誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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なんでこうなったんだろうなぁ……


42.出没 -Can see or not-

G11からの呼び戻しがかかる直前に割り出していた迂回路は当初予定していたルートよりは遠くても辿り着くのにそこまで時間を必要とはしていない距離内にあった。

HUDに表示されている『地図』に自分達が正しい方に進めているかどうかをもう一度確認し、間違いがないことからローガンは進行方向上にある非常階段の周囲を睨みながらも索敵を開始。不意の接近戦に備えてナイフを握ったままにしている左手共々両手が新品のグローブ内で汗ばんでいるのだが、鉄血だけでなくE.L.I.Dまでもがいるので尚更緊張感が内から湧き出ている。元からローガンも作戦行動中ではあまり私語はしないが、フォーメーションを組んでいる416やバルソクの会話も全くない。あるのは僅かに聞こえてくる息遣いと異常ないことを伝える必要最低限の報告だけ

到達するとハンドサインで指示を送って416に非常階段への扉を徐々に、静かに開けさせる。開いた瞬間にローガンは隙間から敵影が無いことを慎重に確かめながら進入すると、死角にE.L.I.Dが一体いたので不意打ちを受けそうになった。

掴みかかられそうになったのを防いでいた所に即座にバルソクからのバックアップでナイフが怪物の頭部に刺さる。グジュリッと柔らかい肉に刃物が通ったことによる音が聞こえ、組みつこうとしていた歩く死体は動かなくなった。見ているだけで生理的嫌悪感を感じさせる、わかりやすくいえば気持ち悪いそれをローガンは横に退けると他にいないことを確認してから一息をついた。

 

「マスター、大丈夫か?」

「心配するな、無事だよ。だけどあんなのの不意打ちは心臓に悪いことこの上ないな」

「私達は人形でわからないからそれには賛成しかねるけど……っと。いいわよ、ローガン。マーカーのペイントも終わらせたわよ」

「アルファ3、ハルカ。四層に続くマーカーもペイントしルートをわかるようにはしておいたぞ」

『了解、安全第一でも追いつくぐらいのペースで向かうよ。それとアルファ1、中継装置の設置もしておいたからここで指揮官、プロフェットに連絡したらどうかな』

「わかった、こっちでしておく。そっちも気を付けろよ」

 

一旦416とバルソクを主軸に前に立ってもらいながらローガンは端末で回線を操作し新たに設置された中継点に接続。皆にも共有して聞こえるようにもしたりと他にも並列してやらなければならない作業も行い、それらを終わらせた後にローガンは耳元の無線機に片手を当てながら言った。

 

「定期報告。プロフェット、こちらアルファ1だ。聞こえるか?」

『――――――っと、大丈夫そうだね。中継点を経由しているからちょっとラグがあるけど繋げれているんだし文句は言ってられないし仕方ない』

 

ローガンも非常階段を降りて四層目に到達し、一旦そこで報告すべく立ち止まる。そうしている間に416とバルソクが装備の確認を行わせ、ローガンは端末で『地図』だけに表示されている五層へのルートを走査を開始した。

 

『こっちも幾分収穫はあったけど、まずはそっちから現状報告を頼むよ』

「そっちと話してから一時間程度だがいろいろあったよ。こんな暗がりにE.L.I.Dがうろついているなんざ、誰にも予想できなかっただろうな」

 

そう言うと息を呑む声が聞こえてくる。ただしローガンもハリーが驚くのも無理はないとは思っていた。

E.L.I.Dという存在は衛星画像で確認されていたりと、事前情報が無い限りは神出鬼没といっていいぐらいに予測不可能で何を目的に彷徨っているのか全くわからない。鉄血という敵がいるのは数日前から知れていたが、そんな人類に意図をもって敵対する人形達よりもタチが悪かったりする怪物の存在はわからなくて仕方がない。ましてやこんな人気(ひとけ)のない所など誰も好んでくることはないだろう。

 

『……損害は?』

「俺達グリフィンの方には問題ない。ただ、こっちから持ち寄っている物資の損失に民兵の半数以上がやられてシャレにならないことになった」

『手痛い、いやそれ以上か。アルファ1、一応撤退も考えておいた方が……』

「残念だが進むも地獄、戻るも同様だ。それどころか退路にE.L.I.Dが押し寄せていたから爆破して塞いでしまったからな、どっちみち進むしかない」

 

致しかたなかったとはいえ、やはり目標を達成した後に使う予定だった帰り道が無くなってしまったのは手痛い。そのせいで別の帰路は遠回りになり生きて地上に出れても当分先のことになる。それに冠した面倒臭さ、煩わしさを感じないといえば真っ赤な嘘になり小突かれることは間違いない。

しかしそうして悩むことが出来ているのは命を拾えたことによるものだ。考えるのを嫌だと言って自ら投げ打つ選択肢を取る気はローガンには毛頭ない。そのかわりに足掻き続けて明確な意思を持って敵対してくる鉄血に一泡吹かせるだけの気概は強く猛っていた。

 

「手ぶらで帰ればロクなことにならないし進行は続ける。目的の為に人命の軽視はしないからそこだけは留めておいてくれよ」

『……っはぁ、まあ上層部からこれまで以上に白い目で見られることは間違いないから容認するしかないか。だけど良からぬことが連続して遂行が困難だと判断した場合は撤退という手段を即決で取ってくれ』

