誰も助けてくれない -Can you hear me?- 作:麒麟犬
大胆不敵にもほどがあると感じさせられるほど、フレンドリーな姿勢を示している態度には何か思惑があるのではないかとすぐにローガンは勘ぐった。名を口にしてからも笑みを崩さない鉄血工造のハイエンドモデルの戦術人形、アッシュはそのローガンの様子に少々悲しそうに目尻を下げる。人間そのものの感情表現を行いながらアッシュは言った。
「ごもっともな対応ではありますけど実際にそうされると胸が痛みますね」
「当たり前だろうが、てめえにやられたことを俺は忘れたわけじゃねえぞ」
直接この人形が手を下したかどうかは定かではないが、ローガンの相棒であった男の死に関わった敵の一人であると考えていた。自分が与り知らぬところであったことまではさすがにローガンにも知る由はなかったが、思うことはあれどもう受け入れている結果が物語っている。運命かなにかの悪戯で近しい者の死に何度も立ち会わされてきたローガンにとって、目の前にいるアッシュも仇敵の一人として脳内のリストにカウントされていた。
「敵同士ではありますがお互い様ではありますよ。あなたは私に一度痛手を与えたので、私はあなたから背中を預けて肩を並べた方を仕留めるよう、ハンターに『要請』しました。恨み恨まれるだけの理由があるのは共通しているではありませんか」
「それを免罪符に何をしても許されるとは思ってんじゃねえぞ。個人的な事情は置いといてもてめえ自身も鉄血の人形、俺はてめえらに楯突く人間。元より銃とナイフを向け合う理由なんざそれだけで十分だ」
奥歯を密かに鳴らしながらローガンは敵意をむき出しにすることを厭わずにそうアッシュに言葉を叩きつける。可能であれば今すぐその眉間に向かって『P226』を撃ってしまいたいが、おそらく現段階で鉄血の情報の宝庫であるのはおそらくエクスキューショナーよりもアッシュの方だ。ローガンがグリフィンの兵士になってからでも報告されたことのないハイエンドモデルというのが根拠ではあるが問題が一つだけある。
照準に収めている眉間に撃って仕留めた場合は今回の目的の一つとしての鉄血のリーダー格から記録媒体を抜き取るという点で大きな進展を生み出せなくなってしまうのだ。だからといってここで発砲するのに照準をずらすようでは、僅かに生じるタイムラグで攻撃を仕掛けられることだって考えられる。雑魚の鉄血兵ならともかく、I.O.P製の戦術人形よりも基本ステータスが上であるハイエンドモデルには訳が違う。
実際に目にしてはいないが、416がこちらの出方を窺うようにしているのがなんとなくわかる。しかしローガンにとってもここから好転させれるだけの奇策は思いついていないのでどのように動けばいいのか見当がつかなかった。
「たしかに、ただ戦う理由はそれだけで十分ですよ。それに鉄血工造による人類側への損害は大きいものです。致命的にまで行かずとも反対もまた然り。親しき誰かの命が奪われたことで奮起し闘争に加わるのはその人の自由です。ですけど――――――」
紅い目が妖しく閃いてローガンを見据えてくる。その閃きが何処かで見たことがある気がしたが、それをすぐに思い出すことはできなかった。ただ自分に向けられた両目が浮かべられている微笑みとは違った思惑を秘めているようであり、自分は彼女からの続けられる言葉から逃げられないことを言われずとも悟っていた。
「――――――あなたが今立っている『そこ』はあなたにとって本当に安息の地で、傍にいるのは本当に味方と思っているのですか?」
「……は?」
訳も分からない問いにローガンは素っ頓狂な声が出てしまう。それでもアッシュは思考停止しているこちらに厭わずにそのまま言の葉を声に乗せていった。
「深く考える必要はありません、そのままの意味で考えてください。今あなたが属しているグリフィンは本当に傷心しながらも戦い続けているあなたに味方しているようには、私からでは見えていないのですよ」
「……何が言いたい。上層部の連中に頭に来ることはあっても、隣に座って飯食ってる連中からは本当に不快だと思ったことはねえぞ」
「そうですか。本部で駄弁ってばかりいる連中はもちろんですが、そうして衣食住を直に共にしている人形たちに思うことはないと、あなたは言うのですね?」
「はっきりと言いやがれ。そう遠回しにこっちを勘ぐっているのは俺からすれば一番腹立つんだよ」
ローガンにとって腹立たしい言い回しをされるのとは別で、言い知れぬかつ言葉では表現できない憤りを感じながらもそう言う。思考は冴えてはいるが冷静な判断を妨げるそれが別で暴れまわっているのを我ながらおかしく思いながらも、ローガンは『P226』の引き金に指を掛けつつもうっかり引かないように意識的に心がけた。
