誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

41 / 62
昔のアレは今とは違って……


40.死者出でる -Dead trap-

要請に応えて駆け足になりつつも来た道を戻ってほんの数分。数えるのに片手で収まる範囲の数値のそれが現状でどれだけの価値を示しているのか、明確な答えを出せる者は恐らくこの場にはいない。ただ、金では替えれないそれが時にはどうしても必要な時がある。人質に取り付けられてしまっていた爆薬の解除といった、人命救助が最たる例だ。

二日前からこの地下内に居座っている鉄血兵の目論見は恐らく『オアシス』に関連しているのだろう。鉄血側がそれをどうしようとしているかはわからないが、最悪の場合は削除(デリート)という手段を取られることも考えられる。よってローガンとしては一分一秒という時間が惜しく感じており、できれば後戻りという手段を取ることだけは避けたかった。

だからといっても、手助けを必要としている仲間がいるのであれば伸ばされたその手を取らない、ということにはならない。今手のうちに残っている物を無くすのはローガンとて一切望んでいないからだ。

G11の言う通り来た道を戻りながらどこにいるのかと目星を働かせていたが気を張り巡らせる必要はほとんどなく、416が指向性マーカーを残した最初の地点から数十メートルの地点にいた。手を振っている民兵の元に向かい、先頭にいるローガンが彼に尋ねた。

 

「皆は?」

「この中だ。ここの見張りは心配しなくていい、行ってくれ」

 

関係者以外立ち入り禁止、とある配電室の奥に入っていくと、そこにはライトに照らされていながらも自分達を待っていたG11やハルカ達の姿があった。見えている面持は思った通り芳しくなく、何かしらかの問題が本当に怒ったことをそれだけで物語っていた。

戻ってきたこちらに対し真っ先に反応を示したのは同部隊のG11で、彼女は立ち上がってローガンに駆け寄ってきた。

 

「ごめんローガン、戻らせてしまって」

「別にいいが……それで、何があった?」

「それが……」

 

G11が動かす視線をローガンも追ってみると結果的に苦々しく面倒に思わせる人物がそこにいた。数時間前に合流を果たそうとした際、リーダーであるハルカの意図とは全く別の行動を起こして排斥しようとしていた男がそこにいたのである。

その人物の顔を見てからハルカの方に視線を移すと、彼女も彼女で呆れたようにして壁に体重を預けて立っていた。ローガンは仕方なしに男の方に視線を戻すとここまで一緒に行動していた416が言った。

 

「徒歩で帰還してすぐにこっちに出向いて来たのね。リーダー思いだとか殊勝なことだとでも褒めて欲しいのかしら?」

「てめえらなんかにンなこと言われても虫唾が走るだけだ。わざわざこんなクソッタレなところに来たのはてめえらが原因だぞ」

「まあたしかに、あなた方のリーダーを駆り出した、という点では違いないわ。でもあんたみたいな見境なく力を振りかざしそうな連中はここに来る必要なかった筈でしょ?」

 

そう言われてからローガンはその男の後ろにいる数人の民兵達を見たが、ハルカが連れていた民兵達が藍色のターバンや装飾を着けているのに対し、彼らは統一感がない装備を身に着けていたりと大きく色彩が異なっている。色や装飾で区別する組織は民間の間ではそう珍しくもない話だが、ここではハルカの直属として認められた者だけが与えられているのだろう。

416からの挑発的な要素を含めた台詞に男は顔を引くつかせたが、自分のリーダーがいる手前で本日二度目の無様を易々と晒せないからだろう。すぐに立て直したのか咳払いをして言った。

 

「オレ達がここにきたことなんかどうでもいい。それよかてめえら、こっちに一体何の用があるのか隠し事なく話せ」

「……何があったのかと思えばそういうことか。午前中のアレといいお前、リーダーのハルカから聞かされていることは仕事の事だけでこれといって何もないだろ」

「はっ、だからなんだって言うんだ」

 

鼻で笑ったその男の様子になんとなく得心がいったローガンは416と顔を見合わせて溜息を零しそうになった。G11は背後に隠れているのでわからないが、バルソクはやや憐れむようにして自分がどう思われているか考えていない未熟者を見ている。

初対面から躊躇なくローガンを殴打したこの男を改めて見てみればローガンよりまだ若い、二十代になったとしてもそこまで時が経っていないのかもしれない。見聞に関してはローガンも広いとは言えないが、それでも目の前に浮かんできたことにすぐさま飛びつきはせず真偽を確かめるだけの慎重さはあるつもりだ。そうした癖を覚えたのは数々の経験があるからこそだが、この男にはそこまでないようである。物事の深意を知ろうとはせず、仕事の表塗りのことしか頭に入れてない。

ガリガリと頭を掻いていると、壁から背を離したハルカが呆れたようにしながら持っている『ドラグノフ』の銃床を地面に接着させる。開かれた口から聞こえてきた声は見えている様相そのままで彼女の心情を隠すことなく表していた。

 

「こいつにも一応今回の事の重大さは話している。こんな奴でも一部隊の隊長だ、この上の鉄血の監視の合間を潜り抜けれるだけの技量はある。だけどそれに反して頭が弱いんだよ」