「ああ。そんで今さっき四層目に到達したところで順調に行ければあともう一歩という所だな。こっちから報告すべきこととすれば以上」

『それじゃあこっちから情報伝達。今さっき入った情報だけど、そこの地下に何者かによる改修工事が五年前に入っていたそうだよ。付近で放浪していた難民から聞いた話を伝手で手に入れたわけだから信憑性が損なわれるけど、僕が持っているパイプでは有力な方だから間違いないと思う』

「地下鉄の見取り図には四層が最下層ではあったが、『地図』によれば五層目までが表示されている。このデータの作成時期はその五年目以降、と考えるのが筋か」

 

『地図』を設計図に五層目を構築したとも考えられなくもないがおそらくそれは些細な問題だろう。ローガンは頭にそう留めておきながらハリーから伝えられる情報に耳を傾けた。

 

『それともう一つ、これは作戦には関係ないけど政府が後々にフロリダ州、つまりそこに正規軍を派遣することを決定したらしい』

「アメリカ政府が?俺達と同じ情報があるんだったら別だが、ここに来るだけの理由なんて連中にはないんじゃないのかよ」

 

部隊を派遣することなどそう易々できることではないことはローガンだって知っている。戦術人形を駆使して敵対組織と戦っているグリフィンとは違い、正規軍の部隊は戦車や戦闘ヘリなどの有人機に白兵戦には訓練された人間の兵士で構成されているのだから。モジュールによる心を持っていても人形は人間の命よりも軽視されている、というのに関連して十人の兵の損失でも大きいとして捉えられているのは如何せん大袈裟な気がするのだが。

訳が分からずローガンはガリガリと頭を掻いていると、ここまで口を挟むことがなかった416が発言した。

 

「私達の行動を遠からずも監視していた、なんてこともあるのかしら。グリフィンが取る次の一手を情報屋か何かから手に入れて泳がせていた、というのもあり得るわよ」

『銃を片手に表立って行動することはないのは相変わらずだけど中央情報局(CIA)のエージェントだっているにはいるんだ。彼らが本気になれば僕達の行動だってバレてもおかしくない』

「ラングレーの連中が民間軍事会社の動向を窺いつつも嗅ぎまわっているというのはゾッとしない話ね。出兵してまで彼らにとってのメリットが見出しているのいうのは知れたけど、今後やり難くなることは間違いなしね」

『君達がフロリダ州に現地入りしたというのはもう隠しようがない。こっちでいくつか時間稼ぎにもなるだろう言い訳は考えておくけど口裏を合わせるようにはしておいて』

 

一応手を取り合い鉄血の鎮圧も含めていくつもの仕事を任されている状態なのだが、裏の方で腹の探り合っていることなのだろうか、とローガンは思った。

鉄血の目的阻止には政府からのバックアップは望めないとして期待していないのだが、政府の人間達からすればどこかで借りを作っておけばつけ込めるだろうと考えているのだろう。だとすれば下手に尻尾を出したままにしていれば掴まれて鉄血の目論見を暴く前に逃げきれない状況になり得る。公になっているCIAの活動記録の中には彼らが工作して引き起こした事件があったりもしているので侮ってはならない。もし手を貸してくれる機会を得たのだとしても、心からの味方になってくれるとは思わない方が吉だ。

頭が少々痛くなりながら溜息を吐くと、ローガンは四層の鉄道レール上に出る扉に手をかけて外の様子を窺う。三層目で予期せぬ敵が出てきたことによる影響か、滅多にない異質な雰囲気を感じ取り冷や汗を流した。

踏み入ることを躊躇しかねないそこに進んでも問題ないと判断し、ローガンは無線に手を当てて言った。

 

「とりあえず政府も何かを探っていることだから、関連したなにかがあれば報告する。こっちはまた作戦行動に戻るぞ」

『了解。蜂の巣をつつかぬようには気を付けるけど、そっちも敵の尻尾を踏まないようにね。プロフェット、アウト』

 

ハリーが通信終了したことを端末の画面で知ってから、ローガンは扉の外へと出た。視覚だけでなく聴覚まで鋭敏に働かせるよう意識的に働きかけるがそれでも滴か何かが落ちる音が近くから聞こえるだけで不気味だった。

 

「嫌な空気だな。全身の毛が持ち上がらないぐらいに重々しいぞ」

『それに死臭も気のせいか濃いな。そこらからするからとか全体に満ち足りているからとかでもない、この層自体が放っているかのようだ』

 

少々違うのかもしれないがバルソクが言いたいことはローガンでも本能で理解できた。扉を開けて様子を窺った時から深淵その物を覗き込んでいるような気もしていたのだが、いざそこに飛び込んでみれば別世界、生物が足を運ぶべきではない世界に踏み込んだのと表現されれば言い得て妙だと思う。大袈裟でも何でもなく『オアシス』奪取のように本当に重要な目的があっても躊躇うようなそこで、ローガンは416とバルソクに言った。

 

「ハリーとの約束もあるから少々マズいことになった場合は迷わず退くぞ。その時は他にも抜け道はあるにはあるからそっちを選ぶ」

『こればかりは仕方ないし今回の作戦はあなたが隊長なんだし大丈夫よ。45の指示に比べれば納得のいく正当性があるし』

「あいつ一体お前ら(404)相手にはどんだけ容赦ねえんだよ。あいつって身内には厳しいだけの内弁慶って訳でもないだろに……」

 