そうしているのがおかしいのかアッシュは一層笑みを深くしながら口を開いた。
「なにはともかく、すぐに回答を得られては意味がありません。これは束の間の命題としておきましょう。あなた方のお友達も来たことですしね」
そうアッシュが言った矢先、こちらの後方から何人もの足音が聞こえてきた。ここまでの道筋とその方向にすぐさまこちらに向かって銃弾が飛んでこないことからもう見ずともG11とハルカを始めとした民兵の部隊であることはもうわかっている。
すぐ横までG11が銃を構えた途端、民兵十数名がライトで二人を照らしながらガチャガチャと金属音を響かせながら銃口をアッシュとエクスキューショナーの方に向けた。各々にそれぞれの違う理由はあれど、親や兄弟同然の仲間かそのものを亡くしたことから目の前で自分たちに気にも留めていない人形に特大の殺意も収束させている。そんな中でハルカが彼らの先陣切って前に出てきて、ハイエンドモデルの内の一人に視線を落ち着かせた。
彼女にとってもアッシュは無視できない存在ではあるだろうが、今日まで生きていた部下がやられたことで優先している第一ターゲットはそちらではないのは間違いない。
416の隣に並んだ途端に少々離れていても感じて来た殺気にローガンの背筋が密かに震え上がった。
「エクスキューショナーっつうクソバカ野郎はてめえだな」
「誰だよてめえ。引き連れている連中のリーダーみたいではあるが雑魚っぽいぞ。ここはてめえらみたいなアマチュアが来るところじゃねえ、帰れ」
「そう言われて易々と帰されてたまるかよってんだよクソッタレ。こっちだって一人二人どころじゃない、歩いて来た道を振り返れば数えきれねえぐらい殺されてんだ。ここで食いつかなきゃいつ牙を剥くってんだよ!」
同調したかのように彼女の部下たちが口汚くアッシュたちを謗るが彼女たちは何処を吹く風とばかりに未だに気にも留めていない。それで腹を立てたのか、ハモンドが一発発砲。
バンッ!とアッシュの髪を掠めて背後のコンクリート着弾したことで、ようやく彼女の視線がローガンから彼に移行。その両目に秘められている感情は未だにわからずとも、浮かべていた表情が無表情になった。
「無視決め込んでんなよドカスが!その目ん玉はただのお飾りかよ!」
「うるさい蠅ですねぇ。この事態は予想できたことだったのですが、ここに来る前に殺虫剤を持ってくるべきでした。エクスキューショナー、次からの野外隠密作戦の時はリストに加えるようエージェントに報告しておいてください」
「耳元で飛ばれてカンに来るのは同感だがそれは自分でやりやがれ。オレはてめえのオーダーを受け付けるドローンじゃねえ」
引き続き眼中にないとばかりの反応をされたことに頭にさらに血が上ったハモンドがさらに銃を撃とうとしたその瞬間に、目の前にいたアッシュの手が一瞬にして腰に手が伸びる。ローガンが反応した時にはアッシュはその手に握られた拳銃を発砲していた。
ガァンッ!!という銃声と共にハモンドが吹き飛ばされ、彼の背後にいた民兵数人が受け止めながらも倒れるような形に見た時にはなっていた。
「げほっ……!てめえ、一体何を撃ちやがった……!!」
「ご安心を。私個人で生み出した、殺傷力は限りなく低い衝撃弾です。その分被弾した対象は随分と吹っ飛びますけどね」
手綱が握られている状態ではあるが一応味方であるハモンドを見てやってから、ローガンはまた警戒態勢になってアッシュの方に視線を戻す。自身にとって用がある相手がまだ自分に向き合っていることに喜んでいるのか、アッシュは無表情からまた笑顔を浮かべたものになった。そして黒塗りのオートマチックの大型拳銃をひらひらと動かしながらこちらに向けて言った。
「さっきあなたが吹き飛んだのは、これを撃ち込んだからですよ。あなたを余計に傷つけたりしないように作ったのですが、蠅ごときに使うことになったのは私としても不本意です」
「……それはともかく、てめえらはこの状況下で抵抗できねえだろ。大人しく俺達の指示に従うのなら……と言いたいところではあるが、そうするつもりはないだろ」
「よくご存じで。私としてはあなたともっと語らいを続けたいのですが、こうもギャラリーが多いと話せることも制限されてしまいますしね。仕方ありませんから―――」
アッシュが銃を持っていない方の手を上げた途端、彼女が出て来た奥側から何かが高速で飛び出して来た。黒い影そのもののようにして現れたそれは一つではなく十一、つまり十一体の鉄血の戦術人形。それはローガンも見慣れている鉄血兵のタイプの一つであり、ヴェスピドどころかリーパーよりも接近戦に富んでいると認識している。そして民兵の死体を前にG11と話していた際にローガン自身が口にした名である。
