誰も助けてくれない -Can you hear me?- 作:麒麟犬
<十二日前>
グリフィン北米支部の中庭を照らす外灯の光が近くにあるのにも拘らず暗く感じるのはその数とここの広さがマッチしていないからだろう。それを補うべく周囲の屋内は明かりも点けられているのだから決して何にも配慮をされていないわけでもない筈だ。
頭でそう理解しているのに暗闇が薄まったように感じないのはきっと視覚を司る眼球が悪くなっているのではなく、身体の仕組みとは違って相反する精神的なもの。納得のいく答えなど出るわけないのに考え続けているせいなのだと、ローガンは思った。
「……そう、そんなことがあったのね。それで戻ってからすぐに電話の外部回線で問い合わせていたの」
「結果はお察しの通り、それ以上の事はわかりません、だったよ。向こうにもわからないことを聞き続けても仕方ないから引いたけど、まだ釈然としないのが本音だな」
中庭の一角には時折催されるという宴会やバーベキューなどのイベントに合わせて造られている配水場所がある。石造りになっているそこで使い終わった調理器具を洗っていた所、手伝いに来た紫色のエプロン姿のAR15に今日の出来事を話していた。
SOPIIの一際大きいはしゃいだ声に振り返り、無邪気に楽しんで料理している様子を微笑ましく思いながらローガンは手を休めず動かしフライパンに付いた洗剤の泡を水流で洗い流す。それを隣に差し出せば布巾を持ったAR15が受け取って隅々まで拭いて予め用意しているボックスへ収納する、といった一連の作業が終了しローガンは手を洗って一服した。
「住居登録はされていなくては身分証明のカードは配分されていない。なのに持ってる、ということは単に写真の人相が一致していないのに気付かなかったという可能性はあるんじゃないかしら」
「そんなことないと言いたいが否定は出来ないな。そうなるとカードに合わせて人相を整形して変えていた……あぁいや、これじゃ発行されているカードの大本の説明ができないか」
「まだあなたはここに来て日が浅いわ。だから別支部の保護区のと見間違えたというのもあるわね。大きさの規格や必要な記載事項は一貫しているけど見比べてみれば色が違ったりもしているみたいだし」
「すんません、不甲斐ない俺ですんません……」
AR15によって上げられた二つの可能性はどちらもローガンの見聞の少なさによるものである。思ってみればローガン自身、オフでもあまり外に出歩かず基地内にて訓練に勤しんでいたのが殆どであったので保護区内で見聞きしたことは多くない。
周囲を行き交う人々の観察を怠っていたことに肩を落とすローガンにAR15は苦笑しながらも言った。
「別にローガンを責めていないわよ。とはいっても、無視できない落ち度を残してしまったのは否めないけど」
「まあそれはそうだけどな。とにかくこの案件はどうしたものかなと思ったけど、このことも一応ハリーに報告しておくべきなのかね」
「それもそうね」
とりあえず明日以降に時間を見つけて口頭で言っておくとして、フライパンなどの調理器具の入ったボックスを持ち上げると皆の元にAR15と戻った。
カイルがいる『ルックオーバー』の事務所に共に赴いた45と9に渡された書類にローガンも帰ってから目を通した。一概に纏めればダムの戦闘で捕縛した傭兵に対しての尋問による情報と、カイルもいる治安組織に潜伏していたアネクドートの工作員についてのデータである。
前者の傭兵達が話したこととすれば、二人それぞれが違う傭兵部隊の者であって仕事として任されていたのは破壊工作を命じられていたこと。そのことはもう彼らと直接交戦したローガンでもわかっていることなのでいいのだが、一番知りたかった雇い主を特定するのに至る情報を得られなかった。だがその人物は現在進行形で民生組織にいるという事だけ知れたのでまだ良しとすることはできる。今は亡き人となった銃撃戦で捕まえた犯罪者と合致する情報と照合したりとまだ他に仕事は山積みではあるのだが。
そして『アネクドート』の工作員だが、こちらからは情報を引き出すことが出来なかった。原因は獄中にて歯に仕込んでいた毒物で自殺したからである。
死亡推定時刻としてはダムにおいての制圧が完了した二日後で、重要参考人にのみ用意されていた独房の壁に血文字で恨み節を書いていたとのこと。それを写した写真の最後に綴られていた一文には『グリフィンもPMCでなくなれば我々とそう変わらない』とあった。
グリフィンといえど、もし下手をやらかして世界的に認められなくなれば要注意の組織としてブラックリストに載ることになる。
「そうは簡単にならないとは思うんだけどな……」
「何か言った、ローガン?」
「うんにゃ、なんでもない」
自然と口から出た言葉を誤魔化してそのまま鍋をかき混ぜている皆の元に戻った。近くに来てみるとぐつぐつと煮えている鍋の音が聞こえてきて機能しているコンロから発せられる熱が伝わってくる。両手で持っていたボックスを地面に下ろすと額に汗を浮かばせながらも笑顔でかき混ぜていたSOPIIが声を掛けてきた。
「ローガン、もうカレールーを入れちゃっていいかなー?」
「灰汁を取って中火でしばらく煮てただろ?だったらもう具材に熱が通っているだろうしもう入れちゃっていいだろうな」
