誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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久しぶりに活字で紙の本を読みました。しばらくこういうの読んでなかったけど……そっか、難しく考えてたのかも。


49.継戦続行 -Will to survive-

静寂だけが満ちる地下通路が続く、ということにはならず、登山を想像させる坂道を十数分間歩いた末にようやく終わりが見えた。先頭をゆくハルカが割れ目のようなそこから顔を覗かせて左右を確認、そしてこちらに対して頷いたのでローガンは彼女と同時に飛び出して一帯に敵対者がいないことを確かにすべく辺りを見る。

どこかのプラットフォームに出たらしいが、自分達以外の誰かがいるわけではないようでホラー映画のように不気味なほど静かだった。

『AK-74』のタクティカルライトで目につく箇所を全て照らし、先行したエクスキューショナーとアッシュが潜んでいるのを見逃さないよう気を張り続ける。

 

「クリア、と思いたいが実際はどうなるかわからないな。オアシス、最短で地上に出るルートとしてはどう行けばいい?」

『今の向きのまま見て三時の方向かな。カメラやセンサーが搭載された電子機器が転がっているわけじゃないから敵がいるかどうかまではわからないけど、進んだ先には点検用エレベーターがあるよ』

「今もここ全域に電気が通っているわけじゃないから点検用なんてのがあっても意味がないだろ」

『もしかしたらだけどね。今もまだ非常回路が仮死状態であるのならあたいが起動してエレベーターを動かすことが出来るよ。運が良ければそれで地下一階にまで一気に戻れるし、一応確認してみたらどうかな』

 

都合のいい夢を提案されているようでローガンとしては少々気乗りしないが、ここまでの戦闘による負傷者もいる。最低限で戦える者と帰還する用意に入っていれば偵察として先行していた民兵の遺体を運び出すべく残っていた味方と合流することもできるだろうし、自分達も遠回りせずに地上に出ることが出来る。

任務とはいえなにも馬鹿正直にここでエクスキューショナーを始めとした鉄血兵と戦う必要性もないのだし、長居して無駄に装備を浪費すればここの地下で徘徊しているE.L.I.Dによる脅威が増すことになる。図らずとも三つ巴の状態になっているのだから、数もなにもかも劣っているこちらは離脱の態勢であるのが吉だろう。

 

「確認してみるだけいいだろ、ローガン。どっちにしても動かないと始まらないし望みがあるのなら私は賭けてみたい。あんたらも含めた価値ある命を、こんな掃き溜めに埋めさせたくないしな」

「希望的観測、ではあるけどここでは私達の分が悪いのは確かよ。救援はないことを前提にしないとなんだし行きましょうよローガン」

「……選択肢はないな、仕方ない。バルソク、俺の左側を頼む」

「任せろマスター」

 

もう分断して行動するのでなく一纏めでそうすることにした以上、出し惜しみをやめたバルソクが『PP-19 BATON』ではなく自分の分身である『AEK-999』を手に持ちローガンに動きを合わせてくる。

バルソクも分隊行動は戦術人形ということもあって元々からできていたが、彼女の性格が出て基地での演習では大雑把な面が少々見受けられていた。銃器によるものは仕方ないとしても慢心や決めつけによる見落としを無くするよう、現在も訓練中ではあるが最初に比べれば断然動きが繊細かつぎこちなさもなくなっている。

こちらに歩調なども合わせるように位置関係の確認も忘れていない彼女を内で評価し、ローガンは引き続き右翼側をハルカ達民兵に任せて前進した。

 

『オアシス、僕達グリフィンのデータベースにはアッシュという名の鉄血兵のデータはない。あれについて知っていることがあれば教えてくれないか』

『残念だけどそれはない袖を降らせているのと同じだよ。あたいも彼女に関しての情報は一握りしかないし、他のハイエンドと同じように彼女そのものを突き詰めるには不十分だよ』

『それでかまわないよ。君は交戦した隊員(ローガン)にはわからないことが唯一わかるかもしれない、僕達側にいてくれる存在だ。奴の装備や特殊能力、なんでもいい』

 

ハリーが無線を通じてアッシュの情報をオアシスから聞こうとしているのにローガンも耳を傾けつつも、進んでいる地下通路の陰に銃口と共にライトを当てる。不意打ちとして急に飛びつかれても対応できるよう、ハンドガードを持って支えている手の内にあるナイフを握りしめながら注視していたが、杞憂で終わったので再び前方に視線を戻した。

 

『あのハイエンドの戦闘スタイルは速撃を主としているけど相手の急所を殴る蹴るだけじゃない。手練れの兵士であれば可能としている格闘術で技をかけれる、この一点に関しては他では見られない大きな違いだよ』