「―――こうさせてもらいます」
武装から接近戦に特化させた鉄血兵、ブルートである。鉄血兵の中では最も相手にしたくない特化型、凶悪な一言で言い表されるそれが突貫してきたことで民兵たちがうろたえながらも対応し始めた。
「よりにもよってこいつかよ……!」
「慌てるな、敵の数は多くない!二人一組の各個撃破で活路を開け!」
ハルカが交戦開始する民兵の指揮を執る中、ローガンも自身にまっすぐ突っ込んできた一体の刺突を身を翻して躱し、攻撃が空振りに終わったブルートの胴体に取り出したナイフを突き刺した。ザクリと突き立てられたブルートは一瞬だけ体勢を崩したものの、すぐにこちらに向き直るとトリッキーにジグザグ走行で攪乱してくる。予備として携行しているもう一本のナイフを抜いたものの、人間の脚力では真似できないその動きにローガンが冷や汗を流した時だった。
すぐ横にいたG11が一点に向かって駆け出し、その小さな体躯でブルートの腰に組みついた。勢いのまま押し倒し、背に刺さったナイフを地面にさらに突き入れさせて自身の銃をブルートの額に当てる。
「ジタバタせずに正真正銘の人形になりなよ木偶の坊!」
バババババババッ!!と『Gr G11』が火を吹いて一つと言わずブルートの頭部に幾つもの風穴があいて付近に部品だったものらしい鉄片が飛び散る。そしてピクリとも動かなくなったブルートに掛けていた体重を全て退けたタイミングで、G11からだと死角になっているところから別の個体が攻撃を仕掛けた。だがそれを察知していたのか、G11は自身の身長分高く跳躍して不意打ちしかけた個体の肩に手を当てたまま重力に従ってドロップキックをかまし、瞬間的に動かなくなった鉄血兵にフルファイア。
そうしている間にまた一体、背から襲撃を行おうとするブルートがいたが、当然見てばかりはいられないとローガンが『P226』を発砲。行動不能にするのを目的とした迎撃で撃ったつもりだったが、致命傷の回避を重点的にした行動により痛手を負わせることが出来なかったのに舌打ちした。
それでも連続して二体の鉄血兵の対応をしていたG11の戦線離脱を阻止できただけで良いとして、ローガンはG11を背にして立った。
「これで貸し借りはなしだぞ。ああいや、この場合じゃお前の借りが重いのか……?」
「でもあたしは役に立ってないでしょ、ローガン。これで余計な真似とか言われたらさすがに萎えちゃうんだけど」
「まさか、んなアホなことを言うつもりはねえよっと!」
相対したブルートが投擲したナイフをなんとか叩き落とし、ローガンはすぐさま反撃で『P226』を発砲する。人間と大体共通している箇所の致命傷を避けたということは、四肢に負った傷はあるということでもある。G11への奇襲阻止で負わせた中の一つには、片膝に命中させれたので動きは大分鈍くなっていた。従って、通常の攪乱しての戦闘ができなくなったブルートはナイフの投擲は出来ても銃器が無いことから遠距離攻撃を可能としていないので、もう這うか片脚による鈍い移動しかできない戦術人形となる。
よく見るヴェスピドやリーパーよりも脅威度が大分下がった鉄血兵を撃ち抜いた後に、ローガンは辺りを見渡してみた。
予想していなかった敵からの交戦開始の合図に後れを取ったが、それぞれが善戦して何とか凌いでいた。ただ、何人かが刺されたかして負傷しており血を流しながらその場に倒れているのも目についてしまう。負傷者の介護に回りたいが、まだ交戦可能である敵がいる以上はそうはいかない。それに並んで重大なことがあるのも忘れてはならないとして巡らすと、ファーストコンタクトを果たしたアッシュがローガンに向けて笑顔と一緒に手を振っていた。向かっている先はローガン達が来たのとは逆方向の暗がり。
「奴らが逃げるぞ!」
『G11と追ってローガン!こっちは私とAEK999と受け持つ!』
『そいつはいい、是非そうしてくれよマスター!私らとじゃどうしても遅れが出てしまう!』
ローガンが駆け出すのと同時にG11が並列して走り出す。途中で阻害するようにして民兵の戦いを途中で投げ出したかのようにしてブルートが攻撃を仕掛けてきたが、それがまともな攻撃というには拙かったので躱すのは容易だった。
それでも予測外の事というのはある。ハルカ相手から怒号を間近から受ければ尻尾を跨の間に丸めた犬のようであった男が、猛猪と化して駆け出すことなど妄想でしかないとして内心自嘲していたのだがそれを直に見ることになるとは。
「待てやくされポンコツどもがぁ!今すぐてめえらの身体に風穴開けてやらぁ!!」
「おい待て!!」
