誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

45 / 62
ひょー!


44.前途多難な分断 -With effort-

「――――――、――――――ン」

 

現実と切り離されていた意識が端の方からまた連結していく、そんな機械じみた例えが薄らと頭の片隅に思い浮かべながらローガンは瞼を上げた。意識の消失に伴って機能がダウンしていた視覚が最初に、そして徐々に聴覚までもが復帰していく。五感が戻っていくのと同時に後頭部が痛みを訴えているのもなんとなく認識しながらもなんとか身体に力を入れて、まずは利き手の右手を持ち上げようとする。が、右手は誰かに捕まれていて自由に動かせなかった。

ぼやけていた視界からはっきりとしたそれに戻っていくと、すぐ近くにライトに照らされている誰かがいるのがわかった。

 

「――――て。起きてよ、ローガン」

 

聴覚も完全に復帰し、すぐ近くで自分に呼び掛けているのはG11だということを知る。身体の自由が戻ってきたところで、ローガンは頭を動かして彼女の方を見てみると彼女の顔は煤けていて汚れていた。

そして自身の体全体の痛みも合わせて、ローガンは意識が途切れる直前に球体のような浮遊物が爆発したということを思い出した。

 

「……よう、お前は無事なのか」

「あたしは特にこれといって酷くはないよ。ちょっと擦り剥いたりしたけどローガンみたいに柔じゃないから」

「その言い方だと俺が軟弱みたいに聞こえるな。これでも一般人よりも丈夫なつもりなんだが」

「戦術人形のあたしと比べればローガンだってそう変わらなく見えるよ。人間って体と心を鍛えれても耐久力までも上昇するわけじゃないでしょ」

 

尤もな言い分だな、とだけもらしながらローガンは痛む上半身を起こしてみる。その拍子に身体の節々からバキバキと骨が軋んだが、それによって生ずる痛みも正当なもの。腕や顔から感じる熱も含めて痛烈に感じているということは生きていることの証明でもある。G11が離した右腕全体をぐるぐると回し四肢が動くかなどを確かめ、身体のどこかが作戦行動に支障を来さないかを確認したが問題なさそうだった。

気絶する直前にG11が自分に飛びついて爆心地から遠ざけようとしてくれたおかげだな、とローガンは思った。

 

「G11、あれは結局のところ鉄血の爆弾だったのか?俺はあれについて初見だったからわからなかったぞ」

「鉄血の自律型爆弾の『ゴリアテ』。目視で捉えた後に接近される前に壊さないと自爆されてほぼほぼ全滅に追い込まれるんだよ。今回は幸いにもそこまで痛手を負うことはなかったけどね……」

 

G11の視線を追いかけてみるとその先には暴走していた民兵達の姿があった。ローガンはG11のアクションで軽傷で済んだものの、民兵達の方は大きな怪我が見て取れている。皆に応急処置こそされてはいるが腕に巻いている包帯には血が滲んでいたり、頭に包帯を巻いて安静にしている者もいる。酷い場合は未だに意識を失った状態で処置された全身が痛々しく、最前線の救護所で絶対安静とされている兵士そのものであった。

そこでローガンはふと民兵達で隊長であったハモンドの姿がないどころか隊員の人数が二人足りない。

嫌な予感がしてローガンはG11に尋ねた。

 

「G11、何人がやられた……?」

「二人、だよ。一人はゴリアテの爆発で、もう一人はそれによる瓦礫の下敷きになった」

「ああくそ……それでハモンドは?」

「あそこにいる」

 

G11に指し示された方を見てみると、そこには瓦礫が崩れて塞がった道の方を見ているハモンドの後姿があった。持っているアサルトライフルを片手で持ちながらだらりと下げて呆然とした様子で二人の仲間がいた方に身体を向けている。

痛む身体に鞭を打って立ち上がるとG11がローガンのベストを掴んだ。彼女の方を見てみるとふるふると首を横に振ったまま俯いていた。

 

「ここでローガンが正論を言ってもあいつはほぼほぼの確率で足蹴にする。ここまでであいつがロクなことを言ってたわけじゃなかったしローガンが気を失っている間にだって自分勝手なことを……」

