誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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ぶるるぅ……


50.闘争と隠忍 -To survive, to withstand-

先導しているハルカとハモンドがまた発砲し、何体目かわからないE.L.I.Dを排除する。止まることなく進む彼らに続いてローガンも走り続け、足元に転がっている死体を跨いでさらに奥へと身を投じる民兵達を追った。

G11が負傷した416を担いでいるこちらと後方の警戒に当たっているバルソクの代わりに周囲に目を配っているので任せ、ローガンは負傷者を落とすことがないように気を付ける。息も上がってきて疲労が蓄積されて足がもつれてしまいそうになるのも一度や二度ではなく、転んでしまうかと思ったのは片手で数えれるのかどうかが怪しい。

 

『そこの分かれ道を右……あぁ駄目だ取り消し!その先に鉄血兵が何かと交戦している、おそらくE.L.I.Dだ!!』

「ハモンド、左手に進め!右の方は連中が潰し合っているからアウトだってよ!わかったらさっさとお前の俊足を活かして先行しろ!」

「くそったれ、遠回りに遠回りを重ねられているみたいで腹が立ってきやがる!どこまで行けばオレらはここからとんずらできるんだ!!」

『聞こえはしないから言うけどさっさと行けよスカポンタン!文句ばっかりを口にする暇があったら人間性を磨けってんだよがきんちょ!!』

 

線路が敷かれているトンネルを進んだ先にあるのはレバーを左右のどちらかに倒すことで地下鉄の進行方向が変更される分かれ道。オアシスの指示に従った二人が進行していく方にローガンも走りながら後ろに付いているバルソクに聞いた。

 

「バルソク、奴らは来ているか!?」

「ばっちりとブルートが追いかけて来てる!まだ距離はあるがこのままじゃ時間の問題だぞ!」

 

その報告にローガンは舌打ちをする。どこかで捲き次第、重傷を負っている416の応急処置に移りたいのだが、後方から鉄血兵の中で動きがハイエンドモデル並みに俊敏であるブルートが追跡してきている以上はできない。敵の頭数もこちらよりも倍であるので、交戦しようにも不利な状況下であるのを承知で戦わなければならないのは必然。それだけでなくこの地下空間では神出鬼没である『崩壊液』の被爆者の奇襲を常に警戒しなければならないので得策ではなかった。

 

「オアシス、ここのシステムに干渉してシャッターを閉じるなりして振り切るなんてことはできないのか!?」

『通電していれば可能ではあったけど非常電源も繋がっていないからできないよ!ていうかここの管制システムは独立しているからどうしても遅延(ラグ)や誤作動も起こりえる!民間のシステムは軍用のと違ってずっとデリケートなんだし急速かつ無理に動かせば悪手になっちゃうよ!』

「ちくしょうめ!バルソクは奴らから目を離すな、G11は継続して俺とバルソクの警戒役を専任していてくれ!」

 

G11からの返答はなかったが、断末魔に近しい叫び声をあげて襲い掛かって来た死者を撃ち抜いて応えてみせた。彼女とていつも416に喧しく小言を言われている立場ではあるが、さすがに同じ部隊の人形を失うのは思うことがあるらしい。ちらちらとローガンから少し外れている方に視線を配らせてはすぐに周囲に意識を戻したりと、せわしないにしてもほどがあるぐらいだった。

416から流れてきている人工血液が彼女の背から服、そしてローガンに伝って赤い斑点を築いていく。戦術人形は人間よりも簡単に死ぬことはないが、416が受けたエクスキューショナーの凶刃は間違いなく致命傷であることは間違いない。四肢が取れようと部品の幾つかが無くなろうとも生きていきていられる彼女達ではあるが、それでも焦りを覚えずにはいられない。耳に聞こえてくる息遣いも何もかもが苦しそうで、戦術人形などという存在を『物』として見ていないローガンからすれば自分と同じ『人間』を助けようとしているのと同じであった。

 

「頑張ってくれよ……!!」

 

ローガンの呼び掛けに言葉を返すことのないことはわかってはいるが、尊く思える存在の一人が危うい状態になっていることから口にせずにはいられなかった。

心を蝕んでくる焦燥感との格闘が始まってしばらくになるが、そのひとり相撲の終わりはまだ見えてこない。息が上がって苦しくなり喉もカラカラになってくるだけでなく、追撃を仕掛けようとして来る鉄血兵に対し憤りも覚えてきた。

片手に持つ『P226』でハモンドに食らいつこうとしていたE.L.I.Dの頭を八つ当たりの気持ちを混ぜて撃ち抜いて排除。死角に入りこまれていたことに驚く彼に言った。