「それじゃあ入れますね……あ、こらSOPII!お湯が跳ねちゃうからそのまま入れちゃわないで!」
本格的に各ジャンルの練習を始めて一週間が経過して、上達するAR小隊の中でSOPIIは自分で料理することの楽しさを見出してから特に躍進している。無論その他の少女達も生真面目に努力していることもあって、具材を切るのも手馴れてきて炒めたり煮込むなどの一連の動きにも、ローガンからすれば特に言う事はない。SOPIIを除いた中でもM4は過去に努力したことがあるのか、早くなくとも遅くもなく手順を一つずつ踏んで調理しており、ROは彼女の補佐をしながらも次回に自分がやることになってもできるように一つずつ覚えるようにしていた。AR15は同時進行で進めるべき下準備などをしながらも、次回からは効率よくありながらも出来栄えの良いようにするにはどうするかといった、今学んでいるのは基礎でありながらも応用の道を見出している。
だが……。
「酒飲みながら楽しく料理、てのは別に構わねえけどそっちに傾倒しすぎるってのはなぁ……」
「包丁が刺さったりしなかったからよかったけど、本来の目的をそっちのけとうのはもう論外よ」
芝生の上で仰向けになって撃沈している
他からは放っておいたらいいとか言われたが、さすがに自分までそうするのは……ということで一番彼女を慕っている小隊の隊長が自室からタオルケットを持ち出して身体に掛けられている。
「まあ今回は最低限のことをしてるしな。今度の飯食った後の皿洗いを大方任せるとして見逃そう」
「そんな甘いことを言わずに全般的に任せたら?偶にはあなたも鬼にならないとダメよ」
「想像したら心が痛んで金棒を自分に振り下ろしてしまうよ。だから身の内を大体知れている奴に角生やすのは俺にはできない」
「まるで叱り方を知らない甘ったれの父親ね」
それで結構、とローガンはM16の元から離れて雑談混じりに料理を続けている三人の方に向いて腰を下ろした。両脚を放り投げてやや後ろに手を着くといったピクニックさながらの座り方になり、一旦頭の中でごちゃごちゃしていたものを置いてボーッとしていると皆が鍋を覗き込んで言った。
「もう完成もそろそろかしら?いい匂いで食欲もそそるわ」
「まだまだここからだよ。私達それぞれで隠し味を加えてアクセントを付け足してみるって話だったじゃん」
SOPIIのその台詞を聞いてローガンは『おっ』と声を漏らした。カレー作りの一つの過程としてあるのは調味料を別で入れて味に変化を持たせるもの。元々カレー自体が味が濃いこともあって少々わかりにくいがそうすることで深みが出てきたり、物によっては辛味が少々緩和してまろやかになったりもして割と奥深い。何よりもカレーの場合は一種類とは言わず複数の調味料を入れても特に問題ない。ただし、常識の範囲内であるに限る。
そう思いながら眺めているとそれぞれが一人ずつ持って来たものを入れ始めた。
まずはAR小隊の隊長を務めるM4。
「リンゴジュースか~。でもM4は辛いの苦手だったけ?」
「苦手、というわけじゃないけどどちらかというと甘い方が私は好きね。だからといって甘すぎるのは嫌だけど」
甘さを出す為にリンゴを加える、というのは昔からよくある。実際に極東の方で販売されている甘口のカレールーにはリンゴの成分が加えられていたりもしていて子供でも食べやすいように調節されている。
人形にも個性があるように好みだってわかれている。そう考えれば誰にでも食べやすい、という点に着目して甘さを出すというのは正解だ。
「AR15はなにを入れるの~?」
「私はソース。入れればカレーのコクだけじゃなく旨味も出るって調べたらあったからこれを選んだの」
中濃ソースを加えるのも一手であり、ローガンも過去に自分達で作った際に加えていた調味料の一つだ。先程M4が加えたリンゴ程でなくとも甘みも引き出せるし、カレーの味をさらに引き立てるのにピッタリである。
甘味でも辛味でも強調させるのはそれらではなく、旨味に目をつけて調べたのはさすがだな、とローガンは思った。
「ROはコーヒー?カレーにコーヒーってありなの?」
「悩んでたらローガンさんが教えてくれたのよ。ソースみたいにコクが出るだけじゃなくて苦味も生まれるって言ってた」
お湯に溶かしたコーヒーが加えられたそれを見ていたが、過去にローガンがスプリングフィールドに頼み込んで譲り受けたそれの元であった。普段はAR小隊の執務室の隅に設置しているポッドの中に入れて何時でも飲めるようにしているのだが、ROからの相談を経て内心渋々ではあるが豆の状態から挽いた小量のコーヒーの元を彼女に譲ったのである。
持ち掛けられたのは今から一、二時間前でとてもじゃないが今から外出して購入するのも手間がかかるし練習に間に合わない、という理由でもローガンとしては惜しく思ったのは誰かに言えることはない。
とはいえ、その分ROが言ったようにカレー自体の味も向上するので万々歳ではある。それも評判の良いスプリングフィールドのコーヒーの大本を担っている材料なのだから拍車をかけることは間違いない。
「そういえば酔い潰れたM16は何を入れるつもりだったのかしら?まさかジャックダニエルを入れようとしていたんじゃ……」
「うぅん、案外まとも、というか一番良さそうなのを選んでた。食堂に置いてある福神漬けの出し汁を持ってきてたよ」