「……正直なところ、俺にはあいつの考え方が分からない。単純に戦術人形そのものを嫌っている人間というのは世の中の至るところにいるが、あそこまで短絡的に物事の判断をする奴は俺も知らない。だけどそんな思考回路になったのは生まれついてのものか、あるいは何かしらかのきっかけがあったのか。そう考えてしまうよ」

「でも誰かの都合にそう何度も関わる必要はないんだよローガン。そうすることで必ずしも良い結果を生み出せることの保証なんてどこにもないし傷つくだけかもしれない。そうなることなんて416もAEK999は望んでない。404じゃ45が一番だけど、あたしだってそうなって欲しくなんて……!」

 

ぶるぶるとG11の小さな手が震え始める。そうなったのは感情を持った戦闘用の人形としての握力が働いたからだろうが人間だって極度に力めば震えるものだ。そしてG11が声までも震わせているのは彼女に備わっている感情モジュールに動作によるものだろう。

だがローガンに寄りかかって額を当ててもきたのは、きっとG11自身が本心からローガンを傷つくことになるであろう予測事項から遠ざけたいと思っているからだ。

気絶する少し前にもハモンドにまたローガンは殴打されて命に関わるには程遠くとも傷つけられた。フロリダ州における今回の作戦行動中にローガンはハモンドから二度謂れのない暴力を受けているので、気が短く見当違いの考えで自己完結させている今の彼の元に自ら赴けばまた殴られてもおかしくない。ただでさえ今は彼の部隊員がやられてしまっているのだから、今度はグローザの時のように横面を殴られたりもするかもしれない。

しかしそれはローガンが無抵抗であった時の場合だ。場数は同等だとしてもローガンが踏んできた段の高さとしてはそう簡単に負けはしない。

そこである台詞がローガンの脳内にフラッシュバックし、それについて少々考えた後に言った。

 

「自己紹介してからのハルカとの話が終わった時にな、416に発破をかけられたよ。あんな奴に大人しく殴られる人間じゃないでしょって暗に言われた。それを聞いた時には単にあいつの琴線に僅かながらも触れてしまっているものだからと考えていたんだが、あれの本当の意味はお前に精神的な負担をかけて欲しくなかったからなのかもしれないな」

「416がそんなことを……」

「まあお前の事を一番見て知っているのはあいつだし当たり前なのかもしれないが。俺が傷つくのを一切見たくないと言われても無理はある。それでも回避できるだけでも受けないようにして欲しいってのならまだ俺でも許容できるけどな」

 

合流前に丁寧に巻いていたG11のターバンが解けかかっているのに気付き、ローガンはそれを一旦彼女から取り払った。俯いていた彼女の傘になっていた布が亡くなったことで欝々とした表情のG11が現れるがローガンは努めて明るくなって手に取った長い布地についている細かい砂埃を払う。

 

「お前がどうしても欲しいのかはわかっている。でも時には自分から身を削るようなことをしなければならない。45やお前達(404)に初めて会った時だって、はぐれた連中がどうなっているのかが薄々どうなったのかをわかっていたんだからな」

「それでも本来なら関わる必要が無かったあたしたちの救出で45に手を貸してくれたの?銃弾どころか砲弾すらも飛んできていたあそこで、ローガンは見ず知らずのあたし達の為に身体を張ってくれたの?目的があってもその達成は二の次、生き残れば勝ちも同然。味方の安否がはっきりしなくとも、あそこまでローガンまでも装備を浪費して追いつめられていたのだから逃げても誰も強く咎めないのに……?」

「命以外に捨てるものすらも何もなくなってたからってのもあるが、隊員達とはぐれて半ば自棄になっていた45が見ていられなかったのが本音だな。不謹慎だしおかしなことだから大っぴらには言えないけど、あんなになっていたあいつに何故だか親近感も湧いてきちまってた」

「それを45本人に言ったらどうなるかな。首を傾げた後に『よくわからないけど殴った方が良いのかな?』とか満面の笑みを浮かべながら言ってきそうだよ」

「違いねえ」

 

くつくつとローガンは小さく笑うとG11の頭にターバンを捲き直した。ぐるぐると意外にも明かりが少ないここでも視認できる暗色のそれをまた簡単には解けないように固定し、物憂げな色が薄れたG11の額をまた軽く小突いてから頭に手を置く。未だに手を離さないG11に目線を合わせるとローガンは言った。

 

