誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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ゴリゴリと溶けていくぅ……


46.オアシス -Dice was thrown-

その声を前に聞いたのは大欲怨霊事件の最中。孤立してしまいながらもグローザ救出の為に敵地と化したダム内に潜入するとして草木生い茂る中を進んでいたあの時だった。『アネクドート』の一人を尋問に掛けていた時に周波数も記載されたショートメッセージをローガンの端末に送って接続し、ロシア絡みの彼らの情報を譲渡と同時にダムへと続く通路の方へとナビしてくれた誰か。

あの時影ながらも助けてくれたのは誰だったのかを一切考えない程、ローガンだって恩知らずではない。大欲怨霊事件の解決後はこちらの救助に来て欲しいとの条件に従って行動しようと思ったが、その前にその者に繋がる情報などは何一つないように思えていた。

だが通信途絶後に最後に残されたメッセージには『座標』と『地図』という単語によるヒントを、後々に行動を共にしたバーンズから『オアシス』に関わる情報を得た。枝分かれしている情報からまた別のそれへと、まるで先の見えない路線図のようで少々頭を悩ませてしまうのも仕方がない。だが『オアシス』に辿り着くのに必要なものとして大々的にあげられている二つの名前は一致している。そして本体からある人形を経由して接続したのだということを言ってもいたので、そこでイフの仮説をローガンは立てていた。

通信方法などの細かいことは置いといて、もしかしたら『オアシス』が手助けをしてくれたのではないか、と。

 

「なに一つも根拠なんてなかったというのに、まさか本当にそうだったみたいで驚きだ」

『そうだろうね。こっちからは明確にヒントらしいものは寄越していなかったから予測が外れていても仕方ないかなとは思ってたよ』

 

少々耳を覆いたくなるほどの音響ではあるが、ヘリのローダー音のように連続しているわけではないのでまだ我慢できるぐらいである。その前に両手は今敵の動きを封じ込めるのに精一杯で他の事に回せないものの、状況的にはそこまで悪くはない。

地に伏させているアッシュに片腕を負傷し銃をこちらに向けて引き金に指を掛ける、その一歩手前で静止を余儀なくされているエクスキューショナー。こちら側も妙な動きはできないが、次第に鉄血兵と交戦して勝利したG11と合流するのも時間の問題だろうとローガンは考えていた。他の者がこちらに来て手が増えれば、今こうして会話しているオアシスの確保もできるようになる。そうなるのも時間の問題で鉄血の兵としている彼女達からすればよろしくないのは明らかだ。

 

「とりあえずもう少し時間をくれよな。もう少し我慢してくれればお前をここから連れ出せるだろうから」

『もちろん、約束通りに来てくれたんだから急かしたりも何も口出しはしないよ。この場においての一連の流れは見てて危なっかしいことこの上なかったけどね』

「ツーマンセルとかを組んでる奴とかからもよくそう言われるよ。でもそれって戦術人形であった時の経験も踏まえての評価か?」

『ん~……まあそうだね。他の選択肢がありながらも危険が高いのを選ぶだなんて、危険予測とか危機管理が出来ていないんじゃないかと思うよ』

「説教は勘弁してくれ。俺にそんなことをする先生はもういるんだからよ」

 

一人の桃髪少女を思い浮かべながらもそう言葉を漏らし、ローガンは密かに切迫している自身の精神を持たせるようにする。一歩どころか半歩間違えれば転落しかねないこの状況下では、指一つでも動かせばすぐさま相手から反撃を受けるのは言わずもがな。加えて敵の一人は押さえ付けてはいるものの、どこかで力が緩みでもすれば戦線に復帰されて逆に追い詰められてしまうのが目に見えている。それだけでなく対峙しているエクスキューショナーに至っては殺気が溢れていて、新米(ルーキー)であれば逃げ出してもおかしくないぐらいであった。

自身の手が空くようになるのはいつになるのかははっきりとはわからない。オアシスと会話できるようになったのはいいのだが、G11達が差し向けられた鉄血兵の排除が出来たかどうかの確認の一つとして銃声まで聞こえなくなった。それが意味するのは単に至近の音響によって聞こえなくなっているだけか、有言実行として結果を成したのか、それともその逆かはもうわからない。こちらもこちらで自分の目の届く範囲の事しかもう注意が払えないので、できるだけ早くこちらに駆けつけて欲しいというのがローガンの本音である。

 