「それってどうなのかしら。カレーの包容力でもそこまで入れちゃったら味が喧嘩するんじゃないの?」
「いや、過去に日本で活躍した海軍のカレーにも加えられていたそうだぞ。旨味成分が凝縮されているからとかなんとかでメッチャ美味くなるっぽい」
これに関してはローガンも興味があったのですかさず彼女の代わりにフォローに入った。赤い汁の入ったボウルを手に持ったAR15がこちらとそれを交互に見て、最終的には鍋の中に中身が投じられる。
AR15の言うようにM16の気性からしてたしかに彼女が一番気に入っている酒類が加えられると思われたが、念の為開始前にこっそり聞いてみたらまともどころか一番的を射ているといえる物を選択していた。だからといって別の料理に投じようものならAR15の懸念の通りになってしまう。しかしカレーはよっぽど下手なことをしなければ味がマイナス方向に振り切れることはない。M16から話を聞いた日本海軍のカレーについてだが、他にも赤ワインやらなにやらも追加していたのに関わらず美味いらしいので大丈夫なのだと考えられる。
「さてさて、じゃあ今度は私だね~!見て驚かないでよ、私も選りすぐりの者を持って来たんだから~!」
「……あれ、なんでかな。まだ見てないというのになんか嫌な予感がするんだけど」
「奇遇ね、私も同じよ。M4、あなたは知っているんじゃなかったっけ?」
「ええとそのぉ……私だけでは決定的な反対意見を言えずに止め切れなかったのです……」
止め切れなかった……?ということにAR15とROと一緒に首を傾げていると、SOPIIが取り出したのを見てみる。二次元だと四角いだけだが縦横に均等に溝がありアルミホイルで包まれている菓子。
チョコレートだった。
「じゃあ入れるね~」
『待て待て待て待て待て待て待て待て!!』
カレーにチョコレート、ということをローガンでも聞いたことがないので即座に二人と同時にストップをかける。いや、カレーの甘味を引き立てるのにいいとどこかで見た覚えがあるが、入れすぎればチョコレートの味が前面に出てしまいよろしくないだろう。
だがSOPIIはそれを考えずにカカオ豆から製造されたその菓子を投じようとしていた。それも板チョコ一つを丸々と。
やや不服そうにして見てくる彼女にAR15がまず聞いた。
「SOPII、カレーにチョコを入れようと思ったのは何故なの?私としてはカレーみたいに単純そうに見えて複雑な料理に入れるのは泥を投じるみたいに感じて反対なのだけれど!?」
「そうよSOPII、こんなところで失敗するというのはあなたも望んでいない筈でしょ?だったらもう少し理性を働かせて……!」
「ぶ~、二人もM4と同じこと言ってる~」
彼女自身も悪意はなく、ただただ美味なカレーライスを作ろうとしているその一心なのだろう。ただ甘みを加えるというのならM4が既にリンゴを入れている。これ以上甘味なものを入れようものなら相反する二つの味の象徴が喧嘩し予定調和ではなくカオスな祭事が口の中で繰り広げられることになる。
ローガンとて自分が食べることになるのならやはり美味な方が良い。偶には綱渡りのようなことをしてもいいがAR小隊の彼女達が関わっている以上はそのようなことはできない。
やいのやいのと言い争いをしている少女達を見ていたが、途中で直感的に嫌な予感を察知した。何時ぞやみたいに言い争いをしている少女達に疎外感を味わせられているこの現状。アウェーであるシチュエーションは幾つか違うがこうしていれば明らかによろしくない展開に転がりかねないと、ローガンはそろりと立ち上がり気付かれないうちにその場から立ち退いた。
そして暗闇に紛れながら今夜は飯抜きかと考えていると背後から聞き慣れた声が聞こえてくる。
『逃げるな、ローガァンッ!!』
聴覚を通じて脳に行き着いたそれがただの声というわけではなく怒声も混じっていると認知した。その瞬間、自然とローガンの身体は条件反射のように駆け出す。次第に背後からとてつもない速度の足音も聞こえてきてホラー映画さながらの展開にローガンも少し涙目になりながらも必死に走った。
その日の夜はローガンとて思い出したくない一夜して記憶として刻まれた。
――――――
<現在>
熱風により僅かに露出してしまっている顔の一部を叩かれながらも双眼鏡で行く先々を偵察し移動を繰り返して一時間経過。ようやく指定されている第一目的地が間近、というところで自分に同行している民兵の一人が報告してきた。
「敵発見。シールド持ちの奴が三体にガトリング持ちが五。他にもイヌッコロが無数にいやがる」
「ガードにストライカーにダイナゲートか。それだけでも奴らが防衛で配置している定石には当てはまっているな」
それに、とローガンは近隣の建物の屋上を見上げた。今は都合のよい建物の陰に自分含めて隠れれているので良いが、無闇に交戦すればここ近隣に建てられている建物の上には狙撃タイプのイェーガーが布陣している。
その排除を目的として道中にて一旦分かれた人員の行動が追い付くのを待ちながらローガンは預けられている民兵が誰も欠けていないことを改めて確認した。
「できれば最後まで誰も死なずにいれたらいいんだがな……」