「人選ミスね。こんなニワトリの頭に毛が生えた程度の奴に隊長を任せるだなんて」

「おいっ、オレのことをンなこと言ってんじゃねえぞ白髪頭がッ!」

 

我慢の限界が早くも訪れたのか、416に掴みかかろうとするが彼女よりも遠距離にいた筈のハルカが転ばせる。すぐさま立ち上がろうとするが両手を後ろに持って来させて関節をキメて動けずに悶絶している部下の耳元に顔を寄せ、ドスを利かせている声で言った。

 

「そんなデカい声を出すんじゃねえ、外にいる鉄血のクズ共に殺されたいのか。前にそれで壊滅状態に陥りそうになったってのを忘れたわけじゃねえだろ、いい加減学習しろ馬鹿が」

 

対面したばかりの時と同じく、男の至近距離で放たれた言葉一つ一つには煮えたぎる熱が内包されている。地面に流れ落ちたマグマのような熱湯が飛沫として跳ね、それを体中に浴びたようでローガンは精神的にそこでのたうち回った。

そんな内面に反して身体が氷漬けにされたようになって動けないのはきっとG11が戦術人形としての握力を始めとして全身で持てるだけの力を持ってしがみついて来ている、それが原因の筈だ。

視覚では般若のようになっておらずとも、隠されることなく表面化して周囲に感じさせている気迫はそれそのもの。ローガンだけが慄いているのではなく、よくよく他を観察してみれば男が連れてきた取り巻きだけでなく、彼女によって選抜された部下達も冷や汗を流している。

 

「痛っ……でもリーダー、あいつらが抱えている事情に付き合う必要はないだろ!それに戦術人形なんざ鉄屑と同じ、ただの『物』とつるまなければならない理由だって!!」

「いい加減その口を閉じろよ、後先考えないのもてめえの悪い癖だ。人形にトラウマがある連中を纏められるのはいいとしても、全員の油に火をつけて過激派組織になりたいのかてめえ」

 

組み伏せられている男がまともに人員を引き入れている(らしい)のは戦術人形への因縁があるからだということをようやくローガンも確信が得られた。

あの場にいた民兵が言った台詞の『戦術人形は全て敵』、『I,O.P製のだって鉄血と何もかわらない』。そんな考えを持っている人間達を戦いの場に連れていくのは難しくなくとも、いざ銃を向けるのはやはり理想とは違ってくる。トラウマによって恐慌状態になり逃亡するか、それともまともに戦えないかといった大きく二パターンに分けられる。しかしそれらを防げているのは大したものだとはローガンは思う。

ただ、その代償として過激派さながらの行動を起こしているようでは意味がない。場合によってはグリフィンなどに目をつけられて制圧されるのがオチだ。

そうなった時は同情はしないが、それでも自分達、G&Kだけでなく全世界が密かに突き落とされそうになっている奈落の穴の事を知るだけの権利はある。この場にいる民兵達の精一杯の力を引き出してもらうにはそれも一つのだ。

今度こそ溜息を隠すことなく吐いたローガンは組み伏せているハルカに声を掛けた。

 

「ハルカ、そいつを自由に、とは言わないけどある程度加減してやってくれ。とりあえず現状で最重要なことだけは教えてやってもいい」

「おいおい、そうベラベラと話していいようなことじゃないんじゃないのか?あんたらの事情は知らないが、暇を持て余して来たわけじゃないだろ。あたし達はあんたらを手伝って報酬をもらう。傭兵のように酷い扱いはしないことをグリフィンは――――――」

「しない、とは言い切れない。少なくとも俺や指揮官はそうするつもりはないが、グリフィンの上層部の人間は安全圏で駄弁っていることもあって考えが腐ってきているのが否めないんだよ。数日前に話してみて、時折思い出すと今でも頭にくる」

 

オブラートに包むこともせずとも誰かに話しても文句を言われない程度には言葉選びをした。ハルカがどう思ったのかはわからないが、間を置いた後に男にとって少々楽な方向に腕を戻した。自由にするなと言ったが、問題児の腹這いの状態を維持するべく背に体重ももろとも足を乗せていることから自由に立たせるつもりは毛頭ないのだろう。

 

「……聞いてやるよ、ローガン。あんたらが一体、何と直面しているのかをな」

 

声無いままに注意か制止のどちらをすべきか、416とバルソクがアイコンタクトで話し合っているように感じた。だが口を挟まれるよりも先にローガンは限定的に話せる範囲を脳内で確定させて話した。

鉄血による裏工作とそれの延長線上にある、第四次世界大戦の引き金に踊らされている世界情勢に乗せられている人々。再び起こる核戦争による最悪の展開を阻止する鍵、『オアシス』の確保が自分達の最重要事項なのだということを。

話した末に満ちていたのはハルカの民兵達の驚愕と疑心による声だった。そのどちらが多くあったかといえば、ローガン達に対する後者。

長く息を吐いた彼らのリーダーであるハルカがじろりとローガンを見る。一瞬だけ垣間見えたのは恐らくこちらにとってはそうであって欲しいと思える、そんな感情の片鱗。

 