『それにしても、あたいを消す為に鉄血も手を打って来たんだ。やっぱり『代理人』は一番侮れないね』

「てめぇの情報を得たのは偶然、それで無視するのは到底出来ないっつうことでオレ達が寄越されたわけだが……まさかこんなにおしゃべりな奴だとは思わなかったな」

『その口ぶりからすると、あたいがどのメンタルモデルから構成されたか知らないようだね』

「知ったことかよ。こっちからすれば害悪でしかないてめぇが元はどこの誰だったなんてオレ達には知る必要なんてどこにもねぇ」

『……まったく、やっぱり鉄血というのはそういう点でもロクでもないクソの掃き溜めだね。人類と比較してもトントンかもしれなかったけど、良心が少なからずもある分人間側に傾くのはもう揺るがなさそう』

 

呆れたかのようにオアシスがそう言われたことでエクスキューショナーの怒気は増す。これまでに相対した者の中で一番に恐れを抱いて冷や汗を流すが、ローガンが瞬きをした瞬間には『P226』の照準から消え去り、そこには土煙だけが残されていた。一瞬の事で何が起こったのか分からなかったが、すぐにゲートの方から轟音が響いて来たのでそちらに視線をスライドさせてみる。するとローガンと睨み合いを続けていたハイエンドモデルは太刀を振り抜いて衝撃波をゲートに命中させていた。

ドォンッ!!という轟音と共に衝撃波による疾風がローガンを叩き、すかさず『P226』を持った腕を眼前にかざして様子を見る。闘気と怒りの矛先がこちらでなくなったもののいつまた戻ってくるのか分からないので警戒していると、大きな傷らしいものが刻まれていないゲートを足蹴にしてエクスキューショナーは吠えた。

 

「どっちがマシかなんて討論に興じるつもりなんかねぇが比較の対象にあんな屑をもってくるんじゃねぇ!」

『何がそんなに腹立たしいのさ?それに秀でているかの比較として人間と人形の二つを上げることの何が間違えてるというの?』

「前提の問題だクソが!人型とかそういう謎かけとかじゃなくあの屑どもとオレ達(てっけつ)にはなにも比較の前提となる類似点がねぇじゃねぇかよ!それに一番腹立たしいのは……!」

『見て見ぬふりをする、同情だけして救いの手を差し伸べないとかの話ならあたいも聞いてたよ。あんたが一番腹立たしく思っているのはそこで、鉄血工造の戦術人形として当て嵌められた目的以外で人類殲滅に結び付けてる個人的な理由、そうでしょ?そもそもさ、人間とあんたも含めた鉄血の戦術人形に前提条件がないって、あんたも考えているようで考えてないよね。あんたら鉄血の人形だって戦術人形だってことを忘れていないわよね。元を辿っていけば人間によって結成された会社の商品で人工物であることは揺るがない。彼らにできないことをする、又は手助けをする為に生み出されたのが自律人形で戦術人形というのはそこから枝分かれして生まれた存在でしかない筈。それを明確に示す為に彼らと比較されるのは避けられない事よ』

 

オアシスが言っている事にローガンも耳を傾けて事の成り行きを静かに見守る。静かでありつつも熱が篭っているオアシスの言葉の一つ一つをそのまま受け止めていると、エクスキューショナーはやや気圧されたかのように見えたがすぐさま反論しようと見せた。

 

「間違ったことを言ってないとして得意満面になってんじゃねぇぞ!あんなのを同じ土台に引っ張ってくるだけの筋道があるんだとしても……!!」

『そこで更にゴネてみる?いいよ、言えることがあるなら言ってみなよ。たぶんあんたの場合じゃそこからは私情の話で感覚的な話でしかないだろうからあたいはどうも思わないよ。あんたが人間と比較されたくないから凄んで否定してもそれが知性を持ってる全生物に通じるわけない』

 

ダメ押しとばかりにエクスキューショナーは今度は大型拳銃でゲートに向かって発砲するが、それでオアシスが破損するわけがない。バァン!と跳弾で付近の壁を抉って石となったその一部が転がっていくのを大体ローガンと同じ位置で見ていたアッシュが言った。

 

「……実際の所、戦術人形が生み出した戦闘データというのは速度と効率によるスコアとして管理している人間達の方に出回ります。そうでもしなければ、戦術人形という戦うことを主目的に開発されたことを証明する為の材料を得られませんからね。優秀な人形であることを知らしめるにはエースという肩書きを得ている人間の兵士と競い合いになることは必然。単純な戦闘力だけでなくリーダーシップも問われて、思想までもが比べられることだってあり得ないことではありません。その対象は同じく戦術人形の誰かか、それともメンタルモデルとしての基となった人間かのどちらかはわからないけど同程度の知性を持っているとして選択肢にあがってしまいます。開発元がI.O.Pか鉄血であっても、次へと活かす為の貴重なデータとして技術者は見ているでしょうけど、人間そのものを嫌っている彼女からすれば腹立たしいこと以外でしかないでしょうね」