難しいことではあるがそう思わずにはいられない。撃たれるなりして負傷することはあったとしても命を拾えれば儲けもの、それで生還出来たら勝ちだ。
「あなた達は奴らとの戦いのエキスパートなんですよね。我々だけならともかく、あなた達が居るなら全員生き残るどころか負傷せずに生還できる可能性はあるんじゃ……」
「そこまで過信されると正直困るな。俺の場合はあくまで戦い慣れていることを明確に表されながらも生き残っているだけだよ」
グリフィンに属する前から物資をやり繰りしながらも功を奏してきただけで特に大した人間ではない、とローガンはそう声無く自身に言い聞かせてこの後の打開策を考える。
屋上からの援護射撃を要請できるにしても、ここまで来るのに限られた数の鉄血兵の排除しかしていない。極限環境においての戦闘を可能な限り避ける為にまともに銃を撃ち合うようなことをせず、ローガンとしては(これだけだと聞こえが悪いが)常套手段である反撃のない不意打ちや奇襲を繰り返して早期決着を為してきた。
目の前で布陣している隊列を崩す案もなくはないが、それをするには今回の場合は条件が悪すぎる。
ならば、とローガンはもう一度目標地点を確認しつつも周囲の地形などを頭に入れつつ言った。
「やれるだけのことはやるからお前達はここで待っててくれ。それと持ち物の中にロープがあったよな」
「ええ、民間人の要救助者用として常備しています」
「そのセットを二つ使わせてくれ、後で返す。416にG11はハルカと屋上の確保が出来たら無線を。バルソク、一緒に来い」
『了解、こちらもその時になったら合図を頂戴』
要求したロープを受け取ってから隠れていた飲食店の建物の裏手に戻っては屋上含めて左右も敵影が無いか確認し、路地裏の方にローガンが先行して飛び出す。前々から隠密行動するのであれば機動性を重視するよう、サブマシンガンも扱えるように訓練させていたバルソクが後からついてくる。
それにしても、と思いローガンは思ったことをそのままバルソクに言った。
「お前本来のマシンガンとその弾薬だけでもそれなりに重量があるっていうのに、さらにSMG一式持ってお前は大丈夫なのか?いや、俺が言う事じゃないんだろうけど」
「ここからさらに遠征道具一式持たされるようならさすがに私も持ちきれないがここまでならまだ何とかなるよ。
暑さによる汗をかきながらも遅れずについて来ているバルソクの笑顔を見て、さらに彼女が持っている『PP-19 BATON』に視線を落とす。筒状のドラムマガジンではないそれを持ち出しての訓練に付き合ってはいたが現状までも想定していなかった。モジュールやバネやネジによって構成されている戦術人形でも体力の浪費はやはり発生するということを忘れていたわけではないが無意識に軽んじていたのは確か。口に出せば余計なお節介として片付けられてしまうだろうが限界はいずれやってくる。それも砂漠みたいに精神的にも負荷がかかるところにいれば尚更早く。
仕事の忙しさにかまけてそこまで考えが至ってなかったことにローガンは自身に呆れたが、今回は適宜様子を見ておくことにして今後どうするかを留意しておいた。
「それにしても目的地の近隣に近付けば鉄血も多いといっちゃ多いな。分隊規模で同じルートを巡回しているのか?」
「かもしれないな。スカウトの巡回も厳しくなってるし気を一瞬も抜けないな、離れずに来い」
「ははっ、言われなくともそうするよマスター」
裏路地から表通りへ行くと巡回している鉄血の部隊を網目のゲート越しに目視で確認したのですぐに身を屈めて陰に成りすましてやり過ごす。通り過ぎたのがヴェスピドやスカウトにマンティコアといった多目的部隊だったので現状のまま戦うようものなら火を見るよりも明らかな結果になる。
ガシャンッガシャンッ!と最後尾にいた鉄血の無人歩行戦車が駆動音を響かせながら右から左へと行って見えなくなる。そこでローガンは『ハニーバジャー』のストックを肩に当てながら片手でしっかりと構え、ゆっくりと音を立てないように気をつけてゲートを開ける。そして過ぎ去って背後を見せている鉄血に注意を特に向けつつバルソクに向けて小声で無線越しに言った。
「奴らは気付いてない、今のうちだ」
『オーケー。後ろはこっちで警戒する』
目的地の地下道入口からは死角になっている表通りを横切って反対側に辿り着くと木の板で構成されている壁を見て周囲を見渡す。しかし他にやれることがないと早期に結論付けて跳躍し壁の縁に手を届かせると一気に自身の体を引き上げさせた。脚も駆使し上半身だけ覗かせてその先を見てみたが敵が待ち構えていたり罠を張られていたりということもなく、ただただ何時ぞやのゴミがビニール袋で纏められて置かれているだけ。そのまま片脚も上げて乗り越える姿勢になると周囲を警戒しながらこちらに時折目を向けているバルソクに続く様にハンドサインを送った。
そして完全に表道から壁を通り越したローガンは地面に両脚を着けて脳内にインプットさせていた即席の地図を呼び起こす。大体今の位置が地下道入口の建物を挟んで反対側にいるとし、その横の屋上に上がれる外付けの階段を空を仰いで確認した。
『ローガン、近隣の敵スナイパーは排除完了。そちらの現在位置は?』
「俺とバルソクが移動中、民兵は表道を挟んだ目的地の向かいの飲食店内にて一旦待機させてる」