「それを本当の事だと裏付ける、確かな証拠はあるのか?」

「目に見える物かこれからいずれ、という感じだ。だが先日交戦した連中のハイエンドモデルの一体が本当の事だと認めていたことから間違っていない筈だ」

「そいつの言っていたことが虚偽によるものだった、ということはないのか?」

「絶対にそれはない。あり得ないことだと、考えて企てていないことだと言うにはあまりにも世界的に揺り動かされている。なによりも奴らからのアプローチが適格に痛い所を突いて来ている。過去の悔恨を抱えている人間にとって一番忌避したい虚実を突きつけているのだから冗談として切り捨てれない」

 

はっきりとしたローガンからの返答にハルカは片手で眉間を揉みつつ考え込むが、今日まで知らなかったのだから視野が狭まっていないので反論して論破する方法など幾らでもある。ただ何も言わないと言うことは、彼女自身もなんとなくわかっているのだろう。

保護区外の民間人の間でもラジオがまた普及され始めているこの時代で、必死に生きようとしている者であればニュースなどに耳を傾けないということはない。ラジオからは行方不明者とされている者の名前の公表や政府からの支援の日時、各国による世界情勢を始めとしたパブリックなことまで流される。表塗りの情報であっても手軽に入手できるので、ハルカも思い至っていないだろう。

静かに唸るハルカに代わって、彼女に選ばれた民兵の一人が乗り出してくる。

 

「だけど……ほとんど推測で経た結果じゃないか。何処かで綻びや見落としが……!」

「だろうな。だけど大筋として見えているものがもう本当の事だということを物語っている。ロシアのスペツナズの侵入、保護区外で悪漢たちの斡旋を敷かれていた連中からの証言。そんで鉄血からの認定でもう確実に無視していられる状況じゃなくなった。政府に忠告してもお偉方は耳を塞いで聞く気も起こさなかった、なんて話もあるんだし有志の俺達がやらなければならないんだよ」

「だからと言ってもだな!」

「やめろお前ら。気持ちはわかるがここで喚いても何にもならない。学者じゃないこいつらでもある程度の根拠を持って筋道を立ててる。こんなところで銃をぶっ放していればそういったのは忘れがちだが方針を決めるにはそれは大事なことだ。たしかに腑に落ちないところはあるが、あたし達にも遠からずも無関係じゃない事情があることが納得できたんだしここはうだうだ言うべきじゃねえぞ」

 

ハルカはそう言って組み伏せている男から立ち上がると、ローガンに手を差し出して来た。それにやや驚きながらも彼女の手から面持を窺ってみるが、ついさっきまであった険しい表情から少々厳が取れたそれになっていた。

 

「全力を持って手を貸させてもらうよ。見返り云々は置いといて、あんたらに助力する」

「……助かる」

 

差し出された包帯で被われた手をとってローガンは握手をかわす。そうしていて周囲の民兵達は著しく致し方ない、という雰囲気を漂わせていたがたった一人だけがそうした態度ではない。もう誰がそうなのか、というのはもう言うまでもないのだが、その者はごねてでも場を自分が望む方向に行きたかったのだろう。ただ言葉を探しても好転させるのに至る一手が浮かばなかったらしく歯噛みしていただけだった。

それにはもちろんローガンも気付いていたが相手をするだけ無駄だと思い特に触れようとは思わなかった。他のグリフィンの面々もどうかはローガンにはわからないが、何も口出ししなかったことから思うことは同じでだったのかもしれない。

 

「さて、改めて取り組むとするとして引き続き先行偵察を頼めるか?」

「言われなくてもそうするつもりだ。G11はもう一度ハルカ達と行動するとして――――――」

 

そうしてもう一度最下層に降りていくまでの打ち合わせを取っている時だった。一時の集会場と化していたこの場の出入り口を見張っていた民兵の一人が駆け足でローガンとハルカの間に入ってきたのである。

 

「リーダー、お話し中にすみません。まだはっきりと確認したわけではありませんが鉄血の連中に妙な動きが……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

民兵の報告に従って配電室に外に出るにしても、確かな状況が分かっていないようじゃ大人数で表に出るのはよろしくない。それは誰しもが一致したことであるとして、暗視ゴーグルを所持しているローガン達が先行して様子を見るということになった。

配電室から出る前に聞き耳を立ててみると、鉄血の銃器による銃声が地下内に木霊していることから何者かと交戦していることが窺える。その音は配電室のすぐ外で発生しているようではなかったので、民兵にゆっくりと開けてもらいながら徐々に広がっていく視界から敵影がないことを視覚的にも情報として皆に伝達した。

 

「いいぞ、近くには鉄血はいない」

「油断しないでよ。何故だか嫌な予感がする……」

 

G11からの台詞に416と頷くと同時に配電室から飛び出した。拡張される視野から情報を取り入れ、プラットフォーム内で響き始めた銃声を頼りにグリフィン所属の四人で追跡を開始。レールから上がって反対側の路線に降り立ち、音の発生する方角へと歩を進めようとしたところで何かがローガンの足首を掴んだので反射的に足元に銃を向けた。

身体が飛び跳ねるようになるのを内心抑えながらの焦点の先には、下半身と分断されただけでなく片腕が肩から失くしている鉄血兵が足を掴んできていた。

 

「痛っ、こんの……!」

 

