誰も助けてくれない -Can you hear me?- 作:麒麟犬
『人形諸君。ようこそ、自由の国であったアメリカへ』
そうヘリのローター音混じりに言われた台詞は今でも覚えている。
当時の私達は激戦区であったロシアの西側、そこで指揮官を喪いながらも本部からの指示による作戦行動を一通り終えていた。機密情報の収集を目的とした任務だけでなく、少人数による敵陣地破壊任務などを学んだばかりの知識を活かして遂行。ギリギリの瀬戸際ではあったが、それによって鉄血が企んでいたとされているグリフィンに向けたウィルス計画を頓挫させることができた。
それでも戦局が一向に傾かないままロシアの一部が一旦ある程度まで落ち着いただけ。同等の被害を被ったとされる極東支部は未だに慌ただしく、中央本部の助けを得ながらなんとか拮抗している状態だという話を聞いていた。
そんな中、私達AR小隊の戦地は加勢も含めて西から東へとロシアを横断することになるのかと思われていたが、海と国を越えて北米支部へと移転。そこで新たな指揮官の指示に従って作戦行動を遂行し、特命あるまで待機せよ。
それが私達AR小隊に下された本部からの指令であり、取り返しのつかない運命を歩まされるチケットだった。
―――☆―――
「ん……」
悲劇が何処で起きようとも変わらない朝日を憎々しく思うようになってから三年余り、海を飛び越えて一年と少し。記憶にある泰西側に残った仲間達の顔は色褪せてきてしまっていていることに何も感じなくなってきてしまっている。それが良いことなのか悪いことなのか、はっきりわからないまま私は今日も動く。
簡素なベッドから起き上がってから、自分に宛がわれた個室を改めて見渡す。前にいた支部の基地に置いていた私物などないに等しく、私の装備と着替えなどが収容されているケースや、人が行き交う市街地に潜入で持ち込む大型のガンケースぐらいしかない。
部屋の隅で壁に立て掛けられているそれらを一瞥すると、私は寝間着を脱ぎ捨て部屋に備え付けられた洗面台で顔を洗っては歯を磨き、髪を梳くなどして身形を整える。そしていつもの普段着に着替えたらもう一度だけここまでの身支度に忘れていることがないかを確認。
「よし……」
そう呟いて私は部屋の外に出ては鍵を閉め、デスクワークをしているいつもの執務室へと向かう。人形用の宿舎を出で中庭を突っ切って反対側の執務棟に入り、お馴染みになった廊下を歩いては階段を登った。そして突き当りを曲がって左手に見えてきた扉をノックをしないまま開ければ、日常の一部が私のアイカメラを介して写り込んできた。
「あっ、おはよーAR15。今日はわたしが一番乗りだったから朝食は用意するね~」
「『今日は』じゃなくて『今日も』じゃない……でもおはよう。なら私は飲み物の方を用意するから頼んだわよ」
「それじゃ、今日はクロワッサンにしよっか。明日になったらようやく食堂の設備が直ることだし、とりあえず今回に至っては最後の自給自足だね」
SOPIIは置いている棚から透明の袋を取り出すと四つの小皿の上に三個ずつパンを乗せた。鼻歌混じりに冷蔵庫からレタスを取り出して洗い、解凍して温めたソーセージまでもを添えて支度を整えているのを横目に、私は湯を沸かしながらインスタントコーヒーの元を取り出して昨夜に洗ったM4や皆のカップにスプーンを使って入れていった。
「もうそろそろ全員が揃う頃だしペルシカももう呼び出しておこうよ。今日のどこかで情報を渡されるんだし」
「今日になっても思うけど、やっぱりアバウトね……でもたしか昨日からずっと認識阻害の新規プログラムツールを私達に向けて作っていたようだし、まだいいわ。全員が来てからでもいいし、あの人も叩き起こされるのはそう気が良くないでしょうし」
『ところがどっこい。これがもう準備完了なんだよねー』
ブゥンという重い音と共に室内に設置しているホログラムスクリーンが触れてもいないのに起動される。直前に聞こえた声でそれをしたのは誰なのかはすぐにわかったものの、ここの基地にいない人物が遠隔操作で動かしていることについては驚かざるを得ない。
背後にある機器が起動したのでSOPIIと振り返ると、そこには相変わらずの様相の女性が映っていた。得意げな笑みを浮かべているが両目の下には隈が変わらず出来ていて心なしか以前に増して頬がこけているようにも見える。不健康そうな(実際そうであるらしい)見た目の事もあって顔色が良くないのはいつものことだが、そのようなよろしくない変化があるのは私としても少しばかり心配にもなってくるものだ。