『やっぱりとは思ってたし別にいいけど真正面から戦うつもりではないのね。何をするつもり?』
「もうちょっと待ってろ。あともう少しでわかるからよ」
416からの無線に応答しながらバルソクが来るのを待ち、次第に苦も無く追い付いてきた彼女を見てみる。先程彼女自身が言ったようになんとかなっているようで息を切らしている様子はない。
自身がチェックされていることに気付いた人形は心配無用とばかりに胸を張って見せる。そして慣れていないことをしているローガンに言った。
「こんなもんでバテたりしないさマスター。足音を一切立てるなとか無茶言わなければどこまでもついていくよ」
「頼むから無理するだけでなく無茶して死ぬような真似はしないでくれよ」
「その台詞はマスターから聞きたくなかったな。AR15とかマスターの近しい連中から散々聞かされていたけど」
頬を膨らませてぶーたれるバルソクに内心溜息を吐き、仰ぎ見て存在を認識している階段を音を立てないようにしながら上る。上りきる前に屋上に敵影が無いこともきちんと確認し、ないことがわかれば反対側に向かって見下ろす。そこには上方だけを確認せずに目高の高さまでしか警戒していない鉄血兵とダイナゲートの群れである。
そこでついさっき預かったロープを下ろし、無線機に手を当てながら周囲で一番高くそびえたつ五階立ての廃マンションを見上げた。
「そろそろそっちの出番、この場にいる全員で俺の合図で同時攻撃を仕掛けるぞ。ダイナゲートと数人の鉄血兵はこっちで受け持つ」
『こっちが担当するのは攻撃されていない鉄血という訳ね、了解。アルファ2、3はスタンバイ』
『よし、あたし達は北側の敵と殺り漏らした敵を狙う。そっちは気にするな』
ローガンはロープの一端を手摺に頑丈に縛り付けると反対側を自分のベルトに備え付けているフックに括り付ける。バルソクと即席のラぺリングロープに仕立てると、彼女が手に持っているフラググレネードに頷く。そして落下防止の手摺を乗り越えて地球からの重力を感じる体勢になる。
重力に逆らって壁に対し垂直になると、ローガンはナイフを取り出しつつゆっくりと下り地上から三メートルギリギリの地点にまで下った。そして同じ体勢で横にいるバルソクにスリーカウントでグレネードをダイナゲート達に投じさせる。
ドンッ!と体で覚えている爆発タイミングと同時に起爆し、破片をまき散らして鉄血の犬達を吹き飛ばした。
「ゴー!」
爆発したそのコンマ数秒でローガンは合図を出して攻撃を開始する。
ローガンは高所から飛び降りるようにして張らせていたロープを一気に緩め、重力に従って落下する。そして真下にいたストライカーを落下の衝撃緩和のクッションにしつつナイフで急所を刺して仕留めた。爆破とほぼほぼ同時の奇襲に狼狽えたかどうかは知らないが、注意を払っていない上方かつ背後の異変に前側にいた盾を持つ鉄血兵は振り返るのにやや時間がかかった。
与えられた数秒の間にローガンはすぐさまナイフの刃を二本指で挟んで持つとそれを一体の鉄血兵に放つ。喉元に命中するのと同時に銃も向けようとしていた別個体が壁に留まっているバルソクに撃ち倒され、ここまでで二人でダイナゲート達と鉄血兵の三体を仕留めた。
他の鉄血兵を見てみると、まだ戦える状態ではあるストライカーとガードのワンセットが体勢を整えようとしている。しかし高所からの狙撃も受けているのもあって、ローガンとバルソクのどちらから対処すべきか明確な演算結果が出ていない様子だった。
『あと二体よ!』
「お前達はもうこっちに来い!騒ぎを起こしたんだ、すぐに敵増援が来るぞ!」
そう指示を出しつつローガンは『ハニーバジャー』を撃って高所からの有利を保持しようとしているバルソクの方に注意が向かないようにする。その間にガードとは別にストライカーの注意が逸れそうになったが、反撃を受ける前にバルソクは迅速にSMGで的確にストライカーの頭部を撃ち抜いて倒した。
その後にガードからの銃撃を受けぬように一旦路上で放置されている廃車に身を隠そうとしたが、ストライカーを倒した後のバルソクの行動は早くガードも機能を停止。
残っていた鉄血兵が倒れたがまだ気は抜けない。すぐにローガンは他よりも近くにいるバルソクに次の指示を出した。
「ロープを回収したらここで周囲警戒しつつ待機だ、俺は民兵達を呼んでくる!」
「わかった、できるだけ早めに頼むぞ。ダミーもないのだから私一人だけだと戦闘になったら長くはもたない!」
「心配するな、そう長くはかからないさ!」
すぐにローガンはハルカから借り受けた民兵達を呼び出しに一時いた建物の方に小走りで向かう。騒ぎを聞きつけた民兵達が建物の陰から顔を覗かせていたので声を大にしてこちらに来るように呼びつけるとローガンもバルソクの元に戻った。
引き連れた民兵と自分達含めてこの場の確保を行っていると、屋上に残しているロープの回収を終えたバルソクが地上に降りてくる。
「敵増援の姿は今のところないがフラグの爆発もあったんだ、いずれはくるだろうな。G11、そっちはあとどれぐらいで到着する?」
『時間的には三分ぐらい欲しい。至るところが酷いことになっていて遠回りもさせられているから』
「ゆっくりはしていられないぞ。スカウトだけでなくマンティコアまでもがうろついているんじゃ交戦することは避けたいからな」
