だ。ただもう既にローガンを隊長とした『シャドー隊』を設立させている。過去と照らし合わせれば今更や懲りずにまた、という印象を抱かせるがどちらにしてもイレギュラーでしかない。

なのでハリー独自の視点で現状を見ていない限りは、ハルカのように怪訝に思って仕方ない。

それに彼から直接頭を下げられて頼まれた、というのが大きく了承したのはローガンだが、時折自身の指揮官が口で言ったのとは別の意図があるのではないかと疑念を薄々持ってしまっている。先日にヘリアンと一対一で話したことを思い出しながら鹹味していった結果ではあるのだが。

 

「……教えてもらえない、てな感じだな」

「悪いな、こっちも抱えている事情だけに簡単に口を割れない。ただ、こっちからはお前達を裏切ることはしない。奴らの排除とは別の仕事をするにしてもそれだけは確約するよ」

「ならいい。こっちからも必要に迫られなければ干渉しない」

 

ひらひらと手を振る彼女から視線を外し416と退室する。歩きながら胸ポケットに挿し込んでいたサングラスを着けて縁についている電源を起動しHUDを立ち上げた。ローガンも知っている通りの今回の指令を簡単に纏められているデータボックスをリンクさせている端末を操作して開きもう一度確認する。

一つ、現地にいる協力者たちと連携して不審な動きを見せている鉄血兵の排除。二つ、可能であればリーダー格の鉄血兵から記録媒体を抜いて所持したまま帰還すること。

そして三つめ。これに関してはハリーだけでなくグリフィン上層部の人間達から強く念を押され、最優先目標とされていることだ。今後で必要なことだということは理解しているが、よりにもよって自分にその重石を直接乗せられることまでには今でも至れていない。一周周ったせいかふわふわしていてどこか現実感がない、だが気分までもがプレス機に掛けられているように全然弾まない、そんな感じだ。

 

「気持ちはわかるけどしっかりしなさい。私は今回の指令であなたがいるから一緒に来たのよ。要のあなたがしっかりしないようじゃ……」

「そんなおっかなく凄まれずともお偉いさん方から圧力も加えられているしわかってるさ」

「いいえ、わかってないわよ。能動的かそれとも受動的に任務をこなすか、心の持ちようで兵士の実力の違いは生まれてくる。あなたならあそこで大人しく殴られることなかったでしょ」

 

単にあれは変な真似をしない方が良いと、余計な軋轢を本格的に拡大させたくなかったからだとローガンは思う。416の指摘の通りあの程度の速度の拳なら防ぐか躱すか、それどころか関節を()めて下に見られることはなかった。しかし前日に『協力者たちの大半が戦術人形という存在にトラウマを持っている人員』という情報が伝えられていたので、手出しをしようと思えなかったのである。

416は強くありつつも聡い人形だ。ローガンが手を出さずに受け身に徹していた理由はわからなくはないだろうが、やはり許容できなかったのだろう。

完璧であることを他人にまで押しつけずとも判定基準のレベルが高いな、とローガンは頭を掻いた。

 

「とにかく行くぞ。さっさとこっちも精神的にも準備を整えないとだしな」

 

何かを追加で言おうとしているチームメイトを置いて歩き出す。忌々しい邪念を振り払えずにいることを腹立たしく思いながら、最重要目標の文字を睨みつけた。

そこにはこうある。『座標』と『地図』を元に『オアシス』を奪取せよ、と。




ハロウィンガチャのスキン被ったなぁと嘆息しています。いやまあ、初のブラックカードの入手ですしポジティブに考えればそう悪いことではないんですけども。でもお知らせをちゃんと読まずにダイヤを全部コイン交換に回したのは痛いなぁ、と後悔している最中です。でもメンタルアップグレードもそろそろ来るんじゃないか、と解説動画見ながら根拠がないままに期待が高まってきてもいます。代用コアも三桁にちょっと前から到達し、さらに増えてきていますから着々とうちの副官の準備を整えて待機。(根も葉もない噂の)もう遠くないだろうアップデートに向けて、終わっていないストーリーを早く終わらせよう。それはそうと、あのロシア製のヤバい二人組の実装はまだですか?
さて、今回から四章に突入し、これまでは周辺環境が特に特筆すべきものはありませんでしたが、放っておけば早々に大事に至る環境下に放り込みました。実際のフロリダ州はユニバーサル云々のテーマパークがあったりしてアメリカの観光地としてうってつけだそうです。実際に問題になっている地球温暖化が進行した場合、それかいずれはこんなになるのかなと考えながら書き進めましたけど、現実のものになるのはいつなんでしょうかね。
どーでもいい話というのが最近ないなぁ、とか思いますが今回はこの辺で―――


『ロマンのあるサングラス型のHUD』
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