空元気で茶々を入れたのだが416とバルソクから望んでいた反応が返ってこなかったので咳払いをしローガンは隊列を維持したまま表示されているルート通りに前進を開始した。これまで通過してきたフロアよりも酷い損壊具合に潜んでいる未確定事項が襲い掛かってくるかもしれないので、一層警戒心を張り詰めさせる。

変わりゆく光景と共に耳朶に届いてくる残響の変化にも気を配って少しして、このような緊張状態がどれだけ続くのかと頭のどこかで考え始めたときにG11からの無線が入った。

 

『第四層にこっちも到達したよ……でもこんな所に長くいたくないよ……』

「気持ちは痛いぐらいによくわかるが我慢してくれG11。こっちもこっちで敵しか通っていないエリアに先行しているわけだからそこまで気を回せないんだよ」

『これほどに嫌な雰囲気を与えてくる空間が身近にあったとは思わなかったな。あたし達もそれなりにやってきたとは思っていたがまだまだだな』

『悪く言うつもりはないけどまさしくその通りでしょうね。私達も……っ!?』

 

416が言葉を切ったのは足音が聞こえて来たからで舌を噛んだからでも何でもない。すぐにローガンやバルソクも来たる接敵に備えて音の発信源を中心に感覚的な警戒網を広げ、自分達も発する移動に関した音を小さくした。

 

『おい、一体どうした?』

「ちょっと時間をくれ。敵に対応する」

 

応答が急に途切れたことによりハルカから怪訝そうな声が聞こえてきたが今はそれに構っていられないとして、ローガンが短くそう返すと十メートル弱先にある敵影を視認する。ついさっき見た軍勢よりも頭数は随分と少ないがそれでも多い、E.L.I.Dの溜まり場に出くわし一時前進していた脚を三人で止めて交戦可能かどうかを観察した。

ローガンが見た限りでは現環境下で三人で戦うには少々無理があると感じた。もしこの集団とは崩れる心配のない場で戦うのであれば話が変わってくるが、瓦解の心配が大きいここで派手に戦うのは極めて危険だからである。バルソクのマシンガン『AEK-999』を主軸に戦うにしても、はっきりと見えていない奥からバラバラと来られたらもう想像もしたくもないことになることは間違いない。

 

『開けていないわけだから回り込むのも無理よね』

「ああ……仕方ない、一旦ここから退いて――――――」

 

別口の通路に回り込もう、と続けようとしたところでそれまでになかった異変が起きた。体感で感じられる微かな地響きが数度伝わって来たかと思うと、急速にそれが強まって来たからである。原因は何によるものかと考える暇もなかった。

ドォンッ!!と突如E.L.I.Dの集団の横の壁が吹き飛んでコンクリート諸々が舞い上がって死者たちを押し潰されていく。ローガンは予期せぬことに反射的に顔を庇いながらも、現在進行形で起こっている現象が何によるものなのかを見極める為に目を逸らさずにいた。

 

『ローガン……!』

 

416にベストを引っ張られていたので彼女に従い背中を向けないまま後退する。無傷のE.L.I.Dが不意にこちらに突撃してきても対応できるように警戒を解かずにいたが、爆風でないそれを引き起こしたのが人による常識が通用しない、それどころか鉄血でさえもわからない怪物によるものであることを知って驚愕した。

まず砂煙が収まってきたことで見えてきたのは吹き飛んだコンクリートの断面に手をかけて身体を支えている巨体。体長五メートルはあるその体が細長い、というわけではなく筋組織も発達しているのろうがやや余分な肉がついている印象がある。だがそれでも今しがたのように機械等を用いずに単純な腕力でコンクリート壁を破壊するのに自然と納得させられてしまっていた。

 

『まさか、あれって……!』

「バルソクも静かにしろ。あんな奴と戦うようなら確実にやられてしまうぞ……!」

 

明度調節機能がついているハイテクサングラス越しに見えているその怪物の濁った黄色の両目がこちらを捉えていないことを祈りつつローガンは息を殺す。距離があっても聞こえてくる怪物の息遣いに慄きながらも必死に空気に自身を偽らせていると、怪物の注意が逸れて足元に移行した。ローガンも目線を追って焦点をずらすと足首にかぶりついているE.L.I.Dがいた。そうするのが一体に留まらず、あれよあれよと十を超える個体が続いて原始的で本能に従った攻撃を仕掛けていく。

そう認識した束の間、かぶりつかれていた怪物の足が動いて体全体でしがみついていた死者たちを蹴り飛ばした。五体程度のE.L.I.Dが子供の遊び道具のように飛ばされて壁に激突、鈍い音を立てて首の骨を折るなどして動かなくなっているが細かいことにまで気を払ってはいられない。CGとも日本の特撮映画とも違う、シャレにならない本物の怪物による蹂躙が始まったのだと、ローガンは総毛立った。

ぐしゃりと一度上げた足で足元の死者を踏み潰した次に片腕で地面を払ってE.L.I.Dを薙ぐ。冗談のようにトンネル状の天井にまで舞い上がったE.L.I.Dに拳を打ち込んでめり込ませ、さらにはもう片腕と共に振り下ろすなどして驚異的な惨状が繰り広げれた。

 