「グットタイミング……なのかな?でもおはよう、ペルシカ」
『はい、おはよう。一睡もしていないわけだから目がショボショボするし瞼が重いけど、君達が元気そうで何よりだよ』
「時差でいうと、今ロシアは午後二時ぐらいね。本当に体調とか大丈夫なのですか?」
『やっぱり万全というわけではないけど、こういうことを繰り返せばやっぱり許容できるようになってくるものだよ。とはいっても最近はカフェイン過剰摂取にならないように気をつけてはいるけどね』
そう言いながら彼女は手元に置いていたらしいカップを持って口へと運んで啜った。中身はきっと私とSOPIIが思っている物が入っているのだろうが、深く突っ込むまいと思い私は湧いたお湯を四つのマグカップに注いで準備を進めた。
立ち上る湯気に混じったコーヒーの香りを嗅いで一間空けたタイミングで執務室の扉が開く。その音に私とSOPIIがそちらの方を見ると、私達AR小隊におけるブレインたるM4と、主な電子戦を担当しているRO635が二人で話を入って来たのだった。
「おはよう二人とも、朝から準備してくれてありがと。でもAR15はともかくSOPIIが私達よりも最近早起きなのは意外ね」
「最近は目覚めが良くてすぐにベッドから起きれるんだよね~。その時はまだROが寝てるから気を使わないといけないけど、早朝からのランニングが楽しいんだ~」
「……あなた、本当にSOPIIよね?ジャンクを私にもしょっちゅう見せびらかしてくるM4 SOPMODIIよね?あなたが早朝から健康的に過ごそうとするイメージが湧いてこないのだけれど」
「残念といって良いのかよくわからないけど本当よAR15。SOPIIは本当に陽が昇り始める時間帯に起床しては着替えてランニングに行ってるわ」
知らず知らずの内にそんなことをしていたのかと、信じられない物を見るような目になっていたようだがSOPIIは逆に腰に両手を当てたまま胸を張ってみせた。ふんすーっと鼻息までは吐いて得意げなその態度に少しばかり頭に来るものがあるものの、彼女なりのメンタルケアとして私は突っかかることはしなかった。むしろ私も射撃とかレーンを走る訓練だけでなく、そういった戦闘に向けたものじゃない気分転換を主目的に置いた運動もすべきかもしれない。
そこで、ペルシカがあることに気付いて言った。
『M16は?昨晩に飲んだくれてまだ寝ているのかな?』
「M16姉さんは五日前に指揮官から下された特務で居ません。二日前にも同じこと言いませんでしたっけ?」
『ええっと……ああ、そうだったごめんごめん、すっかり忘れてたよ。たしか予定では今日中に帰還することになってたね。それとおはよう、N4とRO。二人も元気そうで何よりだよ』
「ええ、おはようございますペルシカさん。今日までもなんとかやれています」
ペルシカはM4のその言葉に目を細め、大切な我が子を見る母親のような目になった。AR小隊の中でも一番気にかけている彼女がロシアでの一件で目に見えて気落ちしていたのだから、最近になって持ち直せているのだからほっとしているのかもしれない。
……私からすれば、本当にそうではないのだが。
「こうして朝から通信している、ということは何か緊急の用事が出来たのですか?」
『そうじゃないよ。一仕事終えてものだから一休みしようかと思ったけど、時間的にも大丈夫そうだったからこっちから繋げただけ。まあ、I.O.Pがちょっと気になる『噂』を耳にしたから早めに伝えたくて、ていうのもあるけど』
「『噂』、ですか?」
各々で皿とカップを手にしては席につき、私とSOPIIが用意した食事を口にしながら耳を傾けた。カタカタとキーボードを叩いた時の軽い音がホログラムで浮かび上がっているペルシカの方からしたと思えば、彼女が消えて一つのダイアログボックスが表示される。
『君たちは最近、ネットワークそのものが変わろうとしているのは知っているよね?人類がこれまで残した用済みのデータや『負の遺産』を主に旧ネットワークとして隔離する『オールドネット』と、有益な情報とそれの新規開拓、並びに不要なそれを自動で削除されたりと便利機能が備わった『リニューアルネット』。アクセスできるようになるのは今日から一週間後だっけかな』