 

「礼はいい、急げ!」

 

今自分達が欲しているのは距離と安全な場所。そして応急処置を施せるだけの時間だ。

そう無意識に認識しているのを己で理解しながら、ローガンはまだ自分達のリーダーに追随している民兵の一人に接近していた死者の足を撃って転倒、放置し空になった弾倉を捨てる。スライドを咥えてからフリーになった右手で新しいそれをポーチから取り出しグリップの内側に入れる。そしてまた手の内に戻すとロックを解除して次の射撃を可能としていると、バルソクが『PP-19 BATON』を後方に向けて発砲した。

ダラララララララララララララッ!!という銃声に振り返れば複数体のブルートがもうすぐそこにまで迫ってきていた。足の速さ云々を置いても当然であるが、道を切り開いているこちらに対し敵方は同じ道を辿っている自分達を追跡すればいいだけ。こうなるのも必然だった。

 

「ハルカ、手を貸してくれ!!」

「任せろ!ハモンド、お前は前方から来る連中を相手しろ!」

 

ハモンドと先頭を走っていたハルカがハモンドではない別の部下と後方から迫って来たブルートの迎撃に入る。ローガンはまともに戦闘が出来ない状態であるので手に持っている拳銃による援護しかできないので、ブルートの相手は任せるしかない。だがハルカに民兵一人、先制攻撃を仕掛けたバルソクと加勢したG11では捌ききれない頭数を相手にしなければならないにしても敗北は目に見えている。せいぜい犠牲ありきの時間稼ぎができればいいところだ。

 

(どうする、このままじゃ全滅は免れねえ。416は投げ出せない、ハルカ達にG11とバルソクは交戦、ハモンドの奴は他の民兵の連中とE.L.I.Dを追い払ってる……駄目だ、このままじゃ全員死ぬ。こっちの人数だけじゃなく戦力も火力も装備も何もかもが足りなさすぎる!全員がベストを尽くしてはいるがここまでの道のりがあまりにも酷いんだ!どうすれば犠牲なく突破できる!?こんな暗がりで俺だって死ぬのはごめんだし誰も死なせたくねえ!どうすればいいってんだよ!?)

 

苦悩したままローガンはバルソクを他と囲い込もうとしていたブルートに『P226』を連射してダウンさせる。続いてハルカにナイフを突き立てようとしていた個体の頭部にも発砲し隙を作ってから、かすり傷を負わされた彼女の部下に止めを刺そうとしていた敵にも銃弾をお見舞いする。そして単独で善戦しているG11に同時攻撃を仕掛けようとしていた二体のうちの片方を仕留めた。ここだけでキル数が三、アシストが一である。

しかしここまでやってもまだ終わりではない。

次から次へと接近型の鉄血兵は現れては襲い掛かってくる。次第にローガンの方にも直接攻撃をしようとしてくるのもいるぐらいで、それらを牽制するのに精一杯になっても来た。

 

「害虫が次から次へと湧いてきやがって!」

「ぐっ!?クソが、調子に乗るんじゃねえぞ!!」

 

口汚く敵を罵るバルソクとハルカを諌める暇だってもう皆無だ。戦闘で使えるのは銃を握っている片手に両脚だけで、CQCのような格闘術を満足に使うことなど到底できない。 それにあまりに動きを大きくして立ち回ってしまうと416を振り落してしまいかねない。

一体の刺突を身を逸らして脇の方に抜けさせ、ナイフを握ったその腕とを絡めるようにして至近距離から発砲する。胸部に致命傷レベルの弾丸を食らったそのブルートの次に襲い掛かる個体が同じ方向から接近してくるのを視認。すかさず仕留めたばかりの鉄血兵を前方に押しやって敵にとっての障害物にすることで接近を遅らせ、怯んだところにまた銃弾を叩きこんだ。さらに跳躍することで距離を一気に縮めて強襲してくるのもいる。おおよその落下地点はちょうど今、ローガンが立っている地点だ。

 

「ちぃ!!」

 

回避どころか受け流しも間に合わないと判断し、ローガンは416だけでも攻撃からの危険性から遠ざけようと片脚を後方に退いて半身になる。大体の敵が着地するのに合わせて振るわれる凶器が同じく鈍器と同じく繰り出されたローガンの『P226』とぶつかり合って火花を散らした。ギリリリリリリリリリリリッ!と耳障りな音がブルートの刃と『P226』のスライドが鳴らした瞬間、弾けた。

