誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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暑すぎるぜこん畜生……。おかげで一日で書き進めれちまったじゃねえか……。


3.仄暗い穴へ -Into the desparate hole-

昼間は雲一つない快晴であったのに、夜になってからは天候が崩れ、雨どころか雷も落ちてきた。その音に合わせ、ローガンとAR15、SOPIIは発砲して三人のヴェスピドをダウンさせる。

 

「敵ダウン」

「こっちも」

「死体を隠す時間はない。そのまま放っておけ」

 

ローガンは空になった弾倉を捨て、新しいマガジンを叩きこむ。ボルトキャッチのボタンを押してリロードを完了させたところで、背後にいるSOPIIがローガンの肩を叩いた。

 

「ねえ、右手とか大丈夫?」

「……大丈夫だから心配するな。これぐらいのことで銃を落としたりはしねえよ」

「ううん、そうじゃなくて……」

「話は全てが終わった後でまた聞くから、今は集中しろ」

 

心配してくれているSOPIIの心遣いはありがたいが、今ではローガンの気分を逆撫でするだけだろう。そう彼女はなんとなく察し、身を引いた。

『悪いな、お前が悪いわけじゃないのに』と心中で気遣ってくれている彼女に謝ったローガンは無線を繋いで、自分達の最後尾にいるAR15に確認をとる。

 

「AR15、弾薬とかはまだ大丈夫か?」

「ええ。二人とは違ってまだ数回しか撃ってないから余裕はあるわよ」

「了解」

 

縦一列のフォーメーションで南東の村を目指して一時間。

マジックのUAVによる支援は夜間になれば長い間持たない上に天候が悪化したことで本部に戻し、ローガンが持ってきたドローンもSOPIIの救出戦で破損しほとんど使えなくなったため収納されている。電子機器による捜索はできなくなったため、ここからは昔ながらの方法で進行せざるを得なかった。そのかわりではあるが―――。

 

『こちらマジック。ローガン、グリフィンからの援軍も作戦区域に向かっているそうだ。ただし、悪天候の為合流には天候が回復するまで待機するとのこと』

「ラジャーだ、マジック。それとだが……」

『わかってる。もしもの時のアルファ2、ケイドに関しての準備は始めている』

「……すまない」

『気にするな。こちらにも不手際があったんだ。お前だけが気負う必要もない』

 

作戦状況、ハイエンドモデルの個体の確認、そして現地入りしている隊員のうちの一人のステータスが長時間不明になったことで、出発前にグリフィンからの通信で援軍を送るとの無線が来たのである。グランドの司令官であるノートンをはじめとした上層部の連中は変にプライドが高い。見栄ばかりを張る癖があったのだからしぶしぶといったところだろうが、グリフィンは恐らく最初から連中を信頼していないのだろう。マジックによると、AR小隊を受け入れているグリフィンの指揮官は少し前までは新人であったというのにハイエンドモデルの個体を隊を指揮し撃破したらしい。指揮官としての経験はまだそこまで積んではいないものの、入手した情報の信頼性などを踏まえて人柄を把握することには長けているらしい。それが本当かどうかをAR15に尋ねてみたところ、真実らしく指揮官の前で嘘をいうものならすぐに見破られ目が笑っていない笑顔を向けられるとのことだった。そうなると、現在グリフィンの指揮官もあながち馬鹿にできないだろう。話が脱線したが、その指揮官は単独でAR小隊の二体と合流して見せたローガンのことを評価しており、可能な限りの支援を約束するとのことである。

そしてケイドの行方である。UAVによる捜索は現在できないが、夜が明け次第再び地上部隊も加えて行うとマジックから確約をローガンはもらっていたのである。一時間ほど前のハンターからの通信で荒れたローガンは、少々意気消沈した状態で報告を行った。藁にも縋る思いで実際に確認するまではあきらめない、作戦を続行するということで話は集束した。

 

「……よし。マジック、目的地に着いたぞ」

『了解した。暗闇に乗じて不意打ちを仕掛ける可能性もある、注意せよ』

 

そして現在、南東の村に到着したローガン達はM4の捜索を開始した。

村自体は廃村となっており、人の気配が微塵もない。それどころか、荒れた様子からゴーストビレッジと化している。加えて、複数の鉄血の戦術人形が骸となって転がっていることから戦闘があったことが窺えた。

