誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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冷や汗がね……


52.『彼ら』をかけて - We can never lose-

 

肉食獣が獲物を追走する時の動きのようだった。地を蹴ったのは恐らく片手で数えれる程度の数度だというのに一気に距離を詰められ、こちらの喉を鷲塚むべく突き出した手が迫って来る。反射的にローガンはその継ぎ接ぎで敵に繋げられているその手を『AK-74』の銃身で弾きストックを突き出した。が、さすがに並の兵と同じようにされるがままになることはなく突き出したのとは逆の手で防がれる。

 

「悪いが近接戦闘はこっちの十八番でもある。そうそう簡単にはやられはしねぇぞ!!」

 

今はエクスキューショナーの手元にはないようではあるが、得物として身の丈ほどの大きさの大剣を選んでいるのだからそうなのだろう。初戦においての大剣の扱い方の良し悪しはローガンにはわからないものの、ナイフと同じように見ればそう悪いものではなかった。それに大剣に使わされている、というように動きに無駄があったわけでもない。明確な殺意を持ってこちらの命を刈り取ろうとしていたのは敵味方とかを抜いても疑う余地も皆無だ。

 

「そう、かよ……!」

 

銃声が背後から轟く。そう認識するよりも先にエクスキューショナーは身を翻して放たれた銃弾の回避を行っていた。右腕がまだ彼女本来の巨大のそれであった時には想像もできなかったほどの身のこなしで右へ左へ、または跳躍や空中で錐揉み回転までもして避ける。そしてその最中、顔半分が人工皮膚が焼けたことで剥き出しになっている球体状のカメラがローガンを捉えた途端、エクスキューショナーは口で三日月に似た弧を描くと自身の腰へと手を伸ばした。

 

「クソッ!!」

 

それだけで何をしようとしているのかを察したローガンは横に受け身を取るつもりで跳びながら『AK-74』の射撃モードを切り替え、肩からタイル状になっている地に着きながら横向きに回転。そして案の定、エクスキューショナーの大型拳銃が火を吹いて凶弾が放たれた。

ドンッドンッ!!と腹に響く銃声がバレルから飛び出したと思った途端、左肩に重い衝撃が加えられたのと同時に熱が迸る。撃たれたことでローガンは回避行動が中途半端になって体勢を崩し、その場でうつ伏せになって倒れた。それでもただではやられない。その状態から着地したばかりのエクスキューショナーに射撃を開始。

 

「撃て!奴をここで叩け!!」

「気持ち悪いことこの上ないよまったく!」

 

ローガンだけでなく場に展開したバルソクやG11にハルカ、ハモンドまでもが加わってエクスキューショナーのみに向けた掃射した。ダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!と複数の銃声が響き渡ると同時に着弾位置が土煙が舞ってそこにいたエクスキューショナーを覆い隠す。見えなくなっても装填している弾倉の弾が無くなるまで撃ち続け、バルソクの『AEK-999』が射撃をやめると場に訪れたのは静寂だった。

敵影がまたはっきりする前に痛む肩口を押さえては傷の具合を見てみればローガン基準でそこまで大したことはない。大口径の銃弾を食らったものの、その軌道上に僅かに出てしまっていただけで大事はないようだ。

 

「ローガン、傷の具合はっ?」

「心配するな、痛むけど大したことはねえよ」

「血がドバドバ出てるんだから大したことはないわけないよ?これじゃあ掠めたというよりも抉られているようなものじゃん!?」

「ああもう、すぐにここから移動しよう。今の銃声でCIAの連中が来てしまいかねない!」

 

G11の小言を聞くことになるよりも先にバルソクがそう言ってきたので、言いたかったことを胸の内にしまったらしい少女はローガンに片手を貸して来た。彼女の体躯では逆にこちらに引き倒してしまうと思って、差し出された手を掴みながらも自分の足に通常の倍に力を入れて立ち上がった。

そうしたことでローガンは肩の痛みを無視しながら装填している空の弾倉を外すと最後のそれを差し込む。渡されている『AK-74』の弾倉はハルカ達と共有しているが、彼女達の方も余裕があるとは言えない状況である。それでも一応余っているかどうかを尋ねようと一斉に移動しようとした瞬間、一つの銃声がまた響いてハモンドの横にいた民兵の一人、彼の首が血肉と共に弾けて頭が転がっていった。

 

「な……に……!?」

 

突然のことに現実の処理が間に合わないハモンドがそう呟いたのが聞こえたがそれに構っていられるほどの余裕はない。

ビシャリッと飛び散った血液を浴びながらも銃声の方を屈みながら見ると、まだ戦闘可能な様子のエクスキューショナーがにたにたとした笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