『あのバカ野郎が!!ローガン、すまないがあいつを頼む!!』
同じ戦闘服の部下を数人引き連れて強行突破を図っている彼らをすぐに後を追うべく、ローガンとG11はさらに速度をあげた駆け足になった。プラットフォームと仕切る為に作られているドア枠を潜って後を追うが、ローガン達よりも足場の悪い地を走っている所為か追い付けず距離を保つのに精一杯だった。
声を張り上げて繰り返し静止を促すが、それぞれが怨嗟による思いを叫んでいるので耳に入ってきていない。
「あれじゃあもう手綱が引き千切れた猛獣だよ。こっちの言ってることが届いてないし力で押さえ付けるのが一番なぐらいに暴走しているし面倒な……!」
「ハルカが苦労するのもわかるがこんなざまじゃ一部隊の指揮を任せる一点は間違っているんじゃねえかってんだったく!!」
愚痴りながらも追いかけていくと急ごしらえで作られたような複数のトンネルに行き当ったところで見失ったらしくようやく歩を止めた。これ幸いと、ローガンは勘定抑制におけるルーキーたちを走ったまま押し退けて問題児を壁に押さえ付ける。すぐにG11がこちらの背に立って他の者達を牽制するのを背でなんとなく感じながらローガンはハモンドを問い詰めた。
「頭に血を上らせて先行しすぎだってんだよ!ハイエンドモデルが二体いることでなにかをしでかそうとしているのがわからないのか!?」
「黙ってろ余所者が!こっちのやり方に文句があるんならフロリダから失せやがれ!」
「いい加減に感情任せに戦略もなにも考えてないポンコツの脳で好き勝手言ってんじゃねえ!力に物を言わせての脳筋戦法なんて通じるのはないことを前提にってのを知らねえのかよ!!」
胸倉と銃を掴んでローガンとしても強めに言葉を叩きつけてもハモンドは物怖じせずに言い返してくる。だが言ってることはどれも冷静ではない、子供じみた台詞にローガンとしても頭痛がしてきて気分としても最悪なまでに落ち込んでくる。こういった深く物事を考えない手合いの人間との対話が成り立たずに困ったことはローガンの人生でも何度もあったが、いつ襲撃されるかわからない戦場でのことなど数少ない。大体その時は自分達の事で精一杯だったということで放置していたが、今回は彼らを取りまとめているハルカからの頼みがある。捨て置くことが出来ない理由が出来てしまっている以上は不本意であっても為さなければならない。
こちらの手を振りほどこうと暴れ始めるハモンドに対しさらに腕力を込めて押さえ付けようとするが、体格に分があるのは彼の方である。終いにはG11が抑えきれなかった民兵の介入もあって引き剥がされてしまった。その際にローガンは鳩尾に一発、ハモンドに殴打されてそこで身体をくの字に折りつつも、胃の中身を儚いように堪えた。すぐ目の前に唾を吐かれ、ハモンドの声が聞こえてくる。
「邪魔するんじゃねえってんだ!帰る方法を握っているからと言って図に乗りやがって!」
「げほっ……てめえは自重って字を知らねえな……。これを武器にするつもりはねえが、協力関係にある奴を正当な理由なしに害を与えるってのは本来はご法度だぞ……!」
「んなアホなこと知ったことじゃねえよ。大理石の道を歩いて来たてめえらのルールなんざに従うつもりなんかねえ。痛手を負わされた、親しい誰かを失ったことがない奴は図々しくしていないで隅に小さくなっていろ愚図」
そう言われた瞬間、ローガンの中で何かが切れた。腹部の痛みが急激に消え失せたところでローガンはハモンドに再び掴みかかり、こちらに反応しきる前に壁に押してよろめかせる。壁で軽くバウンドしたようになった瞬間、ローガンはその呆けた横っ面にフックを加減を少々加えながらも鈍い音と同時に命中させて横に転倒させた。
馬乗りになったところでローガンはまた胸倉を掴んで上半身だけ起き上がらせ、頬を腫らせたハモンドの近くにまで顔を寄らせると感情半分を含めた台詞を吐いた。
「誰かを失ったことがないだ?俺が歩んできた今日まで鉄血や人道から外れた連中と戦ってきたその道で、誰も犠牲を払わずに済んできたと本気で思ってやがんのか?だとしたらてめえの頭は相当めでたいことだな。道案内と一緒にバトンを渡されてきたそこで苦痛も何もないわけねえだろうが」
「んだと……!?」
「草と泥を口にしながら地面這いつくばったのがてめえらだけじゃねえってことだ阿保。俺はな、てめえみたいに体格や気概がこっちよりも上だった奴をたくさん殺して来た。ガキの時に生存をかけ、捕虜同士の一騎打ちをクズ共に娯楽の一つとして利用されたことがてめえにはあるのか」
思い出す度に胸の内側の憤怒の炎による黒煙が充満する、胸糞悪くなることなどそれだけではない。