「誰かの心配をするというのは何もおかしくないし自然なことだG11。でもその感情で拘束し続けるようなら信用していないという事の裏返しでもある。お前はあいつに実力的には後れを取らない俺を信じられないのか?」

「……ううん、あたしはローガンを信じてる。あたし達と一緒のどんな時だってローガンは逃げなかったし正面切って戦うにしても臆さなかった。出会ったばかりの荒んでだあたしにも辛抱強く向き合ってくれたし感謝してる」

 

嘘偽りなく本心のままに言ったらしいG11にローガンは笑うと彼女の頭に置いた手を動かしてわしゃわしゃと撫でまわす。それで捲いたばかりのターバンが少々崩れたが、それでもG11の視界に少しだけターバンの布が入り込むだけでまた手間をかける必要はない。彼女自身が少しだけ直せばいい程度しか邪魔していないし、もう一度やってやったこともあってやり方も覚えているだろう。

「だったらお前は俺について来てくれればいい。そんで危なくなったら手を貸してくれ。俺自身がマズいと思ったら惜しみなくお前を呼ぶからよ、それまではオレの背中を任せる」

「……うん、わかった」

 

今は416や404小隊の面々が傍にいるが、いずれは彼女も自分だけで歩く手段を本格的に学ばなければならない。もちろん彼女の電脳にも基本的な知識としてインプットされてはいるだろうが、経験ないままに知識に依っているばかりでは意味がない。怠惰に惰眠を貪るということは結局は誰かに頼りきりになっているのであってそこからは何も生まれない。

最初はターバンを自分で捲けるようになるだけでもいい。そんな小さなことでも戦闘以外に誰かにしてやれることが増えたということであって決して無駄なことではない。次にはターバンの修繕の方法だとか、材料の集め方とか一歩ずつ前に進んでいけば、最後に振り返った時には胸を張って誇れる結果を得られるだろう。実際にローガンはそう教わって歩んできたのだから正しいと証言できる。

ようやくG11の手が離れたかと思うと、彼女は懐からローガンが付けていたハイテクサングラスを取り出した。

 

「はいこれ。ローガンの容態を表情からでも逐一確認できるようちょっと預かってた」

「あー、道理で視界がいつものに戻ってたわけだ。ちょっと未来の兵士っぽくていいかなと思ってたけどやっぱり普段からつけるのはなしだな、なんか言葉に出来ないけどよろしくない」

「でもこの後も必要になるでしょ。それとも、先導役を代わろうか?」

「ったくこいつめ、急に調子づきやがって」

 

ニヤリと口角を上げるG11からサングラスを受け取って具合を確かめてみるが、細かい傷が付いていても外観的には特に問題ない。装着してみてから左腕の端末とのシステムリンクも問題なく機能しており、こちらさえよければまた作戦行動に戻れるだろう。

 

「それとローガン、ここに来てから極端に無線機器の調子が悪くなった。そこまで離れていない近接通信ならともかく、416やAEK999にも繋がらないよ。臨時で中継点を設置しても変わらなかった」

「奴らの誘導に俺達も引っ張られてやられてしまったな。となるとやっぱり……」

 

言葉を切るとローガンはこちらにまだ背を向けているハモンドの方に足を向ける。その内背後に近寄ってきたこちらを察知したハモンドが振り返りざまに拳を振りかざしてきたが、ローガンはその拳を正面から自分の手で持って受け止める。

明度調節が再びされるようになったことでハモンドの表情までもがはっきりとわかったが、彼には闘志を感じられなかった。眉根を寄せては目尻を落とし、歯を食いしばっている様子からして彼にあるのは真逆の感情と意志。鉄血との圧倒的な戦力差を実際に目にして敗戦であることを悟ってしまった兵士が抱いたそれと同じだと、ローガンは思った。

 

「御多分に洩れず学習していないご挨拶だな。もうここで尻尾を捲きつつ帰りたいって顔だぞ」

「黙ってろ守銭奴が。てめえはただの金につられて……!」

 

続きは言わせまいと、ローガンは受け止めたハモンドの拳を握りつぶす様に握力を加えて黙らせる。一応ハモンドも協力関係にある組織の一員であるのでもうおいそれとやり返せないし爆発前に一度床に寝そべらせたが、枷を自ら課していてもこれぐらいなら許容範囲だろう。もっとも、このまま何もしなければ互いに何も得る者もなく命を落とすことは間違いない。