『そういうこと。次へとステップアップする為に何かと比較することなんて日常茶飯事。だってそうでもしなきゃ一切進歩できないじゃん。過去の自分から前進しているのだということを確かにすることを理由に振り返ってみている間にも、周囲の人からは自分が思ったよりも何倍にも比較されてる。与り知らぬところでそうされていたことに不快に感じるのは仕方ないとしてもそれを拒否しているんじゃこの世界を歩いていけない。それを理解しようとしていないのはあんたの落ち度だよ、エクスキューショナー。これだけでもあたいが人間側に就く、十分な理由の一つになり得るよ』

「黙れぇええええええええええええええ!!オレにオレの仲間を殺した奴を認めさせるんじゃねぇえええええええええええ!!」

 

激昂しているエクスキューショナーがさらに太刀を振りかざして何度もゲートを斬りつけては報われない結果にさらに憤慨する。その様に心が晴れるということにならないまま、怒りの矛先をこちらに映さぬよう時間稼ぎとして静観していた時だった。HUDの方に遠距離通信がオンラインになったことの表示が現れ、沈黙していた無線機から声が聞こえてきたのである。

 

『こちらグリフィン北米支部指令部のプロフェット!アルファ1、応答してくれ!』

「プロフェット、こちらアルファ1。感度はイエローだが聞こえてる」

 

少々端末を操作して調整したかったが、もしもの時もあるとして諦めローガンは応答を返して自身の生存を伝えた。その声を聞いた指揮官は一間空けた後にむ無線機越しに安堵の溜息を漏らしたらしいがすぐに立ち直ってみせた。とはいえ、その声は少々力が抜けていてまだ完全に持ち直した訳ではなかったようではあったのだが。

 

「状況報告、というと色々と言わないとならないんだが……」

『大まかなことなら416から聞いたから大丈夫。瓦礫を切り崩してそっちを追尾していた鉄血の部隊を掃討してG11たちと合流したそうだよ。だけど早期決着を狙っての戦闘で彼らから死傷者は出てしまったけどなんとかなったみたい』

「……そうか、合流できたのはいいが事が済んだらきちんと収拾をつけないとだな」

 

ローガンは胸を撫で下ろしながら勇敢にも戦って命を散らした兵士たちに黙祷する。響き渡る騒音を意識的にシャットアウトし心の内に訪れた静寂の中で死した民兵達を悼んだ後で、援軍という存在により肩の荷が少し降りた気分になるよう努める。感情の底なし沼にずぶずぶと嵌まらぬことにならないようにし、傷心しているのが悟られることにならないようにもしながらハリーに報告した。

 

「報告。先行した後に目標地点に到達して連中のボス二人と膠着状態にさせていたんだが、思わぬ方向からの手助けで時間は稼げている。一人は捕縛、もう一人は……回収目標と悶着中」

『ちょっと待った。ツッコミどころが複数あるけど大前提の問題だ。君一人でハイエンドモデルと交戦するようなバカなことをしたのかい?』

「奇襲を仕掛けて一体だけを人質にするべく速攻で……てな感じで。さすがに連中も自軍の優秀な仲間を失うのは手痛い以上の損害を被るだろうから、半分賭けではあったがうまくいったよ」

『……運かいいのか巡り合わせが良かったのかわからないね。それを隠すどころか臆せず言えるあたりから手馴れてる気がするけど褒められたことじゃないよ』

「こんな局面でお前まで説教するのかよハリー。お前の場合だと外堀をじわじわと埋めて落ち度を認めさせようとして来るから俺からすれば一番苦手だぞ」

『それじゃあ今回からその方向性を強めて行こうかな。そうでもしないとローガンは猪突猛進な悪癖を直そうとはしないでしょ』

 

うげぇ、と心からの呻き声を出して忌避したい衝動のままに無線機のイヤホンマイクをそのまま耳から外してしまいたくなったが、一時的に耳を塞ぐようなそんな行為では何も意味ないとしてぐっと堪える。