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

怪物の雄叫びが地下に木霊して咄嗟に両耳を塞いでしまったがそれはローガンだけでなく416とバルソクも同じだった。両者ともここまでパニックになるのを懸命に堪えているのだろうが、後者の方は今日になって初めて鉄血や反政府組織とは違った形態の敵対対象に遭遇したが為に特に理解が及ばずに混乱しているのは見て取れた。

しかしその表面化していない混乱状態になっているのはローガンも同じで、こちらと同様に咄嗟に静観を決め込んだ416は冷や汗を流しながら暴れまわっている怪物の様子を窺っていた。

 

『ローガン、G11が一人でそっちに行ったぞ!それに一体なにが起こっている!?』

「今は詳しく話せない!アルファ3も聞こえているな!?余計な音を立てずにそこで待機しろ、いいな!?」

 

小声でも無線機越しにやや怒鳴るようにしてそう言葉を叩きつけると、ローガンはよく音が響くであろう手頃なサイズの鉄パイプを片手で拾い上げるとそれを持って様子見を続けた。

その場の一方的な暴虐が終わりを迎えそうになったところで、ローガンは鉄パイプを怪物が破壊して進入してきたのとは逆の方の壁に投げつける。大体の狙い通りの位置に落下して事で、静けさが徐々に戻ってきた空間に金属音が響いた。

その音に反応した怪物は少々訝しんだ様子を見せたが残っていたE.L.I.Dにも含めて腕を薙いだものの、当たりを付けていたところに感触が無かったことに首を傾げた。が、身体を丸めたかと思うとタックルの姿勢になり音のなった方へと突撃、砂煙と壁をまた突き破っていった。

「……なんとかなった、のか?」

 

バルソクの一言でローガンは警戒態勢を幾分解いて怪物が進んで言った方を足音を抑えて近付き形成された穴を覗き込んで確認する。パラパラと細かいコンクリート片が崩れていたので下手に踏み込まないようにし、誘導にうまく引き寄せられて具現化されていた嵐が過ぎ去ったのだと認識。E.L.I.Dが一体もいなくなった前面を見ながら胸を撫で下ろすと無線機に手を当ててこちらの状況がわからなかった皆へと報告する。

 

「もういいぞ、こっちは俺含めて三人とも無事だ。道をE.L.I.Dが塞いでいたがクリア、前進するのには問題ない」

『それはいいが一体何があったんだ?こっちからじゃ只事じゃないことしかわからなかったんだが……』

 

行先しばらくに敵影が無いことをもたつきながらも確かめたバルソクがサムズアップで報告。それとほぼほぼ同時にハルカ達を置いてきたG11がこちらに到着した。

滅多に見ないG11の汗を浮かべながらも肩で息をしている彼女が少々腹が立ったのか、416はズンズンと歩み寄ると頬を抓んだ。

 

「いはい、いはいほ~……!」

「お黙り。こっちに来るんじゃなくあんたは自分の仕事やりなさいよ。私とAEK999がいる以上はローガンを簡単に死なせないって昨日言ったでしょ」

 

基地内でも見られる姉妹のような二人のやり取りを横目にしていると、ハルカ以上にあの怪物の正体が知りたい様子のバルソクがこちらを見ていた。隠すつもりもないのでローガンは素直に得られている解答を彼女達に提示する。

 

「巨大なE.L.I.D変異体に遭遇したがなんとかやり過ごした、て言えば納得してもらえるか?」

『……さっきの衝撃といい叫び声といい、そういうことだったのか。こんな暗黒空間の大本はそいつか』

「無関係ではないことは確かだろう。にしてもあんなのが徘徊しているというのは厄介だな……」

「マスターたちだけで納得しないで私にも教えてくれ。E.L.I.Dにあんなのがいるというのを実際に見たわけだから疑っていないが詳細が分からないんだからさ」

 

もう一度さきほどの怪物、E.L.I.D変異体の猛威を明確に示されている現場を見る。押し潰された肉片の血だまりに壁にめり込んだ死者たち。ローガンたちが上のフロアで戦った数に迫るどころかそれ以上であることから戦闘力は高いことは間違いない。それに思案している様子も見られたから多少は知性が残っていることも窺える。

ただバルソクが聞きたいと思っているのはそう言ったことではないのだろう。もっと単純に、アニメや映画にしかいないと思っていた巨大な化け物が出て来た。が、彼女はそもそもE.L.I.Dという存在を書面上でしか知らない。なのでゾンビに続きそれに類する巨人まで出てきたのだから理解が追い付かないのもやむなし、とローガンは口を開いた。

 

「俺もそこまで詳しくは知らないが、個体によっては様々な変異を起こすんだよ。これまで確認された事例で言えば、動きが異常に俊敏だったり両腕が刃物に形態変化していたりな。共通していることがあるとすれば、並の武器じゃ手に負えない、てことぐらいだな」

「だけどあんなになるきっかけはなんなんだ。低濃度の『崩壊液(コーラップス)』の被爆が大前提なのだとしてもなにもせずに本当の化け物に変わることはないんじゃないのか」

「隠されているかもしれないけど正規軍側による情報提供でもまだはっきりとしていないわ。長い時を経て遺伝子が反応して変異するのか、それとも『崩壊液(コーラップス)』に被爆した直後に違うプロセスを辿っていくのか。でも確かなのは私達も経験したことがないぐらい、混沌とした一日になるかもしれないわね」