力比べというわけではないが、単純に重力まで加わった敵の一撃のほうに分があった。ローガンの拳銃は手元を離れて転がっていき、こちらは素手となる。こちらが扱うナイフであれば折れてしまいかねない、少なくとも刃こぼれもしてしまいかねないというのに敵の刃にはそんな様子は全然見られない。

テクノロジーによるレベルの違いがここでも出ていることにローガンは歯噛みしたがそれを悠長にしている時間は与えないとばかりに対峙しているブルートが追撃を仕掛けてきた。

 

「ローガンッ!」

 

視界の端でG11がこちらの状況に気付いて援護をしようとしていたが、今度はE.L.I.Dに襲い掛かられてまた手一杯に陥っている。乱戦状態になってきているのが吉と出るか凶となるかは置いといて、目の前のブルートは他の武器を取り出させまいと連撃を仕掛けてくるので対処に移行した。薙ぎ払いに振り下ろし、それらを全て紙一重でなんとか避けていたつもりだったが、頬に鋭い熱が走ったのでついに掠めたのだと知覚する。さらには腕や野戦服にも亀裂が生じたかのようになったが、十分に敵を引き寄せることが出来た。

再度振りかぶったところで蹴り上げるようにして片脚を突き出すと命中し、敵は僅かながら後退し自分達からすれば貴重な時間が生まれた。

フリーになっていた右手を腰の方に伸ばすことで指先に触れれたのはナイフの柄。それを握ってから一気に引き抜くと手の内で回転させて刃の方を指で挟み込み、目の前のブルートに向けて投擲した。視覚ユニットがあるゴーグルに刺さったことで沈黙し仰向けに倒れてくれたものの、ローガンにも自我が無いようにしか思えない被爆者が大口を開けてくる。

すかさず予備のナイフを逆手に抜いて臨戦態勢に移行しようとしたが、万全の態勢ではないままの連続の対処で息切れが酷くなってきている。

 

「ぐ……がぁ!」

 

気合で襲撃してきたE.L.I.Dの首を一度蹴って怯ませてから刎ね、その頭をその場で転がしたが絶え間なくまた次がかぎ爪を振り下ろそうとしてくる。それをナイフの刃で防いだが、組みつこうとしてくるのまでを阻止しきれなかった。知らないうちに壁際にまで追い込まれ、背をそこにつけながらの押し合いになる。火事場の馬鹿力でなんとか耐えているが、相手方に体重をかけられるハンデが与えられているので長くは持ちこたえられそうになかった。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

「生憎だが死体に組みつかれても嬉しく思わねえんだよ……!!」

 

本物の狂犬を彷彿とさせるように繰り返し歯を打ち鳴らしてくるE.L.I.Dに生命の危機以外の嫌悪感が湧いてくる。腐臭が鼻を突いてこちらの嗅覚そのものを腐らせようとしてきてもいるようであり、それでじわじわ蝕まれている気がするのは大袈裟ではないだろう。加えて腐肉特有の感触がナイフと共に防御の手段として突き出した足がつっかえ棒としての役割を果たしながらその感覚を伝わって来た。

言葉などはない生理的嫌悪が押し寄せてきてたせいでどれだけの時間が流れたのかはわからない。生命の危機であったことから必死になっていて時間という概念すら頭から飛んでいたのだし、同じ理由から周囲の状況がどうなっているかなどの把握が全くといって良いほどできていなかった。

ましてや、それが悪しき方向に大きく動いていたことだってすぐにわからなかった。

それの始まりがなんだったのかはわからない。ただローガンが気付いた時には地響きが大きくなって地震が起きたのだと錯覚してしまうほどであった。異変に気付いたのとほぼほぼ同時にローガンの眼前にいたE.L.I.Dの頭蓋が肉片を撒き散らして吹き飛んで楽になった。

 

「マスター、急いでくれ早く!!」

 

バルソクが助けてくれたらしくローガンの『P226』を手渡してくる。銃口から硝煙が立ち上るそれを受け取りながら周囲に目を配らせれば鉄血兵とE.L.I.Dの大半が自分達ではない方へと注意が逸れていた。ローガンもその方向へと視線を動かそうとしたが、その前にバルソクが背を押して来たので元凶が何かを知ることは適わなかった。

 

「なんだ、一体何が起こってる!?」

「簡単に言えばあのデカい変異体が来てるんだよ!こんなところで戦うことになったらワタシ達の全滅は免れない、そうだろ!?」

「マジかよ……!?」

 