徐々に強まっていく握力に顔を顰めつつも死にぞこないの機会人形にローガンは頭部に銃弾を浴びせると敵兵はノイズのような駆動音を立てながら沈静する。掴んできた手を振りほどきながらも倒れているその鉄血兵を見てみると、身体の大部分を失っている傷口が銃撃など常人の攻撃によるものでないのが見て取れた。

 

「ローガン、これって……」

「明らかに銃やナイフみたいな、それでいて大剣みたく切り裂かれたのとも違うな」

「モジュールとかの中身が中途半端にでも残ってはいるけど……こんな傷口はそうそうないわ……」

 

416の言う通りで戦術人形の中身となっている各機器が損なわれている。ただ損なわれ方がとても歪すぎで見ていて気分が良いものではなかった。

いや訂正しよう、身体のどこかしらが損なわれている惨状を見た以上は気分を害するのは当然の事であり、その傷口が酷い物であることは今回じゃなくても綺麗なものではない。ローガンが見ているそれは爆破によるもののようでそうではない。グレネードの破片が刺さるに留まらず黒焦げてたりする、わけではなくただただ一部を失くしている。

見慣れないやや不可思議な惨状に416もろとも首を傾げかけたが、行先の地面を見ていたらしい無線機越しにバルソクの声が聞こえて来た。

 

『マスター、こっちの方に血痕がある。だけどなにかがおかしい……』

 

近くにいるバルソクの方に寄ってみて彼女に指を刺されている地点にはたしかに滴ったかのような赤黒い血痕がそこにある。ただそこに残されて間もないサラサラした柔らかい状態ではなく、かといって長い時間を経てカチカチに固くなった訳でもない。付近に転がっていた鉄材で触れてみればその中間、ぶよぶよしているみたいな感触になっていた。

 

「おかしくないか、ここに血液が残る要因となるのは人間でほぼほぼ間違いない。だけどここにいる人間はマスター以外に民兵達しかいないだろ」

「ここに来るまでで生存者がいないことはもう言うまでもないから……この先にいる誰かが……?」

「……待った、銃声が止んだぞ。論より証拠、実際に確認しに行くぞ」

 

銃声が聞こえなくなっていたことにより、ローガンは皆とフォーメーションを組み直して前進。暗闇の中で音をなるべく立てないようにしながら、一度は見た死角までも再び敵影がないことを確認して行ったが視覚では得られない変化をそこで感じ取れた。

それにローガンは顔を顰めたが戦術人形の三人も同じく不快そうにしている。三人の中でインプットされている精神年齢が幼いG11に至っては鼻をつまんで露骨に嫌そうにしていた。

 

『うえぇ、なにこれぇ……』

「腐敗臭、にしては結構発酵して年季があるな。だけどこの臭い、何処かで……」

 

記憶の棚を開けて以前に似た経験したのは何処だったかをローガンは思い出そうとするがなかなか閃かない。スカルマスク越しでも鼻につく腐敗臭が段々と強まりながらも三人で歩を進めていくと、今度はレールの上に倒れている複数の人の遺体が目についた。近づいていく度に細かい部分まで視認できるようになっていったがあまりにも汚すぎだった。身に纏っている衣服は穴が空いていたり破れているのだが、それよりも見えている肌が土気色、というよりも人間が死したらここまで変色するのかと思うほどになっているのも印象的だった。

隊列を維持したまま接近し、足で遺体を転がして細部を視野に収めてローガンはようやく思い出した。毛髪が残っていない頭部に落ち窪んだ両目、火傷のように爛れてもいる全身。人間を象っていてもそうとは思えない異形の存在の名を口に出そうとした瞬間、正面から聞こえて来た物音にすぐさま戦闘体勢に移行した。

 

『ローガン、まさかこれって……!』

「余計なお喋りはするな。もう言うまでもねえが目の前にいるぞ!」

 

そう警告を発した途端、HUDで調節されている視界に徐々に見えてくる人影が一つ、とはいわずに両手ででも数えきれないだけのそれが映りこむ。ゆらゆらと左右に揺られながらも歩いているがまだ明確に獲物を見つけたような動きではない。

ローガンは『ハニーバジャー』を構えつつバレルを持って支えていた左手でナイフをゆっくりと抜く。逆手にそれを持ち替えながらもまた銃を支えて無線機で指示を出した。

 

「バルソク、お前の本領発揮だ。お前のマシンガン(MG)を主力に奴らを後退しながら排除する。俺とG11は援護、416は後退先に敵がいるようなら薙ぎ払え」

『……了解、十五秒後に攻撃を開始する。それまでに交戦準備を整えておいてくれよ』

『それじゃ前は任せたわよ。G11、私のポジションと入れ替わって奴らを撃って。あんたの火力と正確性ならここでもなんとかやれる筈よ』

『わかった……う~、久々に見ても気持ち悪い……』

 

G11が嫌悪感を示すのもローガンはよくわかる。

今は地上にいる全個体を排除したとして正規軍により報道されてはいるが実はそうではない。

物質の構造を分子レベルで解体する『崩壊液(コーラップス)』。高濃度のそれによる被爆はつまるところ死を意味するが、低濃度のそれの場合は形態変異を引き起こして突発的に生を終えるよりも惨い結果を迎えることになる。公的に言われているその病名と変異者は広域性低放射感染症、略称としてE.L.I.Dと呼ばれ、SFホラーやスプラッタ映画で登場するゾンビなどの見た目の通りの行動をしてくる。つまるところ、人間や人形もかまわず襲撃するのだ。