 

「こんなつまらない形でオレが死ぬどころかてめぇらを逃がすわけねぇだろローガン・ブラック?オレが作ってやったこの墓場から飛び出ずにてめぇは寝てろってんだよぉ!!」

「んなホイホイとE.L.I.Dの仲間入りしてたまるかってんだ!!」

 

思うことはあるだろうがハルカはそう言ってアサルトライフルによる射撃を再開する。対するエクスキューショナーは転がっている各部が欠如している鉄血兵のボディを片手で軽々と持ち上げるとそれを盾にして銃弾の霰を防いだ。一度途切れると今度は用済みになったそれをぶん投げて、ついさっきの機動力を足の機関部をフルで働かせて接近し始めてくる。

片手には大型拳銃でもう片方は素手といった状態ではあるが、戦術人形の素手というのは人の喉を潰せるほどの万力がそこにあるのだと言っても過言ではない。三原則による縛りがあるI.O.P製の人形でさえ捕虜を尋問にかける際には殺さない程度に加減こそすれど、その細い手のどこにそんな力があるのかと不思議に思うぐらいだ。

鉄血兵には人間を保護する為のロボット工学三原則が適用されているとは到底言えない。なのでもしエクスキューショナーのようなハイエンドモデルに首根っこを掴まれるようものなら死の瀬戸際に立っているのと同義だ。

 

「バルソク!!」

「おうよ!!」

 

こちらの呼び声に応えたバルソクがジャンクとなった鉄血兵を押し付けられたハルカとエクスキューショナーの間に割って入る。構えられていた拳銃の銃口を『PP-19 BATON』で逸らすと発射された銃弾がコンクリートの地面を削り砕かれたそれが舞った。薙ぐように振るわれたバルソクの銃を躱したエクスキューショナーがバックステップで一度距離を保とうとしているが、G11がすかさず撃って追撃を行う。

ガガガンッ!!と『Gr G11』のバースト射撃で放たれた弾丸が本人の意思に沿ってエクスキューショナーの身体を撃ち抜くのだと、ローガンは思っていた。にたりと笑ったエクスキューショナーが敢えて体勢を崩したようになった時までは。

 

「く……!?」

「てめぇならそうやってくるだろうと思ってたさ!!」

 

倒れた状態から反転して即座に立つと今度はG11の方に迫る。カバーする余裕はローガンにもバルソクにもなく、鉄血兵のボディをどけていたハルカと戦いの経験が多くないらしいハモンドも間に合わなかった。回避はできないとしてG11は防御の態勢になって自分の分身を眼前に構えたが、それも見越していたのか勢いを殺していない回し蹴りで彼女の腹部を蹴り上げてそこから吹っ飛ばす。

ガァンッ!!とコミックやアニメーションでもぐらいの勢いでG11が壁に叩きつけられるのにローガンは声を上げた。

 

「G11!!」

「さすがに人形相手じゃ上半身と下半身が別々になったりはしないか。それでもまあ致命傷だろ」

 

エクスキューショナーを覗いて皆の中では最短距離にいるローガンから見た限りでも、G11も重傷を負ったように見えた。腹部の人工皮膚や筋肉、それどころか内部ユニット保護の為の装甲カバーまでもが損壊していて機構が歪んでたり壊れていながら露出している。人間であれば助からないとその場で断定してしまう、即死一歩手前の状態と同じだ。

 

「これで二人目、終わりだ!!」

「させるかってんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

人間と同じように人工血液を吐き出したG11に止めを刺そうとしたエクスキューショナーにローガンは肩の痛みを忘れて『P226』とナイフを抜くと、先に右手の拳銃を連射しつつ接近する。身を屈めた敵にローガンはがむしゃらに膝蹴りを繰り出すと防がれたが関係なしにそのまま押し切る。手の甲を顔面に打ち付けたエクスキューショナーがやや仰け反ったら即座にローガンは相手の片腕を脇で挟むと肩に目掛けてナイフを振り下ろした。

 

「がぁあ!?てめぇえええええええええええええええ!!」

 

グシャリッと切っ先が人工皮膚や内部機構を貫通したら刃が向いている方向に腕力を働かせて一気に切り離させる。反撃による拳を首を逸らしてかろうじて躱すとエクスキューショナーのカメラに狙いをつけて下から上へとナイフを振るった。結果としては狙った通りのことにはならなかったが、赤黒く残っていた頬の人工皮膚を切り裂くぐらいのことはできた。