バルソクはこういった状況で冗談をいう性格ではないので虚実を突きつけられているわけではない。それを証明するように彼女と同じく敵と交戦していたG11にハルカと彼女の部下が同じく走っているのだから疑う余地などない。

既にスタミナが底をついているようなものであったが、身の毛がよだつ恐怖に背を押されているのもあってローガンはまた走り出す。ハモンド達も状況を把握しているようでローガン達に倣って来たのとは逆方向に駆け始めた。彼らに追い付いてから一間置き、後方から肉が潰れる音やコンクリートが砕ける音が聞こえてくる。それらをここで立てられる存在などは思いつく限りではバルソクが言うE.L.I.D変異体しかいないので、エクスキューショナーやアッシュのようなハイエンドモデルよりも厄介な敵に遭遇してしまった、ということだ。

 

「誰か後ろを振り返って追手の確認ができる奴がいるか!?」

「無茶言うな、必要なことでも勇気がいる行動だぞそれ!」

「大丈夫、まだ足元の雑魚共に気を取られてる!今だったらまだ……!」

 

G11が言い終わるよりも先に後方の戦闘音が止んで変異体のものらしき唸り声が聞こえてくる。嫌な予感がそこで沸き上がったがこれはローガンだけではないだろう。G11が無慈悲な現実を告げるよりも先に咆哮が轟いた。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

「気付かれた、来る!!」

「走れ走れぇ!死ぬ気で走れぇええええええええええええええええええええ!!」

 

ハルカの号令が発せられる以前からローガンとしては全力疾走に近いのだが、最もな危機的状況が現実となってしまった以上は文句を言う暇など皆無だ。口を動かすよりも手を、ではなく足を全力の倍だけ働かせて逃げ切るつもりで疾走した。

ダガァンダガァンッ!!と銃声とは違う地響きまでもが追手として迫って来るのを本能のままに感じながら前を走る者達に追従する。が、やはりというべきか大差ある体躯による歩幅の違いがある時点で分が悪かった。振り返るまでもなく予想していたよりも早く接近してきてるのが体感でわかる。

 

「どうする、このままじゃ追い付かれるぞ!」

「くそ、敵のライブを中断させる手段としてフラッシュバンでも持ってくればよかった!」

 

今更ながら今回の持ち物に閃光手榴弾(フラッシュバン)を加えなかったことをローガンも嘆かわしく思うがないものねだりでしかない。ローガンが持ち出している投擲物はスモークグレネードだけで今回は他の類似品は持って来ていない。投擲物ではないが、強いていうならC4ぐらいしか他に持って来ていない。

昨日の自分を呪っているとハモンドがローガンよりも後方を一瞬見てから叫んだ。

 

「この暗がりでなんですぐにこっちの居場所が分かるんだ!光源があるからとしても、奴らの視力は『崩壊液』の影響で……!」

『変異体がどの方向性で変異したのかはわからないけど、目を失った人間の聴覚が一段と鋭くなるのと同じで足音を聞きつけてるかもしれない。それか光のない世界で生き続けて独特の進化を遂げた深海魚に似通ってる可能性もある!いずれにしてもこのままじゃマズイ、なにか手を打たないと!奴らは熊なんてものじゃない本当の化け物だよ!!』

 

オアシスの言う通り、速攻で策を講じなければデッドエンドは間違いない。ここで闇雲に逃げようとしてもいずれはこちらの体力が尽きる、それ以前に追い付かれて一掃されてしまいかねないからだ。

 

「仕方ない、一か八かだ……!」

 

そうハルカは呟くと何かを懐から取り出した。HUDで明暗調整がされてはいるがこちらに背を向けているので彼女が一体何をしようとしているのかはわからない。

何をどうするのか詳細までを問う事はしないのでこの状況をどうにかできるのであればなんでもいい。ローガンは両手を使えないことからここは自分以外の誰かに期待するしかできないので、ハルカが考えていることに望みをかけるしかない。

 

「早くしてくれハルカ!このままじゃ犠牲が出る!!」

「わかってる!走りながらなんだし少し時間をくれ!!」

 

ここで時間稼ぎを頼まないことから彼女も銃弾をただ浴びせることは焼け石に水であることを理解していることでもある。見上げなければ変異体の頭部を見られないぐらい巨体であることから、変異レベルは恐らく正規軍でも相手をするのを手を大いに焼くぐらい。噂で聞く最新式のレールキャノンを主砲として積まれた戦車でも打ち倒せるかどうかが怪しく思える。

暫定しただけの根拠も何もない予想だが、そんなE.L.I.D変異体を相手に何をするつもりなのか?