 

「追加して俺自身の信条までも言った方がいいのか?そうすればお前が余計なことを言わずにいてくれるようになるのならそうするが」

「ぐぅ……てめえなんか、てめえなんか……!!」

「残念だが生き残るのに用意されている選択肢は一つしかないぞ。それを取るのは俺達二人とお前らの合意がないとだ」

 

状況を整理してみれば芳しくないどころか最悪に近い。部隊は分断されてこちらにいるのは十人未満の兵士。それも形や程度は違えど全員が手負いの身で一番酷い者は意識が無くすぐに戦えないのが明らかだ。このまま関係が劣悪なままいけば全滅する想像なんて難しくない。

いくらローガンとG11の二人でもやれることには限度がある上に、鉄血とE.L.I.Dが同時にいるというのはこれまで経験してきた戦場の中で過酷なそれに分類される。三つ巴の戦闘になれば間違いなくまず先に殲滅されてしまうだろう。

 

「オレ達が帰る以外にそれを取る必要なんてないだろ……!結局はてめえらだって襲われるのを待つだけじゃねえか……!」

「だからそうならないように提示しているんだろうが。お前らがここに誘い込まれて窮地に立たされているのは自業自得、敵の思惑を考えなかったお前が悪い。それに伴ってはっきり言わせてもらうが、俺達はその巻き添えを食らわされたんだ。だからここで強気に出ることを悪く言われることはない筈だぞ」

 

一つずつ反論の余地を無くしていくのにも拘らず、ハモンドは反抗の姿勢を崩す様子はない。あれこれと思考を巡らせてはごねていくつもりなのが顔に出ている。

彼にどう言われようが、ここで協力して窮地を脱するのにあたって下手に出るつもりなどローガンには全くない。ここで譲ってもらうようなことになれば、指揮権は間違いなくハモンドに握られてしまう。生存を第一に考えてのことであればローガンとG11がリードを取っておくのが得策だ。全員を連れて帰れるだけの実力を示してもらえれば大人しく指揮権をハモンドに渡していたが、先程の短慮な行動からして指揮できると言われても疑わざるを得ない。

 

「てめえらとの相違点は数えきれないほどあっても互いにこんなところで野垂れ死ぬつもりはないという点だけは共通している。帰る為の『地図』は俺が握っているからてめえは部下を連れて勝手に帰れない、そうだろ?」

「何を今更言ってやがるんだよ、それで勝ち誇っているつもりか、あぁ!?無様なオレ達を見ていて楽しいのかクソ野郎!!」

「こんなことで愉悦に浸るような小物だったら俺はとっくの昔に死んでる。それにこれぐらいでてめえを組み伏せれているんだとしても何も得るものもねえよ。いい加減にてめえは冷静になって周りを見て自分の非を認めろ。我を通そうとした最初でこれだということをな」

 

歯ぎしりをしながらハモンドは押し黙った。爆発によっての損失を一番痛く思っているのは言うまでもなくローガンが押さえ付けている彼だ。吠え猛ってこそいても、彼が内面でどのようなことを考えているかはありありとわかる。それだからこそ今だったらローガン達の主張も彼の耳に届きやすく、精神に重くのしかかるというもの。

 

「選べ、ここで生還したという勲章を得て胸を張る方か、それとも『負け犬』と『餓鬼』という烙印を押されたまま情けなく生を投げ出すか。どっちを選ぶにしても、俺達はとことん抗うつもりだがどうするんだてめえは?」

 

最後にはダメ出しとばかりにローガンはお返しとばかり握り続けていたハモンドの拳を投げ放つようにして開放した。ハモンドは長時間の痛みが走り続けていたことにその手とローガンを見比べて考えていたが、天秤の片方の皿を自分から不正に傾けようとはしていない。秒数だけに留まらずに一分以上は己と格闘していたようだったが、結局はローガンの狙い通りに首を縦に振った。

それから数分後、ローガンとG11は民兵の負傷者も含めて全員で行動を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再確認しておくべきことだが、ローガンとG11には暗視装置やそれに類する物を持っていてもハモンド達の民兵にはない。まだ分断される前のように充実した装備を身に着けた者達大半で先行するという手段は要因から当然取れる筈もなく、少人数の内の過半数が負傷者ということもあって団体行動は致し方ないことだった。