「それと、俺が撃った弾丸を見た感じでは何のアクションもなく逸らして見せていたな。いつから鉄血の人形は手品師も戦力に加えるようになったんだよ」

『あれは一時的に体表面に不可視の膜を張って不要物を明後日の方向に逸らす『ディビエイトシールド』。適用できる時間が短い上に再使用にはかなりの時間を要する、彼女だけが持っている能力だね。異なる点はあるけど似ているものがあるとすればI.O.P製のでもいたよね、一時的に損害を無効化して持ち堪えれる人形が』

『……いるにはいるがそうか、『フォースシールド』と似ているという事か』

『そういうこと。アッシュはモジュールによる効果が攻撃面には機能しない反面、防御の方に傾倒している。だけどそれを補えているだけの戦闘能力もあるのはたしかだよ。それに関してはローガン、あなたが一番退官した筈』

 

オアシスが言うことに間違いはない。今しがた説明であった『ディビエイトシールド』による危機回避だけで生き残ってきたわけでないだろうということは先に交戦したローガンが一番知っている。自身も体得している近接格闘術(CQC)を駆使して動きを封じにきたこともそうだが、ハモンドに対し目にも止まらない速度で衝撃弾を装填している銃を撃ってきたので、ヴェスピドやリーパーのような鉄血兵とは一線を引いた戦闘力を有しているのは間違いない。

 

『鉄血内での立ち位置ははっきりと言えないけど、エクスキューショナーとのやり取りからして腫れ物扱いをされているみたい。エージェントに一目は置かれてるぐらい優秀ではあるけど、経緯は複雑で信用はあまりされていないようだね。あたいが把握できているのはここまでだよ』

『データベースの更新に合わせて、世界中の各所で似た人形の目撃情報があるかこれからは調べないとだな……。とりあえずありがとう、ほんのちぽっけな断片でもなにもないよりはマシだ。今後奴に関係する情報が入ってくればすぐにシェアするようにするよ』

『それはどうも。あなたの情報収集能力はあたいも認めているから、重要であればなおのこと早期の通達をよろしく』

 

自分達の足音や息遣い、または装備が揺れたり擦れたりして起こる物音以外が聞こえてこないこの空間のどこかに敵が潜んでいるかもしれない可能性を無意識に考慮するのは当たり前の事ではあるのだろう。ただそう無自覚な心構えができているのだとしても実際に結果を示せすこととは話は違う。一丁前なことを言っておいて実力は大したことなかったので口先だけだった、という人間がいるのはいつの世も同じだ。

そんな人間に自分もなりたくない、というのは少なからずローガンにもある。その延長線で認められたい、と思うのは自然でなにもおかしく思うことはない。そう浮かんできたということは敬意を払えるか張り合える相手がいるからであること以外に他ならない。

そこでなぜ今そんなことを考えているのかと、ローガンははたと気付いてかぶりを振る。生還か死、そのどちらかがこれからの行動で左右されるというのに暢気に人生について考えている暇はないだろう。そう叱咤しながら進んでいったところで非常口を表すマークがある扉に辿り着いた。

 

「バルソク、416」

 

無言で二人が扉の左右について頷き合う。そしてバルソクのハンドサインによるカウントに合わせて416が扉を開けて突入、ローガンも続いて彼女とは逆側に進入した。開けてライトに照らされて視認できたのはこちらに背を向けてしゃがんで何かをしている人影が三つ。鉄血ではないその者達に何者かと尋ねるなど、そんなことは無駄だということをローガンは知っている。

声を掛けることもなく、416と同時にその三人に向けて一掃掃射を開始する。バラララララララララッ!!とローガンの手にあるカラシニコフがフルオートで火を吹くと同時に銃弾を放ち続け、肉眼では視認できないまま照準に収まっている三人に向かっていった。

敵としている三人は撃たれながらもすぐさま立ち上がってこちらに襲い掛かろうとしていたが、416との同時攻撃による火力に圧倒されて倒れていく。四肢が分断されてもなお這ってこちらに近付いてこようとしているがそれも無意味だ。

そして三人が動かなくなったところで銃撃をやめ、ローガンは『AK-74』の弾倉を取り換える。黒い大型弾倉を差し込んで薬室に弾丸がセットされているのを確認、そして銃口を向けたまま接近した。それぞれを足で蹴っては反応がないことを確かめ、本当の意味で死者になったことに確信が持てたところで後続で待機している皆に向かって言った。

 

「クリア!」

 