続いての反撃の手を食らわぬようにすべく、『P226』の銃身の先でエクスキューショナーの身体を押して距離を取らせる。そうした後は無論、すぐに発砲できるよう銃の狙いは敵方につけて、接近戦にもすぐに対応できるよう刃物を片手に握って銃のグリップに携えている。

 

「ハモンド、あいつ

G11

を担げ!!お前達はあたしのすぐ後につけよ!!」

「クソッタレが、了解だリーダー!!」

「マスターも急いでくれ!ここに長居するのは得策じゃない!!」

「わかってる!」

 

こうなった以上、今は逃げるが勝ちだ。エクスキューショナーが何を言おうとも、この人数で犠牲どころか重傷者が出ている以上はまともな継戦は不可能である。

かといってこのまままた背を向けていくようものならまた誰かの急所が撃たれて命を持って行かれることは考えられなくもない。また戦闘続行の姿勢を見せている敵方がまた大型拳銃を手に襲い掛かってくることを考えるのは当たり前のようなものだ。

そこでローガンは『P226』で牽制射撃を行いながら残っていたスモークグレネードをポーチから取り出し、歯でピンを挟んで抜くと振り向き際に足元に落とす。

バンッ!!と一間空けてすぐに展開されたスモークに紛れ込むと撤退の態勢に移行している者達へ叫んだ。

 

「退けぇ!このまま一気に貨物エレベーターで撤退するぞ!」

「異議なしだ!あたしが先行する、続け!」

 

416とG11をそれぞれ抱えているハモンドと民兵の二人を先に行かせて最後尾に着こうとしたがバルソクが背を押してきた。

一気に

「マスターも怪我人なんだから無理しなくていい!奴からの不意打ち対処はワタシの方が分があるわけだからここは任せてくれよ!」

「……わかった、手を貸してほしかったら言えよ!」

 

走りながらのサムズアップにこちらが応えるとバルソクはフラググレネードを取り出して後方のスモークへと投擲する。勢いからしておそらく下層の時と同じくエクスキューショナーに直接当てるように見えるそれがスモークの中に消えた途端、人でも発することがないような咆哮が轟いた。それは決してここまでで二度遭遇したE.L.I.D変異体のものではなく、聴き取った声質からしてエクスキューショナーのものであるということまではわかったが思わぬ反撃がきた。

バルソクが投げたグレネードが戻ってくることなど、誰が想像できたであろうか。

 

「くそっ!!」

「バルソク!!」

 

ドンッ!!と空中でフラググレネードが炸裂する。ピンを抜いてから時間が経っていたので近くに落下する前に爆発したので致命傷にはなり得ないものの、それでも傷を負うのだから負傷という範疇に収まってしまう。

火傷をした時のようにヒリヒリとした痛みを節々に感じながらもバルソクの方を見ると、彼女も大事には至ってはいないらしい。服の裾が焦げて穴が空くだけに留まらず身体を伝って人工血液が流れ出ているのが見えたが、よろめいてもまだ自分の足で走り続けていられるのだから大丈夫そうだった。

 

「まだ行けるな!?」

「当たり前だ、ワタシは簡単にくたばりはしないさ!!」

 

ハンターとイントゥルーダーと交戦した時には存分に発揮されていなかった機動力と戦闘力を目にし、ローガンは本当に鉄血兵の中でも上級人形、ハイエンドモデルと相対しているのだと実感した。いや、過去に戦った二体が弱かったからとかではない。

AR小隊と共に交戦したハンターによる脅威というのはローガンには実感できなかったが、ローガンが到達する前に陰では部隊の中ではトップクラス実力の持っているM16を含め、AR小隊全員を相手取って制圧して見せていた。グリフィンが所有する人形部隊の中では特殊部隊の位置にある彼女らの戦闘技術はローガンも知るところなので、対峙したハンターはやはり鉄血兵の中でも力があったのだと頷ける。

イントゥルーダーに関しては画面越しに会話していたことが多いことがあった。それでも外部の電子機器にアクセスしていたのだからその技術はやはり馬鹿にできない。なによりも直にローガンが交戦してみても、あの人形は電子戦に秀でているというだけでないことを実感した。度重なる負傷で身体が軋んでいたとはいえ、銃撃も交えた近接戦では有利を取られて一対一の対決では負けた、そのことをはっきりと覚えている。そのこともあってハイエンドモデルという肩書きに恥じないだけの実力を有しているのだと断言できる。

 

「やっぱりというか、正面から戦ってなんとかなる相手じゃねえな。このまま逃げ切れるならいいが……!」

『……いや駄目だ。このままじゃエレベーターを落とされた民兵の彼らの二の舞になる。ここで撒けたとしても奴ならすぐに追跡して襲撃してくるし一気に畳みかける方が吉じゃないかな』