よって暗闇に対しての視界確保は当然フラッシュライトであり、先に気付かれれば先制攻撃されることは間違いない。

 

「やべえな、やっぱりさっきの爆発でちと調子が悪いか……」

「どうかしたの?」

「ゴリアテの爆発でちと銃にガタツキが生まれちまってな。動かす度にレシーバーの辺りで妙な音がするんだよ」

 

それだけでなく『ハニーバジャー』のストックの部品同士による剛性も損なわれており、ローガンはふとした拍子にバラバラになってしまうのではと不安になっていた。自身の戦闘力低下によるものではなく、単純に大切にしている物が破損してしまうことの恐れによるものだがある種の思い入れもあるので無理もないだろう。

 

「そんな状態で下手に使い続ければ完全に壊れちゃうよ。大人しく拳銃に持ち替えるなりした方が良い」

「まあそうだろうが……」

 

現在組んでいる隊列の先頭を歩いているのはローガンでG11にはバックアップとして傍にいるが、ローガンが『ハニーバジャー』なしで複数の敵と会敵すればまず間違いなく彼女からの援護は必要になる。E.L.I.Dと遭遇した時はもちろんのこと、三体以上の鉄血兵との交戦になればローガンでも難しい。不意を突いてならともかく、正面向き合っての戦闘では火力不足が否めないからだ。

戦えなくなった民兵から武器を借りるという手段もあるが、後ろについて来ている彼らがハルカ達とは違って戦術人形のG11とローガンに反感を抱いていることから大人しく明け渡すこととは考えられない。

仕方なしにローガンは『P226』とナイフのセットに切り替えたところで、進んでいた道の変化に気付いた。

 

「明らかに奴らの手が入りました、って感じだな。ハイテクサングラス(こいつ)がなければ端末の画面で視力低下につながってただろ」

「視野阻害による戦術、というわけではないだろうけど地味に嫌だね。暗視装置がまともに使えなくてイライラする」

 

続いて来た民兵共々目にしたのはまさに近未来の雰囲気を感じさせる建造物。シェルターのような入口が数十メートル先に見えているが、それまでにキーボードと合わせて埋め込まれている液晶画面が暗闇を照らしている。

ローガンのHUDでは明度調節が自動でされて多少はG11が装備している暗視装置こと、ナイトビジョンゴーグルよりはいいのかもしれないがシステムの方は大忙しで視界が安定していない。それで視野に収まっている通路の所々が現れたり消えたりと忙しないことを鬱陶しく思いながらも、死角に敵が潜んでいることを前提に前進した。

 

「おい、そのまま進むのか!?こんな一本道であそこに続いているんじゃ罠の可能性が高いだろうが!」

「他に行ける道はねえから仕方ないだろ。ここまでの一本道で脇道は皆無だったのはてめえも見てただろうが」

 

背後から異を唱えるハモンドにそう返しながらローガンは柱の背面を確認しさらに次へと動く。G11に自分の背後を任せながら近接戦に持ち込むように心がけ、バックアタック諸々を仕掛けられないように細心の注意を払った。

時折負傷者を担ぐなりしてなんとか移動を可能としている民兵の方にも気を配って一分足らずで身の丈程度の大きさである入口に到達。近づくだけで開く自動ドアのようにはいかなかったが、だからといってはいる方法の検討が付かないわけではない。ゲート横の壁に如何にもな端末が取り付けられて稼働しているのでローガンはそちらに寄って調べてみた。

 

「暗号が掛けられてる……てなわけでもないようだな。鉄血兵というタグ付けがされていなくともここに辿り着ければ誰でも入れるってわけだ」

「つまり単純で古典的なボタン式ということ?」

「そういうことだがちょっと妙だな。これだと誰が来ても拒まないと言ってるのと同じだぞ」

「たしかにそうだね……。たしかエクスキューショナーは『オアシス』開発は鉄血側の総意によるものではないと言ってた。ならその総意に沿っていない誰か、ということなのかな」

 