久方ぶりのE.L.I.Dとの交戦に冷や汗を流しながらバルソクが銃を持ち替えている間にも警戒を続けるが一発触発の状況である。先程身体の大部分を欠損していた鉄血兵を見るからして地下に響いていた銃声はE.L.I.Dといち早く交戦していた鉄血によるもので、怪物の口に引っ掛かっているケーブルからして全滅したと見ていい。幾分数は減ったようではあるが頭数は多く簡単に勝てはしない。

目の前にいるE.L.I.Dは視覚で獲物を捉えて襲うタイプじゃない事が幸いしてか、見当違いの方に進んでは壁にぶつかったりし、その物音で他の個体が反応しているが長くはもたない。バルソクの準備が完了するまでの二十秒未満の時間が妙に長く感じた。

 

『行くぞ……!』

 

そしてバルソクからの声が無線機を通じて聞こえ、そのコンマ数秒後に銃撃が開始される。民兵達の二人に一人が所持していたハンドライト、彼女達が装備している暗視装置やローガンが身に着けているハイテクサングラスが無ければ暗闇が支配するこの空間を見通せなかった空間にG11のマズルフラッシュも瞬いた。

もちろんバルソクを挟んで陣形を組んでいるローガンも発砲しこちらの存在に気付いたE.L.I.Dを迎撃する。急所を撃ち抜いて無駄に銃弾を消費することを避けつつ効率的にE.L.I.Dを退かせつつも両脚は後部へと動かし、もしもの時はいつでも駆け出せる姿勢を崩さない。全集中力を目の前の戦場に集束させているので倒した数までカウントしていないが十体に迫ってはいるだろう。

やがて数と勢いに任せて目の前に迫ってきた怪物がローガンに食いつこうと咢を開いて数本しか残っていない歯を見せつつ突っ込んでくるが、その横っ面を銃床で殴って転倒させた。その個体の頭部に数発撃ちこんで排除したが、今度は同時に二体のE.L.I.Dが突貫してくる。

 

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

「こっちに来るんじゃねえよ!」

 

だからと言って他の面子の方に行けというわけではないが、どちらにしても相手にしたくない敵としては当てはまる部類だ。毒づきながらも同時に相手にすることはできないとして、ローガンは一体の足を撃って転倒させ、もう一体の組みつきを避けるとお留守になっている喉元にナイフの切っ先を突き立てた。勢いを殺すことなく地面に振るい落とし、這いつくばりながらもこちらに寄ろうとしている個体の頭部にストンプを食らわせて頭蓋を踏み砕く。慣れない足裏からの感触を不快としながらもローガンは『ハニーバジャー』の弾倉を可能な限りに素早く入れ替え、まばらにくる怪物の排除に集中した。

 

「やばい、装填している弾が切れた!」

「慌てなくていい!各個撃破しろ!」

 

耐久力は通常の人間よりもあるものの、今しがた排除したローガンがしたように頭部を的確に機能停止までに追い込めば素早く制圧できる。バルソクのマシンガンがリロードが必要な状況になったのは現状にてあまりよろしくはないが、この戦闘の序盤から大方を本当の亡き者にしたのは大きい。

バルソクが『PP-19 BATON』に持ち替えるまでの数秒をカバーしたG11がリロードの体勢になる。烙印システム(ASST)が施されている銃といえども一秒未満にまで短縮できるのは不可能であり、この戦闘を乗り切るにはその僅かコンマ数秒の時間が必要だった。隙を突いたようにしてG11に押し寄せるE.L.I.Dの群れの対処にはバルソクはもちろん、ローガンも余裕がなかった。

 

「くぅ、気持ち悪いから来ないでよ!」

 

リロードをあきらめたG11が接近してきた近距離の個体の一体にバク転しなからの蹴りをお見舞いし時間を稼ぐとホルスターから拳銃の『USP』を抜いて発砲する。とはいえ、サイドアームというのはリロード中に置いての隙を無くす為にある物だが、火力自体はどうしてもメインアームの武器よりも低下してしまう。遠距離武器の有利性を活かせない至近距離にまで接近を許しているのも相まってほとんど抵抗できない。

 

「G11がやべぇ、バルソク!」

「ダメだ、私も自分の事で精一杯だ!」

 

付け焼刃の体術も駆使して懸命に堪えているが、それでも危機的状況なのは変わりはない。ローガンもバルソクも自身に接近してくるE.L.I.Dの対処に追われてチームメイトの方に割ける余力はなかった。

何体目かわからない怪物の顎を銃で殴って仰向けに転倒させ、追い討ちに銃弾を食らわせたところでようやく自分にも余裕が生まれたのでG11を襲っている個体に銃口を向けようとしたが、タイミングを測ったのかのように別の一体がローガンに襲い掛かって来た。それによってまた余力がなくなってまた怪物とのCQBに戻り、傷一つ負う事すら許されない戦いに専念せざるを得なくなる。

 

「しつ、こい……!」

「G11!」

「くそ、いい加減にしろってんだよ!」

 