自分以外に銃を持って戦える味方がいない以上はそんなことをして不安にさせるのも悪いし、大きな動きをすればエクスキューショナーに気付かれるかもしれない。アッシュの方に視線を落とせば自身の仲間が八つ当たりをしている子供のようになっている様に苦笑いを浮かべていてこちらの小声による会話に耳を傾けていたかどうかが分からない。が、こうしてローガンの手で組み伏せられている以上はよっぽどの力を発揮しなければ動けないので、このまま援軍の到達まで待ち続ければ一緒にフロリダ州に現地入りした戦術人形三人とハルカ達がエクスキューショナーだけを相手取るだけで済む。勝てるかどうかは別として、ハイエンドモデル二体と同時に戦うよりは大分やりやすくなる筈だ。

 

「……とにかく、早く来てくれるようだと助かる。プロフェットと繋げられたということは皆も聞こえているんだろ」

『まあそうだね。僕らの会話が円滑に進むように黙ってくれてはいるけど全員が聞こえているだよ。それでアルファ1、その状況下でエクスキューショナーと交戦するとして君はどうするんだい?どっちみち、戦っているのを暢気に観戦するつもりなんてないんだろう?』

「スポーツ観戦じゃないんだし当たり前だ。つうか銃弾が飛び交って命を掛け合う競技なんてあってたまるかよ」

アルファ2(416)協力者(ハルカ)、聞いての通りだ。戦える人員を率いて今すぐアルファリーダーがいる位置に駆けつけてくれ。このままじゃさらに無茶をやらかしてしまいそうで気が気じゃなくなる』

『言われなくてもそうするわよ。私自身が散々な扱いをされるのは慣れてしまっているけど、唆されたりしたんじゃなく自分から火の中に飛び込むことまで見過ごすことまで馴染みたくないわ』

『右に同じだ。部下やダチにしても自分から深い縦穴に入ろうとしている奴を止めない理由はない。待ってろ、今すぐ行ってやる』

「首輪を掛けられそうな勢いでガクブルが止まらなくてありがたくなってくるな……」

 

416とハルカが残した言葉にローガンはそう独り言で漏らすと、彼女達が来た時に先んじてアッシュを無力化しておこうと、体重をかけたままナイフで関節部分の機構を切ろうと体勢を変えた。エクスキューショナーへの警戒を解かずにアッシュの動きを封じている自身の足の着地点を変える。そして人間であれば骨と筋を繋げている腱がある位置にナイフをかざした時、アッシュから非難がましい声が上がった。

 

「あなたは動けない敵に対しさらに追い打ちをかけるようなことを平然とする人間なのですか?そうだとしたら私の中であなたにしていた評価を改めなければならないのですが」

「てめえの勝手なそれを気にする必要はあるかよ。俺だって好き好んでやろうとしているわけじゃねえけど俺だけじゃない誰かの命も左右するのであればやるさ」

「趣味嗜好ではないのだと言うのですね。貪欲に自分達が生き残れるよう、最善を尽くしているだけだと証明できますか?」

「誰も俺が歩んだ生きた道のりを知らないしそれを示せる物もない。だから俺から提示出来る物は何一つもないから証明なんて出来ねえよ。だけど……」

 

今一度、ゲートのオアシスに問答を繰り返して当たり散らしているエクスキューショナーを見る。論じて勝てないから力で押し切ろうとする、そんな子供じみた真似が通用するわけはないのだということをローガンはもう知っている。だがこのご時世では逆もまた然りで、力ないまま言葉だけでは窮地を脱することも到底出来やしないのだ。蝶事件が起こる前の数十年前より厳しい世界となった今では特に嫌な両立を強要されてもいるのだから生きづらくなっているのだと言っても間違っていると指摘されることはないだろう。

なのでローガンはアッシュに包み隠さずに言った。言葉選びなどせず、ありのまま内に生まれて膨れ上がっている思いをそのままに。

 

「投げ出したら俺自身を許せないぐらい、もう会えない人達に色々と託されてしまっているんだ。一つ一つ見て行けば小さいけど、捨て置いて逃げる真似なんて絶対にできないししたくない。教官(あの人)に会うまでは自分が生き残るのに『死にたくない』という思いしかなかったけど、今はそれ以外にも理由は出来てしまってる。加えてバカで相手をするのが面倒だった奴から『誰よりも強く生きてくれ』なんて真面目に言われたんだし振り返ることはあっても立ち止まれねえよ。だから俺は教官やあいつらから受け取ったものをなかったことにしない為に茨道であってもやるべきことをやるべくまっすぐ進む、そんな覚悟があるってのは胸を張って言えるさ」