『地図』がない招かれざる客を追い返す、または迷わすという事であればここまでの道中が証明している。鉄血兵はともかくE.L.I.Dまでもがいるのであれば散歩程度の気概では済まされないだけの危険はあったので相当な覚悟が無ければまず生き残れない。光源が全くない暗闇があるので最低限として懐中電灯などがないと自分の居場所が分からなくなることもあって、下手すれば外敵とは別の要因で命を落とすことだってあり得る。そのようなつまらない死に方までもが容易に考えられるので、ローガンのこのゲートも含めた『オアシス』開発者に対しての疑念が膨れ上がっていく。

考えてもわからないことを一旦思考の片隅に置いておくと、ローガンは端末のキーを叩いてハモンドに指示した。

 

「ゲートの死角で待機していろ。俺が合図したらまた動いて後ろに付け。馬鹿な真似をすればわかってるよな?」

「一々うるせえなてめえ。言われずともてめえの望み通りに動いてやるから口を閉じてろ」

「端末を壊して意図的に分断を図っているんじゃないよな?それだったら俺も口を閉じてやるよ」

「チッ……」

 

ハモンドの舌打ちでローガンの琴線に触れかけたが、問答の再開ができるだけの時間の有無が確かではないのであえて流した。G11の頷きにローガンも返し、スリーカウントと同時にゲートの開放を行う。

プシュンッ!とゲートが左右に開くと同時にG11が顔だけを覗かせて中を確認する。ローガンも左右に持つ武器を握り締めながら中を覗いてみたが敵影は今のところはない。視界に収まったのは地面に空けられた一つの穴とロープだけで、見た所では敵が潜めれるだけの場所はなかった。

 

「ローガン……」

「わかってる。俺が先行するから代わりにハモンド達から目を離さないでくれよ」

「うん、気を付けて」

 

ライトで隅々を見ていき照らされている箇所に不審なものが無いかをチェックする。クレイモアなどが含まれる対人地雷などがないかまでも警戒し、ローガンは壁や天井だけでなく地面にまで気を配った。

脚が地面から離れているような浮遊感で呼吸するのも憚れてしまうのは初めてではないが、人類未踏の地に自分から歩を進めるという大きなプレッシャーが圧し掛かってきているので積んできた経験値はほとんど意味を成さない。

したがってローガンの内面では兵士として冷静にあろうとする自分と恐慌状態に陥った自身が殴り合っており、ローガンとしてはギリギリの瀬戸際だった。それでもなんとか危険が無いということを確認でき、ローガンは下へと続く縦穴に到達できた。

 

「いいぞG11、全員で来い」

『了解』

 

ローガンが一人で歩いた直線状の一本道の通路をG11達が辿っている間に、こちらは縦穴の先に視線を落とす。『地図』によれば間違いなくここを通っていくべきなのだろうが、ローガンとしてはさらに奈落の底に足を進めるのと同様にも感じた。

それでも進むべきだとして、民兵達に尋ねた。

 

「誰かフレアか何か持っているか。穴の深さを知りたい」

「あんなのを持ってるのは司令官(ハルカ)の部隊ぐらいだ、オレ達は持って来てねえよ……」

「クソッタレ……でもまあ仕方ないか……」

 

せめて音で判断するかと思い、ローガンは『ハニーバジャー』の弾倉から一発弾薬を抜くとそれを穴から落とした。指で挟んでいたそれが引力に引かれるままに落下していって二、三秒後に金属音が下から響いて来た。

物理的に考えていけば距離まで計算して割り出せるのだが、生憎にローガンは重力加速度などを考慮した計算に対しての知識はない。なのでライトで照らされている先の距離は感覚的な自身の勘でしか測れないがそこまで深いものではないだろう。

 

「一人ずつ下りるにしても中にはまだ意識が戻ってない奴もいるしどうしたもんか……」

「端的に言ってしまえば意識が戻っていないのは一人だけだからもう一人だけがここに残る、というのがいいかもしれないけどね」

「一体何を懸念してやがる。こっちの負傷者に最低限の奴に武器を渡して残すのになにも遠慮する必要はないだろうが」

「今頃さっきの爆発で鉄血兵が俺達の生存確認をしにきているかもしれないんだよ。瓦礫で道は塞がれてはいるけど、奴らは入念な準備をしていたのだからダイナゲート一体だけでも通過できる穴の形成だって出来なくないのかもしれないし」

 