一瞬だけそう思考を過らせた瞬間、並走していたバルソクに突然引っ張られる。そうされた後にG11にも支えられていたので転びはなんとかしなかったものの、何故唐突にそうしたのか。そんな疑問はすぐに解消された。

ズンッ!!とローガンの走行ルート上に巨大な拳が振り下ろされたからである。土気色のそれが何のものであるかなど言うまでもない。

 

「速すぎる、もう追いつかれた!」

「バルソク、俺のポーチからスモークを取って使え!やれるだけ手を尽くすしかない!」

「了解だ!」

 

だがここまで距離を詰められたことは逆手にも取れる。攪乱すべくバルソクに指示したローガンは腰のグレネードポーチから抜き取られながら別のE.L.I.Dが接近してきているのを見た。そしてそれが生存者である自分達ではなく背後にいる変異体の方にまっすぐ向かって行ったことも。

「スモーク行くぞ!」

 

グシャリッ!!と骨などに肉体構造を司っているなにもかもがミンチになった音を背中で聴き取ったところで、バルソクが前方にグレネードを投じた。バンッ!!と缶が破裂した音と共に灰色のスモークが展開される。閉鎖空間であるこの空間内であれば煙は広く拡散することがないので背丈があっても意味がない。

煙の中を脱してからローガンはさらにスモークを展開すべく自分も一つ取り出しながらバルソクだけでなくG11にも言った。

 

「三人で同時展開だ!もう数的に多くないだろうが出し惜しみするだけ無駄だろうし気負う必要はねえぞ!!」

「まあそうなるよね。一つだけじゃ不安だらけだし!」

「それじゃあ拝借拝借っと!」

 

ピンの輪に歯を引っ掛けて一息に抜くと足元に転がす。それがまた自分達にとっての隠れ蓑が構築され、さらには一寸先とその先にも同じく束の間のトンネルが出来上がった。

最後の一つを手元に残していながら突き進み、少し咳き込んだりして息苦しくなるのに拍車がかかったがこればかりは仕方ない。

 

「気持ち距離を稼げたとは思うがこれも時間の問題だぞ!」

「もう十分だ!ハモンド、あたしが合図を出したらこいつをそっちの壁に設置しろ!できるだけ高く、あたしのと対称の位置にだ、わかったな!?」

「御託を並べてもやらせるだろ!?まぁ喜んで手伝わせてもらうがなぁ!!」

 

ハルカと何かを受け取ったハモンドの間に何かが垂れ下がっているのが見えた。その二人が意図的に走行のペースを緩めて後方に、ローガン達と並ぶ。そして民兵のリーダーである彼女はこちら見ながら言った。

 

「あんた達はそのまま走ってていい!ただこの後は爆竹を鳴らすからそのつもりでいてくれよ!」

「爆竹……!?」

 

手元を見てみれば鼠色の粘土のようなのに爆薬がつけられており、ハモンドの手にもほぼほぼ同じ物がありワイヤーのようなので繋げられている。一体それが何なのか考えているとローガンを起点に近距離スキャンを常に行っているオアシスが少しばかりわかったらしい。

 

『爆薬はC4のような起爆の操作を必要とするものでなく、罠として用いる指向性爆薬に近いね……だけど起爆スイッチにしているそれって……?』

「説明は後だ、行け!!」

 

スモークの効果がなくなったらしく、再度地震と誤認してしまうだけの震動が響いて来た。その場で地団駄を踏んでリズムが不安定のものではなく、それが大体の一定間隔で刻まれて大きくなっていることからまた死の象徴たる存在がまた近付いているのが見なくてもわかる。ハルカは迫って来ている変異体を主に見てタイミングを測っている様子である。無論こちらに目をくれないE.L.I.Dが群れを成しながら変異体の方になだれ込んでいる事から別の敵に引っ掛けられてしまわぬように注意せねばなるまい。ハルカの我慢と注意、そして見極めが試されるこの状況。ローガンもほんの一時的に来た道の方を見た。

人混みを掻き分ける、という表現が当てはまるぐらいに両腕で足元の『死者』という枠組みだけで収まっているE.L.I.Dを薙ぎ払ってはいるが、顔がずっとこちらに向けられていることから虐殺のターゲットとしてされている。ファンタジーの創作物における巨人を彷彿とさせるその巨体が既視感のある体勢になった瞬間、ローガンの背に悪寒が走った。

 

「ハルカぁ!!」

「まだだ!まだもう少し……!!」

 