 

これまで出会ってきた者達の顔を駆け抜けるように思い描きながらも、ローガンは渡されてきた記憶や信条によるバトンの聖火の一部を自身の活動燃料としてくべる。ローガンは自分がどれほど悲しんで落ち込もうと怒り狂おうとも、それを理由に生を放棄し自分で掲げた目的までもを投げ捨てることなんていう選択肢を捨てた。手の内から失われてしまったが、この手は誰かに掴んでもらってもいるのだから。

託された思いの為に。そして手を取ってくれている当人たちの為にも、逃げずに立ち向かうのだともうローガンは決めた。

それにアッシュからの問いに対しては野球の硬式ボールだけでなく追加で関係のないバスケットボールも投げて渡したようなものだが、十数分前のエクスキューショナーよりも堂々と意思を示しておかなければいけない、そんな気がしていたのである。

ローガンが衝動のままに発した言葉を聞いていたアッシュは対話のない一間を生むほど黙した後に言った。

 

「私が求めていた解答とは違っていましたが、そのような信念を抱いているからこそあなたは立ち上がれているのですね。ここまで至るのにどれほどの苦難を経験をしたのかなど私にはわかりませんが、恥ずかしがることなく言えるということはそう思わなくていいだけの過去があるからでしょう。あなたのことですから嘘をつくこともないでしょうね」

「……そいつはどうかな。思惑や理由があってついた嘘だって俺にもある。今言った事にそいつが含まれているかもしれねえぞ」

「偽りであることを考えさせるようなことまでも言ってるんですからそうは思えませんよ。あなたが発した言葉だけでなく声音も真剣そのものでしたからそう疑うのも杞憂でしょうし、元々からあなたはそう偽るのは得意ではなくできればやりたくない。そうでしょう?」

 

それに反論できないで口を噤んでしまった自分に叱咤したくなったが、アッシュが言った事は正しい。欺かなければ自分が窮地に立たされることになるのであれば勿論ローガンも出まかせを吐くが、対立することがない親しき者達にはやはり良心が働いて抵抗が生じる。戦地に迷い込んだ難民の子を助ける過程で安心させたりする為に言ってずるずると引き摺ってしまうことだってあったし、彼女が言った事を認めざるを得なかった。

手が空いていれば額に手を当てたい気分になったが、すぐにそれは消え失せた。次にアッシュがポツリと漏らした言葉が確信を得たものになっていたからである。

 

「もう大丈夫。やっぱり間違っていなかったよ、――――――」

「お前、今なんて……?」

 

問い質そうとしたその時、伏しながらも自分に向けられたアッシュの笑顔は違っていた。ファーストコンタクト時から見た『ただただ笑っている』だけのそれではなく、感情が含まれているそれになっていることにローガンは言葉にならずとも直感で気付く。体裁を整える愛想笑いからの変化にローガンが問い質すのよりも先に視界が大きくブレた。

前触れなどなにもない、あまりにも突然のことにローガンも混乱したが、一からすべてを頭で理解する必要がないのだというかのように背から不時着。受け身を取らなかったことでダイレクトに背骨に響き渡る衝撃と遅れてくる鈍痛で顔を顰めたが、長年の経験で染みついた―――もしくは染みついてしまった―――反射行動のままに後転し体を起き上がらせると両手には慣れ親しんでいる武器を正面に構えた。

『P226』のアイアンサイトを覗き込んだ先にいたのは体勢を整えて地に足をつけているアッシュ。それですぐにローガンはこの場への奇襲をする前よりも最悪な事態に陥ったと理解しすぐに行動に移した。

 

「くそ!!」

 

悪態をついたローガンは『P226』を発砲しながら即時後退。正確に照準を定めるのではなく牽制を第一にした射撃であるので命中精度など皆無に等しい。されど敵がいる方へと撃ち放っている大雑把で闇雲な射撃であっても時と場合によっては一発だけでも命中することはある。

期待しているわけではなかった。所詮はまぐれ、当たればラッキーというだけで成功ありきでいるべきことではないからである。

だからといってもだ、外れるのではなく『外された』というのは誰にも予想できなかっただろう。放ったうちの弾丸数発がローガンの運に運ばれていたのかは定かではないが、結果からして恐らくアッシュへの命中コースに乗っていたのだと考えられる。

さすがに牽制射撃といえないほどの壁と地面で土煙が上がり、後退していたローガンもさすがに驚愕する。

 