ペルシカが言った『負の遺産』というのは、これまでにおいて人類が残してしまった『失敗』を総じたもの。科学的にあり得ないと証明された錯覚や思い込みから生まれたデマに、人質を大量に巻き込んでしまったテロ活動阻止における特殊部隊の記録など、決して耳触りがよろしくない事実がそうだ。
まとめると、第三次世界大戦以降に世界そのものが分断されたことを踏ん切りにネットワークの管理者たちが『過去との決別』と称した分割における不要物ということだ。
「存じてあげてます。世界における権力者やメディアがあげている声には賛否両論でどちらが多いとも言えない状況であると」
『都合のいいことを言ってたりするけど、実際のところは見たくない代物の『廃棄』に近しいわけだからね。一応ネット環境さえ整っていさえいれば誰でもアクセスできるようにはするとかではあっても、それも一つの批判のタネにしかならない』
「失敗から学べることがある、というか学ぶ為に失敗するというのに、その結果をわざわざ遠くへと追いやることをしていますから当然と言えます。それでも強行して突き通そうとしている開発者たちの姿勢だって『負の遺産』に含まれそうだというのにそれだって目を背けていたりもしていますし……」
テレビ放送などで宣伝含めて話しているのを私も以前見たが、それまでにはなかった革新的な技術を導入するのは良しとしても否定的な意見には耳を貸していないその態度にはやや腹が立つものだった。私達が今の形に固執しているからとかではなく、傲慢にふんぞり返っているその様が気に入らない。プレゼンの内容自体は理解できても、製作に携わった人間の様を見ていると不安だって残る。そうネット配信のコメント欄におけるリアルな声が多くあったことから、私と概ね同じ感想を抱いた人たちはそう少なくなかった。
『そのオールドネットにへと投棄しようとしている一般レベルのデータに混ざって、脈絡も何もなくてちぐはぐ、意味不明なフリーメールの文章があったりしている。金型による製造業の会社の月間レポートなのかと思いきや、全然関係のない心理学のことが本文になっていたりね。ほら、こんな感じに』
「……これって一般的に公開されている翻訳サイトにて別言語に自動翻訳したからとかではありませんよね?主語と述語だったり、意味の繋がりとかもなにもないですし」
『国家保安局の知り合いの伝手で手に入れたデータだけど、これを寄越してくれた人の性格からしても私に黙って余計なことをするとは思えないよ。ほぼほぼ間違いなく、ネットの海に彷徨っていたままの形とみてくれていい』
ペルシカはそう言うものの、見せられている文体は酷く目を通す気力がなくなってくるものだった。意図してこう書いているのだとしたらともかく、そんな考えがないのであれば嘘言っていないのかの疑念が濃くなるだけだろう。
額に手を当てた私に苦笑したらしいペルシカが表示するデータを切り替えて見苦しいデータを消してくれた。次に現れるのは同じようなものだと、決めつけに近い勘で忌避したかったが嫌々ながら目を向けてみたが、彼女本人が苦々しげにも笑みを浮かべている姿であった。
『まあこれはあくまでサンプル、一つの例でしかない。中身は異なっていてもイカれている系列としては他にもいくらでもあるんだ。私としてもこんなのを事情も知らない君たちに幾ら見せても無意味だから、悪戯に混乱を招くつもりもないよ』
「それでペルシカさん、『噂』とはなんなのですか?オールドネットと今のデータを説明したのですから何かしらかの形で関係しているのだと思うのですけれど……」
『ん?ないよ?』
ROが挙手をしてからそう言ったのに対し、ペルシカはあっけんからんとそう返して来た。その台詞にM4は食べ物で喉を詰まらせたようで咽せ、SOPIIは砂糖やミルクをドバドバ入れたコーヒーを噴き出し、質問をしたROは口をあんぐりと開けて思考を停止させているかのようだった。私に至っては頭痛がしてきてまた額に手を当てているのだから、きっと顔を顰めているのだろう。
ペルシカは私達の様子に今度は純粋に笑ってみせ、笑い声を部屋に響かせた。
『はぁ~笑った笑った……でもごめん、少し嘘をついてしまったから訂正するよ。全てがそういうわけじゃなく、オールドネットと『投棄』される『負の遺産』、この二つには問題はない。一個人としては無視できないけど、許容するかどうかは別問題だしね』