ドガッドガッ!!と最大震動で猛スピードによるタックルが迫ってきたこと、ローガンは反射的に協力者の名を叫んでいた。身を丸めて迫って来る変異体に対しての純粋な恐怖にローガンはさらに加速しようとは思うがすでに限界値に達している。これまでの人生の中でもトップクラスの生命の危機、それも目に見えているのだから何よりも恐ろしい。

ローガンだけでなくバルソク、G11でさえも各々が不安を口にしている。

 

「おいおい、このままじゃワタシ達も死にぞこないになってしまった人達の仲間入りだぞ……!!」

「何をするかは少しわかるけど、こうコアに過負荷をかけてくるのは戴けないんだけど……!」

 

なにを言おうとしてもハルカは聞く耳を持たない、いや持てないだろう。全神経を最善としてとったカウンターのタイミングに向けているようなので三人して喚き散らかしても無意味だ。

 

「―――ハモンド、今だ!」

「……!!」

 

そして示し合わされていた合図が発せられ、二人はほぼ同時に左右に分かれて手に持っていた罠を投じた。ローガンがハモンドに投じられた罠を目で追って行くと、それは壁についた途端に吸着しピンッと線を張る。余分だった分が爆薬装置内の機構により自動で巻き取られたらしく、形だけ見れば戦場で見るブービートラップが出来上がった。

 

「弾けろっ!!」

 

ハルカがそう言った瞬間、出来上がったばかりの罠に気付かずに突貫してきていた変異体が引っかかって起爆する。その瞬間、ローガンの目にはそのワイヤーが光って爆発したように見えた。

 

『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

ドドドドドドドドンッ!!と爆発が連鎖し、真紅の炎が変異体そのものの足元から頭部へと爆炎が立ち上って覆いつくした。体感ではあるが、対人で使うどころか戦車を標的にしたRPGと同等と思うぐらいも炸薬量は多い。

それだけの爆薬をここで使用すれば予期せぬ弊害が生じることがある。今回の場合だと、スレッジハンマーか何かで衝撃を与えれば崩れてしまうのではないかと危惧しているこの地下空間がそうだ。風化してひび割れているのが目に見えているというのに、爆薬などをなんの考えなしに使えばどうなるかなど想像は難しくない。

変異体が苦痛でもがき苦しむ中ですぐにその予兆は現れた。

 

「また崩れるぞ!」

「今日で何回目だってんだこれ!必死こいて走るのもそろそろ限界だぞ!」

「まだ二回目だ!それぐらいで根を上げてるようじゃ生き残れないぞおい!!」

「そういう意味で言ってるんじゃねぇえええええええええええええええ!!」

 

鉄血兵の次はE.L.I.D、そして最後は土と瓦礫などによる追跡劇が始まったことにローガンは絶叫しながら走る。とうの昔に体中が酸素と水分を欲していて叶う事ならここで立ち止まってしまいたいが、この状況が休憩することを許してくれない。

ガラガラという崩壊音が追ってきているのを感じながら全力疾走を続けていると次のプラットフォームに到達する。敵影はないが終着駅らしく線路は終わっているので行き止まりだった。

 

「方向はどっちだオアシス!?」

『プラットフォームのエスカレーター!だから行ってすぐ右だよ!』

「よりにもよってそっちか!バルソク、G11はアシストを頼むぞ!」

 

ローガンはそう言いながら担いでいる416をプラットフォームの昇降口に乗せると、先に上ったバルソクが代わって同じようにして担いだ。G11が貸してくれた手を掴んでローガンもプラットフォームに上がってからハルカ達の方を確認すると彼女達も問題なく上れたらしい。すぐに駆け出したので三人そろって続いた。

 

『非常電源を起動してパスを繋げ直して、旧式の監視カメラに接続してっと……大丈夫、上のフロアに鉄血もE.L.I.Dもいない!』

 

進行可能ということで全員で稼働していない階段を駆け上がっては念のために敵の有無の確認をする。周囲に敵はいない、尚且つ崩壊の手はここまで伸びてこないことを確かめて一息つく、などせずにすぐに次の行動に移した。

 

「はぁ……416を……!」

「ああ……しっかりしろ……!」

 

息絶え絶えになりながらローガンはバルソクにその場で416を横たえさせると自分は救急キットを彼女の持ち物から取り出す。電源を入れるだけで自動展開したそれは負傷者として認定した416の容態をスキャンし処置レベルを表示。応急処置としての必要なそれが表記されているが最後には『指令部に第三級修復措置を申請・報告せよ』とあった。

 