幸いなことに416にG11達と合流するまで鉄血が駆けつけるなどということにはならなかった。
しかしここまでが自分達にもたらしたささやかな幸福だったのだと、後にローガンは思い知らされることとなる。
――――――
明かりは一切ない、暗黒だけがそこに満ちている空間に踏み入ることの経験は民兵達にはないのだろう。最低限として手持ちのライトを持っているのはいいものの、それを暗がりに向けるばかりでカラシニコフの銃口がやや下がっているのが最初だけ見て取れていた。
ただ無理に一人だけで完結させずにツーマンセルを組んで役割分担を与えているのはいい考えだとローガンは思う。幾分遅れが出てくるのは仕方ないとしても、敵対勢力と会敵した時に対応できるか否かで大きな違いが出てくる。有効活用できる物の用途を活かし、それを扱う人材もやり方を心得ることでその問題がある程度までクリアできているのだから現状では上々だろう。
開けた場所に出たところで前進する姿を少々離れたところで見ていたが、ローガンは端末を操作してサングラスのHUDに自分たちが居る地下構造を改めて表示させる。
「ハルカが言った通りここの地下には結構な手が込んでるし、何階層にもなっていて面倒だな。時間がかかること間違いないぞ」
「地上と比べて涼しいのがせめてもの救いだけどね。でもこれだと夜戦さながらの戦いになることは間違いないよ」
駅口の壁面に張り出されていた客向けの地図をスキャンし読み込ませたものだが、大雑把に記されているそれでもゲンナリさせるのに十分だった。
構造としては四階層に区分されており、地下鉄の利用客は上部からの三区画の往来が可能という事。最下層は業務員といった関係者が利用するメンテナンス通路が多くある階層らしいが残念ながらここではそこまで把握できない。ただ不慣れな暗闇にも適応しようとしている民兵達のように『詳しいことがわかっていないだけ』になっただけでも良しとできる。
ここだけで入手できる情報のみの話であれば。
「さて、と……」
ローガンは端末の中に入れているデータの二つを立ち上げる。スクロールして目についた順に操作してHUDに二つとも映すと、現在進行形で表示させたままになっている階層構造を模したスキャンデータとリンクさせた。次第にこちらからの操作を待機しているデータの数が減っていき最終的には一つになる。
近くでその一連の情報の集束を見ていた戦術人形達が各々にローガンの端末の画面に視線を落としながら息を吐いた。
「なるほど、偶然見つけたというリスクを減らす為に『そこには存在しない』として五階層目があるのね」
「何故フロリダ州の
今しがたローガンが立ち上げたのは『オアシス』に繋がるデータの二つの『座標』と『地図』である。解析を含めた情報処理班から託された際には目に見えない重石を体全体につけられたような気分であったが、今となっては消え去るどころか感じる重さが倍になってきていた。
そもそもフロリダ州が『オアシス』の在処だと特定できたのは本当に細い糸からによるものであった。ダム襲撃の傭兵達の一人、戦車の爆風で重傷を負った傭兵がローガンに懇願した時に得たドッグタグから掴んだ糸口を辿った苦労は今でもありありと思い出せる。
「鉄血はここが『オアシス』があるんだって、わかってやってきたのかな。ご丁寧に何かを包装してやってきているんだし」
「そう見て取り掛かった方が吉だろうな。というよりも元は鉄血が作り上げたもののようだし、在処を知っていて然りだろう」
「それを含めて見ても、『オアシス』をここに置いたのは何故かしら。もちろん『オアシス』を奪取した誰かが隠し場所として選んだ、なんてことも考えれなくもないけど」
416が投げかけた疑問に関しては、ローガンも数日前から考察を重ねているが腑に落ちることはなかった。そもそもの話、ローガンを始めとしてその存在を知っている者達が『オアシス』に関係している情報は乏しい。まともな情報を入手したのは生死不明のバーンズからによるものしかない。その時点で考察も何もできたものではないのだが、根拠のない憶測として思い当たったのは鉄血と裏で通じていた人間の誰か、というところだった。
『こちらプロフェット。アルファチーム、応答し現状を報告してくれ』
「こちらアルファリーダー。現在パッケージを探索しに十分ぐらい前から地下に潜っている」
ローガンが話していると思い出したようにしてG11がウェストポーチから小型デバイスを取り出して壁に設置する。そしてそれからアンテナを伸ばして起動すると、ローガンの端末の画面の隅に映されている無線感度が改善された。
今はまだ地中深くまで進攻しているわけではないので大丈夫なのだが、このまま下層に進んでいけば無線が繋がらなくなるのは考えられていた。現時点でのグリフィンの技術で傍受のリスクを気にしないのであればWi-Fiも利用して遠距離通信も可能である。ただ、今回のように地下深くの廃墟同然のエリアに踏み込むのであれば、中継地点を築いていくのが道理だということになった。
そこで持ち出されたのが、G11が設置した小型デバイス。バッテリー内蔵で一日中使用可能であるそれを要所に置いていくのをローガンは彼女に任せることにしたのである。
不備がないかなど第二チェックとして416も見ていくのを脇目にバルソクも話に混ざった。