そう言うと不測の事態に対応できるよう待機していたバルソクを先頭にG11とハルカが、そして負傷者に肩を貸しているハモンド達こと民兵が入って来た。各々がローガンと416が何に対処したのかを見て、ここにも鉄血に並ぶ敵対せざるをえない存在に溜息を吐いた。

 

「無尽蔵に出てくるだけでなく、こんな所にも居やがったのか……」

「鉄血の人形にまで群がっているのは初見ではないけど、気分がいいものでないのは確かだよね。ここで喰われているのは奴らだったから良いけど、自分の腹に顔を突っ込まれているのを想像するのは本当に嫌だよ」

 

辺りに部品をばら撒いている鉄血兵と今しがた制圧したE.L.I.Dだった三人を見下ろしながらそう言うG11にローガンも言葉を発することは無くとも同感だ。自身の人生の終わりを告げる事象が銃殺によるものなのか圧死によるものなのかはわからないが、生きながらして腸を食い荒らされるのだけはまっぴら御免である。自我があるかどうかさえ定かではない『その後』が怖いからではなく、単純に苦痛に苛まれる時間が他よりも長いだろうからだ。

G11は恐らくそこまで考えているうえで言ったのだろうから、ローガンとしても強く共感を持てる。ローガンも思いつく限り死因を脳内で幾度と比較してみても、その結果に行き着くのは同じだった。

 

「上の層で出くわした時みたいに固まっていないからいい分、今は良しとしましょ。ローガン、頼んだわよ」

「ちょっと待てよ……よし、接続完了だ。オアシス、行けるか?」

『ばっちり。最初に回路の生存チェックっと……うん、年季の入った電子回路だから時間を要するけど動かせるよ』

「この手の仕事に関してはこの中でお前しかできない。頼んだぞ」

『任せて。この手の仕事はあたいにとっての得意満面で意気揚々に自信もってできるよ』

 

ローガンによって無線で接続され、エレベーターの制御パネルから制御回路にアクセスしたオアシスが一つや二つどころではない処理を開始した。初めて声を聞いた時に行ったハッキングと同様にローガンの端末の画面にダイアログボックスが表示され目まぐるしく文字が流れていく。

 

『……よし、回路の復旧完了。エレベーターを起動するよ!』

 

処理を開始して三十秒とちょっとしてのオアシスの掛け声に共鳴するようにして、低い唸り声をあげるようにしてエレベーターの制御パネルが点灯した。パパッと光った橙色の呼び出しボタンの次に頭上にあるフロア表示も生き返って、ゲートの向こうから駆動音が聞こえてくる。それか普段自陣にて耳にしているのに類する物だということを確信できたのと同時に左右に開かれて中が露になった。

開かれる直前には既にE.L.I.Dによるモンスターハウスを想定して、バルソクを主力に戦闘態勢に移行していたが想像していたことにはならずに済んだ。電灯に照らされているのは床以外が白塗りになっているエレベーター内部だけで敵が乗り込んでいる、などということにならなかったことに一息ついたハルカが後方にいる民兵に一声かけた。

 

「よし、負傷している奴と肩を貸している奴は先に乗り込め。重量過多のブザーがなるまで詰めろよ!あたし達は次に乗り込んで合流する!」

「ほれほれ、さっさと乗った乗った!グリフィンの私達はあんたたちほど派手な怪我だってないし体力の消耗もしていない。気を使わずに上に行っちゃってくれよな!」

「す、すまん。先に行かせてもらう」

 

明るい声を発するバルソクに軽く背を押された負傷した民兵がエレベーターに乗り込んで、さらに次の半身血塗れの男がゆっくりと入っていこうとする。だが途中で立ち止まって振り返ると、身体と同じく半分以上が包帯に覆われているその顔をこちらに向けて言った。

 

「おいハモンド、お前はどうするんだ」

「どうせ五体満足で十分に動ける一人にカウントされてしまっているさ。ていうかさすがにお前みたいに酷くなっている奴を押し退けようとは思わねぇよ」

 

よくよく見てみるとその負傷兵とハモンドには同隊であることを示すものは一切ない。かといってハルカ直属の部隊であることの証である統一感のある装備を身に着けているわけでもなく、その人物もハモンドに近しいか同じ歳であることを窺わせるぐらい若々しい。

消去法でハモンドの部隊の一人であるその男は自分達が来た道の方を見張っている隊長に続いて声を掛けた。

 

「ならオレからは特に言う事はないがお前も早く来いよ。こんなしみったれた場所なんざしばらくは居たくないしな」

「わかったからもういけ。早く帰りたいのはこっちも同じだ。喋れる元気があるのならここに残ってくれてもいいんだぞ」

 