「じゃあどうやるってんだよ!?そう理想を語るのはいいが現実は……!」

 

先頭を走るハルカがそう言葉を叩きつけてはいたが突然として言葉を切った。何事かと思って背後から正面の方に視線を戻すと、地下に入った時ほど人数が多くなくなってきていることで前方がどうなっているかなどすぐに把握できた。ローガンではない誰かがその元凶の名を叫んだ。

 

「E.L.I.D!!」

 

その声を皮切りに彷徨っていた死者たちが互いに共鳴しているかのように咆哮を発するとこちらに駆けてくる。即座にハルカや手が空いている民兵の一人が応戦するが数も多く全ての連中を無力化するには手が足りなすぎる。

 

「バルソク、お前も頼む!ここは一点突破で道を作りたい!」

「……仕方ねえ、マスター!」

「行け、背後は任せろ!」

 

バルソクは『AEK-999』のマガジンを取り換えると決死の突破を図っているハルカ達がいる方へと向かって行った。ローガンも『AK-74』を手に持つと左右から迫って来るE.L.I.Dを走りながら足を撃ち、できるだけ弾丸を早く消費しないように、尚且つ効率的に転ばして追ってこれないようにした。

セミオート射撃で一体につき二、三発を片足に撃ち込んではすぐに最も近距離にいる個体に照準を合わせ引き金を絞る。反動がストックを当てている右肩から伝播し、悲鳴を上げている左肩が意図的に無視しているローガンの脳に苦痛を訴えてくる。それだけでなく喉はカラカラに乾き、体中の筋肉も疲労が溜まってきていて休息を求めてきてもいる。それらが一つになってローガンをじりじりと精神的に挫こうとしているかのようだった。

もう諦めろ、という死神の囁きを銃声で掻き消し、深淵へと頭の中で誘われたことによる不快感を目の前に迫って来たE.L.I.Dの腕を振り払っては顔面を銃身で殴打する。悪夢どころか死そのものへと引きずり込まれてたまるかと、抗う皆と同じくローガンも抵抗し続けた。

 

「こいつら相手にまともにやり合う必要はねえ!お前らは突っ走れ!!」

 

負傷者二名を担いでいる民兵に襲い掛かっていた一体の頭蓋に風穴を空けて援護し、声で彼らの背中を押す。頷く彼らは先頭にいる自分達のリーダーに遅れないよう走り出した。そうした様子を見て一瞬、彼らの方こそ自分よりも死の誘いは強く感じているのかもしれない、という考えが頭に過った。ローガンの限っての話でいえばだが、自分達の手には負えない現実というのが力をつけていくと明確にわかってきていた。

靄が晴れて視界が良好になっていくことで見えてくるそのラインに対しての恐怖の大小に個人差はあれど、突き詰めてそれを理解できるかどうかはその者の知性と経験によって問われてくる。ここまでグリフィンに属する余所者の自分達に異議を申し立てなかった彼らが内面どのように思っていたのだろうか。

しかし盲目的にリーダーであるハルカに従っているわけではないのだということは要所で立ちはだかる脅威に困惑し弱気になっている様子でわかっている。誰かに判断を全面的に委ねているのであればそうした感情は不要だ。少なくとも、細かいところまで挙げればキリがないほど問題行為を起こしてみせたハモンドがそうだ。

信念を武器に内なる自身の本音とせめぎ合っていたのは416やG11、ローガンとバルソクだけではない。彼らもまた自分の生存を、なけなしの矜持をかけて際限なく湧いてくる恐怖そのものと戦っている。

ここまで辿り着いた以上は『協力者』であるからというだけではなく、肩を並べる者として彼らの生還を目指すべきだろう。

そう心に翳すにしてはもう犠牲が出ているから手遅れなのだろう。だがそんなのはここで何もしないことの理由にはならない。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

銃声に紛れて聞こえてくるその声の発生源は進行先の天井だった。転ばしたE.L.I.Dの数がおそらく二桁に達するかというタイミングの時に仰いでみると、血走ったかのように両目を染めてスパークさせているエクスキューショナーが走っていた。物理法則を無視した冗談に思うその様に思考が停止したのに一間置いて、エクスキューショナーはミサイルのように突貫してくる。目測による着地点は一列に組まれている隊列の中心点。

ドンッ!!とおおよそ予測通りの位置に着地したエクスキューショナーは手刀でよろめいていたし死者の腹を突いて貫通、そして軽々とその体をハモンドへと放った。

 

「ちょ待っだっ!?」

 