 

416が言ったことのように三つ巴の激化することは容易に想像できた。うまくやり過ごすなどすれば鉄血と潰し合わせることはできるだろうが、それだって毎回できることではないし失敗だって有り得る。それどころか両方から同時攻撃を受けてしまえばお終いだ。

 

「戻るのなら今のうち、ではあるが道も開けてしまったしな……。ハルカ、こちらは前進を再開するぞ」

『わかった。不測の事態で手助けが必要なら言ってくれ』

 

意固地になっているG11をハルカの元へと戻るよう416が説得しているのを横に、ローガンは通信を一旦終わらせてバルソクの額を小突く。目に見えて震えていた彼女がこちらを見上げたが、思ったような表情が作り出せているかどうか、ローガンにはわからない。ただ彼女がそれに釣られた様になんとか笑みを浮かべているような様子からして全くできていないわけではないのだろう。それで彼女が僅かな安楽を得られているのかどうかはわからないが。

 

「逃げてしまいたいと考えているのならお前だけじゃないさ。俺だってできればここからおさらばしたいよ」

「そう思っているのはマスターだけだ。私だったら遠慮なくリズムを刻めると思ってワクワクしているだけなんだから心配しなくていい」

「俺が言うのも何だが、無理だけはするなよ?」

「ったく、本当にマスターだけには言われたくないなそれ」

 

お返しとばかりに胸に力が込められた拳を当てられたが、この衝撃だけで前に進んでくれるのならまだ安いものだ。足が竦んでその空間に縫い合わされた、過去に生きていた仲間たちとは違った行動を起こしてくれたのに安堵したのと同時に、今の自分がそう見られているのだとローガンは自分が情けなく思えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな変化が見られない闇の中を進んでしばらくして、久方ぶりに見る気がする鉄血兵の軍勢がそこにいた。地下内に作られて発電施設までもが増設されているプラットフォームの中央にて作業をしているのを遠巻きに観察していると、派手に駆動音を発している機械が注意が移る。それには同行している皆が同じだったようで416が言った。

 

『あれって工事に使われているドリルマシンよね。奴らは一体ここで何を……?』

『ていうかやっているのは工事そのものだな。耳栓とかヘッドホンしてなきゃ聴覚モジュールが持ってかれてしまいそうだよ』

 

ドガガガガガガガガガガガッ!!とドリルの先端を地面に当てて地中を掘っているのを見てローガンは何が狙いなのかを考えていたが、ふとサングラスのHUDに移っている『地図』に視線を移した。自分達の位置と少々重なっている鉄血兵の集団、その全体的な位置関係までもざっと見て一つ気が付いたことがあった。

『地図』に写っている下層の目的地までのルートを無視してみれば、厚さはあれどその真上がここであったのである。つまり――――――。

 

「そうか、ここが『オアシス』の在処の真上か……!」

『そういうことだったのね。ずっと『鍵』がない奴らがどうするのか考えていたけど無理矢理上のフロアから侵入しようとしていたというのね』

『だとするとここで片付けておくべきだな。私達がここでなにもせずに通り過ぎて『オアシス』に到達するか、それとも奴らが先に地面を貫通させて奪い去るか。そのどちらかだがあの変異体に出くわさない限りは後者の方が分がありそうだ』

「いずれにせよ作業の進行具合からしてもう時間がそこまで残されていないだろうな。手出しをする方が吉と見た方がいい……」

 

円陣を組んで警備に当たっている鉄血兵はヴェスピドやガード、ストライカーなどで構成されていて戦いになれば防衛戦になることを覚悟しているのが目に見えている。これでは容易に崩せないとしてローガンは無線でG11とハルカに言った。

 

「出番だ。ショートカットをしようとしている鉄血の一掃に手が足りない」

『了解、急いでそちらに向かう』

 

ここに来るまでの道中でも少人数でしかいなかった機械兵や死者の排除をするべく何回か発砲したが装填している弾倉の交換はまだ早いだろう。それを装填し直してからモードセレクターをフルオートにして全力を持っての交戦に備えて物音を立てぬように気を付けながら作業を行った。

工事をしている鉄血も損失がほとんどなく効率よく作業できるよう、人類であれば安全面に配慮したいえる備えをしているのも注意深く観察していればすぐにわかった。付近の柱に補強材を取り付けてアンカーを打ち込んでいたりと、人命云々とか細かい点は違えど余計で望まぬ事故が起きないのは共通しているのか、と他の者に話せば無意味だと切り捨てられそうなことに物思いに耽りそうになった時だった。

奥の暗がりから一体の機械兵が現れたのだが、その敵が他の鉄血兵とは違う出立ちだったのである。

武器としては大口径の拳銃こそ腰のホルスターに収納してはいるものの、それよりも異様な片腕で持っている剣の方にまず先に視線が引き寄せられる。そして長い黒髪に頭部に取り付けられている角のようなユニット、肘より先が剛性や機能に特化させたであろう巨大な右腕が印象的だった。

 

「なんなんだ、あいつ……?」

 

明らかに付近にて徘徊している機械兵とは違う、エリートめいた装備と出立ちにローガンは眉を顰める。

作業をしている鉄血兵に対し指示を出している様子と見た時の印象からして、雑魚として扱っていい敵ではない。実際にその場にいた少女たちと協力しながら打倒してきたハンターやイントゥルーダーと同じ、濃い死臭を纏っている人形を見ているような感覚だった。