散開し捜索を開始しようとしたが、明かり一つもない暗闇で周りが敵だらけだということで固まっていくことになった。室内の捜索ということで、フラッシュライトが付いているP226を構え、ローガンが先頭に立つ。一軒一軒を細かく見てもM4の姿は見えない。だが―――。

 

「こいつは……伝言か?」

「『臨時の物と思われる鉄血のアジトを発見しました。ここより北西、墜落現場付近の地下です。これを読んでいるのがAR小隊の誰かであることを願います。私は先にそこに向かいます』。間違いない、M4からの伝言ね」

『昼間の通信では弾薬も底をつきそうになる、と言ってたのに先行して向かったのか。ローガン、急ぐ必要があるぞ』

「ああ。マジック、グリフィンの方にも同じように報告しておいてくれ」

『了解した』

 

ハンターからの通信で『AR小隊の新たな人質』と言っていたのを思い出す。この伝言がいつ彫られたのか定かでないため、それがM4という可能性がある。しかしもしそうではなく、M4がまだ捕まっていない状態でM16が捕虜となっているのであれば一気にこの任務の終わりが見えてくる。

いずれにせよ、ここでゆったりとはしていられないだろう。

 

「AR15、SOPII、急ぐぞ」

 

ローガンは戦術人形の二体にそう呼び掛けると走り出す。そのあとを追いかける戦術人形―――いや、二人の少女たちは顔を見合わせて頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

墜落現場付近に到着したローガン達は辺りに目を凝らして見せる。昼間の時とは違い、警備が厳重になるどころかいる数が少ない。おそらくM4の言うように地下に奴らのアジトがあるのかもしれない。

さてどうしようかと、ローガンが考え始めると―――。

 

「ねえ、ローガン」

 

AR15に声を掛けられ、振り向くとそこには一度どこかで見た表情を浮かべている彼女がいた。

 

「私はね、他の子にはあまり言えないような悩みがあったの」

「……どうしたいきなり」

「コルトAR15っていうライフルは警察・軍用にも採用されなかった民間用の銃なの。だから栄誉を求めて躍起になっていた時期があったの。あまり知られていない銃だけど、良い物だったんだって知って欲しかったから」

「……たしかに、同じ系列の銃の名前はよく聞くが、コルトAR15という名前は聞いたことなかったな」

「でも、それはささいなことだった。大事なのは私がそう名付けられてその銃を使っているだけで何をどう成すか、それだけだったの。『栄誉と言うのは敵を砕くことで得られるものばかりじゃない。無力で泣きそうになっている人にただ手を差し伸べるだけでもいい。それは小さな勲章かもしれないけど、誰かを助けたことを証明する証になる』。私の指揮官の言葉よ」

 

たしかに、敵である鉄血を倒すだけで世の中が救われると思ったら大間違いだ。世界の平穏を取り戻すために欠かすことのできない事項の一つではあるが、全てが終わった後に兵士だけが残っていても何も解決しない。元の暮らしを取り戻すために技術を持つ者も残ってなければならない。農畜、建築、商業など人が生きていくのには欠かせない。そして、次の世代を代表する子供たちに伝えて人類の世界を再び築く。銃やナイフを握りしめて戦うのはその第一歩を踏み出すための足掛かりに過ぎないのだ。

 

「私達は戦う為に、それだけの為に作られた存在なのかもしれない。でもそうだったら擬似感情モジュールなんて組み込まれなかったと思うの。連携をとって戦う為なら別にプログラムとかでもいいのだから。開発者であるI.O.P社の16Labの人は、もういない。私はこの胸の痛みを伴うようにしたその意味を探すために戦うことにしたのよ」

「そのために、誰かを助けることにも注力したのか?」

「ええ。初めはうまくいかなかったけれどね」

 

自嘲気味にAR15は笑う。だがそこに、過去の自分を馬鹿にしているような様子はなかった。

 

「でも段々と分かってきたの。表情、言葉、身振り。コミュニケーションをとるにはそのうちの一つだけでもいいのだと知ってからね」

「あとの二つはまだわかるが、表情で相手の考えがわかるとかお前はエスパーかなにかか?」

「茶化さないでよ。感情というのは表情にも表れるのだから、喜怒哀楽ぐらいあなたにもわかるでしょ」

 