一人を担いでいるのにも拘らずもう一人を押し付けられたのと同義なので、ハモンドはたまらずに足を止めてしまうがそれは仕方ないものだ。そう敵方が受け止めて問題が解決するまで待ってくれるわけはないが。

 

「逃げろ、ハモンドッ!!」

「死ね!人間!!」

 

肉食獣が狩りをする時は群れの中から動きが鈍っている、もしくはそうすることが出来ない個体を見つけ出して標的にするのだという。彼らはそれを観察することしかできないが、エクスキューショナーは最初に狩れる的を選んでは意図的にさらに容易に為せるようにしてみせた。ハモンドの片手は首の後ろで担いでいるG11を落とさないように彼女の股から腕を通して垂れ下がっている彼女の腕を掴むというローガンと同じ方法で行っていて塞がっている。もう片方には彼の拳銃が握られてはいるのだが、押しつけられたE.L.I.Dが覆い被さってしまっているので同じくだ。

結果、ハモンド自身は回避や防御はおろか、反撃と牽制といった行動もなにもできない状況下にあるので彼は襲い掛かるエクスキューショナーを相手に自分でどうにかすることもできない。

ローガンがすかさずカバーとして『AK-74』の照準を定めて引き金を引いたが、タイミング悪く弾倉内の弾薬が切れて乾いた金属音がきこえてきただけだった。すぐに『P226』で攻撃をしようにも、その時にはもうハモンドは既に絶命の一手を与えられている。

条件反射に近い感覚でホルスターの『P226』に手を伸ばしながらこちらから助けることはできないなどと諦観を抱き始めていたが、それはローガンだけであったのだと直後に思い知った。

 

「あたしの部下に手を出すなぁ!!」

「う、がぁ!?」

 

エクスキューショナーがハルカの突進からの捨て身タックルで壁に叩きつけられる。見てからに死に物狂いであることがわかるその行動で九死に一生を得る切符を手にしたハモンドに体重を掛けている本当の死体をどかそうとしたところで、ローガンは『P226』で両サイドから攻めて来るE.L.I.Dを先に始末する。数が減って疎らになっている隙にローガンはハモンドの方へ駆け寄って死体を脇へ押しやると、転倒していたハルカを助け起こした。

 

『マスター急いでくれ!誤射しない範囲で掃射しているが長くはもたない!』

 

前方にいるバルソクが民兵の一人を背にそう無線越しに言うので、ローガンは二人の背を押して走る。手に届く獲物が一つ増えたことで全体的なE.L.I.Dの動きの流れに変化が生じているのを目にしながら降りかかる火の粉を払い続けた。自分の前を走るハルカもその手に握る銃器の引き金を引いて死者を打倒していく動きがあった。ただその一瞬、動きが止まる。

銃口から噴き出していたマズルフラッシュだけでなくその歩みもなにもかもだ。まるでハルカだけがタイムストップさせられたように硬直した彼女に苛立ちをやや覚えながら肩を掴んだ。

 

「一体何でこんなところで……!!」

 

言葉は尻すぼみに消えてしまった。彼女が止まった『原因』、フラッシュライトで照らして見ているものが何かがわかってしまったからだ。

その『原因』が露出している肌そのものはE.L.I.Dにしてはまだ綺麗な方で最近になって仲間入りしたものだということはすぐにわかった。ただ問題なのはまだ残されている顔の造りとそれが着用している衣服に見覚えのあること。特に後者に至っては類似点が多くあるのだから、そのE.L.I.Dが何者であったかなどすぐにわかってしまった。

運命の神様という存在がいるのであれば、本当に性格の悪い悪戯だと思ってしまう巡り合わせであった。生還を目指して抗い続けているリーダーと、力及ばず脱落してしまったその部下たち。生者と死者という関係で再会するなどと、ローガンには似た経験がないがこれから先もしたくないそれだ。

間接的な『崩壊液』によってE.L.I.Dと化した民兵を相手にローガンは舌打ちするとそのE.L.I.Dも含めて数体の頭部を『P226』で撃ち抜いた。

 

「こんなところで立ち止まってんじゃねえ!こいつらをこうしてしまったことの罪悪感とかを感じるのは後にしろ!!」

「っ!」

 

怒声混じりの言葉を叩きつけられたことでハルカは我に返ってまた走り出すものの、内心の動揺がまだ収まっていないせいか動きのキレがまだ戻ってきていない。とはいってもそこまで気にしていられるほどの余裕はこちらにもないので、ナイフも携えて活路を切り開くべく尽力した。

 