ある時は食糧によるロシアンルーレットで、何人かと選んだパンを取って口に含め運悪ければ仕込まれた爆弾を食んでしまって頭蓋が吹き飛ばされる。宗教の狂信者による信仰材料にされることだってあった。
ある時は身に着けさせられた爆弾の解体をするのに同じ立場に立たされた人間達と解体道具の奪い合いを強要され、短い制限時間内に出来なれければ全員が死ぬ。テロリストの暇潰しの遊び道具にされたことだってあった。
ある時は、ある時は、ある時は。そう列挙していけばキリがないぐらい、人間という生き物の暗黒面を嫌というぐらいに見せられてきた。下手すれば鉄血の人類敵対というその選択を英断として認識してもおかしくないぐらいの他人不信になっていたことだって、これまで経験してきた過去を開示して見せつけてやりたいぐらいだ。
だからローガンはハモンドの言ったことが大いに許せなかった。自身にも返ってくる言葉なのだとしても、これ以上の不幸がないような発言をしたこの男が。
「自分一人で悲劇の主人公ぶりたいんなら勝手にしてやがればいい。だけどそれで暴走して誰かを死なすようなことがあったらどうするっていうんだよ!」
「だったらてめえはどうなんだ、あぁ!?指揮していながら自分が決断したことで誰かを死なせたことはあるんじゃねえのか!?」
「ああそうさ、今だって焼き付けられて忘れられねえよ!俺があんなことを言って強要しなきゃ、離れ離れになって死なせてしまうことなんざなかったのかもしれなかっただろうにな!!」
脳裏に過ったのはかつて相棒、両脚が新開発による軍用義足であった男の背中。プライベートではちゃらちゃらと自分に絡み、昨晩読んだコミックの話をこちらが拒否しても続けてくる。作戦行動におけるやる気を出すトリガーとしては、そこには美麗なキャラクターを描写している何かしらかの創作物があるのはローガンとしてはお馴染みであった。
だが戦場に出て肩を並べた時はその目は仲間と獲物を狩る獣のそれと化し、自分と多くの敵を屠っていた。強敵と接敵した時は自分が主に分析しながらも戦い、活路を見出すまで首を横に振らずに攪乱し続けてくれたことだって何度もあった。打ち破った後は彼の方が負担が大きかったというのにも拘らず、肩を叩いて労ってくれたりと精神的にも助けられたことだって少なくない。束の間のセーフエリアを確立させてからの会話はなんてことのない出来事を中心に話したりと気軽に構えていられた。
普段は趣味に没頭し億劫に感じさせられることがあれど肝心な局面では無茶な役割を担ってくれる。それだけでなく休息を得た時はこちらを気に掛けてくれたりもしてくれたのが彼だった。
そんな彼に親しみを感じないといったらそれこそ真っ赤な嘘、東洋に言い伝えられている閻魔様に舌を引き抜かれてしまうというもの。
それによってローガンは周囲にはもう大丈夫なのだと装っているが、内心では自分を心底憎んで嫌っていた。形はどうあれど、ハモンドに指摘された通りにローガンも死なせてしまった人がいて、今だって心から後悔している。
だが、それだからこそローガンは可能であればハモンドに同じ過ちを犯して欲しくなかった。第一印象からずっと最悪ではあるが、それを理由に誰も望まぬ未来を押し付けていいことにはならない。やったことは自身に返ってくる、因果応報とはいうが、それはあくまで事前に憎まれたり糾弾されて然るべき行いをした人間に適応される言葉だ。他の誰でもない、ローガンの方にこそ当てはまる言葉だ。
苦悩し苛む事柄が皆にあっていいわけがない、というのはおこがましいことだろう。人生で生きていれば一回といわず何十回も何百回も過ちを犯してしまうものなのだから。しかしその数字を一つでも減らす様に働きかけるのは、見ず知らずの他人であってもなに一つも間違ってはいない。
「いい加減に現実を見極めろ!そして考えろ!俺達がこうしてハルカ達と分断させられていることだって奴らの策略なのかもしれないんだってこともな!」
そこでようやく我に返ったハモンドが周りを見渡す。壁に空けられている穴が異物として存在しているこの空間と、ここにいるのがローガンとG11を除いて自身の部隊員である民兵によって構成された一班規模の戦力しかないということを認識するのは遅くなかった。
ローガンは横に退いてからHUDに表示されている『地図』を確認する。形はどうあれど、どうやら最短ルートとして提案されていた道を通っていたらしい。行先は怒鳴り合いによる問答を行ったすぐ近くにある穴の方に続いていて、他に用意されているルートはない。
「どの道行くしかないってことなのか……?」
『――――――その通りだ、ローガン・ブラック』