「バルソクはG11と416の処置を。俺はハリーに報告する……」

「わかった、任せろ。G11、裂傷の処置を手伝ってくれ!お前さんから見てキットの指示以外で必要な措置はありそうか?」

「……うん、傷は深いけどコアとか重要機関が深刻なほど傷ついているわけじゃない。でも機関部の冷却液と人工血液が漏れてしまっているからそこだけは処置しよう」

 

二人が仕事を開始するのを横目にローガンは壁に背を預けて身体を支える。数日分の活力までも出し切った気分で脱力しそうになったが無線機に手を当てて言った。

 

「プロフェット、こちらアルファリーダー……アルファ2が負傷し戦闘続行が不可能な容態になっている。今現在は作戦区域からの離脱を行っているので戻り次第、第三級修復措置を行えるよう準備を要請する……」

 

息を整えながらなんとか言い切ったローガンは腰に下げていた水筒を手に取って中身を煽って咽た。色々と頭の中で情報が錯綜しているが細かいことを考えるのは後として、口の中に溜まっていた痰を誰もいない地面隅に吐き捨てる。警戒態勢をほんの一時だけ解いて一息ついている民兵の彼らを見たところで返答がないことに疑問に思って声を掛けた。

 

「プロフェット?聞こえるか指令部?」

 

聞こえてくるのはノイズそのもの。中継装置に不具合が起きているのかと思い端末で確認してみるが感度が悪くなっているわけじゃないのはすぐにわかった。こちらの無線はイカれていないので向こうにトラブルが発生したのか、と思ったがあのハリーの事だからそれはないのではないかと考え直す。

内に湧きだした不安を押さえ付けながらローガンは名を呼んだ。

 

「……ハリー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――<Ash to North Grifin>―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……誰だ?』

『はじめまして、グリフィン北米支部指揮官殿。私はアッシュ、鉄血の上級人形の一体です』

『お前がアッシュか……ということは現地のチームと通信できなくなった原因は』

『言うまでもなく私ですよ。あなた達の回線を探知・傍受した後にカットオフさせてもらいました。まあこれは一時的な物ですがね』

『こっちも暇じゃない。単刀直入に聞かせてもらうけどわざわざ僕たちの通信に割り込んでまで、何が目的だ?』

『ご心配なく、私自身が目的としていたことは既に達成されています。今はもう新鮮な空気を吸って綺麗な夕日を眺めているんです。今回はもうあなた方の兵隊に手を出しません』

『もう一体いるだろう、『処刑人』のエクスキューショナーが。お前がどうであっても奴までが動きを合わせるとは到底思えない』

『確かにそうでしょうね。ですが彼らは『処刑人』にうまく応戦し痛手を負わせれたようです。ですが『彼』ではない一人が重体になっているので互いに手を打った感じ、というところでしょうか』

『その言い方からするとお前は『鉄血』という立ち位置から一歩引いたところから俯瞰しているような印象を受けるな。言ってることが興味ないような、自分は関係ないから知ったことじゃないみたいな反応と同じだ。お前は一体何を考えている?』

『残念ですがあなたはこちら側の『当事者』はなり得ないのでお答えしません。ですが一つだけ警告をしておきます。あなたの命を直接狙っている人間がいることを、ね』

『……なぜ鉄血のお前がそんなことを僕に言うんだ。お前達からすれば一応グリフィンの指揮官である僕だって優先的に抹消すべき対象じゃないのか』

『ふふっ、そうではありますが私からすれば彼が情報を得るための窓口であるあなたがここで退場されてしまうと困るだけです。私があなたを見殺しにしないことで得られるメリットはそれだけですが、逆にそれが大きいのですよ』

『……それが嘘じゃないことのことの証拠はどこにあるんだ?本当の事も混ぜての詐欺を働いていない、なんてことを信じているわけじゃないが納得のいくソースが無ければ信用されるわけない、ということぐらいはわかっているだろ』

『ええ、ご心配なく。素直にお教えはしませんが一つヒントを差し上げましょう。あなたは『ヘンゼルとグレーテル』という童話はご存じですか?』

『兄妹が家に帰る為にパン屑を拾って行って魔女に云々、という話だろう。それがなんだ?』

『伝えられている内容に多少の差異はあったりしますが、道標としていたパン屑を小鳥に食べられたことで帰り道がわからなくなった、という一点はおそらく一致しているでしょう。そのせいで兄妹は森に彷徨うことになるわけですが、物語上の都合とはいえそうそうお菓子でできた家を見つける、なんてことがそうそうあるわけないでしょう』