それもそうだなとローガンは思う。特殊部隊の隊員になれば、心理学を学ばされることもある。敵兵の考えを読み、次の行動を予測するためだ。ローガンが相手にするのは鉄血であるため不要とされたが、遠征で現地の人と会話して感情の微妙な変化を感じ取ることが出来るようにする為に昔の本を引っ張り出して独学で学んだのだった。

 

「今のあなたを見ていると、過去の私を見ているようで胸が痛むわ。だから教えて」

 

回想から帰ると、決意に満ちたAR15の瞳と視線が重なる。サファイアのようで、青空のようでもあるその瞳が真っ直ぐローガンを見つめる。

 

「あなたは、一体何を抱えているの。ケイドを、チームを失ったことでなぜそんなに荒立つの?」

 

攻めているのでなく、また尋問するかのように無理やり聞き出そうとしているわけでもない。ただ単に知りたいから聞くだけ。それだけのようだった。

 

「……これ、なにかわかるか」

 

先行しているM4に追い付く為に急がねばならないが、警備の交代か鉄血の動きが荒くなってきていた。焦って強行しても仕方ないと判断したローガンはカスタムM4のフレームを見せる。

AR15と背後で黙って話を聞いていたSOPIIが見てみると、無数の小さい傷の中に、人為的につけられているような四つの傷痕を見つけた。まるでタリーと呼ばれる数え方でつけられている斜め線のようだった。

 

「これはな、相棒と呼ぶまで俺が組んできていた奴の数だ」

 

二人が目を見開く。四つ、となると四人。

 

「ケイドがこの数の中には……」

「まだ入ってない。あいつが本当に死んでたとすれば五人目だ」

 

二人から目を離し、墜落現場の方に視線を向けてみればまだ交代が終わっていないのか慌ただしい。これだったら少しは話してもいいかもしれない。

 

「俺がまだ二十歳になる前に組んだ相棒は同い年ぐらいの女だった。恋愛感情はなかったが、それでも大切だったよ。周りは恋人とか兄妹のようだとか言ってたけどな」

「……その人が最初の?」

「ああ。あいつと一個中隊と共に臨んだ任務でのことだった」

 

ローガンは二人に語った。

その時の任務は鉄血ではない組織に侵攻された土地を取り戻すための作戦だった。事前の情報では数としては敵はこちらが一個中隊であるため勝っているはずだったのだ。しかし戦場に来てみれば全然違った。大人数で待ち伏せされ、反撃を許されることなく撤退せざるを得なくなったのである。その時、人生で初めての相棒を失った。後にローガンは仲間の、彼女のドックタグだけでもと思い数人のメンバーと潜入。道中でどうしても派手な攻撃が必要になったため行った。その戦闘の最中、ローガンはある者を見てしまったのである。それは、他よりも綺麗な状態で残されていた彼女の遺体であった。それを見たローガンは動きが止まってしまい捕えられ、他のメンバーも同じ末路を辿った。地下の奥深くに引きずられたローガンは尋問を受けた。他に仲間は、名前は、所属する部隊の基地の場所はと。ローガンは口を割らなかったが、他の仲間は苦痛に耐えきれず喋ってしまったのだった。それからは実力を、肉体の強靭さ、精神的なタフネスを兼ね揃えたローガンのみを引き入れようと組織の中で動きがあった。仲間が殺される様を見せられたり拷問を受けることもあったが、なによりもそれまでと打って変わって食事まで用意されたのである。

しかしローガンはそれに手を出さなかった。水も喉を通さず目の前の敵を見据えていたのである。やがて、しびれを切らした組織の処刑人がローガンを殺そうとして牢屋を開けた瞬間、彼は磨いていた牙をその男に突き立てた。それからは頭の中に入れてきた地下の構造で要所となる地下の柱を破壊して回った。銃弾、爆弾の全てを駆使して。やがて地上に現れたローガンを、救出に現れた味方に捕えられた敵がこう表した。

 

「アメリカの博物学者のアーネスト・トンプソン・シートンという男の創作物語に『狼王ロボ』というのがある。その狼の辿った末路は死ではあるが、俺はそうならなかった。末路は物語と違うが、兵士としての気高さだとかが物語の内容と似通っているってことでそう呼ばれた」

「それが……あなたが兵士としての?」

「二つ名なんてのは戦場じゃ特に意味がない、俺には不要さ。だけどその時に多くの友人を失ったのは事実で、目を背くことが出来ない現実だったんだ。俺からすれば、ただの忌み名だよ」

 