そのハモンドの言葉に肩を竦めた負傷兵は足を引きずりながらもエレベーター内部に入っていく。ローガンはここから退く彼から背後にいるハモンドの方に視線を移したが変に絡まれるのを避ける為に一瞥するだけに留めておく。思うことはあるが問い詰めるほどの事ではないし面倒ことになるのは目に見えている。第一ローガンはさほど重要でなければそうしつこく人に食いつく性格ではないのだから、そんな気など一切湧きもしなかた。

先導役に任された万全の民兵も乗ったエレベーターのゲートが閉まって動き出す。くぐもって聞こえてくる駆動音と共に上昇している度に希望の架け橋が見えてきているようではあったが、それが不確実で霧や雲などでしかローガンには感じられない。

 

「実際にこうして動いているのに不安なのローガン?それともローガンって実は悲観主義な人間だったりする?」

「……持っている目標(ゆめ)を語ったりはしたけどそううまくいくものじゃないっつうことはこれまでに何回も痛感してきた。現実主義、と俺は自己分析してたけどある奴には否定されてそう言われたりもしたしひょっとするとそうかもな」

「ローガンは気持ちを強く持ちなさいよ。今回の理不尽に押し潰されようとしているのはあなただけじゃない。私達だってプレス機にかけられようとしているんだから、脱する前に勝手に一人で折れてもらわれると困るわ」

 

G11の横から出てきた416がローガンの鼻先にピッと指を突き立てるとそう言い放つ。力強い言葉に比例した輝きのある彼女の碧眼が映しているのはローガンであるのは視線でわかる。だが自分自身がどんな様相でいるのかまでは悟れない。自分の内面が投影されてしまっているのはもうG11を通じて知っていはするが、歩く死体への恐怖に不甲斐ない自分への怒り、そしてアッシュの言動による苦悩が複雑に混ざってしまっていてなにがどうなっているのかが自分の事であるというのに何も自覚できなかった。

 

「私とG11はあなたのことを必ず連れて帰るよう、あの45から強く念押しされているわ。あなたを生還させたいと思っているのはあいつが404の隊長で、そいつからの指示だから、みたいなつまらない理由だけじゃないわよ。私だって友人でありたいと思う人は選ぶわけだし、数少ないそいつを見殺しにするような真似だってできればごめんなの。おわかり?」

「……おわかりだけど内心恥ずかしがっているのが浮き彫りになっていますよ。別に行く先を見失ったり戦意喪失したわけじゃないのだからそうガチンコの激励はしなくてもいいのに、そう柄にもないことをするからお鼻がぁ!?」

「あーあー、今のはマスターが悪いぜ。せっかく思っていることを包隠さずに曝け出してくれたというのにおちょくられたら手も出て然るべきだ。鼻歌で感謝の意を示してやれば殴られずに済んだんだろうにぉごっふ!?」

「二人揃って馬鹿にしているじゃない、私も『つい』手が出てしまうぐらい楽しくて仕方ないわ。シャドー隊って近辺に手頃な奴がいればちょっかい出しては痛い目に遭うのがお好きな隊なのかしら」

 

416が額に青筋浮かべながらも鬼も裸足で逃げ出すぐらい百点満点な笑顔を見せているが、ローガンとしては単に自分がそこまでへこたれていないことを示そうとしていただけであった。場所と状況的にはそうふざけていられるわけではないのだから、一応礼を混ぜながらの意思表示をするつもりであったというのが嘘偽りのない本音である。……ただまあ、少々弄りたいと思ったのも嘘ではないので416が気分を逆撫でされた猫のようになるのは道理であるのだが。

 

「……あんた達を見ていると、グリフィンの連中は常に戦場でも余裕も持っているものなのがわかるな。それなりの場数は踏んでいるつもりだったんだが、あたし達がまだまだなのを痛感するよ」

『違うからね?単に彼らが特殊であってグリフィンの皆が緊張感皆無なやり取りをするわけじゃないからね?』

『404の二人は戦いの合間に頬を抓り合うようなことをしているのはいつもなのかな。ローガンとAEK999は示し合わせたようにコントをしているのは……通常運転っぽいね!』

「今考えることを放棄したよなオアシス」

 

あっはっは、とオアシスが笑ったタイミングでエレベーターが地下一階に到達したらしく『B1』の表示が光る。負傷兵全員が地上に限りなく近づけた、と思った時だった。突如としてエレベーターの制御パネルも動力を失って沈黙し光を失い、駆動音も何も聞こえなくなった。