「バルソク、あとどれぐらいもつ!?」

『もうワタシの弾薬もなくなる!そうなったらあとはマスター次第だ!』

「こっちもそろそろやべえぞ……!」

 

弾薬自体はまだ多く残っている『ハニーバジャー』に手が伸びそうになるが内部が衝撃で破損しているせいか作用が怪しくなっているのだから使えない。一番頼りにしている銃を活かせないことによる場合の大部分を占める影響に歯噛みし、『P226』の弾倉を入れ替えてリロードを完了させた途端、ズタズタにされているE.L.I.Dの遺体が行く先を遮って来た。

 

「ロォオオオオオオオオオオオガン・ブラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアック!!」

 

怨嗟が前面に出ている声が響き渡る。声の発信元の名を頭に上らせるよりも前にローガンの視界が衝撃と共に一転し、持ちうる動体視力では自分の身に何があったのかが把握できなかった。首根っこの圧力と浮遊感が

現状把握するとして脳の処理が追い付いたのは打撲したのではないかという鈍痛を右腕から感じ、さらには首を絞められて息苦しさを覚えた時だった。気付けば自分はエクスキューショナーにマウントを取られ、人間でも浮かべることはできないほどの醜悪な顔を近づけられていた。

 

「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる皮を剥いで内臓を引きずり出して骨を砕いてぶっ殺してやる生まれてこなければよかったことを苦痛で思い知って助けが来ないことに絶望してオレにロクな抵抗もできない無力な自分に落胆して死ね何にも変えることができない誰かを失くした本当の痛みを感じることのないてめえらが偉そうに豪語する資格がねぇんだって死に際に知って殺されろぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

E.L.I.Dに捥がれたせいか人工皮膚にはもう覆われていない方のアイカメラはなくなっている。そのせいか残されている片目のユニットが黒目や白目もなくただただ血濡れたように真っ赤に染まっているのが薄れゆく意識の中で印象付けられる。

だがエクスキューショナーの言った事にローガンの琴線に大きく触れるものがあった。一気に頭の中の火山が噴火するだけのエネルギーが湧き出たことで、ローガンは肘鉄をエクスキューショナーの顔面にありったけの力で食らわせた次に足で腹を蹴り上げる。怒りで沸点に達しているのはこちらだけでなく相手もそうなので頬への一発では効果が見込めなかったものの、すかさずの第二撃で力が緩んだ。

さらに縮まった互いの顔の距離を利用して頭突きをすると再度足を使って押しやり一気に距離を置かせる。そうしたことでようやく咳き込めるだけの余裕が生まれ、数度酸素を取り入れてから身体を起こしエクスキューショナーを睨んだ。

 

「……てめえだけが失くした物の痛みに苛まれているわけじゃねえんだ。喪失感に苦しみながらも歯を食いしばって自分の大切な物の為に守るために戦っている奴はこの世にはそこらじゅうにいる。そんな奴の覚悟とか意思に大小はねんだよ。それなのになんだ、自分は仲間がやられたもんだから一方的に被害者面してやがって。てめえがハンターっつうお仲間を失くしたのと同じ日に俺だって相棒を永遠に失った!てめえだけが耐えがたい苦痛に喘いでいるんじゃねえんだよ!!」

 

残った片腕で頬を拭うエクスキューショナーが睨み返してくるがその眼光に恐れはまったく抱かない。世間知らずの子供によるせめてものの抵抗のようで痛くも痒くもなく、むしろ長い年月を経て鉄血兵とも戦ってきたことで大きくなっていた憎悪がさらに膨れ上がった。

 

「……知った口を利いてんじゃねえ。てめぇのが一ダース分であろうとなんであろうとオレの苦痛はオレだけの物で深いもんだ!てめぇら虫けらみたく簡単に死ぬわけじゃねぇんだし、死ぬ直前までに見聞きした『記憶』をどうやっても『記録』としか見れねぇんだよ!その虚しさをてめぇは知らねぇだろ!!あいつと対等な関係として築いてきたオレの中の『記憶』を一つの『記録』としか見られない、悔しさがわからねぇだろうが!!」

「ああそうさ。まだ俺は戦術人形の誰かを死なせてしまったことはねえ。だけどな、死んだ奴に俺がどうやっても言った事に返してくれない、笑ったり悲しんでもくれない、そういったことの悔しさは知ってるよ!だけどどんなに手を伸ばしても死んだ連中が生きて帰ってくることはねえんだって受け入れるしかなかった!だから俺はここまで生きて来れたんだ、『生きる』っつうことの意味の一つを教えてくれたあいつらのおかげで!じゃなかったら俺はずっと親を亡くした時の記憶に囚われてたよ!無力感だとか絶望に落胆だって!?そんなもんとうの昔から味わっているってんだ!!」