ついにはG11は押し倒されて反撃までできない体勢になった。せめてもの抵抗として喉元に食いつこうとする怪物の口内に銃口をねじ込んでつっかえさせているがそれでも長くはもたない。

ローガンと同じくバルソクも複数体相手に尽力しているが危機的状況に陥っているG11の助力には向かえない。だがそこで、別の役割を与えられていた416の援護が始まった。

彼女も彼女で何処かに潜んでいたのか数体のE.L.I.D相手に発砲して交戦していたが、手が空いたらしくG11に群がってきている怪物を的確に撃ち抜いて沼に沈みそうになっていた仲間の手を取った。最後の抵抗を受けていた一体の頭蓋が吹き飛んだことでようやくG11にも時間が出来たのである。

 

「ほら早く、急ぎなさい!」

「んぅ、言われなくてもわかってるよ……!」

 

戦線に復帰したG11が即座にリロードし、勢いと数が無くなってきたE.L.I.Dにまた銃撃を食らわした。

戦闘時間としてはおそらく二分程度だが、ローガン達の体感としてはそんな短い時によるものではなかった。最後に襲い掛かって来た個体を『P226』で打倒してから、ローガンは全員を見渡しながら言った。

 

「各自、怪我などしたら報告しろ。俺は問題なしだ」

「私も大丈夫」

「あたしは……ちょっと擦り剥いたりしただけで奴らに食らわされた傷はない」

「辛うじて私も特にこれといった損傷はない。ただまあ、E.L.I.Dとなんかの戦闘は初めてだったから正直怖かったんだが……」

 

バルソクからの報告を最後にローガンは動かなくなった複数体のE.L.I.Dの亡骸が転がっている惨状を見る。戦っていながらこれでもかと現れる怪物達に対して腹立たしさが湧くと同時に、心のどこかでここが死に場所になるかとどこかで弱気になっていた。それでも何とか生き残れたのは各々の役目をきちんと果たしたからだと思い、口に出さずとも感謝しつつ胸を撫で下ろした。

 

「……第三層にはE.L.I.Dが徘徊していたのか。となれば鉄血が第一に警戒していたのはこいつらの進入だったのか?」

「どうかしらね。断定はできないけど地下を徘徊していて私達が来たタイミングでここに行き着いた、というのも考えられるわよ」

「だけどこれじゃロクなことにならないぞマスター。E.L.I.Dまでもが地下内にいるんじゃ……」

 

言うまでもない。最悪の場合は同時に出くわして混沌とした戦場になることもあり得る。鉄血にE.L.I.D、二つの勢力との戦いに正面から突入することになればほぼ間違いなくローガン達は全滅する。工夫を凝らした戦術をしたとしても単純な頭数を相手にした場合でも時には打ち破られることだってある。それに今回の戦闘条件としてはなによりも場が一番に悪すぎる。

ローガンは無線機をハルカに接続して報告しようとしたが、その前に地下にまた銃声が鳴り響いた。方角はローガン達が通って来たプラットフォーム方向。鉄血兵が持つ銃器ではなく、過去に民兵の相手をしたことがある者であればすぐにわかる銃声であった。

総員で顔を見合わせると無言で来た道を走って戻る。息を切らせながら両脚の持てるだけの力で地面を蹴っているとノイズが混じりながらもハルカの声が聞こえて来た。

 

『ローガン、今あんた達は何処にいる!?』

「確認が済んでそっちに戻っているところだ!それより気を付けろ、第三層内にはE.L.I.Dが……!」

『わかってる!それでこっちは連中と交戦中だが凌ぎきれない、至急応援を頼む!』

「今すぐそちらに向かう、それまで持ち堪えろ!」

 

敵の規模はどうなのかはわからないが、自分達よりも多く動員しているのにも関わらずに応援を求めているのだから冗談で済まされることではないのだろう。それは今も尚轟いている銃声が裏付けている。それにハルカ自身も大袈裟に物事を捉えるような性分でもないだろう。少々短気な所はあるが尤もな理由を元に行動しているので、作戦中に己の為だけに行動するということは考えにくい。

 

「にしても長くないか?俺達こんなに長い間レールを辿って歩いていたんだっけ!?」

「文句は言わずともあともう少しよ!弾倉の方の確認は済んでる!?」

「私のマシンガン諸共言われなくとももう済んでいるよ!」

 

ローガンも弾倉を抜いて確認してみるが重量的にもまだ余裕があるように感じれた。数発しか撃っていない『P226』もまだ弾倉を変える必要はないということでホルスターにまた収めると、銃声に混じって怒号や悲鳴までもが聞こえてきた。

見るのも三度目のプラットフォームに上ると反対路線にいる民兵達が見えたが想像以上に混沌とした状況になっていた。一人の民兵に複数体のE.L.I.Dが群がって肉を食らい、獲物として食らわれる者の断末魔が場に残される。団子状に膨れ上がっているその組が十を超えている時点で、ローガンは歯ぎしりをしながら飛びかかって来たE.L.I.Dに蹴りをお見舞いし、地面に転がったと同時に装填している弾倉内の弾を全て撃ち込んだ。

用済みになった弾倉を入れ替えながら交戦開始する面々に指示を出す。その時の自分の声は自然と荒立てられてしまっていた。

 