 

『……間違いないわ。あれが『処刑人』、エクスキューショナーよ。私は直接戦ったことはないけど、あれが関わった事件の報告書に付随している写真データは私も何回も見たわ』

「あれも鉄血のハイエンドモデルの一体ということか」

『そんでG11の見立て通りならあいつがハルカの民兵をやったっつうわけだ、忘れちゃならないからなマスター』

 

ハルカ達がこちらに到着したらひょっとすると……、ともしものことも考えておかないとかとローガンは内心溜息をついた。ハリーの見立て通りにエクスキューショナーが関わっているのはよかったか否かと聞かれれば間違いなく否ではあるが、戦術を行使したりと並の鉄血兵では見られない連携もあったことの説明が出来ないので、変に絡まった糸玉のようなことにならなくてよかったのかもしれない。

そう思い直していると、エクスキューショナーがローガンのように耳元に片手を当て始めた。それから口を動かして相槌を打つように頷いてもいることから、無線で誰かと話しているようである。

 

『話の内容とか全然聞こえないけど誰と何を話しているんだ?』

『奴らにも情報共有という概念はあるからそれでしょうね。グリフィンが正規軍に嗅ぎまわられているように鉄血だって私達の動向を探っているんだし、もしそういったことを話し合っているのだとしても不思議ではないわ』

 

バルソクと416の会話を隅に置いてエクスキューショナーが言ってることに聴覚を集中させたが結局はローガンも聞き取れなかった。照明に照らされている表情を歪ませているので不快に感じることを話しているのだろうが、内容までわかっていなければ情報収集とはいえない。

どうにかして聞き出せないかと考えていると、ふとエクスキューショナーの表情が挑戦的なそれになり視点がずらされた。虚空にあってこれといった特定の物に落ち着いてなかった焦点がどこに止まったのかはすぐに理解できた。

 

『なあ、あいつこっちを見てないか?』

『奇遇ね、私もそう思っていたところよ』

 

ゾクリッと背筋に悪寒が走る。前触れも何もなくこちらの存在が勘付かれることはない筈だが、相手はあの鉄血工造の人形だ。こちらが一ミリたりとも予測していなかったことを行うことだって大いにあり得る。

引き続きその場に留まって様子を窺っていたのは、後々になってから悪手であったとローガンは後悔したことだった。幾分の問答をした後でエクスキューショナーが武装している装備を手に取って構えた瞬間、反射的にローガンは叫んだ。

 

「避けろ!」

 

そう声に出しながらローガン自身もすぐ横に受け身を取るようにもしながら跳んだ瞬間、エクスキューショナーが手に取っていた大剣による衝撃波がさっきまで三人で固まっていた地点を削った。

背にコンクリート片などが当たりながらもローガンは考えるよりも先にまた鉄血側の様子を探るべく頭を少しだけ出した。しかしそうした束の間、エクスキューショナーだけでなく戦闘態勢に移行した鉄血兵がこちらに向けて銃口を向けてくる。すぐに頭を引っ込めるとプラットフォームのコンクリートを銃弾が抉り、交戦せざるを得ない状況であることを明確に示された。

 

「マスター!!」

 

バルソクに掴みかかられて押し倒されたが、仰向けになってさっきまで立っていた所に剣による閃きが見えた。それもその筈、エクスキューショナーが高速で接近し手に持った得物をレール上にいた自分に目掛けて振り下ろしたからだ。

 

「チィ、外しちまったか!」

「この!」

 

舌打ちするエクスキューショナーに416が牽制射撃を行って一時的に脅威を凌いだがそれでもすぐに二撃目が来るとして体制を整えるべく起き上がる。バルソクもすぐに自分の代名詞であるマシンガンを取り出してから銃撃を開始し、416は跳び退るエクスキューショナーに追撃を行った。戦いに参加する前に、ローガンは無線機に手を当てながら後続の味方との回線を繋ぎ直す。

 

「アルファ1、2と4は交戦を開始する!お前達も急いできてくれ!」

 

返答を聞かずバルソクから少々距離を置いてから『ハニーバジャー』を構えたものの、ガードが他の鉄血兵を守っているので正面からでは攻撃できないとして回り込むべく動き出す。前頭姿勢で駆けだして回り込み、きっちりとした隊列を組んでいる横っ面に銃弾をお見舞いしようとした。が、予測していたかのようにストライカーの銃がこちらに向けられたので、陣形崩しではなく攻撃阻止の為にその人形にへと発砲。他の敵からの射撃をすぐに屈んで避けてから次の手を即座に考えるがこちらの頭数が少ないこともあって有効打を与えられるのも少ない。

 

『マスター、攻勢に転じなければ長くはもたないぞ!』

『それには同感、私一人でエクスキューショナーの注意を引き続けるのは無理よ!』

 

現状を打破する案はないことはないが、この後ハルカ達が到達したことを考えればできればあまりするべきではないのかもしれない。十分な装備があるこちら側だけが特に困らないだけであってハルカ達までもが被害をこうむることだって容易に考えられる。

ただ、それを実行しなければ活路を見出せないのも確実なことであって、後続連中が到着する頃になった時には自分達は死体になっているだろう。自分たちを基準とした勝手な戦法で他を切り捨てることは本来なら非難されることだが、突如として厚い壁を押し付けられた現段階ではそれすらも覚悟せぬまい。