「な、に……!?」

「理解できないことがあれば驚くのは無理ありませんが、みすみすその隙を見逃すほど私は易しくありませんよ」

 

声の出先へと視線を動かした時にはローガンの腹へと拳が叩き込まれていた。体内の内臓の活動が一瞬停止し、肺からは酸素もろとも空気が吐き出される。

その威力により身体がくの字に折れ曲がり両の足が地面から浮く。それを認識した途端、今度は背の方に衝撃が加わって地面へ叩きつけられて歪んだ視界一杯に暗く固いそれだけが収まった。

咳き込みながらも立ち上がろうとするが体が思ったように動かず、両腕から力が抜けてまた頬から砂埃がある地面へと着地。四苦八苦しながらも再度起き上がろうとしても全身が麻痺しているかのようにたどたどしい動きしかできない。

 

「これは危ないのであちらにどかさせてもらいますね」

 

ガララララッという金属類の何かがざらざらしている平面を滑っていくような音が聞こえたのでそちらに視線を動かすと、右手から離れた『P226』がアッシュの足に蹴られて数メートル先まで転がっていた。万全の状態であればすぐに取り戻せる距離にあるというわけではない、駆けていくにしても背中を見せることになったりと無防備にならざるをえないほど遠くである。

 

「ごほっ……ちっくしょう……!」

「ご安心を、ここであなたに止めを刺すつもりはありませんよ。あなたの援軍がこちらに向かってきているのですからここも一旦退かせてもらいます。私も数で物を言われては一たまりもありませんしね」

「わざわざ勝ちを見逃す様な真似をしてんじゃねえよ……!俺を人質にするなりすればてめえらはまだ……!!」

「たしかに、そうすることでまた私達に追い風を吹かせることはできます。ですがそれではダメなんですよ」

 

うつ伏せになっているローガンのすぐ傍でアッシュが片膝をつくことで声が大きく聞こえてくる。なんとか頭だけを持ち上げてアッシュを見上げると、彼女はどこか苦しそうでありながらも強がって見せているような笑顔でこちらを見ていた。それは彼女の仮面の一つなのかどうなのかはローガンにはわからない。だが人間でもそう易々とできる感情表現ではないことはたしかであり、とても小さな疑念にローガンは思えた。

 

「また会いましょう、ローガン。第四次世界大戦勃発の阻止の行く先でもし私を追うのであれば『彼女』が教えてくれるでしょう。いつか、いつの日か……あなたと共に……――――――」

 

最後はエクスキューショナーの剣戟による音で掻き消されたのでので、アッシュの色素がやや薄い唇がどのような言葉を紡いでいたのかはわからない。読唇術なども身に着けていないことから様々な推測を立てるが、聞き返すことを忘れてしまっていた。

立ち上がって離れていくアッシュの足を掴むこともできずにローガンの右手は空だけを掴み、彼女は早足でエクスキューショナーのもとへと向かって行く。全身の痺れこそ徐々に緩和してきているが、まだ打撃の命中箇所である腹部と背中の痛みがまだ動けるほどになっていない。久々ともいえる、鉄血の戦術人形からの容赦のない近接攻撃の攻撃力にローガンは行動不能からまだ回復できていなかった。

 

「ご立腹の所申し訳ありませんがグリフィンの人形達がこちらに来てます。残っている私達の戦力も多くないですし、彼らがオアシスの確保に移っている間に戦略を練り直すべきではありませんか?」

「クソが、もう奴らが来ているのかよ……!だったらあそこで動けなくなってるクソ野郎を引きずっていってやるとしようじゃねぇか」

「おすすめしませんよ。上のフロアに戻るとなると『崩壊液(コーラップス)』の被爆者との一度以上の戦闘は必然といえます。そこで常時見張っていなければならない人質と連れ行こうものなら確実に私達は彼等の餌食になるでしょう」

「だったらどうグリフィンの犬どもとケリをつけろっつうんだよ。ここでなにも拾わずに行くんじゃオレらが優位に立てる手段を取ろうとしていない、勝つのを自分やめようとしているのとまったくの同じじゃねえか!」

「無理にハンターの戦い方を模倣する必要なんてないんですよエクスキューショナー。足らぬ点を補填しあっていた、相棒のようであった彼女と同じ手段ではなく、あなたが本来の得意としていた戦術を駆使しましょう。世の中、戦い方は一つじゃないのですから」

 

こちらに背を向けているアッシュがどのような表情かはわからない。思考しているエクスキューショナーの顔に複数の負の感情が入り混じっているようなのだけは確認できたが、それが一切確認できない。