「ハルカ達を、生存者を助け出す!銃声が響いている以上はまだ抵抗している筈だ、急げ!!」

 

プラットフォームの外側、先行偵察で向かった方向から銃声が聞こえているのでまだ戦っている者がいる。そちらの方に怪物たちが走っているのでそれは疑うまでもない。

無言で『AEK-999』を手に先行して走るバルソクに続いてG11が援護を開始。生存している味方がいない、照準を定めるのに大雑把でいい方にはバルソクが、掃射を行う彼女に降りかかる火の粉を払うのにはG11が担当して戦闘を行った。

 

「416!」

「わかってる!ハルカ、現地に着いたけどあなたは無事なの!?」

『今のところはな!だけどこの数じゃ長くは保てない!』

 

開けたプラットフォームにいるからというのもあるだろうが、目の前にいるE.L.I.Dの数としてはついさっき四人で戦ったよりも多く感じる。このままでは津波に立ち向かうもので囲まれるのも時間の問題である。

 

「アルファ部隊、一点突破でハルカ達と合流するぞ!クロスフォーメーションだ!」

「了解。このクソッタレ共が、全然ビートを刻むどころじゃないじゃないかよ!」

 

悪態をつくバルソクがまとわりついてくる怪物の頭部を蹴り飛ばしてG11と戻ってくる。事前に定めていたポジションにそれぞれが就いて駆け足で銃声の鳴る方へと向かった。

近づいてくる輩には銃床で殴ってから銃撃をかまし、行く手を遮る変異体には人間と共通している急所を撃ち抜いたりと可能な限り迅速に移動する。四方八方から自分達に襲い掛かる怪物の対処は銃を扱う敵兵とは違った厄介さがある。それはもう手遅れになった者達の助けを求める叫びだった。

 

「おい、どこに行くんだこっちに来てくれよぉ!!」

「助けてたすけてタスケテェエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

「アアアアアアアアアアアアアア!!イダイイダイイダイィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」

 

耳にこびり付いてくるそれはローガンにとってもトラウマに等しい。過去に同じように腸を食らわれながら悲痛を残す者達の絶叫までもが鎖を掛けて封印していた筈のトラウマボックスから飛び出してきて脳裏に響いてくるからだ。そして新たに耳にしたそれがまた加えられて後に精神的に圧し掛かってくるのだから、ローガンからすれば意識して忌避したいことの一つであった。

皆の先頭を走っているのでそれぞれがどう思っているのかは知らないが、それにばかりに気を取られていては生き残れない。心を鬼にして聴覚にフィルターをかけて無線機に叫んだ。

 

「ハルカ、そっちから見て十二時方向から合流する。脇に沿ってそちらに向かうが誤射に注意しろ!」

『了解、合流次第爆薬を使ってここを通行不能にする!』

「周りを見てあなたはわからないの!?ここを派手に吹き飛ばせば陥落して……!!」

『それが狙いだ!こいつらの数に対して足で逃げ切れる保証なんざ何処にもないだろうが!』

 

グリフィン所属の自分達の行先はトンネル状になっているので、敢えてそこを瓦解させればたしかに後に付き纏ってくるであろうE.L.I.Dを振り切れる。しかしその策は自分達も生き埋めどころか圧死することになる危険と隣り合わせの策であり、どこにも成功することの根拠はない。暗闇においての爆薬の使用など、失敗要素を列挙していく方が簡単だ。

凄惨たる戦況で沸騰していた筈の思考がどこか落ち着きを取り戻していきながら、ローガンは他に取れる案があるかどうかを思考しようとした。しかし休む間も与えられない勢いで襲い掛かる怪物によってまともに考えられない。歯痒い思いを点らせながらローガンは撃っては薙ぎ払って徐々に迫りくる魔の手を遠のかせるように足掻いた。

 

『どうするんだアルファリーダー!あたし達の案に伸るか反るか、あんたが決めろ!どっちにしてもこっちは実行するつもりだがな!』

「……もう今更どうこう言っても仕方ねえだろ!二十秒後にスイッチを押して起爆しろ、その前にこっちは合流する!」

「ローガンッ!!」

『わかった。急げよこっちも余力はないどころか足りてないんだからな!』

 

襲い来るE.L.I.Dを退かせてもまた新たに襲来してくる現状からしてもう異議を唱えているだけの時間と余裕はもう自分達にもない。弾薬はあってもそれを使い切る前に死んでしまっては意味がないのと同様に、手立てに拘っているだけでは全滅を招く。切羽詰った戦闘状態になり他に有効な案が思い浮かばなければ妥協して突破を図ること、これもローガンが人生で最も敬意を払った人から学んだことだ。

416が異を含めて名を呼んだが、熟考する足踏みをしていられることもローガンにはできない。

レールに降り立ってから進行方向に迷わず足を向かわせ、フレアが撒かれて照らされているE.L.I.Dを撃つ。脳内でカウントこそしていないものの、もう体感で折り返し地点は過ぎていることだけはなんとなくわかっていた。

 

「全力で走れ、フォーメーションは崩していい!」

「もうこいつらの相手はしたくないぃいいいいいいいいいい!!」

 