「……わかりやすくお願いしていい?今の流れでわたしのメンタルの許容量が激減して難しい話が入ってこないだろうかさ~」
『はいはい、でも難しく伝えることはないよ。君達も順を追って理解してくれればそれでいいから留意しておいてね~』
ペルシカはキーボードを叩いて端末を操作、何も書かれていないボックスを表示させるとそこにオールドネットと意味不明な『負の遺産』について書き込んだ。後者については内容とかではなく、『そういうもの』であるということの名だけにしオールドネットと線で結びつけて関連性を示した。
『ここまで話した通り、オールドネットとは今日も我々が利用しているネットワークそのものであり、あと一週間もすれば旧世代の遺物となる。で、リニュードネットという新たなネットワークを立ち上げるのにあたって、時代の一つの区切りとして『負の遺産』をオールドネットに『投棄』しようとしている。ここまでは理解できているかな?』
私も含めて各々が頷くので、ペルシカは再度操作して『負の遺産』を増産して密集させる。見苦しくならない程度に増やしては真剣さが増した声で言った。
『ところがこの手のデータはネットが立ち上がった際に出来た数十年、その時間を鹹味して考えてみても少ない。それもそうだ、ここまで件名と本文が違っているどころじゃなくかけ離れているやり取りのデータなんて数多いとは考えにくい。それにそんな少ないデータのやり取りが多いのが一年半以上前から始まって今日まで。動作や操作ミスによってあったらしい疎
まば
らであるのに反し、一日に最低で一回、場合によっては片手で数えれないぐらいにメッセージのやり取りを行っている。さすがにそうなれば私どころかデータの管理者の目にも止まるってものだよ』
「今更ですけど、システムのバグやデータ抽出で不手際を起こしてしまったたとかはないのですか?それか見つかることを前提にデータの作成者がウィルスを仕込んでこちらを攪乱しようと目論んでいることだってあり得るのでは?」
『先に話したけど、これは国家保安局に属している私の知り合いから回してもらったもの。彼女が言うには、こちらのシステムが干渉された形跡も何もないそうだ。どこまで保安局の機器性能が良いのかわからないけど、今はそれを信じるしかない。『魔術師
ウィザード
』級のハッカーじゃなければ『こちら側』の感知されないコンピューターウィルスを生み出すのは無理だからそれは考えにくいね。でもだから、その可能性はあり得るだけで否定はしないでおこうか。ネットサーフィンをしている優秀な野良のハッカーがいないことはないだろうし』
今では情報戦なども仕掛けるにあたって、各国の首脳は特殊部隊の補助の役目を担わせれる力が有るハッカーを民間からも取り入れたようだった。アメリカ政府はどこまでそうしたのかはわからないが、ロシア政府は手当たり次第に報酬をちらつかせて引きずり込んだ。他には第三次世界大戦で遺物となったEU加盟国のイギリスやフランス、アジアでは中国なども規模は違えども行ったことは確認されており、それぞれが睨み合いを続けている状況である。
ロシアが先駆けたその行動を真似て早数年、スカウトされなかったハッカーが技能を成長させて最高位の『魔術師』級になっていたり、また新たな人間が他人の端末に侵入しては情報を盗み見ることに楽しさを見出してしまった、なんてことだって容易に考えられる。あくまで根絶したわけじゃなく取り入れただけなのだから。
とりあえず私はこの話の本題を聞くべくペルシカに言った。
「可能性云々は置いておいて、現在のところ明らかになっていることを教えてもらえますか?このままじゃ話が進みませんから考察などは後回しにすべきです」
『うん、むしろそうしてくれた方が今の私としてはありがたいから現時点でわかっていることを説明させてもらうよ。それでえ~と……さっき君達に見てもらった文がその『負の遺産』のうちの『この先には必要ない』一部として片付けられるわけだ。んで、私が興味本位でプログラムの作成をやっている片手間でちょっと解読を他のデータと照らし合わせながらやってみたら、ある規則性がわかったんだ。それで読み進めて言った結果、あることが今君達がいる国のアメリカで行われようとしていることがわかったんだ』