その異変にハルカと振り返ったハモンドだけでなくこの場に残った数人の民兵が動揺し始めたが、同じ組織に属していないこともあってすぐに俯瞰的に物事を見れた。ローガンは数度エレベーターのパネルのキーを叩いて反応がないのを確かめると言った。

 

「オアシス」

『いや、回路自体は死んでない。非常電源がダウンどころかあたい以外の誰かに侵入(ハッキング)されてもいないよ。物理的にカットアウトされていないのは言わずもがな、でしょ?』

「ああ、今しがた俺達の誰かが勝手に弄ったわけでもない。一応ちょっと見てみるが……」

 

ローガンはパネル下部にあるメンテナンス回路の蓋を開けてみて配線に異常がないか見てみたが、どのケーブルも無事で切られている痕跡はない。オアシスがシステムの方に異常がないと言った以上は原因は別にある。考えられるとすれば……。

 

地下四階(ここ)ではないところから物理的に介入されている、とかはあり得るか」

『もしそうだったらまだ回路を遠回しに繋げてパスできるよ。寄り道しないのなら始点と終点が無事というだけで動かすことはできる。でも今回のはなにをしてもダメ、できるだけのことを望んだレスポンスは返ってこない』

「……バルソク、ちと危なっかしいがゲートを無理やりこじ開けて異物がないか確認するぞ。416とG11はいざという時の為にスタンバイ」

 

ローガンは頷いたバルソクと両開きになっているエレベーターゲートの端を隙間から指をかけて掴み、タイミングを合わせて開かせる。両腕の負荷は相当なものではあるが大の男や戦術人形であればまだ対応できる重量である。

グググ……とゲートは軋みながらもゆっくりと開いていき、大きくなっていく隙間から流れてくる空気が別物のように感じているのはきっと気のせいではない。第四層になってからの重々しい空気が死臭に満ちている、地上における戦場でもここまで異質に感じたことは滅多にない。比較して上の層からのはそれが緊迫している程度という表現しか頭に上らないだけでなくどこか一息つける、戦場であるのにも拘らず気持ちのどこかで安心できそうであった。

そう過らせながらゲートを完全に開けた瞬間に416とG11はすぐに自分達の分身の銃口を死臭が流れ出る先の方に向ける。ローガンとバルソクもすぐに各々の銃器を手に持ちながら顔を覗かせてみたが、上から下へと伸びるエレベーターのワイヤーがあるぐらいで目につくほどの物は見当たらなかった。

 

「見える範囲で異常はなし、ね。これエレベーター本体になにかあったりしない?」

『モーションログの最後には『指定フロアに到達』とだけあるから、下りれずに宙ぶらりんになっているのが現状だね。無論、向こうも黙って佇んでいるんじゃなくあれこれやっているのはだろうけど』

「こっちからどうにかできる、というわけじゃなさそうだな。ただまあ、今すぐ俺たちが上の方に戻って――――――」

 

手助けすればいいだけか、と言葉を続けようとしたが突然横から誰かに飛びつかれたので口に出来なかった。不意打ちに等しいそれの衝撃に踏ん張ることもできずにローガンは倒れ、軽く地面に頭を打ち付けて視界が衝撃と共にブレる。袖を捲って露出している腕を擦ってヒリヒリとした火傷に似た痛みも感じることで不快感が増し、文句が頭の中で幾つも出てきた。

 

「おい、一体何を……!?」

 

脈絡もない唐突なことにローガンは何も考えることなく原因を見ようと頭を動かしてみると、自分の胸の中には416が飛び込んできていて自分を押し倒したのが彼女であるのは見て明らかであった。

しかし決してエレベーターの異変が起こる前のやり取りによる報復を彼女はしたわけではない。そうローガンがすぐに気付けたのは416の背が横一文字に斬られ、彼女の赤い人工血液で手を濡らしたからであった。

 

「私もバカね……身を挺して誰かを庇うだなんて……ッ!!」

「416……!」

 

視線を上げるとそこには目を血走ったようでありながらも光らせている戦術人形がいた。黒で統一された装備の中で一番目を引くのは右手にある大剣で、その切っ先は赤く染まっている。

暗闇の中で立っているその姿からローガンは死神を連想し、不吉の象徴にまで見えるその鉄血兵の名を言った。

 

「……エクスキューショナー!」

「言っただろ、ここがてめぇらの墓場だって。遠慮もなければ制約ももうない。ハンターの仇であるてめぇをここできっちり殺してやる!」

「させるかってんだ!」

 