「それでプロフェット、現時点で何か収穫はあったのか?」
『まだ鉄血に関係している確たる情報は掴めていない。調べていくうちにしょっちゅう手に入る情報としては砂嵐がどうのとか、竜巻がどうとかそんなばかりだよ。だけど気になる情報が耳に入った』
「気になる情報?鉄血のAIが逆立ちして物資を民間人に与え始めたとかか?」
『世界大戦誘発のそれであればもう聞き慣れてきているよ。僕が聞いたのはフロリダの各域に点在している民生組織のこと。その中で幹部の人員が一人だけやられていたというのが幾つかあったんだ』
グリフィンといったPMC規模じゃなくとも、自分達の身を守るとして鉄血といった害を能動的に与えようとしている敵と戦う組織は意外と多い。かつてローガンが所属していた『グランド』もその一つで、司令官の伝手で雇われたエンジニア数名と三十人程度の兵士で構成された組織だった。
さらに勘違いしてはならないのが、人形保護団体などといって武装集団を用い弾圧してくる組織と違う事だ。あくまで各国の反社会的テロ組織としてリストに載っているのは、グリフィン所属のローガンも含めた者達を武力でもって攻撃してくる、という最大の枠組みに当てはまる団体である。ハルカ達のように保護区の外で要請があれば受け入れて協力する、害を為す連中とは関係ない難民を受け入れるといった受動的で善たる組織は『民生組織』として扱われてきた。
その民生組織の幹部クラスの人員の一人だけが殺害された、そのことにローガンは首を捻った。通信を続けながら進み続けるハルカ達とプラットフォーム中央に集合し、さらに下層の地下鉄の第一エリアへと進む。
「幹部一人だけか?民生組織の人員が皆殺しにされたとかじゃなくて?」
『奇妙なことにね。組織内で動機がある人を並べてみてもアリバイがあったりして真相は闇の中。だけど死亡推定時刻以降にも揚々と歩いている様も見られていたりもしていて幽霊じゃないのかって言われているよ』
「推定時刻以降にも生きている様相のまま活動していた、てなるともう何に驚けばいいのかわからなくなるな。犯人自身が扮装していたと考えるのが自然かもしれないが」
『かもしれないけど完全に他人に成りすまそうだなんて限度がある。なんにしてもボロが出る筈なのにそれを悟られずに数日間そのままでいたなんて、僕には信じられないよ』
無理もない、とローガンも思いながら背後から狙い打とうと潜伏している敵がいないか手洗い場なども見て回った。
バラクラバなどで顔を隠さぬまま敵組織に潜伏し続けるなどという芸当はローガンにもできない。それも部下との交流も多い組織の上層にいる人物であれば尚更だ。
「その事例は一つの民生組織内での出来事、て思いたいが……」
『フロリダにある組織なんて片手で収まる程度の数しかないからそう多くない。だけどその過半数で類似した事件が起きているから疑わしいよ』
「一応俺の頭に入れておくが忘れてしまいそうだな」
「心配しなくていいよ。帰ったらこっちで情報を纏めた書類を作成して渡すから。とにかく調査は続ける」
遠距離通信が終了してから女性側のチェックを終えた416とG11に合流する。彼女達からも異常はなかったという報告を受けてからローガンは各所を見て回る民兵達の様子が少々おかしなことに気付いた。
ここまでは無駄のなく進むように心がけていたような動きからその場に留まって辺りを見渡す、この場にあるとしていた物が無く探し物をすることになった同然のそれになっている。
ハルカは何かの紙片を手に周囲を見て回っているので皆でそちらに向かった。
「どうした、なにかあったのか?」
「この地下で数日前から潜伏させていた部下の姿が見えないんだ。ここで合流する手筈になっていたんだが……」
ハルカが持っている紙片をローガンも見てみれば合流する場として今自分たちがいるここが指定されている。二日後の第一プラットフォームの待合室前、と記載されているその紙片とガラスが割れて中と内の隔たりが半壊しているそこを見比べてバルソクは言った。
「指定しているって言っても時間まで書いてないじゃないか。なら単に待ちくたびれたか用を済ませていて遅れているんじゃないのか」
「いいえAEK999、後者はともかく前者はないんじゃないかしら。さすがにこのリーダーも時間厳守というのは教え込んでいるだろうし」
「その通りだ。おおよその合流時間として今の時間帯も無線経由に口頭で伝えている」
「最後に連絡が取れたのはどれぐらい前だ?」
「今からおおよそ一時間前」
時計に視線を落とすハルカに倣ってローガンも腕時計見てみれば現在の時刻は『PM00:21』。一時間前というとローガン達全員がまだラクダの上に乗って目的地を目指していた時だ。
情報の共有は云々、というのを言う前に自分達も彼女達に対し『オアシス』奪取の事を秘匿しているので大きく言えない。もどかしい思いをしながらローガンは溜息を漏らすと同僚達に言った。
「仕方ない、俺達も探そう。だけど鉄血に出くわすことも忘れるな。この場をしらみつぶしに見て行けば痕跡もあるかもしれない」
「すまない客人達。うちの部下の為にもよろしく頼む」