戦場では死があるのは当たり前である。そこに英雄というのはいない。せめて仲間の死を無駄にせず勝利に貢献したというだけであり、その者はただの一人の兵士に過ぎないのだ。英雄がいるのであれば、誰一人として犠牲になる人は、いない。

 

「それでローガン。あなたはなにかかわったの?」

 

SOPIIの問いかけにローガンはかぶりを振った。

 

「とくに何も。ただ、相棒となる奴が次々と逝ってしまって組む奴がいなくなるだけだ。『ローガン・ブラック?ああ、あの狼王だか死神とか知らん奴か』って感じでな。ケイドはそんな俺に『両脚を失っても生還して見せたんだ。その幸運であればお前のジンクスなんざどうってことないよ』て近付いてきたんだ」

 

今思えば、変な男だったと思う。両脚が義足で飄々としており、冗談やギャグを全力でかましてくる男。あんなのが何人もいたら疲れるが、せめて気が沈むようなことがあったとしても何ともなくなるだろう。

 

「戦場じゃなにがあるのかわからない。仲間が死んだとしても残したものを、なにかを回収できる保証なんてない。だから俺はこうしてあいつらを忘れないよう、傷を刻んでいるのさ」

 

四つの線を指で撫でる。ナイフで刻まれたその傷痕だけは消されないよう、なかったことにならないように。名前だって、ローガンは忘れていない。傷を見ればいつだって思い出すのだ。

 

「……あなたが抱えているものはわかったわ。何を糧に、原動力として戦っているのかはまだわからないけど、自分の命を誰かの為に使おうとしているのだけはわかったから」

 

AR15が前に来た瞬間、ローガンの鳩尾に拳が叩き込まれる。その一撃には戦術人形としての力が発揮されてはいるが、人体を壊すほどではない強さが乗せられていた。痛みを感じた瞬間、吐き気と同時に視界が歪む。

 

「お、お前……」

「……ごめんなさい。あなたはもう私の中でAR小隊と同じ存在になってしまっているの。だから―――」

 

うまく力を足に込められず膝をつく。最早意識が闇に沈もうとしているところで―――

 

「―――あとは任せて」

 

―――額に温かく柔らかい何かが当てられた瞬間、ローガンの意識は混乱のなかで失われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

誰かが泣いている。見てみれば小さな男の子だ。崩れた瓦礫を目の前に大泣きしている。

 

助けてやらないと、そう思うが体が動かない。見れば自分の体が、なにもない。あるのはただそこにあった物という感覚。

 

自分は何もできない。あの子に何もできない、してやれない。でも男の子には炎の道を歩いてもらわなければならない。

 

誰かが本当の意味で助けてくれることなんて、決してないのだから。

 

だから、僕は、俺は―――

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――ン、――――――』

 

水面に浮かぶのに似た感覚を覚えているだろうか。自分が暗い所から光が見える、明るさに満ちた世界に出る感覚を。ローガンが感じているのはそう希望に満ちたようなものでなく、目を開けても悪夢の中にいるような錯覚に陥る物だ。ただ夢の中と違うのは、腹に残っている物理的な痛みがあるというだけである。

 

「……痛つつっ。あいつめ」

 

時間はさほど経っていないようだ。地形として岩が屋根になっているところに運び込まれたらしく、気を失っている間に雨に打たれ続けていたわけではなかった。さらに目の前には墜落現場が見えるため、意識を刈り取られた場所からあまり離れていないように思える。

痛みを堪えて立ち上がって思い出すのは、自分の過去の告白をしてローガン自身のも黙って聞いてくれた彼女、AR15である。最後に見えた彼女の顔を思い出す。

 

「……たく、泣くぐらいならこんなことをするなよ」

 

SOPIIに気付かれないようにする為だったのか、記憶の中の彼女は静かに涙を流していた。

 

「マジック、こちらアルファ1」

『ローガン!無事なのか!?』

「ああ。お客さんにきっつい一撃をもらってしまっていたがな」

『なに!?それで彼女たちは……』

「今はいない。おそらく、先行しているM4のあとを追いかけているんだろう」

『それで、どうするつもりだ?』

 

途中からマジックとは違う、神経質であることを伺わせる男の声が割り込まれる。今聞きたくない中に含まれるその声に、ローガンは嘆息した。

 