懸念しているのはG11が言ったことのそれだけではない。ローガンが『地図』にて確認できているのは現在進行形で歩を進めているルートだ。他に『オアシス』へと入りこめるルートはないのに関わらずエクスキューショナー達は自分達の退路を潰すことも厭わずに爆破してきた。よっぽどの覚悟を持っての心中を狙っているのかは定かではないが、ハイエンドモデルの鉄血兵である彼女達が帰る手段を考慮していないというのは考えにくい。

となれば考えれるのは一つ。エクスキューショナーとアッシュは『地図』にはないルートを把握しているか、それとも自分達で別で脱出方法を用意しているかして自分達にはない離脱できるだけの手筈を整えているということだ。

敵方の目的が『オアシス』の確保ではなく破壊であるといったことも判明したので、下手に足踏みを続ければ取り返しのない事態にもなりかねない。

なのでG11はともかくローガンには焦りが生まれ始めていた。

 

「単純に一纏めに動いた方が良いというだけじゃない。追跡されることだってあり得るしそれ以上の最悪な事態にもなりかねるんだよ」

「ぐっ……くそ、掌で転がされてるようなこの感覚が嫌だ……」

「それをやっているのは俺達ではないけどな。……仕方ない。結構無理矢理ではあるがハモンド、自力で降りれる大多数が下りた後にロープで意識ない奴のベストに外れないように巻き付けろ。それでゆっくり下ろせ」

「おい、それで事故ってしまったら一体どうするんだ……!」

「もういい加減にやめましょうハモンドの旦那。こいつの言ってることはどうであれ俺達を見捨てないでくれている。思いつく限りの最大限に配慮もしてくれているしこれ以上は本当に足を引っ張るだけだ」

 

他の民兵がこちらに食いつこうとするハモンドを止めに入ってる間に、ローガンは手に持っていた装備を一旦収納した後にロープを掴む。G11がすぐ近くに寄って来たので、ローガンは彼女に言った。

 

「お前は負傷者の降下を手伝ってやってくれ。あいつらを頼むぞ」

「下はあたしがいなくても大丈夫?」

「もしもの時があってもなんとかするよ。たぶんお前の方がうまくやれるんだろうが、こんな感じの偵察は何度もあったしきっと大丈夫さ」

 

G11の頭をやさしく撫でた後にローガンは一息に降りた。昔経験した高所に滞空させたヘリからのラぺリング降下さながらに降りて、地面に足をつけるとローガンはすぐに『P226』を抜いて周囲を警戒する。周りを見渡してみればそこも舗装など何もされていない、自然によって形成された洞窟のような通路であった。二人分ぐらいしか横幅が無いそこに敵が布陣していた、ということもなく静まり返っていた。

ローガンは降り立ったそこから少しだけ前進し近くに鉄血兵が隠れて待ち伏せ(アンブッシュ)しているか否かを確かめてG11に無線で伝えた。

 

「降りてきていいぞ。全員が降りるまで俺一人で少し先まで偵察しておくようにも言っておいてくれ」

『わかった』

 

そう言ってからローガンは端末を操作してHUDに表示されている『地図』上の自分達と『オアシス』までの距離を割り出す。並びに進行することになるルートの方も見直して暗闇を突き進んだ。

無線が届かなくならないようには気を付けながらローガンはサイレンサーを装着している『P226』とナイフを常時構えながらの姿勢が定着したのはいつだったのか、それが頭に過ったが思い出したくない過去まで掘り起こしそうだったのですぐに振り払った。

E.L.I.Dとの戦闘が終わった直後からローガンとしては精神的に大いに痛手を食らわされる事象があったせいかどうも後ろ向きになりがちである。

なんとか自分を持ち直すべく奮い立たせながら前進すると一つや二つ、不自然に盛り上がっているものを見つけた。ライトを照らすことでぼやけて見えるシルエットから明らかに石などのように角張っておらず丸みを帯びている。暗闇にも溶け込んでいて光を当てて目を凝らすことでようやく存在が認知できることから、光学迷彩が機能していることも窺える。

 

「こいつは……」

 

ローガンはそう呟くと見えている不透明なものに向けて『P226』を発砲した。パシュッ!と消音された銃声のかわりに銃弾の発射ガスが噴き出し、不審な物体に命中し迷彩が解除される。そしてはっきりと現れたそれの正体は何かすぐにわかった。