 

エクスキューショナーのその経験がどこまでの悲しみを背負うものであったかなどはローガンには測れない。他者が経験したことによるはそれがどれほどの物かなどあくまで世間体、一般的な観点でしかその大きさでしか見れないからだ。さらに踏み込んでいくのであれば個人の価値観、ローガンの物差しでしか測って判断できない。それこそ鉄血兵に対しては本当に全くの無駄というものだ。人類殲滅を目論んでいる、そんな相手にしたところでなにも意味がない。

 

「ていうかさ」

 

故にローガンは切り込む。ここで打倒すべき敵を見据えては両手に握る武器の感触を確かめるように手を開いては閉じては臨戦態勢になる、のではなく構えを解いては呆れたように腰に手を当てては溜息を吐いては自分を落ち着かせ、刃で静かに斬り裂くように言った。

 

「ハンターを相手にてめえは相棒として誇れていたんだろ。今のそんな足踏みをして駄々を捏ねている様をあいつに見せられるのか」

「……………………………………………………………………………………は?」

 

バルソク達の怒号と銃声が遠のいて沈黙がローガンとエクスキューショナーの間に生まれた。ローガンが投じる爆弾はこれだけではないし、本当ならもっと言いたいことはある。

俺がハンターを殺したもののあいつだって俺の相棒を殺した、そのどっちにも大した違いはない、とか。てめえだってハルカの仲間を一度に殺しただろうが、とか。世界の悲しみの連鎖が始まる起点の一つとなったてめえがそう被害者ぶってるなんて都合がよすぎるだろうが、とか。

だがいざとなって自分の口をついてみれば出てきたのはそんなことだった。

沸騰していた感情が徐々に冷却されて落ち着いていく中で、これから言う事を殴りつけるようにしてはならない、そう自分に言い聞かせてエクスキューショナーを見据えた。

 

「相棒ってことはてめえら二人は一応は対等な関係で手を組んだんだろ。だったらてめえにも見栄っつうかプライドもあったんだ。だけど自分を見ろよ、敵である俺に食らいつくのは結構だが、俺から見ても言ってることの視野が狭い。そんな自分を鑑みて、目の前に奴がいたら胸を張れるのかよ」

 

何故エクスキューショナーを相手にそんな歩み寄るようなことを自分から言ってるのだろうかとローガンも内心不思議に思った。アッシュを相手に問答をしていた様子を見て和解などできることはないのだと自分の中で結論づけていたというのに。論外だ。大人としてそう簡単に意見を変えていいものじゃない。もしそうするならきちんとした理由があって然るべきであり他者にもそれを理解してもらう必要がある。

人間と人形、人類側と鉄血側。それはかわらない。どう逆立ちしてももローガンはエクスキューショナーとわかりあえない。

だがある一点だけ共通しているのだから理解はできる。

 

「『理解者』の相棒を喪うのは辛い、それは俺にだってわかる。俺はあいつが死んだことで五回目、今まで頭を掻きむしる体験を五回してきた。泣いてしまうほどの喪失感を味わうことになるだけじゃなくて、自分が持つ何かを対価にしてでも蘇って欲しいとかも願ってしまうよ。だけどそんなんじゃ意味はない、単なるエゴでしかねえ。死んだ奴はどうやっても生き返ってこない。喚き散らして何かに当たっても解決することなんてできねえんだよ」

 

ローガンも当時、つもりに積もったその感情でAR15に当たってしまった。耐えていた自分の事を認めて慰めてくれたのは彼女だというのに。

自分から五回分の経験が災いを起こしてしまっただけあって自己嫌悪もした。まさしく大人の八つ当たりなんてみっともない真似をしてしまってAR15だけでなく皆に多大な迷惑をかけてしまったと、今でも自分を殴ってしまいたくなる。

ああもう、本当にクソッタレだ。こんなところで奴と自分を重ねてしまうだなんて、本当に馬鹿で愚かでクソッタレでしかない。

過去の自分を見ている気分であるからではない。むしろエクスキューショナーの方が復讐として真っ向から自分達と戦いに来ているのだから真っ当とも言える。ただただローガンの中にあるのは相棒という『理解者』を得ていて失くした、その共通項による同情と憐憫だった。

 

「ふざけるな……」

 

沈黙を破ってエクスキューショナーが声を出す。赤く染まったその瞳が映す感情までは把握出来ないが、残されている人工皮膚が表していた。ローガンの言う事に耳を傾けてわかってしまい、今の自身がハンターと釣りあえる、誇れるのかどうかの結果を出したのかもしれない。