無線機に流れた音声にローガンはすぐに周りを見渡す。同様にG11も臨戦態勢になり声の主を探すが見当たらずに視界による索敵範囲を広げていた。ローガンは『ハニーバジャー』に持ち替えて標的のうちの一体であるエクスキューショナーの姿を引き続き探すが見つけられない。
『お互いに目標としているのは同じ、『オアシス』の回収だ。てめえらはおそらくオレ達の最終目標の阻止で役立てようとしている、そうだろう?』
「こんな所に俺達が足を運ぶ時点でそう考えるのが筋だ。それを妨害する為にてめえとアッシュが来たんだろ」
『状況的にこんな風にはっきりと互いの目的が分かっていることなんざ、そうそうないだろうな。だけどさ『狼王』、こっちの目的の方向性の認識に相違ないが一点だけ間違っているぞ』
眉を顰めて頭を働かせるがどこにエクスキューショナーの言う間違いがあるのか分からない。間を置いた後に回答が返ってこないことで声が聞こえてきたが、その声色はもう既に分かっていたとばかりのそれだった。
『こっちはな『オアシス』なんてのはこっちからすると必要のない物である同時に邪魔なものでもある。放っておいても一人歩きして別の手立てを行使してでもこっちの行動を嗅ぎまわってくるんだよ。だからオレ達が目的としているのは『妨害』でなく『破壊』だ』
「いや、ちょっと待て。『オアシス』というのは
『たしかに、『オアシス』を開発したのはオレ達の方だ。だけどあれの開発はそんなとは対極に位置する、たった一人の意志でしかないんだっつう話だ』
エクスキューショナーが言ってることに嘘偽りなく、尚且つローガンの認識が間違っていなければ、たしかに『オアシス』の開発に手掛けたのは鉄血の人形ではある。ただ、鉄血側の総意で生み出されたものではないという事だ。さらに明言されていずとも鉄血に属していながら人類掃討という目的に異の意思を持っている鉄血兵が、この世のどこかにいるということも受け取れる。
『なんでこんな話をてめえにするのかわかるか、ローガン・ブラック』
ピッピッという不意に電子音が聞こえて来たので、皆で音の発信源のある方を見る。民兵達のライトによって照らされたそれに対してローガンも見覚えがなく一瞬呆気にとられてしまった。ただそれをG11が目にした途端、ローガンの方に跳んでベストの一部を掴むと現状で最も安全地帯へとまた跳んだ。
『ここでてめえは死ぬからだ』
「ローガン、伏せてッ!!」
二人の声が被った瞬間、白光が一瞬だけローガンの視界を覆い尽くした。炸裂した爆発が爆音と共に轟き、それらによって生み出された衝撃波が周囲を瓦解させていく。ガラガラッ!!と自分達の武力では対抗できない暴力が降り注がれて行くのを最後に、ローガンの意識は途絶えた。
――――――
<九日前>
机を叩かれた音というのはホログラム越しでもやっぱり作り物感が否めないな、と悪辣な台詞を聞き流しながらローガンは思った。唾を吐き散らしながらやれ君の立場はどうの、態度はどうのと言っていてもそれをここで言う必要があるのかと内心呆れてもいた。
しかしそろそろいい加減にしないと、座り心地がお世辞にもいいとは自分からは言えない椅子から尻を浮かすことが永遠にできない気もしてくるというものだ。しかしこの場で本音を堂々と言うのはさすがにできないので、遠回しにそう悟れるように言葉を選んだ。
「話が脱線してますから早く結論を言ってくれませんかね?拙速は事を運ぶ、というのはご存じありません?」
『なんだと……!?貴様には口を挟む権利はないと言うのが分からないのか!?』
「申し訳ないですけど威張り散らしている挙句、話の順序が成り立っていない人に口を挟むなというのは少々無理がありません?良かれと思っての指摘すらさせてもらえないのはあまりにもそちらの身勝手ではありませんかね~」
「ふっふっふっ……」
設置されているマイクに拾われてはいないだろうが、隣のハリーは器用にも口角を上げずに低く笑っていた。もし役割が逆であれば表情の変化を抑えきれずにいただろうな、とローガンは考えながら照明を頭部で反射させている幹部の方を見る。頭頂部まで茹蛸のようになっている幹部が震えながらさらに罵詈雑言をぶつけようとしたところで、隣にいる別の中年男に諌められた。
そして肩を上下に揺らしこちらを睨みつけながら座り込む茹蛸男の代わりに、やや困った表情で諌めた男が言った。
『すまないな。彼が言ってたことはともかく、我々からすれば君達ほど危機感を感じれずにいるというのが現状だ。そこだけは理解してくれないか』
「……なぜそのようなことをのたまったのかわかりませんね。一応送信しました資料の方に不備と不明瞭な点はないと思うのですが」