嘘偽りのないであろう本音を漏らしながらG11が全力疾走で駆け出し前に立ちはだかる怪物を足蹴にしていく。それによって形成された束の間の道を通って境界線となっているフレアの向こう側をめざし、今日になってE.L.I.Dとの対面を果たしたバルソクも負けじと人形の脚力を発揮させた。

 

「文句は後で聞かせてやるわよ!」

「生き残ればもう勝ちも同然、勝てば官軍負ければ賊軍だ!好きなだけ言えばいいさ!」

 

並んだ416がそう耳元で叫んでいるのかと思うぐらいの声量でローガンに怒鳴り、共に交戦し続ける民兵達と合流する。それと同時に背後の方から爆音が轟いた。

ドォンッ!!とC4爆弾に類する爆弾なのだろうが、炸薬量はおそらく同等かそれ以上だ。

 

「崩れるぞ、走れ走れぇえええええええええええええええ!!」

 

爆風が背中を叩いて束の間、誰かの叫びで皆が一斉に走り出す。ローガンと416はそのまま両脚を全力で動かしたままこの後のことを予見しつつ脱兎のごとく駆けていた。

直後、ガラガラとけたたましい騒音を立てながら壁や天井が崩れ出す。こちらを追うように聞こえていたE.L.I.Dのうめき声が掻き消され始めてはいるが、それで足を止めるようでは命を落とす結果につながってしまう。

 

「ローガン、ちょっと振り返ってどうなっているのか見たらどうかしら!?」

「気分が晴れやかになる前に人生ブラックアウトだってんだよ!」

 

ドンッドンッドォン!!と腹に響く音がしていることから特大サイズの瓦礫が降り注いでいるのだろうが、それを確認すれば速度が低下して巻き添えを食う予感がしていた。

ハルカからの要請からずっと走っているので普段なら息も上がって走るのも難しくなっていたであろう。ただ、ローガンの人生における最大規模のピンチに火事場の馬鹿力というのが働いて限界を感じさせていないのはせめてもの救いだった。

おそらく起爆された地点から百メートル以上は走ったその頃に、ようやく背後の方からの落下の衝撃は感じなくなった。

余裕を持たせる為に完全に大丈夫だと思える距離までに達してから追手はないかをようやく確認する。HUD越しにローガンの目に映るのはパラパラと細かい石が転がる、生ける屍の姿が一切ない光景であった。

それで一息を入れようとした束の間、この向こう側で置いて来てしまった者達を思い出してしまった。今日まで戦ってきたた男達による悲痛の絶叫、断末魔と血飛沫が舞ってもいた惨状。それらが視覚と聴覚にリフレインし、ローガンは両膝を突いてえずきそうになった。

すぐに誰かが駆け寄って背中をさすって来た。荒げた息のままそちらを見ると心配そうにこちらを覗き込むG11の姿があった。

 

「……総員、損害を確認して報告しろ」

 

ハルカによる指示でそれぞれが被った現状を確認する。それにはローガンも加わろうとしていたのだが身体が言うことを聞かずに両足に力が入らない。歯噛みしながら無理にでも立とうとした瞬間、諌めるようにG11が抱き付きながら言ってきた。

 

「……ローガン、一回休もうよ。まだ解決したわけじゃないけど乗り切るにはローガンの力が必要だよ。ここで腰を下ろして一息をつくぐらい、みんな許してくれる」

「だけど……俺はまだ……」

「わかってる、だけどそれで誰かが文句を言うようなら代わりにあたしが聞くよ。ローガンだって本当は―――」

 

―――戦場(ここ)にいることは、本来ならなかったもんね―――

その囁きで、ローガンは身体の力という力が全て抜けた気がした。




一昔前に映画などで出ていたゾンビというのはうめき声を出しながらゆっくりと近寄ってくる、というのがメジャーなものではあったのですが今となっては走って飛びかかるのは当然のようになってます。それどころか、物によっては鈍器や銃を振りかざして主人公たちに敵対行動をとってきたりと、昔の人達が未来予知などして現代を見た瞬間に目を点にして『ナニコレ?』みたいになるのではないでしょうか。でも簡単に纏めれば私達が持つ技術が進化しているのと同様に、ゾンビも進化しているという事なんでしょうね(思考停止)。
今回から登場したE.L.I.Dというゾンビの形状を取っているモンスターは今の所日本版のドルフロには敵として登場していませんが、開発元の国、つまり大陸版という方ではもうしこたま出ているのが動画で見られています。鉄血に並んで公式の敵として存在しているE.L.I.Dが作中でどう行動して襲い掛かってくるのか、というのは私の方では詳しくは把握していません。ただ、ゾンビやミュータントに近いもの、とネットの記事で形容されているので私は前者をメインに想像しながら描写させていただきました。設定を読んでいても戦術人形同士の戦場ということで少々忘れてしまいがちなのですが、『蝶事件』以前に第三次世界大戦と大きな因果関係を結んだ事象があったことは揺るがない公式の設定でございます。ただでさえ鉄血兵とシビアな戦闘を繰り返しているというのに、私個人としてはここまで来ると本当に心に圧し掛かられる気分になってきますね……。
では今回はこの辺で。にしてもビンゴは少々頭に来るなぁ――――――

『実の所、映画などでの残語句でエグイ描写は苦手デス』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。