 

「バルソク、可能であるならで良い!敵方の照明を撃って光源を無くせ!」

『十八番の暗闇に紛れての闇討ちってことかいマスター!だけどそれだと……!』

『かまわん!あんたらが死んでしまったらお終いだ、やれ!!』

 

そうした場合のデメリットを即座に理解してくれたのか、ハルカからも文句を言わないことを示した言葉が飛んできたことからローガンもこちらからしか見えない範囲での光源を無くす為に行動を開始する。煙の向こうからでも光るものがあれば大まかな位置であればわかる。なので、ローガンが取り出したのはお馴染みの投擲物。

 

「スモークいくぞ!」

 

ピンを抜くと敵の陣形の中に放り込むと『ハニーバジャー』を一旦下げて『P226』とナイフによるゲリラ戦法の姿勢を取る。そして聞き慣れている煙が噴き出す音が銃声に紛れながらも聞こえてきてやや弱まった途端、ガラスが割れた音も耳に入った。

 

『照明を撃った、これで敵も闇の中だ!』

『エクスキューショナーも動けなくなってる、やりやすくなってる今がチャンスよ!』

「416はエクスキューショナーを抑えろ!雑魚はこっちで速攻で片を付ける!」

『了解、なるべく早くお願いするわよ……!』

 

ローガンはバルソクと前面に飛び出すと頭を低くすることで銃弾を掻い潜って接近。暗闇になってもまだ残っている煙の中に飛び込んで混乱している火力担当のストライカーの喉元をすれ違いざまに切り裂いて分離させ、身を翻すと近くにいた一体には『P226』で銃撃で急所を狙って数発撃った。それで反撃を遅らせてからコアのある位置にナイフを刺突で貫き、即席の盾にして銃を向け始めたヴェスピドとストライカーを一体ずつ無力させていく。

こちらに撃って来た銃弾を受けさせた盾を捨てて補強されている柱に身を一旦隠すと『P226』の弾倉を変えてバルソクに言った。

 

「バルソク、こっちでストライカーとヴェスピドを粗方片付けた。そっちはどうなってる!?」

『なんとかガード相手にやっているがまだ数体しかやれていないぜ!できれば助力をもらえるか!?』

「わかった、ちょっと待ってろ!」

 

『ハニーバジャー』に持ち替えてからこちらに撃ってきているヴェスピドのリロードを窺うよりも先に、撃っているのとは反対側から飛び出して銃撃でヴェスピドをダウンさせる。それからローガンは明度が調節されて薄らと見えているガードに銃口を向けた時だった。

 

「させるかってんだよぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

『ローガンッ!!』

 

訳も分からずローガンは突如として横に吹っ飛ばされて背から壁に激突した。背中だけでなく内臓や骨にまで響いて来た衝撃と痛みにローガンは動けなくなりその場で咳き込むが、再び動けるまで敵が待ってくれるはずもない。

不意打ちを食らわせたハイエンドモデルが接近してきているのを霞む視界内で捉え、ローガンは反撃のタイミングを測った。

そして幻視している自身の殺傷可能範囲に入ったことを認識すると、ローガンは大剣を手に持っている方に組みついて封じ、肘鉄を顔面に食らわせた。

 

「こ、のクソ野郎!」

「黙ってろロクでなしの鉄屑が!」

 

大剣を手放させてエクスキューショナーという戦力を大幅に削ぎたかったがやはり簡単にはいかなかった。主力武器を手放さなかったエクスキューショナーに力任せに右腕を振られて両脚が地面から離れてしまう。だが、ローガンはまた吹き飛ばされないようにしがみついて耐え、また『P226』を抜き放ってエクスキューショナーに向かって何発も撃った。体感で言うのならおそらく五発程度だが命中したのはたった一発。それでもその一発がエクスキューショナーの腹部に当たったので敵方もさすがに怯んだ。

 

「く、そがぁ……!」

 

それによる好機を見出したローガンは振るわれていた右腕の勢いが弱まった瞬間に『P226』の照準をエクスキューショナーの頭部に定める。今度は弾倉内のパラベラム弾を全て撃ちきるつもりで引き金を絞ろうとしたその時だった。

 

『―――仕方ありませんね』

 

すぐ横から囁かれたような気がしたのはすぐにはわからなかった。時間があれば何故なのかはわかるのだろうが、それによって別の疑問が生まれたりとループに陥ることは間違いない。

ただ聞き覚えのない女性の声が聞こえた途端、ローガンは誰もいないと思っていたプラットフォームの奥側から何者かにされて吹き飛んだ。

 

「ぐ、一体何が……!」

 

すぐに受け身を取って衝撃を緩和、手に持っている拳銃をさっきまで自分がいた位置の方に向けた。全力は尽くしていたが振り切られたらしい416がすぐ傍で『HK416』のリロードを終えて構え共に未確認の敵に対し警戒する。

 

「……なんで出てきやがったんだ。ここはオレが受け持つって言っただろうが」

「簡単な話よ。ここに来ている方の一人が私にとっての重要人物なのですから」

 

エクスキューショナーがやや屈んで息をつきながら背後にいる誰かと話している。そう認識するとそのどちらに銃口を向けるかに迷ったが、416は最初から奥側にいる誰かにずっと向けていたのに気が付いた。そして彼女の眼光が異様に鋭く、ローガンが見てきた中でも刺々しい印象を与えて来ていた。