表示されたテキストファイルの文面がごちゃごちゃして意味の分からない状態から、ペルシカが不要と判別されたワードが消されていってそれぞれが間隔が空いているだけの読みやすい状態になった。それに目を通した私達のうち、M4が最初に声を出した。
「この『作戦』が開始されるのって……二日後の夜じゃありませんか?」
『その通り。これはペルシカに渡してグリフィンに動いてもらいたいつもりではある。実体はまだわかっていないけど、金銭が集う銀行がターゲットとされているのなら大体の目的は絞れる。……さてようやく、君達に本題の『噂』を話せる。今回私達で取り掛かることになりそうな仕事の根幹であるそれについてね』
グリフィンの保護区の一画にある銀行が狙い目だ、と記されているテキストファイルの陰からペルシカが顔を覗かせて来てそう言った。彼女は笑顔を浮かべながらも挑戦的に口角を上げ、その『作戦』が二日後に行われる銀行襲撃の説明書きを加えると新たに別のウィンドウで一人の男性の顔写真を表示させた。
私が茶髪の頭にカーキ色の帽子を被ってギョロついた目でこちらを見返してくるその男の人相を頭に叩き込んでいると、ROはペルシカに聞いた。
「この男は?」
『今回の銀行襲撃を目論んでいるのは君達も度々目にしているだろうロボット人権保護団体の一団、その中の一派なんだろう。その男は地元警察で指名手配されている過激派の中心人物なんだよ。見たことない?』
「……いえ、私達戦術人形はデマの制止に赴くことは許されていませんから見たことありませんでした。それでこの男がどうしたのです?」
『声を上げて訴えるだけならともかく、過激なデマを起こすのならそれだけじゃ足りない。自分達の声が通らないことを理解していく度に、モラルによるリミッターが緩んでいってしまう。そんな人間が取る手段としては気に入らない者に暴力を振るっての行進だ。そうなると無論、形態を問わずとも武器が必要になってくる』
生きていくのには何にしても金が絡んでくるものの、自衛とかではなくそんなつまらないことの為に使われることに溜息をつきたくなってくる。
過激派の彼らがとっている手段は褒められたものでは到底ならない。元々ロボット人権保護団体は保護区の街中を私達が歩くものなら、行く手を遮って話術なりでグリフィンから引き剥がそうとしてきて厄介にはならずとも鬱陶しく感じてきてしまう。そんな連中なので元から良いイメージなどはないし、プラカードだけでなくバットや鉄パイプを持っている姿がライブ中継のテレビで見た時にはふつふつと煮えてくる黒い感情がある。
それもあって、ペルシカが次に言う事の察しがついてしまった。
「つまり、この男は『資金調達』と称して保護区の銀行を襲撃しようと画策している、と言いたいことですね?」
『そう、AR15の言う通り』
「そうする動機はすぐに思い当りましたが……指名手配されている保護団体の過激派の一人だから、って理由だけでこいつに絞り込めたわけじゃありませんよね。あなたのことでしょうから他にも情報源
ソース
はある筈」
そう私が言ったらペルシカは困った顔をしながら頬を掻いた。
『う~ん、そう言われるとちょっと困るな~……さっきのメッセージが頻繁にやり取りがされ始めた時期になって、こいつが君達のいる保護区で姿が確認されるようになった、で納得してもらえるかな?目撃情報はネットに転がっていた情報からによるものだけど』
「……あまりらしくないですね。こういったことでもあなたは一番考えられる、確率が高いとして言い淀んだりはしないというのに」
『知っての通り、私はあくまで研究員であって対人を専門とした情報分析官じゃない。だからシステムハックする鉄血の拠点の位置を割り出してはそこへのガイドとかはできても、機械じゃない相手を追い詰める仕事は専門外だよ』
「でしたらどうやってあの訳のわからないメールのメッセージを解読できたのですか。ああ見えて赤ちゃんでもわかる幼稚な暗号が使われていたと言いませんよね?」
「ちょっとAR15……!」
横にいるM4がやめるように呼び掛けてくるがここで追及の手を緩めるつもりはない。通信相手を青白く浮かび上がらせるホログラムであるせいかペルシカの顔色は普段の五割増しぐらいに悪く見えるし、徹夜どころか朝になっても休まずに作業していたらしいので疲労も溜まっているだろう。
そんな相手に気遣いが出来ない程、私だって鬼じゃない。が、この時は何故だか自分が納得するまで問い詰めるつもりになっていた。