『私ならまだいい。顔や腹にも余計な脂肪がついて丸くなってきてしまっているが、これでも一昔前は私も指揮官だった身だ。現場における厳しさと迅速な行動を要求されることの本当の意味を承知している。だから私としても今すぐ行動に移すべきだろうと考えているんだよ。だが――――――』
その男がホログラムに映されている本部に駐在している幹部を見渡す。それにつられてローガンも差はあれど不満げな面持ちである全員に視線を配らせてみたが、それでなんとなく察しがついた。
『――――――ここにいる全員が私と同じく指揮官上がりの人間ではない。ほとんどが外の事をロクに知らずに本部の中で無駄に時間を過ごしてきたご老体だ。それによって危機管理が薄れていて、行き当っている事態には直視できなくなってきている。だから君が話した危機的状況よりも先に君への不満が爆発した、といえばわかるかな』
「それは嫌な話を聞いてしまったものですね……。というよりも結構言いますね、そのせいで他の皆々の頭に血が上ってきてしまっていますけど」
『これぐらいならかまわない、偶には薬をくれてやらなければならないしな。君と指揮官としている者達、それとヘリアン総司令が把握できていれば大抵のことはなんとかなる。ただ、これだけは覚えておいてくれ。真偽のほどがわからなかったからとはいえ、すぐにそれをハリー指揮官に報告してくれなかったことから君への信用が危ういこともあるということを』
からかいや揚げ足取りなしにそう言われたローガンは耳が痛くなった。彼が言ってることは最もで反論のしようがないのだが、言い訳を並べて釈明をしたくなってくる。ただそれに耳を傾けてくれるのはおそらくほんの一握りでしかないだろう。それぐらいなまでに上層部の大部分が目に見えてローガンも立っている戦術人形の戦場を知らなさそうだった。
ハリーが時折愚痴で漏らしていたが、彼らは重大作戦の報告などには耳を貸してもおそらくそこであった支障を
「……わかってます。とにかくまずは『オアシス』の確保に尽力します」
『よろしい、朗報があればハリー指揮官を通じて報告するように。一兵である君の言葉に素直に耳を傾ける者などそうそういないことだしな』
溜息を皆にバレない様に吐きながらローガンは着席する。そうしたタイミングでそれまで静観していたオリバーが口を出した
『とにかく世界情勢からしても我々人類にとって芳しくない状況に陥ってきているのは確かだ。ロンドンに潜伏している鉄血がいるという情報もあるので、奴らから望んでいる情報を入手できたら報告する。バックアップが必要であればいつでも言ってくれ、情報支援であれば可能な限り協力する』
「了解しました」
そこからはもう、特にこれといってローガンからすれば特筆するようなことはなかった。ただ、ヘリアンを除いたグリフィン上層部からの圧がそれから常時圧し掛かって会議から今すぐとんずらしかった、とだけローガンは後々に親しき者達にそう本音で語った。
―――<*s* to ****s>―――
『望んでた結果を得られはしそうね。彼は自覚ないだろうけど、ちゃんとあなたがお願いした通りに来たわよ』
『うん。でもちょっと悪い気がしてきたな~。彼はただでさえ人一倍に不幸を経験してきたというのにここも酷いものだから。それに過去はともかく、今も恵まれた人脈を得られているとは思えない』
『『あれ』を踏まえてしまえばそうね。でも404小隊との再会は悪いことではないでしょ?彼女らが置かれている境遇からして共感できることは少なくても大いにある』
『彼らからすれば微妙なところだけどそうかも。誰かに使い捨てにされそうになっていた、というのには特にね』
『それにしても私としても本当によかったわ。せっかく練り上げていた綱を切られそうになっていたところで、その綱を回収してくれる人を見つけれたのだから』
『でもあんたは大丈夫なの?ただでさえ混ざり者ということで目をつけられているというのに』
『何とか今は凌げているけど、それでも近々実力行使に来られそうね。そのうちあなた達に合流することになるわ』
『う~ん、ゾッとしないね。イントゥルーダーがいなくなった以上は真っ先に嗅ぎ付けそうなのはエージェントだけど、首尾よく包囲されてそう』
『うまくやるわよその辺は。お父さんから教わった技術をここで無駄にしない。だけどそうなる前にできれば彼にはグリフィンから離れてもらうのがベストなのかな』
『それは初めて聞くことね。一体どういうこと?』
『心理誘導っていうのかな。私達が事実を述べたとしても、グリフィンにいいように刷り込まれていたら否定的にしか見えなくなってくる。だったらいっそのこと、彼らから離反してくれた方がいいんだよ』
『でもそれって……』