ローガンが態勢を立て直す前にエクスキューショナーが追撃を仕掛けようとしたが、すぐさまハルカがタックルを食らわせて転倒させる。その間にローガンは覆い被さっている416を横に転がしてから自分は立ち上がり、416の『HK416』を彼女に持たせてからベストのフックを引っ張った。

 

「バルソク、援護射撃!G11は撤退する後方の安全確保だ、急げ!!」

「ハモンドは一人と撤退のルートを構築するのを手伝え!お前達二人はあたしとローガンの援護に回れ!!」

『来た道の方から鉄血兵の増援を検知。危険ではあるけど反対側の方に逃げるしかない!G11!』

「わかった!」

 

バルソクとハルカに二人の民兵が前に立ってエクスキューショナーに撃ち始めたタイミングでローガンは『AK-74』を下げてから『HK416』のストラップを肩に通す。そして一息で少女の身体を首の後ろに担ぎ上げ両腕で落とさぬように掴むと持てるだけの力でその場から退いた。

振り返る寸前に複数の銃声が鳴る方を見ればエクスキューショナーは大剣を翳して盾にし、じりじりと距離を詰めようとして来ている、わけでもなかった。むしろ自分から後退しエレベーターゲートの方に向かっているようにも感じるぐらい、一歩一歩着実に足を動かしているようにも見える。

 

「いいぞマスター、私達も適当に切り上げるからさっさと……!」

「いいのか、このまま退いてしまって?」

 

銃声を合間を縫ってエクスキューショナーの声を耳にした瞬間、背筋だけでなく聴覚の神経系を通じて脳にまで悪寒が走った。比喩ではなく言葉の通りに。空っぽになっている胃の奥底に直接氷を落とし込まれた、なんて表現が生易しいぐらいだ。それほどまでにエクスキューショナーが何をしようとしているのか、すぐにわかってしまったのである。

それはハルカも同じだったようで、すぐに突撃銃のは発砲を続けながらも突貫を開始した。

 

「待てやめろぉ!!」

「遅い」

 

バツンッ!といとも簡単にエレベーターのワイヤーが切断される。ローガンは近年のエレベーターの機構を理解しているわけではないが、弛むことなく張られたワイヤーが重要な役割を担っているのは直感で理解できる。

大剣でワイヤーを切断したエクスキューショナーは身を翻して接近してきたハルカに勢いを殺すことなく蹴りを繰り出す。鉄血兵のハイエンドモデルの一体、その肩書きに相違ないまでに威力があるのはすぐに見て取れた。

だがハルカはそれを大人しく食らう人間ではない。彼女とて一つの戦闘集団を纏めてあげて先頭に立ち続けている、戦場で腕を叩き上げてきたとされる一人の兵士だ。

無駄のない動きで屈み頭部だけでなく首諸共狩り取る勢いであった回し蹴りを回避。装填している弾倉が空になったからかアサルトライフルを手放すと拳を打ち出して接近戦に持ち込んだ。エクスキューショナーの得物は言うまでもなく手に握られている黒塗りの大剣でありそれは長物だ。距離を取るのではなく間合いを詰めて振りにくく決定打を与えられないようにする、ローガンから見ても他人の援護を振り切ってといるいう一点を除いていい判断だと思う。顔面に繰り出されたそれは避けられたが、こうなることを予測していたかのように両腕で首を抱え込んでエクスキューショナーの足を踵で一息に蹴って浮かした。このままいけばすぐに地面に組み伏すことはできる。

しかし忘れてはならない。相手は人間とはかけ離れた身体能力を持つ機械仕掛けの人形、その中でのトップクラスの性能を持っていることを。

 

「舐めるなぁ!!」

 

転倒こそすれどすぐさまハルカを片腕だけで熨せるのは戦術人形であるからだろう。本来人間であればそんなことなどできずに組み伏せられて何もできずにいた筈ではあるが、その道理は戦術人形に必ず通用するわけではない。

エクスキューショナーの怪力によって引き剥がされたハルカは背を地面につけるよりも先に体を回転させて両の足で着地、そしてホルスターから拳銃を引き抜いた。

それと寸分違わず、黒の戦術人形の背後から金切り音が聞こえてきた。ガギャギャギャギャギャギャギャギャ!!と火花を散らしながら人の丈以上の高さがある金属の何かが下降していったのを認知した途端、ズンッ!!と巨大な何かが落下した音と同時に振動が僅かに足に伝わって来た。

 