やがて言葉を飲み込んだエクスキューショナーは舌打ちすると、オアシスのゲート横の方へと大股で近付いた。そして岩面に偽装させていたらしいパネルを開けてキーボードを露にすると操作。五本の指でキーを押して最後に大きめのキーを叩いた瞬間、バシュッと機械が空気を吐き出したかのような音と共に横の岩が横にスライドして人一人が進んでいけるだけの通路が現れた。

そしてエクスキューショナーは眼光を閃かせたその両目でローガンを見て言った。

 

「オレを追って来い『狼王』。てめぇらがどう足掻こうと無駄だってことをここで証明してやる。この地下内がてめぇらの死に場所だ」

 

そう残すとエクスキューショナーはその暗い通路の方へと進んで消え、アッシュもそれに続こうと歩いていく。

もうその頃には脳からの指令を十分に遂行できるほどに回復していたので、ローガンは『P226』の方に一回だけ大きく前転し拾い上げる。スライドを引いて一発だけ弾丸を排出させると即座に彼女に照準を定めた。

 

「待て、アッシュ!!」

「残念ですがそうはできません。現時点で言いたいことは言えましたし、私もお暇させて頂きます。ですがローガン、急いだ方がいいですよ。災厄の匣による審判のカウントダウンはもう数年前から始まっているのですから」

「意味わからねえことを言ってんじゃねえよ!」

 

バスバスッと二回引き金を引いて発砲したが弾着するよりも先にアッシュの姿は掻き消えた。土煙が舞っている方向からして隠し通路でここから逃げおおせたようで、今すぐ追跡するにはあまりにも不安要素が多い。様々なことがこの場であり過ぎて情報で頭がパンクしそうにもなって冷静さまでもを欠きそうになったが寸でのところで留まった。通路の方から不意打ちを食らわされないよう、敵影がないことを見える範囲で確認。そして一切の危険が起こり得ないと判断したところでローガンは深呼吸をその場でした。

―――落ち着けよ。奴らへの対応も重要だがその前に今回の任務のことを忘れちゃいけないだろ―――

そう言い聞かせたところでローガンも通ってきた方から複数の足音が聞こえてくる。増援の鉄血兵が駆けつけてきたわけではないのだと、足音からしてもすぐにわかった。

行き着いたうちの一人、現状を概ね理解したうえで銀髪の少女がまず最初に口を開いた。

 

「……状況は?」

「逃げられたよ、俺達が通って来たのとは別の出口を使われてな。あの見たことのないハイエンドが何かしらかの機能を発揮されて逆転された」

「……その様子からして単なるつまらない言い訳をしているわけではないようね。完璧な私がその場にいればこうはならなかっただろうけど、随分とまた無茶をしたのね」

「説教は勘弁してくれ。帰ったら正座させられて精神的に追い詰められるのがもうわかってるんだからここで滅多打ちになりたくない」

 

ジト目の416が耳が痛くなる台詞を言う前にローガンはこの場でやるべきことをやる為に腰につけているポーチの中でここまで触れていなかったそれを開けた。サイズとしては小物が入る程度ではあるが、様々なアクシデントを想定して対策がされた耐久性に優れた入れ物になっているというのは厳しい検査に立ち会ったとされている指揮官の言である。

その中から当たり障りのないデザインのUSBメモリを取り出すと自身の端末に接続する。言うまでもなくこれがイントゥルーダーから奪取した『鍵』であり、オアシスを回収するのに必要なものの一つ。……いや、これが真っ先に失われればすべての努力が水の泡になるのだから、他のどれよりも一番厳重に所持していなければならなかった代物だ。

端末に読み込ませている間にローガンはゲートのコンソールが起動していることを確認し、『鍵』が端末にインプットされたところで無線による外部接続を開始。ゲートを開けるのに必要なプロセスを『鍵』が処理しているのをローガンは画面を見て待っているとスピーカーを介して声を発しているオアシスが声を発した。

 

『へぇ、北米支部の指揮官はここまでの人員を寄越して来たんだ。人数が少ないというので減点だけど事の重要性を理解した上で人選もしているようだし一先ず及第点に達しているね』