『わかってる、私としてはそれはおすすめできないししたくない。そうしてしまったら今の鉄血と何も変わらない。I.O.P製の感情モジュールのせいかな』
『だからといって手を拱くつもりはあなたにはないでしょ?それであーだこーだと足踏みしていれば、世界は崩壊に一直線だから』
『もちろん。場合によっては非情にならなければだけど、それでもやっぱり辛いものは辛い。やりたくないことだから抵抗を感じてることは悪いことじゃない筈』
『人形でも人間としてありたいあんたからすればそれは胸を張っていいことだよ。でもどうするの?』
『成り行きに任せる、ということはするつもりはないけどどうかしないといけないわね。あなたがテコ入れしてみる?』
『……ううん、あたいもやりたくない。あいつが心底気に入っている彼をそんな風にしてしまうのは嫌だよ』
『……そっか。じゃあなんとか別の手段を考えよう。目的の達成は大前提ではあるけど、だからといって彼自身を犠牲にするのは間違ってるからね』
『そういえばさ、この間あんたが『中継点』になった時に使える人材を拾ったって言ってたよね。そっちはどうなってるのさ』
『今はもう大人しく資金稼ぎにあいつの本来の仕事で傭兵業をやってもらってる。昨日新しく仕事を受けたということで発ったよ』
『あんたの手が届かない、表側のことまでやってくれるようになったのはいいんじゃない?コソコソと人間社会に出ずとも望むものは手に入れれるようになったわけだから。この間なんてチョコレートパフェなんて食べたみたいだしね~』
『別にいいじゃない、フリーの時間を自分で作って好きなことをすることの何が悪いのよ。誰にも迷惑はかけてないわけだし、私が偶に思い出巡りをしても良いでしょ?』
『あっははは。うん、時々良き過去を振り返ってみるのもそれも人間としてきっと大事なことだよ。それに固執するのは悪いけど、明日を生きる糧にすることはあたいにもあったから』
『それはありがと……おっと、そろそろ私もまた動かなきゃ。一応『こっち』も命懸けだしね』
『次にあたい達がまた会うのはだいぶ先になるかな。彼に連れて行ってもらったらきっとあんたとまた話す機会なんてないだろうから』
『別にいいわよ。あんたの声を初めて聞いたのはもう十年以上前。それからの私達二人だけの長い奮闘もそろそろ終わるわけだし、そう思えばまだいいんじゃない?』
『あたいはあんたの声が恋しいと思ったことなんてないけどね~』
『どうしてこんな憎たらしくなったのかしら。あなたの元からのメンタルモデルってそういうものなの?』
『さあ、それはどうだろうね~。でもまあ、お互いの目的は一致しているし任されているタスクもはっきりとしている。あたいは失敗しないけどあんたは落とし穴に落ちるんじゃないわよ』
『言ってくれるじゃない。あなたも古い知り合いとかにも気を取られてやることを忘れるんじゃないわよ』
『もちろん。それじゃあまた今度』
『ええ』
<該当する通信ログはもう存在していません>
深層映写が常設イベントとなってから、期間限定であった数ヵ月前には手に入らなかったUMP外骨格の入手の為に周回しています。が、記憶の中では朧げでしか覚えていないルートで行ってガルム撃破……あれ、運営さんちょっと敵の行動パターン変えました?なんかちょくちょく事故っているんですけど。ですけど以前はギリギリ倒せていたのが今ではある程度余裕を残せて倒せているので、戦力共々上昇していることなのでしょうね。そうした変化が形になっているのはいいことかな、なんて思います。
今月二十日にて、また新たに戦役(ストーリー)が追加されるようであります。私は大陸版などで今後の大まかな流れは把握しているのですが、結構精神的に来るんですよね~……。あいつがこうなって、それでこの人がこいつをこうして~……でもまあ、それを乗り切れば……。あ~もう、どうしてメンタルアップグレード諸々一緒に来てくれないんですかねぇ。そうしてくれれば私としても一気に進める気力が湧くのに。モヤモヤさせたまま次のアップデートを待つというのはできればなりたくないんですよぶつぶつ……。
ですが今年最後のアップデートで第十戦役が追加されたということは、次回のストーリー関係の更新でメンタルアップグレードが追加されるのではないでしょうか。それがいつになるかはさすがに私にもわかりませんが来年の春頃に来たりするのかな、と適当に予測を立てていたりします。システムデザインが一新されての大型アップデートになるでしょうからたぶん下手するとそれより後になったり?でももう目と鼻の先にまで来たことですし期待に胸が膨らみますね。
でもメンタルアップグレードされても実際に胸まで膨らむわけでは……あ、なにをするやめ――――――
『余計なこと言うから……』