「カゴ一杯の人肉のミンチ、一丁上がりってな。これでどれだけの死にぞこないどもを引き寄せられるのか、少し試してみたくもなるな」

「ふざ、けてんのかてめぇ!人の事を実験道具みたいに言ってんじゃねぇ!!」

人間(おまえたち)だって自分達が病原体に蝕まれ死なないようマウスのような動物を使ってきただろうが。さも自分達は許されるような口をきいてんじゃねぇ!!」

 

今度はエクスキューショナーが接近し、現時点でこの場にて最も相対しているといえるハルカに身の丈の剣を振りかぶる。頭部から股にまでかけて両断するよう、大根切りをするのと同様にエクスキューショナーが自身の頭の上に構えた。

 

「そんなつまらないリズムを刻ませてたまるかってんだクソが!!」

 

416を担いでいるローガンに代わってバルソクが動く。死神の鎌と同一の役割を果たそうとしていた武器の軌道を『AEK-999』の銃床で殴って逸らし、あと一秒遅ければもう一人の命を散らされていた未来を潰した。

ガァンッ!!と切っ先がアスファルトの地面を切り裂いては砕き、小石サイズになったそれを撒き散らす。それには目をくれずにバルソクは割って入った状態からすぐに反撃に転じ銃口をエクスキューショナーへと向けるが、敵もすぐに巨大な片手で掴んで自分から逸らしながら引き寄せる。自分の銃が奪われるわけにはいかないのでグリップを掴んだままになるが、こうなった以上は両手で持っている必要はない。

グリップを握っていない右手を腰に伸ばせばそこにある物として届くのに『PP-19 BATON』があるが、接近戦では銃よりも早い武器があることを体を持って知った彼女は別のそれに手を伸ばす。ローガンが持っているのとあまりサイズが変わらないサバイバルナイフを逆手で引き抜いたバルソクは薙ぐようにしてエクスキューショナーの首元に目掛けて振った。が、大剣を垂直に突き立てられて防がれる。

必然的に二人は額が触れるほど近くで睨み合う形になる。無論、両者とも膠着しているように見えて力比べをしている状態だ。どちらかが何かのきっかけを持てばこの均衡が崩れることになるが、ローガンだけでなくハルカと民兵二人のいる位置が悪い。援護するべく回りこむこともできるだろうが、敵増援が迫ってきているのだからここで決着をつけれるだけの時間があるのか怪しい。

 

「どいてろ時代遅れ!オレ達よりも十歩は離れている玩具で立ちふさがっているんじゃねぇ!!」

「そんなんで立ってはいけないことになるわけねえだろうが!ワタシが戦えばビートを刻む隊の皆やマスターを守れる、それだけで十分だ!!」

「借物の理由を堂々と言ってんじゃねぇ反吐が出る!」

「違うな、これはワタシがここで戦う『存在理由』だっ!!」

 

一瞬だけ頭を引っ込めたかと思うと、その分を頭突きの威力の増強に換算させた。ゴッ!と鈍い音を響かせたバルソクはよろめいたエクスキューショナーの腹を蹴って距離を置かせてナイフを投擲する。そのナイフは残念ながら急所に命中することなく弾かれたがバルソクにはそれだけでも十分だったのかもしれない。おかげで『AEK-999』の代わりに『PP-19 BATON』を掴んでの射撃体勢に移行でき、次の攻撃手段を行使する準備に入れた。

フリーになった右手が次にどこに伸びたかを確認し、そしてそこに何があるのか思い出したローガンは叫んだ。

 

「急いで退け!このままじゃ俺達が邪魔になる!バルソク、スリーカウントだ!!」

「オーケーマスター!スリー―――!」

 

右手に握られた『それ』を目にしたハルカや民兵達も察したのか、すぐさま退避を開始する。バルソクもサブマシンガンで発砲しながらゆっくりと後退しているのを見てからローガンもハルカ達が出てから自分も小部屋から退けるようにポジションを得て、右手で握った『P226』をエクスキューショナーへと向けた。

 

「ツー―――!」

 

数度引き金を引いて足止め、並びにバルソクが弾倉のリロードができるだけの時間を稼ぐ。時間としては本当に一秒、それ以内にまた戦闘が継続できるだけの態勢を整えれたバルソクがまた口を開いて銃声に負けないほどの大声を響かせた。

 

「ワン―――!」

 

セーフティをかけぬまま『P226』をホルスターに戻すのと、バルソクが手に持っている物のピンが地面に落ちたのは同時だった。ローガンは出入口に数歩で到達してから手の届く距離にいるバルソクの肩を掴んで引き寄せる。最後に小部屋の中を見た時には『それ』が投じられ、構えを解いた敵リーダーの目線がそれに奪われていた。

 

「ゼロ!!」

 