正規軍や特殊部隊が用いる地雷にも用途は同一でもいくつか種類がある。備え付けられたセンサーかワイヤーに引っ掛かった瞬間に即座に起爆するもの。ゲートをくぐった時にローガンが最もと言ってもいいぐらいに警戒していたクレイモアがそれに含まれる。しかし今しがた撃ち抜いたのはそれに含まれない、まったく別物だ。

ではそれが何かと言われれば、ローガンはそう聞いて来た相手にこう答える。

 

「……S-マインか」

 

通称として跳躍地雷、また人によってはベティとも呼んでいる地雷である。最初にあげた名の通り、殺傷範囲に収まった瞬間に起動し敵兵の胸の辺りにまで跳躍して起爆する地雷で近年ではまた新たに改良した同種の兵器が開発されているという話もある。

それでも目の前にあるそれはローガンも聞いたことがない、別口の改良を加えているそれ。光学迷彩を搭載したそれを仕掛けたのはもちろん鉄血であるだろうが、この先に幾つもあることにローガンは溜息を漏らしそうになった。

 

「G11、進行ルートに鉄血が仕掛けた跳躍型の対人地雷がある。一応俺の方でも見える奴は破壊しておくが見落としてあるのがあるかもしれない。光学迷彩で見え辛いから注意しておいてくれよ」

『了解。こっちは今二人目の降下が終わって重体の三人目に入ってる。これが終わったら可能な限り早く合流するようにするよ』

「背後にも気を付けろよ。されていなければいいが追尾されているんだとしたらいつ来てもおかしくないからな」

 

見えているもう一つの地雷も撃って無力化し、先に進んで目に見えればローガンは発砲して危険を取り除く。

その一連の動きを繰り返しローガンは暗黒へと踏み入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ある人形の独白―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私という存在が生まれた時、世界は荒廃していました。草木は青々としているのでなくてそれを通り越してむしろ毒々しく、地に沿って流れる水が透き通っていることはもう既にない、そんな時代に生まれました。

数字とアルファベットで構築された時に初めて目にしたのはなんだったか、までは覚えていません。機械と部品による視覚までもが備え付けられて最初に見たのはただただ暗く静まった機械室で、慣れない手足だけでなく身体全体を動かして周りを見渡してみれば一人の男がいました。その人は私に向かって自分は敵ではないと、危害を加えないことをすぐにわかるようなジェスチャーをしながら私に近付いて来ました。

私は人形であって本物の温かみのある血肉で構成された動物ではありません。それに後々に把握できた私のメンタル自体は人間に近しくありつつも裏表を構成させて表面化させる、そういうものであるということも知りました。ですから私は初めて目にした相手を親として認識する雛鳥のような真似はしません。裏をかくことを目的にそう無邪気に振る舞うようにもしたりする今ならともかく、そう細かいことまで思考するほどメンタルが成長するだけの時間なんてその時まであったわけじゃなかったのですから。

あれから二十一年経った今でも何故あんなことを言ったのかがわかりません。敵意はないことを表現しているのにも拘らず、脇に下げていたホルスターに収められているリボルバーを隠そうともしていない。それらを見比べて私は試されていたのだとまでは理解できていても、あれだけは。

なぜ私はあの人を心より慕って『パパ』と呼んでしまったのでしょうか。




いい意味で裏切られました!!
私もTwitterでリツイートしましたが、年明けて十日にメンタルアップグレードが実装されて、その七日後にAR小隊の二人にも適用できることになったということで。私自身はまだ他のゲームに手一杯なのでまだ最近実装された第十戦役のクリアまで至っていないのですが、とりあえず近いうちに落ち着かせて一気に終わらせようと思っています。前回の後書きで申しました通り、私個人の予想としてはまだ先の事だと思っていたのですが、随分早く実装されることになって嬉しいです。出来るだけ早く、AR15を強くしたいんじゃ……。
それとこれは予告ですが、来週分の投稿内容は本筋から一旦外れて別の話を投稿させていただきます。時期的なものに合わせてのものにして、リフレッシュ的な意味も兼ねての作品にしたいです。ということでほぼほぼシリアス一辺倒から外れますのでご了承を。
それでは今回はこの辺で―――


『ガチャ―ン……とね。自分の中で何かが溶けたような気がしましてね』
『あんたそんなことを言う柄じゃないしキャラじゃないだろ』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。