そこで散開してローガンも広範囲にライトを照らして人影がないかなど細かく探した。一度見てきた改札口の方にもなにか手掛かりがあったりしないかなど明度が調節されて明るく見える視界に目を光らせて形跡や転がってるゴミなどに気を払う。古くなってる足跡や錆ついているのなにかしらかの部品など、そこにある物を片っ端に手にとれる物はとってみては調べてみたりしたが変わった点は見つからない。
しばらく探してみて手掛かりはないのかと、まだクリアリングが済んでいないエレベーターを調べていたローガンも内心は半ば諦めムードになろうとしていた。しかしハンドガードに着けているフラッシュライトで斜め前布巾を照らしている間に片脚が金属音を立てる何かを蹴った。ネジやバネとは違って内部に空洞がある金属の独特の音であったが、銃を撃っている兵士からすれば聞き覚えどころか訓練していれば嫌でも聞くことになる音だった。
すぐさまローガンは視線を落としながらフラッシュライトで照らしてみるとそこには思ったものが数多く転がっている。それを手に取ってみていると追い付いてきた416が言った。
「ローガン、それって……」
「ああ、もう用済みの薬莢だがまだ新しい。それに散らばっているのうちのほとんどが……」
明かりを照らしてみるとエレベーターの乗り口付近には銃を撃った後に排出される弾丸の薬莢が多く転がっていた。もちろんそこにあるのはローガンも知っているアサルトライフルなどの弾薬のそれもあるのだが、多くの割合を占めているのは鉄血の銃器によるものだった。
人類と決別し殲滅を目論む鉄血工造が装備している銃器の詳細はローガンも知らない。ただ、人類との戦いにおいて用いる武器そのものの弾薬などが同様の物であってはならない、ということを考えた鉄血は独特の弾丸を製造しているということは確かである。
「そういえば416、付近の壁の方に弾痕があったりしたか?」
「たしかにあるけど新旧に関しては私にわからない。でも注意深く見てみれば戦闘があったのは間違いなさそうね」
「俺達が踏み入る昨日今日じゃなく以前にも戦闘はあったみたいだからそれだけが全てじゃないけどな。でもそっちを見てみろよ」
指差すかわりにライトで指し示されたところはエレベーターゲート。閉じられている両開きのそこの根本には赤々とした引き摺られたと思わしき血痕があり、大本はゲートの内側の方に続いている。
傍にいる416が纏っている雰囲気が一層研ぎ澄まされた刃物の如く鋭利なものに変わったのを見ずとも感じた。ローガン自身も見たくない物を見る覚悟を密かに終えてから『ハニーバジャー』を脇の方に下げて416とは逆の扉の方に隙間から指を掛けた。
「いつでもいいぞ、お前に合わせる」
「行くわよ、三……二……一……!」
416からの合図に合わせ、ローガンもゲートを開けるべく両腕に精一杯の力を込める。ガガガッと軋むような音と共にある程度まで開けれたと思ったタイミングでローガンはすぐさま脇に下げている愛銃を手に取って中を確認する。
ライトで照らされた光景はローガンが予想していた通りであり胸を撫で下ろすことしか出来なかった。しかしそれが見るも無残ではない、いたぶられている様相が無かったのはこちらとしても唯一の救いである。正気を疑うようなしでかしても平然としている、『アネクドート』と同じことをしていないのはローガンとしては何よりの要因だった。
同じくその現場を目撃した416も溜息を漏らし、目をローガンと合わせてから無線機に手を当てて言った。
「ハルカ、問題は解決したわ。あなたからすると最も嫌な形だけど―――」
後々ローガンはこの時から胸騒ぎを感じていたと思い返す。彼女達が話して合流する段取りを進めているこの間にも、鉄血は単純でもいくつかの思惑を進めていた。怠惰でいたわけではなかったのに力不足を感じ得ずにはいられない、そんな最悪な一日の本当の幕開けだった。
大型アップデートが来てAR小隊に使っていたコアが全部返ってきて数としてはとんでもないことになりました。前線基地が云々というのも大事ですが、この先色々と即座に戦力に持ち上げれるだけの用意が必要になったりとゲーム内で忙しくなるでしょうし、先の事だとしても損することはないでしょう。ですけど私の場合、何処かで行き詰って足踏みをすることにはなるでしょうけども。
そのアップデートに伴って自身の分身としてアバターも追加されてました。とりま最初はグリフィンの制服着せていたのですが、今だけセールとして若干安くなっている女子の頭部だけをダイヤを課金して購入しました。そして頭だけを変えて服装は男性用のに、プレイヤー名の横の性別を男にしていれば今で言う男の娘!……いやまあ、少々無茶あるのはわかっているのですが、あれ見た時に私の中で閃いてしまったんですよねぇ……。でもあれの良い所としてはそういった縛りや制限が特にこれといって無い、決められた素材内であれば自分好みのキャラクターを作成できることですね。『それを言い出したらお前、今でも絶賛稼働しているネトゲのキャラ製作と比べられたら~』とか言われたらさすがに苦しいですけどね(笑)。でもあのゲームのメインは自分の分身の作成ではなく、敵キャラとして登場している鉄血と戦う個性豊かな少女達の指揮ですから間違えてはなりません。あくまでこのゲームの醍醐味はそちらですからね……でもまあ……ふへへへへ。
とりあえず今回はこの辺で―――