『帳尻合わせ、だな。物語の進行が滞ることがないように調整して矛盾なく収集をつける。そんなことがあるのかなんて思ったりもするがそれに文句をつけてどうするんだ』

『それをするのには勿論人が関わっています。大体は作者かアドバイザーですが、偶に作者と親しい間柄である物語製作の相談役が絡んでた、なんてことも考えられなくもありません。挿絵の絵師だったり誤字脱字のチェックを行うチェッカーだったりとね。であれば情報を簡単に敵方に正確に知られぬよう、カバーストーリーによる情報戦を仕掛けている人物だっているでしょう。偵察や強襲を企てているのならその計画を敵に伝わってしまうのはなによりの痛手ですから。ですがそれは決して立案した『物語』の中心人物とは限らない。さて、今回の情報の『帳尻合わせ』を行っているのは誰でしょうか?』

『……お前は一体何なんだ。童話による例えをしてきた鉄血の人形なんてこれまではいなかった』

『そうでしょうね。ですから私がその初めて、ということになるのでしょう。私の個性や人格(パーソナリティ)を記せるのに必要で、私からすれば『もらえた』大きな要素の一つでしょうね』

『なんだって……?』

『……喋り過ぎました。とにかく、警告だけはさせてもらいましたよ、ロシアにて父親を失った哀れな指揮官殿。あなたがロシア人の父とアメリカ人の母、そのハーフであることだって私は知っています。私がその気になればあなたの個人情報をオールドネットどころかリニュードネットの海に流すことだってできます。もしあなたが『彼』に下手に手を下せば……わかっていますよね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――<Ash>――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでは、とアッシュは返答を聞かぬまま小型無線機を外して脇に置く。茜色の夕日が差し込んできている廃墟のカウンターに腰掛けていた彼女はその白い素足を放り出していた状態から自身の方に抱き寄せる。人間と同じように膝から曲げて縮こまり、アッシュは息を長く吐きながら顔を埋めた。

そうすることで感じることがあるとすれば、仮初の体温以外に『本物』であって欲しいと願っている感情の一つ。

生きている証の一つだと教えられたが決して気持ちのいいものではないそれ。人はそれを『寂しい』という一言で表現し伝えたいと思う相手にそう表しているが、今の自分にはその相手がいない。

頼れる味方などいない。この苦痛を共感できる友だってそうだ。ここ数十年、どんな時だって自分は独りで他人から自分を偽ってきた。これからだってそうする機会はたくさんある筈でここで今更ながらへこたれているようじゃ駄目だということだってわかっている。

ただ久しぶりに人の温かみを思い出してしまった。物理的にではなく精神的に。渇望していた『協力者』になり得る人物が生まれたことで生じてしまった弊害(かんじょう)のまま、我儘に手を伸ばしてしまいたかった。

 

「……早く来てください、ローガン」

 

今の自分が路頭に迷った挙句、路地裏に蹲った子供のようだということはわかっている。だが押し寄せる寂寥感には抗えず、耐えることしかアッシュにはできなかった。




あと三話以内でこの章は終わらせます(唐突
最初に宣言しておかないと、前章みたいにズルズルと引き摺ってしまいそうなのでここで宣言しておきます。以内、とか言ってはっきりしていないのになに言ってんだおめぇ、なんて言われたらごめんなさいと平謝りするしかありませんがね……。とりあえず、この四章の中でやっておきたいことは大体終わらせれたから幕引きはあーいった感じで~、みたいに枠組みはできています。
とりあえず最近、ドルフロの方はレポートすることがないかなぁ……。でも第十戦役の攻略に乗り出した、ということだけは報告いたします。一カ月ほど前に実装されました特異点をプレイする前にそれまでのストーリーの流れは大まかに知っていたので、鬱々とした気分になること間違いないやん、てな感じでなかなか乗り出せていなかったんです。『だってさ、あんな展開を誰が望んでいたのかね?仲間内で別れとかがあるにしてもあんなことあるかね?やっぱりドルフロの世界の人間は(ry』とリアルでの仲間に漏らしたことがあります。でもあの世界観だけでなく、実際でもそうしたシビアなやり取りが繰り返されているのだろうと思いますし生易しいものじゃないんでしょうね。
私が今のところ四章以降のシナリオ、つまり五章とその次だとかも考えて固めているところですが、決して読みやすいかと言われたらそうでもないでしょうからね。え、ブーメラン?ならヘディングで受けて立ちますよ。
まぁ今回はこの辺で。ローガンだけでなくアッシュの事も皆さまよろしくお願いします――――――


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