そう耳にした途端、すぐに爆発が起きて小部屋の中に爆炎が生まれた。ドガァンッ!!と爆音までもが轟いて狭い一つの空間を支配し破壊する。

フラググレネードとは爆弾のように火薬を爆発させるのではなく破片を撒き散らし敵を纏めて片付ける武器の一種だ。地下に進入する前に地上でバルソクがローガンと一緒に鉄血の敵部隊を殲滅するのに使ったのがそうだ。そして今回、バルソクは通常の銃火器だけでは埒が明かないとして使用に踏み切った。本来ならそうすべきではないのだろうが、状況が状況なだけに仕方ないとローガンは思う。あのままではいずれはエクスキューショナーの凶刃に全員が倒れることになるのは時間の問題であっただろうから。

 

「げほっ……バルソク、無事か?」

「ああ、なんとかな。今回ばかりはワタシも勲章ものじゃないか?」

「帰ったら他よりも一杯多く奢ってやる。ていうか俺と動きを合わせれているお前を他に寄越すのが惜しくなってきたぞ」

「へへっ、それは今のワタシにとっての最高のメロディだぜマスター!」

 

にかっと笑うバルソクと拳を打ち合わせると、銃声が鳴りすぐ近くに銃弾が着弾する。バルソクとすかさず身を屈めて鳴った方に視線を動かすと来た道から複数の鉄血兵が進軍してきていた。

ローガンがバルソクの背を叩くと彼女はニヤリと頷いて『AEK-999』を構えて撃ち出す。ローガンは耳元の無線機に手を当てながら言った。

 

「ガイドを頼むぞオアシス!お前が俺達の道標になってルートを指示してくれ!」

『了解!』

 

真っ向から相手に出来るほどこちらには戦力が残されていないとして、ローガンは腰に下げているスモークグレネードを手に取るとピンを抜いて投擲する。一つだけでなく二つ目も投げて敵の視線を主に遮らせた。既に交戦状態にあったG11とハモンドであったが、完全にスモークが満ちたところで撤退すべく行動を開始。民兵全員とハモンドだけでなくハルカも煙の中にフラグを投じてから背を向けて走り出し、進行方向側に先行し始めた。時折後方にいるこちらの方を確認しながらG11は彼らに続き、バルソクはローガンの後ろで殿につく。

意識が朦朧としているらしい416にローガンは言った。

 

「頑張れよ416。お前がここで戦えない分、俺達が踏ん張るからこんなところで死ぬんじゃねえぞ。俺を守ってくれたことの礼だって言わなきゃならねえんだからな……!」

 

失ったものはあった。だが得られたものも確かにある。

返ってこなくなったことによる重みこそ尋常ではなく無視することなど到底できない。それでも同じぐらい手の内に収まってくれたものによる温かさは何物にも代え難く、失くしたくないととても強く思える。

互いの生存と目的達成を賭けた『闘争』はまだ終わったわけではないが、また一歩として前進できたのは間違いなかった。

 

「絶対に負けてたまるかよ。煉獄だろうがなんだろうが知ったことじゃねえ、何をしてでも全員で生きて帰ってやるさ」




戦闘に入った瞬間に執筆速度が倍になる、というのは他の作品の後書きでも書いてあったりするのですが、今回に至っては私もそうでした。
ていうかバルソクの口調が荒々しくて原作と違うと感じたのであればごめんなさい。でも彼女ってああいったビジュアルだしブチ切れたらそう言ってもおかしくないじゃないですか。バルソクは『かわいい』と『かっこいい』がいい塩梅で共存しているキャラだと私は思うので、音楽を絡めながらも奮闘する姿を書いてみたかったのです。……いいでしょ、別に。
これから先も彼女を関わらせていくわけですが、今回よりも彼女の良い所を書きたいと思います。実際の所、バイクのスキンを知っている方ならわかるでしょうけどマジでかっこいいんですよ彼女。
それとこの間、ようやくというかなんというかアバカンこと『AN94』を迎えることが出来ました。Twitterでの報告を見た方は『朝からなにやってんだこいつ、頭おかしいんじゃね?』て思われているでしょうけど、実際歯を磨きながらの寝起きで、日課としていた『寝起きデイリー』をこなしている最中にあったことだったのであんなんになってたんです。おかげで二度見からの眠気が吹き飛び、目が冴えてから即座にスクショ。快速使って建造、すぐに戦力に組み込みました。今後も頼むぜアバカン。
てなわけで今回はこの辺で。今後ともよろしくお願いします――――――

『AK12を迎えれていない友人から殴られたのはここだけの秘密』
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