「……何の用だ。あんたが絡むとロクなことにならないから引っ込んでろよ」

『ふん、ご挨拶だな。上官に対する口答えを治すつもりはないようだな』

「あんたに関しては微塵も湧かねえよ。そもそも従う義理もねえ。俺があんたの元で戦っているのは、保護下に置かれているあいつらの為だ。放浪していた俺に良くしてくれた礼を返すためであって、あんたには礼のれの字もねえよ」

『貴様ぁ……!帰還次第、独房にぶち込んで一切出さないぞ!!』

 

台詞に怒気が乗せられたが関係ない。自分の命を使う方法をロクに考えもせず威張り散らすことしか知らないノートンにローガンは怖気づかなかった。

 

『……腹が立つが貴様に朗報だ。グリフィンがあとは引き継ぐため、ただちに帰還せよとのことだ』

「あん?どういうことだ」

『言葉の通りだゴロツキ。AR小隊の救出はグランドに任せていられない、あとはこちらでやると言ってきたのだ。腹立つが時間がかかりすぎなのだ、仕方ない』

「……元々現地入りさせているのは俺含めて二人だけだろうが。それも踏まえていっているのか」

『しているわけないだろうバカめ。AR小隊という駒を助けれないポーンがちゃんと仕事しなかったのだから仕方ないだろう』

「ざけんなてめえ。俺達はチェスとかのボードゲームの駒じゃねえ!AR小隊が駒だと!?俺がもしポーンだとしても、あいつらはナイトとかビショップの役割を、いやそれ以上の仕事ができる奴らだ!もしてめえらに下等に扱われる存在だったとしても、俺はそうじゃないと証明できる!」

『戦術人形に、いやAR小隊に入れ込んでいるのか。それとも、あのAR15とかいう兵器に個人的な感情があるのか?戦術人形の感情モジュールの演出に惑わされているだけだろう』

「そういう話をしてるんじゃねえよ!」

『とにかくこれは決定事項だ。アルファ1、そこから撤退せよ』

 

突然の納得のできない命令にローガンは従えるはずもなかった。あまりにも理不尽すぎる。

さらにはAR15は兵器、戦術人形?その感情モジュールが演出しているだけ?

知るかバカ野郎。

たしかに、彼女は戦う為に作られた戦術人形の一体だ。だが戦う為『だけ』ではない。『銃を持って敵を撃ち殺してハイお終い。それで終わらせたくない、それ以上のことがしたい。自分がこうして痛みを理解できるようにしたその理由を知りたい』。そう言った一人の少女としての彼女の気持ちを信じたいと叫んでいる自分がいることをローガンは感じていた。

 

「もういいさノートン。あんたの言うことにはもう従わない」

『……なにを言っている?』

「お互い、もううんざりしていたんだ。あんただって、雇った余所者の俺がエースであったのが気に食わなかったんだろ?前にそう愚痴ってたのをある奴から聞いたぞ」

『誰だ、そんなことを誰が言ったんだ!?』

「教えるわけないだろ。俺だって物事の価値を自分の定規でしか測れないてめえの下で戦うのはもううんざりだ」

 

そう言ったローガンは左耳の無線機に手を掛ける。

 

「ここから先は、俺がやりたいようにさせてもらう」

 

何かを言われる前に背後に投げ捨て、駆け始める。組織に属していることを証明する腕章を引き千切りながら、ローガンはどこかスッキリしたような気分を味わっていた。きっと、包み隠せず抱えていたものを一部だけでも吐き出せたからかもしれない。

そして追い付かなければならない、あの二人に。戦術人形という存在ではあまり考え付かない、別の何かを成したいと強く思う少女に。

死者はもう戻ってこない。それでもまだ生きているのであれば助け出すことはできる。絶対に死なせない、その思いを胸にローガンは走った。




この後書きを書いてるときの私は、休まず次話もやろう!といった感じです。構想としましてはここらへんのキリがいいので区切らせてもらいました。ていうかAR小隊編、下手すれば次回で終わるぞこれ。
昨晩はヘロヘロの状態で酒呑んでその余韻に浸ってたんですが、あれやりたい、これもいいなと思いつきすぐにワープロを起動し書き始めてました。深夜テンションというのは恐ろしいものですな(なにやってんだ昨晩の私……)。
とりあえず今回はこの辺で短くさせて頂きます。ていうか前回長く書きすぎてましたけど、あれが通常営業じゃまずいじゃろ?
それでは―――

『ツッコミたいところが見つからない問題』

5/28 誤字脱字修正しました

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