『君達を泥沼に突き落とすようなことは言っていないのだけれど、私が信用できないのかなAR15』
「勘違いしないでください。私はただ出所がはっきりしない情報で踊らされたくないだけです」
『デカいことをしでかすのに足る動機が推測できる国指定の指名手配犯がうろついている、これだけでも一応捕縛する理由になるとは思うよ。そもそも地元警察から暴徒そのものである過激派の鎮圧としてグリフィン北米支部に協力要請だって出してるのだから、正当なこととして見做してもらえるから大丈夫。そうだよね?』
たしかに一種の社会問題としてメディアに取り上げられているので組織だけでなく世間に咎められることはない。過激派の攻撃に巻き込まれてその場に居合わせてしまった一般人が怪我を負うことだって少なくない。それでも何食わぬ顔で続けている相手に対しての治安活動として処理され、私が求めている栄誉だって得られる。
よく考えなくてもわかることだということなのに。ペルシカの言ってることが腑に落ちなかった。
「そうですけど、私は……!」
「……そこまでにしようよAR15。放っておくことはできない危険な奴を縛ればいい、今はそれだけでいいじゃん。難しいことはわたしにはわからないけど、後から口を割らせば何を企んでいたのかわかることなんだし」
「情報が何もない状況でなければ確実性が極端に低いわけでもない。不安であれば私達が聞き込んで調査すればいいのだから、そこまで突っかからなくてもいいわよ」
SOPIIが言った事にROが同調してそう言ってくる。わからないことがあれば調べるなりして自分の足で追いかけることも大切だと、いう言い分は最もで言い返す余地はない。ペルシカがわからないことがあれば私達が調べるなりして報告、情報を共有して解決に望むなど初めてではないのだし今回もそうすればいいだけだ。
「……そうね。裏付けるに足る情報が今ないのなら探せばいいだけよね……失礼しました」
『そう気を悪くしてないからいいよ。むしろ一人の人間みたいに疑問を浮かび上がらせては投げかけてくれるのが相変わらずで安心できたからさ』
ひらひらと手を振ったペルシカは椅子の背もたれに体重を預けて長く息を吐いた。整理の為に表示していたダイアログボックスを閉じさせると、欠伸をして肩の骨を鳴らして見せた。
「概ねの事情は把握できたのですし、もうお休みなったらどうですか?得られたものがあってそちらがよろしければ回線を繋いで報告しますので」
『そうさせてもらうよ……カフェインの効果が切れて眠くなってきたし暫しお別れだ。それじゃ……火傷をしないように気を付けてね』
そう言ったペルシカとの接続が断たれて彼女は消えた。束の間の静寂が部屋を満たし、誰一人として大きな物音を立てることないまま朝食を摂った。
思えば、こういう時こそM16という人形が培った特性を活かして欲しいタイミングだったのだが、まだ長期の任務から帰ってきていない。誰も悪くないし彼女にも非があるわけでもないというのに、無性に誰かに当たりたくなるぐらいに自身への不満が生まれ出てきていた。
やや乱暴ながらも宥めてくれるM16が帰って来るのを心待ちにするなど、初めての事だった。
言い訳させてもらうと、ここ二週間は主にマスターとしてだったりドクターとしてだったり、そんな風にスマホゲーに興じていました。無論、ドルフロもやっていましたけど……うん、イベントで特に欲しい人形がいなかったですしデイリー任務をこなすだけになっていました。そんな一方で、私のガチャ回して一喜一憂した時代は終わったのかと思いきや、今年の一月半ばから始めたドクターの方のゲームで再燃焼しています。すり抜け多すぎて課金が……課金がぁ……!あと何時になったら上級エリートタグは来てくださいますか。周囲には出ている人が多すぎて嫉妬が止まりませんよぉ!!
ていうか以前、私って無欲でいたんじゃなかったっけ……?
そんなこんなで、外出自粛となると気分転換もままならないので内容を練っての執筆があまり進まなかったのですが、なんとか今回のできました。以前申していたように、本編に関わる小話としてAR小隊の過去話としての四話をざっくりと構成していますけど、なんとかなるかなぁ……。
今回からの数話に至っては探り探りの執筆で遅くなると思いますのでご容赦ください。
それでは今回はこの辺で。