「グリフィンの事を知っているような口ぶりだな。私からすればその判定基準がどうあるのかのかわからないがわかるかバルソクとやら?」

「残念だが私もさっぱりだ。実戦経験が皆よりないせいかもしれないが、少なくともこのVIPが頭数だけで見ていないのはたしかだろうさ」

『もちろん、あたいも個人のスキルを見て言ってるのさ。優秀な結果を出して冷静な判断と実行力による自信(プライド)をもっているHK416。惰眠を時間を無駄にしている日常生活から実戦になれば敵を躊躇なく正確に撃ち抜いて抹殺するGr G11。今はまだ経験浅いけど、マシンガンの戦術人形としてだけでなく新たな道を切り開いてものにしようとしているAEK999。遠方からの細かい指示が届きにくいここで全員を率いるべく選ばれた、現場指揮官であるローガンの事だって知っているよ』

 

概要のように大雑把に言っただけではあるが間違っておらず全員が目を剥き言葉を失う。オアシスが情報探査・伝達を主軸の目的とされているAIであるのを伝えられたのはローガンだけなので無理はないが、長らく幽閉されていたのとほとんど変らないというのにローガンも驚きだった。

 

「……随分と物知りのようだな。鉄血の企みを阻止することを目的にグリフィンが動くのは予測していた、なんてのも考えてしまうがな」

『まさか、そんなわけないじゃん。組織そのものを信用しているわけじゃないけど、あの中には言うことに耳を傾けて得た情報を選別・吟味して素直に自分の中に落とし込めれる人だっている。そんな人は信頼できるからローガンにコンタクトを図ったんだよ』

 

ハルカとオアシスの会話の中でデータ処理が終わって端末の画面に『認証完了』という文字が表示されたので、ローガンはコンソールのパネルを『閉』から『開』にするべく操作した。赤い表示から緑の色に変わると付近に警告音が鳴り響き、白塗りで重々しいゲートがゆっくりと開かれていくのに反応して各々が身体をビクつかせて距離を取る中でオアシスの声ははっきりと聞こえてくる。

ビーッ!!という警告音に掻き消されないのは単にオアシスが発声するのに音のボリュームを上げているからかもしれないが恐らく違う。それはまるで真に迫った予言のようであって、この先起こる災禍というものの備えをするよう呼び掛けの警告でもあったからだ。

 

『さて、楽しい時間は無しだよ兵士諸君。ここを脱した後には鉄血だけでない、巨悪ともいえる敵を相手にしなければならないからね。国家や人種などは関係ない全世界における生存戦争を繰り広げられようとしているのをわかっていながら見て見ぬふりをしている、そんな奴らと人類そのものを世界規模で根絶やしにする大規模な計画を企てている鉄血工造。その二つの勢力との内なる戦争の渦中にいながらどう活路を切り拓くのか、これから模索しよう。……まぁとりあえず無事に帰るまでが任務なんだし、ここからさっさとトンズラしようぜ☆』

 

……最後の一言が余計ではないかと思ったのはローガンだけだろうか。




……まぁ少々こうなるんじゃないかと思っていたのですがね。ドルフロと同じ開発元からの新ゲームと新イベントの特異点がほぼほぼ同時に来れば、そっちに時間と気を割いてしまうのかと。でも、あれは嬉しい不意打ちでしたよ。アップデート当日は本国版のほうにだけスキンにLive2Dが追加されると思っていたのですから。前回の投稿時は執筆と並行してやっていこうと考えてたのに、メンタルアップグレードのインパクトがありすぎて……。なんですあれ。公式でもAR15ってあんなに感情表現が豊かで赤面までするのですか?元から彼女は本編や外伝のショートアニメでも感情を隠さない、というかむしろ仮面をかぶらずに前面に押し出してくるキャラクターではありますけど。あんな赤面していながらだったり百点満点の満面の笑顔見せられてしまったら惚れ直すに決まってるやんけ!特異点のストーリーで生還してきてくれたことも相まって嬉しみ十割増しじゃい!
……うん、また一週間遅れての投稿になってしまいましたがなんとかできました。それはよかったことじゃないかな~。遅れてしまったのはすべて私の責任です。ですが私は謝りません(ニッコリ
特異点の進行具合につきましてはTwitterでもあまり報告していませんが、三部には突入して一旦物資を貯蓄し直しているところです。正直なところ、あそこまで面倒な敵が出てくるとは思っていませんでした。撃破方法も一応調べましたが、やる気が足りない次第でございます。それでも今は各ステージを周回して限定ドロップ品を集めたりと、ストーリークリア以外の目的を達成させたりとしていますが……。アバカン、AN94がこねぇなぁ
それでは今回はこの辺で。ドクターになったりと特異点にて奮闘している指揮官の皆さま、共に頑張りましょう――――――
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