すぐにはローガンも頭が回らなかったが、鉄血のスカウトにダイナゲート、リーパーやヴェスピドは連携を取る為に表立ったコミュニケーションはとらない。声に言葉をのせた会話をするのはハイエンドモデルだけであり保護区外で徘徊している鉄血兵がそうした意思伝達をすることはないのだ。

つまり、エクスキューショナーが話している奥側の人形はここフロリダ州に現地入りしている鉄血兵のハイエンドモデル、そのもう一体ということになる。

 

「E.L.I.Dによる多少の時間の誤差はあれどそう踏んでいましたが、やはり彼らがここに到達するのが早かったですね」

「予想通り、でご満悦かよてめえ。その声聞くと相も変わらず腹が立つが今のは一層頭に来る」

「ふふふ……とにかくここは退いた方が良いでしょう。『鍵』の持ち主も来たのですから手段は増えましたしね。ああでもその前に……」

 

コツッコツッ……と一つの足音が地下内に木霊する。それがよく聞こえてきたのは、バルソクがどうにか雑魚の鉄血兵の排除が済んだからなのか、なりふり構わず未だに工事を続けていた人形が手を止めたからなのかはわからない。

それに理解できているのはたった二つ。死臭を纏ったもう一体の人形がこちらに接近してきているという事。そして発せられている声にはローガンに聞き覚えのあるそれである事だけだった。

そして姿を現したのは白に近い灰色の髪を腰よりも下にまで伸ばし、黒のワンピースの上に白いパーカーに袖を通している、一体の人形だった。すらりとした病的にまで白い生足には黒のコンバットブーツが穿かれており、その足でエクスキューショナーよりも前に出て来た人形は足を揃えると会釈しながらワンピースの裾を両手で持ち上げる。

 

「はじめまして、グリフィンの皆さん。私は鉄血工造のハイエンドモデルの一体で『灰燼人』と呼ばれてる――――――」

 

持ち上げられた顔がにこやかな笑みを形作り、真紅の両目が開く。その笑みの裏側に何が潜んでいるのか一切悟らようとはしていない、人間でも偶に出会う度に感じるそれを何倍に濃縮させられているかのようで、ローガンは知らずに汗を流し喉を鳴らしていた。

 

「――――――アッシュといいます」

 

それが、ローガンにとってここからもなにかと関わる人形の名だった。




先日の金曜日にてドルフロの方に新イベントが来ましたね。クリスマス関係のシナリオを頭に読み込ませている最中、ドロップする人形のリストの中に『Px4 ストーム』というハンドガンの人形の名が目に入りました。E-3をクリアさせてから私はそこで進めるのを一時中断して周回に。ただまあ、最初の内はあまり苦労せずに済むと思っていたんですよね愚かにも。私にもドロップ品を目当てにドルフロで周回することはあれど、300BLK弾やナショナルマッチ徹甲弾、またはOTs-14ことグローザの時のように十数階でドロップしてくれるものだと思ってしまっていたんです。どうなったのかは大体わかっているのかもしれませんが、案の定なかなかドロップせず六桁あった弾薬が五桁になったりと、変なところを気にする自分にとって精神的にキテました。でも以前にヴァルハラコラボの時のようにファイブセブンがドロップするのに百周以上してたりもしてたので、こんなものなのかなと思いながら休日も周回続行。そんで午後にやりながら炬燵で微睡んでいた所、ふと二十分程度寝てしまってました。そして目を覚ますと、プランモードにしていたゲームがタッチするまでの待機状態に。まあ簡単な話、八十一周目でちゃんとドロップしてくれていたんです。それからはメンタルアップグレードに備えて溜めていた作戦報告書を与えていたりもしたのですが、日を跨いだ今日のことです。E-2には斧を持っている同じく最高レアリティのハンドガンのキャラ、『CZ75』のドロップエリアでポイント目当てに周回していたのですが、物欲がなかったからか揺り戻しなのかたった三周目でドロップしてくれました。……正直、目が点になりましたよ。『なんで?』て首も傾げたりと思考を放棄していましたが、まあそれはともかく各エリアにて限定ドロップの人形はもう揃ったということで、あとはある程度毎日周回してポイントを得て交換する、というサイクルを繰り返すだけになりました。……もうちょっとおいしい思いをさせてくれてもいいのよ?
そんな直近のどうでもいい話はともかく、今回でアッシュの登場でございます。このオリジナルキャラクターはある程度まで練り上げているのですが、あくまで設定上の話だけであってビジュアルはほとんど……的な感じでした。このキャラは色々と絡ませていくつもりですから、場面を想像するのにあたって自分にとって苦痛のないキャラの様相を当てはめました。つまりですね、私自身の推しポイントが幾つもあるという事です。ええやん、こういったのを自分で考えても。そこにフェチを加えてもええやんけ……。今後においても、アッシュというこのキャラにも一目置いてくだされば私としては嬉しく思います。
てな感じで今回はこの辺で。数は少なかれど、ゲームのイベントにクリスマスが関わり周回が必須であったりと少々慌ただしかったりしますが、次回もきっちりと書くつもりです。そんな私の足掻きにお付き合いください――――――


『あいつもとあるゾンビシューティングのボスをモデルにしていたんだよなぁ……』

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