 

「ふざけてねえよ」

「黙ってろよクソが!んなことたぁオレだって言われなくてもわかってんだよ!オレが慣れないことをしてくれているのはいつもやってくれたのは奴だった!オレがやっていたのは組んだ時の大まかな戦略を立てていただけで奴は俯瞰しては補強してくれていたよ!だけどあいつはオレがいなくても十二分にやれる奴で他者の助けだってなくてもいい!オレは追い込み役を担っただけのおまけでしかなかったんだ!だからオレはあいつの背を追いかけるようにして一つ一つ積み重ねてきたんだよ!!だけど全部をやってみて振り返ってみれば真似事だらけで奴から及第点をもらえるだけの結果なんかだせちゃいなかった!!終いには道理も何もかもを無視して阿保な面を曝け出してみっともねぇことありゃしねぇ!!そうだ、今のオレにはなにも誇れることがねぇよ!!」

 

納得できなかったのだろう。自分が正しいのかどうかではなく、それが飲み込めない。そしてそんな風にグダグダ悩んでいる自分に嫌気がさしてきてさらに感情が噴出する。エクスキューショナーの苦悩はエクスキューショナーのものだけであり、表面化したそれにローガンが割り込むことはできない。

ただ、苦悩していたことを吐き出すその様子はまさしく人間らしく、鉄血兵のハイエンドモデルという肩書きによるインパクトはもうローガンには感じられなくなった。

 

「てめぇはこれで満足か!オレがあるだけで特に意味もなかったモジュールや回路で叩き出してたことを全部暴露してご満悦に浸れているだろ!!」

「全然、ではないが共感に近いものは得れているさ。俺にも五人、そういう奴が居たって言っただろ。それぞれ違った長所があったもんだから、俺だってあいつらの人数分だけ模倣から始めて努力したさ。それだけでてめえの言葉の重みだって理解できるさ、一回だけでも相当に苦労もするからな。俺達二人は決して相容れないが、勝負することができる。万全であれば力量こそてめえの方が強いが今はもうそうでもない。俺とてめえにはもう大差ない」

 

身体能力こそエクスキューショナーに分があるものの、総体的に見てみればローガンとは大差がないといえる。

今からで対峙するしか選択肢はないが、勝率はどう見ても高いとは言えないのだから後から皆になにを言われるかなどすぐにわかる。だが、ここが正念場だ。ここで勝たなくては自分が託されながら積み重ねてきたものが全てなかったものどころか嘘になる。それはここから生きて帰るのに絶対に必要なことであり、ローガンにとっての闘争本能の根幹として掲げている信念でもある。

ローガンはナイフを手の内で回転させてまた逆手で柄を掴み、『P226』を持つ右手に添えて構えた。

 

「エクスキューショナー、俺はてめえに勝つよ。俺も耐え忍んできた過去と経験をなかったことにしない為に、全力でてめえを打ち倒す!!」

 

そうローガンが吼えたのを皮切りに、二度目の激突が起きた。




まずは先に報告を。PCの故障で執筆が遅れてました、すみませんでした。
ある日突然のブルースクリーンに『アイエエエエエエエエ!?』と叫んで修復作業として試行錯誤してみましたがどれも効果なく、翌日修理に持ち込んでは修理待ち。それで前回から三週間以上間を空けて今回の今回の投稿に至れました。本当に心臓に悪いですよ、PCの動作不良というのは。たぶんネット回線がダウンする次に焦る事柄です。ネット依存症だな私も……。
返って来るまでは、手書きでプロットを組んでみて次回の構想を改めて練ってみたのですが『……あれ、これってグローザの時のように大分長くなる奴じゃね?』とか思っています。一週間程度で頑張って一万三千から五千文字といったところなのに……アイエー!?
……うん、とりあえず頑張ります。〆切とかがあるわけじゃないけどなんとかできるかな……。
それでここ最近の所、ドルフロの方では連続でイベントが来ているのでちょいちょいと周回をすることになっています。そして私としては、特異点でドロップさせることができたサンダーを組み込んだ編成とかも自分なりに模索してみたりなんだったりしてみてます。公式絵師の方の設定画を見て、なんかスイッチが入り、なけなしになっていた作戦報告書をつぎ込んでは最上級の装備も割り当てたりと……配給が他に比べて著しく少ない、つうか部品よりも数値が低いな……何故?もっとオプティカルサイトだけじゃなくてT型骨格とかホローポイント弾が欲しいです……。
とりあえず今回はこの辺で。皆様もコロナウィルスとかにお気を付けを。
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